風祭文庫・蟲変身の館






「蟲化病」
(第5話:白蝶の湖)



作・風祭玲


Vol.408





夏を間近に控えたとある夕べ

県立音楽ホールに

ジャーン…

オーケストラの音色が響き渡ると

カッ!!

行く筋ものスポットライトが当てられた舞台の上では

悪魔に囚われた姫とそれを助ける王子、

そして、王子を亡き者とせんとする悪魔との叙述詩が繰り広げられていた。



姫の名はオデット

真珠色のクラシックシュシュを翻すこの薄幸の白鳥姫を演じることは

バレエの扉を開けた少女達の目標であり、

当然、いまオデットを演じている平麗華にとっても長年の目標でもあった。

しかし、この夜の舞台は麗華にとって夢の舞台とは程遠いモノとなっていた。

幕が上がってからというもの麗華の動きはどこか硬く、

そして重みを感じるものであって、

幻想さを求められる白鳥姫のイメージとはかけ離れていた。

そのために王子とのタイミングもずれてしまうこともしばしば発生し、

こうしたことが誰の目から見ても明らかになっていた。

「ったくぅ

 何をやっているんだ!」

観客席の正面で舞台をチェックしていた振り付けの高田や舞台監督の新城からも

麗華のバレエに厳しい意見が飛び始める。

「きっ緊張しているせいでしょう」

その意見をなだめるようにして、

麗華の才能を信じ、長年に渡って彼女を育ててきた加藤光子はそう弁解するが、

「でもねぇ…

 加藤さん…
 
 これでは私の舞台が台無しだよ」

と新城から厳しい意見が寄せられると、

「はぁ…」

光子の返事は精彩を欠くものへと変わっていく。

「とにかく、幕が上がってしまった以上、

 今更オデットを替えるわけには行かないけど、

 でも、明日からは控えに回っている里中智里をオデットに起用するから、
 
 それで良いね」

そう新城より今夜で麗華を下ろし、

代わりに控えとなっている智里をオデット役に使うと念を押されると

「………」

光子はもはや何も言い返せなかった。



「平っ

 なんだ、今日の舞台は!!」

カーテンコールが終わり、

舞台裏に引き上げてきた麗華に向かって高田から厳しい声が飛んでくる。

「はっはいっ

 申し訳ありません」

肩で息をしながら麗華は舞台の不出来を詫びながら頭を下げると、

「申し訳ありませんじゃないぞ、

 いいか、

 今日のような無様ぶりをこれ以上客に見せるわけにはいかないんだ、

 明日の舞台は里中をオデットに使うから、
 
 君は控えに回りたまえ、

 いいかね、私が作りたいのは地べたを這うようなバレエではないっ

 もっと、高く…

 もっと大空を舞うようなバレエを作りたいのだ

 それなのに君は…」

割って入ってきた新城は捲くし立てるようにして麗華にそう言うと、

背中を見せ去っていった。

「あっ待って」

即座に彼を引きとめようと麗華は声を上げたが、

しかし、新城は麗華の声を無視してそのまま立ち去っていった。

「あっ…」

麗華は2・3歩彼を追ったところで立ち止まると、

「はやりねぇ…」

「今日の舞台ちょっと問題だったもんねぇ…」

「大体なんで平さんがオデットに抜擢されたのかしら…」

「そうよねぇ…」

そんな麗華を嘲るかのようなひそひそ声が彼女の耳に入ってきた。

「やめて!!」

突然麗華は声を上げると、

耳をふさぎ、

そのまま、控え室へと走り去って行った。



カシャンッ!!

「イヤ!

 イヤ!!
 
 イヤ!!!」

控え室に飛び込んだ麗華は鏡台の前に駆け込むと、

メイクもそのままに鏡の前に突っ伏すと泣き始めた。

ウッウッウ…

かみ殺すような泣き声が控え室に響き渡る。

すると、

コンコン!!

控え室のドアがノックされると、

「平さん、

 あのぅ僕がこんな事言うのはおこがましいのですが、
 
 ひょっとして根を詰めていませんか?

 僕が見た感じなのですが、
 
 平さん、なにか非常に疲れているように見えたのです。
 
 やはり、指示に従って明日一日休まれてみては…」

と王子役をしてきた錦小路勉の声が響き渡った。

「…………」

彼のその声に麗華は返事をすることが出来なかった。

無論、

麗華自身、今日の舞台がボロボロだったのはよく知っていた。

とそのとき、

ムリッ!!

麗華の体の中で何かが蠢いた。

「あっ、ダメッ」

それを感じた麗華は思わず自分の腹を押さえながら

「ダメなのよ、あたしには時間が無いのよ」

とつぶやいた。



その日の夜遅く…

コトン!!

音楽ホールから所属するバレエ団のレッスン室に一人戻った麗華は、

少女の頃から汗を流し続けてきたレッスン室にトゥシューズの音が響き渡らせていた。

ダンっ

トタタタッ

タンッ……

幾度も幾度も練習をしてきたパをレオタード姿の麗華は繰り返す。

ハァハァ…

ハァハァ…

「…折角掴んだ”真ん中”…

 誰にもそれを渡したくない」

ポタポタポタ…

床に汗を撒き散らすほど汗だくになりながらも

レッスンを続ける麗華の胸の内には

”真ん中”=主役い抜擢されたことへの誇りと、

そして、それを他人に渡したくないと言う気持ちでいっぱいになっていた。

しかし、彼女の動きは回を重ねるごとに鈍くなり、

そして重くなっていく、

「疲れ?」

手足に錘が付けられていく感覚に麗華は一瞬そう思うが、

しかし、この不調の原因はすでにある病に起因していたことを麗華は知っていた。

『蟲化病』

半月前、体の不調を感じた麗華が近所の町医者に診てもらったとき、

医者から告げられた病名だった。



蟲化病…

年頃の女性だけに発病する病気で発病すると体が蟲の姿に変化していくところからそう名づけられた。

しかし、有効なワクチンが開発され、

予防接種をすれば蟲化は避けられるようになったために

一時のような騒ぎは沈静化したものの、

けど、毎年その病気を発病し固い殻に覆われた醜い蟲の姿へと変身していく女性達は後を絶たなかった。

その蟲化病に麗華は感染していることを医者から告げられたとき、

彼女の目の前が真っ暗になっていった。

ワクチンを打てば発病は回避される。

でも、ワクチンを打ってから体内のウィルスが撲滅されるまでの2週間は絶対安静が必要であった。

しかし、そのときの麗華はその選択が出来なかった。

この日からちょうど1週間後、

振り付け師や芸術監督達によって、まもなく始まるバレエ団の公演の配役が決まるからだ。

「休めない…

 この1週間…いやっ公演が終わるまで絶対に休むことなんて絶対に出来ない。」

幼い頃からバレエを続けてきたいまが麗華にとって、いまが一番大切なときだった…

麗華はそう覚悟を決めると、

ワクチンの注射を勧める医者の言葉に首を横に振り、

そのまま立ち去っていった。

「…大丈夫、

 公演が終わるまで発病はしない」

そう確信して麗華はバレエ団に戻り、そしてレッスンを続けた。

その甲斐あって麗華は見事”真ん中=主役”を射止め、

そして公演に望んだのだが、

しかし、そんな彼女を待ち受けていたのは”蟲化病”の発病だった。

「くそっ」

次第に苦しくなっていく胸に麗華の顔に焦りの色が広がっていく、

ミシッ

麗華の体の奥で目を覚ました小さな蟲が体を盛んに食らいついている。

そんな幻覚を麗華は感じながら

「持って…

 お願いだから…
 
 せめて公演が終わる日まで…」

と思いながらふと自分の顔を見た。

その瞬間。

「ひっ!!」

レッスン室に麗華の悲鳴が響き渡った。

「そっそんな…」

ミシッ

レッスン室の鏡に写った麗華の顔は赤黒く変色し、

ボールのように晴れ上がっていた。

「なんで…」

レッスン室に来たときと比較してあまりにもの変貌振りに麗華は信じられない思いで自分を見た。

「まさか、

 レッスンをしたために病気が一気に進行して…」

そう考えた途端、

ヨロッ

麗華はよろめくと、その場に座り込んでしまった。

「どうしよう…

 そんな…

 いやよっ」

顔だけではなかった。

眼下に見えるバレエタイツに覆われた足も、

腕もパンパンに腫れ上がり、

そして、至る所から腐臭を放ちながら体液がにじみ出ていた。

蟲化病のウィルスが麗華の肉体を作り変えている証拠である。

「そんな…

 あたし、このまま蟲になってしまうの?
 
 醜い蟲になってしまって、
 
 もぅ2度と舞台に立てないと言うの?
 
 いやよそんなの
 
 やっと掴んだ真ん中よ、
 
 誰が渡すものですかっ」

クチャッ!!

意を決した麗華は関節から肉がつぶれる様な音を上げながら立ち上がると、

蟲化が進行し麻痺していく体に鞭を打ち、レッスン室から出て行った。

目指すは県立音楽ホール…

麗華にとっての晴れの舞台の場所である。

クチャッ

クチャッ

着替えることなくレオタード姿のまま麗華は夜の街を歩いていく、

もはや麗華の意識は朦朧としていて、

出歩いた事が無い格好である事には気づいていなかった。

ハァハァ…

ハァハァ…

「苦しい…」

困難になっていく呼吸

利かなくなってくる視界

麻痺し、動かなくなっていく体

麗華の白かった肌は赤黒く変色し、

また柔らかさも消えると硬質化し至る所から体液を流していた。

もはやこうして立って歩いている事だけでも奇跡だった。

”真ん中”を渡したくない。

その気持ちだけが麗華を前へ前へと進ませていた。

最後の角を曲がる。

すると、ライトアップされ、

まるで不夜城のごとく煌々と輝く音楽ホールが周囲を取り囲む雑木林越しに姿を見せた。

「あっあそこ…」

ぼやけた視界に映る建物の姿に麗華は消えかかっている意識を奮い立たせ音楽ホールへと向かって行く、

そして、音楽ホールの周囲で茂っている雑木林に足を踏み入れたとき、

グシャッ!!

「あっ」

ついに麗華の足は潰れてしまうと、

バランスを崩した麗華はそのまま背の低い潅木の中に倒れんでしまった。

「もっもぅ少し…なのに」

麗華は建物に向かって手を伸ばすが、

しかし、彼女の意識はここで途切れてしまった。

その途端、

ブチュッ!!

メリメリメリ…

意識を失った麗華の体が見る見る盛り上がっていくと、

ベリベリベリ!!

身に付けていたレオタードやタイツを引き裂いて、

赤茶けた色に肌に覆われた肉体が膨張していく、

蟲化病の代表的な症例の一つ蛹化である。

病気が進行し蛹となった麗華の体の中では新しい肉体が急速に作られていく、

そして、朝、昇った日が大きく弧を描いて沈もうとした頃、

モリッ

日中動く事の無かった麗華の肉体が蠢き始めると、

ピシッ!!

その背中に一筋の裂け目が姿を見せた。

そう羽化が始まったのだ。

モリッ

モリッ

羽化を始めた麗華の体は徐々に大きく、

そして活発に蠢く、

その一方で、背中に出来た裂け目は上下に口を開き、

ついに

ニュッ!!

っとその裂け目から黒い輝きを放つ殻に覆われた麗華の新しい肉体が姿を見せた。

メリメリメリ!!

蛹の中から搾り出すようにして麗華は新しい肉体を突き出していくと、

ズルリ…

リングが連なったような円筒形部位が足があった方から飛び出し、

その後に続くようにして複眼に覆われた昆虫の頭が蛹の中より表へと飛び出した。

『…はあぁぁぁぁ…

 気持ちいい…』

折りたたまれた6本の足を伸ばし、

そのうちの前足で長く伸びた2本の触覚を手入れしながら

麗華はコレまでの苦しみから解放された気持ちの良さにしばし浸る。

そして、その間に彼女の体から無数の毛が沸き立つと、

背中では萎んでいた羽がゆっくりと広がっていった。

ファサッ

ファサッ

蝶を思わせる思わせる乳白色の4枚の羽…

そう麗華は蝶型の蟲に生まれ変わったのだった。

『あっそうだ…

 今夜の舞台…』

体が乾き自由に動けるようになった麗華は今夜のバレエの舞台のことを思い出すと、

ファサッ!

蝶の羽を羽ばたかせながら音楽ホールへと向かっていった。



「うふふふ…

 やっと巡ってきたチャンス」

その頃、ホールの控え室では純白のチュチュを身に着けた智里が

笑みを浮かべつつも表面の鏡で念入りにチェックをしていた。

彼女が着ているチュチュには高貴な装飾が施され、

一目見ただけで彼女が主役を演じる事が目に見えていた。

「やっと

 やっと、”真ん中”に立てる…」

智里は麗華と同じくらいにバレエを始め、

今年で約10数年のキャリアを持つバレリーナだったが、

しかし、麗華と比べて目立たなかったためか、

なかなかその才能を発揮する場面がめぐってこなかった。

けど、今日は違う。

昨日で降板させられた麗華に代わってこのオデットのチュチュを身につけ、

そして舞台の真ん中で堂々と舞うのだった。

まさに、至高の時を智里は迎えていた。

「長かったわ…

 本当に長かった…」

今日のこの日を夢見ながらレッスンに明け暮れていた昔のことを思い出すと、

キツメのアイシャドウが塗られた智里の瞳から大粒の涙が零れ落ちる。

「あっいけない…」

それに気づいた智里がそれを手際よくふき取ったとき、

カチャッ

パタン!!

静かに控え室のドアが静に開くと、スグに閉じた。

「あれ?

 もぅ時間?」

てっきりスタッフが呼びに来たと思った智里はそう返事をするが、

しかし、ドアの方を振り向いても訪問者の姿はそこには無かった。

「え?………

 確かさっき開いたよねぇ…」

そう思いながら正面の鏡に視線を戻すと、

『ここはあたしの部屋よ…

 あなたはここで何をしているの?』

と言う声が響き渡った。

「誰?」

その声に智里は一瞬驚くと、

まるで金縛りにあったように体の動きは封じられ、

視線だけが再びドアのほうへと移動していった。

ドクン

ドクン

自分の胸の中の心音がまるで騒音のごとく響く中、

智里は緊張はピークに達しようとするが、

「誰!?

 誰なのよっ」

それを振り切るように智里は声を上げると、

クワサッ

クワサッ

これまでに聞いた事がない音が部屋に響き渡った。

クワサッ

クワサッ

「なっなんなの?」

部屋中に響き渡るその音に智里は次第に追い詰められていく、

「出てきてよ、

 あなたは一体誰なのよっ」

恐怖感で泣き出しそうになりながら声を張り上げたとき、

バタタタタ!!

何かが天井で激しく羽ばたいた。

と同時に

モワッ

控え室中が舞い上がった埃で真っ白になってしまうと、

ファサッ

一人の人影が智里の横に降り立った。

「だれ?」

智里は両手で顔を庇いながら自分の横に降り立った人物の素性を探ると、

ヌッ

次第に埃が収まるにつれ、彼女の横に立つ人物の様子が見えてきた。

そして、はっきりとその姿が見えたとき、

「ひっ!!」

智里は悲鳴を上げた。

そう彼女の横に立っていたのは

細かい棘のような毛に覆われたと固い殻に覆われた胴体に、

その後ろに続く環状の関節が規則正しく並ぶ腹部、

長く伸びた2本の触覚

ギロリ…

顔を左右から覆い尽くす巨大な複眼と、

背中に大きな蝶の羽を生やした巨大な蝶だった。

「ひぃぃぃ!!」

自分の背丈ほどもある巨大な蝶の姿に智里は悲鳴をあげると同時に

椅子から滑り落ちてしまうと、

ドタン!!

と智里は尻餅をついてしまった。

「痛ぁいっ」

そう悲鳴を上げながら智里は傘のように広がるパニエ地のスカートの上から腰を擦っていると、

フワッ

蝶は羽を羽ばたかせて飛び上がると、

智里の動きを封じるかのように、

前足は羽の頭飾りが付いている頭の両側、

中脚は肌が露になっている両肩、

後ろ足はパニエ地のスカートをそれぞれ抑え、

グイッ

って智里の目の前に自分の顔を近づける。

「………」

智里の口からもはや声は出てこなかった。

『あなた…

 誰の許可を得て、オデットのチュチュを着ているの?』

「え?」

蝶から告げられたその言葉に智里は驚くと、

「あっあのぅ…

 ひょっひょっとして平…さん?」

と聞き返した。

確信は無かった。

しかし、自分を押さえ込むこの蝶が、

化け物などではなく、

話に聞いていた蟲化病に冒された女性の特徴を持っていたこと、

そして、自分がオデットを演じることが気に入らないことなど、

それらのことから智里の脳裏に麗華のことが浮かぶと、

思わず、蝶に向かってそう尋ねてしまったのだった。

すると、

『そうよ、

 平麗華よっ』
 
蝶は智里に向かって返事をした。

「たっ平さん

 むっ蟲化病に罹ったのですか?」

『そうよ』

「びっ病院にはいかれたのですか?」

『いえ』

「え?

 それって…
 
 で、羽化したのはいつですか?」

『ついさっきよ』

「ついさっきって

 え?
 
 えぇ!!」

蟲化病を発病したものが羽化してから2〜3時間の間は他の女性に病気を感染させる可能性が最も高い。

そのことが脳裏にある智里にとって麗華のその答えは恐怖でしかなかった。

そしてそれは、

「はっ離して!!

 お願いだから

 あたしを蟲にしないで」

と智里の口から本音を言わせてしまった。

『ふふっ

 病気になるのは怖い?
 
 蟲になるのが怖い?

 そうよねぇ
 
 あなたはもうスグ真ん中で踊るんですものねぇ』

麗華は大きな2本の爪だけとなった手で智里の頬を軽く撫で、

そして、麗華の手が動いた後から二本の血の筋が静かに引いていく、

「ひぃぃぃ!!」

『怖い?』

「やっやめて…」

『もぅ遅いわ、

 あなたは蟲化病に感染したわ』
 
「え?」

『さぁ、そのチュチュを脱ぎなさい。

 あなたが着るものではないわ』

「うそよっ」

『さぁ脱ぎなさい』

「いやっ!!」

ドンッ

迫る麗華を智里は力いっぱいに突き飛ばすと、

ガタガタ!!

傍に置いてあった小道具用の棒を手にして、

「あっあたしはあなたみたいな蟲にはならないわっ

 さぁ、

 ここから出て行ってよ、この化け物!!』

と叫ぶと麗華向かって棒を思いっきり振り下ろした。

バシッ!!

振り落とした棒の先が麗華の体を直撃する。

しかし、

バサッ!!

棒に叩かれながらも麗華は飛び上がると、

「シャァァ!!」

再び智里の上に飛び掛り、

渦巻状に丸めてあった口を素早くチュチュの胸元から潜り込ませると下へと伸ばしていった。

「なっ何を!!」

麗華の行動に智里が驚くと、

『ふふっ

 聞き分けの無い娘…

 いいわっ
 
 あなたが早く蟲になれるようにあなたの蜜をいただくわ』

麗華は智里にそう告げると

スルッ

口を巧みに智里の股間に潜らせ

その真ん中にある花弁から

ヌプッ

智里の膣の中に口を滑り込ませた。

ビクン!!

「あっ」

自分の体内に侵入してきた異物の感覚に

カラン!!

智里の手から棒が零れ落ちると、

「いっいやぁぁぁぁ!!」

続いて智里の悲鳴が控え室に響き渡った。



チュルチュルチュル…

『あぁ…美味しいわ…

 あなたの蜜…』

突き出した腹を膨らませながら麗華は股を開き棒立ちになっている智里にそう告げる。

「あっあっあっ」

麗華の口に秘所を貫かれ、

愛液を吸い取られている智里の肌には

幾筋もの皺が刻まれ、

また、肌の色も浅黒く変色をしていた。

智里も同じように蟲化病を発病していた。

『ふふっどう?

 蟲になっていく感じはどう?

 さぁ、チュチュを脱がせてあげるわ、
 
 いいこと?

 真ん中はあたしが踊るのよ』

麗華はそう告げると、

バリッ

両手の爪を器用に使い智里が着ているチュチュを脱がせ、

『お休みなさい…』

とつぶやきながら、

ジュルッ!!

智里から最後の愛液を吸い取った。

その途端、

ドサッ!!

ピクピクピク!!

愛液をすべて吸い取られた智里はその場に倒れると体を痙攣させる。

そして、

メリメリメリ!!

麗華から感染させれた蟲化病のウィルスが彼女の体を作り変え始めた音が響き渡った。



『ふふ…

 目を覚ましたとき、あなたは蟲になっているわ』

次第に姿を変えていく智里を見下ろしながら麗華はそう言うと、

コンコン!!

控え室のドアがノックされ、

「里中さーん、

 時間でーす、
 
 舞台袖まで来てくださーぃ」

智里を呼びに来たスタッフの声が控え室に響き渡った。

『ふふっ

 さぁ…あたしの舞台よ』

その声に麗華は形の変わった自分の足にトゥシューズを履かせ、

智里から奪ったチュチュを身につけると、

自分の登場を待っている舞台へと向かっていった。



そのとき、すでに舞台では幕は開き、その夜の公演が始まっていた。

「おいっ

 里中はまだ来ないのか」

白鳥姫の出番が迫る中、

なかなか控え室からやってこない智里にスタッフ達から焦りの声が出る。

すると、

『遅れて申し訳ありません』

と言う女性の声が響き渡ると、

廊下の方から人影が迫ってきた。

「おいっなにをしていた

 急げ

 時間だ!!」

それを智里が来たと思ったスタッフは影に向かってそのまま舞台へ出るように指図をだす。

『はいっ』

その指示に

バタタタ!!

麗華は羽を大きく羽ばたかせ、スポットライトが照らし出す舞台へと飛び出していった。



ザワッ

白鳥姫・オデットの登場と共に舞台袖から飛び出してきた巨大な蝶に

観客席から一斉にざわめきの声が上がる。

そして、それは当然、舞台上のバレエ団員達も驚いていた。

「なっなんだ?」

「え?」

「蝶?」

呆然としながら乱入してきた蝶の舞を見つめる中、

「こっこれは…」

舞台監督の新城はその舞をシッカと見据えていた。

「おいっ、

 誰かっ!!

 スグに幕を下ろせ!!

 公演は中止だ!!」

突然の事態にスタッフの間から怒号が飛び交うと、

「いやっ

 待て」

新城がスタッフ達の動きを止めた。

「新城さん?

 どういうことです?」

振り付けの高田がその訳を正すと、

「見て判らないのか?

 あの蝶の動きを…

 あれはただ羽ばたいているのではない。

 バレエを踊っているのだよ」

舞台の上でのびのびと舞う蝶の姿を指差しながら

新城は興奮した口調で捲くし立てる。

「そうですか…」

新城の迫力押されるようにして高田は再度舞い続ける蝶を見る。

その一方で、

「すばらしい…

 そう、

 これだ、

 これこそが私が求めていたバレエだ」

ジッと舞い続ける蝶を見つめながら

興奮した口調で新城はそう言い続けていた。

そして、舞台の上では、

『あぁ…

 みんながあたしを注目している…

 そうよ、あたしこそがプリマなのよっ』

羽を大きく羽ばたかせ、

スポットライトを一身に浴びながら麗華は舞い続けていた。



『まったく、お母さん電話でカンカンだったわ

 娘を蟲にするためにバレエをさせたんじゃないって』

『あはは、それ判る

 あたしもねぇ…

 まさか蟲になっちゃうだなんて思ってもいなかったしぃ』

『ねぇ、あたしの羽、おかしくない?』

『あっいいなぁ、その模様…

 あたしもそんな模様になってほしかったなぁ』

それから数ヵ月後…

バレエの1時間後に公演を控えた控え室ではバレ団員達がその準備に追われていた。

ワイワイ

ガヤガヤ

いつも繰り広げられる楽屋裏の光景なのだが、

しかし、これまでとは違った異様な光景がそこに繰り広げられていた。

そう、鏡に向かって念入りにメイクを施しているのは

全員蟲化した女性達で、

おしゃべりの声に混じって

ギシギシ!!

と関節が鳴る音が響き渡る。

そう、すべてはあの日からのことだった。

蟲化した麗華の踊りに自分の求めていたものを見出した新城によって、

バレエ団に所属する女性達に蟲化を義務付けると、

蟲化女性によるバレエ団を立ち上げたのでだった。

無論、最初のうちは彼に反発する声もあったが、

しかし、その芸術性が認められてくると、

次第にバレエにおける蟲化女性の比率は高くなって行き、

また、バレエそのものも大きく変貌して行った。



「平さんっ

 間もなく幕が上がりまーす」

彼女達から壁を隔てたプリマの控え室にスタッフの声が響き渡ると、

『はーぃ』

鏡の前に立ち自分の容姿を点検していた麗華が返事をした。

『さて、行きますか』

ギュムッ

関節の音を響かせ麗華は振り返ると

パタタタ!!

背中の羽を羽ばたかせるとフワリと浮かび上がった。

間もなく幕が開く…



おわり