風祭文庫・蟲変身の館






「夫婦蜂」
(後編)


作・風祭玲

Vol.920





「歌乃ぉ

 おっ俺がわかるか?」

1m近く伸びる昆虫の腹を自分の腰から突き出してしまった歌乃に向かって

隆は自分を指さし尋ねると、

「うん…

 判るけどなんで?

 ちょっと苦しかったけど、

 いまは大丈夫よ

 ねぇどうしたの?

 隆?」

歌乃は小首をかしげながら聞き返した。

「かっからだ、

 な、なんとも無いのか」

キョトンとしてみせる歌乃を見て隆は青ざめた顔で尋ねると、

「え?

 体?」

その言葉に歌乃は自分の身体を見る。

そして、

「え?

 あれ?

 おっお腹が…

 あたしのお腹が無い。

 それになに?

 この胸?

 いやだぁ

 なんでこんなになっているの?

 いやだぁ!!」

中身を失い引き裂けた風船の如く名残の皮膚が垂れ下がる自分の腹と、

アメフト選手を思わせるくらいに厳つくなっている胸を見た歌乃は驚き、

そして、隆に縋ろうとフラフラと立ち上がるが、

「あっあれ?

 思うように立ち上がれない」

皺だらけの足には立ち上がるだけの脚力が無いのか、

歌乃は前かがみになってしまうと、

トンっ

畳に両手をを付き

よつんばになってしまったのであった。

「え?

 え?

 一体どうしたのあたし?

 なんで立てないの?」

立てなくなってしまった自分の体に歌乃は驚き

泣き顔になりながら隆を見ると、

「落ち着け、

 落ち着け

 歌乃っ」

ようやく動くことが出来た隆は歌乃の元に駆け寄り、

その身体を抱きしめる。

しかし、

愛し合ったときはあんなに熱かった歌乃の身体は

まるで人形を抱いているが如く冷たく硬くなっていたのであった。

すると、

ギシギシ

ギシギシ

不意に不気味な音が響きはじめると、

「なに?

 何の音?」

怯えながら歌乃は耳を両手で塞ぐが、

しかし、その音は歌乃の腰から突き出している昆虫を思わせる腹が響かせているものだった。

「歌乃っ

 落ち着け、

 いいか、落ち着いて俺の話をよく聞け」

混乱する歌乃に隆はそう言い聞かせると、

ススッ

歌乃の腰から突き出している昆虫の腹に手を這わせ、

「歌乃…

 俺がいまお前を触っているのが判るか?」

と尋ねる。

「うんっ、

 背中の下かな?

 お尻とは違うけど、

 でも、その先のような気がする?

 あれ?

 何でそんなところで感じるの?」

隆の質問に歌乃は困惑して返事をすると、

「そうか、

 感じるのか、

 神経は通っているみたいだな、

 いいか、歌乃っ

 いまから電気をつける。

 そして、落ち着いて自分の体を見るんだ」

と隆は言い聞かせながら手を伸ばすと、

カチッ!

部屋に蛍光灯の明かりが灯された。

そして、歌乃が恐る恐る自分の身体を見た途端、

「ひっ!」

一瞬、声を詰まらせ、

「キャッ!…」

と悲鳴を上げかけるが、

スグに隆の手がその口を塞いでしまうと、

「しーっ、

 悲鳴を上げるなっ、

 人が来たらどうするっ」

と言い聞かせる。

それから3分ほど時間おいてその手をゆっくりとどけて見せると、

ジワッ!

歌乃は溢れんばかりの涙を流しながら、

「どうして?

 どうして?

 どうして?」

と隆に泣きついて来た。

「判らないよ俺だってぇ、

 何でこんなことに…」

泣きついて来る歌乃をきつく抱きしめ、

隆は歌乃の腰から伸びる昆虫を思わせる腹に視線を落とし、

「まるで…

 蜂の腹だな…」

と毒々しい黄色と黒の斑模様のそれを見ながらそう思う。

すると、

「ハッ!」

昼間叩き殺した二匹の蜂のことを思い出し、

それと同時に、

「隆ぃ、
 
 これって、

 あの蜂の祟りなの?」

と歌乃も蜂のことを思い出したのか同じことを尋ねて来た。

「そんなはずは無い。

 祟りだなんて」

歌乃のその言葉を否定するように隆は言い切ると、

「だって、

 これって、

 蜂のお腹じゃないっ

 あたし、蜂になるの?

 隆が殺した蜂の祟りで蜂になっちゃうの?」

と歌乃は言う。

「馬鹿なことを言うなっ

 これは何かの病気だ。

 そうだ、医者に行こう、

 朝になったら医者に行って診てもらうんだ」

歌乃に向かって隆は説得するように言い聞かせるが、

「でっでも…

 医者に行ったら、
 
 あたしたちがここにいることがみんなに知れてしまうんじゃぁ?」

と歌乃は逃避行中であることを指摘したのであった。

「うっ

 それはそうだけど…

 じゃぁどうすれば良いんだよ」

その指摘に隆はつい歌乃に当たってしまうと、

「そんなことを言っても」

歌乃は困惑した表情をする。

「畜生っ

 どうすれば…」

幾度も拳で布団を叩き、

隆は頭を抱えると、

ズキッ!

今度は隆のイチモツが痛み始めた。

「つっ」

股間を押さえながら隆は痛みに堪えると、

「どうしたの?」

とすり寄りながら歌乃が尋ねた。

「あぁ、大したことは無い」

ズキズキと痛んでくる痛みを紛らわせるようにして隆は返事をすると、

カサッ

心配そうに自分を見る歌乃の背中から光る透明ものが突き出て事に気づく。

「なんだそれ?」

歌乃の背中を指差して隆は腰を上げて覗き込んでみると、

歌乃の背中から出ていたのは紛れも無い昆虫…そう蜂の羽であった。

「なっ何なの?

 何があったの?」

不安そうに歌乃が尋ねると、

「羽だ、

 これ、蜂の羽だよ」

歌乃の背中から伸びる羽を手で持ち上げながら隆は呆然と囁き、

ペタン

と尻餅をついてしまった。

「えぇ!

 いやぁよぉ

 蜂の羽だなんて」

その言葉に歌乃は身を捩じらせながら声を上げるが、

しかし、歌乃の背中に生えた蜂の羽は時間の経過と共にその大きさを伸ばし、

夜が白み始めだした頃、

ブブッ

ブブブブブブブブッ!

ついに羽音を立てながら動きはじめだしてしまった。

「煩いぞっ

 歌乃っ」

部屋に響き渡る羽の音に我慢しきれなくなった隆が文句を言うと、

「そんなことを言っても、

 こうしてないと体が落ち着かないのよ、

 我慢して」

関節が膨らみ節くれだった腕を持ち上げて歌乃はそう言い返す。

「くっそぉ

 歌乃は蜂女になってしまうし、

 俺のナニはこんなに腫れてしまうし、

 どうすれば良いんだよ」

と隆は途方にくれながら、

股間で元の数倍に膨れ上がったイチモツを恨めしそうに眺めた。

と、その時、

ワイワイ…

ワイワイ…

急に宿の下がにぎやかになってくると、

「ん?」

それに気づいた隆は窓の傍に寄りカーテンをわずかに空け、

恐る恐る下を見る。

刹那

バッ!

いきなり隆が身を伏せると、

「なっ何があったの?

 隆?」

歌乃が這いずりながら理由を尋ねてきた。

「こっちに来るな、

 歌乃っ

 ばれた!」

と歌乃に向かって隆は一言言うと、

「俺たちがここにいることがマスコミにばれたんだよ!」

と付け加える。

「えぇ!」

思いがけない隆の言葉に歌乃は声を上げると、

「逃げるぞっ

 歌乃っ

 スグに支度しろ!」

隆は叫びながら大慌てで荷物を纏め始める。

だが、

「逃げるって、

 あたし、こんな体よっ

 どうやって」

と歌乃は腰から蜂の腹を突き出し、

膨らんだ胸から伸びた羽根を羽ばたかせる自分の身体を指摘する。

すると、

「コートでも何でも良い、

 服が着れなかったら何か適当なものを羽織って隠せ、

 そんな身体をTVカメラの前に見せるわけには行かないだろう。

 畜生っ

 ズボンがはいらねぇ!」

赤黒く染まり、

一抱え程に膨れたイチモツを晒しながら隆は怒鳴ると、

「えぇいっ、

 ズボンはヤメだ!」

とズボンを放り出し、

旅館の浴衣を再度着始めた。

そして、

パンッ、

テーブルの上に宿泊代相当のお金を置くと、

「いくぞ、

 非常階段だ」

と歌乃に指示をしながら彼女の右腕を引っ張るが、

それと同時に

ブチッ!

ズルッ!

握りしめた歌乃の腕が一気に引き抜けてしまったのであった。

「かっ歌乃ぉ!」

ダランと下がる歌乃の腕を見ながら隆は青ざめると、

「たっ隆ぃ」

黒く光るかぎ爪と節くれ立った昆虫の脚を右肩から延ばす歌乃の姿がそこにあった。

「お前…

 手が…」

それを指さしながら隆は呆然とすると、

「隆ぃ

 ごめんなさい。
 
 じっ実は…」

と言いながら歌乃の胸の下が蠢き、

キシキシ

キシキシ

と音を立てながらさらに左右対称に二本の昆虫の脚が伸びてくると、

ゆっくりと床に脚をつけたのであった、

「ひぃ!」

歌乃の胸下から伸びる脚を見た隆は愕然とすると、

「黙っていてごめんなさい、

 実は少し前から胸の下で動くようになっていたの」

かぎ爪の右手と人間の左手で歌乃は顔を覆いながらそう訴え、

キシキシキシ!!

胸下から伸びる脚も同じように動かして見せた。

「ちっ!」

そんな歌乃の姿を見ながら隆は舌打ちをして見せると、

「もぅなにも言うなっ

 歌乃っ

 行くぞ!」

荷物が入った鞄を肩に掲げ、

昆虫の前脚となった歌乃の右腕を握りしめて部屋を出る。

だが、部屋を出た途端、

「あぁぁ…」

ドサッ!

スグに足を絡ませて歌乃は廊下に倒れこんでしまうと、

「隆ぃ、

 無理よ、

 あたし歩くことは出来ない。

 お願いだからあたしを置いて先に行って」

と懇願するが、

しかし、隆を見つめる歌乃の目は目の回りにびっしりと小さなレンズが埋め尽くし、

昆虫の複眼へと変わりつつあった。

「歌乃、

 お前…」

額からも触覚らしき突起をも突き出ている顔を見た隆は、

「ヨイショ」

何も言わずに歌乃を背負うと非常口へと向かっていく。

そして、

「邪魔だな」

その一言と共に、

ドサッ

ドサドサッ

荷物を放り出して非常口のドアを開けると、

ヒュォォォッ!

舞踊る朝の風が二人を晒したのであった。

「いくぞ歌乃っ」

背中の歌乃に向かって隆は話しかけると、

「うんっ」

歌乃はそう返事をし、

ギュッ!

と隆にしがみつく。

キシッ!

黒い中脚も自分の腰を締め付けてきたことを隆は確認すると、

「よしっ」

カンカンカン

覚悟を決めて隆は非常階段を折り始めるが、

「あっ、いたぞ。

 非常階段だ!」

見張りがいたのか、

男が階段を下りる隆を指差し声を張り上げた。

「ちぃ!

 見張りが居やがったかぁ」

その声に隆は悔しそうに呟くが、

ワラワラワラ

声に誘われるようにレポーターをはじめとした、

マスコミが押し寄せ、

中継カメラやカメラの放列が一斉に二人を写しはじめた。

「畜生!」

まさに袋叩きと言って言い状態の中で、

隆はさらに降りようとしたとき、

ズルッ!

突然足をすべってしまうと、

「うわっ!」

階段から一気に転がり落ちた。

が、

「何だあれは!!!」

驚くマスコミの声が響くのと同時に

ブブブブブブブブブ!!!!!

低い羽の音が響き渡り、

隆の身体がフワリと宙に浮かび上がった。

「え?

 え?」

唖然と上を見ながら自分を見詰めるマスコミの見下ろしながら、

隆は同然としていると、

「んんんんっ」

歌乃の堪える声が後ろから響いてくる。

「歌乃?」

その声に隆は後ろを向くと、

「…話しかけないで…お願い」

と歌乃は苦しそうに言い、

背中の羽根を思いっきり羽ばたかせていた。

「お前、空を飛べるのか…」

そんな歌乃を見ながら隆は囁くと、

「あたし…

 もう蜂なんだね…

 だって空を飛べるし、

 隆がいっぱい見えるもん」

とオレンジ色に染まった顔で隆を見るが、

しかし、その顔には瞳は無く、

無機質な複眼が隆の顔を映しているだけだった。

「歌乃…

 まだ俺が判るのか…」

歌乃に向かって隆は尋ねると、

「話しかけないでって言っているでしょう、

 とにかく遠くへ、
 
 出来るだけ遠くへいくわよ」

と歌乃は6本の脚で鷲掴みにしている隆に話しかけ、

二人はそのまま山の彼方へと消えて行ったのであった。



月日が流れた。

ブギィ!!!

春の風が吹く奥深い山の中で猪の絶叫が響き渡ると、

ブブブブブ!!

ブンブンブン!!

泡を吹きながら絶命した猪の上を身長1m程もある巨大な蜂が飛び回っていた。

「よしっ

 大物だ!」

複眼を通して無数に見える猪を見ながら隆はほくそ笑むと、

「悪いな…

 こっちも生活がかかっているんだから」

と言いながら、

ぴくりと動かなくなった猪の上に集り、

左右に割れた顎で猪の4本の脚を噛み千切り始め、

さらに頭も切り落とすと、

「ふぅ…

 こんなものでいいかな」

と丸い胴体だけとなった猪を眺める。

「段々俺の身体も小さくなっているな…」

人間だった頃は1m80cmもあった隆の身長は、

いまでは頭の先から尻の先まで1m程度になり、

猪もこうして余分なモノを噛み千切って軽くしないと

持ち運ぶことすら困難になっていた。

胴体だけの猪を6本の脚でしっかりと抱きかかえ、

ブブブブブ!!!

背中から伸びる羽根を羽ばたかせながら隆は舞い上がると、

ある方向へと向かい始める。

この森に歌乃と共に来てから何年が過ぎただろうか、

腫れ上がっていた隆のイチモツはさらに膨らみを増すと

内蔵を飲み込んで蜂の腹と化し、

さらに胸は厳つく膨らむと背中に羽根が伸び、

胸の下から中脚が動き始めだした。

そして、顔に複眼が形成されると、

隆もまた歌乃と同じように雄蜂へとその姿を変えてしまったのであった。



ブブブブ…

突然、隆の付く手が開けると、

鬱蒼と生い茂る草の中に点々と朽ちかけた家並みが立ち並ぶ廃村が姿を見せる。

この地方では忘れ去られた村として言い伝えられる村だったが、

しかし、人目を避けて生きてゆかねばならなくなった隆と歌乃にとっては都合の良い場所であった。

猪を抱きかかえながら隆は跳び続けると、

やがて比較的状態の良い廃屋が姿を見せ、

隆は外れ掛けている戸の隙間から廃屋の中へと潜り込んで行く。

「歌乃ぉ」

天井が抜け、

苔むした土間から隆は歌乃の名前を呼ぶと、

ブンブンブン

羽音を立てながら廃屋の奥より体長数センチの働き蜂が数匹姿を見せ、

まるで隆を敵対するかのようにその周囲を飛び回り始めた。

「んだよっ、

 煩いな。

 俺だよ、隆だよ」

そんな働き蜂を追い払いながら

隆は羽根を動かすと、

踏んだだけで崩れてしまう畳の上を飛びながら奥へと進んでいく、

すると、

ブンブンブン

ブンブンブン

次第に飛び回る働き蜂の数が増えていき、

さらに

ギュィギュィ

ギュィギュィ

と不気味な音が聞こえてきた。

「また……作っているのか」

その音を聞きながら隆は破れ放題の襖戸の前に降りると、

「いよっ!」

一旦、猪を畳の上に置き、

かぎ爪の腕を襖に当て全身の力を込めてそれを開けた。

その途端、

ブブブブブブブブ!!!!!

無数の働き蜂が部屋中を飛び交う音と共に、

底が抜けている床から伸びる無数の六角形をした構造物が隆の複眼に映る。

ブンブンブン!

ブンブンブン!

侵入者に向かって働き蜂達は一斉に羽音を立てて威嚇してくるが、

「ふんっ

 全く働き蜂って脳がないなぁ」

そんな蜂を隆は一蹴すると、

カサッ

カサカサ、

六本の脚で畳の上を移動し、

床が抜け落ちて出来た穴を覗き込む。

すると、

ギュイギュイ

ギュイギュイ

大きな音を上げながら身長70cm程の羽根のない女王蜂が、

大きくて長い腹を引きずりながら

左右に割れた顎で廃屋の部材や土をかみ砕き、

蠢きながら自らの唾液を加えて作り上げた六角形の物体を作り続けていたのであった。

「なぁ、歌乃っ

 こんなに作ってまだ作る気なのかよ」

黙々と作り続ける女王蜂に向かって隆は話しかけると、

ギュィ!

その声が聞こえたのが音は止まるが、

直ぐに

ギュィギュィギュィ

と再び音を立てはじめた。

「ちっ、

 いまはだめか…」

女王蜂の様子を見た隆は諦めに似た口調でそう呟くと、

「俺も最近、

 自分が何だったのか判らなくなってくるときがある。

 頭の中も蜂になってきて居るんだろうな」

と言いながら隆は朽ち堕ちた床の間の柱をよじ登り

その身を休めてみせる。

そして、いつの間に寝てしまったのだろうか、

「あっ」

柱に止まっていた隆が意識を取り戻すと、

ブンブン

ブンブンブン

部屋の中は激しい羽音が支配し、

その羽音に混じって

「あふーん、

 んんっ

 あんっ」

歌乃の艶めかしい声が響いていたのであった。

「あっこの野郎!」

羽音と声に隆は思いっきり怒鳴ると、

ブン!

羽根を大きく羽ばたかせ、

抜け落ちた床から柱の如く立ち上り蠢く影に割り込んで行く。

ブンブンブン

ブンブンブン

たちまち隆の回りを羽音が支配し、

硬い外骨格に次々と周辺の野山から集まってきた雄蜂が噛みついてくるが、

しかし、隆は全ての脚のかぎ爪を振り回して雄蜂を追い払う仕草をすると、

雄蜂達は次々柱から離れ廃屋の中へと散っていく、

「歌乃ぉ」

立ち上っていた柱が雲散霧消した後、

隆は声を上げると、

穴の中には昆虫の腹が突き出ていて、

その先端部にある交接器の回りにはなおも雄蜂の姿があり、

ほんの数センチの雄蜂と60cmは雄にある女王蜂とでは

あまりにも大きさが違い過ぎるが、

でも、一匹の雄蜂がその交接器で生殖行為を行う毎に、

ピクピク

ピクピク

っと長く伸びた腹が揺れ、

「あふんっ」

女王撥はうめき声を上げていたのであった。

程なくして突き上げていた腹が下に下ろされると、

床下を埋める六角形の構造物に押し込み、

プリッ!

プリプリプリ!!

ほんの数ミリの大きさの卵を生み付けていく、

その行為の途中で、

「あっあれ?

 あたし…」

と女王蜂から歌乃の声が聞こえてくると、

ブンッ!

隆は女王蜂の傍に降り、

「歌乃っ

 意識が戻ったか?」

と話しかけた。

「たっ隆?

 あたし…

 また卵を産んでいたの?」

真横に降りた雄蜂となった隆に向かって歌乃は問い尋ねると、

「あぁ…

 一週間以上、

 ずっと歌乃は巣を作り、交尾と産卵をしていたぞ」

と隆は答える。

「そう、一週間以上も…

 あっ

 また身体が小さくなっている」

それを聞かされた女王蜂・歌乃は自分の体の大きさが小さくなっていることに気づくと、

「身体を削りながら産卵と子育てをしているようなモノだからな…

 俺だって歌乃に付き合っていたから、

 身体が小さくなってきたよ」

と隆は言う。

「ごっゴメンね。

 あたし…」

そう言いかけたところで隆は歌乃を抱きかかえると、

ブンッ!

羽ばたきながら歌乃の身体を上へと引き上げる。

そして、仕留めた猪の傍に連れて行くと、

「ごちそうを捕まえてきた。

 コレを食べよう、

 食べないと園からだが小さくなってしまうよ」

と囁きながら、

隆は羽根を切り落とし女王蜂をなった歌乃の交接器に

己の交接器をこすりつけていたのであった。



「あたしたち、もぅ人間には戻れないんだよね」

「うんそうだよ、ただの蜂、

 ただの蜂なんだよ…」



おわり