風祭文庫・蟲の館






「産み付けられた卵」



作・風祭玲


Vol.192





「ねぇ早くぅ〜☆」

パシャパシャパシャ!!

西村晶子は小沢浩志を手招きしながら川原を駆け抜けていく、

「お〜ぃっ、そんなに急いでいると転ぶぞ!!」

浩志は晶子に向かって声を上げると、

「おいてっちゃうよぉ」

っと遙か先で手を振りながら答えた。

「ったくもぅ…」

そう捨て台詞を吐きながら浩志は彼女の後を追っていく。



仕事の都合で浩志が東南アジアにあるこの国の事務所に赴任して、

すでに2年が過ぎていた。

一方、晶子は浩志と結婚の約束はしたものの、

挙式は浩志が日本に戻ってからと二人で決め、

いまこの国にきているのはGWの連休を利用してのことだった。


フンフンフン…

鼻歌を歌いながら晶子は河原を歩いていく、

無論晶子も治安は良くなったとは言えども未だ危険も言える

河原を一人で歩くわけには行かず、

常に浩志の目の届く範囲内を歩いていた。

しかし、ふと芽生えた悪戯心が、

晶子を浩志の目が届かない所へと誘導していった。

「お〜ぃ晶子ぉ!!」

彼女を探し始めた浩志の声が響く中

「うふふ…」

晶子はそっと身を隠すと

ザー…

足下にある吸い込まれそうな深みを眺めていた。

「うわぁぁぁ、深そう…」

そう思いながら見つめていると

『…待っていた…人が来るのを…』

と言う声が水の中から響いてきたと思った途端、

ザバッ!!

深みの中から青い鱗を輝かせながら巨大なサカナが飛び出すと

驚く晶子の上にのし掛かってきた。

「いっいやぁぁ!!」

悲鳴を上げる間もなく晶子はサカナの下敷きになると、

そのまま川へと転落した。

ビチビチビチ!!

巨大なサカナは激しく尾を振りながら晶子の身体を押し上げる。

そして、

ズニュゥゥゥゥゥッ!!

っとサカナから尾鰭のあたりから管が伸びると

見る見る晶子の股間に迫ってきた。

「いっいやぁぁぁ!!」

分け入ろうとする管を晶子は両足をきつく閉じて抵抗したが、

しかし、

グィッ!!

サカナから伸びた管は強引に彼女の秘部をこじ開けると体内に進入してきた。

「クゥゥゥ」

ペニスとは違う異形の挿入による痛みに晶子は歯を食いしばると、

やがて、管は彼女の体内の奥深くにある子宮にまで達する。

ビチビチ!!

するとサカナは尾鰭を痙攣するように振るわせると、

ブリュッ

ブリュブリュ…

と言う小さな音を立てながら管を通して晶子の子宮へ卵を送り込み始めた。

ゆっくりと晶子の下腹部が膨らんでいく、

「あっ…あっ…いやぁぁぁ!!」

それを見た晶子は悲鳴を上げて抵抗したが

サカナに抱きかかえられた形になっているために

差し込まれた管は彼女の身体から離れることなく

どんどんと卵を送り込んでくる。

そのうち、スッと小さな管が数本晶子の身体に差し込まれた。

「へ?」

見ると、遙かに小振りのサカナが数匹

同じように管を晶子の体内に差し込むと放精を始めた。



パンパンに晶子の腹が膨らみきったところで、

サカナたちは次々と差し込んでいた管を引き抜くと去っていった。

そして、最後に晶子に産卵をしていたサカナが管を引き抜くと

『あたし達の子供…よろしくお願いします…』

と言う言葉を残して去っていった。

「…こっ子供?」

薄れていく意識の中で晶子はその言葉を呟いた。



「晶子っ!!」

ようやく彼女の姿を見つけた浩志が駆けつけると、

「うっ」

まるで臨月を迎えた妊婦のように腹部を膨らませた晶子が川面を漂っていた。

バシャッ!!

川に分け入った浩志が彼女を抱き起こすと、

「なっなにがあったんだ」

と晶子の身体を揺すりながら訊ねると、

「ひっ浩志ぃ…あたし…卵…」

と言ったところで意識を失ってしまった。

「あっ晶子っ」

浩志が叫んだとき、

バシャッ!!

川面に背鰭を浮かせながら悠然と泳ぎ去っていく巨大なサカナが目に入った。

「なっなんだ…アレ…」

それを見た浩志は信じられない物を見たような表情でサカナの姿を見つめていた。



「ドクター…晶子の具合はどうなんですか?」

晶子はスグに現地の病院に搬送されると医師の診察を受けた。

診察が終わった医師に浩志がそう訊ねると、

『う〜む…』

困惑したような顔をした後、

『あなたの奥さん…

 あっまだ、彼女ですね』
 
と言い直すと、

『実は彼女の子宮の中に大量の卵が産み付けられていまして』

と浩志に答えた。

「卵?」

『えぇ…

 サンプルを摘出して調べたところ、
 
 どうやら魚類の卵のようですが

 それが大量に子宮の中に収まって居います』

と説明する。

「そっそれで」

グッと浩志が乗り出すと、

『はいっ、今のところ命には別状はないのですが、

 ただ、一刻も早い摘出手術をした方がいいです』

と答えた。

「お願いします、ドクター」

浩志はそう言って頭を下げると、

『判りました…では早急に処置を致しましょう』

医師は彼を見ながら


その話をベッドの上で聞いていた晶子は

「お願い…この卵を取らないで…」

そう思うと無意識に膨らんだお腹に手を置いていた。

そのとき、すでに晶子の身体に異変が始まっていた。

ゴリ…

彼女の背中の両側が微かに盛り上がると、

ビキビキビキ…

ゆっくりとそれは彼女の背中の中を覆うように広がっていく。



「え?、晶子が居なくなった?」

手続きを終えた浩志は看護婦から晶子が病室から姿を消した事を聞かされ、

驚きの声を上げた。

「あいつ、何処に行ったんだ?

 動ける身体ではないはずなのに」

浩志はスグに彼女の後を追って病院を飛び出していった。



「あっ」

降りしきるスコールの中、

ずぶぬれになって橋の欄干から

ジッと川面を見入っている晶子の姿を見つけた。

「晶子っ!!」

浩志はそう叫びながら彼女に近づいていくと、

その声にハッと彼女は反応して顔を上げた。

そして、近づいて来る浩志を見るなり

「来ないで…」

と叫んだ。

「どうしたんだ、

 さっ、病院に帰ろう…
 
 帰ってそのお腹に産み付けられた卵を取り除こう」

浩志は晶子に手をさしのべながら言うと、

「だっ、ダメッ!!」

それを聞いた晶子は膨らみきった腹を押させえると、

「それは止めて…」

と呟いた。

「なっ何でだ…そんなものさっさと取ってしまおう」

そう言いながら一歩、浩志が晶子に迫ると

「ダメなのよ…

 あたし、この卵達を孵さなければならないの
 
 それにもぅ遅いわ…」

と彼女が言った途端、

ベリベリベリ!!

晶子の背中の皮膚を突き破って左右2対の黒く輝く物体が姿を現した。

「なっ!!」

驚きの声を上げる浩志をよそに

メキメキメキ!!

黒い物体はさらに成長し晶子の身体の左右両側から挟むように包み込み始める。

ギシッ

「ごめん、浩志っ、あたし…」

晶子は飛び出した物体に挟み込まれないように

両手でそれを支えていたが、

ビシビシビシ!!

見る見る彼女の両腕は白い貝柱となっていく、

「晶子っ!!

 お前、貝に…」
 
そのとき浩志は彼女を挟み込み始めていたのは貝殻であることに気づいた。

ズズズズズ…

晶子の足が溶けるように一つの肉塊になっていくと、

『あたし…行かなきゃぁ』

その言葉を残して、

晶子の身体は両側から閉じてくる貝殻の中に収まっていった。

「嘘だ!!」

浩志の前に巨大な黒い貝…そうカラス貝となってしまった晶子が居た。

ググググ…

貝殻から長く伸びた足が彼女の身体を欄干の上に押し上げると、

グラッ

まるでスローモーションを見ているように

貝は川の中へと落ちていった。

ドボン!!

降りしきる雨を付いて川の中に物が落ちる音がする。

ゴボゴボゴボ…

巨大なカラス貝にとなって川底に横たわった晶子は

『さぁ…あなた達が孵るまで、あたしが守ってあげる…』

そう言うと貝殻から再び足を伸ばすと、

ズズズズ…

川底の泥の中へと身体を沈ませてまじめた。

そして、身体全体が沈み込むと、

ニョキッ

呼吸のための管を泥の外に突き出すと深呼吸するように大きく川の水を吸い込む、

『あぁ…』

晶子はそうしてサカナより預かった卵が孵る日を楽しみにしながら眠りについた。



おわり