風祭文庫・獣の館






「魔性の者達」
【接触編】



原作・愛に死す(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-006





「ヌゥゥゥ、やっと復活の刻か……」

それはマントを翻しながら、

闇の中でらんらんと金色の光を放つ目で、

自分を出迎えた何百、何千もの眷族達の姿を見渡した。

「我らが獣の性を持つ魔族を統べる王よ、我らを導きたまえ」

「グォォォ、未だ我が力は完全には戻らぬ。女だ、贄が足りん」

眷族達の言葉に、それは地から鳴り響くような無念の唸り声をあげた。

「我は力を貯える為、人間界に降り立つ。お前達は我が帰りを待つがよい」

それの言葉に眷族達は、一斉に頭を垂れた。



「はぁ…ついてないよ…」

中学からの下校途中、ヒロはただぼやき続けていた。

化学の授業中に薬品をひっくり返して先生に大目玉を食うわ、

その後に急に腹痛を覚えると、慌ててトイレに駆け込み同級生に馬鹿にされるわ、

(不文律として男は、大へは行ってはならないのだ)

そして、今またうっかり猫の尻尾を踏みつけ、右手の甲を引っ掻けられたのだ。

ジワ…

彼の右手から薄く血が滲み出ていた。

「くそっ」

腹立ち紛れにヒロは道に転がっていた空缶を思いっきり蹴飛ばした。

カァァァン!!

空缶は軽い音を奏でながら弧を描き大きく飛んでゆく。

しかし…落ちていった先が悪かった。

ゴツンッ!!

「ぎゃぁぁ〜っ」

缶が視界から消えたと思った途端、何かに当たる音共に悲鳴が上がった。

どうやら蹴り上げた空缶が誰かに当たったらしい。

「やべぇ!!」

ヒロはその場から全速力で逃げた。

「許さん!!」

ベキベキベキ!!

飛んできた空缶を握り潰すと、

そして大きな瘤が盛り上がるを頭を撫でながら”それ”は呻いた。

「まずは奴を贄とし、その体を喰らってやるわ!!」

ゴォォォォォ!!

吹き上がる怒りのオーラを全身に漲らせると”それ”は己に誓った。



その夜は、妙に生暖かい風が吹き寝苦しい晩だった。

深夜になってもヒロは寝付けず、

開けた窓から吹き込んでくる夜風を受けながら、

ベッドの上で漫画雑誌を読んでいた。

ポリポリ

口に運ぶポテチの音が部屋に響く、

「ふわぁぁぁ〜」

ようやく微睡んできたので、

そろそろ寝ようとヒロが窓を閉めに立ち上がった時、

「見つけたぞ!」

まるで地獄の底からこみ上げてくるような低く唸るような声と共に、

風で揺れるカーテンに異様なシルエットが浮かび上がった。

「ウォォォ!!」

バリバリバリ!!

それは、カーテンを鋭い爪で引き裂くとヒロの目の前に姿を現す。

ランランと光り輝く目!

鋭そうな爪と牙!!

金毛の毛に覆われた毛皮!!!

ぼってりとした腹!!!!

短い手足、触ると気持ち良さそうな肉球!!!!!

……そう、それはマントを身に付け二本立ちした太った猫か豚のような姿だった。

「はぁ?」

声と姿のあまりにものの落差にヒロは呆気にとられながら”それ”を見つめる。

「我は、何万もの眷族を従える獣達の長、人々を恐怖に陥れるもの……」

しかし”それ”はヒロの表情にお構いなしに口上を述べるが、

「やかましい!!」

ヒロは読んでいた漫画雑誌を”それ”に思いっきり投げつけた。

ドカッ

「フギャッ!!」

見事雑誌の角が”それ”の頭に当たり、

ボテ!!

”それ”は白目を剥きながら部屋の中へと落ちてきた。

「なんだ?コレは?」

しげしげとヒロは落ちてきた”それ”を眺めると、

”それ”は丸々と太った猫のように見えた。

いや、猫にしか見えなかった。

しかし、猫にしては背中に小さな蝙蝠の羽がある。

気が付いたのか

「ノゥォォォ」

”それ”は頭に手を当て、床の上でのたうち回り始める。

「おい」

「なんだニャ?」

ヒロは呆れたようにそれに声を掛けると、

ムックリと起きあがった”それ”は返事をした。

「ブタ猫モドキが何のようだ」

ツンツンと足先でつつきながらヒロが尋ねると、

「この偉大なる魔獣王に向かってなんという口の聞き方ニャ!!」

”それ”はヒロを見据えるとそう言い放ったが、

「だったらどうするんだ」

ヒロはそう答えながらブタ猫の尻尾を握り締めると、

逆さにして自分の目の高さまでに持ち上げた。

「なっ何をするニャ!、止めるニャ!!、力が抜けるニャ!!!」

バタバタと暴れながらブタ猫は声を上げたが

「イ・ヤ・だ!」

ヒロは言い聞かせるように言うと思いっきり壁や床に叩き付けた。

ポォォォン…

ヒロの予想に反してブタ猫はゴム鞠のように弾む、

「ブニャブニャブニャァー!」

ポンポンと弾みながらブタ猫が悲鳴を上げると、

「懲りたか」

勝ち誇ったようにヒロはブタ猫に向かって言った。

「ゆっ許してニャ、許してニャ」

(くっそー、魔力が完全に戻った暁には思い知らせてやるニャ)

涙を流しながら、ブタ猫はヒロに両手を合わせた。

しかし、ヒロの腹は昼間のこともあってまだ納まっていなかった。

「おい、お前の仲間にやられた傷だぞ、どうしてくれる」

ヒロはブタ猫に難癖をつけると

下校途中、野良猫に引っ掻けられた傷を見せた。

しばらく、ヒロの引っ掻き傷を見ていたブタ猫は大きな舌を出した。

「こんなものは舐めておけば治るニャ」

ベロン!!

ブタ猫は、太いざらざらとした舌で、ヒロの手の傷を舐めた。

「何しやがる!」

ヒロの左アッパーが、ブタ猫の顎に炸裂した。

「ブニャッハ」

天井に激突し、墜落してきたブタ猫に、ヒロは膝蹴りを喰らわせた。

「ハラヒレホレ」

ブタ猫は、訳の分からない事を言いながら、ぶくぶくと泡を吹いた。

しかし、すぐ正気に戻った。

たいした耐久力である。

「ひどいニャ」

「何がひどいんだ」

ビローン

ヒロはブタ猫の口を、左右に引っ張った。

「傷を、モガモガモガ、ちゃんと見るニャ」

ヒロが右手を見ると、傷は跡形もなかった。

「へぇぇぇ〜」

それを見ながらヒロは感嘆の声を上げる。

「礼をして欲しいニャ」

「うっ」

己の行動に多少の非がある事を内心認めていたヒロはブタ猫の言葉に戸惑った。

「喉の辺りを擦って欲しいニャ」

「こうか」

そんな事かと思いつつ、ヒロはブタ猫の喉を擦った。

「ゴロゴロゴロ、気持ちいいニャァ」

ブタ猫は、気持ちよさそうに喉を鳴らし目を細めた。

余りに気持ちよかったのか力を抜いたブタ猫が、

ヒロの手にしなだれかかったために、

「重…」

ズシッと重さを感じたヒロは撫でるのを止めた。

「もう終わりかニャ。もっとして欲しいニャ」

とブタ猫はヒロにねだると、

「手が疲れた」

ヒロはブタ猫にそう答えた。

「そうか、残念ニャ」

ふっと視線を逸らしたブタ猫は心底残念そうな態度をとる。

そして、

「お主…なかなか手慣れてるニャ、危うく行ってしまう所だったニャ、

 ふぅっ…人間にしてはなかなかやるニャ」

とブタ猫がヒロに言うと

「いくってどこに?」

ヒロはブタ猫のセリフにあった”行く”と言う言葉が気にかかっていた。

それを聞いたブタ猫は

「天国にニャ」

と上を見ながら言う、

「お前さっき”獣魔王”って言わなかったか?

 それがなぁんで天国に行くんだ?」

首を傾げながらヒロが尋ねると

「うるさいニャ、それにしてもお前、気に入ったニャ」

ブタ猫は目を潤ませながらヒロに言う。

「あの撫でかた、

 触りよう、
 
 お主っただ者ではないニャ、お主をわしの召し使いにしたいニャ」

と言った途端、ヒロは問答無用にブタ猫の尻尾を掴まえた。

「ニャァ、力が抜けるニャ」

じたばたするブタ猫を、ヒロは再び床に叩き付けた。

「誰が召し使いだ、お前が俺のペットの間違えじゃないのか」

「その通りニャ、許してニャ」

それを聞いたヒロは尻尾から手を離す、

ブタ猫は、急いでヒロから逃げると右手を振り上げた。

「油断大敵ニャ、もう許さないニャ」

ブタ猫の全身の毛が大きく逆立った。

「いくニャァ!!、

 我のこの手が光って唸る!
 
 お前を呪えと轟き叫ぶっ!!
 
 切り裂け!必殺ダークネスクロー!!!」

ブタ猫がそう叫びながら己の短い腕に力を込めると、

その爪が暗黒の光を放ちはじめる。

「え?」

ヒロの目に心なしかブタ猫の姿が大きく見えた。

「トゥ!!」

ブタ猫はヒロに向かって大きく飛び上がると、

思いっきり腕を振り落とした。

グシャァ!!

骨が砕けるような鈍い音が部屋中に鳴り響いた。

そう、ヒロのカウンターがブタ猫の顔に見事めり込んでいた。

残念ながらブタ猫の攻撃はヒロのズボンの股を切り裂くにとどまていた。

「くそっ、これ気に入ってたのにどうしてくれんだよ」

ボテっ

鼻血を吹き上げながら床に落ちたブタ猫を

ヒロは怒りをぶつけるようにゲシゲシと足蹴にする。

「本当に参ったニャ、好きなようにするニャ」

ブタ猫は頭を庇いながらヒィヒィと許しを請うと、

「よしっ、ペット決定!!」

ヒロはそう言うと、

「いいニャ」

(プライドの欠片も感じられない。本当にそれでいいのか?

 眷族達が地の底で、血の涙を流しているぞ)

ブタ猫はそう言いきった。

「それにしてもブタ猫じゃ言いにくいな、お前、名前がないのか?」

ヒロがブタ猫に尋ねると、

「昔、人は畏れを込めて魔獣王と呼んでいたニャ」

と答えると、

「却下」

即座にヒロは裁定を下した。

「そんニャァ」

うるうるうる、

ブタ猫は滝のような涙を流しだしたが、

ヒロは、そんな事は放って置いて

しばらく考えると、いくつかの名前を挙げた。

「よし、ブーリンはどうだ」

「嫌ニャ」

「なら、ブーニャン」

「もっと嫌ニャ、別に鏡を見ても割れたりしないニャ」

ブタ猫は、心底嫌そうな顔をした。

「贅沢な奴め…

 なら、俺が飼っていた猫が、タマだったからお前もタマにしよう」

「センスないニャ」

「そんな事を言のはこの口か」

ヒロは、ブタ猫改めタマの口を引っ張った。

「タマでいいニャ、タマで」

「よし」

ヒロは、押し入れをごそごそと捜した。

「あった」

ヒロは、昔飼っていた猫がしていた鈴の付いた首輪を取り出した。

「よし、タマここに来い」

「何ニャ、犬なんかじゃないニャ」

しぶしぶタマは、ヒロに近寄った。

「うりゃ」

ヒロは、タマに首輪をはめようとしたが、タマの首が太くてなかなか締まらない。

「苦しいニャ、苦しいニャ、

 この人殺し、じゃなくて、猫殺し(正確には悪魔殺しである)」

「あともう少しだ」

ヒロは、全身の力を込めてギュウギュウと締め上げると、

どうにか首輪を填める事に成功した。

「どうだ」

「悪くないニャ」

タマは鏡で自分の姿を見ながら、

まんざらでもなさそうにチリンチリンと鈴を鳴らした。

「さて、風呂でも入ってくるか、おい、タマお前も洗ってやるぞ」

「えっ遠慮しておくニャ」

タマはヒロにそう言うが、

「いや、お前はダニが多そうだからな…」

「失礼な、そんな事はないニャ、痛いニャ、引っ張らニャいで」

ヒロは、タマの耳筋を掴んむとずるずると廊下を引きずって行った。

「あれっ」

ヒロは自分の体を洗っているとき、

睾丸の下、股の間に引っ掻かれたような赤い傷を見つけた。

「さっきの引っかかれた傷だなぁ

 後で、薬でも塗っておくか」

ヒロは呟くと、

次にバタバタと暴れるタマに無理矢理シャンプーをかけ、

ゴシゴシと念入りに洗った。

最後に湯で泡を流す。

「ぜー、ぜー、死ぬかと思ったニャァ」

「猫は綺麗好きなはずだろ」

「それとこれとは別問題ニャ」

風呂から上がると、ヒロは冷蔵庫から牛乳ビンを二本取り出すと、

一本をタマに向けて放り投げた。

「ニャんと!!」

無事、タマが牛乳ビンをキャッチしたのを確認すると、

ヒロは腰に手を当てて牛乳をラッパ飲みした。

んぐっーんぐっーんぐっ

「ぷはーっ、うまい」

「まさにこの一杯の為に生きてるニャァ」

(親父臭い奴等である)

タマもヒロに習ってか腰に手を当て牛乳を一気に飲み干すと、

ドン

と机にビンを置いた。

「早いな」

「お前もな」

ヒロとタマは、顔を見合わせてニヤリと笑った。

「さーて、薬を塗っとくか」

股の傷自体は痛まなかったが、ヒロは念のため薬を傷に擦りつけた。

「うっ」

その瞬間、ヒロは感じた事のない衝撃を受けた。

痛いというよりはむず痒いような感じだが、それとも少し違う。

ヒロは、もう一度その傷に触ったが今度は何も感じなかった。

「??気のせいか」

その後、股の傷はなかなか治らなかったが、ヒロは気にもとめなかった。

こうして、ヒロとタマの奇妙な生活が始まった。

ヒロの両親は、家を留守にする事が多く寂しく思っていたヒロは、

ペット?を得た事を実は無邪気に喜んでいた。

しかし、タマは二本足で歩く、喋るといった事ができる以外は、

普通の猫よりさらに怠け者で、

食っちゃ寝、食っちゃ寝ばかりしていた。

しかも、食べる量が半端じゃない。

「お前、よく食うよな」

「エネルギーが足りニャァの」

「何に使うんだか、あんまり食べると豚になるぞ。もうなってるけどな」

「失礼ニャ、まぁそのうち教えるニャ」

「あっそ」

タマの胃袋のどこに、あれだけの量の食物が消えていくのか不思議に思いつつ、

ヒロは日々の生活を過ごしていた。

タマとの生活がはじまって、一週間ほどしたある日、

ズボンがあの傷に擦れるたびに、奇妙な快感を覚える事にヒロは気づいた。

体育の時間、器械運動をしていて短パンが傷にこすれ、

ついうっとりと上気した顔をしていたので

友人が気味悪がって後退りする事もあった。

それを見たヒロはさすがに家に帰ると、

すぐズボンとトランクスを脱ぎ捨ると股の傷を確認した。

傷はやや深くなっていたが、痛みは感じなかった。

ヒロはこれで血が出ないのかと思いながら、思い切って傷に指を入れた。

傷は、人差し指の第一関節位までを飲み込んだ。

「ううっ」

指が入るとジンとヒロの下半身が一瞬痺れた。

恐る恐る指を引き抜くと、指には血ではなく透明な粘液がついていた。

「なんだろう」

「何してるニャ」

その時、散歩から帰ってきたタマが、窓を開けて入ってきた。

ヒロは一瞬ドキリとしながら、急いでトランクスを身につけた。

「人は不便だニャ、どうしていちいち服を着るのかニャ?」

「お前らと違って人は毛皮を持ってないからな」

「その必要がないようにしてやるニャ」

「はぁ?」

「そこに立つニャ」

ヒロを立たせると、その周りでタマは盆踊りの様な事を始めた。

三周踊り回った所でタマは大きく息を吸うと、

呪文を言いながら細長い炎を吐き出した。

「ザワノニ、イダルス、ニメスム、コネヲエ、マオ!!」

「うわっ!!」

ヒロはビックリして両手で顔を覆った。

炎はヒロの服とパンツを嘗めるように焼いていったが、熱さを感じなかった。

ヒロが着ていた衣服を焼き終わると、炎は突如として消え去った。

「どうニャ」

「どうって、俺を裸にしただけだろう、このブタ猫!!」

ヒロの蹴りが、タマに炸裂する。

「ゲブッ」

「やれやれ」

ヒロは、替えの服を取り出した。

「タマ、お前傷を治す事ができたよな」

「簡単な事ニャ」

「ここの傷を治してくれよ」

ヒロはシャツを着ながら、股の傷を指した。

「男のそんなモノの近くは嫌だニャァ」

タマは露骨に顔をしかめる。

「つべこべ言うな」

「仕方ないニャ」

ヒロは、大きく足を開いた。

タマは四つん這いになると、ざらざらとした舌でヒロの傷を舐めはじめた。

「うわっ」

タマの舌が傷を這うたびにヒロの体は小刻みに震えた。下半身が熱く火照る。

「変だニャ、なかなか治らないニャ」

「もういい」

「そうかニャ」

ヒロは上気した顔を隠しながら、衣服を身につけた。

(あの感じは何だったのだろう?)

全身の力を使ったような疲れを感じてその日、ヒロは早く眠ろうとした。

しかし。その夜は下半身が火照って眠りに就いたのは明け方の事だった。

その日から、ヒロは毎晩ベッドの中でその傷を弄り始めた。

その傷に触るたび、今まで感じた事のない奇妙な快感を感じたためだ。

ペニスをしごくよりも、強い快感だった。

そのためか、傷はいっそう深くなりまるで穴のようになっていった。

そして、

一ヶ月も経つと傷は小指ならすっぽり入ってしまうような深さに達していた。

また傷の穴が深くなればなるほど、快感も強くなっていくようだった。

と同時にヒロは胸がむず痒く感じる様になった。

服が胸をこする時、特にそれを感じるようだった。

外傷は何もなかったが、なんだか張っているようで、強く押すとやや痛みを感じた。

それに胸毛がうっすらと生えてきた。

「最近、どうも胸毛が生えてきたなぁ」

「その割に身体は筋肉質じゃないニャ」

「……まぁな」

ヒロは、やや小柄な身体をしていたので、肉体美というもに憧れていたのだ。

「胸板もないニャ」

「胸か、そういえば最近薄っすらと盛り上がってきたんだよな」

「それはいいことニャ」

「でも、それって筋肉って感じじゃないんだよな。手で触ると柔らかいし」

「見せてにゃ」

「……いいけどさ」

ヒロは、服のボタンを外し胸元をはだいた。

胸は僅かにヒロの盛り上がり、白い毛が薄っすらと生えていた。

「胸毛にも、若白髪ってあるのか?」

「わからないニャ、それよりこれは少し腫れているニャァ、治してやるニャ」

タマは、ヒロの僅かに膨らんだ胸を舐め回した。

「おい、くすぐったいよ」

ヒロは、ビクリと身体を震わせた。

「じゃっ、こっちはどうかニャ」

小さな乳首を舌で突つき、軽く噛む。

「うひゃっ!」

ヒロの背中に、ゾクッとした感じが走った。

「なかなか美味しいニャ」

「なにしやがる!」

ヒロはそう叫ぶとタマを突き飛ばした。

それまでは奇妙な感覚が身体を這いずり回っていても我慢していたのだが、

乳首を噛まれた瞬間、頭に閃光が走り怖くなったのだ。

それほとど、強い快感だった。

「痛いニャ」

タマはゴミ箱に頭を突っ込むと抜け出ようと

短い手足をじたばたと振りもがいていた。

「ふん」

ヒロは、ボタンを填めた。

ちらりとみた胸は先ほどよりも膨らみ、

また乳輪が広がって、乳首も大きくなったような気がした。

「ハァハァ、ウッウウ」

その夜から、ヒロは股の傷を弄びながら、僅かに膨らんだ胸を揉む事を覚えた。

股の傷からは透明な粘液が流れ、乳首がピンと立ち上がる。

ペニスをしごく事は最近余りしなくなった。

快感は明らかに、股の傷の方が強かった。

「アアッ!」

ヒロが絶頂を迎えた時にあげた声、それはまるで女のようだった。

しかし、ヒロにその自覚はなかった。

夜、ヒロは快楽を貪るだけの獣と化していた。

少年の胸は、揉めば揉むほどますます膨らみ、快楽の度合いも強めていった。

反対にペニスはしな垂れ小さくなり、

睾丸も中の玉がなくなったようにペシャンとつぶれた。

たまにペニスをしごいても、快感は感じるがなかなか大きくならなくなった。

それでも、ヒロのペニスは毎朝その存在を主張するかのように、

健気に朝立ちをしていた。

ヒロは学校で居眠りをする事が多くなっていた。

ヒロは、それはあの夜の遊びのせいだと思っていた。

あの遊びは、確かに強い快感は感じるが、その後に強い疲れが残るのだ。

しかし、止められなかった。明け方まで、弄んでいる事もあった。

そんな時、

ヒロは自分の姿を窓の外でじっと見詰めているタマの視線に気づく事があった。

はじめは散歩の帰りでぼーっとしているのかと思ったが、

それにしては視線が鋭かった。

余りの鋭さに、恐怖を感じる事すらあった。

しかし、快楽に頭を支配されていて、ヒロはそれ以上考えはしなかった。

いや、傷を治せといってタマに、股の傷を舐めてもらいもした。

ざらざらとした舌で傷を舐め回されると、指で触るよりも強い快感を感じた。

身体のあちこちをタマに舐められるに従い、

ヒロの身体は筋肉の持つ硬さを失い、柔らかくなっていった。

もはや彼の身体でタマに舐められていない場所はないといってもよかった。



「おーい、ヒロお起きろよ」

「ふぁーい」

涎を垂らしながらヒロは、

男友達の中で親友と言ってもよいイクミの声で目を覚ました。

「お前、最近よく寝るよなぁ、やりすぎじゃないのか」

「うーん」

ヒロは、軽く伸びをした。その仕種が、色っぽい。

「お前、可愛いよなぁ」

「はぁ!?」

イクミの言葉に、ヒロは、軽く小首を傾げた。

男にしては、細くか弱そうな首である。

「お前が寝てる時、つい唇を奪っちまったぜ」

「まじか、お前、ホモかよ」

さすがにヒロは唇を手で拭い、あとずさった。

「女装したら似合いそうだよな」

そう言うイクミの声に

「馬鹿言うなよ」

ヒロは、頬を膨らませた。

「胸も膨らませてさ」

そう言うとイクミはいきなり、ヒロの胸を両手で押さえた。

(えっ柔らかい!?)

「いたたたた」

「すまん、そんなに強くやったつもりはなかったんだ」

ヒロの胸の柔らかさに驚きつつ、イクミは手を離した。

「唇を奪ったってのは冗談だよ、帰りに喫茶店でも寄ってくか、おごるからよ」

「ラッキー」

「現金な奴め」

喫茶店に着くとヒロは、パフェをイクミはコーヒーを頼んだ。

「よくそんな甘い物が入るよな」

「最近、味覚が変わったのかな、甘い物が無性に食べたくなるんだ」

「おい、頬にクリームがついてるぜ」

「えっ、どこ」

「ほらっ」

イクミは、ヒロの頬についていたクリームを、自分の口でペロッと食べた。

それははたから見ると、まるでキスをしているかのようだった。

ヒロもイクミも、恥ずかしさで頬を紅くした。

「…出ようか」

「うん」

店の注目を集めてしまった二人は、そそくさと喫茶店から抜け出した。

その夜ヒロが見た夢は、

強い肉体を持つ何かに、弱い自分が抱きかかえられているというものだった。

そして、それが奇妙に安心できた。

両親といるよりも、その存在と一緒に暮らせる事が幸せに思えた。

しかし、

それが、親友のイクミなのかそれとも別の者なのかヒロには結局わからなかった。

けど、男に抱きかかえられている自分の姿を思い出すと、ヒロは赤面した。

トランクスは、股の傷から出た液体で濡れていた。

ヒロは恥ずかしく思いながら、学校に向かった。

途中、ヒロは誰かに見られているように感じた。

ハッ

ヒロがそちらを向くと人の影はなかった。

ただ、そこには必ず猫が居た。

まるで監視されている気分だった。

(気のせいだよな)

薄気味が悪くなったヒロは振り返らず学校へ走った。

ゼェゼェ…

必死の思いで学校に辿り着くとヒロは肩で息をしていた。

今までそんな事はなかった。

最近、体力が落ちているようだった。

腕力も落ち、いつもより重い物が持てなくなっていた。

その代わり、親友のイクミが、それをフォローしてくれた。

「お前の身体から、甘い果物のような芳香がするんだよ、

 その匂いを嗅ぐと、何故か助けてやらなくちゃいけないという気になるんだ」

そう言いながらイクミは、照れて笑いをする。

「ありがとう」

ヒロはか弱い声で礼を言った。

以前、こんな事をされれば、男のプライドが傷ついたが、

しかし、今はそんな感情が生まれなかった。もしろ嬉しいと思っていた。

ムズムズ…

その頃からヒロの背中と尻の間が無性に痒くなり始めていた。

また、脈絡もなく腹が痛む事がしばしあった。

しかし、ヒロがトイレの大に行っても、誰も何も言わなくなっていた。

それどころか、男達は皆ヒロの傍に寄りたがった。

それは、まるで蜜に群がる蟻に似ていた。

ヒロの身体から発せられる匂いに、男達は恍惚となっていた。



つづく


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