風祭文庫・獣の館






「滅私奉公」



原作・真道(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-154





サワ…

咲き誇っていた校庭の桜が散り、

初夏の風が吹き始めた4月下旬、

高校2年になったばかりの私・北村加奈子と、

クラスは違うけど、同じ部活の三田島早苗は

ボケっとしながら部室の窓から校庭を眺めていた。

部室というからには当然、私は部活に所属しているのだが、

その部の名前は”飼育部”。

農業高校の畜産科に通っている都合上、

問題はないと思って入ったのだが、

しかし、飼っている動物は用務員のおじさんが連れてきた犬1匹に

校長が拾ってきた野良猫2匹。

そして、卵も産まない雄鶏1羽のみの実質上休眠状態の部活であった。

「はぁ…暇ねぇ…」

「うん…」

熾烈を極めた1年生の勧誘は先日終わったのだが、

残念ながらと言うか

案の定、我が飼育部には一人も新入生は入ってこなかった。

ニャーッ…

文字通りすることがない私たちを小馬鹿にするように黒ネコが鳴くが、

しかし、そんなことに構わずに私と早苗はボケっと外を眺めていると、

カチャッ!

部室のドアが開き、

がっくりと肩を落としながら

部長の飯島隆(3年生)が部室に入ってきた。

「あっ生徒会どうでした?」

飯島部長は今年度の部費を決める会議に出席をしていたのだが、

しかし、この表情からすると相当厳しい査定が降りたに違いない。

そう思いながら私は声を掛けると、

「はぁ〜〜っ」

飯島部長は思いっきりため息をつきながら椅子に座り込み、

「ゼロ査定だったよ」

とつぶやいた。

「へ?」

部長のその言葉に私は目が点になると、

「ちょっと部長、

 それってどういうことですか!」

あたしと早苗からは距離を置いていた木島美代子が声を上げる。

「…どういうことかって、

 要するに、今年度はゼロ!!

 予算はまったく無し。

 ということだ!」

その声に飯島部長は吐き捨てるようにして言うと、

「えぇ?

 じゃぁ…

 P助や、ホワイトにブラック

 それにジャアクの餌代はどうするんですか?」

私はすかさず飼っている犬や猫、そして鶏の餌代に付いて尋ねた。

「それは…

 まぁ、用務員のおじさんや、

 校長に縋るしかないな…

 元々連れてきたのはあの方達なんだし…」

あたしの質問に飯島部長はこう答え、

そして、

「それよりもだ、

 この部室の維持管理費をどうやって捻出するかだ、

 廃部は免れたといっても、

 維持費が出せないとなると…

 ここからもたたき出されるぞ」

と指摘する。

「それは…

 顧問の豊島先生に…」

「定年間近のじぃちゃんに出させるのか」

「うーん」

「それなら、あたし達でアルバイトする?」

「でも、いいバイト先なんてないよ…」

部長が起こした話の矛先がアルバイトのことに向かったとき、

カサッ

おもむろに部長がポケットからある紙を取り出し、

「これ、やってみるか?」

と言いながら私たちに見せた。

「え?」

それは求人雑誌の切抜きで、

『日給×××××円!!

 楽して気持ちよく稼げます!

 なたも牧場で週末の2日間、

 仕事してみませんか?』

ととある牧場の求人情報が書いてあった。

「日給×××××円ッ!?

 うっそぉ!!

 ありえなーい!!

 何?

 そんな仕事あるの!?」

切抜きをあたしからひったくった早苗は

それを見ながら声を上げると、

「どれ?」

美代子が覗き込み切抜きを読んだ。

そして、その切抜きが私に戻されると

私はその切抜きを隅々まで読み返した。

「なになに…

 ふんふん。

 楽して気持ちよく…ねぇ。」

いまいち怪しい雰囲気を醸し出していたが、

私は何故かその記事が目に付いて離れなかった。

「なんか如何わしいケド…

 好き嫌い言っている場合じゃないか

 行ってみます?

 ここに?」

切抜きから目を離して私がみんなに提案をすると

「あっもしもし」

私よりも早くケータイに向かって美代子が話し始めていた。

「はっ早い…」

彼女のその姿に私はあっけにとられていると、

「あっそーですか

 女の子を募集しているのですね。

 はいっ

 では、今度の土曜日に3人でうかがいます」

美代子はそういってケータイをきると、

「おっけーよっ

 女子3人、採用だって」

と成果を告げた。

すると、

「よーしっ

 お前達っ

 この土日、しっかり行って稼いで来いっ

 この飼育部の未来は君たちの肩に掛かっている!!

 ぐわんばってきたまえ!!」

と飯島部長は一人で盛り上がっていた。

そして、そのアルバイトの当日がやってきた。



「んーと、ここ?」

「小松川牧場…

 うん、ここだわ」

「へぇぇ…」

土曜日の朝早く、

私と早苗、そして美代子は「小松川牧場」の正門前で落ち合い。

中へと入っていくと、

「ではこちらでお待ちください」

牧場の女性スタッフに導かれて、

私達は牧場の待合室のような場所に通されると

すでに私と同じくらいの歳の女の子が10人近く、

お互いに会話しながら時間が来るのを待っていた。

「はぁ…

 意外と居るね…」

「うわっ、

 なによなによなによ

 10人以上で掛かるアルバイトなの?」

予想外に多いアルバイトの女の子の数にあたし達は驚いていると、

「とっとにかく座ろう」

早苗が開いている席を指差し声を掛ける。

「あっうん」

早苗の言葉にあたし達が開いている席に座ると、

「どうぞ…」

牧場の作業服に身を包んだ別の女性スタッフが

ニコニコ顔で私に湯気が立つ紙コップを手渡した。

「え?」

紙コップにあたしが驚くと、

「絞りたての人…じゃなかった牛乳です。

 アルバイトと言えどもここの味は知ってもらいたいので」

と女性は説明し、

早苗や美代子にも紙コップを手渡した。

「ふーん、

 搾りたての牛乳か…

 TVなんかで美味しいっていうよね」

渡された紙コップを片手に私は早苗に話しかけると、

「うんっ、

 ちょっと不思議な味だけど、

 でも美味しいよこれ」

と言いながら早苗と美代子は牛乳を飲み干していた。

「あっ

 もぅ…」

一足先に牛乳を飲んでしまった彼女達に私はむくれながら口をつけると、

「あっ

 確かに…

 売っている牛乳とはちょっと違う、

 甘くて…

 濃くて…

 へぇ…

 搾りたての牛乳ってこういう味なんだ…」

のどを通る味にあたしは驚きながらあっという間に飲み干してしまった。

すると、

「お替りはいかがですか?」

とさっきの女性があたし達に尋ねると、

「え?

 いいんですか?

 じゃぁもぅ一杯いただけますか?」

テレながらあたしは返事をしながら、

新しい紙コップを受けとった。

こうして、2杯、3杯とあたしたちは牛乳を飲み、

そして、気づいたときには10杯近くも牛乳を飲んでしまっていた。

「ふぅ…

 なんかお腹がはちきれそう…」

大きく膨らんだお腹をさすりながら私はそういうと、

「………」

「………」

隣に座る早苗と美代子は何も答えずにジッと床を見つめている。

「ん?

 どうしたのよっ

 深刻な顔をしちゃって…

 あっまさか飲みすぎてお腹を壊したとか、

 あんっ

 だったら、トイレに行きなよ」

そんな二人に向かってあたしは早苗の肩を軽く叩く、

すると、

「かっ加奈子!!!」

早苗が私を見つめながら私の名前を呼んだとき、

「いやぁぁぁぁぁ!!」

突如部屋の中に悲鳴が響き渡った。

「はぁ?」

その悲鳴にあたしはその方を向くと、

「い、イヤァァァァっ!!

 なっなにこれぇぇ!!」

ゴゴキッ

メキメキ!!

壁際に座っていた女の子の腕が見る見る変形していくと、

ベリッ!!

掲げた手のひらを吹き飛ばし、

先が黒光りする蹄のようなものが突き出した。

すると、

「なんなの…

 何なのよ…

 これ…いやぁぁぁ…」

それを見ていたもう一人の女の子が突然泣き出すと、

メキメキメキッ!!

ゴキゴキボキィッ!!

「う、う、うごぉぉぉッ

 ブォホォォォ!!」

その女の子の頭は急激にその形を変え、

まるで、よく牧場で見かける「アノ」動物のようになっていく。

「え?

 なになに?

 なにが起きたの?」

突然起きた出来事に私はただ驚いていると、

「いやぁぁぁ!!」

グボォォォォ!!

「やめてぇぇぇ!!」

ボグッ!!

ベキベキベキ!!

「ぐわぁぁぁ!!!」

バリバリバリ!!

部屋に詰めていた女の子達の体に次々と異変が起り、

みんなある動物の姿になってゆく、

そして、

「いやぁぁぁぁぁ!!!」

隣の早苗が悲鳴を上げると、

うぐぁぁぁぁぁ!!!

その悲鳴を獣のような声に変えながら、

バキバキバキ!!

早苗は体を大きくしてゆくと、

白地に黒斑の獣毛を噴出していく。

「さっ早苗!!!」

服を破り変身していく早苗の姿を見て、

わたしは彼女の名前を呼ぶが、

しかし、早苗はしゃべる事ができない体に

変身してしまった後だった。

「そんな…

 早苗が…

 なんで、
 
 まるで牛じゃない…いや…いやぁ!」

牛に変身してしまった早苗や

追って変身し始めた美代子の姿を見て

私は悲鳴を上げていると、

メキッ!!

ゴリッ!!

あたしの身体にも、ついに変化が起きた。

まず胸が大きく成長しながら下腹部に向かってずれていくと、

バリバリッ

黒い蹄があたしの両手足の指を突き破って現れ、

また、身体は着ていた服を引き裂きながら

牛の形へ巨大化してゆくと、

カツン!!

私は蹄が伸びた手を床につけ、

4つ足の生き物へと肉体を変化させた。

そして、

ブワッ!!

白地に黒斑の獣毛を吹き上げていくと、

頭が早苗や美代子のようにゴキゴキと音を立てながら

牛の頭部へとその形を変えてゆく。

「ぐほぉッ…

 ぐホォォ…

 ぶほぉぉぉぉ…」

(いや…いや…

 その鳴き声は…

 その鳴き声は上げたくない…)

喉の置くからこみ上げてくるものを私は必死でこらえるが、

しかし、そんな私の意思とは裏腹に、

長く突き出た口が、発達して垂れ下がる舌が、

溢れ出る涎を撒き散らしながら鳴き声を上げるように促す。

その間にも周りの女の子達は、

次から次へと牛に変わって行き、

「ンモォォォォォォ!!」

「ウモォォォォォォ!!」

と歓喜とも嗚咽ともつかない様な鳴き声を上げていった。

しかし、その中でも、

「ぶほぉぉぉ…

 ぶほぉぉぉ…

 ンウォォォォ…」

(鳴き声をあげちゃったら…

 私も……駄目…

 だめぇぇぇぇ…)

私は一人、抵抗をし続けるが、

でも、ついに誘惑に負けてしまうと、

「ンモォォォォォォォォォォォォォッ!!」

(いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!)

悲鳴を上げながら牛の鳴き声を高らかに響かせた。

そして、私が泣き声を上げたあと、

待合室に居るのは立派に乳が張った乳牛が10数頭

カツン

カツン

と蹄を響かせていたのであった。



すると、このタイミングを見計らうように

カチャッ

とドアを開き、

手に箱を持った男が二人、部屋に入ってきた。

そして、

『いやいや、みなさん。

 ずいぶん美人になったもんですね』

と、小柄な男が茶化すように言うと、

それを遮って初老の男性が一歩前に出て、

『えー、みなさんに何の説明も無く進めてしまって申し訳ない。

 実は皆さんにやって頂くバイトとは、

 今日の乳搾り体験の乳牛役なのです』

と牛になったあたし達に告げた。

(ち、乳搾りの乳牛!?

 …そんな!)

「ウモォォォ!!

 ウモォォォ!!」

その声を聞いた私はもちろん、

同じように乳牛になった早苗や美代子、

そして、ほかの女の子も次々と啼きはじめる。

しかし、

『みなさんがお怒りになるのは最もです。

 しかし、立ってるだけで構いません。

 よろしくお願いします。』

初老の男性は頭を下げると、小柄な男に向かって、

『ほれ、早く牛達を牛舎に連れて行かないか!』

と指示をすると、

私達達は鼻輪とカウベルをその男から付けさせられ

そのまま奥にある牛舎に連れて行かれてしまった。



こうして、牛舎に連れて行かれた私達は、

牛一頭ずつが並んで入れるスペースへと連れて行かれ、

中へと押し込められて行く、

しかし、

バシッ!

『ほれ、モタモタすんでねぇ!』

その前でまごついた私は小男から思いっきりお尻を打たれると、

「モォォォー!」

と一声啼き声を上げ自分のスペースに納まった。

こうして私達全員がそれぞれのスペースに並び終わると、

小男はその前に立ち

『あなた達にはこれから朝食を取ってもらって、

 適度な運動をしてもらったあと、

 9時からの小学校の生徒さん達による

 乳搾りの乳牛の役をやっていただきます』

小男のその台詞を聞いたとたん

「モォォォーー!

 (いやぁぁ!)」

「ンモォォ…

 モォォォッ!!

 (やだ…返してよぉ!)」

また回りの女の子…

いえ、女の子だった乳牛たちが一斉に啼き始める。

しかし、小男は啼いている乳牛のなかの一頭の傍に寄るなり、

そのお尻を力強く引っぱたくと、

「モォォォォォォッ!!

 (痛い!痛いよー!!)」

乳牛は悲鳴をあげ、

その乳牛を背景にして、

『…いいですか。

 あなた方はこの仕事をしている間、

 そう、その姿になっている間は、

 1頭の「家畜」なんですよ。

 ですからあなた達の事はこれから、

 他の牛達と同じように扱います。

 まあ、そんなに怖がる事もありませんよ。

 牛っていうのは、案外順応性の高い動物でしてねぇ…』

と言いながら腰を下ろすと、

牛の下腹部に下がっているボールのような乳房に手を伸ばし、

その乳房から下がる乳首の一つを握ると、

シャッ!!

っと乳を搾って見せた。

すると、

「もっもぅ…」

小男の行為が気持ちいいのか、

さっきまで悲鳴を上げていた乳牛は黙ってしまうと、

体の動きを止める。

「ねっ

 見てのとおりっ

 さっ貴方達も後で同じようなことをしてあげます、

 ただし、その前に乳の出が良くなるように、

 牧草を食べてもらいます。

 いいですか、

 いまの貴方達には人間の食事は一切できません。

 体は完全に牛になってしまっているのです。

 お腹の中の胃は4つもあるのですから、

 そのことを十分に実感しながら食事をしてください』

と小男は私達に言うと、

バサッ

バサッ

私達の目の前に次々と草を放り込み始めた。

「(うっ

  これを食べるの?)」

目の前にこんもりと盛られた草を見て私は目を伏せると、

モシャ

モシャ

モシャ

隣の柵に入れられた早苗は草を食べ始める。

「(早苗…

  まさか、心まで牛になっちゃったの?)」

草を食む早苗の姿に私は絶望を感じながら、

鼻を草へと近づけていく、

すると、

「(あっ

  良い匂い…)」

人間の女の子だったときには感じることのなかった草の匂いが、

そのときはすごく香ばしく感じられ、

そして、気が付いたときには

モシャモシャ…

あたしも早苗同様、草を食んでいた。

そして、それからしばらくして、

グゥッ!!

飲み込んだはずの草がいきなり口に戻ると、

グエッ!!

あたしは思わず草を吐き出してしまった。

「うぇっ

 なっなにこれぇ?」

吐き出してしまった草を見ながら私は戸惑っていると、

ゴフッ

モシャモシャ

ほかの牛達も同じように口に戻すのだが、

しかし、みんな何食わぬ顔をしながら

戻った草を噛むと再び飲み込む、

「(あっそうか…

  反芻って言うんだっけ…)」

それを見た私はこれが反芻って言うことに気が付くと、

ゴフッ!!

口に戻ってきた残りの草を食み、

また、胃に送り込む。

そして、放牧場での運動の後、

ワーワー

キャーキャー

畜舎の向こうから子供達の声が響き渡ると、

「わー牛だ!!」

「くっせー」

と言いながら幼稚園児が次々と畜舎の中に入ってくる。

「(そっか、

  子供達がもぅ来たんだ…)」

朝、あの小男達がいっていた幼稚園児の登場に私は驚いていると、

「はーぃ、

 よく来ましたね」

あの小男が愛想よく登場する。

すると、

「はいっみんな

 ご挨拶は?」

幼稚園児を連れてきた保母が声を上げると、

「こんにちわ」

小男に向かって一斉に挨拶をした。

そして、

「はーぃ、

 みんな、毎朝牛乳を飲んでいますか?」

「はーぃ」

「その牛乳を造る牛と見た人は居ますか?」

「うーん」

という按配で話が進み、

「では、その牛乳を造っているこの牛さん達から

 牛乳を搾ってみましょう。

 牛さんたちも君達が来るのを楽しみに待っていたんですよ」

そういうと、

幼稚園児たちを2人づつにわけ、

介助するスタッフと共に私の横に腰を下ろした。

「まずは、

 お手本を見せましょうね」

そう言いながら牛乳を受けるバケツを乳房の下に置き、

私の乳首の一つを軽くつまむと、

ギュッ!!

引っ張るようにして抓る。

その途端、

ビクッ!

「(あっ)」

私の体に痺れるような快感が走ると、

ジャッ!!

下に置いたバケツに向けてミルクが迸った。

「すっげー」

「うわぁぁぁ」

私の体からミルクが噴出したことに幼稚園児は驚くと、

「ンモーーー

(すっすごいでしょう)」

私は啼き声をあげる。

そして、その後、

「じゃぁ、次は君達もするんだよ、

 はいっ

 ここをこう持って、

 で、引っ張るように、

 そうそう、

 搾って…」

ジャッ!!

「はい、良くできました、

 じゃぁ、進君も」

ジャッ!!

「そうそう」

ジャッ!!

ジャッ!!

ジャッ!!

「(あっ

  いっいい)」

ジャッ!!

「(いっちゃいそう…)」

ジャッ!!

「(そう、

  搾って…

  思いっきり搾って

  お乳が腫れて…

  痛いのよ)」

ジャッ!!

ジャッ!!

ジャッ!!

「(いっ

  いぃ!!)」

乳を搾られる感覚に私は酔いしれ、

そして、ねだる様にして体を幼稚園児たちに向ける。

すると、

「はーぃ、

 一杯搾られたね。

 じゃぁ、

 これを先生に見せようね」

バケツにたまったミルクを見ながらスタッフはそういうと、

「はーぃ」

幼稚園児たちは声をそろえて返事をし、

そして、

タタタタ…

二人でバケツを持ち合い、

保母のところへ向かっていく。



「ふふっ

 すっかり酔いしれちゃって、

 気持ちよかったでしょう…

 あたしも昔このバイトをしたけど、

 この感覚って結構癖になるのよね、

 まっ貴方も注意するのよ、

 さっ残っているミルクを全部吸いだしてあげる。

 言っておくけど、こっちのほうがもっとすごいわよ、

 気絶しないように注意するのよ」

園児の姿を見送りながらスタッフ私に向かってそういうと、

カチャッ!

私の乳首すべてに搾乳機を取り付け、

スイッチを入れた。

そして

シュコッ

搾乳機が起動した途端、

「ンモォォォォォ!!!!

 (いやぁぁぁぁぁ)」

私は強烈な刺激に翻弄された。

シュコ

シュコ

シュコ

「ンモンモンモ…

 ンモォォォ!!!

 (搾られる、

  搾られる、

  いやっ

  お乳が搾られるぅぅぅ)」

手加減のまったくない機械仕掛けの強制力に私は翻弄され、

そして、すべてを搾り出された後、

私は放心状態で柵の中に立っていた。

こうして、ハードな2日間のバイトが終わり

私は元に戻る薬によって人間に戻っていった。



そして、月曜日の朝、

2日間の給料が入った袋を持って

私は部室の椅子に座り込んでいると、

「はぁ…お疲れだったね…」

と牧場でのバイトの感想を言いながら早苗が私の横に座る。

「あぁ早苗…」

1テンポ遅れて私が挨拶をすると、

「なによ、すっかり呆けちゃって、

 そんなにあの搾乳が気持ちよかった?

 そういえば、加奈子だけだよね、

 搾乳であんなに声を上げていたの」

「べっべつにいいじゃない…」

「あはは、

 赤くなっているよ」

「うっうるさいっ」

早苗の指摘に私は顔を真っ赤にして怒鳴り返した。

「まーまっ

 熱くならない熱くならない。

 あっそうだ、

 これさっき買ってきたけど飲む?

 スグに怒るのはカルシウムが不足しているからよ」

と言いながら早苗は牛乳のパックを差し出すと、

「ふんっ」

私はそのパックをひったくり、

ジュルルルル…

一気に飲み干した。

「あらら…

 それじゃぁ味がわからないじゃない」

「うるしゃいっ」

「ねっ

 その牛乳の産地どこだかわかって飲んでいるの?」

「え?」

早苗のその指摘に私はハッと驚くと、

「ふふっ

 あの小松川牧場の特製牛乳…」

彼女は悪戯っぽく囁く。

「図ったなっ!!!!

 早苗…」

ボタッ!!

牛乳のパックを落とし私は立ち上がるが、

しかし、

メキッ!

ゴキゴキ!!

私の体から体を作り変える音が響き渡り始めると、

メリメリメリ!!!

私は再び牛に変身を始めだした。

「ふふっ

 大丈夫安心して…

 ここは飼育部よっ

 やっぱり牛の一頭ぐらい居なくっちゃ

 部として格好がつかないの…

 みんなと相談して決めたんだけど、

 クスッ!

 部のためにガマンしてね」

角が生え始めた私の頭をなでながら早苗はそういうと、

「もっモゥ

 モゥ…

 モゥ…」

元の数倍に大きくなていく体、

下半身で膨らんでいく乳房、

白地に黒斑の獣毛、

そして、

カツン!!!

蹄が生えた手を地に付けたあたしは、

伸びていく口と舌を振り回しながら、

「ンモォォォォォォォォ!!!!!」

思いっきり啼き声を上げていた。



…修正予算書…

 乳牛を一頭、飼うことになりましたので、

 1年間の餌代として

 下記金額の支給を要求いたします。

          飼育部部長・飯島隆



おわり



この作品は真道さんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。