風祭文庫・獣の館






「CFガール」
(前編)



原作・田中じろー(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-083





「あ〜、暇だよな」

トオルはテレビを見ながらつぶやいた。

ここは、とある動物園の飼育係の控え室。

トオルはパンダ担当の飼育係だったが、

しかし、パンダは3週間前に病気で死んでしまい、パンダの檻に主の姿はなかった。

けど、悲しんでいてもいられない。

あと1週間もすると新しくパンダがやってくることになっていて

トオルは別の動物の飼育係に変わることもなく暇な数日を過ごせることになった。

とは言っても最初の内は楽ができて楽しかったのだが、

しかし、そのうち怠けるのにも飽きてきた。

園内の掃除と他の飼育担当が忙しい時に手を貸すだけ。

そんなある日、仕入れを止めていたはずのパンダ用の餌の笹が搬入されてきた。

「え?

 ちょちょっとぉ…
 
 コレどういうこと?」

伝票を渡され、それに気づいたトオルが業者に注意をすると、

業者は間違いだったことに気がつき、笹を引き取っていってくれることになったが、

後でトオルが引き取っていったことを確認しに行ってみると、

餌用の倉庫に40センチぐらいの小さな笹が一本だけ残っていた。

「なんだ、一本だけ忘れやがって」

残された笹を見ながらトオルはそう呟き、手に取ると、

「なんだこれは?」

と笹の枝の一つに御簾が付いていることに気づくと、シゲシゲと眺めた。

それは、何かを祀るために使われていたような御簾だった。

「ふぅ〜〜ん…」

その御簾を眺めながらトオルは手を伸ばして取り去ると、

「ふむ

 まぁ、いいか…」

とつぶやくと作業着のポケットにねじ込み、

そして、飼育係の控え室にある自分の机の脇に差しておいた。



テレビを見ているとパンダの着ぐるみを着た上門マヤが可愛さを振りまいてるCMが流れはじめる。

「はぁ…今度来るパンダがこんな可愛いパンダならいいのに、

 マヤちゃんのパンダなら毎日張りきっちゃうんだけどな」

TVを眺めながらトオルはそんな独り言をいっていると、

さっき机に差しておいた笹からブワっと煙がわき上がり

その煙は見る見る手のひらサイズぐらいの小さな老人の姿へと変わっていくが、

しかし、トオルはTVに夢中で老人の存在には気が付かなかった。

そして、TVをジッと見入っているトオルを横から眺めながら

『ふ〜ん。

 この男、面白いことをいうヤツじゃのぅ

 まあ、この男が働き者になるのなら考えてやらんではないな…』

と老人そう言うと、不意に姿を消した。



場所は変わってラジオの収録スタジオ。

ちょうど上門マヤが番組収録の最中だった。

すると、さっきの老人が天井近くに姿を現すと、

眼下に見えるマヤを見下ろしながら、

『こやつか、

 さて、一方的にことを起こしては不公平じゃな』

とぶつぶつ独り言をいう。

マヤはリスナーのハガキを読んでいるところで、

「『マヤちゃん、こんにちは

  私はマヤちゃんの大ファンです。

  この頃CMで流れているパンダのコマーシャル、マヤちゃん最高にかわいいです。

  すごく似合っていますよ』
  
 ありがとうございます。

 私もあのCM大好きです。
 
 あの格好も大好き。

 実はあの着ぐるみもらって帰ったんですよ。

 あの格好になるの大好きです。
 
 ふふ。

 そして、いいのかな?
 
 いっても」

そういいながらガラスの向こうにいる男にマヤは目配せをした。

ガラスの向こうで男がOKサインを出した。

「マネージャーからのOKがでたので、言っちゃいますね。

 あのCMの第2弾を今度とるんですよ

 新しい着ぐるみを用意してくれているみたいで楽しみなんです」

とマヤはマイクに向かってしゃべり続ける。

すると、天井に浮いていた老人は

「なるほど、両者思いは一緒ならかまわんじゃろ」

とつぶやき、ふっと姿を消した。



次の日は、そのCMの撮影日だった。

マヤはそうそうにスタジオ入り。

控え室に行くと新しいパンダの着ぐるみがおかれていた。

前のと比べて体型が動物的だ。

「四つんばいで歩いてもらうから、本物っぽい体型にしたんだって」

マヤの後ろからマネージャーが説明をする。

「ふ〜ん。

 前のよりふっくらしている。

 足が短いのは歩きにくそうね。

 あっでも毛並みはこっちの方が気持ちいい」

ふわふわの毛皮をさらりながらマヤは感触を堪能する。

「じゃぁマヤちゃん、着ぐるみを着る準備をしてね」

と言い残してマネージャーが部屋を出ていった。

着ぐるみの中は熱い。

スタンバイの間は拷問のようになるし汗の量も半端ではない。

文字通り汗まみれになってしまうので

マヤはTシャツに短パンというラフな格好で着ぐるみを着る。

背中のファスナーは自分で上げられないのでスタッフに上げてもらう。

すると、あの手乗り老人が天井近くに姿を現した。

「さて、久々に人のために力をふるうかな」

パンダの着ぐるみを着たマヤを眺めながら老人はそういうと、パンと手を叩いた。



この着ぐるみはだらっとした感じを出さないために所々にウレタンが入っており

しわが寄るような感じにはなっていない。

しかし、マヤがパンダの着ぐるみを着ると変な感じがした。

「あれ?」

その感触にマヤは首をかしげるが、

しかし、

「じゃぁ、ファスナー上げますね」

と着替えを手伝う担当の声と共に、

ジャッ!!

と言う音共にファスナーが上がっていくと、

キュッ!

何か締め付けられるような感じがした。

「え?」

その感覚にマヤは驚くと、

今度は足の方から徐々にピッタリと吸い付いてくる感じがすると、ファスナーは毛皮の中に埋もれて消えた。

「ねえ、これって少し小さくないですか?」

マヤがスタッフに声をかける。

「そんなことないよ、前のと同じサイズに作っているし、

 素材が柔らかくなった分ゆったり着られるはずなんだけど。

 もしかしてちょっと太っちゃった?」

マヤの質問に少し笑いながらスタッフから返事が返ってくる。

「え?

 太ったって?

 そんなわけないないでしょう!」

その返事にマヤはそう言い返すが、しかしそれ以上は墓穴を掘りそうなので追究しなかった。

スタンバイ中、マヤはかぶり物は外した状態で椅子に座って待っていると、

最初ほど着ぐるみが苦しく感じなくなってきた。

むしろかなりフィットして密着したような感じもする。

「テストで〜す」

ADの声がかかりマヤもスタンバイ位置に行こうとして立ち上がる。

吸い付くような感じが続いていたが次第にそれも消えていく。



やがて、テストも終わり、休憩時間になるが、

「なんだか今回の妙にぴたっとしているんだよね。

 自分の身体みたいな感じ」

マヤはそういいながら手で体の部分を触ってみる。

「ん、変だ」

何か身体の感じが違う。

そういえば、少しからだが重くなったような感じだ。

着ぐるみの上から人に触られると着ぐるみの毛皮が自分の一部になったような感じがする。

どっちかというと触られたような感触。

「どういうこと?」

その感触にマヤは驚きながらさらに触り続けていると、

「あれ?」

飾りで付いている指先の爪に感触を感じた。

「え?

 え?
 
 え?」

その感触にマヤは

「ちょっとごめんなさい。

 コレ、脱がせてください」

とすこし慌てたそぶりを見せながら訴えると、

「どうかしましたか?」

その声に着ぐるみの制作スタッフが駆け寄り、

ファスナーを下ろそうとする。

ところが、

「そんな…」

あることに気づいたスタッフが声を上げると、

「どうしたの?

 早くして」

とマヤは急かした、

しかし、返ってきた言葉は

「ファスナーがないんです」

と言う驚きの言葉だった。

「そんな、意地悪しないでお願いします」

マヤは半べそになり訴える。

すると、

「ちょっと、来てくれ」

制作スタッフが、他のスタッフを呼ぶと、

「どういうことだ、そんなバカな」

着ぐるみからファスナーが消えていることにそのスタッフが驚くと

「とっとにかく切ってみよう」

といいながら、腕の当たりをつまんでカッターで割いた。

すると、

「痛い」

突然、マヤが声を上げた。

「?」

マヤの声に驚いたスタッフが割いたところを見るとなんとそこから血が出ていた。

「そんな、着ぐるみの部分を切ったんだよ」

そう訴えるスタッフに

周りにいるスタッフ全員があることに思い当たっていた。

だが、そんなバカバカしいこと信じられないとみんなそのことを口にしない。

「びょっ病院に連れて行こう」

誰かが言った。

そして、マヤは着ぐるみのまま、近くの総合病院に連れ込まれた。

着込んだ着ぐるみはマヤの身体と一体化し

文字通り着ぐるみがマヤの身体の一部になってしまっていた。

首から上は人間なのに首から下は不完全なパンダの縫いぐるみみたいになっている。

しかも、股間にはいつの間にか排泄器、生殖器が備わっている。

顔はマヤのまま。

上等でふさふさの毛皮は寒い時季なので快適だが、裸なのだ。

人間なら太りすぎの域に達するような体型。

無理して立っているが、四つんばいで歩いた方が楽な状況。

マヤはそのまま入院し精密検査を受ける。

医師はこんな症状見たこと無いということで、お手上げ。

病院内の施設を使うたびに大きな布でくるまれ荷物のような扱いを受けた。

しかも、体が大きすぎて人間用の器具が使えなかった。

だからといって動物病院に行くのは本人が拒否した。

何もかも、お手上げ。

やがて、病院だと目立ちすぎるということで

マヤは人気のない倉庫街に臨時の部屋を作り

そこに必要な物をそろえて過ごすことになった。

無論、マネージャーが世話しには来てくれたが、

しかし、付きっきりでいられずマヤはひとりぼっちになっていた。



そんなある晩、トオルは夢を見た。

夢の中で小さな老人が出てくると、

「お前が世話をしたい動物は●●街の倉庫にいるぞ。

 お前はわしを助けてくれた。

 ほんのお礼じゃ」

と老人はトオルに告げ、

そして、倉庫を見せたとき、そこで目が覚めた。

やけにリアル。

起きあがったトオルはしばし考え込むと動物園へ電話を入れた。

「今日ちょっと休みます。

 体調がよくないんで。

 すみません」

それだけ言ってトオルは電話を切った。

どうせ、園内の掃除くらいしか仕事がなんだ。

騙されたと思っていってみよう。

そう決断をしたトオルの行動は速かった。

しかし、

「本当にあのお告げを信じていいのか?」

半信半疑でトオルは倉庫街でマヤがかくまわれているところに来ると、

「えっと、ここか…」

夢の中の通りの倉庫だ…

まさに夢の中で見た倉庫に驚き、

そして、閉まっている扉を押した。

軽い音を立てて扉を開くと、その奥に白と黒の毛皮のような塊が見えた。

「えっ?」

驚きながらトオルは近づいていくと

それは人ぐらいの大きさの塊で
 
さらに傍によると、こちらに気がついたようだ。

「だれ?」

塊がしゃべった。

「え?

 女の人?
 
 それにこの声って

 まさか、マヤちゃん?」

塊からの予想外の声にトオルは驚くと、

「だっ誰、あなた?」

塊の中から上門マヤの顔が飛び出し、

そしてトオルを見た。

「うわっ

 ほっ本当にマヤちゃんだ。

 どうしたのその格好?
 
 撮影なの?」

トオルは驚きの声を上げると共に

なぜこんな所に上門マヤがいるのか理由を聞こうとすると、

「誰なのあなた?

 出ていって、
 
 見ないで!!」

とマヤは涙を流しながら怒鳴った。

「おっ落ち着いて、

 僕は怪しい者じゃない。

 大丈夫。

 何もしないから、
 
 ほら、これ以上近づかないよ。

 だから…なっ」

ヒステリックに叫ぶマヤにトオルは優しく話しかけた。

「………」

「なっなにもしないよ

 ねっ、
 
 一体どうしたの?
 
 なんで、マヤさんがこんな所にいるの?
 
 それにその体は…って一体…」

ジッと自分を睨み付けるマヤにトオルは彼女の心を解きほぐすかのように話しかけると、

しばらくの間を開けたあと、

少ししゃくり上げながら、マヤは自分の身に起こったことを話した。

そして、それを聞いたトオルは少し思い当たることがあった。

…まさか、あのテレビを見て言ったことが現実になったのか?

 それともあの小さなじじいの仕業?
 
一通り考えを巡らした後、

「ねぇマヤちゃん、

 君の、事務所の人とかはどうしたの?」

と尋ねた。

すると、

「ここに来て次の日にマネージャーが来たけど

 でも、その日以来誰も来ないの。

 こんな格好じゃ外へも出られない」

「そっそうなんだ、じゃあ、僕が連絡してあげる」

マヤの訴えにトオルは携帯を取り出すと。

「番号は?」

聞きだした番号に電話を掛ける。

しばしの呼び出しのあとつながった。

マヤちゃんのことをストレートに聞いた。

とこるが、

「上門マヤはいま海外でオフなんですよ」

と予想外の返事が返ってきた。

どうもしらばっくれているようだ。

「え?

 ちょちょっとまってくれ
 
 僕はいま…」

とトオルは自分が倉庫街にいることを伝えると、

「そっそんな生き物は知らない。

 今、身代わりを探している。

 なに、今の整形技術はすごいからね。

 うまくいかなければ事故にあったことにして引退だよ。

 この業界は移り変わりが激しいからね
 
 1年もすればもう誰も気にしなくなるよ」

と今度は開き直ったかのようなことを言ってきた。

「そんな…

 いくら何でも酷いじゃないですか、

 もしも、マヤちゃんが外に出てその仕打ちを告白したら、
 
 あんたの事務所は潰れるぞ」

電話の返事にトオルは怒りを露わにして怒鳴ると。

「どうぞ後勝手に、

 でも、マヤがみんなの前に出るかな?
 
 そんな姿で。

 一緒に過ごしてきたからね。

 そういうことはわかるんだよ。

 そんなことができる娘じゃないよ」

と少し焼け気味と思えるような返事が返ってきた。

「見捨てるのか?」

「人聞きの悪いことを言わないでくれ、

 迷惑を被ったのはこっちなんだぞ。

 何人の社員を路頭に迷わせることになると思っているんだ」

そんな風に言われるとトオルは言葉に詰まる。

「これからどうするつもりなんだよ」

「こちらが落ち着いたら彼女のことは考えるよ。

 今は仕事のキャンセルの連絡と問い合わせで手一杯なんだ。

 君そこに行ったんだったら、彼女を助けてやってくれよ。

 そちらに出かけていくこともできないんだ」

「そんなこといったって…」

「マヤちゃん電話に出られそうか?」

「え?」

「マヤちゃんと話をしたいんだ」

マネージャからの言葉にトオルは躊躇しながら

「電話変わってくれって言われたんだけど」

と話しかけた。

すると

「ありがとう、

 でも、この手ではケータイ、掴めないから持っていてくれる?」

とさっきよりは少し落ち着いた様子でマヤが言う。

「うっうん」

マヤからの要望にトオルは頷き、

そしてマヤの耳に電話をあててやると、

「もしもし…」

とマヤは話しかけた。

そして、しばしのやり取りをしたのち、

スツ

マヤは電話から耳を離しトオルに向かって

「もう一度あなたと話したいそうよ」

と告げた。

「はい、なんでしょう」

「あっこんな勝手なことを頼むのは非常識だと思うけど。

 しばらく彼女をかくまって欲しい。

 お礼はするよ。

 しかるべき手立てが立つまでお願いだ」

「はぁ?」

「いま私は手がいっぱいなんだ、

 だからマヤのこと君に頼む」

「そうですか

 わかりました」

マネージャの勢いに押されてトオルは返事をしていた。


トオルはとにかくここから彼女を連れ出すことにした。

文字通りここには何もないのだ。

しかも、マヤはしばらく水しか飲んでいなかったようだ。

パンとかが買いおかれていたが、

しかしパンダの手でビニールを破ることができなかった。

めちゃめちゃになって潰れたパンもあった。

そして、彼女が言うにはパンがまずいらしい。

身体が受け付けなくて何度か吐いてしまったらしい。

あと、問題なのはトイレ。

その身体で用を足すのは難しいみたいだ。

トイレがあるのだが、体が大きくて入れない。

扉が開けられないと言うので開け放してもらっていたのが、

はずみで閉まってしまいいらいドアノブは開けられなかった。

部屋の隅にしていたらしい。

トオルは色々状況確認した後、自動車をとりにいった。

幸い乗ってきた自動車はバンだった。

マヤを説得して乗り込ませることにする。

のっそりと動く彼女の体重は120kgぐらいありそうだ。

元々彼女は背が高くはなかったので頭さえ見なければ子パンダぐらいだ。

そして、マヤはお風呂に入っていなかったので獣の匂いがした。

いつも動物園かいでいたあの匂いだ。



夜も近くなってからトオルはクルマを動物園へと向けた。

無論、クルマの中にはパンダの体に人間の顔のマヤがいる。

倉庫街から動物園まで約1時間…

キッ…

動物園の職員用駐車場にクルマを入れたトオルはドアを開けると、

「マヤちゃん、出てきていいよ」

トオルがマヤを施設内に誘う。

「ここは、ぼくが働いている動物園なんだ、

 マヤちゃんをかくまっても怪しまれない場所っていいったら
 
 ここしかなくて

 偶然なんだけど、実はぼくはパンダ舎の係員なんだ。

 この奥にパンダの子育てをする隔離された部屋があるんだ。

 パンダサイズだから動きやすいと思うんだけど…」

とトオルはそこまで説明をしてマヤを見た。

「わかっているわ。

 ここにいるしかないって。

 マネージャーにも色々言われた。

 そこに案内して」

トオルの言葉にマヤはそう返事をするとトオルを見た。



パンダ舎の中は結構広い、遊ぶための遊具もある。

周りはコンクリート壁だが、天井は抜けていて空が見える。

また、その隣には押すだけで開く扉が付いた部屋があり、ワラが敷き詰められていた。

「待ってて、いま布団持ってくるから」

マヤを気遣ってトオルがそう言うと

「いいわ、あたしワラの上で眠るから」

少し虚脱したような表情でマヤが言った。

直立で歩行するのに疲れたらしく前足を下ろして4つ足で歩いき、

そして、二人で屋根付きの部屋へと入った。

マヤは泣いていた。

「マヤちゃん…」

マヤのその様子にトオルは思わずそうこぼすと、

「ずっと、涙しか出てこないの。

 私、身体がパンダなのよ。

 こんなに太っちゃって毛だらけで、尻尾もあるの。

 手で満足に物が掴めない。

 それに、これ裸なのよ。

 食べ物だって人間が食べるような物は身体が受け付けない…」

とマヤはボソボソと小さな声で独り言のように言う。

マヤのそんな姿を見てトオルは不憫に思い、

そして、

「ねえ、身体洗おうか?

 お風呂入っていないでしょ」

と尋ねた。

すると、

「そうね、アイドルがお風呂に入っていないだなんて汚いよね。

 ねぇ洗ってくれる」

とマヤはトオルに懇願した。

パンダ用のお風呂セットを持ってくるとトオルはマヤの身体を洗い始めた。

少し温めのお湯をかけて丁寧に洗う。

洗いながら、マヤの体は雌パンダの身体と同じなんだと思った。

そう思いながらトオルはマヤの股間に水をかけると

マヤは声を上げた。

「どうしたの?」

真野の声にトオルは手を止めると。

「あっやめないで

 おっお願い、
 
 きれいにして、

 ずっと拭いていないの。

 手が届かないから」

とマヤは顔を赤らめながら告げた。

「そうだね、本物のパンダはお尻を舌で舐めるからね」

マヤの言葉にトオルはパンダの習性を言いながら洗い始めると、

「そうなんだ。

 私は無理そう」

とマヤは自分の体を眺めそう呟く、

「そうだね、
 
 だって、マヤちゃんは人間だもん」

トオルはそう言いながらマヤの局部を丁寧に洗う。

すると、

「うっ、くふっ」

マヤのこらえるような声が聞こえてきた。

しかし、トオルはこんな声は無視してさらに洗い続け、

終わった後に体を拭こうとすると

「お願い、止めないで。

 もっと、お願い」

とマヤはトオルに懇願してきた。

「え?」

上気したマヤのその顔を見たトオルは、

「……」

トオルは無言でマヤの局部を刺激し始めた。

荒い息づかいが聞こえる。

身体を支えていることができなくなって前足が崩れた。

地べたに顔を付けて、感じているみたいだ。

そして程なくしてマヤは身体を痙攣させると、絶頂に達してしまった。



つづく



この作品は田中じろーさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。