風祭文庫・獣の館






「獣の血統」



原作・カギヤッコ(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-081





「ここですか、先輩?」

車から降りたわたしは思わず不安げに回りを見回してしまった。

無理もない。

ここは人里離れた山の中。

鬱蒼とした木々以外に見えるものはない。

しかも今は夜。不安になるのも仕方がない。

そもそもわたしこと辻芽衣がこんな所に来る羽目になったのはわたしの抱える悩みに原因がある。

実はわたしは月に一度どうにも気持ちが落ち着かなくなる時がある。

回りは「発情期だ」とからかうがどうもそれともまた違うみたいなのだ。

こう言う場合普通なら性的興奮―早い話エッチな気分になるものだが

わたしの場合それ以上の高ぶりと言うか何と言うかわからない発作に取り付かれる事が多いのだ。

実際住んでいるマンションからはるか離れた街まで走ったり、

絡んできた男性を返り討ちにした事も何度かある。

それを大学の先輩である大賀美央先輩に相談したが、

先輩は興味深げに話を聞くとその日のうちに

「いい所に連れて行ってあげる」

とわたしを車に乗せてこんな山奥まで連れて来てしまったのだ。

他の人達がエッチな話で盛り上がっているのを聞いただけでも赤面してしまうわたしとは違い

先輩は遊んでいると言う訳でもなさそうだけど

どこか弾んでいると言う感じの性格だが、

不思議とわたしとは気が合うらしく色々と面倒を見てもらっていた。

その先輩はと言うと車から降りるやさっさと木々の中に入り込もうとする。

「先輩、こんな所に車を止めて大丈夫なんですか?」

わたしの問いに先輩は、

「ここはキャンパーやドライバーはめったに来ないから鍵をかけとけば大丈夫よ。

 それより早く行きましょ。」

と気さくに言うとそのまま木立ちの中に消えていく。

「あっ、待って下さい!」

わたしは慌てて後を追った。

「せんぱ〜い、どこですか〜?」

わたしよりほんの少し先に入り込んだはずの先輩の姿は

木々に隠れているのか丸で見当たらなかった。

それどころかまるで入り組んだ迷路の様な道はわたしの足を否が応にも鈍らせる。

それでも何とか木立を抜け出した時、わたしの目に川が飛び込んできた。

月明かりを照り返しささやかに流れるせせらぎに心を奪われる。

そんな時、

「遅かったわね、芽衣ちゃん。」

と背中から声がかかる。

「先輩、置いてけぼりに…」

しないで下さいと言おうとした途中でわたしの口が止まる。

なぜなら振り向いた先にいた先輩は一糸まとわぬ姿ですっくと立っていたのだ。

月の明かりを浴びてよりきれいに輝いている先輩の姿を見て

女性のわたしでもときめいてしまうものを感じる。

「さ、芽衣ちゃんも早く脱いで。脱いだらこの川を渡るわよ。」

先輩はにこやかな笑顔でそう告げる。

もちろんわたしの顔には戸惑いと驚きが走る。

「せ、先輩、これって一体…」

「あら、「何とかして欲しい」と言ってたのは芽衣ちゃんじゃない。

 だからわたしはこうしてわたしのとっておきの場所にあなたを案内しているんじゃないの。」

「でも、どうして服を脱がないといけないんですか?」

わたしの問いに先輩はにこやかに答える。

「これはある種の儀式みたいなものかな。

 さっ、早く脱いでついてきなさい、
 
 可愛い子羊ちゃん。」

そう言うと先輩はさっさと浅瀬を渡り川の向こうに行ってしまった。

わたしは呆然と川向こうに立つ先輩を見つめていた。

このままきびすを返して帰りたいのは山々だが

こんな山の中一人で帰るのは心細いし

そもそもわたしは車を運転できないのだ。

どちらにしろ帰る事は出来ない。

それに、わたしの中で何か不思議な感覚が芽生えはじめていた。

そう、それはわたしをいつも襲う発作のような感覚。

ドキ、ドキ、ドキ、ドキ…

心臓の鼓動が早くなり肌がかすかに震えてくる。

わたしはその鼓動に合わせるかの様に少しずつ服を脱いで行く。

ススッ、上着。

ススッ、ブラウス。

サッ、スカート。

シュルッ、ブラジャー…

そしてショーツを手にかけた時、一瞬わたしの中に戸惑いが走る。

しかし、さっき目にした先輩の裸がまぶたに浮かぶ。

月明かりに映し出され普通の人間を越えた美しさをみなぎらせた先輩の姿。

わたしもあの姿になりたいと言う気持ちが恥ずかしさを押しのける。

スーッ…

わたしは一気にショーツを下ろした。

「…」

ショーツを手にしたまま脱ぎ捨てた服をたたんで草陰に置いたあと、

恥ずかしげに腕で体を隠しながらも

わたしは生まれたままの姿で対岸に立つ先輩と見つめ合う。

先輩は静かにうなずくとそのまま茂みの中へと消えていく。

わたしは一瞬ためらったが静かにウンとうなずくと

静々と浅瀬に足を入れる。

チャポン。

「ひゃっ。」

水の冷たさと流れに思わず肌が震えてしまうが

渡って行くうちにそれが少しずつ心地のよいものの様に感じられてくる。

あたかもそれは今までの自分を洗い流すかの様に。

そして浅瀬を渡り終えた時

わたしはいつの間にか堂々と裸をさらしていた。

ふと森の奥にいるはずの先輩に目を向ける。

うまくは言えないがさっきとは違い

うっすらと先輩の匂いと言うか気配が感じられる。

わたしはそれを追い静かに、

しかし確かに獣道を歩いて行く。

暗く閉ざされた森の中だと言うのに目が慣れたのか

はっきりと獣道はもちろん木の一本一本、小石の一個一個がはっきり見える。

そして風にこすれる草や枝の音、

小さな動物達の足音がかすかに耳に入ってくる。

裸と言うより自然に近い姿になった事により感覚もより鋭敏になっているのだろうか。

わたしはいつしか早足で道を駆けて行った。

不意に視界が開けた。

一瞬の明るさに思わず目を覆う。

そして目が慣れてきた時わたしは思わず歓声を上げてしまった。

「わあ…」

木々に覆われた森の中でそこだけが小さく開けていた。

柔らかい草むらが茂る小さな広間。

奥に目を向けるとそこには小さな岩がそびえ立っている。

ふと空を見上げれば白く輝く満月。

そこはさながらステージの様でもあった。

ヒューッ…

「あんっ…」

風がわたしの体を優しく駆け抜ける。

思わず声が出る。

「ようやくたどり着いたわね。

 わたし達の秘密の場所に。」
 
いつの間にか先輩が腕を組んで立っていた。

その顔には優しい笑みが浮かぶ。

「ここは人間(・・)に(・)は(・)決して来る事の出来ない場所。

 そしてわたし達にとってはまさに生まれ変わる為の儀式の場所…」

先輩の言葉に思わずきょとんとなる。

「先輩、人間にはって、生まれ変わるってどう言う事ですか?

 ならわたし達って…」

言葉を言い切るより早く先輩はわたしの背中を通して肩をつかむと激しく体をすり寄せる。

「あっ、先輩、あっ…」

わたしは抵抗しようとしたが肌と肌がすれる感触に酔ってしまい体に力が入らない。

「芽衣ちゃん、いい…いいわよ…」

「先輩、やめて、下さい…」

優しく、それでいて激しい動きで先輩はわたしの体を抱きしめ背中を愛撫する。

わたしもいつの間にか同じ様に先輩を抱きしめていた。

わたしの少し小ぶりな胸と先輩の大きめな胸が激しくこすれ合う。

互いに直立したまま絡み合ううちにわたしの鼻に甘い匂いがより強く立ち込める。

わたしと先輩の汗の匂い、そして互いの女の匂い…

「芽衣ちゃん…」

「先輩、先輩…」

わたしは恍惚の中にいた。

直接熱くなっている互いの股間を合わせる事こそ出来ないがそれ以上に先輩と肌を重ね、

香りをかぐ事が性経験のないわたしに激しい興奮を感じさせていた。

それは先輩も同じなのか口づけを交わし合い肌をなで回すうちにその力はだんだん激しくなる。

おそらくわたし以上に感じているのだろう。そして…

「ウアッ!」

ジャッ!

「キャーッ!」

先輩が絶頂の声を上げた時、大きな音と共にわたしの背中に激痛が走る。

皮膚をえぐり、骨まで削るような激しい痛み。

しかしわたしは激痛と先輩の両腕に挟まれ動く事は出来ない。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

ガプッ!

「ウッ!」

苦痛に耐えられずわたしは大声で叫ぶとなぜか

―そう、なぜか先輩の左の肩に噛み付いていた。

先輩の顔は苦痛となぜか恍惚の表情が浮かんでいたが

わたしはそれを知る事なく先輩の肩を噛み締めていた。

傷は思ったより深く傷口から血が流れている。

舌ざわりでそれを感じたわたしはペチャペチャとそれをなめ始めた。

グワパッ、

ペチャペチャ…

一度口を外してもわたしの舌は止まらず先輩の傷から流れる血をなめ続ける。

一通りなめる内にいつしか先輩の傷が小さくなりしまいには消えていく。

「先輩…これってまさか…」

わたしは震えながら先輩に問いかける。

先輩は恍惚感の残る顔で笑顔を浮かべわたしの体から腕を放すと、

「そう、わたしはいわゆる狼女って奴。

 もちろんあなたもよ。」

と応える。突拍子のない答えにわたしは驚く。

しかし、全身に体毛を生やしいつの間にか頭の上にピンと立った耳、

そしてお尻から生える尻尾をなびかせる先輩の姿を見た時、

わたしは言葉をなくした。

「あなたはまだ目覚めた訳じゃないみたいだから変化は遅いみたいだけど、背中の傷は大丈夫?」

先輩の声にふと背中に手を回すと

血こそ残っているがさっき先輩に付けられた傷がきれいに消えている。

クンクン…

「これが…わたしの血…」

指についた自分の血の匂いをかぐ。

普段ケガした時以上に強い血の匂いが鼻を突く。

そして猛烈な勢いで指にしゃぶりつく。

ピクッ!

それを合図にわたしの全身の肌が大きく震え張り詰める。

そしてわたしの体内で熱いものが動きはじめる。

「あんっ!」

思わず声が出る。

「始まったわね。羊の皮を脱ぎ捨て狼に戻る時が。」

先輩は静かに笑みを浮かべる。

ピクッ!

「あっ!」

両耳が突っ張る感覚が襲う。

ググッ!

「うっ!」

爪が異常に伸び始める。

それに耐えられず指から血が流れ出す。

その匂いを味わうヒマもなく、

ムズムズッ!

「ああ…」

細かく震える肌からジワジワと産毛が伸び、次第に体中を覆い始める。

「あっ、ああっ、先輩…」

全身を覆う熱さと痛さ、そして快感にもだえながらわたしは先輩に助けを求める。

しかし先輩はわたしの後に立つとサラッとわたしのお尻をなでる。

「ひっ!」

思わず嬌声を上げる。

そこに、

グッ!

「うっ!」

「ふふっ、生えてきたようね。」

 わたしのお尻から何かが突っ張り始める。

グッ、ググッ、グググッ、

それが尻尾である事は予想がついた。

先輩は少し意地悪な笑顔で生えたての尻尾をつかむとくいっと引っ張る。

「あうっ!」

苦痛と快感が同時にお尻から伝わる。

わたしの顔がゆがむ。

それを合図にわたしの変化はさらに進み始めた。

ピクピクピクッ!

伸び続ける耳はいつの間にかわたしの頭の真上にそびえ立つ。

グググッ!

わたしの爪は完全に獣のそれに変わり手も少し伸び始める。

足元も微妙に変化し始める。

グキッ、ゴキッ、ピクッ、プクッ、

「あっ、あうう…」

骨がきしみ、筋肉が膨らんで行く苦痛と快感に思わずのけぞる。

モサッ、フサッ、

体毛はわたしの全身を多いすでに獣毛と言えるものになっている。

いつの間にか尻尾にもふさふさの毛が生え揃っている。

ムワッ。

全身からさっき以上に激しい匂いが吹き出す。

わたしはその匂いに恍惚を覚えた。

「うっ、

 くっ、ああっ、あうっ、あんっ、あおっ、あおんっ…」

わたしの中でわたし自身と、

わたしを食い荒らそうとする“別のわたし”が激しく暴れ回りながら一つになり、

そのエネルギーがわたしの中を熱く駆け巡る。

そして、遂に…

「ああおぉーんっ!」

爆発の瞬間、満月をその視界いっぱいに入れながらわたしは絶頂の雄叫びを上げた。

頭の上にピンと立った獣の耳、全身を覆う体毛にふさっと生えた尻尾。

鋭く伸びた爪。

もちろん口を触ればそこにはピンととがった牙がある。

見るからに立派な獣人少女の姿だ。

「うふっ…」

思わず笑みがこぼれる。

「そう、わたし達は人間の姿で産まれてしまった狼…

 こうして月に一度、満月の晩にだけ元の姿に戻れるのよ。」

先輩の声にわたしはうなずく。

変身している間は恐れや不安はあったが、

今のわたしの中にあるのはただ元の姿に戻れたという快感だけであった。

「先輩…」

「先輩じゃないわ。今のわたしは“ミオ”よ。よろしくね、“メイ”。」

先輩…じゃない、ミオさんの笑顔につられわたしもつい笑みを返す。…

しかし、再び体中に何かが走る。

「あんっ!」

ピクッ!

股間にささやかな、しかし激しい衝撃が走りわたしは大きくのけぞった。

「メイ、あなた…」

ミオさんの顔に驚きが走る。

「えっ?これって?そんな…」

股間に目を向けたわたしの目は衝撃で大きく開かれる。

なぜなら、わたしの股間から薄赤い突起が伸び出しているのだ。

それが普段わたしの“中”でひっそりとたたずんでいるものである事は想像に難くない。

ピクッ!ピクッ!

「あんっ!あんっ!」

突起は脈打ちながら少しずつ大きくなっていく。

その刺激がわたしを貫く。

震える突起に指を触れようとするが、

更なる震えとそれから来る快感がわたしの動きを封じる。

「あうっ、あうっ、あうっ!」

体の内側から侵される様な感触にわたしはただ悶えるしかなく、

ミオさんも黙ってわたしの変化を見つめるしかなかった。

ピクッ!ピクッ!ピクッ!ピクッ!

そうしている間に突起はどんどん大きくなり、小さな棒の様な形になる。

「これって…オスの…」

「男の人の」と言わなかった辺りわたしの意識はほぼ狼のそれになっている。

しかし、言い方は違えど今のわたしの股間に生えているものは男性の股間にあるものそのものだった。

「ウソ…わたし…オスになっちゃうの…」

狼に戻った時はさほど感じなかった恐怖がわたしを襲う。

しかし、わたしを侵すものはさらにわたしを突き上げる。

ムピクッ!

「きゃうっ!」

股間を中心に全身の筋肉が硬直しその衝撃がわたしを貫いた。

「あんっ!

 あうっ!
 
 あうっ!」

ムクッ!

ムクッ!

ムクッ!

ムクッ!

何かがわたしの股間を突くたび棒はどんどん大きくなっていく。

それと同時にわたしの体もさらに変化を遂げて行く。

ムグッ、

ムグッ、

ムグググ…

引きつった肌の中で筋肉がうごめきながら膨らみ、

見えない手でなでられるかの様に小刻みに震えながら変化して行く。

ムニュウッ、

ムニュウッ、

ムニュウッ…

「あんっ、ああんっ…」

張り詰めた胸のふくらみが見えない手でもみ上げられながら胸筋の中に消えていく。

同時におなかに深い腹筋の溝が刻まれるのが毛皮の外からもわかる。

ムワッ!

「うっ!」

さっきをはるかに上回る獣の匂い、

そしてオスの匂いがわたしの鼻腔を貫き、

わたしの中のメスをとろけさせる。

グギッ、ググッ、グギグッ!

「うっ!」

わたしは再びのけぞる。

それと同時に口元と鼻が一つになり、顔全体を引っ張る勢いで伸びてゆく。

「グガッ!」

顎が変化する時、思わずわたしは顎を外しかける。

そうしている間にわたしの体は一回りも二回りも大きくなる。

体毛、いや毛皮と筋肉の鎧は全身を覆い、尻尾もさらに長く太くなっている。

そして股間に生えたものも負けず劣らず赤黒い色合いを讃えながら膨らんでいる。

そして、わたしを侵し、食い荒らし続けたものは既にわたしを薄皮一枚で突き破ろうとしている。

「あうっ、

 あうっ、
 
 わたしがっ、
 
 消し飛んじゃう!!、
 
 でもっ、
 
 いいっ、
 
 飛ぶっ、
 
 飛んじゃう!」

獣と言うよりオスのような野太い声であえぐ“わたし”と言う薄皮は既に限界に達していた。

その中でわたしとわたしを侵そうとしていた“別のわたし”が一つになり最後の爆発をしようとしている。

「あ、

 あ、
 
 あ、
 
 あ、
 
 あ…うおぉぉぉぉぉぉぉぉーん!」

全てを吹き飛ばす快感の爆発の中でわたしは全てを込めた咆哮を上げた。

「ふう…すっきりしたぜ…」

まだ余韻の残る体をオレはじっくりと見回す。

全身にみなぎる筋肉とそれを覆うたくましい毛皮。

前足と後足には何でも引裂けそうな爪が生え、

直接は見えないが顔つきもかなり男前の狼顔になっている。

そしてオレの股間に誇らしげに立つイチモツ…

まさに野生のオス狼そのものが今のオレの姿だった。

「…メイ…大丈夫…」

不安そうに声をかけるミオの声に自信をみなぎらせた笑顔で応える。

「ああ、大丈夫だ。まったく最高の気分だぜ。」

親指を立てるオレに対しミオはまだ怪訝そうな顔をしている。

「だって、まさかあなたがオスの狼になるなんて信じられないわ…」

「でもここにいるじゃねえか…ん?

 おれってメスだったっけ?
 
 産まれた時からオスだった気がするんだが。」

一瞬オレの中に食い尽くした獲物のかすかな記憶がよぎるがそれを振り払う。

そしてミオに目を向ける。

「なんだよミオ、お前まだそんな姿してんのかよ。

 さっさとそんな人間モドキの姿なんて辞めちまいな。」

ミオはまだ文字通り人間に毛と耳と尻尾が生えたような姿をしていた。

まだ二本足でたっているとは言えすでに顔も体つきも狼のオレとはえらい違いだ。

「だ、だって、

 メイがいきなりそんな変化しちゃうから
 
 元に戻るタイミングを外しちゃって…」

「だったらオレが戻してやるぜ!

 ついでに人間なんか永遠にさよならだぜ!」

そう言うとまだたじろいでいるミオを地面に押し倒す。

ミオは胸から地面に打ち付けられる。

「うっ!」

痛みに顔をゆがませるミオに構わずオレはミオの尻を持ち上げると間髪入れずに

オレのイチモツをミオの股間にぶち込む。

「うひっ!」

「うおっ!」

快感混じりの激痛に顔を引きつらせるミオに

構わずオレはそのまま体ごとイチモツを打ち込む。

オレに誘いをかけておいてこいつはまだオスを知らなかったようだ。

激しい締め付けがオレを襲う。

「あっ、

 あうっ、
 
 おうっ、
 
 あうっ!」

「オラオラ、

 こんなもんじゃねえぜ!」

激しく突き立てる内にミオの顔がゆがみ始める。

オレの中に残酷なまでの優越感が走る。

「うおらぁっ!」

「ひいっ!」

思い切り両肩をつかみ爪を立てる。

突き立てた先から血がにじむが今のミオには快感の呼び水でしかない様だ。

そうしているうちにゆがんでいたミオの顔が少しずつ伸び始める。

ふと見るとミオの両手の指が掌に飲み込まれつつある。

四肢も少しずつ4足歩行の形になっている。

おれの手足も少しずつ同じ形になってゆく。

「ウーッ、

 ウーッ、
 
 ウーッ、
 
 ウーッ…」

「あっ、

 あうっ、
 
 うあうっ、
 
 うおっ、
 
 おっ、
 
 オッ、
 
 オッ、
 
 オッ…」

月明かりと二匹分の獣の匂いに包まれ、

オレ達はただ互いの肉と呼吸の感触のみを確かめ合う。

そして、その高まりは遂に頂点に達する。

「ウワオォォォォォォォォォーンッ!」

森中を響かすような狼の、オスの咆哮がオレの喉からとどろく。

この時、オレは狼のオスとして生きる快感に浸っていた。

「なんだよ、この程度で倒れてんじゃねえよ。

 今夜は寝かせねえぜ。」

さっきの絶頂で果てたのか息も絶え絶えに倒れるメス狼の首に噛みついて引き起こすと

オレはオレの分身を再びミオの中に差し込んだ。

「ワオーンッ!」

再び二匹の獣の咆哮が森にこだました…

夕焼けの中、

またメスどもがつまらない話をしているのが耳に入る。

オレはそいつらをひそかに一瞥すると水のある方向へと足を向ける。

水をたたえる小さな湧き水、

そこに来たオレの目の前に人間のメスが立っていた。

全身を妙な毛皮で覆い気弱そうな顔をしたそのメスはオレの目の前で両手を泉のへりにつく。

その情なさそうな顔を見たオレは思わず、

「はぁ〜あ…何だかな…」

とため息をつく。

そして目の前のメス―鏡の中のわたしも同じ様にため息をつく。

わたしは夢でも幻でもなく、

いま大学のキャンパスのトイレの洗面所にいる。

もちろんその姿は人間の女性のそれである。

わたしがオスの狼に生まれ変わり雄叫びを上げた翌朝、

わたしは食い尽くしたはずの人間の女性の姿で目を覚ました。

もちろん意識も大胆で豪快なオス狼のメイではなく

ヒツジの様に内気な人間の女性の芽衣のものになっている。

しかも、狼になった時には人間だった頃の記憶は吹き飛んだはずなのに

人間に戻ったわたしには狼になっていた記憶がしっかりと残っている。

生まれたままの姿で抱き合い二人で狼になり、

そしてオスの狼になって先輩を…

その光景を思い出しただけで

わたしの小さな顔は火を噴いたように赤くなり思わず身を縮め込ませる。

服越しに産毛も少ない細い腕とささやかな胸のふくらみが触れる感触が伝わる。

もちろんお尻には尻尾どころか腫れ物一つない。

あの夜オスの狼としての感情を何度も先輩に打ち込んだものは何事もなかったように

わたしの中でひっそりとたたずみ

「あなたはたくましいオスの狼じゃない、

 ひ弱な人間の女なのよ」

と言う感覚をわたしに流し込む。

「何やってるの、芽衣ちゃん?」

「ひっ!」

不意に声をかけられわたしはおびえながら振り向く。

そこには笑顔を向ける先輩の姿があった。

「またその手の話から逃げてきたの?

 顔が赤いわよ。
 
 “あの時”激しくわたしを求めていたのがウソみたいね。」

意地悪そうな笑顔でねちねちと言ってくる先輩の声にわたしはますます赤くなる。

「そう言えば芽衣ちゃん、

 あなたあの時「人間なんかさよならだ」って言ってたけど、
 
 もしそうなっていたら人間の快感を知らずに終わっていたかもよ。」

「えっ?」

首を傾げるわたしに先輩は明るく言う。

「狼から人間に戻る時もけっこういい感じなのよ。

 なんかこう全身が締め付けられて、
 
 それが痛い反面とろけるように熱くて気持ちいいのよ。
 
 頭の中で気高くたくましい狼から小さくひ弱な人間になって行くと言う自虐感で
 
 互いを責めて責められる感触もたまらないわ。
 
 そしてそれがはじけて身も心も人間になった時の快感…」

そう言えばわたしは狼になっている間は意識があったが人間に戻る時の記憶はない。

よく獣人が人間になるシーンでは意識を失っている事が多いが、

その快感はそんなにすごいものなのだろうか。

そうなるとわたしはまたオス狼になりたくなってきた。

オス狼のオレが人間のわたしを食い尽くす快感、

そしてオス狼のオレが人間のわたしの中で溶けていく快感…

どちらも捨てがたい感覚である。

そう、どちらが正体でどちらが仮の姿とかそんなのは関係ない。

どちらの自分も“同じわたし”なのだ。

そう思うとわたしの顔に不思議な自信が湧いて来た。

そしてわたしは鏡に映る自分に向かい力強くうなずいた。

そんなわたしの手を先輩が強く引っ張る。

「ちょっと、先輩、どこへ行くんですか?

 次の満月にはまだ早いですよ?」

「何言ってるの。

 今夜はわたしの部屋で“裸のネコ”に変身するのよ。

 もちろんわたしがリード役ね。」

「そんな〜。」

「芽衣ちゃんはわたしの“始めての相手”なんだもの、

 ちゃんと責任は取らないとね。
 
 大丈夫、わたしの腕であなたを可愛いネコちゃんに変えてあげるから♪」

「そんなの聞いてませーん。」

半分泣き顔のわたしを無視して先輩は力強くわたしを引っ張っていった。



おわり



この作品はカギヤッコさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。