風祭文庫・獣の館






「モニター」



原作・HARU(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-005





「ようっ!!、今日こそは耳を揃えて払ってもらおうかのぉ」

スキンヘッドの大男がそう言いながら凄みを利かせると、

「でっですから、もぅ少し、いやあと3日待ってください」

そう言いながら彼の前でブランドモノの衣服を身に纏った女性が

青い顔をしながら必死に懇願をすると、

「なにぃ3日だとぉ」

男はさらに迫る。

「ひぃぃぃ」

ガチャ…

念を入れられてか、彼女の手足には手錠がかけられていた。

加藤和美…

ブランド好きが高じて言わば自業自得で借金返済を迫られているのである。

彼女の借金の総額は利子を併せると800万円を超えており、

既に利子分すらの返済が困難になっていた。

「もう今月中とかと言うのは聞き飽きたし、

 いっそ、バラそうかぁ?

 あんたの臓物なら高く売れるだろうしな」

男が和美を睨み付けながらそう呟くと

彼の隣にいる痩せたリーゼントの男が、

「エステで磨き上げたその身体…

 いっそ、そのまんま外国にでも売り飛ばすのも…」

と声を上げると、

「いやいや、手足はもぎ取った方がいい…」

などと他の男たちと共に言いたい放題に彼女の返済方法をの案を出し合いはじめた。

そして彼らのボルテージは徐々に最高潮へと達していく。

それらを聞いていた和美は、

「ひぃぃぃ!!

 か、か、必ず全額お返ししますからどうか許して下さいッ!!」

と言うのがやっとで、

チラチラと覗くパンティに黄色い染みを作ってしまう程に怯えきっていた。

そのとき、ずっと部屋の中央で男たちの会話を聞いていた社長の兼田幸蔵が

ふと何かを思い出したかのように立ち上がると和美の傍に寄り、

グイッ

っと泣きはらしてグチャグチャになっている和美の顔を髪の毛を掴んで引き上げると、

態度に似合わない笑みを浮かべながら、

「まぁまぁ、姉ちゃんっ、

 こうやっていてもどうせ返せないだろうし、
 
 これではラチがあかん!、

 どうや?
 
 知人の研究者から薬品のモニターを頼まれたのを思い出してなぁ、

 まあ、どんな研究なのかは知らんしワシも無理にとは言わんがな、

 これを引き受けてくれたら返済の件考え直してもいいんじゃ、
 
 なっ、悪い話ではないと思うが?」

と提案してきた。

「え?」

幸蔵の言葉を聞いた和美は、

「まっまさか、あたしの保険金で返済させようとしているかも…」

と思うと、そんな彼女の考えを読み取ったのか、

「聞いた話では人命に関わる毒物ではないと言うし、

 そいつも毒物を専門とはしておらんから大丈夫じゃよ」

と幸蔵は和美に言うとタバコに火をつける。

「どや、引き受けてくれるか?」

フッ

そう尋ねながらタバコの煙を吐き出すと、

長時間に渡って監禁・拘束されたために精神的な余裕も無くなっていたためか、

「分かりました、返済の話が本当ならモニターになります」

と俯きながら和美が力無くそう答えると、

ニヤ…

それを聞いた幸蔵はうっすらと笑みを浮かべた。

「おいっ、いまからこの姉ちゃんはわしのパートナーじゃ

 こんな物騒なモノはスグに外してあげな」
 
幸蔵は男たちにそう命じると、どこかに電話をかけ始めた。

カチッ!!

和美の両手両足を長い間に渡って束縛していた手錠が外され、

彼女の身体は久しぶりに自由になった。

そして、事務所の扉には鍵が掛けられたがこの日初めての食事も与えられた。



しかし、実はこの話には裏取引があって、

既に和美名義の生命保険をかけられていたのである。

保険は研究者より話を持ちかけられた直後に契約しており、

元より幸蔵自身は和美の返済は望んでいなかった。

しかも、研究者側から貴重な人体提供がされると言うことで、

多額の報酬を貰っていたのである。

社長にしてみれば多額の保険金と報酬が入るのだから、

笑いが止まらないのも無理は無い。



閑話休題・・・

そう言う裏があることを知らない和美は実験が始まるのを刻一刻と待っていた。

幸蔵が電話してから2時間後位経った頃、

一人の40代頃と思われる白髪交じりの小柄な男が事務所に到着した。

男は田所辰紀と名乗り、どこぞの研究機関に努めているようだった。

「ほう、貴女がモニターですか?

 まあ生命に関わる実験ではないので安心してください」

田所は和美にそう言うと一本の注射と

大福程の大きさがある固形の薬をバックから取り出し、

「では、まず、その着ている服を全て脱いでください」

と彼女に言った。

「え?」

彼の言葉に和美が驚くと、

「おらっ、脱げと言っているだろう!!」

男たちが和美に怒鳴ると和美は渋々服を脱ぐ、

「あのぅ…下着もですか?」

下着姿になった和美が田所に尋ねると、

「いえ、下着は結構です。

 では、まずはこの薬を飲んでみてください、
 
 飲みやすい味にはしていますよ」

「はい…」

和美は言われるままに薬を何回かに分けて口に運びそしてゆっくりと飲み込む。

その様子をじっと見ていた田所は持ってきたケースから、

ビデオカメラと脚立を取り出すとそそくさとセッティングをはじめた。

「それでは私はこれからの過程を見ないといけないので、

 このまま滞在しますが皆さんはどうしますか?」

そう言いながら彼は部屋にいる全員に尋ねてみたが

科学的な興味が薄いのか社長以外はみな事務所からでて行ってしまった。



和美が薬を飲んでから1時間程が経過すると、

「はぁ…はぁ…」

静かだった和美の呼吸が少しづつ荒くなり始めた。

「どうなされました?」

彼女の変化を見逃さずに田所が質問をすると、

「いっ…息が苦しい…」

胸に手を当てながら和美は彼に訴える。

「ふむ…」

田所は無表情のまま取りだしたノートにペンを走らせる。

ゼェゼェ…

和美の呼吸は次第に荒くなり、

そして、きめの細かい肌には大量に脂汗が流れ始める。

ジワッ…

彼女の肌に徐々にまだら状の模様が浮き出て来た。

「うっ!!」

突然和美がうめき声を上げると、

「お、お尻が……、お尻が千切れちゃうッ……」

呻き声をあげながら和美がそう訴えると、

モリモリモリ…

彼女のパンティを押し上げるようにして突起物が盛り上がると見え隠れしはじめた。

そして、それはさらに急速に成長すると、

ビリビリ!!

と言う音を立ててついにパンティを破り表に飛び出した。

プルンプルン

それは表に出た”それ”は左右に大きく動く、

「いやぁぁぁ!!」

お尻を押さえながら和美が悲鳴を上げると、

「ふむ…私の予測では次は手足に変化が訪れます、

 社長!見て下さっていますか?」

と田所は幸蔵に話しかけたが

しかし幸蔵は和美のお尻から尻尾が飛び出した時点で、

驚きのあまりノビてしまっていた。

「グ、ギ・ギ……、

 苦しい、助けて……」

うめき声を上げながら和美が転がり回ると、

彼女の白い手足が見る見る萎縮するのと同時に手足全体が急激に膨張しだした。

一方、和美の肌は完全に人というより爬虫類を思わせる様相になっていた。

ググググ…

田所の予想通り和美の手足の指が徐々に飲み込まれていく、

そして変化が終わった頃には和美の両手足は、

まるでヘラの様な肉塊へと変わり果てていた。

しかし、和美は繰り返し襲う苦しみに驚いている暇はなかった。

パタパタ

ヘラのような手足を盛んに動かしながらうめき声を上げ続ける。

そして、変化は和美のさらに体全体にも現れ、

ムクムク…

と身体が膨れ始めると

バチン!!

伸びきっていたブラが切れて弾け飛ぶと、

その下にあった決して豊かでは無かった胸も

まるで押し潰されたかのように消滅していた。

「せ、背中が切れちゃう…、お腹も痛い…」

声を出すのがやっとな状態で和美が叫ぶと、

いつの間にか膨れあがった彼女の背中とお腹の皮膚に1本のヒビが走っていった。

ビキビキ!!

と高い音色を発しながら1本のヒビからさらに割れていく、

グイッグイッ!!

彼女の呼吸に合わせて背中のヒビの中から何かが見え隠れしながら

徐々に何かが出てくる、

「ふむ…甲羅がでてきたか」

あくまで田所は冷静さを装いながら和美の変体を見届けていた。

ムクッ、ムクッ

甲羅は和美の背中の皮膚を破りながらユックリと成長し、

やがてが彼女の首から尻尾の付け根辺りまで成長した頃には

立派な紋様も出来上がっていた。

ゴロン!!

田所はお腹の部分が気になったのか和美の身体をひっくり返してみると、

そこはまだまだ変体途中だった。

腹筋が縦横無尽に動き回り徐々に収まっていくと

それに従い割れ目も出来、見る見る堅くなっていく。

「うーん、ここまでは動物実験でも成功したが

 ここからが問題なんだな……」

田所がそう呟きながら眺める

和美の頭から下はどうみてもウミガメの姿になっていた。

しかし、急激な変体に体力を使い果たしたのか

何時の間にか和美は気を失っていたのであった。

「では、こいつの出番じゃな、

 成功するといいのだが、なにせ初めての人体だからな」

と先ほど薬と一緒に取り出した注射を和美の喉と眉間に刺すと田所は一息ついた。

「まぁ、彼女の叫び声が目覚ましになるだろうしその姿では部屋から出られまいて」

そう呟くとバックの中からタオルケットを取り出すと

田所は和美の身体をを枕にして仮眠を取った。

彼が仮眠を取ってから3時間は過ぎただろうか、

「うっ…」

和美がようやく目を覚ました。

「な、何!?

 お、起き上がれない???」

自分の身体の変調に気づき、

思わず首を左右に振るとヘラのような肉塊と化した腕が目に入ってきた。

「な、何これ?、しかも…私の身体から出ている?」

ようやく事の次第が分かると膨張して変わり果ててしまった腕を動かしてみた。

「感覚があるし…

 動いてる!?
 
 イ、イヤーッ!!!」

田所の予想通りに和美が絶叫し泣き出すと

それを目覚ましとして彼も目を覚ました。

「お目ざめですか、

 では、コレまでの経緯をお見せましょう。

 ビデオを見せますからしばらくお待ちを…」

そういうと彼は部屋にあったTVを使って上映会を始めたのだった、

和美は自分の身体が見る見る別の生き物に変わっていく様子を見せつけられる

「そっそんなぁ…」

彼女はそう呟くと興奮し卒倒しそうになった。

すると、和美の変身が再び始まった。

首周りがムズムズしだしたと思うと、

「ウゴッ!!」

ムニムニムニ…

彼女の首回りが顔程に太くなり、

さらに、

グニュッ!

グニュッ!!

っと激しい伸縮が起った。

そしてようやくそれが収まった頃には、

和美は言葉を喋ることが出来なくなり

「ウッウッウ…」

泣き声だけが部屋に響くのであった。

さらに、顔に異常なまでの痒さが起こったと思うと

今度は鼻は潰れ、さらに後頭部が無くなると

文字通り和美の頭は首と一つになってしまった。

「ギュウ…ギ!?」(口が…何!?)

そう声を発すると口が縦に裂け、

「フグゥゥゥゥゥ…」

グググググ…

裂け目の中から嘴が突き出す様に生えて行く、

実に短期間ともいえる変体を繰り返して、

和美の身体は完全なウミガメへと変貌して行った。

しかし…

「うーん?

 体毛が抜けていないし

 これが今後の課題だな、
 
 これでは完全とは言えんな」

と田所はそう呟くと、

和美の唯一の人間の証として残った髪の一部を軽く引っ張ってみた。

すると、

スルリ

意外にもあっさりと抜けてしまった。

「なんだ…」

自然には抜けなかったものの強度は弱くまた抜けた部分からは地肌が見えていた。

「これならわざわざ剃り落とさなくても一まとめにして一気に引き抜けるな」

そう言うと田所は髪をロープに縛り付けると、

甲羅を足に掛けると一気にロープを引いた。

「ギーッ?、グ、グ」

と叫び声にも聞こえる和美の泣き声と共に、

全ての髪が頭から抜かれると彼女は坊主頭となった、

こうして和美はどこからどう見ても正真正銘のウミガメになってしまった。

田所は社長を起こすと自慢気にウミガメへと変貌した和美を披露した。

「こ、これがさっきまで姉ちゃんだったのか?、

 はぁぁぁぁぁ……」

幸蔵は感心と半ば呆れた様に驚きながらもウミガメと化した和美の全身を撫で回す。

「では作業に取り掛かるかな、

 ワープロで遺書作りをしてと?
 
 おぉ、いい証拠品があるな」

幸蔵は和美の髪の毛に注目したかと思うと、

最初に文面の要旨にこう書き加えたのだった。

「私は物欲に負け借金を苦にここに身を投げますが

 保険金で借金を完済できる事でしょう、

 せめてもの罪滅ぼしに髪を剃り落とし丸坊主になる事で反省の意を表します」
 
と。

完成した文面を満足気に眺めると

幸蔵は彼女の備品と髪を携えてクルマで某所へと向かった、

「よしっ、ここなら浮かんでこれないと思うだろうし捜索も不可能だろうに…」

そこは身投げで有名な滝壷であり、

また遺体が浮かびにくい事でも有名な場所であった。

一方、ウミガメになってしまった和美は

その後、同じように実験台にされた元女性と供に田所の照会で

オープンしたばかりの水族館へと引き渡されて行った。

「希少動物はワシントン条約の関係で捕獲できませんからね」

そう言う田所に、

「ははは…なるほどこれはいいビジネスだ」

幸蔵の高笑いが事務所に響いていく、



おわり



この作品はHARUさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。