風祭文庫・獣変身の館






「土蔵の奧」



作・風祭玲


Vol.827





広大なるサンクルミエール学園。

地平線まで広がるその広大な敷地には、

いまだに人間が踏み入れたことがない太古の姿を留めるジャングルを手始めに

無数の野生動物が闊歩するサバンナ。

恐竜の目撃情報が途絶えない神秘の湖。

いつくもの探検隊を飲み込んだ灼熱の砂漠、

氷河が光る標高8000m級の山岳地帯から、

色とりどりのさんご礁と鯨が跳ねる海洋まで、

この星に存在するありとあらゆる秘境が詰まっていると言い伝えられている。

そんな学園の一角、

昼下がりのカフェテラスに夢原のぞみの驚いた声が響くと、

「うん、そうなのよ」

彼女の1つ上の先輩である秋元こまちは困った顔をしながら、

「どうしても、のぞみに来てもらいたいんだって」

紅茶のカップをテーブルに置く、

「はぁ」

彼女のその言葉にのぞみは肩に掛かる髪を軽く揺らせながら頷くと、

「行ってあげるべきだと思うわね、

 雪城さんのお婆さまでしょう?

 のぞみを呼んでいる人って、

 ピンキーを捕まえるときにお世話になったしね」

二人の話を聞いていた同じ先輩で生徒会長の水無月かれんもこまちの意見に同意する。

しかし、

「うーん」

肝心ののぞみは乗り気ではなかった。

「なにか行けない理由でも?」

「ううん」

「じゃぁ問題ないでしょう?」

「それはそうだけど…」

いつもならこの手の話が終わるのを待たずに飛んでいく彼女なのだが、

妙に慎重なことを不審に思った二人はその理由を尋ねる。

しかし、返ってくるのぞみの返事は曖昧なものであった。

すると、

「そういえばさっ、

 雪城さんのところで飼っていたワンちゃん…

 忠太郎君って言ったっけ、

 その忠太郎君がいなくなってしまったそうよ、

 ひょっとして、

 寂しさを紛らわせたいんじゃないかな…

 行ってあげたら?」

ずっと話を聞いていた春日野うららが口を挟んできた。

「そっそうなの

 でも…」

それを聞いたのぞみは驚くものの、

「(ほのかさんだっけか、

  何かあの人…なんか怖いんだもん)」

と雪城家に住むもう一人の住人、

孫娘である雪城ほのかのことを思い出していた。



それは1週間ほど前のことだった。

キュアドリームに変身したのぞみは仲間達と共にコワイナーを退治したのだが、

しかし、その際に捕まえかけていたピンキーが逃げ出してしまったのであった。

そして、散々逃げ回った末に雪城邸内に逃げ込んでしまったが、

こまちの機転から、

のぞみたちは屋敷を守る雪城さなえに話を誤魔化しながらも事情を話し、

その庭先に逃げ込んだピンキーを捕らえることが出来た。

ただ、そんな自分達をジッと見つめている二つの目、

そうこの邸内のもぅ一人住民であるほのかの姿が頭によぎったのである。

「はいはい。

 ご氏名が来ているんだから、

 さっさと行くぅ」

考え込んでいるのぞみの背中を幼馴染である夏木りんが押すと、

「あぁ、ちょっとぉ!」

そういい残して二人は去っていった。



「うー、

 なんかここに入るのって嫌なんだよなぁ」

街中に建つ総和風作りの邸宅・雪城邸。

表札の掛かる門の前でのぞみは怯えていると、

「もぅ、シャンとしなさいよぉ!

 のぞみ、あんたリーダーなんでしょう?」

と腰に手を当ててりんが注意をする。

「そんなこと言ったてぇ」

りんの言葉にのぞみは泣き顔にありながら文句を言うと、

「まったく」

そんなのぞみを横において

カチ!

柵が閉じられている門の呼び鈴を押すと、

「夢原でーすっ、

 お婆さんに呼ばれましたので参りましたぁ」

と声を張り上げた。

「ちょちょっと、

 りんっ」

彼女のその行為にのぞみは慌てると、

「どうぞ」

と返事の声が響く。

「じゃぁねっ、

 のぞみっ

 頑張ってきてね」

そう言いながらりんは開かれた門の前で固まってるのぞみの背中を、

ドンッ!

突き飛ばすようにして押すと、

「うわぁぁぁ」

のぞみは悲鳴を上げながら雪城邸内へと入って行く。

そして、

手を振るりんとのぞみの間を引き裂くように門が閉じられると、

「とほほほ…」

のぞみは奥に建つ本宅へと歩き始めたのであった。



「ごめんくださぁい。

 夢原ですけどぉ…」

その本宅のドアの前に立ったのぞみは声を張り上げて、

玄関の引き戸を引こうとしたとき、

ガラッ…

それよりもワンテンポ素早く戸が開くと、

「あら、夢原さん。

 来てくれたのね」

と笑みを見せながら雪城さなえが姿を見せた。

「あっあの…

 あたしに用事って…」

さなえを見ながらのぞみは呼ばれた理由を尋ねると、

「本当はあなたを呼んだのはわたしではなくて、

 孫娘のほのかなのよ」

とさなえは答えると、

「ほのか、

 ほのか、

 夢原さんが見えられましたよ」

そう奥に向かって声を上げた。

すると、

トタトタトタ

屋敷の奥から人が走る音が響き、

「あっ来てくれたの?」

と白衣姿の雪城ほのかが姿を見せた。

「どっそうも…

 (良く見ると…

  なんか、こまちさんか、かれんさんに似ているような)」

間近に見るほのかの顔をしげしげと見ながらのぞみはそう思っていると、

「ちょっと、こちらに来てくれる?」

降りてきたほのかがのぞみの手を引くと、

「え?

 あっあの…」

有無も言わさずにのぞみは連れて行かれた。



二人が向かったのは本宅から離れたところに建つ土蔵だった。

「こっちよっ」

重々しい土蔵の戸を開けてのぞみを招き入れると、

ドーン!

目の前に鈍く光るレールと共に流線型をした鉄道車両が姿を見せる。

「なっなんですか、これは?」

白い車体の車両を見上げながらのぞみは声を上げると、

「うふっ、

 これはねっ

 時を駆ける列車、

 デンライナー・ゴウカよ」

とほのかは笑みを浮かべながら答える。

「え?」

ほのかの口から出たその返事にのぞみは固まってしまうと、

「あたしの最高傑作品。

 時を駆けながら、

 業火の食堂車でなぎさやひかりさん達とランチを食べる。

 それがあたしの夢…

 のぞみさん、

 過去と未来…あなたならどちらに行きたいですか?」

ほのかは笑みを見せながらゴウカを愛しそうに撫で、

そして、チラリとのぞみを見ると、

「実はね、

 この間、試運転をしてみたの…

 最初は何も乗せないでの時間旅行。

 試運転はうまく行ったわ。

 それで次は忠太郎を乗せて走らせたんだけど、

 その時、不具合が起きてしまったの。

 あたしは大慌てで業火を戻したんだけど、

 でも、忠太郎の姿はどこにも無かった。

 忠太郎は時間と時間の狭間に挟まれてしまって消えてしまったの。

 この砂を残してね」

とほのかは説明すると、

小瓶に入った砂をのぞみに見せる。

「そっそれで、

 あたしに何を…

 まさか、この電車に乗って欲しいって言うんですか?」

一歩距離を置きのぞみは聞き返すと、

ほのかは静かに首を横に振り、

改めてのぞみを見ると、

「今度のプリキュアは5人も居るんですって?」

いきなり話を変えた。

「え?」

思いがけないほのかの言葉にのぞみは声を詰まらせると、

「ねぇ、この間あなた方が捕まえていたアレってなぁに?

 シークン達みたいなものなの?」

と興味津々に尋ねてくる。

「あっあれは…ピンキーと言って…

 ドリームコレットに…

 ってなんで、そんなことを尋ねるのですか?」

身を乗り出すほのかに向かってのぞみは聞き返す。

「あたしもね…

 昔はプリキュアだったのよ」

とほのかは答えた。

「うそっ」

ほのかのその言葉にのぞみは声をつまらせると、

「うふっ、

 もぅ随分と前になっちゃったけどね。

 なぎさと二人でドツクゾーンやジャークキングと戦って…

 いまこうしてこの世界があるのも言ってみればあたし達のお陰かな」

口先に人差し指を当てながらほのかは昔の活躍を語り、

そして、改めてのぞみを見ると、

「5人も居れば1人ぐらい居なくなっても判らないよね。

 だってプリキュアは2人も居れば十分なんだから…」

と呟くや否や、

パチンと指を鳴らした。

すると、

「お呼びですか、ザケンダー」

「ただいま参りました、ザケンダー」

執事服を身に纏い海坊主を思わせるノッポとチビの執事が姿を見せ、

さらに、

「お呼びでございますかぁ〜」

羽を羽ばたきながらインコも姿を見せ、ほのかの肩に止まる。

「なっなんですかっ

 それって!」

突然あらわれた執事とインコを指差してのぞみは声を上げると、

「この方達はねぇ、

 元はあたし達が戦っていた敵…だったんだけどね、

 でも、居場所が無くなちゃったので、

 あたしのところに来てもらったのよ」

とほのかは彼らを紹介する。

そして、

「執事さん、

 夢原さんにアレを見せてあげて」

執事に向かってほのかが指示をすると、

「畏まりましたザケンダー」

チビ執事が返事をして、

クイッ!

と天井から伸びる紐を引っ張った。

すると、

ガコンッ!

土蔵の奥の壁が競りあがり始め、

光に満ち溢れたあるものが姿を現す。

「うわっ、

 すごい…」

驚きの声を上げるのぞみの前に広がる光景、

それは、

まさに犬のワンダーランドであった。

体育館並みの広さを誇る広大な部屋には

今古東西の様々な犬用のおもちゃがこれでもかと置かれ、

さらにドッグラン・コーナーや

犬用ハウスが並べられているコーナー、

さらにはトリミングのコーナーまでもが用意され、

どんな犬でも一日居ても飽き足らないであろう。

と思わせるほどの夢の遊園地と化していたのであった。

「雪城さん…

 あの…これはいったい?」

呆気に取られながらのぞみが尋ねると、

「うふっ、

 凄いでしょう

 ここなら忠太郎も一日中遊んでいられるわね」

とほのかはのぞみの話を聞かずに胸を張る。

「忠太郎さんって…

 さっき居なくなったって…」

そんなほのかを横目に見ながらのぞみは冷や汗を流していると、

「では失礼しますザケンダー」

執事とインコはそういい残して去ると、

ギィ…

ガコンッ!

のぞみが入ってきた入り口が重々しい音を響かせながら閉じられてしまった。

「あっ」

それを見たのぞみは思わず声を上げると、

「ふふふふ…」

意味不明の笑い声を上げながら

ほのかは乗馬用にしては長さ1mほどもある鞭を取り出し、

ヒュンヒュン

とそれを鳴らせながら、

「さぁ、忠太郎。

 お前はここで遊ぶのよ」

と言う。

「え?

 いまなんて…

 それに、それって」

ほのかの手にある鞭を指差し

のぞみは顔を引きつらせると、

「忠太郎ぉ…」

そう言いながらほのかは手にした鞭を大きく振りかぶり、

ビシィ!!!

と渾身の力を込めてのぞみの尻を叩いた。

「ひっ!」

痛いというより熱いと表現すべきその痛みにのぞみは飛び上がってしまうと、

ビシィ!!!

ビシィ!!!

さらに立て続けに2発、続けざまにのぞみの尻は叩かれ、

「ひっ

 痛い、

 痛ぁぁぁぃ!」

ジンジンと腫れ上がってくるお尻を押さえながら

のぞみはその場に蹲まろうとしたとき、

ビシッ!!

今度はのぞみの首筋が打たれ、

さらに足払いをもされてしまうと、

「きゃんっ!」

軽い悲鳴を上げながら、

のぞみはその場に這い蹲りにされてしまった。

「うぅぅ…」

痛むお尻を押さえながらのぞみは唸っていると、

「ふふふっ

 忠太郎って全然躾がなってないわ」

ほのかはのぞみを見下ろしながらそう呟き、

「なんて悪い子になっちゃったの、

 忠太郎はそんな悪い子ではなかったのに…

 お仕置きよ!

 お仕置きよ!」

と声を張り上げながら、

ビシッ!

ビシッ!

幾度も幾度ものぞみの尻を叩く、

そして彼女の腕が振り降ろされるたびに、

「痛いっ」

「やめて」

「お願いっ」

「痛いっ」

「いやっ」

のぞみは悲鳴を上げるが、

「何て声を上げるのっ

 何て反抗的なのお前わぁ!」

その声が余計にほのかの怒りを買い、

さらに腕に力が入ると、

ビシッ!

ビシッ!

その音は大きくなった。

「あぐっ!」

「うぐっ!」

一段ときつくなった痛みにのぞみは涙を流しながらただひたすら耐え、

そして、

「ハァハァハァ

 ハァハァハァ」

ようやくほのかの腕が止まったときには、

彼の下には破けたスカートから赤く腫れ切った尻を晒すのぞみの姿があり、

「うぅぅぅぅ…」

声を殺す様にして泣き続けていた。

しかし、ほのかはそんなのぞみを介抱することなく、

鞭の先をのぞみの顎の下に差し込み、

ゆっくりとその顔を持ち上げながら、

「ん?

 なぁに忠太郎。

 変な服を着ちゃって

 人間の真似事をしているって言うの?」

と問い正した。

「ひぃ!」

ほのかの目が放たれる視線にすっかり飲み込まれてしまっていたのぞみはガタガタ震えながら、

着ていた服を脱ぎ始めると、

上着、

そして、スカートを放り投げ、

下着姿になってほのかを見上げた。

だが、

「な・ぁ・に、

 こ・れ・は」

のぞみの胸を股間を覆っている下着を、

一つずつ鞭で叩きながら指摘すると、

「うぅっ」

彼女は目から大粒の涙を零しながら、

下着を全て取ると全裸となった。

「うむ、よろしい」

尻から太股にかけての腫れが痛々しい姿を見せつけながら、

裸になったのぞみを満足そうに見下ろしながらほのかは頷くと、

ニコリ

ほのかは満面の笑みを作り、

「さぁ、お腹が空いたでしょう、

 忠太郎、

 ほら、ご飯を用意していたわよ」

と言うと、

コト、

のぞみの前にドッグフードが山盛りの皿を置いた。

「うっ」

それを見たのぞみは顔を引きつらせると、

「いやっ!」

声を上げて逃げ出そうとするが、

ガシッ

ガシガシッ!

入ってきた入り口は硬く閉じられ、

いくらのぞみが引いても押しても開くことはなかった。

ドンドンドン!

ドンドンドン!

「助けて!

 執事さんっ!

 ここを開けて!」

表にいるであろう執事に向かって声を張り上げるが、

だが、いくらのぞみが叩いても声を張り上げても、

閉じられた入り口は開く事はなく、

無情にも閉じ続けていたのであった。

「お願い…

 ここから出してぇ、

 りんちゃん。

 うららちゃん。

 こまちさん。

 かれんさん。

 誰かぁ、

 誰かぁ助けてぇ!」

泣きじゃくりながらのぞみは訴えていると、

その背後に人影が立ち、

バンッ!

「うぐぅぅ」

のぞみのわき腹に強い衝撃が襲った。

それと同時に彼女は脇を抑えながら蹲ると、

「忠太郎、

 お前はとっても悪い子よ、

 その性根をたたきなおしてあげるわ」

そう言いながらほのかはのぞみに迫り、

そして、

手にした鞭を大きく振り上げると、

「ふんっ!」

それを一気に振り下ろした。

バシッ!

ビシッ!

バシッ!

部屋中に鞭の音がこだまし、

「ギャァァァ!!」

追ってのぞみの悲鳴が響き渡るが、

ほのかの腕は止まることはなかった。

そして1時間ほどが過ぎたとき、

『ほのか様っ

 なぎさ様とひかり様が見えられましたが』

とインターフォン越しに執事ザケンダーの声が響いた。

それを聞いたほのかの手が止まると、

コロッと表情が変わり、

「はーぃ、いま行きますわぁ」

と返事をすると、

「忠太郎、

 ちょっと出かけてくるわね。

 大人しくしているのよ」

そう言い残してほのかは出て行くが、

しかし、彼女が去ったあとには体中に赤紫色の痣を作り、

腫れて歪んだ顔を晒すのぞみの姿があった。



やがて、なぎさ達と楽しいひと時を過ごしたほのかが戻ってくると、

「忠太郎、

 罰としてこれをつけるのよ、

 いいわねっ」

そうほのかは冷徹にのぞみに告ると、

彼女の目の前に革製の拘束具が投げ落とされ、

動けないのぞみを無理やり抱き起し、

ギュッ!

ミシッ!

ガシッ!

傷だらけの身体に皮製の拘束具が取り付けてしまった。

この拘束具によってのぞみは立って起き上がることも、

手足を伸ばすことも出来なくなり、

まるで犬のようにヨツンバで這い回ることしか出来なくなってしまった。

「うぅぅ…」

這ってあることとしか出来なくなったのぞみが声を殺しながら泣き始めると、

「さぁ、忠太郎、

 ご飯をお食べ」

と言いながらほのかはのぞみに向かってドッグフードが入った皿を見せる。

グッ

その言葉とドッグフードを見たのぞみは躊躇いを見せるが、

「どうした?

 食べないのか?」

再度話しかけられると、

ズル

ズルズル

のぞみは不自由な身体を引きずりながら、

ドッグフードが盛られた皿へと進んでいく、

そして、

ポタ

ポタポタ

鼻血を垂らしながら皿に盛られたドッグフードを食べ始めた。

「うんうん、

 忠太郎は良い子。

 たんと食べるのよ」

そんなのぞみの姿にほのかは満足げ笑みを浮かべるが、

ハグハグ

ハグハグ

さらに顔を突っ込んでドッグフードを食べるのぞみの瞳からは、

涙が留めなく溢れ返り、

「お願い…これが悪夢なら醒めて」

と願いながら食べ続けていた。

だが、

「さぁ、ご飯を食べたら運動よ」

ほのかの声が響き渡ると、

のぞみの首に赤い首輪が巻かれ、

背中に金属製のファスナーのような物体が貼り付けられた。

その瞬間、

ピキッ!

のぞみの頭に刺激が走り、

ムズッ!

同時に体の中を何がが蠢きはじめる。

すると、

「あぁぁ

 あうあう…」

のぞみの口から言葉とも唸り声とも判断の付かない声が漏れ、

呂律は回らなくなり始めた。

「(言葉が…

  思うように出ない)」

口を開けてのぞみは必死に声を出そうとすると、

「どうしたの?

 忠太郎、

 体の具合が悪い?」

と心配そうにほのかは覗き込んだ。

「(あっ、また鞭で打たれたら…)」

そんなほのかの顔を見たのぞみは鞭打ちの恐怖心から

四つん這いのままで歩き始めると、

「うん、

 そうそう

 忠太郎は元気よね」

ほのかは目細めながら喜び、

さらに、

「そーれ、

 取って来ーぃ」

とヌイグルミが放り投げられたると、

のぞみは口で咥えてほのかの下へと持って行った。

そんなことを数回繰り返した時、

ブルッ!

のぞみは尿意を便意をもよおしてきた。

「あぁぁ…

 おぉとっ

 トト・トイレ…

 おおぉ・お願い、

 トトイレに行かせて…」

呂律の回らない口で

のぞみはほのかに懇願すると、

「なに?」

一瞬、ほのかの眉が動く、

「あぁ…

 うぅ…

 わんっ

 わんわんわん」

その表情を見たのぞみは、

初めて犬の鳴き声をあげて見せると、

「ん?

 あぁ、トイレね、

 そうねぇ」

そんなのぞみの気持ちを察してかほのかは優しく言いながら、

「さぁ、

 ここでしなさい」

と部屋の隅に犬用のオシッコを広げて見せた。

「・・・・・・」

もはやのぞみは何も言えなかった。

絶望感に打ちひしがれながら、

のぞみはそのシートの上に這って進むと、

顔を伏せながら、

シートの上に放尿と便を落とした時、

モリッ!

のぞみの奥で何かが目覚めた。



やがて日が暮れ、

「さぁ、

 ハウスにお入り、

 忠太郎」

犬用の寝床を指差してほのかが指示すると、

「わんわん」

のぞみは返事をしながら、

寝床へと向かっていく、

そして、その上で身体を横たえると、

「よしよし、

 また明日遊ぼうね、

 お休み、忠太郎」

ハウスに入ったのぞみの頭をほのかは撫でなでると部屋から消えて行くが、

だが、

「うっううううう…」

のぞみの顔に涙が筋を作っていくと、

その日の夜は、

何時までものぞみの泣き声は消えることはなかった。

そして、日が昇り、

「忠太郎!

 何度言ったら判るの!」

ほのかの怒鳴り声が響くと、

ビシッ!

ビシッ!

部屋に鞭の音が響き、

「ぎゃぁぁ!」

のぞみの悲鳴が追って響き渡る。

だが、そんな日々を重ねるうちに、

次第に鞭の音は消え、

代わりに

「わんわんわん」

と元気の良い犬の泣き声が響くようになっていった。

そして、

「ハッハッハッ」

口から舌を伸ばし、

四つ足で元気良く這っていくのぞみの表情には、

以前の面影はどこにもなかった。

のぞみは自分が何であったのか忘れてしまっていたのである。

ほのかに褒められることがこの上なく楽しく、

自分から率先してヌイグルミを咥えながら、

ほのかに甘えることで、

自分は犬である。

自分は忠太郎という名前の犬である。

と思うようになっていった。

こうして、身体中に出来ていた痛い痣は日に日に姿を消し、

鞭で打たれ腫れていた顔も元へと戻っていくが、

その頃からのぞみの身体に異変が起き始めていた。

ムリッ!

のぞみの鼻から口にかけてが前に突き出してくると、

張りのあった皮膚はたるみ、

這いずるたびに、

その下で別の何かが動き始める。

また手も指が力なく垂れ下がり、

足も垂れ下がった皮膚を引きずるようになって行く。

そして、

ガリッ

ガリッ

ガリガリッ

のぞみは体中を襲う猛烈に痒みに悩まされるが、

だが、心の底から犬となってしまったのぞみには大きな悩みではなかった。



「こっちにおいで、

 忠太郎」

それから数日後

ほのかがのぞみを呼ぶと、

タタタっ

ハッハッハッ

のぞみは舌を出しながら、

嬉しそうにほのかの下に行くと、

ゴロンとお腹を見せていた。

「忠太郎、

 わたしのとっても可愛い忠太郎」

ほのかはのぞみの頭を愛しそうに撫で回し、

そして、

「さぁ、忠太郎、

 今日はね、

 本当の姿に戻してあげようね。

 いまの忠太郎は悪い奴の悪戯で、

 変な皮を被されているのよ」

と言いながらほのかはのぞみの身体に取り付けられた拘束具を外していく、

そして、全ての拘束具を外すと、

彼女の背中に付けたファスナーに手を伸ばし、

ジャッ!

ジャッ!

っとファスナーを動かしていく、

すると、

ファサァ!

ファスナーが開けた切れ目より淡い茶色をした毛が飛び出し、

「うわぁ…」

それを見たほのかの目が嬉しそうな形へと変わると、

さらにファスナーを動かして行く、

やがて、ファスナーがお尻まで来たとき、

ブルンッ

のぞみのお尻から毛の長い尻尾が飛び出す。

「よいしょ」

飛び出した尻尾のあたりからほのかはのぞみの身体の中へと手を差し込み

ズルッ

ズルズル

っとのぞみの皮を押し下げていく、

そしてついに、

ハラリ…

のぞみの皮が下に落ちてしまうと、

「うわんっ!」

大きく声を張り上げて尻尾を振る、

毛並みの良いゴールデンレトリバーが姿を見せた。

「忠太郎、

 忠太郎、
 
 忠太郎、

 会いたかったぁ」

人間の皮を脱いで姿を見せた忠太郎をほのかは抱きしめ、

そして、

「さぁ、忠太郎。

 ゴウカに乗りましょう。

 大丈夫よ。

 今度は失敗しないわ」

忠太郎に向かってほのかはそう告げると、

隣の部屋で待機しているデンライナー・ゴウカへと連れて行く。



ヒュォォォン…

忠太郎を乗せたゴウカが唸りを上げて時間軌道を進んでいくのをほのかは見送ると、

「さぁて、

 今度は大丈夫だと思うけど…

 仮に失敗したとしてもプリキュアはまだ4人も居るんだから

 まだまだ大丈夫!

 うん!」

と囁き、

キラッ!

彼女の目が怪しく輝いた。



おわり