風祭文庫・獣変身の館






「魔除けの牙」
(ふたりはプリキュアSS・二次創作作品)


作・風祭玲


Vol.762





『やれやれ、困ったものですなぁ…

 キントレスキー殿の身勝手さにも、

 わたしに太陽の泉の在り処を聞き出せとは』

満月の明かりが照らすススキの原に、

地中から湧き出るようにして、

和装姿のゴーヤンがブツブツ文句を言いながら姿を見せると、

『して、

 キントレスキー殿は何処に?』

とダークフォール最強の戦士である

キントレスキーの姿を探してみるが、

だが、ススキの原にはネコの子一匹すら居なかった。

『おんやぁ?

 今回もまた小手調べでしたかぁ?』

無人のススキの原を見渡しながらゴーヤンは怪訝そうな表情をすると、

『さて、

 いかがいたしましょうか。

 このまま戻ったのではアクダイカーン様に咎められますしぃ』

そう言いながらキョロキョロと周囲を確かめ、

そして、ある方向を見定めると、

『ふむっ』

ゴーヤンは大きく頷いてその姿を消した。



「おやすみなさい」

美翔家でのお月見会が終わり、

健太・優子・仁美、そして咲が舞の自宅から出てくると、

見送に出た舞たちに挨拶をする。

「気をつけてね」

そんな4人に兄の和也が声をかけると、

「はいっ」

咲は元気よく返事をする。

すると、

「あはは、

 咲は大丈夫だよな

 変な奴が現れても真っ先に逃げ出すよ」

と健太が茶々を入れると、

「ちょっと、健太っ

 それってどういう意味?」

すかさず咲は怒鳴り返すと、

「おーこわっ

 オコワ。

 なんちゃって」

と健太は自慢の駄洒落を入れるが、

「はぁ?」

さすがにその駄洒落は優子ですらスルーしてしまった。

すると、

「あぁ、咲ちゃん」

舞の父が咲を呼び止めると、

「これをみのりちゃんに」

と言いながら包みを差し出した。

「これは?」

包みを受け取りながら咲は中身を尋ねると、

「お月見のお団子よ

 ご家族で食べてね」

と舞の母が説明をする。

「うわぁぁ、

 ありがとうございます。

 みのり喜びますぅ」

それを聞いた咲はいつもの笑顔を見せると、

「あっあたし送っていくね」

と言いながら舞が咲の傍に駆け寄った。

「おっお熱いねっ

 お二人さんっ」

それを見た健太が声を上げると、

「健太ぁ?

 なに言っているのよぉ」

と咲は睨みつけていた。



リーリー

リーリー

草むらから響く虫の音を聞きながら

咲と舞が歩いていくと、

『ラピー』

『チョピー』

二人の胸元からフラッピとチョピが飛び出し、

二人の前を歩き始める。

そしてさらに、

『ムプー』

『フプー』

とムープとフープも姿を見せると、

「ねぇ、舞」

と中空に掛かる月を見ながら咲が声をかけた。

「ん、なに」

その声に舞は咲を見ると、

「満と薫…

 今頃どうしているかな」

咲は自分達を逃がすために

身代わりとなった満と薫のことを言う。

すると、

「そうねぇ、

 ミズシタターレの話では、

 アクダイカーンに捕らえられているみたいだけど、

 ひどい目に会っていなければいいけど」

それを聞いた舞はあの二人のことを心配する

とそのとき、

「あれ?

 舞っ

 それってなぁに?」

舞の胸元で輝く白いものを指差して咲が尋ねると、

「え?

 あぁ、これ、

 ニホンオオカミの牙よ

 お母さんが遺跡の発掘で見つけたの。

 なんでも、古代ではオオカミは神聖な生き物で、

 その牙は魔よけとして用いられたんだって」

と舞はペンダントにされた牙を掲げて説明する。

「へぇぇ

 そうなんだ…

 でも、月の光を受けて輝く牙って、

 なんだか不思議な力を感じるね」

それを見た咲はそう言うと、

『確かに力を感じるラピー』

『うん、とっても不思議な力チョピー』

とフラッピとチョッピも同じことを言う。

「そんな…、

 だってこれって、

 大昔のものよ」

それを聞いた舞は少し困惑しながら言うと、

ピーン!

突然、フラッピとチョッピの耳が伸び、

『嫌な気配を感じるラピー!』

『すぐそこにまで来ているチョピ』

と迫ってくる気配に警戒をした。

「そんなっ」

「またあの人が」

すかさず咲と舞は

夕方戦ったキントレスキーの再襲来かと周囲の気配を探ると、

『おやおや、

 このような夜更けにお散歩とは、

 頂けませんなぁ』

と言う声が真上から響いた。

「え?」

「あっ!」

その声に咲と舞は上を向くと、

「あなたは」

「ゴーヤン!」

と電柱の上に浮くゴーヤンを指さして声を上げた。

『ほーほぉほぉほぉ

 ミズシタターレ殿とは違って、

 すぐにわたしの名前を覚えていただき光栄ですな、

 さて、わたしがここに来た理由はお分かりで?』

手を摺りながらゴーヤンは尋ねると、

「もぅっ、

 しつこいわねぇ」

「太陽の泉のことは知りません!」

その質問に咲と舞は続けて返事をした。

『やれやれ、

 相変わらず強情な方達ですなぁ』

そんな二人を見下ろしゴーヤンはため息をつくと、

スゥ

その両手を大きく広げ、

フンッ!

と力を込めた。

その途端、

ゴワァァァ!

広げた手のひらに暗黒のエネルギーが収束し、

渦を巻き始める。

『咲っ、

 舞っ

 変身するラピー』

それを見たフラッピとチョッピが

そう言いながらそれぞれの胸元に飛び込もうとしたとき、

キラ

一瞬、ペンダントの牙が輝くと、

パァァァン!

『チョピィィ!!』

舞の胸元からチョッピが弾き飛ばされててしまった。

「チョッピ!」

「どうなっているの?」

突然の事態に二人は困惑するが、

『ほっ!』

ブォォン!

ゴーヤンが放ったエネルギー弾が襲い掛かると、

「きゃぁぁぁ!!」

たちどころに舞と咲の周囲に土煙の柱が立ち、

二人は引き離されてしまった。

『おやおやおや、

 プリキュアに変身できないみたいですが、

 どうかなされましたかぁ?

 もっとも、わたしにとっては好都合なのですがぁ』

そんな咲と舞の姿を見ながらゴーヤンはニンマリと笑うと、

『さぁ、

 プリキュアに変身できなくても手加減はしませんよぉ』

と言いながら、

『ほぉっ!』

ブォォォン!

ゴーヤンは矢継ぎ早にエネルギー弾を打ちまくり始めた。

「きゃっ!」

『舞ぃ』

『咲っしっかりするラピー』

プリキュアに変身できないまま咲と舞は翻弄され、

次第に追い詰められていく、

「くっそぉ!

 何がおきているの?」

焦りを感じながら咲は舞を見ると、

ポゥゥ…

舞の胸元にあるオオカミの牙が輝きを増し、

そして、その光は次第に強くなり始めていた。

「まっ舞っ

 その牙、

 おかしいよぉ」

すかさず咲はそのことを指摘すると、

「え?

 いやっ

 なにこれぇ」

カァァ…

光を強めていく牙に舞が気付いた。

そして、

『その光がチョッピを弾いたラピー!

 舞っ、

 それをすぐに外すラピっ!』

とフラッピが声を上げると、

『月の力が暴走しているムプー』

『危ないフプーっ!』

フープとムープが悲鳴を上げた。

すると、

『おやおや、

 仲間割れですかぁ?

 いけませんなぁ!』

両手にエネルギー弾を収束させたゴーヤンが急接近し、

そして、それを放とうとした時、

ドォォォン!

舞の胸元の牙から吹き出た光が舞を包み込んだ。

『なんとっ』

その途端、ゴーヤンは急ブレーキをかけるが、

『いやっ、

 なっなにこれぇ!』

光の中で舞は自分の手を掲げながら悲鳴を上げた。

すると、

ジワジワジワ

舞の両手に暗灰色の獣毛が生え始め、

さらにその獣毛は両手だけではなく、

脚からも、

首からも生え出してくると、

ゾワゾワゾワ

瞬く間に舞の身体を包み込み、

さらに、

メリメリメリ!

その体つきも変化し始める。

「なっなんなのっ」

『またキツネに変身ラピー?』

それを見た咲とフラッピは以前、

舞がキツネに変身したときのことを思い出すが、

『でも、なんか違うチョピぃ!』

すぐにチョッピが否定すると、

メリメリメリ

舞は両手を地面につけ、

そして、尾を振り上げると、

バサッ!

お団子の髪が一気に解けた。

だが、

顔を覆いつくしたその髪も消えていくと、

鼻を尖らせ、

口を引き裂いていく舞の顔が姿を見せ、

そして、

クワッ!

黒い瞳を大きく見開くと、

ピンっと両耳を頭の上に立てる。

『なんと…

 これも、プリキュアの新しい力ですかっ』

舞の変身を見たゴーヤンは髪の毛を逆立てながら声を上げると、

『うるるるるる…』

獰猛な獣・オオカミに変身してしまった舞は唸り声を上げ、

ゴーヤンを睨みつけた。

『ひぃぃぃ!』

その鋭い眼光に思わずゴーヤンはひるむと、

『ごわぅっ!』

舞はひと吼えすると、

タタタッ!

着ていた服を蹴散らし、

ゴーヤンに向かって駆け出して行く。

「まっ舞っ

 ダメッ!!」

すぐに咲は追いかけるが、

その直後、

『ひぃぃぃ!』

ゴーヤンの悲鳴が上がると、

ガリッ!

彼の袖口は無残に引き裂かれ、

その引き裂いた布切れを口に巻きつけながら、

舞は夜空に飛び上がっていた。

「あれが…

 舞?」

それを見た咲は思わず背筋を寒くすると、

『こんなこと聞いたことがありません、

 でっ出直してきますっ』

冷や汗を掻きながらゴーヤンは怒鳴り、

瞬く間にその姿を闇の中へと消した。

『凄いラピー

 あのゴーヤンを追い返したラピー』

その様子にフラッピは顔を引きつらせていると、

タンッ

舞は咲の前に静かに降り立った。

「まっ舞?

 あたし…わっ判る?」

オオカミの冷たい視線を放つ舞に向かって

咲は恐る恐る話しかけるが、

「うるるるる…」

わずかに開かれた舞の口から出るのは獣のうなり声であり、

その目はジッと咲を見据えていた。

「ちょちょっとぉ

 舞っ

 判らないの?

 あたしよ咲よっ」

必死に舞に向かって咲は話しかけるが、

だが、咲の前にいる舞は既に人ではなく、

一匹の獣であり、猛獣であった。

そして、

ピクッ!

タンッ!

不意に舞の前足が動くと、

タタッ

タタッ

タタッ

咲に向かってまっしぐらに突き進んで来る。

「正気に戻って、舞っ!!!」

向かってくる舞を咲は受け止めようとするが、

『危ないラピー!!!』

咲の危険を察したフラッピが

舞に体当たりをすると、

「ガウッ!」

舞は宙返りをして、

間合いをとる。

「フラッピっ!

 余計なことはしないで!」

そんなフラッピを咲は怒鳴るが、

『咲っ、

 いまの舞には言葉は通じないラピっ

 あのゴーヤンですら逃げ出してしまったラピっ

 生身の咲ではどうすることでもできないラピっ』

とフラッピは声高に叫んだ。

「判っているよ、そんなこと

 でも、

 でも、舞をこのまま放っておけないよぉ」

咲は思いっきりそう叫ぶと、

『牙よ、チョピ』

とチョッピが指摘した。

「え?」

その指摘に咲とフラッピが振り返ると、

『舞がオオカミに変身したのは

 お守りの牙が月の力を溜め込んだためだからムプー』

『その牙を砕けば舞の変身は解けるフプー』

と何処にいたのかムープとフープが藪から飛び出し咲に言う。

「そっそうか、

 あのオオカミの牙が舞をオオカミにしたのね」

それを聞いて咲の目に希望の光が灯ると、

自分の右腕に上着を巻き付け、

そして、

「舞っ!

 こっちよ!」

と声を上げた。

すると、

ギラッ!

舞の目が咲を見据えると、

タタッ

タタッ

舞は風のごとく咲に向かって走り始め、

そして、

タンッ!

咲の目の前で大きく跳ね上がった。

「くのぉ!」

無論咲も持ち前の視力で舞の動きを読み、

そして、上着を巻き付けた腕を出して、

その腕を舞の口の中に押し込むと、

ガシッ!

舞の胸元で輝く牙を左手で鷲づかみにした。

「ごめんね、舞っ」

一瞬、咲は謝って、

そして、思いっきり腕を引くと、

パキン!

何かが割れる音共にオオカミの牙は砕け散ると、

その瞬間。

パァァァァァン!

舞の身体は光に包まれ、

「あっ」

ドサッ!

人の姿に戻った舞が咲の真上から倒れ込んできた。



「舞っ

 舞っ
 
 しっかりして…」

「うんっ

 あれ、咲?」

幾度も呼びかけられる声に舞は目を覚ますと、

自分の視野いっぱいに咲の顔が広がっていた。

「よかったぁ、

 元どおりの舞に戻って」

気がついた舞に咲は涙を溜めながら抱きしめると、

「あたし…

 何をして…」

オオカミに変身していたときの記憶は失ってしまったらしく、

舞は少し混乱するが、

「あっ、

 ゴーヤンは?」

ゴーヤンが襲ってきたことを思い出すと、

慌てて咲を見る。

「大丈夫よ、

 ゴーヤンは逃げていったわ」

そんな舞に咲は優しく言うと、

「逃げてってどうして…

 え?

 あれ?

 なんで、あたし…

 裸なの」

と舞は自分が裸でいることに気づくと、

咲を上目遣いで見ながら顔を真っ赤にする。

「ちょちょっと、

 待って、
 
 舞っ

 何勘違いしているのよ、

 あたしは何もしてないわよっ、
 
 ねぇフラッピ?」

舞の視線に咲はあわてふためくと、

話をフラッピに振った。

だが、

『さぁ、

 何も知らないラピッ』

そんな咲を裏切るようにフラッピは素知らぬフリをすると、

『修羅場フプー』

『修羅場ムプー』

フープとムープは興味津々にしながら木の陰より覗き見をする。

「フラッピぃぃ!」

咲の怒鳴り声が響き渡ると、

『うわぁぁぁ!

 咲が狼になったラピー!』

とフラッピが叫びながら逃げ回り始めた。

「お待ちなさいっ!」

『イヤ、ラピーっ』

「こらぁ」

『助けて、ラピーっ』

そんな二人の姿を見ながら、

「ねぇ、チョッピ、

 何があったの?」

と咲の上着を羽織りながら舞はチョッピに尋ねると、

『舞が送り狼になりかけたチョピ』

と言いながらチョッピは笑った。



おわり