風祭文庫・獣変身の館






「獣化病」
(第6話:真美の変身)



作・風祭玲


Vol.803





カッ!

ゴロゴロゴロ…

ズズズズンンンン…

雷鳴鳴り響く奥深い山奥にその洋館は建っていた。

ゴロゴロゴロ…

この年の夏は天候不順で、

標高の高いこの地は何時も雲に覆われ、

そして、午後になると必ず決まって雷鳴が轟き渡るのであり、

今日もまた稲光が明滅を始めだしていた。



ゴロゴロゴロ…

鉄格子の窓が稲光の明かりに浮き上がっている頃、

ヌゥゥゥゥゥ…

カシャンッ

ヌゥゥゥゥゥ…

カシャン!

”No13”

と書かれた札が下がる檻より、

朱色の尾のようなものがゆっくりと

伸びていくと、

格子を施錠している南蛮錠をいじくっていた。

ヌゥゥゥゥゥ…

カシャンッ

ヌゥゥゥゥゥ…

カシャン!

何度も失敗しても諦めず、

尾は幾度も伸びて行く、

そして、ついに、

その南蛮錠がしっかりと尾に握り締められると、

クチョッ

粘液を流す長く伸びた口が尾に握り締められた南蛮錠へと伸びていく。



カチャッ

カチャッ

カチャカチャ

一方、ここは洋館の1階。

破れたカーテンの隙間より外で瞬く稲光が

フラッシュのように差し込んでくる研究室で、

白衣姿の男が一心不乱に何かの研究に没頭していた。

カチャッ

カチャカチャ

強化ガラスを一枚隔てた箱の中、

男は耐細菌用の手袋を嵌め、

ビーカーの中に注いだ液体を素早く掻き回すと、

手際よくそれを試験管の中に分け入れる。

さらに、それらの試験管に試薬を垂らすと、

ジワ…

それぞれの試験管の中が様々な色へと変わった。

「ふむっ」

それを確認した男は小さく頷くと、

寒天を塗られたシャーレを取り出し、

その中に出来ている微生物のコロニーを興味深げに眺めた後、

スッ

そのコロニーの一部をガラス片で掬うと、

顕微鏡にセットした。

そして、さっき作った試験管より、

色が付いた液体をカラス片に流そうとしたとき、

「!?」

部屋の隅にジッと佇む老人の姿を見つけると、

「だれだ?」

と声を放つ。



『おぉ、

 これはこれは、月夜野幸司殿…

 いや、Dr.ナイト殿と申し上げればよいでしょうか』

和服に赤紫色のチャンチャンコを羽織った老人は音もなく、

まるで、空中を浮き上がるようにして月夜野の前に迫ると、

ニタァ

と笑みを浮かべる。

「何だお前は?

 組織の者か?」

そんな老人に向かって月夜野は言い放つと、

『その様な者ではありません。

 このたびこの地に店を構えることになりました”業屋”と申します。

 お見知りおきを…』

老人は自分を業屋と名乗り、

そして、にやけた顔で月夜野も見る。

「ムッ

 悪いが出て行ってもらえないか?

 ここはわたしの研究室だ」

業屋に向かって月夜野はそう命じると、

『お宅様の組織とは、

 まぁ、手広くお付き合いをいたしておりますが、

 そこでちょっと小耳に挟んだのですが、

 あなた様が研究に行き詰っているのでは?

 という噂話が…』

手揉みをしながら業屋はそう尋ねると、

ガシッ!

いきなり老人の胸倉が掴み上げ、

「何が行き詰っている?

 わたしの研究方針はわたしが決める。

 言っていくがわたしの研究は順調だ!」

と言い聞かせた。

『さあ、

 私にそのようなことを言われましても…』

月夜野の言葉に老人、いや業屋はそう言い返すと、

『おや、

 これが少女を獣に変えてしまうという、

 ウィルスですかぁ?』

と業屋はシャーレに出来ているコロニーを見た。

「!!っ、

 勝手に見るなっ」

それを聞いた月夜野は声を上げると、

『月夜野殿はいたいけな少女を次々と捕まえ、

 それぞれを12支に相当する獣に変えたとか。

 そして、その少女達を使って、

 組織の意向とは違うあることをなされようとしている…』

あくまで余裕の業屋は月夜野がこれまでしてきたことを指摘する。

「貴様ッ」

それを聞かされた月夜野は業屋を睨みつけると、

『業屋。と申します。

 そうそう、少女といえば、

 実は私の業務をやたら妨害してくれる二人組がおりましてね。

 まぁ願わくばこのウィルスで、

 そうですなぁ、

 狸か狐にでもしていただけると非常に助かるのですが…』

と持ちかける。

「ちっ、

 食えない奴だな」

そんな業屋を月夜野は突き飛ばすと、

フワッ

業屋は空中で静止し、

『如何でしょうか?

 わたしがあなた様のご研究を補助してあげても良いのですよ』

と提案してきた。

が、

「断るっ」

月夜野が即断すると、

『おやおや、

 私めのご提案をご即断なさるとは』

業屋は驚き、

そして、

フッ

軽く袖を振って見せた。

その途端、

ジリリリリリリリリぃ!!!

館内に非常ベルが鳴り響くと、

「!!」

ベルの音に気付いた月夜野はスグに監視画面を見る。

そして、

「なに?

 13号の檻が開いているだとぉ!」

と檻の一つが開き、

中に収容してあった生き物の姿が消えていることに気付いた。

「貴様っ

 まさか、13号を下界に放したのかっ」

即座に月夜野は業屋に問いただすが、

『おんやぁ?

 はて、

 何のことでしょうか?』

と業屋は首をかしげながら返事をすると、

「ちっ、

 13号は変態が進んで口も聞けなているから、

 そっちの問題はないと思うが、

 ただ、あいつの身体からにじみ出ているウィルスがどう出るか

 最近、肌を流れる粘液から変種のウィルスが見つかっているからな。

 うっかり、水の中にでも飛び込まれると爆発的に感染者を増やすそ」

月夜野は実験動物に感染させてあるウィルスが

世に出ることを酷く警戒すると、

ピッ!

洋館と下界を繋ぐ全ての出入り口を施錠するボタンを押した。

と同時に、

バタン!

カシャン!

キシッ!

洋館と下界とを繋ぐ全てのドアや窓が閉じられ、

小鳥一羽も通れない厳重体制が敷かれた。

しかし、

ズルズルズル…

バシャッ!

バシャバシャ!

施錠前に屋敷内の下水に飛び込んだ”それ”は、

下水と共に屋敷から出て、

近くを流れる川に注がれると、

そのまま雷雨で増水いている川を下って行ってしまったのであった。



ザザーン…

その数日後、

ザッザッザッ

波が打ち寄せる海岸をトレーナーにパンツ姿の女性が、

ランニングをしながら駆け抜けていた。

彼女の名前は大山真美。

この近くにあるシーワールドのイルカの調教師である。

とは言っても、

まだ、新米の調教師で、

ドジが多く賢いイルカからは

何時も小バカにされていた存在であった。

「はっはっ

 はっはっ」

日課としているランニングをしながら、

真美は走っていくと、

「ん?」

海岸に淡いピンク色の物体が打ち寄せられているのに気付いた。

「なにかしら?」

まるで引き寄せられるように真美はその物体に近づき、

そして、しげしげと見た途端、

「!!っ

 たっタツノオトシゴぉぉ!」

と思わず声を上げてしまった。

それもそのはずである。

普通のタツノオトシゴは数センチ程度の大きさしかないはずなのだが、

真美が見つけたタツノオトシゴは1mを優に越す、

巨大なタツノオトシゴだったのである。

「うわぁぁぁ、

 なにこれ?

 ひょっとして新種?」

波うち際で身を横たえているタツノオトシゴを興味深そうに見た後、

そっと、触ってみると、

ピクッ!

タツノオトシゴの身体が微かに反応すると、

プッ!

その口から何かを吐き出した。

「うわっ

 って、いっ生きているんだ、

 これ…

 そっそうだ」

シーワールド勤務故か真美はスグにケータイを取り出すと、

「あっ、

 高橋さん?

 大山です。

 実は…」

とこのことを勤務先に連絡をしたのであった。

それから30分ほどして、

防波堤に一台の軽トラが姿を見せると、

「大山ぁ!

 1m近いタツノオトシゴを見つけたってぇ?」

の声とともにシーワールドの職員が駆け寄って来る。

そして、30分の間、

真美が海水を掛け続けていたタツノオトシゴを見た途端。

「なんだこれは!!!」

と怒鳴り声を上げてしまったのであった。



「大山さんが巨大なタツノオトシゴを見つけたんですって?」

シーワールドの調教師控え室。

その控え室の横にある更衣室で

真美がウェットスーツに着替えていると、

先輩の調教師である勢田美砂が話しかけてきた。

「そうなんですよぉ

 ビックリしちゃいました」

美砂の言葉に真美はそう返事をすると、

「あら?」

っと自分の二の腕の裏側に粘性のある液体がついていることに気付くと、

「何かしら、これ?」

とティッシュでそれを拭こうとしたが、

だが、

シュワァァァァ…

その液体はまるで真美の身体に溶け込むようにして消えてしまった。

「え?

 なんで?」

それを目の当たりにした真美は、

眼をパチクリさせるが、

粘液は完全に消失してしまったために、

改めて確認することは出来なかった。



だが、真美の体の中に染み込んだ粘液は、

その中に秘めていたウィルスを一斉に解き放ち、

解き放たれたウィルスは真美の細胞に取り付くと、

物凄い速度で増殖を繰り返しながら、

真美の遺伝子を書き換え、

身体を作り変え始めたのであった。

「はぁ

 はぁはぁ

 はぁはぁ」

イルカの調教の時間。

真美は身体の奥から湧き上がってくる息苦しさと

乾きを感じてくると、

その頬が赤みを増し、

次第に赤らんだ顔をする。

そして、

ゴクリ…

イルカ達が泳ぐ眼下のプールの水を飲み干したい気分になってくると、

ブンブン!

頭を横に振って気合を入れるが、

「ねぇ?

 大山さん?

 聞こえている?」

と美砂から話しかけられると、

「あっはいっ」

真美は慌てて返事をした。

すると、

「どうしたの、

 さっきからボサっとして

 顔が赤いけど

 身体の具合でも悪いの?」

と心配そうに美砂は尋ねた。

「え?

 えぇ大丈夫です。

 これくらい平気です」

心配顔の美砂に真美はそう返事をしてみせるが、

だが、

グラァァァ…

急にその視界が歪みだすと。

「あぁ…」

真美の身体は前後左右に揺れ始め、

そして、

ドサッ

美砂に寄りかかるようにして倒れてしまった。

「大山さんっ

 しっかりしなさい」

真美の急変に美砂は大声をあげるが、

「はっはっはっ、

 水…

 水…」

真美はうわ言のようにその言葉を繰り返し、

そして、美砂を手でのけると、

ドボン!

前のめりに倒れながら真美はプールの中に落ちてしまった。

そして、

「大山さんっ」

「大山ぁ!」

美砂や同僚達の声を聞きながら、

真美は水の中に沈んでしまった。



真美の急変にスグにイルカの訓練は中止された。

そして、スタッフ達がプールに飛び込むと、

底に沈んだ真美を救い上げ、

プールサイドに運び上げるが、

「おいっ

 何だこれは?」

運び上げた真美の顔を見た途端、

その膨れ上がった顔と、

青灰色に染まりかけている肌に

皆一斉に気味悪がるが、

すぐにウェットスーツのチャックが緩められ人工呼吸がはじまった。



「プールに落ちて溺れたんだって?」

程なくして嘱託医が駆けつけ、

真美の診察をしようとするが、

その嘱託医もまた真美の顔を見るなり不思議そうな顔をする。

「彼女が溺れからどれ位が経っているんだ?」

嘱託医が美砂に尋ねると、

「いえ、

 5分も経っていませんが」

その質問に美砂はそう返事をする。

「そっそうか?

 いや、わたしはまた結構時間が経過したのかと」

それを聞いた嘱託医は困惑気味にいうと、

寝かされている真美を見るが、

ゴフッ

人工呼吸の甲斐あって真美の呼吸が始まると、

嘱託医は聴診器を真美の胸に当てながら、

救命処置を行うが、

ヌルッ!

「うっ

 なんだこれは?」

真美の身体から多量に分泌されている、

透明な粘液に手を取られ処置を行うのに困難を極めた。



ピーポー

ピーポー

救命処置が終わった真美を救急車は病院へと搬送するが、

その間にも、

メキッ

メキメキッ

真美の身体は変化をし始め、

指の間に水掻きが張ると、

その水掻きは厚さを増し、

さらに身体の膨らみが増し始めた。

そして、搬送された真美を診察した医師は、

真美の容態に疑問を持つと、

すぐに真美を隔離、

シーワールドのスタッフ全員の検査を行ったのであった。



メリメリメリ

ミシミシミシ…

隔離された病室に不気味な音が響き渡る。

そして、そのベッドの中では、

腕を脚を退化させ、

背中からは背びれを突き出し、

そして、流線型の身体を横たえた真美が、

尖っていく口を開けながら、

キュッ

キュッ

と頭の上に開いた鼻から息をしていた。

そして、

ガチャッ!

閉じられていたドアが開くと、

防護服を着た病院の医師と共に

シーワールドの獣医が入って来た。

「先ほどお話したとおり、

 真美さんの身体から発見された新種のウィルスですが、

 どこで感染したのかは不明ですが、

 このウィルスは宿主に取り付くと、

 その遺伝子を書き換え、

 そして、宿主を別の獣の姿にしてしまうという

 我々の常識では考えられない性質を持っているのです。

 そのために、大山さんはご覧の姿になってしまいました」

と医師は獣医に告げ、

真美を見せる。

「なっ、

 これが、あの大山だってぇ?」

発病前の真美を知っている獣医は真美を見た途端、

目を丸くすると、

「これじゃぁ、

 まるでイルカじゃないですか」

と声を上げた。

「えぇ、そうです。

 真美さんの肉体は外見上、

 イルカとほぼ変わらない姿になっています。

 で、お願いしたいのは、

 外見だけではなく、

 内臓周りもイルカになってしまっているのかを、

 確認して欲しいのです」

と医師は獣医に告げる。

こうして真美は医師から獣医にバトンタッチされ、

獣医の診察を受けることになった。

その結果、

真美の身体は下半身に人間的な特徴が残っているものの

ほぼイルカと化してしまっていること、

皮膚組織が乾きに耐えられなくなっていることが診断されると、

倒れたあの日から真美は意識を失ったまま、

その日のうちに退院し、

シーワールドの閉鎖プールに運び込まれると水に浸され、

その中では一頭のイルカが浮いていたのであった。



シャァァァァ…

バシャバシャバシャ…

『水の音?』

『それにしてもうるさいなぁ』

流れる水の音ともに、

真美の身体に水がかかりはじめる。

そして、その音に真美は目を覚ますと、

ビシャァァァァ!!

真美の顔一面に水が浴びせられていた。

『!!っ

 ちょっとぉ、

 いきなり何をするの!』

「きゅぃきゅぃ

 きゅぃぃぃぃん!!」

その水に真美はかんしゃくを起こしながら、

怒鳴って見せるが、

だが、真美の口から出てきた声はイルカを思わせる、

間高い声であった。

『!!っ』

人の言葉を話せなく話せなくなっていることに真美が気付き、

慌てて両手で口を隠そうとするが、

真美の両手は既に萎縮し、

身体の脇から飛び出すヒレへとその姿を変えていて、

ピタピタ

ピタピタ

と身体の下で蠢いているだけであった。

『てっ手が…』

思いがげない手の変化に真美は戸惑っていると、

「大山の意識が戻ったってぇ?」

「どこどこ」

の声と共にシーワールドのスタッフ達が閉鎖プールに集まってきた。

『みっみんなぁ…』

異様に広い視界の中、

上から覗き込んでくるスタッフ達を見て

真美は声をあげるが、

「きゅぃーーーん」

真美の口から出るのは相変わらずイルカの鳴き声であった。

『どうなっているの?

 何で言葉を話せないの?

 何で手が動かせないの?

 どうやってあたしは泳いでいるの?』

イルカとなってしまったことにまだ気付いていない真美は

矢継ぎ早に質問をするが、

その口から出るのはイルカの鳴き声ばかりだった。

すると、

「大山さんっ

 これを見なさい!」

と怒鳴りながらウェットスーツ姿の美砂は閉鎖プールに鏡を入れると、

自ら飛び込み、真美を鏡に向かい合わせた。

「勢田っ

 何て事をするんだ」

「すぐに上がるんだ」

それを見たスタッフが叫ぶと、

「何を言っているのよ、

 大山さんは人間よ」

と美砂は叫んだ。

すると、

”これがあたし?

 あたしなの”

と美砂の耳元で真美の声が響いた。

「!!っ

 大山さん?

 話せるの?」

それを聞いた美砂は真美の身体を叩くと、

”瀬田さん?

 あたしの声が聞こえるのですか?”

と真美は聞き返し。

「えぇ、聞こえるわ、

 何でか判らないけどね」

涙を流しながら美砂は真美に抱きつく。



”そうですか…

 あたし、イルカになっちゃったんですか”

「えぇ…

 原因不明病気でね」

イルカになってしまった真美に寄り添って美砂は話しかけると、

”あの…

 病気なら感染とか

 そういうのって大丈夫ですか?”

と真美は心配そうに尋ねた。

「大丈夫よ、

 感染していたらとっくに発病しているから」

そんな真美に美砂は返事をすると、

鼻の穴が開く頭を撫でる。

”そうですか…”

ようやく落ち着いたのか真美は小さく呟くと、

プカリと水面に浮かんだ。

そして、

”イルカってこんな感じであたしを見ていたんですね”

と美砂に尋ねた。

「そう、

 わたしには判らないけど、

 でも、大山さんはイルカの視点でものが見ることが出来るから、

 ある意味、イルカと心を通じやすいんじゃない?」

それを聞いた美砂はそう囁いた。

”!!っ”

それを聞いた真美はあることに気がつくと、

”勢田さん、

 お願いがあります。

 あたしをイルカのプールに入れてください”

と懇願をした。

「え?

 まさか本気でイルカとコミュニケーションをとる気?」

”えぇ…

 いまあたしに出来ることとしたら、

 それしかないですから”

理由を尋ねた美砂に真美はそういうと、

「あらあら、

 もぅ仕事のことを考えているの?

 熱心なのはいいけど、

 いまは、あなたをイルカにした病気のことを調べるのが先、

 仕事はその先よ」

とそれを美砂は笑った。



さて、このイルカの訓練士・大山真美が掛かったなぞの病気は、

事の重大性から報道管制が敷かれ、

誰も知ることがなかったが、

だが、

日本各地、

いや世界各地で同様の病気が報じられるようになると、

それらをまとめて獣化病と呼ばれるようになり、

社会的に大きな衝撃を与えたのであった。

一方、そのドサクサにまぎれて、

シーワールドに保護されていたはずの

あの巨大タツノオトシゴは忽然と姿を消し、

誰が運び出したのか、

それとも逃げてしまったのか、

皆、首を捻るばかりであった。



『ふぅ…

 月夜野殿。

 逃げ出したタツノオトシゴ、

 いえ、13号はとりあえず、

 わたくしの手で確保をいたしました。

 いえいえ、礼には及びません。

 では、こちらはお返しいたします。

 これからも”業屋”を一つよろしくお願いします』



おわり