風祭文庫・獣の館






「Dr.ナイトの人体実験」
【レポート11:千代の場合】



作・風祭玲


Vol.359





とある高校の体育館…

タッタッタッタッ!!

練習用の緑色のレオタードに身を包んだ黒川千代が

平均台の前に置かれているロイター板めがけて勢いよく助走をつけ、

タンッ!!

それを思いっきり踏み切ると、

千代の身体は宙を舞い、

トッ

小さな音をたてて平均台の上に滑るように着地した。

しかし、

ツルッ

「あっ」

足をその場に止めることが出来なかった千代はバランスを崩すと、

ドシン!!

自分のお尻を平均台の角にぶつけ、

そのまま床に落下してしまった。

「黒川さん!!」

「大丈夫?」

それを見ていた器械体操部員達がそう叫びながら、

倒れている千代の傍に駆け寄ろうとした時、

「コラッ

 集中力を切らさないって言ったでしょう」

と言いながらコーチの遠藤利香子が千代の前に立つと、

「痛みが取れるまで、少しの間向こうで休みなさい」

と千代に指示をした。

「はーぃ」

利香子の言葉に千代はお尻をさすりながらそう返事をすると、

他の部員達の練習の邪魔にならない隅へと向かっていった。



「追い込みですか?」

「あっ月夜野先生」

突然掛けられた声に驚きながら千代が振り返ると、

彼女の脇に白衣姿の月夜野が立っていた。

そして、

「どうも…」

と利香子に向かって軽く会釈をすると、

「月夜野先生…何か?」

月夜野の存在に気づいた利香子がそう尋ねながら駆け寄ってきた。

「あぁ…

 河田先生からコレを預かってきました」

駆け寄ってきた利香子に月夜野はそう言うと

体育教師の河田から預かってきた包みを手渡す。

「どうもすみません」

受け取りながら利香子が礼を言うと、

「いえいえ、

 私はここの放送室の方に用があったので来たまでですよ、

 そしたら河田先生があなたにコレを渡して欲しいと頼まれましてね」

と月夜野は体育館に来た理由を話す。

そして、

「確か…今度の日曜日に大会があるそうですね」

練習をしている器械体操部員達を眺めながらそう月夜野が尋ねると、

「えぇ…

 いまその調整をしているところなのですが…」

「なかなかお上手ですね、

 いや、私なんて運動が苦手だから、

 あのような平均台に良く乗れるなぁ…
 
 って感心していますよ」

月夜野は平均台で練習をしている部員を指さしながらそう言った。

「あら、でも、実際にやってみると意外と簡単ですよ、

 そうだ、こんど月夜野先生も挑戦してみては如何ですか?」

意地悪そうに利香子は月夜野にそう言うと、

「えっあはははは…

 そうですね、

 体育祭の時にでも挑戦してみましょうか?」

とおどけて見せた。

すると、

「先生…

 その時にはちゃんとレオタードを着るんですよぉ」

と二人の話を聞いていた千代が声を上げた。

「黒川さんっ

 痛みはもぅ引いたでしょう」

茶々を入れたことを窘めるように利香子は千代にそう言うと、

「はいはい」

利香子はそう言いながら走って平均台へと向かっていった。

そんな千代の後ろ姿を見ながら、

「あの子、ウチの成長株なんですよ」

と利香子は月夜野に言う、

「ほぉ」

その言葉に月夜野は感心した素振りをしながら、

「じゃぁ今度の大会では上位間違い無しですか?」

と聞き返すと、

「いえいえっ

 今度の大会ではそこまでは行きませんが、

 でも、来年になるとひょっとしたらインハイで上位に行くかも知れませんね」

と利香子は言い切った。

「それは楽しみですね」

利香子の言葉に月夜野は大きく頷く。



夜の闇が空を覆い尽くしたころ、

「まぁこんなものかな…」

放送室での作業を終えた月夜野が戻ってくると、

タタタタタ…

ダンッ!!

人が居なくなった体育館にロイター板の音が響き渡ると、

千代がたった一人で練習をしていた。

「ん?

 まだ練習をしているのか」

そんな彼女を見た月夜野はそう思うと、

「随分、熱心ですね」

と千代に声を掛けた。

「!」

月夜野の声に驚いた千代が月夜野の方を向くと、

「キャッ!」

小さく声を上げた。

「おやっ、

 気づいていなかったのですか?」

千代の態度に困惑しながら月夜野は千代の方へと歩いていくと、

「ここはもぅすぐ閉めますから、

 今日はこの辺にしたらどうです?」

と千代に告げた。

すると、

ジッ

千代は月夜野を見上げるように見つめると、

「先生!!」

そう言いながら彼女は月夜野に抱きついてきた。

「なっ

 いやっ
 
 あのぅ
 
 こう言うのはちょっとまずいんですよ」

千代の突然の行動に月夜野は狼狽えながら、

この光景を誰かに見られていないかと周囲を見渡した。



「そうですか」

コクリ

体育館の隅で月夜野と千代は並んで座っていた。

そして、千代は自分の心に抱いている不安を思いっきり月夜野にぶつけると、

腕の中に顔を埋めてしまった。

「そうですねぇ…

 僕とは視点が違うので何とも言えませんが、

 みんなもそうじゃないかと思いますよ」

「そうですか?」

「まぁみんな、

 そのプレッシャーを浴びて演技をして居るんじゃないですか」

千代の不安をうち消すように月夜野はそう言うと、

「でっでも…

 あっあたし…」
 
千代は何かを言いかけたところでまた顔を埋めてしまった。

「どうかしましたか?」

優しく月夜野が尋ねると、

「あっあたし…

 感じちゃうんです」

と小さく千代は呟いた。

「感じちゃう?」

「えぇ…

 レオタードを着て、

 真ん中で演技をしようとすると、

 あたしを見る大勢の人の視線に感じちゃうんです。

 そして、その中であたしは発情したメス猿のように飛び回って…
 
 いやっ、
 
 何でそんなことを言うんだろう」

耳まで真っ赤にして千代はそう言うと、

「じゃぁ、いっそメス猿になってみますか?」

キラッ☆

メガネを輝かせて月夜野は千代に囁いた。

「え?」

その声に千代が驚きながら顔を上げると、

「あぁ、良い月ですねぇ」

月夜野は立ち上がると夜空に掛かり始めた満月を眺め、

そして、千代の方を振り向くと、

「今日は遅いから帰りなさい。

 疲れているからそう言う考えを抱くのですよ」

と告げた。



プワンっ

タタンタタン…

千代が自宅の最寄り駅に降り立ったのはそれから1時間後だった。

「はぁ…

 月夜野先生はあぁ言ってくれたけど
 
 でも…
 
 あたしって、
 
 やっぱり変態なのかな」

そう呟く千代の姿は一見普通の制服姿だったが、

しかし、その下には練習の時に着ていたレオタードを身につけたままだった。

「はぁ…

 ここでこの制服を脱いだら感じちゃうだろうなぁ」

駅前の雑踏を眺めながら千代はそう呟いた途端。

ブンブン

首を横に振ると、

「ダメよダメっ

 そんなことをしたらみんなに迷惑がかかちゃうっ」

と自問自答すると駅前通を歩き始めた。

千代が降り立った駅は連続失踪事件の駅とは違う駅だったために、

この街には緊張感はさほど見られなかったが、

しかし、駅前の交番には失踪者の情報提供を呼びかけるポスターが貼ってあった。

それを横目で見ながら千代は歩いていく、



そして、駅前通りから別れ千代は住宅地の中を歩いていくが、

やがて目の前に姿を見せたY字路でふと立ち止まると、

2・3回左右を見た後、

ダッ

千代は右側の道を走り始めた。

千代が選んだ道は徐々に坂になり、

そして、ついには階段になってしまった。

その階段を千代は駆け上がっていくと、

彼女の目の前に無人の広場が姿を見せてきた。

日中は大勢の子供が遊んでいたであろう広場だったが、

しかし、この時間では人の姿など何処にもなく、

ただ、無人のブランコが夜風に揺れているだけだった。



「はぁ…

 はぁ…」

そんな無人の公園の中を息を切らせながら千代は歩いていくと、

ドンッ

ベンチに鞄を置き、徐に制服を脱ぎだした。

そして、

キラッ

月明かりにレオタード姿の身体を浮かび上がらせると、

タタタタタタ

タンッ

人の居ない公園で千代は床演技を始めだした。

けど、そんな千代の口からは

「あぁ…

 見て、あたしを…

 あたし…こんな格好で演技をするのよっ」

と言う言葉が漏れると、

千代の表情もどこか恍惚とさせるものになっていた。

とその時、

ヒュンッ

そんな千代の背後に影が降り立つと

『こんなところで、

 体操ゴッコですか?

 お嬢さん…』

と言う声が千代の背後から響いた。

「ヒッ

 だっ誰?」

声に驚いた千代が振り返ろうとしたとき、

チクッ

千代の首筋に針が刺さった。

「!!!」

ビクンっ

その瞬間、千代の身体が痙攣をすると、

『動かないでぇ…

 動くとあの世に行っちゃうよぉ』

と言う声が再び響いた。

そして、その言葉が見えない鎖となって千代を束縛する。

「(ゴクリ)いやっ

 いやっ
 
 変なことはしないでぇ」

変質者に悪戯をされていると思った千代は泣きながらそう訴えると、

『ふふふふ…

 変な事じゃないよ、

 君を素敵な身体にしてあげようとするだけだよ』

と、まるで悪魔が囁くような声で話しかけてくる。

スゥゥゥゥゥ…

シリンダーを押す指がゆっくりと動いていくと、

注射器に中の液体が千代の体内へと入っていく。

「なっなにを…」

ピクピクと体を震わせながら千代がそう言うと、

『さぁ終わったよ』

と言う声と共に、

千代の首から針が抜かれた。

「あっ」

ドサッ

その途端、千代の身体は崩れるようにして倒れると、

その場にガックリと手を突いてしまった。

ジワリっ

千代の体の中で何かが蠢き始める。

「あっ

 こっこの感覚…

 あぁ…

 いけないことを考えているときと同じ…」

胸の奥がうずくような感覚に千代は次第に上気していった。

すると、

『ふふふふふ…

 さぁ、君は何になりたい?』

と声は千代に話しかけてきた。

「え?」

その声に千代は顔を上げると、

フッ

千代の目の前には人の形をした影が立っていて、

月を背にしているためか、

その正体を見ることは出来なかった。

「あっあたし…

(くはぁ…)

 あっあたしは…
 
 いやっっ
 
 何なの?
 
 何なのよっ
 
 あぁん!!」

脂汗を流しながら千代の息が次第に荒くなっていくと、

ゆっくりと千代の右手が自分の股間に伸びていった。

そして、

グッ

股間を覆うレオタードを思いっきり握りしめると、

「だっダメッ

 我慢が出来ない!!」

と叫びながら、

あふれ出る愛液で濡れている女性器の中に自分の細い指を入れてしまった。

チュク

ヌチャッ

「うっく

 あぁん」

無人の公園に粘液の音と女のうめき声が響き渡る。

すると、

『お前はなんだ?』

と影が千代に尋ねる。

「あっ(んくっ)あたし…

 あたしは(んはぁ)
 
 サルよ
 
 そう(あぁん)発情したメス猿なのよぉ!!」

千代は仰向けに転がると、

ヌチャヌチャ

指を激しく動かしながらそう叫んだ。

その途端。

ドクンっ

千代の身体が飛び跳ねるように動くと、

ジワジワジワ

千代の体中から赤茶色の毛が生え始めた。


「あぁん  なに?    いっいいわっ    こっこの感覚…」 毛が生えていく感触に千代は酔いしれる。 そして、 千代の変化はハッキリと目で見える形になって現れ始めた。 メリメリメリ!! 千代の腕が伸びていくと それに反比例するかのように足が短くなり、 また、そんな手足にも赤茶色の毛が覆い尽くすように生えていった。 「あぁ  いぃ…    いぃ…さっ最高ぉ!!」 メキッ!! ムリムリ!! 叫び声を上げた千代の口には大きく発達をした犬歯が顔を覗かせ、 さらに、 身体の変化に合わせるように女性器が肥大化をし始める。 ヌプッ ブチュウゥ!! 肥大化する女性器から愛液が噴水のように噴き出すと、 モリモリ 千代の大陰唇が見る見る膨らみ始める。 「あっ  ダメ    イッちゃう!  イッちゃう!!」 譫言を繰り返しながら千代が顔を振ると、 バサバサ ショートカットの髪は抜け落ち、 さらに、 ジワッ 千代の鼻は垂れ下がると、 頬に頬袋が姿を現してきた。 また、色白だった顔も徐々に赤味がかった色へと変化していく、 「うきぃ  うきぃ」 顎の形が変わり、ついに千代は言葉が喋れなくなってしまうと、 まるでサルのような鳴き声を上げはじめた。 「うキィーーー!!」 ビリビリビリ!! 変身が進みサル人間の様な姿になった千代が 叫び声を上げながら身体を掻きむしり始めると、 着ていたレオタードは無惨に引き裂け、 千代は全裸になってしまったが、 しかし、その時には顔と掌そして足の裏を除いて赤茶色の毛に覆われたために、 千代の肌は露出することがなかった。 「キィ(いや)  キィ(いや)    キィ!(イッチャう)」 サルの鳴き声を上げながら、 千代はなおもオナニーを止めなかった。 それどころが更に激しさを増していくと、 ついに 「キィィィィィ!!!(イッチャうぅぅぅぅ)」 千代はメス猿として絶頂を迎えてしまった。 『ははははは!!  ついにメス猿になったね、    どう?    メス猿になった気分は?    千代さん?』 そう影が言うと サッ 月明かりが影を照らし出した。 そこには月夜野が冷たい笑みを浮かべながら立っていた。 「さぁ…  黒川千代…  君がこれから生きていくところに連れて行ってあげよう」 月夜野はそう言って、天空に掛かる満月を仰ぎ見ると、 「…あぁ、今夜も月が綺麗だ…」 と呟いた。 生物教師・月夜野 しかし、彼にはもう一つの名前があった。 ”Dr.ナイト”… 彼の魔の手が次に狙う獲物はすでに決まっている。 おわり