風祭文庫・獣の館






「Dr.ナイトの人体実験」
【レポート3:文恵の場合】



作・風祭玲


Vol.214





【帰宅途中の女子高校生また行方不明!!】

「……物騒な世の中になりましたね」

ゴトン

ゴトン

通勤電車の中で帰宅途中のサラリーマンが、

広げている夕刊紙をのぞき込みながら、

隣に座っているサラリーマンが声をかけた。

「えぇ…ウチの近くなんですよねぇ…コレ」

困惑した表情で彼が答えると、

「実はその前の事件はウチの傍だったんですよ」

「本当ですか!!」

「ウチの家内も怯えしまってね」

「それは大変ですね」

「…………」

二人はそう言い合うと黙ってしまった。



「でっ、何だよ、大事な話って…」

サラリーマンたちの話を横で聞きながら敬は幼馴染みの文恵に尋ねた。

すると、

「うん…あのね…

 ………

 ううん、何でもない…」

文恵は一瞬鞄の取っ手をギュッと握りしめて何かを言おうとしたが、

しかし、躊躇した後にスグに黙ってしまった。

「あのなぁ…

 お前、さっきからもぅ何回コレをやって居るんだ?」

度重なる彼女の行動についにシビレを切らせた敬が文恵に尋ねると、

「………」

彼女はそのまま黙ったまま下を向いてしまった。

キュゥゥゥゥン…

やがて電車はスピードを落としそして停車すると、

ピンポーン!!

軽いチャイムの音と共にドアが開いた。

フワッ

車内に外の空気が入ってくる。

それが合図になのか、

「敬…ちょっと…」

グッ!!

文恵はいきなり敬の裾を引っぱりながらそう告げるとホームに降り立った。

「おいっなんだよ、急に電車から降りろって…」

自動改札機に定期を通しながら、

敬は先を歩く文恵を追いかけながら文句を言うと、

「………」

文恵は黙ったまま駅前通を歩く、

「?、一体何なんなんだ?」

ブツブツ文句を言いながら敬は仕方なく付いていくと、

やがて、二人は海岸を望む通りに出た。

ザザーン…

海の香りと潮騒の音があたりを包み込む。

「…はぁ、ココに来るのも久しぶりだなぁ…」

敬は大きく深呼吸をしてそう言うと、

ちょうど、沈む夕日に代わって満月が上ってくるシーンが目に入ってきた。

「あのね…敬…」

しばらくして文恵が意を決したように言うと、

「敬には好きな人がいるの?」

と続けた。

「はぁ?

 なんだそりゃぁ?」

呆気にとられながら敬が声を上げると、

「C組の加原さんとつき合っているってホント?」

「べっ別に、それがお前からどうこう言われる筋合いはないと思うけど」

続けざまの文恵からの質問に口をとがらせながら敬が答えると、

「お前…一体なにが言いたいんだ?」

と続けた。

「うっうん、ちょっと聞いてみたくって」

視線を外しながら文恵がそう答えたとき、

「やぁ、どうも…」

「え?」

突然掛けられた声に二人が振り向くと、

いつの間にか後ろに黒のコートに眼鏡を怪しく輝かせている不気味な男が立っていた。

「きゃっ!!」

「だっ誰だ!!」

悲鳴を上げた文恵を庇いながら敬が怒鳴ると、

「なぁに…名乗るほどの者ではありませんよ」

男は敬にそう告げ、

「私が用があるのは、

 はいっ

 そこにいる彼女」

と言って文恵を指さした。

サッ

文恵は怯えるようにして敬の陰に隠れる。

すると、

「さぁ、こっちにおいで…

 君は選ばれたんだよ」

男はそう言いながら文恵に向かって手を差し伸べる。

「なんだぁ?

 貴様は…」

男をにらみ付けるようにして敬が声をあげると

ドッ!!

いきなり拳を男の腹部に撃ち込んだ。

ニヤリ…

一瞬、敬の顔に笑みがこぼれるが、

しかし、スグに表情が壊れると。

「痛ってぇぇぇぇ」

っと叫び声をあげながら右手を押さえしゃがみこんでしまった。

「敬!!」

文恵の叫び声があたりに響く、

すると、

「ふふ、馬鹿な坊やだ」

パッパッ

男は服の埃を払い様な仕草をしながらそう言うと、

グッ!!

敬をつかみ上げるなり、

ガッ!!

彼の横っ面に強烈な一発をお見舞いした。

ズザザザ…

吹き飛ばされるようにして敬の体が宙を舞う。

「敬っ!!」

岩場に文恵の悲鳴が上がる。

「さて…」

男は一人残された文恵を見るとゆっくりと近づいきはじめた。

「こっ来ないで!!」

文恵はそう言いながら逃げようとしたが、

しかし、男の手の方が早かった。

ガシッ!!

たちまち締め上げられると文恵の足が宙に浮く。

「離してよ!!」

足をバタバタさせながら文恵が声を上げると、

「ふふ…大人しくしていないとあの世に行っちゃうよ」

男はそう囁くと、

ピュッ!!

っと液体を吹き上げる注射器を文恵に見せた。

「あぁぁぁぁ」

それを見せられた文恵の表情がたちまち青くなった。

そして、

そのときを見計らって男は素早く文恵の首筋に注射針を立てると、

プスッ

スゥゥゥゥゥ…

見る見る液体はシリンダーに押されて文恵の体内へと流し込まれて行った。



うっうぅぅぅん…

めまいを起こしながら立ち上がった敬が見たものは、

首筋に注射器を突き立てられている文恵の姿だった。

「文恵!!」

その光景に思わず敬は叫ぶと、

「ほぉ…もぅお目覚めですか…

 でも、終わってしまいましたよ」

男は敬に残念そうにそう告げそして腕を解くと、

ドサッ!!

文恵はその場に崩れるようにして倒れ込んでしまった。

「文恵!!」

敬は慌てて文恵の元に駆けつけると、

「おいっ、しっかりしろ!!」

と叫びながら彼女の体を盛んに揺する。

「文恵っ

 文恵っ

 文恵っ」

敬の声が絶叫に近くなったとき、

「あっ…」

ようやく気づいたのか文恵はうっすらと目を開けた。

「文恵!!」

敬が気づいた彼女を抱きしめると、

「あっあたし…」

そう言いながら文恵は注射を打たれた首筋に手を這わせた。

と同時に…

「熱い!!」

と叫ぶと、

ドン!!

敬を突き飛ばしてしまった。

「どっどうしたんだ」

尻餅をつきながら事情が飲み込めない敬が聞き返すと、

「熱い!」

「熱い!!」

「熱い!!!」

と叫びながら、文恵は転げ回る。

セーラー服がたちまち砂だらけになっていく。

そして、

「熱いよぉ!!」

文恵はそう叫ぶと、

ついに、

ビリビリ!!

とセーラー服の胸元を引き裂くようにして開くと、

「なっ」

敬は自分の目を疑った。

そう、さらけ出された文恵の胸元はまるで

は虫類の皮膚のような朱色をした骨質板に覆われていた。

「なんだ、それは」

メリメリメリ!!

ゴリゴリゴリ!!

驚く敬に文恵の体から異様な音が聞こえてくる。

「うっうっうっ!!」

文恵は目をまん丸に見開いて苦しむと、

ググググ!!

ゆっくりと彼女の背中が突き出しはじめた。

「ははは…

 さて、君は何になるのかな?」

その様子を見ていた男が声を上げた。

「貴様ぁ、文恵に何をした!!」

キッ

敬は男をにらみ付けると怒鳴り声をあげると、

「あははは、

 見てみな…
 
 君の恋人が人間でなくなっていく様子を」

男は文恵を指さして言うと、

「なっ」

苦しむ文恵の体は次第に大きく膨れあがり、

朱色の骨質板が全身を覆い尽くしていた。

「がはっ、ぐおぉぉぉぉ!!」

体を作り替えられていく苦しみに文恵は悲鳴を上げる。

バリバリバリ!!

体の変化についていけなくなった制服が引き裂けていくと、

キラッキラッ

月の明かりを受けて文恵の全身を覆い尽くした骨質板が光輝き始める。

「うううぅぅぅぅ」

ハラハラハラ…

髪の毛が抜け落ち、

ググググ…

背中には大きめの背鰭が生えていく、

そして、足は見る見る退化していくと、

代わりに長い尻尾が生えていく、

そしてついに

メリメリメリ!!

そう言う音を立てながら文恵の口がまるでストローの様に長く伸びてはじめると、

「ほぅ…タツノオトシゴか…」

男は文恵が変身していく姿を感心しながら見つめていた。


「あぁぁぁぁぁ」 タツノオトシゴの化け物へと変貌していく文恵を見ながら敬は腰を抜かしていた。 『はぁ…苦しい…  敬ぃ…    卵が…産まれそうなのよ』 ムリムリムリ!! 大きく膨れていく腹を骨質板に覆われた腕でさすりながら、 文恵は敬へと這いずっていく 「うっうわぁぁぁぁ!!  くっ来るな!!    この化けものめ!!」 その様子に怯えた敬は手近なところに落ちていた棒を手に取ると、 シッシ っと文恵を追い払い始めた。 『痛い…  ひどい…あたしがこんなに苦しんでいるのに…』 鰭のように変化した手で庇いながら文恵は声を上げると、 ユラユラユラ… っと背鰭を動かしたと思った途端。 ビュッ!! っと飛び上がると敬に抱きついた。 ギュッ たちまち丸めていた尻尾を彼の体に巻き付けると、 『…敬…愛しているわ…』 と囁きながらストローの様に細く突き出した口を敬の顔に近づけていく。 「はっ離せぇ!!」 敬は必死になって巻き付けられた尻尾を外そうとしたが、 ゴムのような骨質板に覆われた文恵の尻尾を外すことは容易ではなかった。 「くっくそ!!  外れない!!」   敬はあきらめずになおも尻尾と格闘していると、 『うふっ…  さぁ…敬ぃ    あたしの卵…    受けとってぇ』 文恵はそう敬に囁くと、 グッ っと下腹部に力を入れた。 すると ニョニョニョ… まるでペニスと見まごうばかりの太くて長い輸卵管が姿を現した。 ヌプっ 挿入に支障にないようにするためか透明な粘液がその先からほとばしる。 『はぁ…  早くして…  今にもはち切れそうなのよ…』 ヌルッ ヌルッ っと文恵は鰭のように変化した両手で輸卵管を扱くと、 敬のズボンに手をかけた。 「うわっやめろ!!」 敬の悲鳴が上がる。 『うふふふ…』 文恵が一瞬笑うと、 ズリッ 敬のズボンを一気に引き下げた。 「うわぁぁぁぁ」 無防備な彼の尻が文恵の前にさらけ出される。 『…ねぇ、犯される気持ちってどう?』 囁く様にして文恵が尋ねると、 「ヤメロ!!  助けてくれぇ!!」   敬はありったけの力をだして暴れるが、 『うふふふ…  可愛い…  さぁあたし達の子よ』 文恵はそう言うと輸卵管を敬の尻に差し込んだ。 「うわぁぁぁぁぁ」 異物が挿入されていく感覚に敬は目を剥く、 「力を抜いて…じゃないと痛いわよ」 諭すようにして文恵は言うと、 ググッ っと輸卵管を彼の体内奥深くに差し込んでいく、 『育児嚢を作ってあげるね。  卵はそこに産み付けてあげるから、    大切に育てるのよ』 文恵はそう言うと、 グィ っと力を入れた。 ムリュムリュムリュ 差し込まれた輸卵管が見る見る太くなると、 その中を次々と卵が文恵から敬へと送られていく。 「ぐわぁぁぁぁぁぁ」 卵を産み付けられ、そして膨れていく腹を抱えながら、 敬は白目をむいて七転八倒する。 『あぁ…  あたしの卵が…    敬の中に入っていく…』 トロンとした目で文恵は苦しみ藻掻く敬を眺めていた。 やがて、大きく膨らみきった腹を露わにして敬が失神すると。 「はぁぁぁぁぁ…」 文恵は発達していくエラを広げながら大きく深呼吸をすると、 「終わったか…」 一部始終を見ていた男が尋ねた。 『は…い』 文恵は敬にきつく巻き付けていた尻尾を外すとそう答えた。 「あぁ…今夜も良い月夜だ」 男は夜空を見上げると、 「さて、次は誰に薬を使おうか」 と呟いた。 男の名は”Dr.ナイト”… 彼の魔の手が次に狙う獲物はすでに決まっている。 おわり