風祭文庫・獣変身の館






「お馬さんになろう」



作・風祭玲


Vol.989





それは桜の花が舞い踊る季節は瞬く間に通り過ぎ、

街は野山を鮮やかに彩るツツジの季節を迎えようとしていた頃の話である。

「えぇっ、

 まだ部活決めてなかったのですか?」

放課後の教室に夏目茉莉子の驚いた声が響き渡ると、

「しーっ、

 そんな大声を出さなくてもいいじゃない」

プッと頬を膨らませて彼女の親友である三原桜子は周囲を気にしながら返事をする。

「とにかく、何か部活に入った方が良いですよ」

カバンを手に廊下に出るのと同時に茉莉子はさりげなく注意すると、

「うーん、

 そうは言っても」

と桜子は頭を抱えてみせる。

「剣道部は?

 確か体験入部したんでしょう?」

桜子を横目で見ながら茉莉子はそのことを指摘すると、

「あー、いや、

 あれは。

 ちょっと練習がきついし臭いしやめた」

と桜子はあっさりと答えてみせる。

「あらら」

それを聞いた茉莉子は表情を曇らせた時、

「暴れ馬だぁぁぁぁ!!」

突然、廊下に男子生徒の絶叫が響き、

「ブヒヒヒヒヒヒヒヒンンンン!!!」

カカッ

カカッ

カカッ!

鼻息荒く一頭の馬が廊下を走ってきたのである。

「わぁぃ、お馬さんだぁ!」

「うっ馬ぁ?」

暴走する馬を見て喜ぶ桜子に対して茉莉子は呆気に取られていると、

馬は二人に向かってグングンと突進し、

「え?

 ちょちょっと!」

「にっ逃げるのよ!」

危険を察知した二人が逃げだそうとしたときには間近に迫っていた。

と、その時、

「トゥッ!」

一人の男子生徒が素早く馬に飛び乗ると、

「どうどうどう!」

の声と共に手綱を引く、

すると、

「ぶひひひん」

カカカカカカ!!

なんと暴れ馬は桜子達の目の前で止まったのであった。



「はぁ…」

「止まった」

目の前で止まった馬を桜子と茉莉子は見上げていると、

「大丈夫?

 ケガはない?」

と馬上から男子生徒がさわやかな笑顔を見せる。

「え?

 まっまぁ、大丈夫だけど」

その言葉に桜子はそう返事をすると、

「そうそれは、良かった。

 じゃぁ」

さわやかな笑顔を残して男性は手綱を叩き、

カポン

カポン

さっきまでの暴走ぶりとは打って変わって馬は尻尾を振りつつ廊下を歩いていく。

すると、

「はぁ…

 さすがはウワサ通りのイケメンね」

後ろ姿を見送りながら茉莉子思わずそう呟くと、

ツンツン

ツンツン

茉莉子の制服の裾が引っ張られ、

「茉莉子

 茉莉子

 茉莉子、

 茉莉子ぉ!…」

と目をキラキラと輝かせて桜子は話しかけてきた。

「げっ!

 まさか!」

そんな桜子の様子を見た茉莉子は思わず飛び上がりかけるが、

「(取り乱すな、茉莉子っ)

 (ここは余裕を持って)

 おほんっ!

 ん?

 なぁに、桜子?」

と咳払いを一つして気持ちを落ち着かせた後、

笑顔で桜子に話しかける。

「なぁなぁなぁ、

 いまの人って誰なんだ?」

そんな茉莉子に桜子が真剣な表情で迫ってくると、

「あれ?

 桜子って知らなかったの?」

予想とは違った桜子の質問に茉莉子は面食らいながらも

「彼は馬術部の篠原隼人君よ」

と茉莉子は余裕の表情で返した。

「そうか、

 馬術部の篠原さんなのか」

茉莉子の説明を聞いた桜子はしきりに頷き、

そして、

「何年何組なの?」

と学年とクラスを尋ねてきた。

「えっとぉ、

 私の情報だと2年C組。

 わが秋波高校イケメン3人衆の一人で女子生徒の人気も高い」

その質問に茉莉子は手帳を広げ説明をし始めるが、

ムッスッ

隼人が女子生徒達に人気が高いことを知ると、

段々不機嫌になり、

「いいよ、もぅ!」

と茉莉子の説明を拒んでしまったのであった。

しかし、

「そうねぇ、

 これだけ人気が高い彼だから、

 ここはスッパリと諦めるのが”吉"だと思うわ」

恋する暴走娘の異名を持つ桜子にスッパリと隼人のことを諦めて貰おうとして茉莉子は警告をするが、

「あたし決めたぞ!」

そんな茉莉子に声を無視して桜子の声が響き渡ると、

「絶対、篠原をあたしのものにするっ

 けってーぃっ!」

と茉莉子が最も恐れていた事態の始まりを告げる鬨の声が響いたのであった。



「ちょぉっとちょっと、

 それってマジなの?

 本気なの?

 悪いことは言わないわ、いいこと考え直すのよっ」

馬術部へと向かい始めた桜子を押しとどめようと茉莉子は彼女の行く手に先回りし、

何度も言い聞かせようとするが、

「邪魔だ、茉莉子ぉ!」

胸の内を真っ黒に焦がしてしまうほど燃え上がる恋の炎に突き動かされている桜子にとって、

茉莉子の存在などまさに”アウト・オブ・眼中”であり、

馬術部へ向かう物理的障害の一つにしか過ぎなかった。

「いいえ、退くわけには行きません。

 殿中でござる」

「えぇぃっ、離せっ、

 いま吉良を打たねば子々孫々までの恥」

自分の首に腕を巻き付け抵抗を試みる茉莉子を引きづりながら、

「たのもぅ!!」

桜子は馬術部の部室のドアを突き破るかのように開けた途端。

『ただいま入部手続きは110人待ちです』

と言う案内板が桜子の前に聳え立ったのであった。

「なにこれ?」

「さぁ?」

意味が判らず桜子と茉莉子は顔を見合わせると、

「あぁ、入部希望者?」

と乗馬服に身を包んだ部員が話しかける。

「はいっっ!!!!」

その言葉に桜子は茉莉子を突き飛ばして返事をすると、

「じゃぁさぁ、

 整理券を取って向こうの列に並んでくれるかな」

そう言いながら案内板の下に置かれている整理券発行機と、

ワイワイガヤガヤ…

桜子と茉莉子が入ってきた出入り口とは

部屋を挟んで反対側にある出入り口に並んでいる女子生徒の行列を指さしてみせる。

「うはぁぁぁ…

 これは壮観ですわねぇ」

行列に並ぶ人数を数えながら茉莉子は思わず感心すると、

「女子生徒の定員はもぅ埋まって居るんだ、

 彼女たちは空くのを居るんだよ」

と部員は説明をする。

「はぁぁ、そうですか。

 けど、あの娘たちって授業どうして居るのかしら?」

部員の説明とその説明によってわき起こった素朴な疑問に茉莉子は小首を捻っていると、

「そんなぁ…」

入部までの壁の高さを実感した桜子はその場に崩れるようにして座り込んでしまったのであった。



「ほらっ、

 悪いことは言わないから篠原君のことは諦めるのよ。

 桜子には無理な話、判ったでしょう」

落ち込んでいる桜子の肩を叩きながら茉莉子はそう諭すと、

「うん、判った…」

桜子は渋々頷き、

そして、よろよろと立ち上がったとき、

「もーいやっ」

突然部室に女子の怒鳴り声が響き渡った。

「ん?」

その怒鳴り声に香織達が振り向くと、

バンッ!

更衣室のドアがいきなり蹴り開けられ、

「あたしこれ以上我慢できません。

 たった今を持って馬術部を退部させていただきます」

と言いつつ制服姿の女子生徒が出てくるなり、

「はいっこれっ、

 部長に出しておいて」

と手にしていた退部届をオロオロする部員に突きつけると、

「あら、あなた、

 さっきはごめんね」

とどういう訳か桜子に向かって一言謝ると、

そのまま表へと飛び出していってしまったのであった。

「あたしに謝らねばならないことをしたのかな?

 彼女?」

去っていく女子生徒を見送りながら桜子はそう思っていると、

「ねっ、判ったでしょう。

 きっと競争が厳しいのよ、

 桜子もスグにあぁなってしまうのよ」

出て行った生徒を見送りながら茉莉子は彼女を指さして囁き、

「うん判った…

 あたしには無理そうだね」

がに股歩きで去っていく彼女の後ろ姿を見送りながら、

桜子は部室から出て行こうとすると、

「ところで、入部は受け付けてあげないの?

 一人退部していったけど」

と外に並ぶ女子生徒を指さし部員に尋ねる。

すると、

「あぁ、彼女は違うんだよ」

と部員は答え、

「困ったなぁ…

 やっと必用人数が確保できていたのに…

 どうしよう人数不足だなんて…

 キャプテンまた頭を抱えるぞぉ」

困惑しながらそう呟き、

ガシガシ

と頭をかき始める。

すると、

「?

 ねぇ、一つ聞いて良い?

 女子の定員は満員なんでしょう?

 それがなんで人数不足なの?

 不足しているなら待っている者達を皆入れてあげればいいじゃない」

それを聞いた桜子はそう問い尋ねると、

「え?

 あぁ、違うんだよ、彼女達と彼女は」

と部員は言う。

「何が違うの?」

そんな部員に桜子は食い下がると、

「向こうに並んでいるのは騎乗志望者、

 出て行った彼女は…まぁ裏方みたいなものかな

 ほら、どこの部でも居るだろう、

 競技選手を目指す人と、

 その選手を支える側に回る人が」

と部員は説明をする。

「!っ

 裏方とは支える方なの、

 つまり、裏方になれば隼人と一緒にいられるの?」

それを聞いた桜子は明るい顔をしながら聞き返す。

「まぁねっ、

 特にさっきやめた彼女は馬係をやっていたからな」

桜子の質問に部員は答えると、

キラーン!

桜子の目は光り輝き、

「決めた」

と声を上げ、

「おいっ、

 スグに入部手続きをして、

 裏方やるわ、

 馬係でも何でもやってあげるわ」

と桜子は威勢良くぶち上げてみせる。

「桜子っ!」

それを聞いた茉莉子はすかさず止めようとするが、

「本当?

 それは有り難い!」

桜子の決断を聞いた部員はスグに裏方用入部希望書を持ってくると、

「じゃぁここにサインして!」

と桜子に迫る。

「やめなさい、桜子っ」

何とかして茉莉子は桜子の入部を止めさせようとするが、

「うるさいうるさいうるさぁぁいっ」

桜子は一喝すると、

サラサラ

と入部希望書にサインをし、

「これで良い?」

と聞き返す。

「はいっ、

 結構です」

桜子のサインを確認しながら部員は幾度も頷くと、

「じゃぁ、この向こうの更衣室に行ってください。

 そこで着替えて貰いますから」

そう言いながら部員はスタッフ用と書かれたドアを開けて桜子を促す。

「判ったわ、

 更衣室に行って着替えればいいのね」

部員に確認するように桜子は尋ねた後、

ドアの向こうに行くと、

「桜子っ」

茉莉子も追いかけてきた。

「なによ、茉莉子、

 ここは部外者立ち入り禁止よ」

茉莉子に向かって桜子は注意するが、

「あなた一人にしますと心配なんですっ」

茉莉子は力強く返事をするとそのまま更衣室へと入っていく。

「ふーん、

 これに着替えればいいのね。

 でも、なにかの着ぐるみかしら?

 随分と毛むくじゃらなんだね」

「そうですわねぇ…」

更衣室の中で桜子と茉莉子は壁に掛けてあった着ぐるみを思わせるものを手に取り広げてみせるが、

だが、それは何か特殊加工が施されているのか、

それの表側には栗毛色をした獣の毛らしきものがびっしりと生えそろい、

その反対側にはペトペトと肌に張り付く素材が一面に塗られていて、

一体これが何なのかは桜子には判らなかった。

そして、

「ふむふむ、

 なになに?

 着るときは現在着ているものを全て脱いでください?

 裸になれと言うの?

 まぁいいか。

 ここには私と茉莉子しか居ないんだからね」

桜子は獣毛生え揃う”それ”を見ながら頬を赤らめている茉莉子をチラリと見た後、

そそくさと着ているものを全て脱ぐと、

着ぐるみ状の”それ”に素足を差し込んでみた。

すると、

スッ

スススススッ

スススススッ

予想に反して”それ”は桜子の足を軽々と飲み込み、

瞬く間に桜子の下半身は茶色の毛並み覆われていく。

「へぇ、これは凄い」

まるで獣になってしまったかのような錯覚を抱かせる自分の下半身に桜子は幾度も頷くと、

「ほらっ、

 茉莉子も早く身につけて、

 気持ちが良いよ」

とまだ”それ”を見ている茉莉子に勧めた。

「え?

 それって」

「良いからさっさと着さいって

 先に進めないでしょ」

「はっはいっ」

桜子の素早い行動に背中を押されるようにして茉莉子も制服を脱ぎ、

”それ”に足を通すと、

ススススス…

茉莉子の下半身も黒みを帯びた獣毛に覆われてしまったのであった。

ところが、

「おっおっなんだこれ」

突然桜子の驚く声が響くと、

スーッ

それは桜子が何をしなくても独りでに”それ”の上半身部分が起きあがり、

桜子の腕を包み込んでしまうと、

さらに上半身をも包み込んでいく。

そして、

パフッ!

桜子の顔に動物の顔が被されてしまったのであった。

『おーっ、

 なんだ、何が起きたの』

一見して馬であることが判るかぶり物を被りながら子は更衣室の中をウロウロするが

「え?

 え?

 えぇぇぇぇぇ!!!」

茉莉子も同じように乳房が揺れる上半身を黒毛が覆い尽くすと、

パフッ!

かぶり物が被されてしまったのであった。

『なに、

 これぇぇ!』

不細工な馬のかぶり物とスーツ場状のそれを身に纏った桜子と茉莉子は互いにフラフラするが、

『うっ』

『あっ』

2人とも同時に身体の異変を感じ取ると、

ボコッ!

ボコボコボコ!

まるで内部から瘤がわき起こるようにして栗毛に覆われた桜子の身体が膨れ始め、

見る見る身体を大きくしていく。

そして、

フワサァ…

お尻からつややかな毛並が尻尾として伸びていくと、

ミシッ!

メリィ!

桜子の両手両足から蹄が突きだしてしまい、

カツッ!

カポン!

バランスを崩してヨツンバになってしまった桜子の手足から蹄の音がこだまし始める。

さらに

ググッ

ググググググ…

桜子の両手足は長くなると、

メリメリメリメリィ

まるで小山のようになった桜子の身体が上へと持ち上がり、

『ブヒヒン

 ブヒヒン!

 ブヒヒン!!!』

と長く伸びた顔を左右に振りながら桜子が啼き始めた。

同時に茉莉子も桜子と同じように変身をしていくと、

『ブヒヒン!!』

カツンカツンカツン

カンカンカン!

茉莉子も鼻息荒く後ろ足で床を蹴り始め、

『ブヒヒヒン!!』

『ブヒヒヒヒヒン!!』

更衣室の中には栗毛と黒毛の二頭の馬が互いに啼き声を上げ、

身体を震わせていたのであった。

すると、

ギギギギギギ…

壁の一つが二つに割れるようにして開き、

「おーぃ、お二方。

 こっちで準備運動をして」

とさっきの部員の声が響くと、

『ブヒヒヒヒヒンンンンン!!!!』

桜子と茉莉子が変身した馬は啼き声高らかに飛び出してくるなり、

ドドッ

ドドッ

ドドッ

馬場を軽快に駆け回り始める。

「なになに新入り?」

馬場を駆け回る見慣れない馬二頭に乗馬服姿の部員達が柵に寄ってくると、

『みてっ、茉莉子ぉ!

 みんなが私たちを見て居る!』

と走りながら桜子は後についてくる茉莉子に話しかける、

だが、

コフッ

コフッ

コフッ

桜子の後についてくる黒毛馬となった茉莉子は返事もせずに、

走る茉莉子の尻に鼻を付けるような姿勢で走り続けていた。

『茉莉子?

 おーぃ、どうした。茉莉子ぉ

 返事をして!』

後ろを気にしながら桜子は幾度も尋ねるが、

だが、幾ら呼びかけても茉莉子は答えなかった。

『茉莉子?』

返事をしない茉莉子を不審に思いながら桜子は速度を落とし、

そして、止まってみせると、

「どははははは、

 なんだアレは…」

と柵に集まる部員達から一斉に茉莉子を指さし笑い声が響き渡ったのであった。

『なんだ?』

笑い転げる部員達を怪訝そうに見ながら桜子は茉莉子を見ると、

デローン…

立ち止まる茉莉子の下腹部から長い肉棒が伸び、

ブラブラと揺れていたのであった。

『まっ茉莉子ぉ!

 なんだそれは!』

あまりにも異様な太さと長さの肉棒の姿に桜子は驚くと、

『フッフッフッ

 なっ桜子っ、

 逃げて…

じゃないとあっあたし…』

血走った目を大きく見開いて茉莉子は警告をしてくる。

『逃げろ?

 逃げろって…』

思いがけない茉莉子の警告に桜子は困惑するが、

『フッフッ

 フッフッ
 
 あぁ…だめぇ、
 
 我慢が
 
 我慢が出来ない…』

鼻息荒く茉莉子はそう呟きながら桜子に近づいてくると、

『桜子ぁ、

 一発やらせて…』

とピンと頭の上に立つ耳元で囁いたのであった。

『え?』

茉莉子のその声に桜子は驚くが、

だが、次の瞬間、

ドカッ!

いきなり茉莉子が桜子のバックからのし掛かってくると、

下腹部の肉棒を茉莉子の秘所に挿入しようとし始めようしたのであった。

『うわぁぁぁ!

 何をする茉莉子ぉ!

 おっお前は雄馬かぁ!』

茉莉子の行為に桜子は悲鳴上げて逃げだすと、

逃げる桜子を追って茉莉子が捌けだしてくる。

「あははは…

 早速繁殖か!

 誰だよ、雄馬のボディアーマーを着させた奴は」

追い駆けっこをする二頭の馬を指さしながら部員達は声を上げると、

「何をして居るんだ」

の声と共に隼人が姿を見せた。

『あっ隼人くんっ』

憧れの君の登場に桜子は思わず立ち止まるが、

だが、それは…茉莉子へのオッケーのサインであり

「ゴフッ!」

ズンッ!

「ブヒヒヒヒヒヒヒンン!!!」

『あぁぁっ、入ってくるぅぅぅ』

桜子は憧れの君の前で馬としての処女を散らしてしまったのであった。



「ごめんなさい、桜子」

行為が終わった後、

ボディアーマーを脱ぎ人の姿に戻った茉莉子は

相変わらず馬の姿のままの桜子に頭を大きく下げてみせると、

「ブヒヒンッ」

『知らないっ』

ツンと横を向き、

頭を下げる茉莉子に桜子は目を合わせないようにする。

「その、

 なんて言うか、

 あたし途中から頭の中が真っ白になっちゃって、

 まさか、雄馬になっていただなんて…」

そんな桜子に向かって茉莉子は事情を話すが、

「ブヒヒン!」

桜子は一切聞き耳を持たず。

カッカッ

と前足で地面を掻いて見せる。

そして、

『ちょっと、いつになったらコレ脱げるの?

 早くしてよ』

と自分の意志でなぜか脱げなくなっているボディアーマーについて文句を言うと、

「あーいたいた」

白衣の生徒が駆け寄ってくるなり、

「検査の結果をお知らせします」

と声を大にして言う。

「あのぉ、あまり大声は…」

周囲を気にして茉莉子が囁くと、

「えーとですねぇ、

 予想外の種付けで桜子さんが着ていたボディアーマーのチャックが壊れてしまって、

 今は脱ぐことができませんね」

と言い、

さらに、

「念のため、妊娠のチェックをしてみたところ、

 見事解任をされています。

 ですので桜子さんは立派な子馬をお生みになれると思います」

と最後に衝撃的な事実を告げると、

そそくさと去っていったのであった。

「ブヒヒン?」

『あたしが妊娠?』

「桜子があたしの子供を?」

医務斑の生徒の証言に2人はショックを受けてしまうと、

「どっどうしましょう、

 まさかこんな事になるなんて」

オロオロする茉莉子と、

『そんな…

 あたしが子馬を…生む?

 子馬を…

 あははははは…

 あたし…

 お馬さんに…

 お馬さんに…あははははは』

「ブヒヒンッ」

「ブヒヒンッ」

「ブヒヒヒンッ」

桜子は前足で頭を抱えるようにして藁山の中に突っ伏すと、

しきりに啼き声を上げていたのであった。



おわり