風祭文庫・獣変身の館






「タトゥ」



作・風祭玲


Vol.834





「ちょっとこっちに行ってみない?」

先を歩いていた鼓が不意に立ち止まって振り返りながら右側を指差すと、

「ほぇ?」

彼女の後ろを歩いていたあたしと笛子は誘われるように右を見た。

するとそこには店と店の間に細長い路地が延びているのが目に入り、

「ここに入るの?」

路地を指差しながら鼓に聞き返す。

「うん」

あたしの質問に鼓はあっけらかんと答えると、

「女の子だけでこういう所に入るのってちょっと…」

脳裏にネットの中でまことしやかに語られる都市伝説を思い出しながら

あたしは遠慮気味に言うが、

「あははは、大丈夫だってぇ

 あっ、ひょっとして怖気づいている?

 もぅ琴音ったら」

それを聞いた鼓は笑いながらあたしの肩を叩くと、

「穴場って言うのはこういう路地の奥にあるんですよねえ」

っと笛子は興味津々に路地を覗き込んだ。

「笛子もぉ?!」

そんな笛子の姿を見てあたしは驚くが、

「あーきっ、

 大丈夫だって、

 それに怪しげな店に連れ込まれてダルマさんにされても、

 ちゃぁんと連れて帰って上げるって」

鼓はあたしの背中を押しつつその言葉を囁いた。

「!!っ

 ちょっとぉ、

 何てことを言うのよっ」

「あはは、

 さっ行こう行こう」

驚くあたしを笑いながら鼓はあたしの背中を押し、

笛子と共に路地へと入って行く。


あたしたち3人は学生時代からの友人であり、

卒業してそれぞれの道を歩み始めても、

年に何回かは集まって旅行などに行っているのである。



路地に入った途端、

真上から照らしていた南国の日差しは家々の軒などにさえぎられ、

人かすれ違うのがやっとの路地は湿り気で満ち溢れてていた。

「おぉ…

 これよこれ、

 この光景こそ外国って感じだわ」

目の前に広がる異国情緒たっぷりの光景に鼓は胸をときめかせ、

「そうですねぇ

 表通りだと東京とそんなに変わりませんからね」

と笛子も同調をする。

しかし、肝心のあたしは、

「いっいいのかなぁ…

 こんな所に入って、

 このまま戻れなかったらどうしよう…」

という気持ちがいっぱいで景色を楽しむ余裕などはなかったが、

あたしに構わずに元気な2人はズンズンと路地裏を進んで行く、

「もぅ!」

二人に引きずられるようにしてあたしは進み、

やがて先を行く二人は何かの店らしいとある家の前で立ち止まった。

「どうしたの?」

立ち止まった二人に後から到着したあたしは理由を尋ねると、

「どうやらここみたいね」

何時の間に手にしていたのだろうか、

地図のような紙を盛んに見比べながら鼓は場所を確認していて、

あたしの声は耳に届いてはいないようだった。

「何かの店かしら…

 看板は出ているけど、

 でも、字が読めない…」

あたしは仰ぎ見ながら掲げられている原色系の装飾が施されている看板に目を通すが、

しかし、そこに書かれている文字はあたしには理解できない現地の文字のみでかかれ、

なんの店なのかさっぱり理解できなかった。

「ちょっとぉ、

 なんなのよっここって」

仕方なくあたしは笛子に尋ねると、

「なんでも、

 ここが鼓の目的地みたいですよ」

と彼女返事をする。

「いや、それはわかっているけど…

 ここってなに?」

答えになっていない彼女の説明にあたしは小首をかしげていると、

「ここに入るわよぉ」

鼓はあたしたちに言うと、

ガチャッ

店のドアを開け中へと入っていく、

そして、

「あっ、ちょっとぉ」

「何の店なのかな…

鼓を追いかけてあたしと笛子も店の中へと入っていった。



いざ中に入ってみると店の中は8畳間ほどの広さで意外と広く

部屋を支える朱塗りの柱がやや暗めの照明に照らし出され、

さらに壁にはスケッチなのだろうか、

様々な模様を描いた手描きされた紙が張り出されている。

焚かれている香の香りの中、

「なんの店なのここ?」

あたしはじっと立っていると、

「オキャクサン、

 ニッポンジンネ」

と女性の声が響いた。

「え?」

その声にあたしは振り返ると、

この店の主人なのだろうか黒く長い髪を腰近くまでのばし、

黒い衣装を纏った30代辺りと思える女性が鼓と話をしているのであった。

「鼓ぃ!」

それを見たあたしは彼女の名前を呼ぶが、

「…えぇ、そう。

 そう、

 で、あたしと、

 この笛子に、

 そして、あの琴音、

 以上の3名よ」

と鼓は何かの相談をしている様子だった。

「ちょっと、

 何を勝手に決めているのよ!」

それを見たあたしは我慢できずに鼓に詰め寄ると、

「タトゥを入れてもらうんだって」

笛子が状況を説明してくれた。

「はぁ?」

いきなりの笛子の説明にあたしは呆気に取られると、

「チョット、ハダヲミセテ」

そう主人は言いながらあたしの手を引き、

サッ

サッ

2・3回、あたしの二の腕を手で擦る。

「ひっ!、

 ちょっとぉ」

突然の彼女の行為にあたしは腕を引いて抗議すると、

ちょいちょい

鼓の手があたしを招いた。

「なに…」

むくれながらあたしは鼓に寄ると、

ガシッ!

いきなり鼓はあたしの襟首を掴み、

そのまま自分の顔に近づけ、

「琴音…

 意外と知らないみたいだからあえて教えてあ・げ・る。

 ここでタトゥを入れてもらうとね。

 いろいろ良い事があるそうなんだけど、

 どうする?」

と尋ねてきた。

「え?

 意味が判らないよぉ」

鼓の言葉の意味が判らないあたしは首を横に振ると、

「琴音の職場には居ないの?

 薄給なのに海外旅行に帰ってから妙に金回りが良くなった人や、

 海外旅行から帰ってきてから急に結婚が決まった人なんて、

 そして、それらの人たちの旅行の行き先が、

 みなこの街だった…」

「!!!っ」

彼女のその指摘を聞いた途端、

あたしは最近職場での話題が頭によぎり、

妙に金回りが良くなった人、

縁遠いと思っていたのにいきなり寿退職をした人、

それらの人が皆この街に遊びに来ていたこと、

みなの腕にあるタトゥがあることを思い出した。

「まさか…」

目を丸くしながらあたしは鼓を見ると、

「鈍感すぎるぞ、

 もぅ、ここを予約するのが大変だったんだから」

そう言いながら鼓はあたしの鼻を突付き、

「じゃぁお願いします」

と彼女は主人に告げたのであった。



「タトゥってもっと大変なものかと思ったけど…

 意外と大したことが無かったのね」

店から出たあたしは右肩にタトゥを眺めつつそう感想を言うと、

「まぁね、

 こんなものよ」

と同じ模様のタトゥを彫ってもらった鼓はあっけらかんと答えた。

「でも、

 いいのかしら?

 タトゥって刺青なんでしょう?」

自分の肩のタトゥを心配そうに見つめながら笛子はいうと、

「あはは、

 大丈夫。

 このタトゥは刺青なんかじゃないわ、

 有機染料だから、

 ひと月ほどで身体に吸収されて消えてしまうものよ」

そう鼓は種明かしをし、

「だから、

 これからひと月が勝負なのよ、

 さぁ、勝ち組になるぞぉ!」

と拳を振り上げ気勢を上げる一方で、

「でも、なんで蛇なのでしょうか?」

笛子は彫られたタトゥが蛇を思わせるデザインであることに小首を捻る。

すると、

「あっそれね。

 蛇は願い事をかなえてくれる。って聞いたから蛇に決めたのよ」

と拳を振り上げながら鼓は理由を話すと、

「……だったら、

 お金や男の人よりも…

 あたしは自分を変えたいなぁ…」

肩に入る蛇のタトゥを見ながらあたしはそう呟いた。

と、そのとき、

ムズッ!

タトゥの蛇が一瞬動いたようにあたしの目に映ると、

「ひぃ!」

あたしは思わず悲鳴をあげてしまった。

「どうしたの?」

そんなあたしを見て笛子は理由を尋ねると、

「いっいま…

 …うっ…なんでもない」

笛子に向かってあたしは

”タトゥの蛇が動いた。”

と訴えたかったが、

しかし、真顔でこのことを言うと馬鹿にされかねなかったので、

あたしは口を閉じてしまった。

「さぁて、

 お腹も空いたし、

 明日は帰国で忙しいし、

 どこかで盛大にご飯食べようか」

目的を果たした鼓は夕焼けに染まる空を見上げながら提案をすると、

「さんせー!」

笛子は無邪気に同意してみせる。



「ねぇ、

 ちょっと、エアコンきつくない?」

ガイドブックでアレコレ調べた末、

ようやく決まった中華レストランに入った途端、

あたしは鼓たちにそう話しかける。

「え?

 そんなに寒い?」

「むしろ暑いくらいですけど」

寒そうに両腕で肩を寄せるあたしを見ながら、

二人は小首を捻って見せるが、

「うーっ、

 なんかゾクゾクするぅ」

あたしは見せ付けるように震えて見せた。

「風邪ですかぁ?」

そんなあたしを笛子は心配そうに見つめ、

そして、額に手を当てると、

「うーん、

 熱くないですねぇ…

 というより、冷たいんですが…」

とあたしに言う。

「大丈夫よ、

 お酒が入れば勝手に熱くなるわよ」

あたしと笛子に向かって鼓はそう言い、

さっさと案内された席に着いた。

そして、

「さぁ食べるぞぉ、

 帰ったらこんなには食べられないからねぇ」

気合を入れると、

運ばれてきた前菜を口に運ぶ。

悪寒はなかなか止まらなかったが、

しかし、鼓の言うとおり食事をするうちに次第に感じられなくなり、

自然とあたしの箸は進み始める。

そのとき、

ジッ!

とあたしを見つめる笛子の視線に気づくと、

「なっなに?」

あたしは慌てて端を止めた。

「うっうん、

 いや、

 あのさっ、

 琴音ってさっきから噛まないで丸呑みしているよ」

と笛子はあたしが口に運んだ食事を噛まずに丸呑みしていることを指摘する。

「え?

 そっそう?」

その指摘にあたしはドキリとしながら舌で口の中を回してみると、

確かに物を噛んだ形跡はなく、

タラー

あたしは冷や汗を流し始めると、

「ふぁ、どうしたぁ?」

冷や汗を流すあたしにすっかり出来上がってしまっている鼓が

真っ赤な顔であたしに迫る。

「うっなっなんでもないよ」

これ以上、ややこしいことになるのは勘弁して欲しかったので、

あたしはやんわりと返事をしながら鼓を押し返すと、

「あーっ、

 なんか、眠くなってきたぁ…」

鼓は持っていた箸を落としてしまうと、

クカー…

その場に突っ伏すようにして寝込んでしまった。

「あぁちょっとぉ

 鼓ぃ」

「ここでイチ抜けしないで下さい、

 コースはまだまだなんですから」

予想外の鼓の轟沈にあたしと笛子は慌てるが、

しかし、まだ続々と運ばれてくる食事に

残された形になったあたしと笛子は意を決すると、

それらを処理し始めるが、

「ちょっとトイレ…」

ついに笛子がそういい残して席を立つと、

「やれやれ、

 こんなことならランクを落としたコースにすべきだったなぁ」

あたしはため息を付きながら一人で食事を続ける。

しかし、食べても食べてもあたしの食欲は尽きることなく、

黙々と食べ続けていた。

そして、

「うーん、

 面倒だな…」

ふとあたしはそう考えたとき、

ドクン!

あたしの肩で何かが蠢き、

「そうだ、

 全部飲んじゃえ」

それに気が付くことなく、

なぜかあたしはそう考えると次々と食事を丸のみし始めた。

「あぁ…喉を通っていくこの感覚…

 気持ち良い…」

喉を押し広げるように通っていく感覚が快感に感じられ、

あたしは手当たり次第に飲み込み続けていく。

そして、

「あれ、

 なくなっちゃった…

 って、全部あたしが食べちゃったの?」

あれほどあった食事が綺麗さっぱりなくなってしまったことに気が付くと、

慌てて口に手を当てるが、

「あっ顎が…」

口に手を当てたとき、

あたしの口は大きく開いたままで顎が外れていることに気が付いた。

「どっどうしよう…」

何で顎が外れているのかを考える間もなく、

あたしは大急ぎで外れた顎を手に持ち上へと押し込んだ。

「お待た…えぇ?

 みんな食べちゃったのですか?」

あたしが顎をはめ込むのと同時に戻って来た笛子は

食事が全て平らげられていることに驚くと、

「うっうん、

 なんとか…」

あたしは振り返りながら笑みを浮かべ、

誤魔化してみせる。



「いよいしょっ」

「あー重い…」

相変わらず寝込んでいる鼓を担ぎながら、

あたしと笛子は彼女の部屋に押し込んだとき、

「あれ?」

ベッドの上に寝かせた鼓の何かを見て笛子は首を捻った。

「どうしたの?」

そんな笛子に向かってあたしは尋ねると、

「鼓ちゃんのタトゥ…

 なんか大きくなっているんですけど」

と笛子は鼓の肩に施されれているタトゥが大きくなっていることを指摘した。

その指摘どおり確かに鼓のタトゥは昼間見たときよりも大きくはなっているのだが

なぜかあたしは驚かず、

「そういうものよ、

 さっ行きましょう」

と言い聞かせると部屋を後にし、

それぞれの部屋に戻っていった。



「じゃぁ、明日ぁ」

そう言い合ってあたしは部屋に入ると、

パタン!

ドアを閉めた。

と、そのとき、

ゾクゥ!!!

猛烈な悪寒が体の中を駆け抜けていくと、

ドクン!

ほぼ同時に右肩に彫られたタトゥが強く蠢いた。

「痛い…」

あまりにも強く蠢かれたために、

あたしは思わずそう声を上げてしまうが、

しかし、蠢めきは次第に熱さとかわり、

その大きさも大きくなっていくと、

右肩全体を覆い尽くし始めたのであった。

「うっ」

あたしは肩を抑えながらその場にしゃがみ込んでしまうと、

チラリ

と自分の右肩を見る。

すると、

ギラッ

あのタトゥが巨大化して右肩を覆い尽くしてしまい、

さらに覆い尽くされた肩にはゴツゴツとした鱗が光り輝いていた。

「くはぁ…

 ハァハァ

 ハァハァ」

鱗に覆われる右肩を見ながらあたしはしゃがみ込むと

苦しそうに呼吸を乱し、

さらに両手を床につけると、

ゲホゲホゲホ

立て続けに咳き込んでしまった。

すると、

パラパラパラ

あたしの口から白いものが飛び散り、

床の上に転がって行く。

それはあたしの歯だった。

ついさっきまで食事をしていた歯があたしの口から零れ落ち、

代わりに上あごから突き出してきた左右一対の牙が姿を見せる。

「かはっ

 かはっ」

上あごから牙を伸ばしたあたしはなおも乾いた咳をつづけていると、

まぶたが降りなくなっていく。

そのときには鱗はあたしのからだの殆どを覆い尽くしていて、

ミシッ

ミシミシミシッ

不気味な音を立てながらあたしの身体を別の姿へと作り変え始めていた。

「げほっ」

一際大きく咳をして、

ドサッ!

あたしはその場に蹲るように身を伏せてしまうと、

ズズズズ

ズズズズ

身をくねらせながら床の上を這いずり始めだしてしまった。

もはや脚で立つことは出来なくなったあたしは蛇のように這うことしか出来ず、

身体も次第に伸びていくと、

頭の形が変わり、

裂けた口は大きく開く。

そして、

ピュル

ピュル

開いた口から二股に分かれた舌を伸ばすと、

あたしは部屋に置かれている様々なものに当て始めた。

始めはぎこちない動きであったが、

しかし、手足が萎縮して消えていくと、

肩や腰も消え、

引っかかるものが無くなった体から着ていた服が脱げ落ちると、

部屋の明かりに綺麗に揃った鱗を輝かせるようになる。

こうしてあたしは一匹の蛇・大蛇へと変身してしまったのであった。



大蛇となったあたしはしばらくの間、部屋の中を這いずり回っていたが、

やがて開いていたドアから廊下へと抜けていくと、

笛子の部屋へと向かっていく、

そして、閉まっている笛子の部屋の扉に這わせるように身体を伸ばすと、

ドアノブに身体を引っ掛け、

タン

タンタン

と身体をぶつけるようにしてドアをノックして見せた。

「はーぃ」

ノックが聞こえたのか、

部屋の中から笛子の声が響き、

チャッ!

目の前のドアが開く。

「あれ?

 誰もいない?」

ドアを開けた笛子はノックの主が居ない事に小首を傾げるが、

しかし、それもつかの間、

「ひぃ!」

足元でとぐろを巻くあたしに気づくと、

口を両手で塞ぎながら悲鳴を上げ、

慌ててドアを閉めようとした。

一歩あたしが早かった。

シャァッ!

とぐろを巻き力を込めていたあたしはまるでバネのように飛び上がると、

瞬く間に笛子の首に飛びつくと、

一気に身体を笛子に巻きつける。

「あっあぁぁっ

 あぁぁぁ」

あたしに巻き付けられた笛子は声を上げながら、

部屋の中へと倒れこむと、

必死になってあたしを解きに掛かるが、

しかし、

ギュッ!

あらん限りの力を使ってあたしは笛子を締め上げ、

そして、彼女の右肩に彫られているタトゥに舌を伸ばす。

短いながらも長く感じられる時が進み、

「あっ

 あっ

 あはぁぁぁ」

徐々に笛子の身体から力が抜けていくと、

グッタリをしてしまうが、

しかし、笛子は気を失ったわけではなく、

彼女の右肩のタトゥは徐々に大きくなり、

ゆっくりと笛子を大蛇へと変身させていったのであった。



ピュルッ

ピュルピュル

笛子の口から先が割れた赤い舌が出てくると、

シュルルル

あたしは細長くなった笛子の身体に自分の身体を絡ませていく、

そして、

シュルルル

シュルルル

二匹の蛇は絡まりあうと、

その身体を互いに擦り合わせ、

互いの身体の感触を確かめ合いながら部屋の中を転がりまわり続ける。

ピュルルル

ピュルルル

あたしと笛子は舌を伸ばし、

その舌を絡ませながら言葉にならない声を互いの脳裏に響かせあう。

蛇となった互いの愛撫は何時までも続き、

その身体はゆっくりと溶けていった。



「はーくしょっ!」

朝日が差し込む笛子の部屋にあたしのくしゃみの声が響き渡ると、

「ん?

 ここ、何所?」

あたしは寝ぼけ眼で起き上がる。

と同時に、

「なによぉ」

くしゃみに起こされたのか笛子も起き上がると、

「あれ?

 琴音っ

 なんで部屋にいるの?

 って、裸?

 あっあれぇ?」

笛子は裸のあたしが部屋にいることと、

自分も裸になっていることに驚くのと同時に、

「え?

 え?

 えぇ?

 きゃぁぁぁぁぁ!!!!」

あたしもまた裸の身体を手で隠して悲鳴を上げたのであった。



「あー、恥ずかしいかったぁ」

「こっちもよぉ」

「なにしたのよぉ」

「そっちこそ」

レストランであたしと笛子はきまづい食事をしていると、

「部屋の前で琴音と別れた所までは覚えているんだけどね」

「うーん、そこから先が思い出せないのよねぇ」

昨夜、笛子の部屋の前で別れて以降の記憶がすっぽりと抜け落ちていることに、

あたしたちはしきりに首を捻る。

と、そのとき、

「ねぇ、鼓さんは?」

笛子は姿を見せない鼓のことを指摘すると、

「あっそういえば…

 まだ部屋で寝ているのかな?」

レストランを見回しながら、

あたしは鼓の姿を探すが、

「えーっ、

 だって、飛行機はお昼よぉ、

 寝ているのだったら起こしに行かないと!」

そんなあたしの姿を見て笛子は声を上げる。

「そうねぇ、

 もぅ9時に近いし…」

彼女の言葉にあたしは時計を見ると、

「急いで起こしに行きましょう!」

笛子は席を立ち、

鼓の部屋へと向かっていく、

そして、エレベータから降りた途端、

「いやぁぁぁぁ!!!!」

「うぉぉぉっ!!!」

鼓の部屋がある方から女性と続いて男性の声にならない悲鳴が響いた。

「え?」

その悲鳴にあたしと笛子は顔を見合わせたのち、

急いで向かっていくと、

顔を青くした男の人があたしたちに向かって何かを怒鳴り、

その彼の下では大蛇が悠々と身をくねらせながら

あたしたちに向かってくるのが目に飛び込んできたのであった。



『あら、お早う、

 ん?

 なんて顔をしているのよ

 もぅ朝食は食べたの?』



おわり