風祭文庫・獣変身の館






「メアリー」
(後編)



作・風祭玲


Vol.831





「さー、

 メアリー、ここだぞぉ」

ウキウキしながら武次郎は本宅と別棟とを別け隔てる扉を開け、

そこに恵理と招き入れると、

「うわっ、

 なにこれ…」

恵理の目の前には体育館、いやそれ以上に広い広大な部屋と、

小山のように築かれた牧草地が目に飛び込んで来た。

「どうじゃ、

 凄いだろう、

 これならメアリーでも一日中遊んでいられるぞ」

唖然とする恵理の後ろから武次郎は胸を張ると、

「おじいちゃんって、

 メアリーちゃんのためにここまでしていたんだ」

そんな武次郎の姿を見て恵理は胸が苦しくなり、

そして、

「おじいちゃん。

 あの…

 よく聞いてください。

 メアリーちゃんは

 おじいちゃんのメアリーちゃんは…

 もぅ死んでしまったんです。

 この世にはいないんです。

 ですから…」

恵理は振り返り、

武次郎に向かってメアリーの死を受け入れさせるように説得をしようとした、

だが、

ギィ…

ガコンッ!

恵理が入ってきた扉が重々しい音を響かせながら閉じられてしまうと、

「ふふふふ…」

意味不明の笑い声を上げながら武次郎は鞭を取り出し、

ヒュンヒュン

とそれをうならせながら、

「さぁ、メアリー

 お前はここで遊ぶんじゃ」

と強い口調で言う。

「え?

 いまなんて…

 それに、それって」

武次郎の手にある鞭を指差し恵理は顔を引きつらせると、

「メアリぃ…」

そう言いながら武次郎は手にした鞭を大きく振りかぶり、

ビシィ!!!

と渾身の力を込めて恵理の尻を叩いた。

「ひっ!」

痛いというより熱いと表現すべき痛みに恵理は飛び上がってしまうと、

ビシィ!!!

ビシィ!!!

さらに立て続けに2発、続けざまに恵理の尻は叩かれ、

「ひっ

 痛い、

 痛ぁぁぁぃ!」

ジンジンと腫れ上がってくるお尻を押さえながら

恵理はその場に蹲まろうとするが、

ビシッ!!

今度は恵理の首筋が打たれ、

さらに足払いをもされてしまうと、

「きゃんっ!」

軽い悲鳴を上げながら、

恵理はその場に這い蹲りにされてしまった。

「うぅぅ…」

痛むお尻を押さえながら恵理は唸っていると、

「ほっほっほっ

 メアリーは躾になってないのぅ」

武次郎は恵理を見下ろしながら笑い声と共にそう呟き、

「しばらく見ない間になんて悪い子になったんじゃぁ

 メアリーはそんな聞き分けの無い子ではなかったぞ。

 お仕置きじゃ!

 お仕置きじゃ!

 お仕置きじゃ!」

と声を張り上げながら、

ビシッ!

ビシッ!

ビシッ!

幾度も幾度も恵理の尻を叩く。

そして、

彼の腕が振り降ろされるたびに、

「痛いっ」

「やめて」

「お願いっ」

「痛いっ」

「いやっ」

恵理は悲鳴を上げるが、

「何て声を上げるんじゃっ

 何て反抗的なんじゃお前は!」

その声が余計に武次郎の気持ちを高ぶらせ、

さらに腕に力が入ると、

ビシッ!

ビシッ!

その音は一際大きくなる。

「あぐっ!」

「うぐっ!」

一段ときつくなった痛みに恵理は涙を流しながらただひたすら耐え、

そして、

「ハァハァハァ

 ハァハァハァ」

ようやく武次郎の腕が止まったときには、

彼の下には破けたスカートから赤く腫れ切った尻を晒す恵理の姿があり、

「うぅぅぅぅ…」

声を殺す様にして泣き続けていた。

しかし、武次郎はそんな恵理を介抱することなく、

鞭の先を恵理の顎の下に差し込み、

そして、ゆっくりとその顔を持ち上げながら、

「ん?

 なんだメアリー、

 服など着おって、

 人間の真似事をしているのか?

 お前は?」

と問いただした。

「ひぃ!」

彼のその言葉にすっかり飲み込まれてしまっていた恵理はガタガタ震えながら、

痛む身体を庇いながら着ていた服を脱ぎ始めると、

上着、

スカートを放り投げ、

下着姿になって武次郎を見上げた。

だが、

「な・ん・だ、

 こ・れ・は」

恵理の胸元と股間を覆っている下着を一つずつ鞭で叩きながら指摘すると、

「うぅっ」

恵理は目から大粒の涙を零しながら、

下着を全て取ると全裸になり、

顔を背けながら武次郎の前に立った。

「うむ、よろしい」

尻から太股にかけての腫れが痛々しい姿を見せつける恵理を

武次郎は満足そうに見下ろしながら頷くと、

ニコリ

満面の笑みを作り、

「さぁ、お腹が空いただろうメアリーや、

 ほら、あそこにご飯を用意していたぞ」

と言うと、

ドサッ、

と干草が置かれている給餌場を指差した。

「ひっ!」

それを見せられた恵理は顔を引きつらせると、

「いやっ!」

声を上げて逃げ出し、

閉じられているドアめがけて走っていく、

だが、

ガシッ!

ガシガシッ!

この別棟と本館を繋ぐところにあるドアは硬く閉じられ、

いくら恵理が引いても押しても開くことはなかった。

しかし、恵理は諦めずに、

ドンドンドン!

ドンドンドン!

「助けて!

 執事さんっ!

 ここを開けて!」

本宅にいるであろう執事に向かって声を張り上げるが、

いくら恵理がドアを叩いても声を張り上げても、

閉じられたドアは開く事はなく、

無情にも閉じ続けていたのであった。

「お願い…

 ここから出してぇ、

 誰かぁ、

 助けてぇ!」

泣きじゃくりながら恵理は訴えていると、

その背後に人影が立ち、

ヒュン!

バシッ!!

「うぐぅぅ」

鞭の唸る音共に恵理のわき腹に強い衝撃が襲った。

それと同時に彼女は脇を抑えながら蹲ると、

「メアリー、

 わしの前から勝手に走っていくとは、

 お前はとっても悪い子だ、

 その性根をたたきなおしてあげるよ」

と告げながら武次郎は恵理に迫り、

そして、

手にした鞭を大きく振り上げると、

「ふんっ!」

それを一気に振り下ろした。

バシッ!

ビシッ!

バシッ!

部屋中に鞭の音がこだまし、

「ギャァァァ!!」

追って恵理の悲鳴が響き渡るが、

武次郎の腕は止まることはなく、

ヒュン!

ビシッ!

ヒュン!

バシッ!

ヒュン!

ビシッ!

ヒュン!

バシッ!

部屋の中に鞭の唸る音と、

その鞭にはたかれる音が交互に響いて行く。

そして1時間近くが経ち、

武次郎の手が止まると、

「おぉ、もぅこんな時間か、

 ご飯の時間がなくなってしまうではないか、

 さぁメアリー、

 お仕置きはこれくらいにしよう」

と優しく話しかける。

しかし、武次郎の足元には体中に赤紫色の痣を作り、

腫れて歪んだ顔を晒す恵理の姿があり、

「うっうぅっ」

腫れあがる身体を痛々しそうに庇いながら声を殺して泣き続けていた。

「ふぅむ」

武次郎はそんな恵理を介抱することなく考え込むと、

「おぉ、そうじゃ」

何かを思いついたのか、

恵理に背を向けどこかへと立ち去り、

そして、再び戻ってくると、

ドサッ!

起き上がれない恵理の前に皮製品特有の臭いを放つモノが落とされた。

「…こっこれは…」

晴れ上がったまぶたの下から恵理はそれを見ていると、

「メアリーや、

 罰としていまからこれをつけるぞ、

 いいなっ」

と武次郎は恵理に話しかけ、

動けない恵理を無理やり抱き起こすと、

ギュッ!

ミシッ!

ガシッ!

傷だらけの身体に皮製の拘束具が取り付けてられて行く。



「うっ

 うっ

 うぐぅぅぅぅ」

拘束具が取り付けられてしまった恵理は腕と脚の自由を奪われ、

手は前に突き出した形で肘が伸び、

足も腰は椅子に座ったように前に向かって腿が突き出し、

膝は肘と同じように伸ばされる。

そのために恵理は立ち上がって起きること出来なくなり、

動物のように手と足全てが地面につけなくては身体を起こすことが出来ない姿になってしまった。

「うっうぅぅ…」

立って歩くことが出来なくなってしまった恵理が泣き始めると、

「さぁ、メアリーぃ

 行きなさい」

武次郎は優しく声をかけながら、

ピタピタ

と鞭の先で恵理の尻を叩くと、

「!!!っ」

恵理は一瞬、身体を強張らせ、

そして、

グッ

地面につけている右腕を持ち上げて前に差し出すと、

続いて左腕を前に出し、

右足、左足と動かして前に進み始めた。

まるで生まれたての子供の獣がやっとの思いで母親についていくように、

恵理は身体を震わせながら、

一歩、

一歩、

ぎこちない動きで給餌場へと向かっていく、

そして、長い時間をかけて給餌場にたどり着くと、

「さぁ、メアリー、

 たんと草をお食べ」

そう話しかけながら武次郎は

グッ

と恵理の頭を下に押して口を干草へと近づける。

だが、

「いっいやぁぁぁ」

弱弱しく恵理は訴えながら、

顔を干草から背けてしまうと、

「どうした?

 食べないのか?」

それを見た武次郎は心配そうな声を上げるのと共に、

ヒュンヒュン

とまた鞭を唸らせた。

「ひっ」

唸る鞭の音に恵理は叩かれる恐怖を感じると、

両腕を開いて身体を前にのめらせ、

口を干草へと近づけていく、

そして、舌を伸ばして食べ始めるが、

草特有の青臭い臭いが口の中に広がってくると、

「うぐっ」

恵理は思わず草を吐き出してしまった。

だが、

「どうしたんだい?

 メアリーぃ

 お前はその干草をたんと食べていたんだよ」

という武次郎の言葉が響くと、

「うっ」

恵理は泣きながら干草を食べ始めた。

シャク

シャク

ウッ!

青臭い匂いに恵理は幾度も戻しかけるが、

しかし、鞭で叩かれる恐怖から逃れるために、

恵理は干草を食べ続けていた。

「うんうん、

 メアリーは良い子だ。

 たんと食べるんだよ」

そんな恵理の姿に武次郎は満足げ笑みを浮かべるが、

「お願い…これが悪夢なら醒めて」

一方で恵理はそう願いながら干草を食べ続けていた。

しかし、食べなれない干草など大して食べられるはずも無く、

直に恵理は草から顔を離すと、

「もういいのか?

 そうか、

 じゃぁご飯を食べたら運動だ。

 メアリー」

武次郎のその声が響き渡り、

「おっとその前に、

 これをつけなければな」

その言葉と共に恵理に古びれた鼻輪を見せた。

「それは…」

牛の鼻頭には必ずついている鼻輪を見せられた恵理は顔をこわばらせると、

「ふふっ」

武次郎はニコッと笑みを見せながら、

キラリと光る千枚通しを取り出すと、

恵理の顔を鷲づかみにするなり、

「何だ、これでは鼻輪がつけられないではないか」

と言いながら恵理の鼻に千枚通しを突きたてる。

「いやぁぁぁ!!

 やめて

 やめて」

懇願する恵理の悲鳴が上がるが、

グッ!

武次郎の手に力がこめられると、

「ぎゃぁ!」

恵理の悲鳴と共に彼女の鼻は千枚通しで貫かれ、

だら…

恵理の鼻から赤い血が滴り落ちる。

けど武次郎は構うことなく千枚通しがあけた細い穴をこじ開けはじめると、

ついに極太の鼻輪を通してしまった。

「うぎゃぁぁ

 いっ痛い!

 痛ぁぁぁぃ

 痛いよぉぉぉ!!」

鼻を引き千切れんばかりに貫き通す鼻輪を振り回しながら恵理は泣き叫ぶが、

ピキッ!

その痛みと共に

恵理の頭に刺激が走ると、

ムズッ!

同時に体の中を何が蠢く感触が走る。

その途端、

「うがぁぁぁ!!

 あがぁぁ

 あぁぁ

 あうあう…」

恵理の口から言葉とも唸り声とも判断の付かない声が漏れ、

呂律は回らなくなり始めると、

「(言葉が…

  言葉が

  思うように出ない)」

鼻の痛みよりも、

言葉が自由に出せないことに恵理は驚き、

目を剥きながら

口を大きく開けて必死に声を出そうとするが、

「あがぉぉぉ

 おぉぉぉぉ

 おぉぉぉぉ」

恵理の口から出るのは人の言葉には程遠い声であった。

「どうした?

 メアリー?

 体の具合が悪いのか?」

それを見た武次郎は心配そうに覗き込むと、

「(あっ、また鞭で打たれたら…)」

武次郎の顔を見た恵理は鞭打ちの恐怖心から口を閉じると、

グッ

一歩前に出ようと力を入れた途端、

ピクッ

ピクピク

恵理の身体は振るえらせながらもさっきよりもスムーズに”4つ脚”で歩き始めた。

「おぉ、

 そうかそうか、

 メアリーは元気じゃの」

そんな恵理の姿も武次郎は目細めながら喜び、

幾度も幾度も恵理の顔を撫でてみせるが、

「(どっどうしちゃったの?

  あたし…

  これじゃぁ…まるで)」

恵理は自分が人では無く獣になってしまったような錯覚に陥っていくが、

しかし、身体は動きを止めることなく歩き続けていた。

目を細める武次郎の前で恵理はしばらくの間歩いていると

ブルッ!

突然、尿意と便意をもよおしてしまった。

無理も無い、4つ脚で歩く器具をつけられているとは言え、

恵理は裸のままでずっといたので、

身体が冷えてしまったのである。

「あぁぁ…

 おぉぉぉぉっ

 おぉとっ

 おおぉトト

 おぉト

 おぁぃレ…

 おおぉ

 おぉぉおね、

 がががい、

 いいいぃぃぃ

 かっかかかっ

 せっせせせ

 てぇぇぇ…」

立ち止まり我慢をしながら呂律の回らない口で恵理は武次郎に懇願するが、

「なに?」

それを聞いた武次郎の眉がピクリと動く、

「あぁ…

 うぅ…

 もっ

 もぉもぉもぉ

 もぉぉぉぉ」

武次郎のその表情を見た恵理は反射的に牛の啼き声をあげて見せると、

「ん?

 あぁ、トイレか、

 そうだな」

そんな恵理の気持ちを察してか、

武次郎は優しく言いながら、

「さぁ、

 良いんだよ、遠慮しなくても、

 どこでも好きなところでしなさい」

と恵理に告げたのであった。

「ひっ・・・・・・」

もはや恵理は何も言えなかった。

絶望感に打ちひしがれながら、

恵理は少しでも武次郎から離れようと牧草地の上に進むと、

顔を武次郎から背けながら、

放尿と便を落とした時、

ピキッ!

恵理の奥で大きな音を立てて何かが壊れてしまったのであった。



やがて日が暮れ、

「さぁ、

 今日はこれでおしまいだ、

 メアリー

 こっちにおいで」

牛舎に立つ武次郎が牧草地の上にいる恵理を呼ぶと、、

「もぉぉぉぉ」

恵理は牛の啼き声で返事をしながら、

”四つ脚”で牛舎へと向かっていく、

そして、藁が敷かれた寝床の上に倒れるようにして身を横たえると、

ギュッ!

鼻につけられた鼻輪に荒縄が結ばれ、

その荒縄は牛舎の止め木へと結ばれてしまったのであった。

「よしよし、

 また明日遊ぼうな、

 お休み、メアリー」

恵理の頭を武次郎は撫でなでで部屋から消えて行くが、

だが、

武次郎の姿が消えると、

藁の上に寝そべっている恵理は藁の中に顔を埋め、

「うっううううう…

 かっかかかかかっ

 かかかっ

 えぇぇっ

 りっりりりりり

 たたたたっぃっ」

呂律の回らない声でそう訴えながら泣き出してしまった。

その泣き声は何時までも消えることはなく、

恵理にとって衝撃的な一日は過ぎ、

再び日が昇ると、

「メアリー!

 何度言ったら判るんだ!」

武次郎の怒鳴り声と共に、

ビシッ!

ビシッ!

部屋に鞭の音が響き渡ると、

「ぎゃぁぁ!」

恵理の悲鳴が追って響き渡った。

だが、そのような日々を重ねるうちに、

次第に鞭の音は消え、

代わりに

「もぉぉぉ

 もぉぉぉ

 もぉぉぉぉ〜っ」

と元気の良い牛の啼き声が響くようになると、

牧草の上を四つ足で歩いていく恵理の姿があった。

拘束具による不自由な生活を続けていくうちに骨格が変わってしまったのか、

恵理の両腕は長く伸び、

前のめりになっていた身体を後ろへと起こし、

また骨盤から太股の形も変わると、

前後に動く脚の動きが干渉されずにスムーズに動くようになり。

さらに、顔の形が変わってきた恵理のこめかみから左右に二つの突起が姿を見せると、

床につけている両手両足先が膨らみ、

かすかに裂け始めた手の甲には黒いものが姿を見せていた。

そんな姿を晒しながら恵理は長く伸びてしまった舌で器用に干草を巻きつけると、

ムシャ

ムシャ

と草を食み、

ゲフッ

反芻もするようになっていった。

もはや恵理の頭の中は自分が何であったのか忘れかけ、

武次郎に褒められることがこの上なく楽しく、

彼に甘えるようになっていた。

そして、恵理の身体からはあの忌々しい拘束具は取り外されるが、

しかし恵理は二度と起き上がることは無かった。



そんな日々を送るうちに恵理の身体は大きさを増していくと、

体重も順調に増え、

ノッシ

ノッシ

とその巨体を揺らしながら歩くようになってく、

そのときの恵理の姿は、

はちきれんばかりの巨体を伸びきった人間の皮が覆っていて、

あまりにも窮屈そうな姿になっていた。

そんなある日、

「こっちにおいで、

 メアリー」

部屋に入ってきた武次郎が恵理を呼ぶと、

「んもーっ」

恵理は大きく膨らんだ腹を揺らしながら、

嬉しそうに武次郎の元に行くと、

角が突き出した頭を武次郎の身体に擦り始めた。

「おぉ…

 メアリーや、

 わたしの可愛いメアリーや」

武次郎は恵理の頭を愛しそうに撫で回し、

そして、

「さぁ、メアリーや、

 今日はな、

 お前を本当の姿に戻してあげよう。

 いまお前は悪い奴の悪戯で、

 変な皮を被されておる。

 さぁ、

 お前本来の姿に戻してやろうなっ」

と言いながら武次郎は古風なナイフを取り出し、

サクッ!

恵理の首筋にそのナイフを突き立てた。

スーッ

付きたてたナイフをゆっくりと動かしていくと、

ファサァ!

恵理の身体にで来た切れ目より白い獣毛が飛び出し、

「おぉ…」

武次郎の目は嬉しそうな形へと変わると、

さらに動かしてその切れ目がお尻に来たとき、

ブルンッ

恵理のお尻からしなやかな尻尾が飛び出した。

そして、一旦武次郎はナイフを抜き、

再び首筋に突き刺すと、

今度は恵理の頭から顔に向かって動かしていく、

やがて、

ハラリ…

恵理の体が切り裂かれてしまうと、

「もぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

大きく声を上げて尻尾を振って見せるホルスタインが

恵理の皮の中から姿を見せたのであった。

「おぉ、

 メアリー、

 メアリー、
 
 メアリー、

 わたしはお前に会いたかったぞ」

人間の皮を脱ぎ、

蹄の音を鳴らすホルスタインを武次郎は抱きしめると、

ハラハラと涙を流しながら、

「お前と別れることなど二度と嫌だぞぉ」

泣き声を上げると、

『ふぅ…

 すっかり忘れていたわ、

 贄が必要だったけど、

 でも死んだ牛の鼻輪から作る”黄泉帰りの鼻輪”って効果絶大だわねぇ…』

しっかりと抱き合い絆を確かめ合う武二郎と愛牛の姿を窓の外から見ていた白蛇堂は満足そうに呟くが、

不意にその目に悲しみの色が差すと、

『形見のモノも残さずに消えやがって…あのバカ…黄泉帰りも出来ないじゃないか』

そう呟くと、

フッ!

その姿をかき消した。

その一方で、

「メアリー

 メアリー」

武二郎の背後には晴れやかな空が広がっていたのあった。



おわり