風祭文庫・獣変身の館






「メアリー」
(前編)



作・風祭玲


Vol.829





ザザーン…

天空高く銀色の満月が照らす大海原。

『またアナタが居るのぉ?』

呆れたような白蛇堂の声が響き渡ると、

『白蛇堂殿、

 お声が過ぎますが』

嗜めるように黒蛇堂の従者の声が低く響く。

『なによっ、

 このあたしに命令をする気?』

ジロリと従者を睨みつけながら白蛇堂が食って掛かると、

『…白蛇堂、

 何度も言いますが、

 わたしは品物を受け取りに来ただけです。

 別にあなたの邪魔をしに来たわけではありません』

自分にとってかけがえの無い存在である従者への白蛇堂の態度に

黒蛇堂はムッとした表情をしながらも静かに告げた。

『ふんっ』

彼女のその言葉と秘めた力を持つ緋色の眼力に押されたのか

白蛇堂は何も言い返さず海から突き出るひょうたん型の岩の上に舞降りると、

背を彼女に向けて立つ。

ザザーン…

岩場の下からは潮騒の音が響き、

しばしの間、二人は背を向け合って立っている。

ザザーン…

無言の二人に圧力をかけるかのように潮騒は鳴り響き、

最初は無視をしていた白蛇堂だが、

次第に鬱陶しそうな仕草をし始めると、

『相変わらず煩い音ね、

 こんな所に呼び出されていい迷惑よっ、

 大体、業屋も業屋よ、

 もぅ撤退したんだから、

 後を受け持つ納豆屋に任せればいいのよ』

白蛇堂は肩に掛かる白銀の髪を手で梳きながら文句を言う。

すると、

『仕方が無いでしょう、

 その業屋さんが品物を渡したい。って言うのですから、

 それに納豆屋って…確か夢ナントカ屋さんじゃなくて?』

ため息混じりに黒蛇堂がそう返事をした途端、

ユラッ…

辺りの闇が一瞬揺らめくと、

カシャカシャカシャ…

突如、金属的な音が響き渡り、

二人の目の前に一筋の軌条が出来上がって行った。

『え?

 線路?』

『はぁ?』

目の前に姿を見せたレールを見て二人は唖然としていると、

コォォォォン…

レールが鳴り始め、

カッ!

彼方よりヘッドライトの光が煌々と輝く。

『ねぇ、

 こんな所に鉄道って走っていたっけ?』

迫ってくる光を見ながら白蛇堂が呟くと、

『さっさぁ?』

額に汗を流しながら黒蛇堂は小首をかしげる。

カァァァァァン…

迫るヘッドライト共にレールの音は大きくなり、

やがて、

フォォォォン!!!!

タイフォンの音が響き渡ると、

ゴォォォォォ!!!

ヒュォォォォン…

黒蛇堂と白蛇堂の目の前に流線型をした列車が滑り込み、

その白い車体を静かに止めた。

『なんていうか…』

『とっても速そうですね』

目の前に停車した列車を二人はあきれ返りながら見ていると、

『これはこれは白蛇堂殿に黒蛇堂殿。

 お二人揃ってのお出迎えとは痛み入ります』

いきなり二人の背後で男性の声が響いた。

『!!っ』

その声に白蛇堂と黒蛇堂が振り返ると、

『お久しぶりでございます』

そう言いながら中肉中背の和服姿の男性が宙に浮き、

頭に被っていた制帽を取ると

ニッ

と笑みを見せた。

『業屋!!』

男性・業屋を見ながら白蛇堂が声を上げると、

『以前、ココであった時とは随分と変わりましたね』

と前回の千石舟との余りものの違いに黒蛇堂は指摘する。

『はいっ、

 おかげさまでこの業屋。

 ご覧の通り、雪城車両製”デンライナー・SRC業火号”を導入することが出来ました。

 これからはこの列車と共に地の果てまで商売をしていきたいと思います。

 これも皆様方が業屋をお引き立ててくれたお陰です』

と業屋は恭しく言う。

『いったい、いくら儲けたんだ?』

感心しながらも白蛇堂は焦りながら尋ねると、

『ほーほほほほ…

 それはまぁ…

 何といいますか、

 企業努力。

 と言って下さいませ』

その質問に業屋は自分の口を袖で隠し答えをはぐらかす。

『ふんっ、

 あたしだって、いつかは…』

そんな業屋の姿を見ながら白蛇堂は一瞬、

自分の脳裏に宇宙を駆ける海賊船を思わせる船を思い浮かべるが、

スグにそれを振り払うと、

『で、渡したい品物って何よっ、

 まさか、これを見せびらかしに来たんじゃないでしょう?』

白蛇堂は不機嫌そうに業屋に尋ねる。

『あーっ

 はいはい、

 畏まりました』

白蛇堂の言葉に男はそう返事をしながら懐より大福帳を取り出すと、

『えーと、

 白蛇堂殿のお荷物は…

 あぁ、A−015番ですね』

そう言うや否や業屋は携帯電話を取り出し、

『あぁ、もしもし、

 13号車を横に着けて』

と誰かに向かって指示をすると、

スーッ

SRC業火号は音もなく動き始め、

後方に連結をしているコンテナ車が前に来た。



『なにこれ?』

業屋から渡された商品を白蛇堂は怪訝そうな目で首を捻ると、

『お忘れになったのですかぁ?

 白蛇堂殿がご注文をされたモノですが』

と業屋は眉を寄せる。

『あたしが?

 こんな古びれた輪を?

 何で?

 ………

 …あっ!』

使い古されいかにも曰くありげな木製の輪を見ていた白蛇堂だったが、

不意に何かに気づいた素振りを見せると、

『忘れてたぁ!』

と声を張り上げ、

フッ!

かき消すようにその姿を消してしまった。

『白蛇堂!!』

いきなり姿を消した白蛇堂に向かって黒蛇堂は声を上げると、

『やれやれ、

 完璧にお忘れになっていたみたいですな、

 中々引き取りに見えられないので、

 もしや…と思っておりましたが、

 このご様子では夢の達成はまだまだ先でございますな』

業屋は呆れ半分に呟き、

改めて黒蛇堂を見ると、

『さて、黒蛇堂殿へはこちらです。

 鍵屋殿より黒蛇堂殿にお渡しするようにと言付かっております』

そう言いながら丁寧に梱包されたDVDの箱を手渡す。

『まぁ、鍵屋さんから…

 ですか?』

思いがけない鍵屋からの品物に黒蛇堂は驚くと、

かすかに頬を赤らめる。

『おやぁ?

 どうかなさいましたか?』

黒蛇堂の姿を見て業屋は覗き込もうとすると、

『なっなんでもありませんっ、

 では、私も急ぎますので、

 行きますよ』

黒蛇堂は従者に向けてそう言って姿を消そうとする。

すると、

『あぁお待ちください』

業屋は黒蛇堂を引き留め、

『まだなにか?』

引き留められた黒蛇堂は聞き返すと、

『こちらを…

 片方は白蛇堂様に渡し損ないましたので、

 白蛇堂様にお渡しください』

と業屋は2枚のパスを黒蛇堂に手渡した。

『無期限有効?』

パスの表に書かれている期限覧を見ながら黒蛇堂は読み上げると、

『はい、

 無期限有効のデンライナーのパスです。

 このパスが有ればお好きな世界にお連れできます。

 例え天界であっても、

 …冥界であっても…』

キラリ☆

目を光らせながら業屋は告げる。

『冥界であっても…』

業屋のその言葉を黒蛇堂は復唱すると、

『あのお方に会いに行かれますか?』

と手もみをしながら業屋は尋ねる。

『!!っ』

業屋の質問に黒蛇堂はハッとすると、

『いっ行きますわよ』

そう従者に告げ、

フッ

と姿を消してしまった。

『やれやれ…

 まだあのお方のことが頭から抜けていませんか、

 そうとは思いませんかァ?』

黒蛇堂たちが去った後、

業屋は尋ねながら後ろを振り向くと、

『ふんっ、

 まったく困った妹達だ。

 未だに過ぎ去ったことに拘っているなんて…』

業屋の後ろで髪を7・3に分けた顎長の男が腕を組みながら仁王立ちで立っていた。

『さぁ、フルパワーで行きますよぉ!

 デンライナー・SRC業火号、

 出発・進行!!!』

制帽を被り直した業屋のかけ声と共に、

タイフォンの音が高らかに響き渡ると、

ヒュォォォン…

インバーターの音を響かせながらデンライナー・SRC業火号は動き始め、

1200tのコンテナーと共に闇の中へと走り去って行く。

業火号の次の停車駅は天界か冥界か…



「え?

 いまから…ですか?」

とある大学のボランティアサークル。

そのサークルが居を構える一室に本庄恵理の驚いた声が響くと、

「うん、そうなのよ」

恵理の1つ上の先輩である神保原美紀は困った顔をしながら、

「どうしても、恵理に来てもらいたいんだって」

と続けた。

「はぁ」

彼女のその言葉に恵理は肩に掛かる髪を軽く揺らせながら頷くと、

「行ってきてあげなよ、

 内藤さんでしょう?

 恵理を呼んでいる人って、

 恵理、内藤さんに気に入られているでじゃない」

二人の話を聞いていた同じメンバーで幼馴染の熊谷知子が恵理の背中を押すが、

「うーん」

恵理の表情は乗り気ではなかった。

「なにかあったの?」

「ううん」

「じゃぁ問題ないでしょう?」

「それはそうだけど…」

いつもなら話が終わるのを待たずに飛んでいく恵理の腰が妙に重いことに

美紀と知子は理由を尋ねるが、

しかし、恵理の返事は曖昧なものだった。

すると、

「内藤さん、

 メアリーちゃんが死んでから、

 相当落ち込んでいたから心配よね。

 その内藤さんが恵理に会いたいって言うんだから、

 なにか元気になる切っ掛けになるかもしれないわよ。

 行ってあげたら?」

と部屋の奥で食事中の上尾夏美が口を挟んできた。

「ちょっと、夏美。

 なんでここでご飯を食べているのよ」

後輩である夏美の指摘に恵理はムッとしながら絡むと、

「お腹が空いたからよ、

 いけない?」

悪びれることなく夏美は言い返す。

「なっ!」

彼女のその言葉に恵理がカチンとくると、

「はいはい。

 ご氏名が来ているんだから、

 さっさと行く」

二人の間を知子が割って入り、

「あぁちょっとぉ

 まだ話がぁ」

なおも夏美に食って掛かろうとする恵理の手を引き部屋から出て行った。



恵理が所属するボランティアサークルは、

老人ホームや一人暮らしの老人の家などを回って、

ヘルパーの手伝いなどをいたりしていた。

そして、その見回り先に

いま恵理が向かっている内藤武次郎の自宅があるのだが、

「うー、

 なんかここに入るのって嫌なんだよなぁ」

ギャァギャァ

不気味な鳥の鳴き声が響き渡る門の前で

恵理は閉じられた鉄柵越しに中を覗き込んでいると、

「もぅ、シャンとしなさいよぉ!

 怖気づいたの」

と腰に手を当てて知子が注意をする。

「そんなこと言ったてぇ」

知子の言葉に恵理は泣き顔になりながら言い返すと、

「まったく」

そんな恵理を横において

カチ!

柵が閉じられている門の呼び鈴を押すと、

「本庄でーすっ、

 武次郎さんに呼ばれましたので参りましたぁ」

と声を張り上げた。

「ちょちょっと、

 知子っ」

彼女のその行為に恵理は慌てると、

ギィ…

重々しい音を響かせながら鉄柵が動き始め、

程なくして、

ガシャンッ

大きな音を立てて恵理を招き入れるように開いて見せた。

「じゃぁねっ、

 恵理っ

 お仕事頑張ってきてね」

そう言いながら知子は開かれた門の前で固まってる恵理の背中を、

ドンッ!

突き飛ばすようにして押すと、

「うわぁぁぁ」

恵理は悲鳴を上げながら邸内へと入って行く、

そして、

手を振る知子と恵理の間を引き裂くように柵が閉じられてまうと、

「とほほほ…」

恵理は奥に建つ洋館へと歩き始めたのであった。



「ごめんくださぁい、

 本庄ですけど…」

にぎやかな街中にありながら、

まるでエアポケットに入ってしまったかのように

静かな森の中に佇むレンガ造りの洋館。

その洋館のドアの前に立ちながら恵理は声を張り上げると、

ギィ…

ドアがゆっくりと開き、

「お待ちしておりました、本庄様」

執事服を身に着けた執事が二人、

丁重に恵理を出迎えた。

「はぁ…」

この館に住む武次郎の身の回りの世話をする執事に迎え入れられて恵理が屋敷に入ると、

カラカラカラ…

長く伸びた廊下の奥から、

乾いた車輪の音が響き渡り、

程なくして横溝映画に出てきそうな曰くありげな老人・内藤武次郎が車椅子で希の前に姿を見せた。

「うわっ

 でたぁ」

武次郎の登場に恵理は飛び上がりそうになりながらも、

「あの、

 わたしに来て欲しいって伺いましたが…」

恵理は恐る恐る尋ねると、

クワッ!

今にも潰れそうな武次郎の目がいきなり見開き、

「めっめっめっ

 めありぃ!!!!!」

しわがれた声を張り上げながら

車椅子ごと恵理に飛び掛ろうとする。

「きゃぁ!」

たちどころに恵理の悲鳴がこだまし、

「いっいけません、旦那様。

 この方はメアリー様ではありません」

「お気を、

 お気をお確かにぃ」

驚き尻餅をつく恵理の前で、

目をむく武次郎を二人の執事が必死に止める光景が繰り広げられ、

「えぇぃっ

 お前達、判らぬのかっ

 めありーが

 めありーが帰ってきたのだぞ。

 わしの元に帰ってきたのだぞ。

 留め立ていたすなぁ!」

そんな執事達に向かって武次郎は声を張り上げ、

さらに振り上げた拳で執事の頭を殴り始める。

「あぁ、

 ちょっと

 やめて下さい」

それを見た恵理は武次郎を制止させようとその腕を押さえた途端、

「うぐっ!」

突然、武次郎は胸を押さえ、

見る見る顔色が青くなりはじめた。

「きゃっ!」

「旦那様ぁ!!」

「くっ薬だ!

 心臓マッサージ!

 医者を呼べ!」

「本庄さん、

 すみませんが旦那様を!!」

「はっはいっ」

思いがけない武次郎の急変に3人は慌てふためきながら、

車椅子から転げ落ちるように倒れ、

白目を剥く武次郎を抱き起こすと、

用意された担架に乗せ、

武次郎を寝室へと運んで行った。



「誠に申し訳ございません」
 
「メアリー様が不慮の交通事故で亡くなられてから、

 旦那様はメアリーはどこだ。

 メアリーはどこに行った。

 と寂しそうにお尋ねされるので、

 それで先日当家を尋ねられ、

 旦那様と意気投合をなさった本庄様をお呼びしたのです。

 それが、こんなことになってしまうだなんて」

急を聞きつけ駆けつけた医者が諸注意と薬を置いて去った後、

和室に敷かれた布団に寝かされている武次郎を横にして、

二人の執事は恵理に頭を下げると、

「え?

 あっ、

 良いんですよ。

 そんなに気になさらなくても」

神妙な執事の姿に恵理は慌てながら両手を左右に振る。

そして、

「内藤さんって、

 メアリーちゃんを大事にしてたから、

 その死を受け入れられないんですよね」

と寝かされている武次郎を見詰めた。



ほんのひと月前まで武次郎はメアリーという名の雌のホルスタイン牛を飼っていた。

メアリーは1年ほど前、

武次郎がたまたま訪れた山奥の村で行われていた祭に花牛として引き出された牛であったが、

迎牛の男達に乳を搾られているその姿にすっかり魅せられ、

大金を積んで引き取ってきたのであった。

家族がいない武次郎にとってメアリーは我が子同然となり、

牛車を牽かせて遠出をしたり、

自ら乳を搾ったりと

手塩にかけて育て武次郎の心の支えにもなっていた。

だが、愛牛メアリーは武次郎が呼ばれた結婚式に出かけたとき、

暴走してきた真紅のクルマに撥ねられ、

あっけなくこの世から旅立ってしまったのであった。



武次郎の寝顔を見ながら、

「そうだ」

恵理はあることを思いつくと、

「ねぇ、

 あたしがメアリーちゃんの代わりになってあげます」

と思いついたことを執事に申し出た。

「え?」

恵理のその申し出に執事は顔を見合わせると、

「そっそれは…」

「お気持ちはありがたいのですが…

 そればかりは…」

と浮かない顔をして見せる。

「え?

 何でです?

 大丈夫ですよ、

 あたしだって可愛がっていたネコが死なれた経験があります。

 武次郎さんがメアリーちゃんの死を受け入れて、

 そして、立ち直るまでメアリーちゃんの代わりになってあげますよ」

自分の考えに自信を持ちながら恵理は胸を叩くと、

「はぁ…」

「ですがぁ…」

なおも納得しないのか執事達は顔を見合わせる。

すると、

パチッ

寝ていたはず武次郎の目が突然見開くと、

一瞬、目が宙を泳いで見せた後、

ジロッ!

執事や恵理を見据えた。

そして、

一瞬の間を空けた後、

「めありぃ!!!!」

と声を上げ寝ていた布団を蹴飛ばすと、

恵理に抱きつこうとした。

「あぁ」

「旦那様っ、

 その方は…」

それを見た執事は慌てて止めに入るが、

しかし、

ビシっ

恵理は腕を伸ばして執事を止めると、

そっと武次郎を抱き寄せ、

「大丈夫ですよ、

 あたしがメアリーちゃんの代わりになってあげます。

 もぅ内藤さんに寂しい思いをさせません」

と囁いた。

「あちゃぁ〜」

それを聞いた執事は手で目を覆うが、

ギンッ!

一方で武次郎の目は爛々と光り輝き、

その目で恵理を見据えた。

そして、

「めっめありぃになってくれるのか?」

と問いただすと、

「はいっ、

 ですから、

 おじいさんも元気になってくださいね」

笑みを浮かべながら恵理は返事をする。

すると、

「そうか、

 メアリーになってくれるか、

 そうかそうか」

武次郎は幾度も頷くと、

温和な顔つきになり、

嬉しそうに恵理の頭を撫で始めた。

そして、

「さぁメアリー

 お前の部屋に行こう。

 特別に作ったお前の部屋にのぅ」

と恵理に向かって言い、

車椅子の世話になるほど足腰が弱っていたはずがスクッと立ち上がった。

「え?」

いきなり二本の脚で立ち上がった武次郎の姿に恵理は驚くが、

「あぁ、ちょっちょっとぉ」

その恵理を手を引くや否や、

己の二本足で歩き始めたのであった。

「あのっ

 ちょっと、

 あっ歩けるんですか?」

自分の腕を引きながらズンズンと歩いていく武次郎に向かって恵理は話しかけるが、

しかし、武次郎はその問いには答えずに

そのまま屋敷の外れに新築された別棟へと向かって行く。

一方で、

「あの子…

 もぅここには戻ってはこられないな」

「うん、可愛そうに…」

去って行った二人を見送りながら

残された執事達はそう話し合っていたのであった。



つづく