ホーケキョッ! 凍てついた寒さが緩み、 穏やかな春の陽光が若芽の芽吹きを促し始めた早春のある日、 ンモォ… モォ… 「よう、五輔どんっ、 これから何所に行くんだ」 とある山里より一頭の牛を連れ山道を登り始めた五輔に向かって チャンチャンコを羽織り腰の曲がった古老が話しかけてきた。 すると、 「あぁ…御爺かぁ ”牛成の祭”まであと3日になったのでな、 メアリぃに新鮮な草をたらふく食べさせようと思ってな」 と五輔は返事をすると手綱を引いている牛の肩を叩いた。 「そうか、 今年の”牛成の祭”は五輔のメアリぃが”花牛”だっけな、 陽もすっかり高くなったし、 風も温くなってきた。 メアリぃにたんと草を食べさな、 そうすれば、 山神様もお喜びになる」 それを聞いた古老は嬉しそうに顔を綻ばせると、 「じゃぁ行ってくるでな」 と五輔は返事をして、 ンモォ! 牛の手綱を引いた。 「クルマには気をつけるんだぞ、 特に去年出来たあの”つり橋”はおっかないからな…」 五輔に向かって古老は注意をするが、 彼からの返事はなく、 ただ、 ンモォ! 乳房を左右に揺らす牛の啼き声がのどかに返ってくるだけだった。 一方、春の陽光が煌く高原の道路を シャァァァァァ!! 猛牛のエンブレムが眩しく光る外国製高級スポーツカーが速度を上げて走り去っていく。 「はぁ…天気がいいし、空気もうまいっ うーん、最高最高! そうですね、美加さん」 スポーツカーのハンドルを握る本庄健史は上機嫌で助手席に座る辛美加に話し掛けると、 「えっえぇ…」 たっぷんと揺れる胸を弾ませ美加は浮かない返事をする。 「どうしました?」 そんな美加を気遣いながら健史は尋ねると、 「スピードが… あっいえっ、 別に…」 彼女はなにかを言いかけ、 すぐにそれを取り消してしまった。 「?」 そんな美加の様子に健史は小首を捻るものの、 「おっ、 いいカーブ!」 前方に見えてきた急カーブにが目に飛び込むや否や、 スポーツカーのアクセルを踏み込んだ。 ぼわぁぁぁぁ!! その途端、 猛牛のエンブレムも眩しくスポーツカーはエンジン音を逞しく響かせ 一気に加速すると、 見る見る景色のスピードが上がっていく、 そして、 「でやっ」 の掛け声と共に健史は巧みなハンドル裁きを行うと、 キャキャキャ!!! スポーツカーは横滑りをしながらカーブへと突っ込み、 そして、飛び出して行った。 「あははははは!!! どうですか、 僕のこのハンドル裁きっ、 これでも数々の峠を攻略してきたんですよ、 東日本の殆どの峠のコースレコードは僕が作ったようなものですよ。 大したことは無いんですけどね」 理想的なコーナリングの軌跡を描けたことに健史は自慢話を絡ませながら高笑いするが、 「はぁ…」 美加はため息を大きく付くと、 「だめねぇ…全然乗れてない…」 と指摘しながら小さく首を横に振った。 「ん?」 そんな美加の姿を見た健史はカチンと来たのか、 キキキッ! 突然スポーツカーを急停車させると、 「なにがだめなんですか?」 と真顔で美加に尋ねて来た。 「なによ、急に…」 隆史の質問に美加は面倒くさそうに聞き返すと、 「僕の運転に何か不満でもあるんですか?」 と隆史は再度尋ねる。 「別にいいじゃない…」 「いや、よくないです。 不満があるのならハッキリいって欲しいです」 「いいって言っているでしょう」 「いいえ、いまの指摘を黙って見過ごすわけには行きません」 と二人の会話はしばらく続き、 ついに、 ポンッ! 「判ったわ、 あたしがお手本を見せてあげる」 業を煮やした美加は膝を叩きながら健史に向かってそういうと、 健史を運転席から押し出し、 代わりに美加がハンドルを握った。 しかし、美加がハンドルを握った途端、 キッ! 彼女の目つきが変わると、 「さっきのあのコーナー あたしなら+30キロで曲がって見せるわよ」 キツイ口調でそう指摘するや否や、 目にも止まらない速さでクラッチを切り替えると、 ドンッ! スポーツカーのアクセルを踏み込んだ。 「うわぁぁぁ!!」 シートベルトもまだつけてない健史の悲鳴が車内に響き渡るが、 ゴワッ! そんなことお構いなくスポーツカーは一気に飛び出して行った。 ゴワァァァァァァ!!!! 曲がりくねる山道をまるで直線道路の如くスポーツカーは驀進し、 車窓を流れる景色は健史の時の数倍の速さで走り去って行く。 「ひぃぃぃ!!!!」 視界が正面の一点に集中してゆく極限の世界に放り込まれた健史は震え上がっていると、 「なによっ、 これしきの速度、速いってモノじゃないわよ、 本当の速さを見せてあげるわ」 ハンドルを握る美加は余裕の表情で声を上げ、 さらにアクセルを踏み込んだ。 しかし、そのときだった。 パッパッパッ! 後方でパッシングが炊かれると、 プシャァァァ!! フォォォォォォンン!!!! エンジン音も高らかに一台の軽トラが追い越しをかけてきた。 「んなろっ、 軽トラの分際であたしを追い抜く気?」 収穫されたばかりでドロだらけの野菜を後方に満載し、 片手でハンドルを操作する農作業服姿のおばちゃんを美加は横目でにらみつける。 そして、 「しっかりと口を閉じておきなっ、 舌を噛み切っても病院には連れて行かないよ」 と助手席の健史に一言注意をすると、 ドンッ! さらにアクセルを踏み込んだ。 たちまちスポーツカーは軽トラを引き離し始めるが、 「ちっ! 小娘のクセにやるじゃない」 それを見た軽トラを操るおばちゃんも負けじと加速を開始する。 プシャァァァ!! ギャギャギャギャギャ ブォォォン!! キキキキキッ 峠間近の九十九折のヘアピンカーブを二台のクルマは高速域で激しく小競り合い、 双方ともタイヤから激しく煙を噴き上げていく、 「ちっ、 縁石をガイド代わりに使うだなんて、 やるじゃないおばちゃん」 遠心力で片方の前輪を持ち上げコーナーを攻める美加は 片や縁石にタイヤを引っ掛けてコーナーを曲がってみせる 軽トラのハンドル裁きを見てニヤリと笑う。 すると、 フッ! いきなり軽トラの姿が掻き消えた。 「え?」 突然視界から消えた軽トラに美加は驚くと、 「うわぁぁ、 前、前っ!」 同時に健史の悲鳴が上がり、 その声に美加は正面を見た途端、 白地に黒斑が彼女の目の前に迫っていた。 ズドォォォォォォン!!! グモォォォォォォ!!! ブレーキをかける時間もなく大音響と牛の絶叫が谷間に響き渡り、 高々と跳ね飛ばされた牛はたわわな乳房を揺らしながら 青い湖水を湛える湖へと落ちてゆくと、 その牛を追いかけるように前部を大破しコントロールが聞かなくなったスポーツカーも 湖に掛かる橋の欄干を突き破り湖面へとダイブして行く。 「あっあぶなかったぁ…」 間一髪、 スポーツカーから美加を庇い脱出した健史は 沈んでいく自分のスポーツカーを見つめていると、 「あぁぁぁ… めっメアリぃぃぃぃぃ!!!!!!」 男の悲鳴が響き渡った。 「え?」 その声に健史は振り返ると、 「やめろ、五輔っ」 「行かせてくれぇ… メアリぃを助けに行かせてくれぇぇ!」 「もぅ無理だべ」 「んだぁ、 おめぇのメアリぃは星になっただ」 ダム湖へ飛び込もうとする粗末な身なりの男を、 音を聞いて駆け寄ってきた他の数人の男達が必死で止めている様子が目に入った。 「あっあの人… メアリーってなんだ?」 男達を姿を見ながら健史は再び視線を湖面へと動かすと、 プカァ… 沈んでいったスポーツカーの油のほかに、 白に黒斑の物体が静かに浮かんでいたのであった。 「牛? 牛にぶつかったのか」 それを見て健史はようやく事件のあらましに気がつくと、 「うっうーん」 気を失っていた美加が目を開けた。 「大丈夫か? 美加?」 そのことに気づいた健史は美加に尋ねると、 「あっあれ? あたし… なにを」 と運転席に座っていたときとはガラリと変わり、 少し怯えた様にキョロキョロしながら起き上がり、 改めて周囲を見回し始めた。 その途端、 「あっお前らっ」 健史達の存在に気づいた男達がすごい剣幕で押しかけてくると、 「めっメアリぃを返せぇぇ!!!」 と顔を真っ赤にして一人の男・五輔が怒鳴り込んだ。 「すっすみません、 弁償はします。 申し訳ございません」 鼻息荒い五輔達に向かって健史は頭を下げると、 「なっなんでもしますから」 健史に促され美加も同じように頭を下げる。 だが、 「いーやっ、 ゆるさねぇ!!」 「五輔のメアリぃは花牛だったんだぞ、 どうしてくれるんだ」 と取り巻きの男達の腕をまくりながら迫ると、 「そういわれましても…」 男達に迫られた健史はしどろもどろになってしまった。 すると、 「なにがあったんじゃ」 その声と共にチャンチャンコを羽織った古老と思えしき老人が姿を見せた。 「あっ”御爺”」 古老が現われたのと同時に男達は1・2歩下がり、 「実は、五輔どんの…」 と老人に向かって事情を説明し始めた。 「ふむふむ、 事情はわかった」 経緯を知った古老は幾度も頷き、 「美墨の渚婆さんの”ぶらっくばぁど”に喧嘩を売ったとは浅はかよのぅ」 顎鬚を撫でながら呟いた。 「渚婆さんかぁ… 他見ナンバーのクルマを見ると煽る悪い癖が出た見たいだのぅ」 「うーん、 渚婆さんと言えば娘だった頃に、 東名高速ちゅぅ道路で”のぞみ号”との真剣勝負に勝ったとかとか言わんかったっけ?」 「わしが聞いたのは、湾岸線ちゅう道路でおーびすって言う写真機を動かしたが、 そこには何にも映ってなかったとかゆうっておったぞ、 なんでも、写真機のしゃったぁが下りる前に走り抜けてしもうたとか…」 「うんにゃぁ、何時だっけかぁ、 大晦日夜に富士山に行くだと言って 高速道路で悪さする悪ガキ共を後ろから煽りに煽って、 ついに鹿児島の岸壁から桜島に向けて全員飛び込ませたとか…」 古老の言葉を受けて男達はそんな噂話をし始めるが、 「そんなことはどうでもえぇ! メアリぃをわしのメアリぃはどうしてくれるんじゃぁぁ!!」 と牛を失った五輔は声を上げる。 「さてぇ」 彼のその悲鳴に古老は矛先を健史達に向けるが、 「ん?」 あることに気が付くと、 「その娘」 と言いながら健史ではなく美加を指差した。 「はい?」 古老に指差された美加はキョトンとすると、 「ふむ、ふむ」 幾度も頷きながら古老は美加の傍に寄り、 そして、 ムギュッ! バスト90はある美加の胸を揉みあげた。 「きゃっ!」 「美加に何をするっ」 美加の悲鳴と健史の怒鳴り声が交互に響き渡るが、 しかし、古老は動じることなく、 美加を指差すと、 「お主、花牛になれ」 と命じたのであった。 「花牛?」 「何だそれは?」 古老の口から出た言葉に二人はキョトンとすると、 「おっ御爺!」 「この娘を花牛だなんて…」 「いきなり何をいいだんすんだべ」 健史に詰め寄っていた五輔や男達もまた慌てながら古老に言い寄る。 「なんだ? なにが文句あるべか?」 慌てる男達に向かって古老はそう言い返すと、 「いや、だから…」 男達は困惑しながら古老に言って聞かせようとするが、 古老はその話には耳を貸さずに、 「お前、 さっき、なんでもする。 と言っておったと思ったが、 その言葉に偽りは無いな」 と美加に尋ねる。 「えっえぇまぁ…」 その問いに美加は頷いてみせると、 「うむ、話は決まった。 ではお前さんにはこれより三日の間、 ”厩の堂”にて篭ってもらい身体を清めてもらう、 そして、三日後に花牛として牛成の祭に出てもらうぞ」 と古老は男達と美加に告げた。 「厩の堂ってまさか…」 それを聞いた男達は困惑した表情で一斉に古老を見ると、 「あぁ… この娘に花牛になってもらう」 と古老は笑みを浮かべるように呟いた。 その一方で、 「みっ三日も… それに牛成の祭って…」 古老の話を聞いた健史が慌てて割って入ろうとするが、 「ふんっ お前さんはもぅ関係はない」 と古老は健史の手を弾いく。 「なっ何をするんだよ、 この爺さんは!」 古老のその態度にカチンきた健史が掴みかかろうとすると、 「それよりもホレ、 お前さんにはやらなくてはならないことがあるんじゃないか?」 と言いながら古老はある方向を指差した。 すると、このタイミングに合わせるかのように トトトト… 一台のバイクが走ってくると、 「あのー、 ここで交通事故があったって通報があったけど、 なにがあったの」 警察官が声をかけてきた。 「警察… あちゃぁ…」 その警官の姿を見た健史は手で顔を覆うと、 「さぁ、ここからは警察の仕事だべ、 お前さんはこっちさくるべ」 美加は古老に呼ばれると、 「ちょちょっとぉ」 そのまま集落へと連れて行かれてしまった。 古老と共に美加が連れてこられたのはこんな山奥にはそのお堂はあった。 「うわぁぁ、 凄い…」 建立は何時の頃かは判らないが、 しかし、朱塗りの柱が鮮やかな上に、 大きさも、縦横10m以上はあろうかと思える建物は とてもお堂と称するにはいささか抵抗があるものであった。 驚きの声を上げている美加に構わずに古老はお堂へと向かうと、 ガチャン! ギィ… っと鍵を開け、 戸を開いて見せた。 そして、 「すまぬがここに3日間の間篭ってもらう」 と美加に告げると、 「それで、あたしがしたことが許されるのなら構わないわ」 美加はそう呟き、素直にお堂の中へと入っていった。 お堂の中は手入れが行き届いていて、 木の床は光るほどに磨き上げられ、 埃一つ積もってはいなかった。 「へぇ… すごーぃ」 美加は驚くと、 「何もせずにここで3日の間ここで辛抱してくれ、 食事は後で持ってくる」 そう古老は告げると戸を閉め、 ガチャリと鍵をかけてしまった。 「何か拍子抜けね…」 携帯電話は圏外、 有線電話やTV・電気も無い これまでの環境と大きく違う世界に放り込まれてしまった美加は ゴロンと床の上に横になると、 「まっ、 ある意味骨休めになるわね、 まったく、この所残業続きで疲れていたのよ」 と言いながらいつの間にか寝入ってしまった。 ムズムズ ムズムズ 「ん?」 体の中を虫が這い回るようなそんな感覚に美加は目覚め、 慌てて飛び起きると、 「やだ、 虫?」 と叫びながら辺りを見回した。 だが、お堂の木の床には虫一匹たりとも姿はなく、 いつの間にかほのかに灯された明かりと、 湯気が立つ夕餉がお堂の片隅に用意されていた。 「夜になっていたんだ… あれ? おじいさん、来てくれたんだ」 夕餉を見ながら美加はキョロキョロするが、 しかし、お堂には人が入った気配はなく、 また膳が置かれているところは、 小さな扉があって外からの出し入れが出来るようになっていた。 「まっいいか」 アレコレ詮索するのをやめて美加は一人で納得をすると、 早速夕餉に箸をつける。 「あっ美味しい!!」 肉類は無く菜モノばかりの膳だったが美加は新鮮に感じ、 瞬く間に全て平らげてしまった。 「はぁごちそうさんっ、 何か眠くなってきたなぁ」 食事の後、 いつもなら美容体操をする美加だったが、 しかし、再び睡魔に襲われてくると、 見る見るまぶたが重くなってくる。 程なくして、 美加はその場にゴロンと横になってしまった。 翌朝、 「うーん、 何だろう… 体中が痒いし、 それにだるい…」 高くなった陽が差し込むお堂の中で 美加は昨夜同様ムズムズする身体を掻きまくりながら起き上がると、 定まらない視線で辺りを見渡す。 すると、 昨夜同様、お堂の隅には朝餉の支度がされていて、 美加は這いずりながら膳へと向かうと、 ポリポリ その場で食べ始める。 昨夜の膳よりも心なしか菜物が増えている朝餉を美加は食べつくすと、 ゴロンと横になり、 ふわぁぁぁ〜っ 大あくびをするとそのまま寝入ってしまった。 そして美加が再び目を開けたときは夕方近くになり、 黄色く染まった陽の光が西側より差し込んでいた。 「うーっ うっぷっ 気持ち悪い…」 ボリボリ ボリボリ 身体を掻きまくりながら美加は起き上がり、 そして、膳が置かれているお堂の隅を見ると、 そこには夕餉とともに一束の草束がお堂の隅に置かれていた。 「草? なんで?」 意味ありげにおかれている草を見ながら美加は小首を捻るが、 「うっ」 草束を見ているうちにそれを食べたくなり、 シャリ ついに一口食べてしまった。 シャリシャリシャリ 口の中に青臭い香りが広がってくるが、 しかし、その香りがとてもたまらなく感じ、 美加は二口、三口と草を食べていく、 そして、全て食べてしまうと、 「ごちそうさま…」 夕餉には一切手をつけずに美加は横になってしまったのであった。 そして夜は更け、やがて明けてくると シャリシャリ シャリシャリ 朝日が差し込むお堂の中で美加は山と置かれていた草束を食べていた。 シャリシャリ シャリシャリ 一心不乱に美加は草束を食み、 その合間にボリボリと身体を掻き毟る。 着ていた服は殆どのボタンが外され、 プルン! 肌蹴た胸からたわわに実る乳房が揺れる。 だが、 その乳房は一昨日よりも心なしか小さくなり、 代わりに彼女の下腹部が膨らみ、 その左右に2対の突起が突き出していた。 シャリシャリ シャリシャリ 美加の食事は長く続き、 「はぁ、食べた食べた」 ようやく食べ終わると、 美加のお腹は大きく膨らんでいたのであった。 食後、 美加は再び眠りに付くが、 「うぷっ クチャクチャ」 「うぷっ クチャクチャ」 時折、食べた草を吐き出しては噛み直して飲み込む様になって行く。 夜、目を覚ました美加がトイレに行こうとして起き上がろうとするが、 ドタン! 「あれ?」 なぜか、真っ直ぐ立つことが出来なくなっていた。 「どうしたんだろう…あたし…」 木の床から両手を離すことが出来ず、 両手を床につけ、 美加は前かがみになりながら腰を上げる。 すると、 ブルンッ! 彼女の尻から肉の棒のようなものが伸び、 ブンブン と左右に揺れ始める。 「うー… なんか立てないよぉ」 立つことが出来ない体の異変には気づくものの、 しかし、美加は物事を深く考えることが出来ず、 ボトボトボト その場に糞を落としてしまった。 そして、そのまま手を付きながら草束が用意されているお堂の隅に向かっていくと、 シャリシャリ シャリシャリ と草束を食み始める。 3日目の朝が来た。 シャリシャリ シャリシャリ 草を食む美加の頭からは左右に1対の瘤が突き出し、 長く伸びている瘤の先では硬く尖った角の先端が姿を見せている。 くちゃくちゃくちゃ… 「ぐもぉぉぉ ぐもぉぉぉ」 草を頬張る美加の口からはケモノの啼き声を思わせる声が漏れ、 さらに、 ゲフッ くちゃくちゃくちゃ 反芻をしてしまうと、 4つに増えた胃を使いこなすようになっていた。 たわわに実っていた胸の乳房は消え、 代わりにへその下に巨大な瘤の如く盛り上がる新たしい乳房がたっぷんと揺れ、 左右に二対の乳首が長く伸びていた。 「ぐんもぉぉぉぉぉ〜っ」 食後、 美加は声高く長啼きをすると、 またしても寝入ってしまった。 しかし彼女が寝ている間に、 メキッ! ゴキッ! 骨格が変わっていくと、 鼻筋が突き出し、 口が長く伸びていく、 そして、耳が垂れてくると、 白い肌が覆う体から黒斑の獣毛が生え始める。 ふごふごふご シャリシャリシャリ そして迎えた夕食… 前かがみではなく、 四つ足で立ち上がった美加は草を食んでいた。 もはや彼女の頭の中は何も考えることは出来なくなっていた。 ただ、草を食むこと… そのことだけが美加の頭の中を占有しているのである。 盛り上がった手の甲を床につけ、 美加はただひたすら草を食み、 そして、食事が終われば寝るだけである。 こうしてお堂の中の三日間が過ぎ、 牛成の祭の朝。 ガチャッ! ギィ… 厩の堂のガキが開けられ、 戸が開かれると、 「んもぉ んもぉ んもぉ」 待ち構える五輔や男達の前に変わり果てた美加が4本足で歩きながら姿を見せる。 「おぉ…」 「すごいっ」 「始めてみた」 体の半分以上を黒斑の獣毛に覆われ、 尻からは尻尾を振り回し、 4本脚となった両手両足で歩いてみせる美加の姿に皆は一斉に引くが、 「うん、見事な花牛じゃっ」 古老は満足そうに大きく頷くと、 「さぁ、 牛成の祭を始めるぞ!」 と声を上げた。 こうして、村あげての牛成の祭が執り行われ、 村人の手により綺麗に飾り立てられた美加は花牛として、 村を守る鎮守の森へと連れられていく、 メリッ メキッ その間にも美加の身体は牛へと近づき、 鎮守の森に来たときには、 一頭の見事な雌牛になってしまっていた。 やがて、神に供える乳搾りが行われ、 絞り役である迎牛を務める男達によって美加の乳は搾られ始めた。 シャシャ シャシャ 迎牛の巧みな手さばきで乳は搾られ、 その気持ちの良さから美加は大きく口を開くと、 「んもぉぉぉぉぉぉぉぉ〜っ」 と甲高く啼き声をあげてしまったのであった。 おわり