風祭文庫・獣の館






「みるく」



作・風祭玲


Vol.405





「ミス瀧澤コンテスト・応募締め切りまであと×日!!」

日に日にカウントダウンしていく垂れ幕が揺れる私立瀧澤高校の昼休み、

ゴクゴクゴク!!!

2年生・牧場めぐみは牛乳パックの一気飲みをしていると、

「毎日毎日牛乳ばっかよく飲めるなぁ…」

彼女の幼馴染である首藤啓太は呆れ半分でそんなめぐみを見ていた。

しかし、めぐみはその言葉にには何も言い返さず、

ひたすら牛乳を飲み続け、

そして

ゴクン!!プハァ…

ようやく1リットル入りの牛乳パックを飲み干したところで

口をぬぐいながら

「別に良いじゃないのよ」

と言い返した。

「いや、そりゃぁ何を飲もうとめぐみの勝手だけどよぉ

 でもなぁ…」

めぐみの返事に啓太はそう返すと、

そのまま視線が彼女の胸元へと移動していく。

すると、

めぐみの胸元にはすでにDカップは過ぎているだろうか、

スイカのような巨大な乳房が制服を下から持ち上げ、

ブルン!!

と揺れていた。

「…また成長したのか?」

たわわに揺れるめぐみのバストを指差し啓太が尋ねると、

「そうねぇ…

 昨日と比べて2cm増えたかな?」

ブルンブルン!!

と胸を揺らしながらめぐみがそう答える。

そして、

チラッ

啓太の方を見るなり、

「なに、イヤラしそうな目で見ているのよ」

と因縁をつけて来た。

「いやっ

 別にそんなんじゃ…」

めぐみの言葉に顔を赤くしながら啓太が慌ててそっぽを向くと、

その途端、

「あはははは!!」

めぐみの笑い声が響き渡る。

「なっ何が悪い?」

「ううん、違うのよ、

 啓太ってまっじめっ

 別に恥ずかしがらなくてもいいのよ、

 男の子でしょう?

 それともあたしが魅力的でないとでも?」

「え?」

めぐみの言葉に啓太が驚いて振り向くと、

ボフッ

目の前に迫っていためぐみのバストの中に彼の顔がめり込んでしまった。

「うわっ

 ぷっ」

もがく様にして啓太がそのバストの谷間から顔を出すと、

「うふふ、

 どう?

 あ・た・しのバストは?」

と腰に手を当てながらめぐみはゆっくりと自分のバストの感想を聞いてくる。

「なっ

 何でそんな事、言わなくっちゃなんないんだよ」

「あっ冷たいの

 そっか、啓太って麗子の方が良いって言うのね?」

「いやっそういうわけじゃないよ…」

「じゃぁ答えてよ」

なかなか返答をしない啓太にめぐみは苛立ちながらゆっくりと迫ってくると、

「あっ!!!」

突然、啓太は窓のほうを指差しながら叫び声をあげた。

「え?

 なに?」

その声につられてめぐみが振り向いた隙に、

ダッ

啓太はめぐみの前から飛び出し逃げ出してしまった。

「あっこらっ」

ブルン!!

バストを揺らしめぐみは2・3歩追いかけようとしたが、

「うっ気持ち悪い…」

飲みすぎた牛乳のせいか、

こみ上げてきた嘔吐感に慌てて口を塞ぐとその場に蹲ってしまった。



「ふぅ…

 まったくみんなどうしちまったんだ」

めぐみの前から逃げおおせた啓太は恨めしそうに垂れ幕を見上げる。

「M牛乳を飲むとバストが大きくなる…」

ちょうどミス瀧澤の応募が始まった頃、

女子生徒の間でそんな噂が飛び交い始めた。

最初はそんなのはデマだとみんな思っていたが、

しかし、幼児体型で有名だった3年の女子生徒がその牛乳を飲みはじめた途端、

ボンッ!!

っといきなり制服のボタンを締める事が出来なくなるほどにバストが急成長してしまった。

その事実を目の当たりにしたこと、昨年のミスの優勝者がCカップだった事もあって、

瞬く間に女子生徒の間にM牛乳が大流行、

Cカップ・Dカップ・Eカップのバストを持つ女子達が急速に増えていった。

無論、この状況を好ましく思わない者もいて

「校則で牛乳を禁止すべきだ」

と訴えたものの、

しかし、大半の男性教師や男子生徒の支持や、

また、彼女達が飲んでいるのがあくまで普通の牛乳だったために、

「健康を考えて、牛乳の飲みすぎには注意しましょう」

というスローガンが掲げられるのみで留まってしまった。

「はぁ…

 コンテストが終わればみんな元に戻るかなぁ…」

垂れ幕を眺めながら啓太はため息混じりにそう呟くと、

トボトボと歩いていく。



そして迎えた放課後…

「よしっ

 もぅ一本!!」

公園のベンチでめぐみが牛乳パックの口を開くと

ゴクリゴクリ

と飲み始めた。

すると、

「また飲んでるのかよ」

たまたま通りかかった下校途中の啓太が思わず声をかけると、

「悪い?」

パックを口にしながらめぐみはそう反論する。

「いやっ

 悪くはないけどさ

 でも、

 それ以上大きくしてどうするんだよ」

と言いながら膨れ上がっためぐみのバストを指差した。

「いいじゃないのよ

 啓太だってバストの大きい女の子が好きでしょう?」

「………」

めぐみの言葉に啓太は言葉に詰まると、

ギュッ

っと両手に拳を作り、

「昔のめぐみの方が好きだよ、僕は…」

と声を震わせて返事をした。

「え?」

啓太の言葉にめぐみは驚くと、

「そりゃぁ

 本音を言えばバストがあったほうが良いって言ったことがあったけど、

 でも、いまのめぐみは女の子じゃないよ、

 うっウシだよ!!」

目をギュっと瞑り、めぐみに向かって啓太はそう言い放つと、

その場から駆け出してしまった。

「あっ待て!!」

啓太の言葉に驚いためぐみが腰を上げ、

そして、走り去っていく彼を引止めようと一歩踏み出したとき、

ドクン!!

突然めぐみの心臓が高鳴ると、

ボトッ

手にしていた牛乳のパックが彼女の手から零れ落ち

彼女の足元を転がって行った。

「え?」

めぐみの声に振り返っていた啓太の目に彼女の異変が映った。

「どっどうしたの?」

その場に立ち止まって啓太が尋ねるが、

しかし、めぐみの瞳は空を見つめたまま微動だにしない。

「めぐみ?」

「………」

「おいっ、めぐみっ」

「………」

いくら話しかけても何の反応も見せないめぐみに啓太は慌ててめぐみの傍に戻り肩を揺するが、

しかし、いくら揺ってもめぐみは返事をしなかった。

すると、

ゾクゥ…

めぐみの肌の上を鳥肌が立つような悪寒が津波となって一気に駆け抜けていく。

その途端、

「いやっ!!」

めぐみは固まっていた体が一気に解き放たれたかのように

叫び声を上げながらその場に蹲ると両手で自分の身体を抱きしめた。

「おっおい、どうしたんだよ」

めぐみに反応があったことに啓太はホッとしながら訳を尋ねるが、

けど、

「いやっ」

「いやっ」

めぐみは繰り返し悲鳴を上げるだけで、

啓太の問いには答えなかった。

「おいっめぐみ」

「いやっいやぁぁぁぁ!!」

一際高くめぐみが頭を両側を押さえながら悲鳴を上げると、

メリメリメリ!!!

と言う音共に、

その手の指の間から黒い突起物が飛び出してきた。

「なっなに?」

それを見た啓太は

「めぐみ、ちょっとそれを見せろ」

と言いながら指の隙間から飛び出したそれを見ると、

それは紛れも無い”角”だった。

「つっ角ぉ?」

なおもミシミシと音を立て成長を続ける角に啓太は驚くと、

「いやぁぁぁぁ!!」

ブンブン!!

めぐみは頭を振り回し始めた。

「うわっ」

自分に向かってくる角に啓太は驚き、

そして、めぐみとの間に間を空けると、

フラリ…

めぐみはゆっくりと立ち上がった。

キラッ

めぐみの頭の両側に突き出した角が鋭角の光を放つ。

すると、

「うっうっうわぁぁぁぁぁ!!」

再びめぐみが悲鳴を上げると、

しゅるるるるるるるる…

大きく膨らんでいたバストがまるで空気が抜けていくように萎んでいき、

代わりに彼女の下腹部が膨らみ始める。

そして、それにあわせるように、

ザワザワ…

っと彼女の肌から白毛と、

身体のところどころにブチ模様状に黒毛が生え始めてきた。

「なっなんだぁ?」

「いやぁぁぁ」

「いやぁぁぁ」

メリメリメリ!!

唖然とする啓太をよそにめぐみの脚は倍以上に膨らみ、

バリッ!!

穿いていた靴を突き破ってしまうと、

カツンッ!!

黒光りした蹄が生えた足先が飛び出した。

ググググ…

そして腰の形がゆっくりと変形していくと、

カツンカツン

カツンカツン

蹄を鳴らしながらめぐみは次第にふらふらとし始め、

モリッ!!

お尻の上が膨らむと、

ブンッ!!

と言う音共に尻尾が飛び出した。

「めぐみが…

 めぐみが…

 ウシになっていく…」

鼻が突き出し、

口が獣のように変形していくその姿に啓太は思わずそう呟くと、

「いやぁぁぁぁ!!

 たっ助けてぇ!!

 けっ啓…」

めぐみが啓太の名前を叫ぼうとしたとき、

ごぼっ!

めぐみは口を大きく開け目を剥いた。

そして、

「うぉっ」

「うぉっ」

太くなっていく喉を押さえながらも何かを言おうとしていると、

「うごぉぉぉぉっ」

その口から獣のような声がもれ始め、

そしてついに、

『んもぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』

ウシの鳴き声を高らかに響かせてしまった。

『!』

詰まったものが抜けていくようなウシの鳴き声にめぐみ自身が驚き、

悲鳴を上げようとしても、

『もぉぉぉぉぉ!!』

『もぉぉぉぉぉ!!』

『もぉぉ!!』

その口から出てくるのはウシの鳴き声だった。

ベリッ!!

そんな音を響かせながら両手の指が弾き飛んでしまうと、

その跡には前足の蹄が姿を見せ、

また、耳も次第に垂れていくとウシの耳へと変化していった。

『モォォォォォ!!』

『モォォォォォ!!』

殆どウシの姿に変身してしまっためぐみは2回長鳴きした後、

ベリベリベリベリ!!

制服を引き裂きながら前足となった両手を地面に下ろし、

ズシン!!

響き渡る地響きと共にめぐみは”ウシ”になってしまうと、

「めっめぐみぃ!!」

啓太の叫び声が公園に響き渡った。



「ふむっ」

町医者の診察室の中に白黒マダラのホルスタインが押し込まれ、

それを前にして白衣姿の医者が聴診器を当てていた。

「せっ先生!!」

目の前でウシになってしまっためぐみを

啓太はやっとの思いでこの医者に運び込んできたのだった。

「なるほど…」

大きく頷きながら聴診器をめぐみの身体から離した医者は

「ふむ、これは乳牛病(ADIS:急性乳牛化症候群)だね」

と手を洗いながら医師は啓太に向かってそう答える。

「乳牛病?」

医師の口から出てきた言葉に啓太は思わず聞き返すと、

「あぁそうだよ、

 あまりなじみの無い病気だけど

 彼女、最近よく牛乳を飲んでいたね」

と医師はめぐみが牛乳を飲んでいた事を尋ねた。

「えぇ…

 M牛乳をよく…」

医師の質問に啓太はそう答えると、

「M牛乳か、なるほど…」

啓太からM牛乳と聞いた医者は納得した顔つきになる。

「M牛乳がどうしたのですか?」

「ん?

 あぁニュースでね、

 M牛乳に乳牛病を誘発させる物質が多く含まれている事が判明してね、

 出荷停止になったそうだよ」

「えぇ!!」

『モォォォォォ!』

医師のその話に啓太とめぐみは思わず叫び声を上げた。

「まぁその件に関しては私の方から保健所に報告をしよう」

仰天している一人と一頭をよそに医者は淡々と言うと、

「で、先生、

 めぐみを元の女の子に戻すにはどうしたら良いんですか?」

改まって啓太は医者にそう尋ねた。

すると、

「あぁ、簡単だよ、

 要は、牛乳の飲みすぎが原因だからね、

 飲んだ牛乳は出せばいい」

「というと」

「ん?

 判らないか?

 絞るんだよ、

 君が彼女の乳をね」

啓太を指差し医者はそう告げた。



そしてその翌日

ジャァー

ジャァー

教室内に搾乳の音が響き渡る。

「なぁ?」

「ん?」

「俺たちって畜産科だったっけ?」

「さぁな

 そんな科に入った覚えは無いんだがな…

 なんにしろクラスの女の殆どがウシになっちっまったんだから

 いまはこうして絞るしかないだろう」

そんな男子の話声の後、

ジャー

再び搾乳の音が響き渡ると、

『ンモーぉぉぉぉ!!』

教室内、いや、学校内中にウシとなってしまった女子生徒達の鳴き声が響き渡った。

その一方でミスコン準備委員会室では、

「実行委員長!!」

「あぁ?」

「ミス・コン、どうしましょうか?」

「そうだなぁ…

 いっそ、畜産コンテストにするか…

 それにしても迷惑な牛乳だよなぁ」

ミスコン実行委員長はそうぼやくと、

赤い牛乳パックを机の上に置いた。



おわり