風祭文庫・獣の館






「別れの日」



作・風祭玲


Vol.296





「あれ?、美香さん?

 そんなところで何をしているのですか?」

イルカが泳ぐプールを前にして佐々木美香がボーっと水面を眺めていると、

「公園は2時間前に閉まりましたよ、帰らないのですか?」

再び声が響いた。

「ん?」

美香がゆっくりと振り返ると、

彼女の後ろには同僚の葛飾司が笑みを浮かべて立っていた。

「あぁ葛飾君?」

美香はそう返事をすると、

「さぁ、帰りましょう…

 送っていきますよ」

そう言いながら司は手を差し伸べる。



10年ほど前…

地元の高校を出た美香はこのオーシャンワールドに入り、

それ以来、ずっとイルカの飼育係を任されてきた。

そして、少女の頃からここのイルカが大好きだった美香は、

文字通り休むことなく一所懸命イルカ達の世話をしてきたのだった。

しかし、彼女がそのイルカ達の世話をするのは今日が最後だった。

「大丈夫ですって、

 獣医がちゃんとイルカ達の体調をチェックしていますし

 僕もしっかりとイルカ達の面倒を見ますから、

 だから佐々木さんは余計な心配しないでください。」

と司は美香が居なくなっても何の問題が無いことを強調した。

しかし、美香は彼がそれを強調すればするほど、

彼の言っているようにちゃんと運ぶとは思っても居なかった。

「佐々木さん、あなたはもっと先に行くべきですよ、

 こんな湿気っぽいところにいつまでも居るべきではないです」

と彼は力説すると、

美香はひと呼吸おき、

「先って?、ここを去ったあたしが

 事務所の机に座って満足に働けると思っているの?」

と訊ねた。

「はぁ…まぁそうれは…」

司は眉間にしわを寄せて深くため息をついた。

そう、先日美香に辞令が降り、

彼女のこれまでの実績を買われてこの飼育の現場から

新しくオープンするシーワールド準備室への異動が決まったのだった。



「ぐっ」

思わず司は慰めの言葉をかけようとしたけど

しかし、その言葉を飲み込むと、

「判りました。 

 でも、佐々木さん、

 あなたはもぅここには居ていけない人なんです」

と告げると、

「いいえっ!!」

美香はかん高い声を上げた。

しかし、司は

「ここの責任者はあなたではありません、

 この僕なんです」

と言ってそこから去ろうとしたとき、

美香は彼に後姿を見せていた。

赤地に紫のストライプが入っている彼女のウェットスーツが照明の明かりを反射している。

司はほぼ1日中このウエットスーツを着ている彼女の光景に

なんの抵抗も感じていなかったけど、

しかし、この光景も今日が見納めだと思うとある種の感慨を持って見つめていた。

けど、肝心の美香は目の前にあるプールで、

悠々と泳いでいるイルカをじっと見つめていたのだった。

すると、なにを思ったのか美香は立ち上がると、

スッ

っと立ち上がるとプールの中にゆっくりと入っていく。

そして、

チャプン!!

胸まで身かの体が水につかると、

スィッ

イルカの群れの中から1頭の雄イルカが彼女のところにゆっくりと近づいてきた。

「ふふ…なぁに?」

美香は寄り添ってくるイルカの頭をそっと撫でていると、

「もしもし…葛飾ですが…」

司は警備員室へと電話をかけた。

「…ではお願いします」

そして、電話を切り、

「佐々木さん、あなたの気が済むまでイルカ達と居てください」

と司は美香に告げると、

「………」

司の言葉に美香は答えなかった。

しかし、司は遠慮することなく、

「帰るときは、

 あの従業員出口から出て行ってください。

 他の入口と門には既に錠がかかっています。

 それと、警備員と夜勤の者以外は皆すでに家に帰りました。」

と続けると、

「…ありがとう…」

という美香の一言が響き渡った。

その言葉に司は少しほっとすると、

「じゃっ明日」

そう挨拶をすると彼は美香の視界からゆっくりと消えていった。

「さようなら」

イルカを撫でながら美香はそう返事をすると、

ふと、ある考えが彼女の頭にパッと浮んだ。

それは少女の頃から美香が密かに考えていたことで、

イルカと同じように何も身に着けず、

イルカになった気持で彼らと一緒に泳ぐことだった。

「あは…そんなことをしたら風邪を引いちゃうわ」

頭を振りながら美香はその考えを否定しようとするが、

しかし、

ドキ…ドキ…

美香の胸は徐々に高鳴り始めていた。

「どうせ…今日が最後だし…

 こんなチャンスは…」

そう思った美香はプールから上がると、

司が言った言葉が本当かどうか慎重に周囲を調べ始める。

その一方で、そんな美香をプールの中からそのイルカがじっと見ていた。

「本当に誰もいないんだ…」

文字通り無人となっていることを知った美香は肩をすくめると、

「…えぇい、どうにでもなれ!!」

と意を決すると着ていたウエットスーツを脱ぎ始めた。

スルリ…

ウエットスーツの中から水着に包まれた彼女の白い肌が姿を見せる。

「誰も来ないでね…」

そう祈りながら、美香は水着も脱ぎ捨てると一糸纏わぬ全裸になった。

そして、周囲を気にしながらプールの端に腰掛けると、

チャプン!!!

プールの中にその足指の先をちょっとだけ入れた。

「冷たっ!!!」

水の冷たさに美香は身体を縮ませたが、

「えいっ!!」

彼女は気合をいれると、

ゆっくりと、自分の体をプールの中に入れていった。

「うひゃぁぁぁぁぁ!!」

身を切るようなプールの冷たい水はいざ入ってみると驚くほど快適な感じがする。

「はぁ…」

奇妙な気持のよさに酔いしれながら美香はプールの中心の方へと泳いでいく、

すると、美香を見ていたイルカが静かに彼女の後を追うように泳ぎ始めた。

「あら…」

イルカの行動は美香を驚かせると、

ゆっくりとイルカの上に跨るようにイルカに触れると、

イルカの頭に彼女のお腹と胸とすり合わせながら、

両腕でイルカの額、それからその顎を愛撫した。 

そして、その後、

イルカのその背びれをつかんで一緒に泳ぎ始めた途端、

どんっ!!

イルカは美香の身体をプールの壁に押し当てると、

そのまま自分の体をこすり付けてきた。

「まぁ!!!」

イルカのその行為に美香は

このイルカが自分を雌のイルカとみなして発情したと判断すると、

「クスッ」

イルカが自分をその仲間として認めてもらった。

そのことに美香は妙に嬉しくなると、

くるくる

っと回って雌イルカの求愛の行動を示した。

すると、

スーっ

っとイルカは彼女に近づいてくると、

自分の腹を美香のお腹に押し付けてきた。

「ちょちょっと…なにを…ゴボッ」

イルカのその行為がイルカの性交であることに美香が気づくと、

慌ててイルカから離れようとしたが、

しかし、その前に美香の体が水面下に押し込められると、

ニュッ!!

イルカの尾びれの辺りから突き出している肉棒が彼女の体の表面を撫でた。

と同時に、

ムワッ

イルカが放った体液が美香の身体を包み込む。

「うげっ、

 こらぁ!!(がぼっ)」

イルカのその行為に美香は思わず怒鳴ってしまうと、

周囲の水をしこたま飲み込んでしまった。

「うげぇぇ!!」

美香は吐き気を催しながらプールの端へと泳いで行くと、

腕を伸ばして、プールの中から這い上がっていく、

しかし、イルカはなおもその尾を振って広げてると、

「きゅーぃ」

と彼女に向かって求愛の鳴き声を上げていた。

「う〜っ、

 このスケベ・イルカ…め」

美香は怒りに満ちながら這いずっていくと、

「入るんじゃなかったなぁ…」

っと全裸で泳いだことを後悔した。

そして、

うげぇ!!

っと飲み込んだ水を吐き出そうとした時、

ズキッ!!

突如、自分の足が奇妙な痛みを出し始めたことに気づいた。

「え?」

足に走った痛みを不思議に思いながら立ち上がってみると、

ミシッ!!

まるで足が押しつぶされるような強烈な痛みが美香の足を襲った。

「ぐぁっ!!」

あまりにものの痛みに美香は声を上げるとその場に蹲ってしまった。

「うぅぅぅ…なんで?」

美香の足を襲った痛みはなかなか引かず

それどころか徐々に強くなったいった。

「くぅぅ」

痛みの理由がわからずにもぅ一度美香が立ち上がろうとしたが

しかし、

「うぎゃぁぁ!!」

ひどい痛みに喘ぎながら美香は倒れてしまった。 

「くはぁはぁはぁ…」

痛みをこらえながら美香は身体を起こすと、

やっとの思いで自分の手とひざを使って彼女自身を支えることに成功した。

「なっなんなおよっ、これは…」

そう呟く美香の視界に茶色の髪が地面に向かってぶら下り、

そのうちのいくつかは頬にぴったり付つく、

すると、その時を待っていたかのように

ミシミシミシっ

まるで津波が押し寄せるかのごとく、

美香の体の中を激痛が走り抜けていくと、

「ぐわぁぁぁ!!」

美香は人間の声とは思えない叫び声を上げると、

そのまま倒れてしまった。

メリメリメリ!!

彼女の腿と股間の周りの皮膚がゆっくりと押し出されるように足の先へと伸びていくと、

美香の2本の足は見る見る短くなり、

その分、彼女の体が伸びていった。

そして、足がすっかり美香の身体に飲み込まれると、

残った左右の足先はお互いに反対方向に向きを変えると、

ムリムリムリ!!

っと大きく肥大していった。

しかし、美香にはこの肉体の急激な変化が激痛であることに変わりなく、

「うおぉぉぉぉぉぉ」

獣のような叫び後を上げていた。

やがて、下半身の変化が徐々に鈍ってくると、

今度は美香の両腕の下の付け根あたりから皮膚の薄い幕が

彼女のひじに向かって成長しはじめ、

徐々に翼のように美香の両脇を覆っていった。

そして、手首の辺りまで伸びると見る見る幕の肉厚が厚くなり、

さらに、厚みが増すにつれて彼女の手は両脇の中へと潜り始めた。 

こうして、次第に美香の両腕が腕としての機能を失っていくと、

パタパタと美香はその腕を叩き始めた。

「くぅぅぅ…」

体中を駆け巡る激痛から逃れようと美香はもがくが、

しかし、足を腕を事実上失ってしまった美香は

陸に上がったイルカのごとくただ身体を左右に振っているだけだった。

「あぁっ、なっなんなの?

 体が…へっ変…」

激痛に耐えながらも美香は自分の体がどうなっているのか確認しようと、

自分の腹を見ようとしたが、

「あっあれ?

 くっ首が…」

美香はいつの間にか自分の首がそれほど柔軟に動かなくなっていることに気付いたが、

そのことが自分の胸が見えなくなっているという事実に気付くことが出来なかった。

そう、美香の豊満な乳房は既に体の中に消え、

また乳首も埋もれてしまっていたのだった。

その間にも、美香の白い肌は徐々に青みがかかり、

肌の色は薄青く変色していった。

ビクッ!!

「あぁ…なに?」

美香の顔と首がけいれんを起こすと、

シチュリ…

足を飲み込んで体の後方に突き出してしまっていた彼女の性器と肛門は

1つのさけ目の中に収まり、

かつて足先だった鰭がいっそう広く、そして肉厚になってくると

美香の身長は少し伸びていった。

「くわぁぁぁ…」

美香が発する声は激痛による絶叫とうめき声でうわずっていた。

そして、彼女の変身は次の段階へと進んでいく、

ミシミシミシ…

美香の顎の周りがゆっくりと突き出してくると、

きれいに生えそろっていた彼女の歯は小さくより鋭くなっていった。

そして、

それに合わせるようにして美香の鼻が変形していく顔の中に埋もれていった。

「うぐぐぐぐ…」

鼻からの呼吸が出来なくなった美香は突き出した口を大きくあけ、

パンパンパン!!

鰭になってしまった両腕を激しく床に打ちつけながら、

必死で呼吸をしていると、

メリッ!!

美香の頭の形が急速に変わると、

その頭の上に膨らみが盛り上がり始めた。

そして、

プハッ!!

一つの穴が開いた途端、彼女の呼吸は急速に楽になった。

『きゅうぅぅぅぅ』

口の形が変わってイルカのような鳴き声を発し始めると

美香の背中にには大きな背びれが姿を現すと成長し、

そのためにもはや仰向けになることもできず、

それでも、美香は自分の背中を弓なりに曲げようとしたが、

しかし、彼女の身体は堅かく変化していて思うように曲げることは叶う事は無かった。

ジワッ、

そうしているうちにも美香の肌の色はさらに濃くなり、

黒味を帯びるようになっていった。

ミシミシ…

その頃には美香の身体はきれいな流線型を描いていた。

美香を散々苦しめていた痛みはようやく引いていくと、

『きゅぅぅぅぅぃ』

美香は口を開けるとイルカの鳴き声を大きくあげた。

と同時に

美香は自分の体が心地悪く感じていることに気づいた。

そう、変身によって美香の肌は徐々に乾燥に耐えられなくなっていたのだった。

『きゅぅぅぅ…』

美香は視界の変わった目でプールを見つめる。

しかし、それはプールの中でじっと美香の変身を見守っていた

雄イルカとの交尾を意味することだった。

だが、数分の後、

美香はそれ以外選択を持っていなかったことを悟った。

『きゅぅぅぅ…』

意を決した美香は、

プールの中に滑り込もうとして両脇の鰭を後部の尾びれを叩きだし、 

ゆっくりとプールに向かって移動し始めた。

『きゅぅぅぅ…きゅぅぅ』

プールの中では雄イルカが美香に早くプールに入ってくるように催促をする。

そして、プールサイドに来ると、

ピシッ!!

まるで陸から別れを告げる様に、

思いっきり尾びれを叩くと、

チャポン!!

美香の流線型の身体はプールの中へと入っていった。

スィッ

中で待っていた雄イルカが美香に近づいてくると、

そぐに身体を摺り寄せてくる。

『きゅぅぅぅ』

美香はもう自分は人間はなく、一匹の雌イルカとして

この雄イルカと交尾をしなければならないことを覚悟した。

そして雄イルカはその自分の性器を美香の秘所に押し込むと、

彼女の奥深くに自分の体液を放出した。

『きゅぅぅぅ…』

美香はすすり泣くと呼吸のために水面に頭を出す。

すると、これまで様子を見ていたほかのイルカ達も

次々と美香の周りに擦り寄ってきた。



次の日、

オーシャン・ワールドの従業員は全員驚いた表情でイルカのプールに立っていた。

「なぁ…この雌イルカどうしたんだ」

「さぁ?」

「佐々木さんが入れたのかな?」

「そういえば佐々木さんはまだ出勤してきてないよな」

口々にそういうが、

しかし、水槽に雌イルカを放した者も、

また、美香の所在も不明のままだった。

その後、このミカと名づけられた雌イルカは

まるで人間の言葉が判るかのように調教師の指示に従い、

また、たまにするその人間臭い演技のお陰で

すっかりオーシャンワールドの人気者へとなっていった。

「なぁ、お前って人間の言葉がわかるのか?」

イルカ達にえさをやりながら司がミカに尋ねると、

『きゅいぃぃ』

ミカは元気よく返事をした。




おわり