風祭文庫・獣の館






「牧場」



作・風祭玲


Vol.211





――あたし…香川ユキ、

  花も恥じらう16歳の乙女なんだけど…

  実は一つだけ悩みがあるの

  それは……


「あぁ!!、

 またアンタ牛乳を飲んでいるの?」

早朝の教室に声が響いた。

「ほっといてよっ」

牛乳の紙パックから伸びるストローをくわえながらあたしはそう言うと、

プィ

と横を向いた。

「毎日毎日、よく続くねぇ…」

彼女は感心しながらあたしをシゲシゲと見てそう呟くと、

「別にいいでしょう…

 みなちゃんには関係のないことなんだから」

「そこまで、胸を大きくしたいの?」

あたしの文句に美菜子は腕を組んでそう言った。

「…えぇそうでしょうとも、

 第一、胸の大きいみなちゃんには、

 あたしの深刻な悩みなんて判らないわよっ」

そうあたしが続けると、

「まっ、確かに水着姿のユキが男に迫っても、

 相手が男と間違えちゃうだろうしぃ…」

ややニヤケながら美菜子があたしに言うと、

ムッ!!

「言ったなぁ…」

ドン!!

あたしは紙パックを机に叩きつけると彼女に飛びかかった。

「あっ、やる気?」

たちまちあたしと美菜子との取っ組み合いが始まったものの、

「うっ吐きそう…」

無理に動いたためか急にこみ上げてきた嘔吐感に口を塞ぐと、

「バカッ!!

 さっさとトイレに行って来なさいよ!!」

美菜子はあたしを担ぎ上げると、

そのままトイレへと一直線に走っていった。



ザバー…

「う゛ぇ〜っ、気持ち悪い…」

お腹を押さえながら個室から出くると、

「全く、牛乳どれだけ飲んだの?」

と呆れながら美菜子が訊ねると、

「…えぇっと、アレが2本目かな?」

あたしがそう答えると、

「えぇ!!、もぅ一本飲んじゃったの?」

それを聞いた彼女は素っ頓狂な声を上げた。

「全く、ユキったら…」

右手を額に乗せながら美菜子が言うと、

「あのねぇ…

 いくら牛乳を飲んでも胸は大きくはならないわよっ

 まぁ多少は背が伸びるくらいだと思うけど…」

と付け加えた。

「えぇ?、そうなの?」

その言葉にあたしが驚いていると、

「ホラッ、もぅホームルームが始まるわよ…」

彼女はあたしの手を引くと教室へと向かっていった。



「それにしても、なんでそんなに胸を大きくしたいの?」

廊下を歩いていると、美菜子が聞いてきた。

「なんでって、そりゃぁ…

 もぅスグ夏だし…
 
 胸があった方がスタイルが良いし…
 
 それに…」

と言ったところであたしの口が濁った。

「それに…城西校の川村君を振り向かせたいでしょう」

と美菜子が付け加えた。

「!!!

 なんで、美菜子がそれ知っているの!!」
 
あたしにとって極秘事項の事を彼女が口にしたために思わず驚くと、

「はっはっはっ、

 美菜子情報網を嘗めないでね
 
 えっと、川村祐司君、
 
 城西高校2年で
 
 剣道部の主将兼、生徒会長、
 
 んでもってルックス・性格共に5つ星!!
 
 故に狙っている女の子も数知れずっと
 
 ちょっとユキには分相応とは思えないなぁ…」

と彼女はあたしに言い聞かせるようにして言った。

「そんなこと判ってるもん!!」

ふてくされながらあたしが答えると、

「で、何でそんなに高望みするわけ?

 川村君とアンタとじゃぁ
 
 月とすっぽん、金魚にメダカだよ」
 
美菜子がそう言うと、

「………あたし聞いたのよ…」

「え?」

「ハンバーガー屋で川村君の好みのタイプを…」

と呟くと、

「え?、それってなに?

 教えて?」
 
美菜子の目の色と口調が途端に変わるとメモを片手にあたしに言い寄ってきた。

「ひ・み・つ」

あたしはそう言うと、

「…わかった、巨乳の子が好きなのね」

とメモに書き記し始める。

「コラッ、何で知っているのよ」

美菜子の言葉に驚いたあたしが声を上げると、

「あっ、やっぱ本当だったんだ…

 あたしは、アンタの行動から見てそうじゃないかなぁ…
 
 と思って当てずっぽうを言ったんだけど」

と呆気にとられた表情であたしに向かって言うと、

「ちっ!!(計られた)」

あたしは軽く舌打ちをした。

「でも、巨乳好きとはねぇ…

 やっぱ、男の人ってそう言う女の子が良いのかなぁ」

頭の後ろに手を組みながら美菜子が言うと、

「あたしの前で川村君の悪口を言わないでくれる?」

不機嫌そうな口調であたしはそう言うと、

「あはは…ごめんごめん

 でも、なおさら無理なんじゃないの?」

と彼女はあたしに言う、

「だからこそ、こうして頑張っているんでしょう

 巨乳にさえなれれば川村君は間違いなくゲットできるんだから」

あたしはそう言いながら自分の胸に手を置いた。



自分の教室の前までに来たとき、

「うっそぉ」

「ほんとぉ〜」

教室の中から驚きの叫び声が聞こえてきた。

「何かな?」

「さぁ?」

あたしと美菜子が見合わせながらドアをあげると、

教室中の女子がある一点に集まっていた。

「なにかあったの?」

一番外側のクラスメイトに背中をつつきながら訊ねると、

「あっ、ユキっ、美菜子っ

 見てみてコレ!!」
 
と言いながら万里亜が飛び出してきた。

「なっ、なにぃ!!」

あたしは彼女の姿を見て驚いた。

そう、昨日までの彼女はあたしと変わらないくらいの貧乳仲間だったのに、

目の前にいる彼女の胸には、

ブルン!!

と巨大な乳房の盛り上がりがあった。

「どっどうしたの?、

 それ!!」

驚きながら訊ねると、

「えへへへへへ…

 いやぁ、今朝に起きたらいきなり胸が大きくなっていてねぇ…
 
 肩は凝るわ
 
 下は見えないわ
 
 ホント、大変なのね…」

と言いながら

グィ

っと胸を持ち上げた。

「ちょっと来なさいっ」

あたしは万里亜の手を引くと教室から飛び出していった。

そして、階段の陰に連れ込むと、

「な・な・な・な・なんでそんなに大きくなったのよぉ!!」

と尋ねた。

「牛乳を飲んでいたら大きくなったのよ」

ケロリとした表情で彼女は答えると。

「牛乳だったらあたしも飲んでいるわよ」

負けずと言い返す。

すると、

「さっきトイレで吐いたけどね」

と後からやってきた美菜子がそう付け加えた。

「美菜子は黙ってて、

 これはあたしにとって死活問題なのよ」
 
美菜子に向かってあたしは叫ぶと、

「うふふふ…

 教えてあげようか?」

含み笑いをしながら万里亜は言う、

「何を…」

「ユキは何処の牛乳の飲んでいるの?」

「何処のって、そこのコンビニで売っている奴よ」

万里亜の問いにそう答えると、

「ふふん、駄目ねぇ…

 飲むんだったら、川村牧場の牛乳を飲まなきゃぁね」

と言った。

「川村牧場?」

彼女の言葉にあたしが首を捻ると、

「あっ、知っている、

 隣の町にある牧場だよね…
 
 最近、そこの牛乳が人気があるって聞いたんだけど
 
 そっか、そんな効果があるのか…」

美菜子は万里亜の胸をシゲシゲと眺めながら言った。

「…万里亜…放課後…その川村牧場にあたしを連れて行きなさい…」

フルフル…

と肩をふるわせながらあたしが言うと、

「えぇ…だって、今日の放課後は…デート…」

万里亜はイヤそうな顔をしてそう言いかけたところで、

「えぇいっ、そんなもんは全部キャンセルよっ

 いーぃ、そんな耳寄りな情報をあたしに黙っていた罰よっ
 
 判ったわね」
 
とあたしが言ったところで、

「…話は終わりました?」

突然、あたしの後ろから声が掛かった。

「え゛?」

振り返ると担任がいつの間にか立っていて、

「ホームルームを始めたいのですが

 もぅ用はお済みで?」

とこめかみをピクピクさせながらあたし達に尋ねてきた。



放課後…

あたしは万里亜を道案内係にして無事川村牧場の入り口に立っていた。

「ふぅぅぅん、ここ?」

入り口近くの牧草地でノンビリと草をはむ白黒斑のウシを見ながら訊ねると、

「もぅ良いでしょう」

っと腰に手を当てながら万里亜が訊ねると、

「うん良いわよ、ご苦労さん」

あたしは彼女にそう労いの言葉をかけると、

さっさと牧場へと入っていった。

「あっ待ってよ」

美菜子があたしの後から付いてくる、

「何で美菜子が来るの?」

「…だって…あたしだってもぅ少し嵩上げしたいもん」

と彼女が答えると、

――それ以上大きくしてどうするの?

それを聞いたあたしは心の中でつっこみを入れた。



「えぇ!!

 品切れなんですか?」

「えぇ…どうもここに来て急に人気が出てしまってね」

売店をかねている事務所で

あたしの応対をした中年女性は申し訳なさそうにして言う。

「そうなんですか…」

「明日の午前中には朝搾った牛乳が入りますよ」

っと彼女はあたしに言うが…

「はぁ…そうですか…」

あたしは肩を落としてトボトボと出ていこうとしたとき、

ドン!!

入れ違いに入ってきた学生服姿の男の人とぶつかってしまった。

「あっごめんなさい…」

力なく謝ると、

「いや…僕の方こそ…」

と言う返事にあたしは顔を上げると、

なんと入ってきたのは紛れもない川村君だった。

――うっそぉ…

あたしは思わず驚いた。

「あれ?、僕のこと知っているの?」

川村君はあたしに訊ねると

コクン

コクン

あたしは2回頭を縦に振った。

「そっかぁ…あははは」

彼は照れくさそうにすると、

「あっ?、牛乳買いに来てくれたんだ」

とややニヤケた表情であたしに聞いてくると、

――川村君…ここの牛乳のこと知っているんだ…

あたしはそう考えると耳まで赤くなった。

そして、美菜子になんとか助け船を出してもらおうと、

振り向くといつの間にか彼女の姿は消え代わりに

”ファイト!!”

と書かれた紙があたしの肩の後ろに貼ってあった。

クシャッ

「美菜子めぇ…」

あたしが紙を握りしめていると、

「そうだ、ウチ用に取って置いたのが残っていると思うけど」

と言いながら川村君はあたしの手を引く、

「え?、あのぅ…」

予想外の展開にあたしは驚くと、

「あぁここはねぇ、僕の家なんだよ」

「え?、そうなんですか…」

ここであたしは一つ知らない情報を得てしまった。

――そっかここって川村君の家だったのか…

そう思っていると、

「ちょっとココで待っててね」

彼はあたしを縁側に座らせると、

家の中に入っていった。

そして、しばらくして、

瓶に詰められた真っ白な牛乳とコップを持って戻ってきた。

「こんな物で悪いんだけど…」

と言いながら川村君はあたしにコップを手渡すと、

トクトクトク

っとコップになみなみと牛乳を注いでくれた。

――うう…このシチュエーション!!

  夢なら覚めないで欲しい…
  
そう思いつつあたしは一気に牛乳を飲み干してしまった。

甘いような不思議な味が口の中に広がる。

「どう?」

彼が訊ねると、

「えぇ…すっごく美味しいです」

あたしは力みながら答えた。

「そう、じゃぁもぅ一杯行ってみる?」

川村君はそう言うと

トクトクトク

空になったコップに牛乳を注いでくれた。

「良いんですか?」

あたしはそう言いながら牛乳を飲むと、

「…えぇ…それは君の為の牛乳だから…」

と彼が呟いた。

「え?」

彼の言葉に思わず聞き返したとき。

ドクン…

あたしの心臓が大きく高鳴った。

――なに?これ?

トクン

トクン

徐々に心臓の鼓動が早くなっていくと、

――あっ…

目の前の視界が急に暗くなっていった。

ガシャン!!

手から滑り落ちたコップが割れる音を最後にあたしは気を失ってしまった。



ガサッ

――うっ寒い…

ふと気が付くと、あたしは草の上に寝かされていた。

――ここは…

思わず顔を上げると、

ムワッ

言いようもない糞尿の臭いが鼻と

ゴソ…

ゴソ…

周囲に何か獣が居る気配に気が付いた。

――なっ何よこれぇ…

鼻を塞ぎながらあたしは這い蹲ったとき、

初めて自分が何も着ていない全裸になっていることに気づいた。

――え?

  なっなに?

予想外のことに驚いていると、

カラン!!

首のしたで鐘が小さく音色をあげた。

――?

――?

状況を理解できないままあたしは首の鐘を鳴らす。

そのとき

「どうユキ…その鐘、気に入ってくれた?」

突然男の声が響いた。

「その声は川村クン?

 はっいやぁぁぁぁぁ!!」
  
あたしは思わず悲鳴を上げると胸と股間を手で隠した。

ところが、

ムニュッ

股間を隠した手に言いようもない数個の肉の塊の感触が走った。

――なに?

恐る恐る見てみると、

暗がりのなかあたしのお腹の両側に奇妙な形をした突起が

全部で6本突き出していた。

「うそっ、なっなにこれぇ」

驚きながらそのウチの一本を引っ張ってみると、

ゾクゥ…

言いようもない快感があたしの体の中を走り抜けていった。

「(クス)それは、乳首だよ」

再び川村君の声が響いた。

「え?、乳首?

 なんで…お腹に乳首が…
  
 それに何であたしは裸でいるの…」

「それはね、君にはもぅ服は要らないからさ」

カッ!!

川村君のその声と共に明かりがあたしを照らし出した。

「いやっ、見ないでぇ…」

あたしは草の上で小さくなる。

「ふふふ…乳首は出ちゃったけど

 でも変身は本格的には始まっていないか…」

川村君はそう言いながら、

カチャ

カチャ

っと三脚を立てると、その上にビデオカメラをセットした。

「なっ何を…」

彼の行為を訊ねると、

「ん?、君が人間でなくなっていく様子を撮影するんだよ」

と川村君はあたしに言う。

――あたしが人間でなくなっていく?

「それってどう言う?」

と聞いたとき、

グッ(カラン)

あたしにつけられた首輪に手綱がつけられていることに気が付いた。

――なんで…

手綱を引っ張っているあたしに川村君は、

「それは簡単には解けないよ…

 そうだ、お腹がすいたらそこの草を食べな…
 
 その草は君のベッド兼食事でもあるんだからね」

と告げた。

「そんな、あたしはウシではありません。

 人間です」

と言うと、

「そんな乳首を持つ人間がいるかい?」

と彼はあたしのお腹を指さした。

――あっ、

ポロン…

あたしのお腹の左右両側から飛び出している乳首は紛れもないウシの乳首だった。

「ふふ…そろそろ次の変身が始まる頃だな…」

川村君は時計を見ながらそう言うと、

カメラをあたしに向けた。

「いやぁぁぁぁぁ!!」

あたしは顔を隠して悲鳴を上げた。

「無駄無駄っ、この畜舎には僕と君、そして牛たちしかいないんだよ」

と彼が言った途端。

ゴキゴキゴキ!!

あたしの脚から骨が鳴る音が響くと、

グググググ…

足首から先が引き延ばされるように長くなると、

骨が見る見る太くなっていく、

「あっあっあっ」

あたしは驚きながら自分の足が変化していく様子を見つめていた。

そしてついに、

ゴリ…

足の指を突き破るようにして黒く輝く2つに割れた蹄が顔を出してきた。

「やっやだ、ヤメテ!!」

あたしは足を振りながら足をばたつかせると、

カツン!

カツン!!

壁に蹄が当たる音が響く、

あたしの変化はそれだけではなかった。

ジワッ

ジワジワ…

っとまるで沸くようにして腕や脚…

そして体中から白と黒のブチ模様を作りながらた剛毛が生え始めた。

ザラッ

ザラッ

伸びていく毛の感触が体中を包み込む。

「いやぁ…

 いやぁ…」

あたしは埋まって泣き始めた。

ゴボゴボ…

お腹が張っていく…

ウエッ!!

胃の内容物が口の中に戻ってきた。

グブ…

グブ…

「ユキちゃん…

 お腹の中が一足先にウシになっていっているよ…

 それにその脚とそんな大きなお腹じゃぁ
 
 人間のように立って歩くことはできないね…
 
 それに胃も反芻しているんでしょう?
 
 じゃぁ、ご飯も食べることが出きなくなったね。
 
 さぁ草を食べなくっちゃ…」

と川村君が悪戯っぽく言う、

――だっ誰が…

あたしは必死になって立とうとするが、

しかし、蹄となった脚のみで立つことはできず、

また大きく膨れたお腹のためによつんばになって這うことが精一杯だった。

グブッ

口の中で舌が長く伸び始めた。

ゴキゴキゴキ…

それに併せて顎が長く伸びていく。

「う゛っ…

 う゛っ……
 
 ぐもぉぉぉぉぉぉぉぉ(いやぁぁぁぁぁ!!)」
 
ついにあたしの口からウシの鳴き声が発せられてしまった。

「もぅ…(いやぁ)

 もぅ…(いやぁ)」

あたしは必死になって言葉をしゃべろうとしたけど、

でも出てくるのはウシの声しか出てこなかった。

「そうそう…いいよぉ…

 ほぉら、尻尾も伸びてきた…」

川村君はビデオの液晶画面を見ながらそう言う、

ブルン

ブルン

いつの間にかあたしのお尻の上に尻尾が伸び、

そして左右に動き回っていた。

メリメリメリ…

体全体の骨格が変わっていく、

手にも蹄が顔を出してきた。

――あたしは……

ググググ…

頭の両側が突っ張ると

ビシッ

っと皮膚を突き破って角が延びていく、

ググググ…

耳が大きく伸びると、

カラン…

首の鐘が乾いた音を鳴らす。

ヨロヨロ…

まるで生まれたばかりの子牛がするように、

あたしはよろめきながら4本の脚で立ち上がると、

パチパチパチ!!

それを見ていた川村君は拍手をしながら、

「おめでとう、乳牛・ユキの誕生だね。

 実はね、

 この畜舎の中にいるウシたちは元はみな君と同じ女の子だったんだよ、

 いやぁ…こうして女の子がウシになっていくシーンって、

 ホント、萌えるねぇ…

 あっそうそう、夕方君に飲ませた牛乳のにはね、

 僕のお爺さんが発見したウィルスの培養液を混ぜて置いたんだ。

 このウィルスは個体内に入ると、

 その個体を別種の個体へと変化させることができるすごいヤツなんだよ」

と川村君は得意げにあたしに告げながら、

あたしの耳をつかむとパチンと何かを挟んだ。

――?

思わず頭を振ると

パタパタ

と耳の上で何かが踊った。

「もぅ(なに)?」

あたしが盛んにそれを気にしていると、

「それはねぇ…

 君がこの牧場のウシである証だよ」
 
と川村君はあたしに言った。



シュゴッ

シュゴッ

翌朝、あたしはお腹の乳首に搾乳機を取り付けられ、

そして乳を搾られていた。

あれからまもなくあたしのお腹には大きな乳房が膨れあがり、

こうして牛乳を絞り出さないといられなくなっていたのです。

「ごめんくださいーぃ」

売店に女の子の声が響く。

しばらくして川村君があたしのところに現れると、

「ユキ…

 いま、女の子がお前から搾った牛乳を買っていったよ、

 さぁもっと牛乳を搾ろうな」

と言いながら頭を撫でると、

「んもぉぉぉぉぉぉ…(あたしはウシではなぁい!!)」

それを聞いたあたしは大きな鳴き声をあげた。



「あれ?

 いまユキの声が聞こえたような…」

美菜子は振り返ると牧場の方を見つめ、

「気のせいか…」

と言うと去っていった。

…そして翌朝には新しいウシが一頭、ユキの隣につながれていた。



おわり