風祭文庫・獣の館






「牛小島奇譚」



作・風祭玲


Vol.196





「はいはい、大丈夫だって…

 こっちは何とかやっているから、

 うん、じゃぁ、母さんも身体に気をつてね」

Pi

田中美子は電話に向かってそう言うとスイッチを切った。

「ふぅ…もぅ子供じゃないんだから」

彼女はそう言いながら開け放たれた窓の外を眺めると、

ザザー…

潮騒の音と

ナトリウム灯に照らされた桟橋が見る。

「さ・て・と…いよいよ明日から…」

そう言いながら気合いを入れると、

美子は残っている部屋の片付けをはじめた。



翌朝…

『…では、新任の田中先生を紹介します…』

と校長に紹介されて美子は台の上に立った。

『皆さん、初めまして…

 校長先生から紹介のあった田中美子です。
 
 まだ、先生になったばかりですが、
 
 今日からみなさんと共に勉強をしていきましょう』

そう告げると、

パチパチパチ…

目の前にいる十数名の児童達から拍手がわき起こった。



牛子島…

この日本海に浮かぶ小島には

その昔、都から流された公家が都での優雅な生活を捨てきれず、

その為に仏罰が当たりウシにされてしまったという伝説がある島でもある。

「…まぁ…都会と違って何分小さい学校ですから、

 わたしがこうして案内する程でもないのですが…」
 
白髪交じりの校長はそう言いながら美子を案内すると、

「いえ…来たばかりですし、

 何も判らないわたしにはこうして案内していただけるだけでも助かります」

美子はそう言いながら校舎のあちらコチラを見て回った。

そして、一通り見終わった後、

「あぁ、それと、タケシの所も案内しないと行けませんね」

そう校長が言うと

ぴくっ

美子の表情が硬くなった。

「…あのぅ…校長先生?」

「ん?、なにかね?」

「タケシって…」

と訊ねると、

「まぁ見れば判ります…」

そう言いながら歩く校長と共に校舎裏に来た美子を思わず目を見張った。

「んもぉ〜っ」

校舎の裏には小さながらも牧草地があつらえており、

そして一頭のウシがのんびりと草を食べていた。

「うっウシですか?」

目を白黒させながら美子が校長に訊ねると、

「えぇ…児童達の教材にと思って飼っているんですよ」

と校長は自慢げに話す。

「はぁ…

(トリやウサギを飼っているって話は聞いた事があるけど、

 ウシを学校で飼っているなんて聞いたことがないわ…)」
 
半ば唖然として美子がウシを眺めていると、

「あれ?、このウシはオスなんですか?」

と尋ねた。

「あぁ…実は花嫁さん募集中でね…

 どうです?
 
 タケシの花嫁になってくれませんか?」
 
と校長は笑いながら美子に言った。

「…校長先生、冗談も程々にしてください」

聞き流すように言った後に

「…上野武って人が昨年コチラに赴任してきたと思いますが…」

探りを入れるように彼女が訊ねると、

「上野…あぁ上野武クンか…」

思い出すようにして校長が言うと、

「…彼も不憫だった…

 熱意を持ってこの学校に赴任されて、
 
 無論、児童達も彼を慕っておったよ、
 
 しかし、昨年の台風の際に高波にさらわれてな…
 
 このウシがタケシって名前にしたのも、

 彼を忘れないように…と児童達が付けたものなんだよ」
 
校長はそう言うとハンカチを目頭に置いた。

「……本当に、上野先生が高波にさらわれたのでしょうか?」

「ん?」

「わたしにはどうしても信じられません。

 上野先生…上野先輩はいまもこの島に居るとわたしは信じています」
 
そう美子が呟くと、

「きみと上野君とはどういう関係かね?」

校長が訊ねると、

「…正式には交わしてないけど婚約者でした」

サワッ!!

そう言って振り向いた美子を一陣の風が吹き抜けた。



「せんせぇ…」

「あら…理菜ちゃん…」

それから数週間後…

島の小学校にようやく馴染んできた美子を3年の塚田理菜が声を掛けた。

「どうしたの?」

美子は優しく聞き返すと、

「先生もうしさんになってしまうんですか?」

理菜は美子を見ながら尋ねてきた。

「うしさん?

 うしさんって牛のこと?」

思わず聞き返すと、

「うんっ」

理菜は大きく頷いた。

「あのねっ、理菜ちゃん…

 どんなことがあっても人間がウシになるなんてことは起きないのよ」
 
美子は視線を理菜と同じ高さにすると、彼女に言い聞かせるように言った。

しかし、

「ちがうもん、なるもん!!、

 だって、たけし先生はみんなの目の前でウシさんになったんだから…」
 
と譲らない。

「はぁ?」

彼女の言っている意味が分からないでいると、

「あぁ、昔話のことですよ」

っと傍を通りかかった島田先生が美子に声を掛けた。

「昔話ですか?」

「えぇ、この島には都から流された貴族が牛になってしまった。

 と言う伝説があるんです」
 
と説明をする。

しかし、それを聞いた理菜は、

「ちがうもん、たけし先生はほんとうにうしさんになったんだから!!」

そう叫ぶと走り去っていった。

「あっ理菜ちゃん…」

「まぁまぁ先生…まだお話と事実との切り分けが出来ていない年ですがら」

そう言いながら島田は追いかけようとする美子の肩を押さえた。



『美子へ…

 牛小島に来て既に3ヶ月が過ぎ、
 
 ようやく島の生活にも慣れてきた……』
 
下宿に戻った美子は武から送られてきたメールのログを読み返していた。

最初の頃は島での生活を丹念に書きつづったメールが送られてきたのだが、

しかし、それがある日突然ぷっつりと途切れてしまった。

そして程なく届いた武・遭難の一報、

しかし、その後に1通だけ奇妙なメールが届いていたのだった。

「……間違いない、このメールは武さんからの…」

奇妙な文字の羅列が表示されている文面を見て美子は確信する。



「いやぁ、美子先生は熱心ですな…」

夜遅くまで教材作りに没頭している美子を見て他の先生達はみな関心をする。

「いえ…子供が好きですから…」

そう返事をする美子を見た一人の教師が

「田中先生…大分顔色が悪いようですが大丈夫ですか?」

と声を掛けた。

「え?、えぇ…ちょっと風邪を引いたみたいで…」

美子はそう答えるが、

ムズムズ…

しかし、数日前から彼女の手足が妙にムズ痒くなっていた。

「なっ、なんなのかしら…コレ」

言いようもないムズ痒さに美子は不快感を覚えたが、

しかし、

ジワッ

美子の背筋に白い毛が生え始めていた事にまだ誰も気づいていなかった。



そして、その日の授業中、

「はいっありがとう」

そう言って美子がチョークを持って黒板に向かったとたん、

ポト…

彼女の手からチョークが落ちた。

「あら?」

美子は腰をかがめて落ちたチョークを拾おうとしたが、

しかし、いくら手をチョークの上に持っていっても、

何故かチョークが拾えない。

「やだ、どうしたのかしら…」

そう思いながら自分の手を見てみると、

「え?、指が動かない…」

そう、美子の指はまるで固まったように動かなかった。

「先生、どうしたんですか?」

彼女の様子を不審そうに子供達が声を上げた。

「え?、いっいえ、何でもありません」

美子は平然さを装って立ち上がったとたん、

ズルッ!!

「あっ!!」

履いていた靴が脱げると、

ドタン!!

バランスを崩した美子は思いっきり尻餅をついてしまった。

「あはははは…」

それを見た子供達は一斉に笑い声を上げた。

「こらっ、人の失敗を見て笑わないのっ」

美子は子供達を見ながら声を上げると立ち上がった。

すると、

コツン!!

コツン!!

足の方から聞き慣れない音と共に異様な触覚を美子は感じた。

「え?」

自分の足を見てみると、

美子の足の踝から下がまるで動物の蹄のような姿になって

ストッキングの中に収まっていた。

「なっなに?これ?」

目を丸くして美子が声を上げると、

「まゆみ先生もウシになっちゃう!!」

っとそれを見た理菜が声を上げた。

「こっこらっ、理菜ちゃんっそんなことが起こる分けないでしょう」

美子は気丈に振る舞うが、

ミシミシミシ…

彼女の足は足先が蹄になったばかりではなく、

毛が生え、そして足そのものの形が変わり始めていた。

ビィィィィッ

ストッキングに幾本もの伝線が走る。

「そっそんな…」

美子は自分の足が獣の足に変わっていくのを呆然と見ていた。

「とっとにかく、保健室に…」

カツン!!

足の蹄を鳴らしながら、美子は必死になって立ち上がった途端、

ベリッ!!

彼女の両手が引き裂けると、なんとその中から蹄が姿を現した。

「ひっひぃぃぃぃぃ」

蹄となった両手を見据えながらついに美子は悲鳴を上げた。

「せっ先生!!」

子供達が一斉に彼女の所に駆け寄った。

メリメリメリ!!

蹄が出た美子の両腕は猛烈な勢いで獣の前足へと変化していく、

「あっあっ…たっ助けて!!」

美子はよつんばになって子供達を押しのけると、

そのまま廊下に飛び出した。

カツン

カツン

カツン

「助けてぇ!!」

廊下を蹄の音を立てながら必死になって美子は走る。

メリメリメリ!!

しかし、彼女の身体は変化を続け、

ググググっ

下腹部が見る見る膨らんでいくと、

ビリビリビリ!!

スカートを引き裂くようにして血管が浮き出る巨大な膨らみが姿を現した。

そして、ニュッ!!

っと膨らみの左右両側に6本の肉塊が伸びると、

彼女の腹の膨らみはウシの乳房と化す。


ブルン、ブルン!!

乳房を揺らして走る美子の足の速さは見る見る遅くなって行くと、

モリモリモリ…

バリバリバリ!!

大きくなっていく身体に衣服が引き裂けていく、

「いっいやぁ…」

衣服を失った美子の身体を

所々に黒いブチ模様を作りながら白い毛が覆っていくと、

ニョキッ!!

お尻の尻尾が伸びていった。

「なっなんだ、どうした?」

騒ぎを聞きつけた先生達が彼女の周りに集まってきた。

「たっ田中先生っこれは…」

校長が驚いた口調で首から下がウシと化してしまった美子の姿をマジマジと見る。

「いやぁぁ…見ないで…」

蹄を鳴らしながら美子が声を上げていると、

グキグキ…

彼女の顔から不気味な音が響き始めると、

頭の両脇からツノが生え、

そして耳が垂れ…

そう美子の顔は人間からウシのそれへと変化していった。

「うっうううう…」

呆然と教師達が見下ろす中、美子のすすり泣く声が響き渡った。



その夜緊急の職員会議が開かれると、

美子の今後の処遇が話し合われた。

しかし、会議の内容は美子にとって驚く内容だった。

「…さて、先任の上野先生に続いて田中先生も残念ながらウシになってしまった」

と切り出したのは校長だった。

「やっぱり島の水が合わないのかねぇ」

「本土から呼ぶのはやはり問題があるのでは」

「とは言っても、島には人はいないし…」

と言う話を聞いて美子は、

「ちょちょっと待ってください、それってどういうことですか?」

と声を上げた。

「いやねぇ、

 この島には島流しにされた貴族の呪いが掛けられててね、

 よそ者が入ってくると、みなウシにされてしまうんですよ」
 
「あぁ、戦時中は兵隊がウシになったって話を聞いたことがあるし」

「あなたがココに来る前にも上野武さんが、やはりウシになってねぇ」

「さすがに警察にはウシになったなんて言えないから、

 高波にさらわれたって事にしたんですよ」

と教師達は事の事情を美子に話した。

「そんなぁ…じゃぁ、あのタケシは…」

「そうです、上野君の変わり果てた姿なんですよ」

校長は武と同じようにウシの姿になった美子に言い聞かせるように言った。

そして、呆然と立ちつくす美子にさらに追い打ちを掛ける事が言われた。

「君が上野君と将来を誓い合った中って事を知ったとき、

 どうやって事情を説明しようかと悩んだんだけどね…

 実は残念ながら、彼はウシになったショックから
 
 人間のだったことを忘れてしまったんですよ。」
 
と美子に告げた。

「…人間だったことを忘れた…」

「そう、人間だったことを忘れたウシは只のウシなんです」



「武さん、武さん」

ウシの姿のまま美子はタケシの傍に行くと声を掛けた。

しかし、タケシは

「ンモー」

と一鳴きすると、草を食べ始めた。

「そんなぁ…あたし…どうすればいいの」

日を追う事に美子の身体は貧弱そうな姿から

体格の立派なホルスタインへと変貌を遂げていく、

「本当にまゆみ先生、ウシになっちゃったんだね」

2頭のウシが草を食べている牧草地を眺めながら

加賀健太がそう言うと、

「ねぇオスとメスがそろったんだから…子牛を生まれるかな?」

と宮下美紀が提案した。

「こっコラっ、子供がなんて事を言うのっ!!」

草を食べながら児童達の話し声を聞いていた美子は思わず叱ったが、

しかし、

「子牛が見たい」

と言う声が相次ぐと、

一人の男子児童が”タケシ”をつないでいた綱を外してしまった。

ノソッ

ノソッ

綱を外された”タケシ”は美子に近づいてくる。

「たっ武っ、やめてよ、

 そんな…子供達が見ているでしょう!!」
 
それを見た美子は声を上げたが、

しかし、ウシとしての本能のみしか残っていない”タケシ”は

彼女を追いつめると彼女局部の臭いをひと嗅したとたん、

ズン!!

美子の上にのし掛かった。

「いっいやぁぁぁぁ」

そして悲鳴を上げる美子の局部に己のペニスを挿入した。

「だっだめぇ
 
 そんな、あっあっ!!」

巨大なペニスを挿入された美子の悶え苦しむ声が響く、

その一方で

グモ!

グモ!!

タケシは激しく腰を振る。

美子はウシになってしまった身体を教え子に見られるだけでも耐えられないのに、

同じようにウシになった恋人のタケシとその面前でセックスさせられたことに

恥ずかしさを通り越した快感を覚えていた。

「あぁん、もっと」

「お願い、もっと奥をついて」

2頭のウシによる壮絶なセックスを児童達は唖然と眺めていた。



おわり