風祭文庫・獣の館






「返済の罠」



作・風祭玲


Vol.188





「ほぅ…では、あなたが隆史さんに変わって支払っていただけると…」

「えぇ…」

奈々子はそう答えると、

キッ!!

っと目の前の机で頬杖を付いている男を睨み付けた。

「ここに300万円あります。

 これで隆史の借金は全額返済したことになりますよねっ」

そう念を押すように言いながら奈々子は持っていたバックより

銀行の帯封が付いた札束を取り出すと男に向かってそう言い放った。

葛飾大作、一見布袋の様な温和な顔だが

しかし、この学生街で学生相手の貸金業を営む一方で、

その取り立ては凄まじく、

彼から1円でも金を借りれば命までも持っていく。

と囁かれる悪魔の様な男だ。

「おいっ」

大作は隣に立っている黒メガネの男に顎を動かして指示をすると、

スッ!!

黒メガネは奈々子の横に立つなり、

バッ

っと彼女の手から札束を奪い取ると丁寧に一枚一枚数え始めた。

そう奈々子の弟、隆史はこの男の魔手に嵌ってしまい、

返済を迫られて数日前から行方不明になっていた。

「ほら、ちゃんとあるでしょう」

憮然とした表情で奈々子は黒メガネの男に言う。

「社長、確かに300万あります」

ドスの利いた低い声で黒メガネは札束を顔の高さに掲げて報告すると、

「ほっほっほっ…」

大作は笑みを浮かべなが手元にあるファイルを開き、

ペラ…ペラ…

っと紙をめくり、

「えっと、佐藤隆史さんね…」

言いながらファイルに綴じられている書類に目を通し始めた。

そしてしばらくすると”まぁ”と言うような表情で、

「あらら…彼の借金は利子がかさんでもぅ500万円にもなっているわね」

とまるでオカマのような口振りで奈々子に言った。

「そんな…だって…この間は300万って言ったでしょう」

腰を浮かしながら奈々子が抗議すると、

「あら…そんなことを言ったのかしら…」

と大作はまるで言ったことがない様なセリフを吐く。

「あっあんたねぇ…」

凄い形相で奈々子が大作を睨み付けると、

「だったら、あたしが言ったという証拠があるのかしら」

と舐めるような視線で奈々子に言う。

「貴様ぁっ」

奈々子は大作を睨み付けながらブルブルと握り拳を振るえさせると、

「まぁまぁ…そんな怖い顔をしないで、

 ねぇ…ビジネスの話をしません?」

と大作は奈々子をなだめるような口調で

「実はねぇ…あたし…いま新しいビジネスを始めたばかりのよ

 で、あなたがそれに強力をしてくれるなら…

 弟さんの借金をチャラにしても良いわ」

と提案した。

「なに?」

その言葉を聞いた奈々子は上げ掛けた腰を元に戻す。
 
ニィ…

それを見た大作は笑みを作ると、

「実はねぇ、あたし、牧場を始めたのよ…」

「牧場?」

「そう、でもただの牧場じゃないのよ」

「?」

「ちょっと、アレを持ってきて」

大作は黒メガネにそう言うと、

黒メガネは一寸席を外すと再び戻ってきた。

そして彼の手には一つの紙パックが握られていた。

トン!!

黒メガネは紙パックを奈々子の前に置く、

「……ぎっ牛乳ですか?」

それを見た奈々子が大作に言うと、

「そう…牛乳よ…でも、ただの牛乳じゃないの?

 人間のお乳で作られている、いわゆる人乳って奴ね」

と大作は奈々子を見つめながら言った。

ウェッ!!

その言葉を聞いた奈々子は一瞬引いた。

「あらら…そんなに毛嫌いしなくても良いじゃない

 じつはねっ、これは結構人気があってね、

 それで思い切って増産をしたいんだけど、

 なかなか供給してくれる人が見つからなくてね…」

ゴクリ…

その言葉を聞いた奈々子の喉が大きく動いた。

「…まさか…あたしに…」

顔を上げた奈々子が大作に向かってそう言うと、

「強制はしないわ…」

そう言いながら大作は奈々子を見つめた。

「…………」

沈黙の時間が流れる。

チラッ

時計を見た大作は

「あら、もぅこんな時間?

 残念ね、じゃっこの話はなかったと言うことで、

 さっ、お客様のお帰りよ」

と黒メガネに言うとおもむろに腰を上げた。

「あっ待ってくださいっ

 あたしがあなたのその牧場で…

 その…オッパイを供給すれば弟は返してくれるんですか?」

顔を赤らめながら奈々子が言うと、

「………無論です、人の乳は高く取引をされているんで

 残りの200万なんてあっという間に返せますよ」

と大作は答えた。

「………判りました…」

少し間をおいて小さい声で奈々子はそう答ると、

「あら……それなら話は早いわ、

 じゃぁ”善は急げ”っていうから

 早速この契約書にサインしてくれる?」

スッ

大作は引き出しから書類を出すと奈々子の前に出した。

「どうぞ…」

そう言いながら黒メガネは大作の机の上に置いてあったペンを奈々子に渡す。

「ちゃんと弟を返してくれるんでしょうね」

奈々子は確認するように大作に言うと、

「それはもぅ…」

喜々とした表情で大作が返事をすると、

奈々子は一瞬躊躇ったあと、書類にサインをした。

「ホッホッホッ!!

 さすがは姉弟愛ね、

 約束通りに弟さんは返すわ…」

奈々子がサインした書類に目を通しながら大作が左手を挙げると、

ガチャガチャ…チャッ

黒メガネが大作の横にあるドアの鍵を開けた。

「姉ちゃん!!」

ドアが開くと同時にニキビ顔の青年が飛び出してきた。

「隆史!!」

彼の姿を見た奈々子は思わず走り寄るとギュッと彼を抱きしめた。

「ごっごめん、姉ちゃん、俺のために…」

「いいのよいいのよ」

そう言いながら奈々子は隆史の頭を何度もなでる。

「ホッホッホッ

 実に良い光景ね…」

大作は視線で黒メガネに同意を求めると、

「はいっ」

黒メガネは短く答えた。

「折角の姉弟の対面を邪魔するようだけど、

 隆史君、

 君のお姉さんにはこれからちょっと…働いてもらわねばならないから、

 スグに帰って頂戴ね」

と抱き合っている二人に告げた途端、

黒メガネは隆史の襟を掴み上げると、

そのまま彼を事務所の外へと放り出してしまった。

「なっ何を!!」

奈々子が抗議すると、

「ホッホッホッ…もぅ弟さんは自由の身よ、

 さて、奈々子さんにはこれから飲んで貰う物があります」

そう言いながら一つのアンプルを取り出した。

パキン…

大作からそれを受け取った黒メガネが手際よく蓋を切ると、

「どうぞ」

と言いながらアンプルにストローをさして奈々子の目の前に置く、

「これは?」

そう言いながら奈々子がアンプルを怪訝そうに見つめると、

「それは、お乳の出を良くするお薬です」

と大作が説明する。

「え?」

驚いた顔で奈々子が大作を見ると、

「あたなのそのオッパイではまだお乳は出ないでしょう?

 だからお乳の出を良くするためのお薬ですよ」

「………」

そう大作が言うと、しばらくの間だ奈々子がジッとアンプルを眺めた後、

ややふるえる手でアンプルを取ると、

さしてあるストローに口をつけた。

スゥゥゥ…

ストローの中を液体が奈々子の口に向かって流れていく。

ニィ…

それを見た大作の口元が緩む。

ズズズズ…

奈々子が全てを飲み終えると、

「どうですか?、お加減は?」

大作の質問に、

「いえまだ何も……あっあれ?」

半分まで答えたところで奈々子の意識がフッと遠のいていくと

ドサッ!!

っと崩れるようにして倒れた。

「うふふふ…」

倒れた奈々子を見つめながら大作は含み笑いをする。



チュンチュン!!

「ん?…え?なに?」

窓辺で集う雀の声に奈々子は目が覚ますと、

いつもの自分の部屋とは違う様子に驚いた。

そう、奈々子は何もないまるで留置場のような所に寝かされていた。

そしてさらに驚いたのはいつの間にか衣服を一切身につけてない

全裸の状態にされていたのであった。

「あっあれ?…なんで…あたし…」

状況がつかめず、彼女は必死になって寝る前のことを思い出し始める。

そして…

「そうだ、あたし…葛飾の所に…」

と大作の事を思い出すと、

ムクリ…

っと起き上がったとたん

ズル…ズシッ!!

「!!」

彼女の腹部に何かが垂れ下がり

ズシッとした重みとなって彼女を驚かせた。

「うっ重…なっなによ?」

そう思いながら視線を腹部に移動させた彼女の目が凍り付いた。

ゴロン!!

奈々子の腹部にスイカの様な巨大な膨らみが出来、

さらにその膨らみに左右2本づつの突起が勃きあがっていた。

「ひぃぃぃぃぃ…」

あまりにも変わり果てた自分の腹部を見た奈々子は思いっきり悲鳴を上げた。

「なっなんで…」

驚きながらも乱れた髪を自分の両手でかき上げようとしたとき、

ゴリッ!!

掌に突き出た固い物が奈々子の頭を思いっきりひっかいた。

「痛ぅ…」

突然走った痛みに恐る恐る自分の掌を見てみると、

掌の指の付け根あたりの皮膚を突き破るかのように

まるで蹄の様な黒く固い物体が顔を覗かせていた。

「いやぁぁぁぁぁ〜っ!!

 何これ?」

そう叫びながら奈々子が立ち上がろうと素足を床に着けた途端、

カツン!!

乾いた音が部屋の中に響き渡った。

恐る恐る自分の足を見ると、

両足に黒く固い蹄が生え始めていたのであった。

「ひぃぃぃぃ!!」

それを見た奈々子が再び悲鳴を上げる。

「ホッホッホッ!!

 お目覚め?
 
 奈々子さん…」
 
ドアの向こう側から大作の声が響いた。

「ちょちょっと、コレどういう事よ」

っと奈々子が声を上げると、

「ホッホッホッ

 あなたにはこれからウシとしてあたしの牧場で働いてもらいますわ…」

と大作はまるで死刑宣告のような言葉が奈々子に浴びせた。

「そっそんなぁ…

 コレ、約束が違うじゃないですか!!」
 
「あら、だって

 あなたわたしの牧場でお乳を出してくれるって契約したでしょう?

 牧場でお乳を出すと言ったらウシしかいないでしょう。
 
 そんなの、小学生だって判るわ」

と言う大作に

「あたしは人間ですっ、ウシではありません」

強い調子で奈々子が抗議すると、

「うふふふ…それはどうかしら…

 明日の朝、同じセリフが聞ければあなたを人間として扱いますわ」
 
と言い残すと、大作は部屋の前から立ち去っていった。

「そんなぁ…」

奈々子はゆっくりと伸びていく蹄を見ながら呟く、



そして次の日の朝が来た。

カツン!!

カタカタカタ…

「も……も……もぅ」

蹄の音を響かせて体を震えさせながら、

やっとの思いで後ろ足で立ち上がった奈々子の口からは人の言葉は出ず、

代わりにウシの鳴き声を盛んに発していた。

奈々子は必死になって立ち上がったが

しかし、

ゴリッ

彼女の手足に生え始めていた蹄は既に両手足を覆い尽くし、

茶色の髪をかき分けるように頭の両側から小振りのツノが生えていた。

そして、腹部にはスイカのような巨大な乳房と4本の太く長い乳首が下がり、

色白だった肌には一面ビッシリと乳白色の毛が生え揃いっていて、

所々にブチ模様に生えた黒い毛がアクセントになっていた。

その様子を見た大作は、

「ホッホッホッ!!

 奈々子さん、

 あたしが見込んだとおり立派なホルスタインになりましたね」

と窓越しに奈々子に言う。

『いやぁぁ、見ないで!!』

奈々子は長く伸びた尻尾を振りながらそう叫んだものの、

しかし口から出たのは

「うもぉぉぉぉ、もぉぉぉぉぉ!!」

と言うウシの鳴き声だけだった。

ガチャ!!

大作は黒眼鏡にドアを開けさせると、

「ほほほほ…

 何を言っているのか判りませんよ、奈々子さん。

 ちゃんと日本語で喋らなくてはねっ」

とにやけながら奈々子に言うと、

彼女の大きく肥大化した尻を思いっきりけ飛ばした。

ドスン!!

奈々子の身体は大きな音を立てて尻餅をついた。

カツン!

カツン!!

カツン!!!

コンクリの床に蹄の音を立てながら必死になって再び奈々子が立ち上がろうとすると、

グイッ

大作は奈々子の髪を引っ張り上げ、

「さぁいらっしゃいっ

 今日からお前が暮らすところに見せて行ってあげるわ」

と言いながら奈々子を部屋から引っ張り出し始めた。
 
「うもぉぉぉぉ〜っ」(『いやぁぁぁぁぁ!!』)

声を上げながら奈々子が抵抗すると、

ギュッ!!

突然彼女の首に縄が掛けられると、黒メガネがそれを強く引き始めた。

予想以上の強い力で引きずられる奈々子は前足を付こうとしたとき、

「そうそう、一つ注意事項があるのよ」

と大作が声を上げた。

「も?」(『え?』)

「2本脚で歩くのがきつくなったらと言って前足を着いたらダメよ」

「もぉぉぉ?…」(『なんでです?』)

「一度でも前足を着いたら2度と二本脚で立つことが出来なくなるそうよ」

「んもぉぉー」(『そんなぁ』)

「まぁ、あたしとしては奈々子ちゃんが

 4つ脚になっても別に構わないんだけどね…」

「もぉぉぉぉっ」(『いっイヤよ』)

「あはは、いやなの?

 それならせいぜい頑張る事ね」

やがて大作の行く手から光が広がってくると奈々子は表に出た。

「もぅぅぅ?」(『ここは…』)

そこは青々と茂った広い草地だった。

「ほほほほほほ…

 そう、ココはあたしの牧場よ、
 
 奈々子ちゃん、あなたはウシとしてココで暮らすのよ
 
 そして毎日、牛乳を生産するのよ、

 あなたの弟さんが借りたお金を全額返済するまでの間ね」

と大作はウシの姿になってしまった奈々子に言い聞かせるようにして言った。

「もぉぉぉぉぉ」(『そんなぁ…』)

奈々子はぺたんとその場に座り込んでしまった。

「さぁ、ウシの奈々子ちゃん、

 ココの草を食べるのよっ」
 
っと指示をした。

「もぅ…」(『草?』)

「そうよ、あなたは草食獣…なのよ

 もぅ人間が食べるものは食べられない身体になっているのだから」
 
とにやけながら奈々子に言った。

「もぉぉぉぉう」(『そんなぁ』)

奈々子が声をあげると、

「さぁ!!、お食べなさいっ

 這い蹲って草を食べるのよ!!」
 
とグイグイと大作は奈々子の頭を地面に近づけていった。

そしてついに奈々子が悲鳴を上げると、

彼女の口がうっすらと開き、

長い舌が草を絡み止めるように引きちぎると口へと運ぶ、

クチャクチャ!!

奈々子は草を丁寧にかみ砕くと胃へと送る。

「おほほほ…

これでもぅあなたは肉やご飯は食べられない身体になったわ、

「ウプッ!!」

反芻で口に戻ってきた草を奈々子は再び噛む。

『もぅ…ご飯は食べられない…』

その言葉を聞いた奈々子の目から涙が溢れてきた。

奈々子の食事が終わったころえ

「さ・て・と…

 ねぇ…奈々子ちゃん、お乳張ってない?」
 
奈々子の様子を見ながら大作はそう尋ねてきた。

「も?」(『え?』)

ぎょっとして奈々子が大作を見上げると、

「ウシはねぇ…ちゃんと定期的にお乳を絞らないと

 乳線炎と言う病気になってしまうのよ…」
 
(『まっまさか』)

「はいっ、彼女を部屋に戻してあげて…」

大作がそう言うと、奈々子は再び部屋へと連れ戻された。

「も…」(『これは』)

戻ってきた奈々子を待っていたのは、

しっかりと藁が敷き詰められた部屋の様子と金属製の機材だった。

「うふふふ…

 これはねぇ…搾乳機と言ってお乳を絞るための機械よ、
 
 さぁ、奈々子ちゃんのお乳の初出荷よっ」
 
大作がそう言うと、

ガチャッ

黒メガネは搾乳機を持つと奈々子に迫る。

「もぉぉぉ」(『いやぁぁぁ!!』)

奈々子は部屋の隅で蹲ったが、

グイッ!!

黒メガネは彼女のツノを握ると強引に部屋の真ん中へと引っ張り出した。

「ぐもぉぉぉぉ」

部屋の中に奈々子の鳴き声がこだまする。

すると手際よく黒メガネは搾乳機を奈々子の乳首に吸い付けた。

ヒヤリ…

搾乳機の異様な冷たさを感じると奈々子の身体は強ばった。

「うふふ…」

大作は小さく笑うと

カチッ!!

搾乳機のスイッチを入れた。

キュゥゥゥン!!

搾乳機は軽い音を立てると、

シュゴッ!

シュゴッ!!

シュゴッ!!!

っと奈々子の乳房から乳を絞り始めた。

「ぐもぉぉぉぉぉぉぉ!!!」(『ぎゃぁぁぁぁ!!』)

奈々子は頭を激しく振りながら絶叫を上げる。

「おーほほほほほっ、

 どう奈々子ちゃん?

 搾乳機のお味は…
 
 癖になっちゃうでしょう?」
 
大作は悲鳴をあげ悶える奈々子にそう言い放った。

シュゴッ!

シュゴッ!!

シュゴッ!!!

搾乳機は冷酷に奈々子の乳房から乳を搾り取ると、

管で繋がったタンクへと送り込む。

『いっ痛いっ!!、

 痛いよぉ!!

 やっやめて、
 
 お願い!!』

奈々子は声を上げて懇願したが、

「ぐもぉぉぉぉぉ」

「ぐもぉぉぉぉ…」

彼女の口からはウシの叫び声しかでなかった。

「今日はもぅ良いかしら…」

時計を眺めた大作が黒メガネに言うと、

キュゥゥゥゥン

奈々子の乳房から乳を絞り尽くした搾乳機はようやく活動を停止した。

「じゃぁね、奈々子ちゃん、

 また明日絞れるように
 
 ちゃんとお乳を貯めていてね」

そう言って大作たちが部屋を去ると、

「………」

搾乳機を外された奈々子はまさに放心状態で、

その目はうつろに天井を見つめていた。



それから半年の時間が流れた…

ハグハグハグ…

奈々子は一人黙々と牧場の放牧地で前足を器用に使って

草をむしり取りながら食べていると、

「あら、お食事中?」

いつの間にか大作が彼女の後ろに立っていた。

「もっもぉぉぉぉ…もぉぉぉぉ」(『かっ葛飾さん、なんのようですか』)

振り向きながら奈々子が鳴くと、

グイッ

大作は屈み込むと右手で奈々子の額を掴みながら

「いや、なに、ちょっとココに寄ったついでに
 
 あなたの状態を聞みたんだけど、

 あなた、最近、お乳の出が悪いそうね」
 
と言うと、

「………」

奈々子は口を動かしながら視線を逸らした。

「これを放置すれば、あなたの返済が滞ってしまうので

 手を打つことにしましたよ」

と大作は奈々子に言うと、
 
奈々子は彼の台詞を聞いて不安そうに大作を見つめる、

ニヤッ

大作の口元が微かに緩むと、

「なぁに、種付けをしてみようと思いましてね」

と奈々子に囁いた。

「もっ?」(『種付け?』)

「そう、あなたが子牛を孕めば少しは乳の出も良くなるでしょう」

立ち上がった大作は腕を後ろで組みながら

遠くを見つめる様にして奈々子にそう言うと、

「ぶもぉぉぉぉぉぉ!!」(『そっそれだけは許してください!!』)

奈々子は大作に頭を下げて懇願した。

しかし、

「奈々子さん、

 貴女には一刻も早く貸した金を返して頂かなくてはなりません、

 貴女が子牛を生んで乳の出も良くなれば一石二鳥、
 
 子牛と牛乳で一気に借金は返済できますわ」
 
そう言う大作の後ろには既に牧場の係員達が待機していた。
 


「もぉぉぉぉ!!」(『いっやぁぁぁぁぁ!!』)

奈々子の悲鳴が一見平和な牧場に響いた。

ギュッ!!

牧場の係員達によって素早く奈々子の身体が器具に固定されると、

「もぉぉぉぉ、もぉぉぉぉ」(『いやぁぁぁ、許してぇぇぇぇ』)

奈々子は泣き叫びながら乞うたが、

トスン

トスン

と言う音を響かせながら係員に引かれた大きな雄牛が奈々子の背後に迫ってきた。

「もっ」(『ひぃ』)

そっと振り返るとまるで小山のような

雄牛のシルエットが奈々子を飲み込もうとしていた。

彼女の表情が恐怖に引きつると、

「紹介するわ、全国の畜産コンテストで優勝した雄牛よ

 良い子牛を授かって貰うのね」
 
と大作は雄牛の経歴を奈々子に説明する。

「じゃぁ、よろしいんですね」

係員が大作に念を押した。

「あぁ、よろしく頼わ」

大作のそこ言葉が終わるや否や、

グググググ…

固定された奈々子の腰がユックリと上昇し始めた。

「もぉぉぉぉぉぉ!!!」

奈々子は頭を振りながら泣き叫ぶ、

「ハイッ」

ビシッ!!

雄牛の尻に鞭が入れられると、

スン!!

雄牛は奈々子の陰部の臭いを嗅いだとたん、

ズムッ

彼女を固定している器具に跨るようにして覆い被さった。

ギシギシギシ!!

器具の骨材が悲鳴を上げる。

と同時に奈々子の陰部に巨大な丸太が入り込んできた。

「ぶもぉぉぉぉぉぉ!!」(『ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!』)

股間から引き裂かれる様な激痛に奈々子は絶叫する。

グモっ!

グモっ!!

雄牛は自分の一物が奈々子の体内に挿入すると

鼻息を荒げながら腰を動かし始めた。

「ぐもぉぉぉぉ、

 ぐもぉぉぉぉっ」

いまにも死にそうな声を上げながら奈々子は叫ぶ。
 
しかし、彼女の生殖器が引き裂けることはなかった。

そう、既に奈々子の生殖器もウシと同じ構造に変化していたからである。

「ぐほぁ

 ぐほっ」
 
奈々子は口からあぶくを垂らしがら声を上げていると、

グモォォォォォ

雄牛は雄叫びを上げて彼女の体内に精液を流し込んだ。

グブグブグブ…

あふれ出した精液が彼女の生殖器から流れ出すのを見た大作は

「あらぁ、勿体ない…

 この種付けにいくらかかっていると思っているのよっ」

と呟いく。

ゴフッ!!

雄牛がゆっくりと奈々子の上からどくと、

その下から奈々子が白目をむいたままの状態で悶絶していた。



「うん…順調のようですね」

回診に訪れた獣医は陰部に突っ込んだ手で胎児の状態を確認するとそう答える。

「そうでなくては困るわ」

大作はそう答えると、

パンパン

っと目の前のウシの尻を叩いた。

「んもぉぉぉぉぉ!!」

奈々子だったウシは大きく声を上げる。

「おほほほほ…

 注意したのにすっかり4つ脚で歩くようになっちゃって、

 もぅ奈々子ちゃんは心の中までウシになっちゃったのかな?」

奈々子を眺めながら大作はそう言うと、獣医と共々表に出ていった。

『……そう…順調…なのね、あたしの赤ちゃん…』

大作達の後ろ姿を眺めながら奈々子は心の中でそう呟いていた。

「それにしても、実のお姉さんをウシにしてしまうなんて酷い弟さんね」

大作は牛舎の表で立っていた隆史に話しかけると、

「あはは…なかなかの上玉でしょう?

 これなら幾らくらいになります?」

隆史は大作にそう訊ねると、

「そうねぇ…まぁこんなものかしら」

大作は数字を紙に書くと隆史に手渡す。

「ふむっ」

それを見て大きく頷いた隆史は

「じゃぁコレでお願いします」

と言うと黒メガネがら札束がつまった袋を受け取る。

そして

「じゃぁな、姉さん…元気で、この金は俺の結婚資金にするからな」

隆史は紙袋を畜舎内の奈々子に見せるようにして掲げるとそのまま牧場を後にした。



そしてそれから数ヶ月後…

「あら生まれたのね」

「はいっ、雌だそうです」

大作は生まれたばかりの子牛の身体を舐めている奈々子を見ながらそう言うと、

すかさず黒眼鏡は子牛の性別を告げた。

「そうなの、

 良かったわ、子牛が雌で…

 牡牛だったらすぐ殺して肉にするところだからね」

大作は奈々子が産んだ子牛に視線を移しながら言うと、

「意外ですね…社長からそんな言葉が出るなんて…」

驚いた表情で黒メガネが言う。

「あら、

 私はただこの子牛を殺してしまったら、

 悲しみのあまり奈々子さんが乳を出さなくなるかもしれないと思って心配しただけよ、

 さぁ外はいい天気だし、この親子を表に出してあげなさい」

大作は黒眼鏡にそう指示すると牛舎から出ていった。



カラン…

放牧地に放された奈々子はカウベルを鳴らしながら歩いていくと

やがて立ち止まり、そして牧草をはみ始めた。

「もぉぉぉ」

そんな彼女の後ろから子牛が小さく鳴きながら近づき、

そして、大きく膨れた乳房に口をつけると、

乳首の先から吹き出すように出す乳を飲み始める。

「んもぉぉぉぉぉぉぉ!!」

広大な牧場に母牛の鳴き声が響き渡っていった。



エピローグ…

「社長、お電話です。」

大作に掛かってきた電話を取った黒メガネはそう告げると、

受話器を大作に手渡した。

「あら誰かしら…

 まぁ…月夜野さん、お久しぶりです」

電話口の相手と会話した途端、

大作の表情はパッと明るくとなると、

「あなたから頂いた薬の効果、相変わらず絶大ですわよ、

 そうそう、この間はなした例のウシ…

 今日めでたく出産しましたわ。

 …もちろん、ちゃんとしたウシの子ですよ。

 …いやぁ、そんなことなくて

 …まぁね、最初の頃は信じられなかったけど
 
 でも、あなたの研究に出資をホント良かったわ…

 …あっそうそう、

 この薬って男性も雌ウシにすることが出来るんですよね。

 …えぇ…ちょっとね…

 …じゃぁ、今度ゆっくりとお茶でもしましょうね」

大作はそう話を終えると電話を切った。

そして、

「さとみちゃんに連絡して、

 例の計画…スグに実行ってね」

受話器を置きながら大作は黒メガネに指示をすると、

「さぁて、またウシが一頭増えるわね…

 隆史クン…お姉さんが待っているわよ」

と呟きながら西日が傾く窓を眺めた。



おわり