風祭文庫・異形変身の館






「魔法少女 だいた☆マクラ」
(第7話:本当の気持ちとムキあえますか)


作・徒然地蔵(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-372





事務所のカーペットの上で寝転がっているマクラ。

そのマクラを麻衣は醒めた顔で静かに見つめていた。

「かなり魘されてるわね。

 初めて出動する子は皆大抵こうだけど。

 あ、もう目が覚める…」

マクラはゆっくりと目を開いた。

「お帰りなさい、マクラ。」

「…ひっ!」

マクラは顔を引きつらせ、

体を起こして後の壁まで後ずさった。

「化物を見るような顔ね。

 そんなに怖がらなくてもいいわ。

 私はあなたに危害を加えるつもりはないから。」

「こっ…怖がってるんじゃないわ!嫌悪してるのよっ!

 あなたもQも、どうしてこんな酷いことができるの!?

 人間を変身させて二次元に拉致するなんて!

 こんなこと、絶対おかしいよ!」

「酷い?おかしい?

 私たちは世界の維持のためにこの仕事をしているのよ。」

「世界の維持のためですって?」

「そう。

 魂の吸収はこの世界にとって呼吸みたいなものなの。

 それが止まれば世界は枯れてしまう。

 だから私たちはこの世界のために魂を取り込んでいる。」

「馬鹿げてるっ!」

「でもあなたも既にここの住人なのよ。

 あなたにとってもこのことは他人事じゃないわ。

 それからさっきあなたは拉致と言ったけど、

 二次元への人間の誘導については

 Qも私も本人か第三者の同意を得ているの。

 誘導は人間の了承の上でのこと。」

「了承ですって?

 あなたがどんな方法を使うのか知らないけど、

 Qは形式的な同意を相手に言わせてるだけじゃないっ!

 そうよ、全部嘘!

 私が受けた魔法少女の仕事の説明もみんな嘘だったわ!」

「嘘?」

「ええ!嘘よ!

 Qは言ったわ。

 魔法少女の仕事は人々に夢と希望を与えることだって!

 モンスターと戦うことだって!

 だから少しだけ前向きになれた。

 だから魔法少女としての自分を受け入れる気にもなれた。

 この事務所へ足を向けることもできたの。

 なのにやらされたことといったら、

 抱き枕の罠になって、人間を二次元に取り込むことだった…!」

「あなたは言葉通り人に夢と希望を与えた。

 二次元へ行けるという夢と希望を。

 Qを庇う気はないけれど、

 嘘を言われたとは言い切れない。」

「そんなの詭弁じゃないっ!騙されたとしか思えないわよっ!」

「あなたの元の世界でもよくあることでしょ?

 ミスリード紛いのことなんて。

 割引と聞いていたのが2年契約が前提だった。

 接客の仕事と聞いていたのがキャバ嬢だった。

 営業や勧誘の売り文句、小さな文字の但し書き。

 言葉の綾。

 そこらへんの機微、分かるでしょ?

 あなたは大人だったんだから。」

「何よそれっ!」

「それに私はQのやり方はまだ良心的だと思っている。

 紛いなりにも本人に同意を得るもの。

 私の場合、本人の同意は取らず、誰かがその人を

 二次元に送りたいという恨みを利用して…」

「もういいっ!もういいわっ!

 とにかく私はもう絶対に魔法少女なんかやらないからっ!」

「一つ大事なことを言っておく。

 この世界ではキャラの役割を果たさない者は

 その姿を奪われる。

 だから魔法少女の仕事をしなければ、

 あなたはその姿を維持できなくなる。」

「…!」

「役を降りれば穴二つ。

 キャラのポジションに穴が空き、

 そして役を降りた者は自身の墓穴を掘ることになる。」

「今度は脅し?」

「キャラの放棄は存在の放棄に繋がる。

 事実を言っているだけよ。 

 とにかくあなたは魔法少女マクラとして活動を続けるの。

 仕事としての割り切り、分かるでしょ?

 あなたは大人だったんだから。」

「本当によく分かったわ!

 あなた達がろくでもない連中だってことが!」

マクラは立ち上がると玄関の方へ歩き出した。

「どこへ行くの?

 魔法少女の役割を放棄したら、

 あなたはあなたでなくなるのよ?それでもいいの?」

「こんな仕事を続けるくらいなら、

 そっちの方が全然マシだわ!」

息巻いて廊下を歩くマクラに

別の部屋で蹲る少女の姿が見えた。

(あの子もきっと魔法少女ね。

 どんな気持ちでいるのかしら。

 ううん、ともかく私は魔法少女なんかやらない!)

マクラはいかり肩で歩きながら玄関を出て行った。

「…あの子も1回切りの出動で終わる子かしら。

 定着していた2人が相次いで卒業、

 早く次のレギュラーに出会いたいわ。

 何人もの候補に同じ説明するの、疲れるもの。

 それに、綿の収穫の予定も狂っちゃうし…」

麻衣はフロッピー挿入口のある

ブラウン管一体型パソコンの前に正座した。

「あ、さっき呼び寄せた悪魔、もう活動を始めてる…」

画面を見ながら、

麻衣は慣れた手つきでキーボードを叩き始めた。



夕焼け色に染まり始めた街の中。

事務所を飛び出したマクラは学校方向の道をトボトボと歩いていた。

「はぁ…もう訳分かんない。

 勢いよく事務所を飛び出したのはいいけれど、

 私、これからどうしよう…」

マクラが頼りない歩みを止め、夕日を仰いだ時である。

「あ、枕辺さんじゃない。」

「え?」

見ると水泳部に誘ってくれた女子生徒と、

品の良さそうな感じの女子生徒がマクラの前に立っていた。

二人とも下校途中の様子である。

「枕辺さん、こんなところで何してるの?」

「ちょ、ちょっとお散歩…」

「ふーん。

 ところで枕辺さんは部活、本当にだめ?

 水泳部の見学、もう一度考えて欲しいな。

 勉強とか習い事とかとの両立を心配してるんだったら、

 ここにいる泳子がその成功例だから大丈夫!

 泳子ったら水泳部のエースで、しかもすごい秀才なんだから!

 ねえ、枕辺さん、水泳部にぜひっ!」

マクラは手を握って迫られ気圧されてしまった。

「ちょ、ちょっと波江。枕辺さん戸惑っちゃてる。強引だよ…」

「ごめんごめん。

 そうそう、まだ名前も言ってなかったね。

 わたしは波江って言うの。

 こっちの子は水泳部のエースで泳子。改めてよろしくね。」

「よ、よろしく…」

「もう、波江ったら…

 ごめんね、枕辺さん。波江はちょっと強引なところがあるから…」

「えへへ。そうだ、枕辺さん。

 私、これから泳子の家に

 明日までの宿題のノート借りに行くんだけど、

 少し一緒に歩かない?お散歩中なんでしょ?」

「え!あ、う、うん…」

マクラは波江、泳子と一緒に泳子の家へと歩き始めた。



そして3人が泳子の家に着く頃には、辺りはもうすっかり暗くなっていた。

「あれ?泳子の家、いつもは電気が点いてるのに今日は消えてるね。」

「うん。今日はお父さんもお母さんも帰ってこないの。」

「そうなんだ。あ、枕辺さん、家の大きさに驚いてるの?」

「うん…こんな立派な家だなんて思ってなかったから…」

「泳子の家はお金持ちなんだよ。プールだってあるんだよ。」

「へえ!凄い!」

「な、波江、やめてよお金持ちだなんて。」

「いいじゃん。本当のことなんだから。」

「枕辺さんと波江は玄関で待ってて。

 ノート、部屋に行って取って来るから。」

「えー。つれないなー。少し家に上がらせてよ。」

「え、でももう遅いよ?」

「ヘーキヘーキ。いつものことじゃん。」

「もう、波江ったら…」

「枕辺さんも、少しなら時間あるよね?一緒に上がらせてもらおうよ。」

「は、はぁ…じゃあ、お邪魔します…」

マクラは波江に言われるままに、泳子の部屋に上がり込んだ。

「えっと、これ、じゃなくて…あ、あったあった。

 はい、波江、宿題のノート。」

「ありがとー。いつもいろいろとごめんね。」

「ううん、全然構わないよ。」

「そうだ!お礼にマッサージしてあげる!」

「い、いいよそんな…」

「遠慮しない遠慮しない!」

「わっわあ!」

泳子はベッドに押し倒されうつ伏せにされてしまった。

「よーし。じゃあしっかり揉んであげるね。」

波江は泳子に馬乗りになり、背中をグイグイと揉み始めた。

「な、波江って結構マッサージうまいのね。き、気持ちいい・・・」

「ふふふ。どういたしまして。

 それにしても、この細身のきれいな体のどこから

 あの魚みたいな泳ぎが生まれるんだろう。

 ううん、泳ぎだけじゃない。スポーツ万能。

 その上に秀才でおしとやか、美少女ときてるもんね。泳子は。」

「そんなことないよ。褒めすぎだよ。」

「褒めすぎてなんかないよ。実際、そうなんだし。

 そんな泳子を見てたら私…」

そう言って波江が次の言葉を言おうとしたとき、

一瞬、波江の全身に黒い影が射した。

「…そんな泳子を見てたらさ、私、自分が惨めになる。

 私には人より秀でたものなんて何もないもの。

 持って生まれたものが全然違うんだよね。あーあ。」

「そんなことないよ。波江にもいいところ一杯ある。」

 波江は笑顔が素敵。

 私、波江の笑顔にいつも元気をもらってるんだよ。」

「私のいいところが笑顔?

 ふふふ。優等生らしいフォロー。空々しいフォロー。

 すっごくむかつく。

 冗談じゃなくね、私、泳子のそういう行儀のいい感じ、

 前から鼻についてたの。

 あーやだやだ。吐き気がする。」

「な、波江…」

マッサージされながら泳子は戸惑った。

「泳子は上流階級のお嬢様。サラブレッドだもんね。

 心の奥底では、自分は上の階級の人間、

 私なんかは下賎の人間だって思ってるんでしょ。

 そうよね。うちは貧乏だし。

 泳子は、受験の日に体調さえ崩したりしてなければ、

 いいとこ受かって私と一緒の学校になんかいないもんね。」

「ひ、酷いよ。どうしてそんなこと言うの?」

「私ね、泳子のこと好きだよ。

 でもね、何でもできて、何でも持ってる泳子を妬んでもいた。

 世の中って何かと不公平。

 生まれる段階からスタートラインが大きく違ってる。

 才能。それを伸ばせる環境。

 あーあ。腹立たしいったらありゃしない。」

「そ、そんな哀しいこと言わないで…」

「その、いかにもお上品な心の持ち主ですって感じもイライラしてたんだよね。

 そうだ、そんなお上品面、二度とできなくしてやる!」

ムギュッ!!

波江はうつ伏せの泳子に馬乗りになったまま、

両脇から手を入れて泳子の小さな胸をグイグイと揉み始めた。

「どう?おっぱいマッサージ。

 泳子の胸を元気にしてあげるマッサージ。」

 気持ちいいでしょ?」

「やっやあ!なんか胸が熱い…!」

「ふふふ…胸が元気になってる証拠よ。」

波江がにんまりと笑いながら胸を揉み続けると、

泳子の胸に変化が起こり始めた。

ムリ、ムリムリムリムリ…

「ひっ!」

胸が蠢きそして膨張し始めたのである。

「なっ波江!私の体に何してるのっ!」

「何って、揉んでるだけよ。

 ほら、揉んだら大きくなるって言うじゃない。本当だったね。」

「やっやめて!」

ビリ!ビリビリビリ!

ブラウスとブラジャーが胸の膨張に耐え切れなくなって破れ、

ベッドの上に巨大化した乳房が現れた。

しかしそれはただの乳房ではなかった。

赤黒くてブヨブヨした分厚い皮膚。

その表面には鳥肌のようなブツブツ。

それは乳房と呼ぶにはあまりにもグロテスクな球体だった。

「いっいやああああ!何これぇええええ!!」

「何って、決まってるじゃない。あなたの胸よ。

 ブヨブヨの皮膚のおっき過ぎるオッパイ。

 胸一つでバスケットボール1つ分はあるかな?

 あはは。そんな下品な胸じゃ、もうお嬢様面できないね。

 ほら、泳子、せっかくだから枕辺さんにも見せてあげなよ。

 ね、枕辺さん、見てあげて。」

波江は泳子の体を起こして

無理やり女の子座りにさせてマクラの方を向かせた。

「あわわわわ…」

マクラはあまりの出来事に腰を抜かしてしまった。

「たっ!助けてぇぇぇぇぇぇぇ!」

突然泳子が恐怖のあまり助けを求めて大声で叫んだ。

「煩いわよ、泳子。

 お友達の私がせっかく胸をプレゼントしてあげたのに、

 そんな反応するなんて寂しい限りだわ。」

「こんな胸いやぁぁぁぁぁ!!」

「あらあら、残念。気に入ってもらえなかったみたいね。」

 じゃあ、小さな胸に戻してあげるわ。」

波江は今度は泳子の腹を揉みだした。

「熱い!さっきみたいにお腹が熱い!」

「胸を小さくするためよ。心配しなくていいわ。

 ほら、いい感じになってきた。」

ブニ、ブニブニブニ…

「泳子のお腹の皮膚、胸と同じように弛んできたわよ。

 肌も赤黒くくすんで鳥のようなブツブツの肌になってきたわ。」

「波江!」

「いいのよ、これで。じゃあやるわよ。せーの、ほい!」

ボンッ!!

波江は両拳を組んで振り上げ泳子の右胸に振り下ろした。

「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

泳子の全身に重たい痛みが駆け巡った。

「ふふふ。これが俗に言う、男にしか分からない痛みってやつ。

 でも見てみなさい。あなたの右胸、少し下に移動したでしょ?

 このまま何回か叩けば、胸…っていうか玉なんだけど、

 それが腰まで移動して、あなたの胸は元のペッタンコになるわ。

 玉を移動させるためにお腹の皮膚をブヨブヨにしたの。」

「そんなの元に戻ったことにならない!」

「我侭言わないの。ほら、続けるわよ。」

「いやぁああ!痛いのいやぁあああ!」

「駄々をこねないの。見っともない。

 あーあ、倒れ込んだら駄目でしょ?

 仕方がないわね。ほら、私が引き起こしてあげるから。

 じゃあ、続けるわよ。せーの、ほい!」

ボンッ!ボンッ!ボンッ!ボンッ!

「い!いぎゃあああああ!!

 やめてぇぇえええ!痛いっ!痛いぃぃぃぃぃぃぃ!!

 いっ!いぐがぁぁあああああ!!!」

泳子は内臓が押しつぶされるような痛みに悶絶し、

額には脂汗を滲ませていた。

「ほら、玉が腰まで降りたわよ。

 これで右胸は元のペッタンコの胸。

 皮膚は鳥みたいなブツブツの皮膚のままだけど、

 まあそれはそういうものだから。

 さ、次は左の胸も同じようにしないとね。」

「や、やめ、やめへ…」

泳子は白目を剥いて口から泡を吹いていた。

「胸を小さくして欲しいって言ったのは泳子だよ。

 そーれ、ほい!」

ボンッ!

「ぐぎゃあああああああ!!!」

ボンッ!ボンッ!ボンッ!ボンッ!ボンッ!

「ぎぎゃああああああああ!!!」

「ほら、これで左の玉も右の玉と同じように

 足の付け根まで落ちたわよ。」

「う、うぐぐぐぐ、ぐぇぇぇぇ…はぁ、はぁ、ううううううう…」

「辛そうね、泳子。

 そうだ、着ている物を緩めたら少しは楽になるかしら。

 全部、このハサミで切っちゃおうね。」

ジョキジョキジョキジョキジョキ…

泳子の着ていたものがベッドに落ちていく。

「どう?楽になった?

 ブラウスにブラジャー、スカートにショーツ。

 全部ただの布切れになっちゃった。

 でもこれも全部、泳子のためなんだからね。

 ついでにこの暑苦しそうな髪も取っ払っちゃおうね。」

「うううう…や、やめへ…」

「だーめ。

 綺麗に嘗め取ってあげるんだから。

 額の生え際からいこうかしらね。」

ベロ、ズスススススス

波江が泳子の頭皮を舐めると、

髪は舌に刈り取られて口に納まり毛根も不思議と消えてしまった。

波江は口から垂れた髪を器用に吸い込み満足気な表情である。

「ふふふ。まるで長い長いお素麺を食べてるみたい。

 どうして髪なんかが口の奥に吸い込まれるのか不思議だけど、

 これ、すっごく美味しいわ。」

ベロ、ズスススス

「や、やめてぇ…わ、私の髪、た、食べないでぇ…」

「泳子、悪いけど、美味しすぎて止まらないの。

 どんどん食べさせてもらうわよ。」

ベロ、ズスススススス

ベロ、ズススススススス

ベロ、ズスススススススス…

泳子の髪は波江に食べられてあっと言う間になくなった。

「あら、もうなくなっちゃった。

 もっと食べたかったのに。」

「ひ、酷い。酷いよ波江!

 こんな丸坊主いやぁ!

 こんな赤黒いお腹もこの腰の大きな袋もいやぁ!

 どうしてこんな酷いことするの!?

 その悪魔みたいな力は一体なんなの!?」

「どうしてこんな力が使えるのかって?

 自分でも分かんない。でもなんか、分かるんだよね、使い方。

 力になんとなく気付いたのも今日の午後。

 それはいいとして、酷い、ですって?」

波江は泳子の頭を掴んだ。

「人に妬まれるほど、何でもできて、何でも持ってるあんたが悪いのよ!」

パシッ!!

波江は泳子の顔を平手打ちにした。

すると泳子はキッと波江を睨んで口を開いた。

「そ、そうよ!

 私は自分で言うのもなんだけど何だってできる!

 テストの点もいいし、スポーツだってできるわ!

 才能を持って生まれて、それを伸ばせる環境にも恵まれて、

 とってもラッキーだったって思ってる!

 お金の心配もしたことない!

 でもそれは悪いことなの!?

 私はだからって、

 恵まれなかった人を馬鹿にしたりしたことなんて一度もない!

 全部勝手な波江の妬みじゃないの!

 不遇な中にある人は沢山いるわ!

 そんな人達から見たら波江だって妬まれる対象じゃないの!!」

「ふふふ。ほーら、本音が出た。

 泳子は結局、自分以外を恵まれなかった人って思ってるのよ。

 そして、人は皆自分より下の人を見て、

 自分は上だと満足して生きればいいって思ってるの。そうよね?」

「そ、そんな…!

 酷い。酷いよ。波江、そんな言い方酷すぎる!

 今日の波江、絶対におかしい!

 まるで悪魔にでも取り憑かれたみたい!」

「あーあ。煩いお口もマッサージで矯正しないとね。」

「や、やめっ!あぐっ!あぐぐぐぐ…」

 波江は泳子の顎を左手で掴むと右手を口の中に入れて

 歯茎を揉み始めた。

「あがががががが…ぐ、ぐるじ…」

「そーら、歯茎が柔らかくなってきた。歯を支えられない程にね。」

「いやぁああ!」

そう言って波江は泳子の上顎の前歯を摘み前後に揺すった。

しっかりと根を張っていた前歯だったが、

指の動きに合わせて揺れを増しあっという間にグラグラになった。

「さーて、栄えある1本目!」

波江は歯を掴んだ右手に力を込めた。

「や!やめてぇ!」

ブツリ…

「ああああ!」

「あーあ。泳子の笑った時の前歯、すっごく可愛かったのにね。

 ほら、コレ、泳子の上の前歯よ。1本抜いちゃった。

 すっごいマヌケな顔。次はどれがいいかなぁ」

「いやぁ…いやぁああ!!」

グリグリグリグリ、ブツリ

グリグリグリグリ、ブツリ…

泳子の歯がまるで葡萄の実でも摘み取るように抜き取られていく。

「やめてぇ!抜かないでぇぇぇ!!」

「悲しい?そうだよね。

 泳子、学校でもちゃんと歯を磨いて、

 歯はずっと使うものだからとか言って大事にしてたものね。

 でもそんな優等生の泳子さんに、私ムカムカしてたの。

 やめて欲しい?」

泳子は小さく頭を前後に振った。

「だーめ。はい、8本目!」

ブツリ

「いやぁあああ!」

また1本。そしてまた1本。

鈍い音とともに真っ白な歯が口から消えていく。

泳子はその度に喪失の悲しみに顔を歪め涙を零した。

「はい、下顎左一番奥の第二臼歯。これで最後だからね。」

「ひっひひゃあああ!!」

ブツリ…

波江は最後の1本を抜き取ると、その歯をポイと後ろへ投げ捨てた。

「あははは。泳子、口元クシャクシャ。

 ほら、喋ってみなよ。」

「は、はひ、はひへ…」

「あはは。いい様。

 歯茎もブヨブヨだもんね。もう生意気言えないね。

 口がブヨブヨなのに合わせて頭もブヨブヨにしてあげる。」

波江は泳子の両即頭部に手を当てた。

グリグリグリグリ

パキパキパキパキパキ

グニ、グニ、グニ、グニ…

「泳子、分かる?

 泳子の賢い頭を包んでる頭蓋骨、

 粉々に割れて溶けていってるんだよ。

 そしてね、海綿体っていう組織ができてるの。

 さ、お顔もね。」

「ひ、ひやあああああ…!!」

グリグリグリグリ

パキパキパキパキ

グニ、グニ、グニ、グニ…

泳子の頭は波江の手によって本来あるべき硬さを失い、

ブヨブヨの柔らかいボールのようになり大きく浮腫んでしまった。

首周りも太さを増すとともに皮膚が増殖して、

茶色いブヨブヨの皮のマフラーを巻いたようである。

波江が泳子のその頭を掴んでグイと上を向かせると、

泳子の首はそのまま固定されてしまった。

「あはは!今の泳子の格好、最高!

 狸の置物みたいなおっきなタマタマの袋を前に放り出して、

 金魚みたいな頭をマヌケに上に向けて、

 ベッドの上で裸で女の子座りしてるんだよ。

 赤黒くくすんだブヨブヨでブツブツの肌の胸とお腹を晒してね。

 そのオチンチンの姿、泳子にはお似合いよ!」

「ひ、ひやぁぁぁ…は、はふけへ…」

泳子はもうただただ泣くばかりだった。

「あらあら。涙をボロボロ流しちゃって。

 そう言えば泳子はさ、

 いっつもエッチな話しになったら黙り込んじゃってたよね。

 そんな下品な話しには付き合えないっていうような空気を出して。

 そういうとこも腹立ってたの。

 自分はコウノトリが運んできたとでも思ってるの?

 お父さんのタマタマの中にいたんでしょ?

 その姿で思い知ったらいいんだわ。」

「ほ、ほねがひ。もほにもろひへ…」

「元に戻して?だめに決まってるじゃない。

 泳子はこれからオチンチンになる儀式をするの。

 あ、もし儀式が10分間で終わらなかったら、

 元に戻してあげてもいいよ。

 ふふふ。耐えられるかしら。じゃ、さっそく始めるわね。」

そう言うと波江はサッと服を脱いで

泳子の上を向いた頭を抱きかかえて刺激し始めた。

「ふふふ。

 どう?気持ちいいでしょう?

 私のオッパイとお腹が泳子の頭を撫でてるの。

 頭と首周りも手で撫で撫でしてあげるね。」

「ひゃぁ…ああああ…」

「ふふふ。これがオチンチンの気持ちよくなる感覚。

 儀式って言うのはね、泳子が射精することなの。

 だから元に戻りたいんなら、逝っちゃだめよ。

 逝ったらオチンチン確定だからね。」

「…ひ、ひひゃ、ひひゃあああ!ほわひ。ほ、ほわひ!」

「怖い?ふふふ。

 なら必死に頑張って我慢しなさいね。」

グリグリ、グリグリ…

波江は永子の頭に執拗に体を擦り付けた。

「は、はめぇ!はめぇぇぇぇ!」

「ほらほら。我慢しないとオチンチンになっちゃうよ。

 喉から何か上がってくる感覚がしたら気をつけないとだめだよ。

 あら?言ってる側から。」

「うっ…うご…ごごご…」

ゴボ、ゴボゴボゴボ…

泳子の歯のない口から透明でネバネバした液が沸き上がり、

クシャクシャの口の横からダラダラと垂れ流しになった。

「ふふふ。

 泳子、よかったね。この液だったらまだセーフ。

 とは言っても、この液が出るのはかなり危険な状態なんだけどね。

 さ、耐えられるかしら?」

その言葉に泳子は恐怖に満ちた表情で頭を小刻みに震わせた。

「泳子、私はね、テストしてあげてるの。

 泳子がオチンチンなんかになるべきじゃない女の子かどうか。

 もし10分間耐えてテストに合格したら、

 妬みを持った私が悪かったって認めてあげる。

 そして元の体に戻してあげる。私、いい性格してるでしょ?

 でもテストの手は抜かないから。

 何でもできてテストにも強い泳子さんっ!」

波江は泳子の口から吐き出された液を自分の胸から腹に塗りつけると、

もう一度泳子の頭にしがみ付いて体をくねらせた。

ヌルリ、ヌルリ、ヌルリ、ヌルリ、ヌルリ…

「ふぐううううううう!うううううううううう!!」

「どう?気持ちいいでしょ?

 ヌルヌルのオッパイで敏感になった喉を刺激されるのは。

 もう我慢できないんじゃないの?」

ヌルリ、ヌルリ、ヌルリ、ヌルリ、ヌルリ…

「おが!あががががががが!」

「耐えるのに必死みたいね。

 泳子ったら顔を真っ赤にして。白目剥いちゃって。

 本当に辛そう。いいえ、気持ちよさそうかしら?」

「ふぐ!おぐ!はう!ううううううううううううう!!」

泳子は体を小刻みに痙攣させている。

「あらあら。もう限界なの?

 その涙塗れの顔、とってもとっても可愛いけど、

 もう耐えるのは諦めて楽になったら?。」

ヌルリヌルリヌルリヌルリ

波江は体を擦り付けるスピードを上げた。

「あが!あがががががががががががが!!」

「ふふふ。もう無理でしょ?

 さ、オチンチンとしてイくのよ。

 生き恥を晒すの。お上品な泳子ちゃんっ!」

ヌルリヌルリヌルリ!

「あがっ!あががが!あごがぁぁぁぁあああああ!!!」

泳子が目を大きく見開き体をワナワナと震わせた瞬間である。

ドビュッ!

ドビュッ!ドビュッ!ドビュッ!ドビュッ!

口から大量の白い粘液が勢いよく吹き上がった。

そのネバネバの液体は天井を汚し、泳子の顔を汚し、

ベッドの上に滴った。

「あはははは。

 テスト不合格。残念だったね。

 やっぱり泳子にはオチンチンの姿がお似合いみたい。」

泳子はふやけた顔に恍惚を浮かべて放心状態になっている。

「あーあ。だらしない顔しちゃって。

 ところで泳子は剥けたままかな?

 あ、仮性みたいね…」

ググ、ググググ…

上を向いたままの泳子の頭が後退し始め、

その頭をブヨブヨの皮膚のマフラーが呑み込み始めた。

「ひ、ひやあ!ひやああああ!!こわひ!こわひぃぃぃぃぃぃ!!」

「仮性だとね、お顔が全部そのブヨブヨマフラーに包まれちゃうの。

 もう顎があった辺りまで、すっぽり包まれちゃってるね。」

「ひやあああ!」

泳子は両手で皮を下へ引っ張り戻そうとするが、

マフラーはジワジワと顔目掛けてせり上がってくる。

「はふけへ!はふけへぇぇぇぇぇぇ!」

「助けて欲しいの?

 じゃあ、私はクズ女ですって言ってみて?」

「わ、わはひわくふほんはへふぅ!」

「あははは。

 ちゃんと言えてないし、言おうとした泳子にも幻滅。

 泳子はもっとプライドのある女の子だと思ってたのに。

 土壇場でプライド捨てちゃうなんて、言葉のとおりクズ女だわ。

 やっぱりオチンチンがお似合いよ。」

「ひ、ひやぁぁあああ!!」

ムニ、ムニムニムニ、グボ…

泳子の声をかき消すように

首元から捲れ上がってきた厚い皮膚が泳子の顔を完全に包み込んだ。

泳子はしばらくもがいていたがそれも長くは続かず、

両腕をダラリと垂らして動かなくなってしまった。

「あははは!いい格好!

 仮性包茎オチンチンの泳子ちゃん!

 あはははは!あはははは!」

波江は泳子だったものを見ながらお腹を抱えて笑い続けた。

マクラは部屋の隅でその光景を見ながら、

ただただ怯えて震えているのだった。



つづく