風祭文庫・異形変身の館






「魔法少女 だいた☆マクラ」
(第5話:交際なんて、あるわけない)


作・徒然地蔵(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-366





初登校日の授業時間が終わりマクラが下足箱の前にいると、

同じクラスの女子の一人が声を掛けて来た。

「今日は転校早々ハプニングで大変だったね。

 でも全然気にすることないよ。」

「うん、ありがとう。」

「ところで、枕辺さんは部活とかしてたの?」

「えっと、高校までは水泳部に…」

「高校まで?」

「じゃなかった、小学校の頃に。」

「うふふ。枕辺さんて面白いのね。

 でも奇遇だわ。私水泳部に入ってるの。

 これから練習なんだけど見学して行かない?」

「部活かぁ…」

マクラが少し乗り気に考えていると携帯が振動した。

「あ、ちょっと待ってね。」

物陰に隠れて電話に出ると、例の声が聞こえて来た。

「もしもし?マクラかい?

 部活とかの勧誘があっても断るんだよ。じゃあね。」

ツーッ、ツーッ、ツーッ…

「…も、もうっ!」

一方的な電話の後、マクラは元の場所へ戻った。

「ごめん、待たせちゃって。

 さっきの話だけど、私、部活は無理なの。」

「そっか。それは残念。

 でもいつでも歓迎するからね。」

「うん。ありがとう。」

部活へ急ぐ彼女の背中を見送って一人校門を出ると、

見計らった様に再び携帯が振動し始めた。

「部活の勧誘には引っ掛からなかったかい?」

「…ええ。部活は断ったわ。」

「君には魔法少女の仕事が待っている。

 普通の中学生の生活という訳には行かないんだ。」

「…分かった。

 ところで今更だけど、あなたは一体何者なの?」

「僕かい?僕はね、

 二次元に希望を見出す人間に扉を開く案内人さ。

 アフターフォロー込みでね。」

「わっ私はっ」

「二次元なんかに来たくなかったって?

 でも抱き枕を抱いた時、

 君の魂は二次元と大きく共鳴していたよ?」

「勝手な言い分はやめて!」

「まあいいさ。

 あ、僕のことはQとでも呼んでよね。

 じゃあ、魔法少女として活躍するために、

 これから言う場所へ行くんだ。」

「…」

マクラはQの指示通りに道を歩き始めた。



そして歩くこと十五分。

マクラはテナントビルの中廊下で、冷たい鉄扉の前にいた。

ピーンポーン

『はい…』

「あの、枕辺マクラと言います。

 えと、その、こちらを紹介されて…」

『聞いてる。今開けるわ。』

ガチャ

ドアを開けたのは

黒いセーラー服を着た中学生くらいの少女だった。

凍るように白い肌で髪は黒く腰まで伸ばしている。

大きな赤い目、額で刈り揃えられた前髪。

そしてどことなく漂う暗い憂い。

「さ、中へ入って。」

無表情のままおちょぼ口から出た声は恐ろしく冷たかった。

「し、失礼します…」

マクラは不安を覚えながらも部屋へと入って行く。

(生活用品と事務用品が混在してる。

 事務所兼用の自宅みたいだけど…)

少女はマクラを奥の部屋に通して腰を下ろし、

緊張するマクラに話し始めた。

「私は麻衣。魔法少女の協力者。よろしく。」

「は、はい。よろしくお願いします。」

「今日からあなたは魔法少女として

 ここを拠点に活動する。

 学校以外の時間はここで仕事を待つの。いい?」

「こ、ここでずっと!?」

「ええ。魔法少女なら当然よ。緊急の仕事もあるし。

 暇を持余す心配はいらないわ。営業が優秀だから。」

「え、営業?魔法少女の?」

「ええ。当然でしょ?

 魔法少女も求めがなければ仕事が出来ない。

 待ちの営業だけじゃなくて…」

プルルルルッ、プルルルルッ、プルルルルッ…

話の途中で部屋の電話が鳴り響いた。

「もしもし、麻衣よ。

 マクラ?今来たわ。

 …ええ、ええ。

 看護婦ね。

 …ええ、ええ。

 分かった。すぐ行かせる。」

麻衣は電話を切るとマクラの方を見た。

「マクラ、早速だけど仕事に行って貰う。

 求められているのは看護婦。見積もりだと三十分位。」

「きゅ、急病人!?」

「まあそんな所ね。」

「でっでも私何をどうすればいいか…」

「大丈夫。私の言うとおりにすればいい。

 目を閉じて看護婦さんを強くイメージして。

 そして、ダキマクラダキマクラ、

 看護婦さんになぁれって唱えるの。

 それだけよ。さ…」

麻衣は冷静で冷たい声で促した。

「…う、うん。分かった、やってみる。」

マクラは目を閉じて看護婦の姿を頭に思い描く。

「看護婦さん、看護婦さん、看護婦さん…

 ダキマクラダキマクラ!

 看護婦さんになぁーれー!!」

ピカァァァァァァァァァァァ!!!

マクラが声を発するのと同時に、

制服と下着が光となって霧散した。

スウゥッ…

裸のマクラの身長がその高さを増して行く。

ボインッ!

膨らんだ乳房が大きく一揺れして胸の上に収まる。

ムチッ!ムチッ!

小振りだった少女の尻が膨らみを増して、

成熟した女性のそれへと変化を遂げた。

キラキラキラキラキラ…

大人の女性の体となったマクラを光の帯が包み込む。

そしてその光が数秒の後に晴れると、

そこにはピンク色のナース服を来たマクラの姿があった。

「わ、私、看護婦さんになっちゃった…」

「上出来よ。魔法少女マクラ。

 じゃあ仕事場へ急行してもらうわ。」

トン!

麻衣がマクラの肩を軽く叩くと、

マクラは倒れ込んであっと言う間に寝息を立てて眠ってしまった。

「さ、マクラ、あなたの初仕事よ…」

麻衣は無表情のまま小声で呟いた。



(こ、ここは…)

気が付くとマクラは仰向けになって天井を見上げていた。

傍らには青年が一人おり、じっと顔を覗き込んでいる。

(知らない天井。私を見つめる男の人。

 でも、でもこの懐かしい質感は…

 三次元!三次元だわ!

 戻って来れた!私、元の世界に戻って来れたんだ!)

マクラは歓喜した。

そして起き上がろうとしたが、どうにも体がうまく動かない。

(あ、あれ?

 体が言うことを聞いてくれない。

 どうして?私の体、どうなってるの?)

マクラは自分の体に目を遣り、そして表情を一変させた。

(い、いやぁ!

 私の体、抱き枕に張り付いてる!

 看護婦さんのイラストになってる!

 私、二次元のままなんだわ!

 じゃ、じゃあこの横の男の人は…!)

傍らの青年は無表情でマクラを眺めていたが、

その手がマクラの胸に伸びてきた。

ムギュッ

(やっ!!)

胸を揉まれる感覚がマクラに伝わってくる。

青年は抱き枕カバーのイラストであるマクラの胸を撫でながら、

なおもマクラの全身を嘗め回すように見つめ続けた。

「看護婦さん…

 色気を抑えた凛とした看護婦さん…

 でもだからこそこの曲線美が逆に際立って…

 僕はこういうのがとっても…」

見ると青年の股間は大きく膨らんでいる。

(いやぁ!この人、欲情しちゃってる!

 イラストの私を見ながら。その胸を触りながら。

 前の私と同じだけど、でも気持ち悪いよぉ…!)

青年は胸から手を放し、腰のベルトに手を掛けた。

(こ、この人、始めちゃう気だ…)

ズボンとパンツを脱ぐと、

青年は股間のものを右手で上下に擦り始めた。

「…はぁ、はぁ…」

段々と息遣いが荒くなって行く。

握られたそれはもうはち切れんばかりになっていた。

(うううっ!

 私、知らない男の人のオナニーのネタに

 されちゃってる!)

なおも青年の粘っこい視線はマクラの全身に絡み付き続けた。

そして時間とともに右手はその上下動の速さを増すのだった。

「はぁ!はぁ!

 はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!」

(必死な顔、切なそうな目、荒い息遣い。

 この人もう…!)

マクラがそう思った時である。

「うっ!ううっ!ああっ!」

ドピュッ!ドピュッ!ドピュッ!

青年はくぐもった声を喉の奥から漏らしながら

ドロドロとした精液を吐き出した。

(出しちゃった。この人、私に興奮して出しちゃった…)

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」

肩で息を整えながら青年は恍惚の表情をしている。

(私、何の為にここにいるのよ。

 二次元の体で。わざわざ看護婦さんの格好で。

 もう、どうなってるの…)

マクラが悲嘆に暮れていると青年は小声で言った。

「…ああ。僕は君と交際したいな…」

(な、何を言ってるのよこの人!

 交際なんてあるわけない!)

けれども二次元のその声は

三次元世界の青年には届かなかった。



つづく