風祭文庫・異形変身の館






「魔法少女 だいた☆マクラ」
(第4話:自責も、粗相も、あるんだよ)


作・徒然地蔵(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-365





キーンコーン

カーンコーン

朝の中学校の一室。

若い女教師がいつものようにホームルームを始めた。

「はい、皆さん。

 今日は新しいクラスメートを紹介します。

 これから一緒に勉強する枕辺マクラさんです。

 じゃあ枕辺さん、皆に一言。」

「ま、枕辺マクラです。

 早く職場…じゃなくて、

 教室に慣れて頑張りますので、

 ご指導よろしくお願いしますっ」

マクラは深々と頭を下げた。

「なんか会社の人みたい〜」

男子生徒の一人がそう言うと教室にどっと笑いが起き、

マクラは恥ずかしさで顔を真っ赤にした。

「こらこら!

 枕辺さんは転校してきて緊張しているんだから!

 じゃあ、枕辺さんはそこの席に座ってね。」

「は、はい。」

皆の視線を感じながらマクラは席の方へと歩く。

(はあ、あたしどうなっちゃんうだろ…

 携帯からの指示通りにここへ来たら、

 いろいろ渡されて転校生として迎えられたけど…)

マクラは不安な面持ちで席に座った。



四時間目の授業が半ばに差し掛かった頃である。

(どうしよう…

 休み時間にトイレに行っとくんだった。

 でも転校してきて早々、

 オシッコで途中退室なんてしたくない。

 あと三十分、あと三十分…)

マクラは内股になって尿意に耐えた。

五分、十分…

(ううっ)

時計の針の進み方がいつもより遅く思われる。

十五分、二十分…

(もう少し、もう少し…!)

時間とともに尿意も強くなり、

マクラには一分でさえ途方もなく長い時間に感じられた。

二十五分、二十六分…

(も、もう膀胱がパンパン…!

 お願い、早くっ、早くっ!)

マクラが唇を噛んで時計の針ばかり気にしていた時である。

「はい、それではこの敬語の問題を…

 枕辺さん!やって貰えるかな?」

ジュワッ…

「!」

マクラはショーツが生温かくなるのを感じた。

とっさの指名に驚き少し緩んでしまったのである。

「だっ駄目!」

マクラは下腹部に力を入れて死ぬ思いで滴りを止めた。

幸い漏れは少量で治まったが、

思わぬ返事に教師はキョトンとしてしまった。

「枕辺さん?」

生徒達もマクラの方を見た。

「す、すいません。すぐに、します…」

マクラは額に脂汗を滲ませながら、

モジモジと内股で黒板の前に立った。

(け、敬語の問題なら…)

カッカッカッカッカッ

マクラは激しい尿意に震えながら解答を書き、

内股になりながら小走りで席へと戻った。

(も、もう我慢が…)

教師が答えを確認する。

「はい、敬語の問題、

 間違え易い問題でしたがよくできてますね。」

キーンコーン

カーンコーン

「では今日はここまで。」

「起立!気を付け!礼!」

(た、助かった!)

クラス委員の号令が終わるや否や、

マクラは廊下へと走り出た。



タッタッタッタッタッ!

上履きで廊下を蹴る音が響き渡る。

「トイレトイレトイレ!」

マクラはトイレの位置を確認すると、

一目散に廊下からトイレの中へと

トイレ用スリッパにも履き替えずに駆け込んだ。

「もう少しで!」

そして念願の便器の前に来る。

マクラは勝利を確信しながらショーツへ右手を突っ込み、

自分のソレを外へ引っ張り出そうとした。

それはこれまで毎日行って来た排尿の行為だった。

しかしである。

「…!?」

右手がショーツの中で空を切る。

これまであるのが当たり前だった排尿器官が、

今のマクラの股間には存在していなかった。

マクラは股間に右手をピタリと当てて

その不存在を確認すると

一瞬で背筋が凍りついて行くのを感じた。

「な、ないっ!

 し、しまった!」

男子便所の小便器の前でスカートをたくし上げ、

小便器に股間を向けているマクラ。

その排尿の姿勢は、

女の子の排尿には相応しくないものだった。

もはや叶わないチンチンでのオシッコ。

けれどもマクラの体は放出に向けて、

既に下腹部の弁を緩めてしまっていた。

「だっ駄目っ!」

願いに反し、尿道を尿が通る感触が伝わってくる。

ジュワ、ジュワジュワ…

ショーツに黄色い染みが拡がり股間が生温かくなった。

「いっいやあっ!」

慌てたマクラはショーツの股部分を横にずらした。

ピチャピチャ、

ピチャピチャピチャ、

ジョォォォォォォ…

立ちっぱなしのマクラの股間から

黄色い水飛沫が吹き出る。

「…ああああ…」

マクラはもうどうしていいか分からず、

放尿の解放感と言い知れない喪失感を感じながら、

立ったままオシッコを飛ばし続けた。

「…あああ…

 …私、小学生以下…」

マクラは泣きそうな表情を浮かべる。

ジョォォォォォォォォ…

オシッコは止まるところを知らず股から滴り落ちた。

「…ああああ…

 …オシッコが零れていくよぉ…」

ピチャピチャピチャピチャ…

ようやくオシッコが治まった時、

マクラは自分がしてしまったことに呆然とした。

「ど、どうしよう…

 ショーツ、靴下、上履き…

 それにスカートまで濡れちゃってる。

 床にもかなり零しちゃった…」

マクラの下半身は所々がオシッコで濡れ、

足元には黄色い川ができていた。

「わ、私、私…」

すると男子便所の入口から声が聞こえ、

マクラは急いで大便用の個室へ逃げ込み中から鍵をかけた。

「お前、便所入るの?」

「ああ。」

「今はこの便所、入るのやめといた方がいいぜ。」

「なんで?」

「俺もさっき入りかけたんだけどさ、

 なんか大変なことになってんだよ。

 うちのクラスに今日転校してきた枕辺っていう女子がさ、

 小便器の前で立ったまま小便してて…」

「え!嘘だろ!マジで!?」

マクラは外の声を聞きながら頭の中が真っ白になった。

(み、見られてた…)

噂はあっと言う間に広がり、

トイレの前は野次馬で一杯になった。

「なんか今度の転校生、

 女子なのに男子トイレで立ってオシッコしてたみたいよ。」

「えー!嘘でしょ?信じらんない。どーしてそーなる訳?」

「ギリギリで駆け込んだらそこが男子トイレで、

 パニクっちゃってジョロジョロジョロ…

 っていうのが有力説ね。」

「なにそれ?ちっちゃい子供みたい。

 中学生にもなって恥ずかしいよね。

 それにしても立ったままでってウルトラCじゃない?

 女の子が男子トイレで、

 しかも小便器で立ちションなんて前代未聞だよね。」

「そこなのよ。

 私思うんだけど、

 本当は男の子で、男の子のモノが付いてたりして…」

「あはは!だとしたら

 女装して転校して来た完全な変態さんじゃない!

 それ冗談キツ過ぎだよ!」

「あはは!だよね!冗談冗談!

 けど変態の線はあるかもよ。

 これは噂だけどね、授業時間の終わりに

 少しオシッコの臭いをさせてたみたいなの。」

「やだ!

 それってもうその時に漏らしてたってこと!?」

「そうなのよ。ひょっとしたら

 そういうギリギリ感が好きな子なのかも…」

「あははは!もうっ!妄想し過ぎ!

 けどもし本当にそうだったらビックリだよね!」

野次馬達の声を聞きながら、

マクラは個室の中で泣きべそをかいていた。

(あんな場所で

 あんな格好で失禁しちゃうなんて最低…

 私、なんで立小便なんかしようとしたのよ。

 もう、立ってオシッコなんかできないのに。

 オチンチンないのに。

 代わりにできた縦筋が、新しいオシッコするとこなのに。

 座ってショーツを下げないと、

 まともにオシッコできないのに。

 それなのに男のオシッコの癖が残ってるなんて、

 こんなの理不尽だよ…)

マクラはオチンチンのない平らな股間に手を当てながら、

目からまた一つ大粒の涙を零した。



人だかりのトイレの前。

そこへ話しを聞きつけた担任の女教師がやって来た。

「ここね、枕辺さんのいるトイレは。

 ほらっ!皆はもう教室に戻りなさい!」

野次馬達がゾロゾロとそれぞれの教室へ戻って行く。

「枕辺さん、もう私以外は誰もいないわ。

 体調が悪かったのよね?

 取りあえずドアを開けてくれるかな?」

「せ、先生…」

「大丈夫よ。

 着替えもあるし、フォローもしてあげるから。」

マクラは戸を開けて着替えをし、

職員室で少し話しをした後に先生と教室へ戻った。

「皆!

 さっきトイレでちょっとしたことがありましたが、

 枕辺さんは転校初日で施設のことがよく分からなかったんです。

 緊張気味で体調もよくありませんでした。

 そのことをちゃんと理解してあげるんですよ!」

マクラは席に戻った。

その後、休み時間に何人かから元気付けの言葉を貰い、

気が付くと学校は終業の時間を迎えていたのだった。



つづく