風祭文庫・異形変身の館






「樹怨」
(第4話:分枝)


作・徒然地蔵(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-319





肩から地際まで寸胴になり、細い指人形のようになってしまった里枝。

頭と万歳をした両手だけが辛うじて人間らしい形を保っていたが、

その両手も変化をし始めた。

里枝もそのことに気づいている。

「お願い!

 私の両腕、手のひら、なくならないで!

 手が棒になって動かせなくなるなんてやだよ!」

ムリムリムリ…

そんな彼女の願いも虚しく、

両腕がこれから伸びる部分を支えるために無慈悲に膨張していく。

もうどこが肘でどこが手首か分からない。

俺は不意に里枝が顔を撫でてくれたことを思い出して悲しくなった。

ググ、ググググググ…

両腕がゆっくりと左右に分かれながら伸びる。

細く美しかった指も、

空を目指して放射線状にどんどん伸びていく。

里枝の腕や指はどっしりと太さを増して長く伸び、

もはや人間のそれとは思えない。

「な、何?

 手の表面のいろんなところが蚊にさされたみたいに痒くてチクチクするよぉ…」

見ると、長く伸びた里枝の両腕の皮膚には変な点が無数に浮き上がっている。

プス!

プスプス!

プスプスプス!…

先の尖った小さい若枝が、

いくつもいくつも里枝の皮膚を突き破って生え始めた。

「い、痛い!

 痛い!

 痛い!

 痛い!」

若枝は根と違って皮膚に融合することなく、

最初から樹の枝としてどんどん生まれて出てくる。

里枝は皮膚の下から若枝が生える度に皮膚に穴を開けられ痛みに悶えた。

顔を出した無数の若枝は、

枝分かれを繰り返しながらぐいぐい成長していく。

「はあ、はあ、はあ…」

新しい若枝が出なくなり、里枝は落ち着きを取り戻したが、それも長くは続かなかった。

「こ、今度は乳首のあった辺りが、

 さっきみたいにチクチクする!

 や、やだ!

 そんなのいや!」

一旦は胸をなくして悲しんだ里枝が、

今度は異形の胸を与えられることを直感して恐れていた。

「い!

 痛い!」

首から引っ掛かっているだけの服とブラジャーの内側には、

枝が生えているに違いなかった。

グググ…

服の両胸部分が二つの切っ先に内側から突き上げられて上へと持ち上げられていく。

そして見えた両胸には、皮膚を裂いて生える大きな二本の枝があった。

両腕はやや後ろに向かって枝を伸ばしたが、胸からの二本の枝は左右やや前方を目指して伸びている。

「私の服が枝に突き上げられて脱がされて行くよぉ…」

服は頭から抜かれた後に、

胸からの二本の枝と両腕によって四方に引っ張られだした。

里枝の体を包んでいた服は必死に裂けまいとしているが、

布地は限界近くまで張りつめている。

「や、やめて…!」

ビリ、ビリビリビリ…

服が悲痛な悲鳴をあげながら破けだす。

彼女の体から突き出していく四本の枝が、

もうこんなものは不要だと言わんばかりに里枝の頭上で服を引きちぎり、

用を為さなくなった服とブラジャーの残骸がだらしなく引っ掛かって垂れてしまったのだ。

「こ、こんなの酷いよ…」

里枝はすすり泣いた。

その間にも、胸からの二枝は側面から新しい枝を生やして成長し続ける。

ムリムリムリ…

すすり泣く里枝をよそに今度は首が太さを増しだす。

「の、喉が…!

 げほっげほっげほっ…!」

せり出てくる肉質が首から頭までを寸胴にしてしまい、

顎はもう探さないと分からない。

ズズズズ…

足と同じく肩がせり上がって頭と腕との隙間が閉鎖されていく。

鉄筋の間にコンクリートが流し込まれるように、

里枝の頭と両腕の間が肉質で埋められていった。

そして、里枝の頭と腕は完全に癒着して円柱状にまとめられてしまった。

「もうやだ…こんなのやだよ…」

気がつくと四本の枝の枝振りは、

すでに周囲の樹と遜色ないほど立派になっている。

里枝は顔と皮膚を除いて樹と同じ容姿になってしまった。



いつの間にか気まぐれな風はまた向きを変えていた。

体の痺れは和らいでいて立ち上がろうとする俺に、里枝は話しだした。

「智也、私のためにがんばってくれてありがとう。

 でも、もういいよ」

「り、里枝…何言ってんだよ!

 そんなこと言うなよ!

 俺はお前を元に戻して連れて帰るんだ!

 それで…それで…教室でまたたわいもない話しをして、

 ふざけて、笑って、喧嘩して…

 ちくしょう!なんでだよ、なんで涙が出てくるんだよ…!」

「ありがとう、智也。

 でももう私、遅かれ早かれ樹になってしまうわ。

 だからせめて最後に、智也と人間らしく愛し合いたい。

 キスがしたい。

 セックスがしたい…」

俺は一瞬戸惑ったが、足に力を込めて立ち上がった。

「…分かった。

 分かったよ、里枝…」

俺はよろよろと里枝に近づき、体に手を触れた。

皮膚は冷たく、硬いゴムのようになっている。

それでも俺は、里枝を強く強く抱きしめた。

「里枝、愛してる。愛してるよ

「智也…」

口づけをしてお互いの舌を絡め合う。

里枝はうっとりとした表情を浮かべた。

俺は、里枝の冷たく平たい胸に口づけし、舌で愛撫する。

唇と舌に、固くひんやりとした感触が伝わってきた。

「はあ…はあ…智也、気持ちいい…」

里枝の体がまだ女としての快感を得られることに俺は安堵した。

今度は、里枝の背中や腰だった部分を手で優しく撫でていく。

肌はもう人の温もりをなくしていたが、俺にはその体がとても愛おしく思えた。

そして俺の手が里枝の秘部に触れると、そこはもうじっとりと湿り気を帯びていた。

「智也、もう時間がないかも知れない。

 早く…!」

「ああ。じゃあ、入れるよ、里枝…」

俺は自分のものを里枝の秘部にあてがい、

縦筋を割開きながら奥へと押し込んでいく。

「はああ…!」

切ない声をあげる里枝。

俺はゆっくり腰を動かしだした。

連結部がグチュグチュとセックスのいやらしい音を立てる。

「…いい…いいよ智也…」

ピストン運動を続けるながら、

俺と里枝はお互いの存在を強く感じ確かめあった。

俺はさらに腰の動きを速めて秘部を激しく突く。

里枝は身悶えして息を切らして喘ぎ始めた。

「…はあ、はあ、はあ

 …いい

 …気持ちいい
 
 …気持ちいいよぉ!」

地面に固定されて動けない裸の里枝に俺は腰を打ちつけ続けた。

枝を空に張った丸太のような体との奇妙なセックス。

枝がしなって小刻みに揺れている。

里枝の女性器は俺のものを冷たく固く締め付け、奇妙な快感を覚える。

その快感は、俺を絶頂へと駆り立てるのに十分だった。

「お、俺もういきそうだ…!」

「わ、私も…!」

直立したまま息を荒らげる里枝に、俺は腰を大きくひと振りした。

「う!

 で、出る!」

「ああ!

 智也!

 いく!

 いっちゃううう!」

里枝が絶頂に達するとともに俺も達し、俺は里枝の中に思い切り精子を放出した。

そして里枝に倒れ込むように抱きついて息を整える。

「はあ、はあ、はあ…」

痺れの残った体での激しい動きはさすがにきつく、俺は地面にへたり込んでしまった。

「智也、ありがとう…」

里枝は俺を見て優しく微笑んだ。



つづく



この作品は徒然地蔵さんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。