風祭文庫・異形変身の館






「2010新年」


作・controlv(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-311





『あけましてぇ、

 おぉめぇでぇとぉう

 ごぉざぁいぃまぁすぅっ!』

りんごぉん

りんごぉん

パパン!

パンパンパン!

新年の訪れを告げる声が響き渡り、

その声を合図にして逝く年を静かに送っていた街は一気に華やいだ。

そう、この街は時間と空間の狭間にある分岐点…

時を超え空間を超えて様々な人や物が行きかい、

それぞれの目的地へと去っていくところであるが、

しかし、新年を祝う街の入り口付近で偶然か必然か、

一人の青年が謎の集団に取り囲まれていたのである。

『やれやれ、

 到着と同時に団体さんのお出迎え…ですか、

 しかも新年早々から…』

ため息をつきつつ青年は相手を見据えると、

『きーっ!』

『きーっ!』

青年を取り囲む黒尽くめの者たちは威嚇の声を上げ、

ゆっくりとその環を縮めて行く。

『さて、どうしましょうか。

 新年早々、無用な騒ぎを起こしたくはありません。

 とは言っても通してくれる気配もないようですし…

 うーん、困りましたね。

 思い切って鍵屋ダイナマイトで一掃…

 ここでは不味すぎます』

手にしている鍵型の錫杖を持ち替え青年は困惑してみせると、

『ほーほほほほっ』

集団の背後より甲高い笑い声と共に髪を後頭部にまとめた女性が姿を見せた。

『蠍否さん…

 あなたまでお出ましですか』

間違いなくこの集団のボス格であろう彼女の名を青年は呟きため息を吐くと、

『鍵屋さぁん、

 お待ちしていましたわん』

と馴れ馴れしく女性は青年に向かって話しかける。

『別に待ってくれなくても良かったのですが…』

見るからに迷惑そうな顔をしつつ、

青年はスティック状のメモリーを取り出して見せる。

しかし、すぐにその手を止めると、

『本来ならここで

 ”お前の罪を数えろ!”

 と相手をしてあげたいのは山々ですが、

 悪いですが先を急いでいます。

 僕には無用な戦いをする時間はありませんので』

女性に向かってそう告げるや、

メモリーからハート型のアイテムに持ち替た。

『うっるさいわねぇ!!

 スナッキー達、

 さっさとやっちゃいなさい!』

そんな青年の態度が癪に障ったのか、

イラつくように女性は声をあげると、

『きーっ!』

その命令とともに取り囲んでいた集団は奇声を上げながら青年に襲いかかる。

だが、

ブワッ!

青年の居たところよりピンク色の旋風が巻き上がると、

『うきーっ!』

吹き付ける花びらが黒尽くめの集団をけちらし始めたのであった。

『なっ!』

『…さっきも言いましたが、

 あなた達と関わっている時間はないのですよ…』

唖然とする女性に向かって青年の声が響き、

ピンクの旋風は上空へと立ち上っていくと、

青年の姿ともども消えてしまっのであった。

『きーっ!

 覚えていなさい!!』

悔しがって見せる女性の声を残して…



『とんだ邪魔が入ったので遅くなってしまいましたが、

 なんとか間に合いました。

 今年の仕事初めはあの人から…ですか』

湖の中央に建つ中世ヨーロッパ風の古城を見つめながら、

青年はモトクロス仕様のバイクに跨っていた。

UD:0079、正月…

その世界はまだ平和という名の静寂に包まれていた。

まもなく始まろうであろう人類史上最大級の戦争を前にして…

”鬼畜連邦!”

”欲しがりません勝つまでは!”

”進め一億火の玉だ!”

”公国万歳!”

ボボボボボ…

規則的なエンジン音を奏でるバイクの周囲には

きな臭い文字が踊る煽り看板が幾枚も張り出され、

森と湖水と古城が織りなす景色を著しく阻害していた。

『やれやれ、

 人間というのはどうしてこう雰囲気に乗せられやすいのでしょうか、

 とは言ってもまがい物ではありますが』

ため息をつきつつ青年は呆れて見せる。

そう、青年の足元の土を数メートルも掘れば

たちまち耐熱対放射線加工された強化軽量鋼板に突き当たり、

その鋼板が織りなすハニカム構造の先には漆黒の大宇宙が広がっているのである。

宇宙コロニー

地球より溢れでた人類がそう呼ばれる人工島に住むようになって約80年が過ぎようとしていた。

しかし時が経つに連れ地球に居住する者たちと

この宇宙コロニーに居住する者たちが対立するようになり、

やがて決定的に反目するようになっていった。

そしてその対立を利用してコロニーの初代指導者を暗殺した男は自らを伯爵と名乗り、

己が作り上げた秘密結社を使って偽札作りに精を出すと、

暗殺した指導者の一人娘をこの城の離れに幽閉してしまい、

煽った世論をバックに連邦政府に対して戦端を開こうとしていたのであった。



さて、そんなキナ臭い話は横に置いといて、

ブーン

青年の頭上を一機の飛行機が通り過ぎていく、

『オートジャイロとは古風ですね…』

尖塔を幾本も林立させる城に向かって飛行する航空機を見送ると、

『アクセルっ!』

と声をあげるメモリーを取り出し、

『変っ身んっ!』

の掛声ととも青年は変身をする。

そして、

カチッ!

タイマーをセットすると、

ブォン!

岸から城に向かって伸びる石造りの水道橋に向かって飛び出したのであった。



”侵入者発見”

城に向かって疾走するバイクを認識した城の防衛システムは発動するや、

シュピーッ!

侵入者迎撃用レザー光線を一斉に放つが、

しかし、バイクは乱れ飛ぶ光線を巧みに掻い潜り一気に突っ走っていく。

そして、瞬く間に城へと取り付いてしまうと、

垂直にそそり立つ外壁をスピードを落とさずに疾走し、

城内へと突入してしまったのである。

その所要時間はわずか9.9秒。

『9.9秒…

 それがあなた達の絶望の時間です!』

城内への突入後、

青年の声が響くや、

チュドォン!

城の防衛システムは悲鳴を上げて破壊されたのである。



さて、その城の一室には銀髪の少年が仮眠を取っていた。

『外が騒がしい…』

漏れ響いてくる騒ぎの音に少年は目を覚ますと、

『白蛇堂様、

 鍵屋様がお見えになりました』

と声がかけられる。

『んっ、判った』

そう返事をしながら起き上がる少年の名前は白蛇堂。

一見、銀髪碧眼の美少年だが、

しかしその姿は変身したものであり元は銀髪で碧眼の少女である。

『解りましたデネブ。

 通してあげなさい』

自分の前に立つ黒尽くめの男に向かって白蛇堂は寝ぼけなまこのままそう告げると、

身に着けている青い競泳パンツ1枚のまま部屋を出る。

その途端、

『白蛇堂さん、

 ご無沙汰してます。

 そのようなお姿に変身して、

 一体、何を企んでいるるのですか?』

彼の前に姿を見せた鍵屋は帽子を取り

静かに一礼をするや単刀直入に尋ねてきた。

その質問に白蛇堂は笑みを浮かべていたが、

『うふふふ…最近この姿がすごく気に入っちゃってね。

 女の子の仲間でも誘おうかなって思ってるの』

『ほぉ、そのような裸の姿で…

 まぁ…個人の趣味には何も言いません。

 それにしてもこのコロニーに渦巻く並々ならぬ殺気の気配、

 連邦相手に武闘大会でも開くおつもりですか?』

『さぁ?

 すべてはあのロリコンな伯爵が決めること、

 私は何も決めることはできません』

『なるほど、

 さて、あなた様からのご依頼の品物、

 入荷いたしましたので納品に参りました』

『あら…どうもありがとう』

軽い腹の探り合いののち、

鍵屋はそう言いながら包を差し出してみせる。

白蛇堂は自分の商売道具を少なからず鍵屋からも仕入れていたのである。

『伯爵を裏で焚きつけているのは、

 まさかあなた様ではないでしょうね?』

『いいえ、

 私は何もしてはいません。

 この世界の女性たちは美人ぞろい。

 でもその中で一番美しい人はだれかなぁ?

 と伯爵に問うたまでです』

『ほほぅ…

 あくまでも美人コンテストですか』

『えぇ、私が提案したのは美人コンテスト…

 たとえそれによって大勢の若者が命を落すことになったとしても、

 仕方が無いことなのです。

 だって、別の世界では

 アイドルのコンサートで1つで数百万の宇宙艦隊が壊滅したケースが有りますし…

 それに比べれば小さなものです』

鍵屋の問いに白蛇堂は涼しい顔でそう返事をすると、

『解りました。

 これ以上は何もいいません。

 あと、そんな格好で風邪でも引かれるといけないので、

 このお茶もつけておきますね』

諦め顔の鍵屋が取り出したものは、

去年黒蛇堂にも渡した天界自慢の銘茶であった。

『あら、本当に申し訳ないわ。

 一緒にお茶でも飲んでいかない?』

自分が少年の姿であることも忘れて鍵屋を誘惑する白蛇堂だったが…

『いえ…私はこれで…職業上、

 中立の立場は保って置かないといけないものですから…』

と言い残して鍵屋は立ち去ろうとする。

『あら、残念ね…』

白蛇堂は残念そうな顔をして見せると、

『それに…』

一旦立ち止まった鍵屋は少し口を開いたが、

はっとしたのかすぐに口をつぐんだ。

『それに…?』

白蛇堂はつき返したが、

『…白蛇堂様もそのようなお姿のまま休んでおられるとは、

 結構忙しいのでしょう…』

そう言って鍵屋は一礼をすると、

帽子をかぶり白蛇堂の前をあとにする。

そして、

『(あぶないあぶない…
 
  白蛇堂さんには嵯狐津姫との仲を取り持ってもらおうって口に出すところだったな。

  この間もあいつにお仕置きしたばかりだというのに)』

と言いつつ鍵屋は愛車のオート三輪を走らせると何処へと消えていったのであった。



その夜…

『う〜ん、

 この薬はやっぱり普通のものよね…

 やっぱりあの薬を出してるのは兄貴なのかな?』

白蛇堂は新水泳部の香織を丸め込むと、

香織が性転換や潤の調教に使っていた薬などを入手したのであった。

そして自分のギルドに所属している人間を使って

人間界に出回っているさまざまな薬を入手して独自の方法で調べていたのである。

人間界の薬は白蛇堂のような天界の人間には効かないことが多い

『なんとかして香織をこっちのサイドに引き込んでおかないと…

 あの子はすごくいいお得意様になりそうなのに…』

白蛇堂はこれからの商売の計画を考えていた。

そのとき、

ハックション!

白蛇堂は大きなくしゃみをして見せると、

『さすがに競パン1枚のままでいたから風邪引いたのかな…』

と呟きながら風邪薬を探しはじめる。

そして、

『ああ…ここに風邪薬があった…』

風邪薬と飲みかけのお茶を一緒にのみ干すが、

『うっ…』

その直後、

苦しそうなうめき声を上げて白蛇堂はその場に倒れ込んでしまうが、

しかし、倒れても白蛇堂は激しい動悸を覚え、

それとともに大量の汗をかく。

『うっ…』

激しくもがき苦しむ白蛇堂だったが、

白蛇堂の一箇所が少しずつ変化していた、

それは白蛇堂の股間にある自分のペニスだった。

苦しむようにペニスをしごき始める白蛇堂、

彼女の体の中には熱いものが駆け巡って行く。

それは苦しいようでもあり、

全身に特殊な力がみなぎってくる感じであった。

『ううううううううう』

さらに激しく白蛇堂の心臓は高鳴り、

それとともにペニスが白い液体を噴出しながらどんどん大きくなってくる。

それとは裏腹に白蛇堂の体の他の部分は萎縮してしまうと、

巨大なペニスの先端から白い液体が大きく噴出する。

そう、白蛇堂と呼ばれた存在は巨大なイチモツ妖怪へと変身してしまったのだ。

巨大なイチモツ妖怪は城の外へとまるで軟体動物が這うかのように飛び出して行く。



一方そのころ。

とある世界のとある山林の中で鍵屋はある集団と対峙していた。

『まったく懲りない方だ…』

そう言って呆れる鍵屋の前には、

あの黒尽くめの集団がズラリと並び行手を塞いでいのである。

『今度はこんなところで待ち伏せですか、

 飽きもせず』

そう言って鍵屋は呆れいると、

『まっこと、困ったものぜよ』

の声とともに顎長の男が集団の前に立って見せる。

『あなたですか』

錫杖を構えつつ鍵屋は警戒をすると、

『あまり、わしらの邪魔をして欲しくはないじゃきのぅ』

『それはどうでしょうか、

 あなたみたいなのが好き勝手に人間たちを弄んでは困るんですよ。

 そうなれば私も含めて他の業者も顧客を失ってしまう。

 そうではありませんか?』

『ほほぉ…ならばどうする?

 おまんにやられるようじゃあ、

 こっちも商売上がったりじゃき。

 いくぜよ!』

と男は叫ぶと、

『うきーっ!』

昨年よりもパワーアップした戦闘員集団を呼び出すと鍵屋に向かって飛びかかる。

そして、

『デザトリアンの…お出ましじゃき!』

と声を上げるや。

ずごごごごご

戦闘員の背後から異型の怪物が姿を見せるや鍵屋に襲いかかってきたのである。

『なにっ!』

予想もしなかった事態に鍵屋は追い込まれてしまうと。

『くっ…』

まさに絶体絶命の窮地に立たされた。

そのときだった。

鍵屋の後ろから巨大なイチモツ妖怪が白い液体を噴出しながら突撃してきたのである。

と同時に大量の戦闘員は液体に足をとられて何も攻撃できない状態だ。

その状態になっているところをイチモツ様態はなぎ払うかのように前進していく。

鍵屋は一気に優勢となった。

『な…なんぜよ、なんぜよ。

 おまんは…

 えぇいっ!

 これでも食らえ!』

顎長の男はイチモツ妖怪に巨大なハンマー

…去年使ったものよりもはるかに協力らしい武器を食らわせようとした。

だが、

どぴゅうううう!

イチモツ妖怪からこれでもないかというぐらいの白い液体を放出してしまうと、

顎長の男はその場に崩れこんでしまった。

それを見た鍵屋は

『今だ!』

その声とともに錫杖を振り上げ、

『鍵よ輝け!

 鍵屋フォルテウェーブ!!』

の掛け声を上げると、

ドンッ!

錫杖から飛び出した鍵が異型の怪物を拘束する。

その手応えを感じつつ鍵屋は錫杖の回転子を廻し、

『はぁぁぁぁぁぁっ!!!

 鍵屋式商売心得っ、

 一つっ、鍵屋の制裁に従わず、さらに悪事を続けたものは……

 一つっ、理由の如何を問わず更なる制裁を受けるものとする……』

と叫ぶと、

『しゅわわわわわ』

の声を残して怪物は消滅し、

『チッ!』

舌打ちを残して顎長の男は精液まみれの状態で闇の中に消えていったのであった。

『さて、

 またもなぞの妖怪のおかげで助かりました。

 少し体を洗わないといけませんね…』

と言いながら鍵屋が立ち去ろうとしたそのとき、

イチモツ妖怪は少しずつ縮んでいくと、

それとともに人間の体のほかの部分も少し筒膨らんでいた。

いつの間にかペニスと睾丸の部分にも青い布が張り付いた。

イチモツ妖怪はたちまち銀髪碧眼の少年の体に変化する。

この変化はこれにとどまらず、

精を使い果たしたのか張り出していた胸板や腹筋、股間のふくらみもは引っ込み、

変わりに括れが出現し胸やお知りが丸みを帯び、髪も少し長くなていた。

『おや…あなたは白蛇堂さん…』

鍵屋の目の前にいたのはいつの間にか精液まみれとなった

トップレス姿の白蛇堂の姿があったのである。

鍵屋は白蛇堂をあの城に送り届けると、

白蛇堂にシャワーを浴びせ、

白装束を着せてベッドに寝かせておいた。

どうやら白蛇堂が調べていた薬の量が大量だったこと、

それに天界の風邪薬やお茶が原因であったらしい。

と同時に白蛇堂が引きかけていた風邪はどうやら全快したようだ。

『なんかすごくスリルがあって気持ちいい夢みていた気がするけど、

 なんだったかな〜』

白蛇堂のそんなせりふの前に、

鍵屋は再び罰の悪そうな顔をしていた。

ちなみに、黒蛇堂はそのとき人間界に出ていたため、

姉の晒した醜態(?)を知ったのは後になってからであった。



ちなみに伯爵達のその後の展開でありますが、

まぁよく知られたストーリーと似たような轍を踏み、

後世の歴史家から1年戦争…

あっいや、1年美人コンテストと呼ばれるようになったものの、

直ぐに黒歴史として封印されてしまったそうであります。

ケロケロリ



おわり



この作品はcontrolvさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。