風祭文庫・異形変身の館






「ローヤルゼリー」



原作・あむぁい(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-134





とある春の宵…

闇夜に浮かぶ城内では大勢の観客注視の下、

”選抜”と言う名の白熱した戦いが繰り広げられ、

そして、俺・西条貴輝は長年のライバルである奴・藤原高志とともに

決勝まで勝ち進んできたのであった。

「よしっ」

気合をいれ、俺はマスクを被ると、

スッ

マスク越しに見える西条に目の焦点を合わせる。

奴とはフェンシングの腕は互角である。

しかし、フェンシングはそれ以外に

礼儀正しさ、

華麗さ、

頭脳的なかけひき、

スピード、

テクニック等を総合的に判断できるため、

随分前からこの“選抜”に使われている。



カシャカシャ

カシャ

カシャカシャ

フェイント!

カウンター!

読み合いと運動量の戦い。

一瞬の隙が命取り。

緊張を持続せねば!

カシャカシャ

カシャ

カシャカシャ

カシャン

そこっ!

ピー!

おしっ、取った!

付いたのは俺の勝ちを示すランプ。

「くっ!」

藤原はマスクを脱ぐと乱暴にそれを地面に叩きつける。

「ふん。

 そんな態度ではとても選抜されるのなんて無理だね。
 
 今からでも棄権したらどうかな?」

俺は勝ち誇りながら藤原に言う。

「しょせん、西条様に勝とうなどと不可能な事なのです」

「お里が知れますね」

俺の取り巻きの今井と田中が追い討ちをかける。

良いぞ。

もっと言ってやれ。

「はん、フェンシングなぞで勝った所で、

 最後に勝つのは高志様に決まっている!」

「そうですよ、高志様。

 気を取り直して下さい。
 
 勝負は未だ残っています」

「そうだな、佐々木。

 俺とした事が…」

藤原の取り巻きが取り成すが、

何、このフェンシングを取った事で俺は圧倒的優位に立った。

現在までの総合ポイントは俺720点に対して藤原685点。

残る最終アピールでこの差がくつがえる事なんて有り得ない。

最終アピールでも当然俺が勝ち!

そして、ローヤルゼリーを手に入れる。

そして、ああ…ついについにこの日が来たのだ。

選ばれしものとして常に自分を鍛え、

負けを許されなかった日々。

数々のライバルを打ち破り、

その屍を乗り越えてきた日々。

だが、それも今報われる。

はは。

あはははははは。

「それでは、最終アピールの時間です。

 最初に西条貴輝様、お願い致します」

俺は肉体美を最大限にアピールできるハイレグの黒パンツに

赤い蝶ネクタイのみのセクシーなスタイルで

群れ集う男たちとカメラの前に姿を現した。

手にはマイクが握られている。

「みんな、俺を見てくれ!

 美しい俺の体を!
 
 もうすぐ…もうすぐローヤルゼリーを手に入れ
 
 俺は更に美しく、輝く。
 
 さあ、想像してみるんだ。
 
 この美しく引き締まった体が柔らかく変わる…」

どよどよどよどよ。

ざわめく群集。

「今はこんな胸が、膨らんで行く…」

ごくりっ。

緊張する群集。

「Bカップ、Cカップ…

 いや、Dカップまで行く!
 
 間違い無いっ!」

「ブラボー!」

「超、最高!」

「西条さまー!」

会場を包む割れんばかりの歓声。

ふふふ。

「なあ、みんな女になった俺が見たいだろ?」

「オー!」

「俺にむしゃぶりつきたいだろ?

 俺の中にチンポおったてたいだろっ?」

「FUCK YOU!」 

「いいぜ、君臨してやる。

 お前らの女王として君臨してやる!
 
 さあ、俺を選べ!
 
 俺に跪け!
 
 俺に忠誠を誓え!」

「西条さま〜!」

最前列の男共何人かが卒倒する。

ふふふ。

いける!

この勝負いただきだ!



「いや〜、さすがです。

 西条様。
 
 勝ちは揺るぎませんよ。
 
 ああ、早く女王になった西条様と…」

「やはり貴輝様について来て良かった」

今井と田中のおべんちゃらが気持ち良い。

ま、俺が女王になった暁には

お前らにも奉仕させてやるぜ…ふふふ。

お、藤原の奴の最終アピールが始まるぞ。

壇上に上がる奴はひもふんどしに胸にさらしだ。

「馬鹿じゃねーの?

 な、な?」

「う…あ、いや、奇策に出ましたねー」

「さらしと言うのはなかなか…」

「ばっきゃろー、

 お前ら何言ってんの?
 
 あんなの全然駄目駄目…」

「ぼくが…

 ぼくがもしも女王になれたら…
 
 みんなと楽しい社会が作れたら良いなって。
 
 思いやりとかいたわりとかを大事にして…」

「けっ、何綺麗ごと言ってるんだかー?

 あんなのに騙されないよなー?
 
 お前ら?
 
 な?
 
 な?」

「……」

「…あの瞳…」

「お願いします!

 みなさん、僕を女にして下さい!」

ぺこり。

頭を下げた藤原の耳にぴょこりっ、

とネコ耳が生える。

「ほええええ〜!?」

「はにゃ〜ん!?」

「なになになに〜?」

盛り上がる愚衆ども。

げげげ?

「えへ。

 手品です」

ネコ耳を取って高く掲げる藤原。

はにかむ笑顔がとってもキュート…な筈ない。

そんな筈…割れんばかりの拍手の中、

藤原の最終アピールが終わる。



「それでは、第261回女王選抜の儀。

 最終結果の発表です」

俺は緊張に脚を震わす。

じゃかじゃかじゃかじゃかじゃかじゃか…、

「ローヤルゼリーをその手にするのは……

 藤原高志さん!」

スポットライトが奴を照らす。

俺は目の前が真っ暗になって崩れ落ちる。

あはは。

本当に目の前が真っ暗になるんだ。

これが貧血ってやつ…

「グランドクィーンより送られたローヤルゼリーが授与されます」

黒服を来た男がローヤルゼリーを手に壇に上がる。

く、かくなる上は力づくでもっ!

ゼリーを奪うため動こうとした俺は一瞬早く、

衛兵に取り押さえられ手をねじ上げられる。

く…惨めだ…本当なら壇上で、

ローヤルゼリーを食って、

女王になるのは…

満面の笑顔でローヤルゼリーを口にする藤原。

その体が熱を帯びほんのり赤くなる。

筋肉が落ち、丸みを帯びる。

ふんどしの中で何かがもぞもぞ動いている。

さらしの圧迫が胸を押さえ、

藤原は苦しそうに小さくうめく。

その声に会場中のものとテレビで見ている

何千、何万もの男たちが胸をときめかせる。

壇上でもだえる藤原の動きと、圧迫で、

さらしが少しづつ、少しづつほどける。

はらりっ。

ずれて落ちたさらしから垣間見える胸。

藤原の始めて見せる女の胸。

や、やばい…俺はあわてて目を逸らす。

すたすたすたとこちらに歩いて来る藤原。

げげっ。

「やあ、西条くん。気分はどう?

 ああ、キミとの戦いの日々が走馬灯のように駆け巡るねえ。
 
 今となっては楽しい思い出だけどね。
 
 あははは」

く、くそーっ。

衛兵に腕をねじあげられていなければ

殴りかかってやりたいところだが…

「どうかな、女になった僕のこの体。

 もっと近くによって見てよ」

目の前に藤原のバストが突き出される。

ほんわりと甘い匂いがする。

柔らかそうで。

美味しそうで。

俺はおっぱいから目が離せなくなる。

「さぁてと、

 ではいよいよ、お楽しみの交歓の儀といくか。

 西条くん。
 
 僕は始めてなんだから優しくしてくれよ」

げ、そうだった。

に、逃げなきゃ…。

しかし、衛兵にがっしり押さえられた俺は身動きができない。

「くぅ…」

「おいおい。

せっかくだから楽しもうよ」

藤原の指先が、俺のほおに触る。

なんて柔らかい指なんだ…

間近で、藤原と目が合う。

なんて…なんて可愛いんだ…ああっ。

やばっ。

「駄目だよ。

 駄目。
 
 本能には逆らえないんだから」

藤原の息が耳をなぜる。

甘い息が。

「ゆ、許してくれ…」

「許す?

 これは儀式じゃないか?
 
 あははは。
 
 さあ。
 
 僕の匂いを思いっきり嗅いで」

藤原の指示で俺は奴(彼女)のふんどしに顔を押し付けられる。

ああっ。

強烈な女の匂いが俺の理性を狂わせる。

俺の男性がどんどん大きくなっていく。

だ、駄目だ。

この匂いを嗅いでは…駄目…

「西条、舐めてもいいんだぜ。

 さあ…」

「ぐ…ふぐ。

 は。
 
 ふは」

女王様の許しに俺はふんどし越しに舌でおまんこをなぞる。

あ、甘い…淫液を。

ふんどしに付着した淫液を舐めたくて舐めたくて。

俺はひたすらふんどしを舐める。

ああ…もっと、

もっと、

もっと、

もっと…

「はい。

 それまで」

俺は大きく口を開け、

舌を突き出したままで引き剥がされる。

「それでは、初公開と行くか。

 ご開帳で〜す」

群集も、

俺も、

女王様のふんどしから目が離せない。

はらりとふんどしが落ちる。

きれいなピンク色のびらびらが淫靡な門を彩る。

そしてそのおまん口にはびっしりと鋭い歯が並んでいる。

ああ、憧れのおまん口。

俺が、俺のものになる筈だったおまん口。

「どうだい。素敵だろ。

 もっと近くによって見て良いんだよ」

俺は衛兵達に押さえつけられたまま、

女王のおまん口にずりずりと這いずり近寄る。

その匂い。

色。

脈動。

ああっ。

「い、入れさせて下さい。

 女王様」

俺の口から思わず言葉が漏れる。

ああっ。

あれに突っ込めたら、どんなに…

「入れさせてあげようじゃないか。

 遠慮するなよ。
 
 ともだちじゃないか?
 
 あははは」

女王様の有り難いお言葉に俺は身震いする。

あ、あれに、あれに入れられる…

俺は衛兵どもを振り払い、

大慌てでズボンとパンツを脱ぐ。

完全に大きくなった俺のペニスがあらわになる。

「さあ、ここにキミのペニスを突き立てるんだ」

俺は震える手で女王様のおまん口にそっと触り、

ペニスを導いて中に入れる。

ああっ…こ、これが、男の快感!?

す、すごい…

俺は自然に腰を動かす。

快感が走る。

ああっ。

すごい、すごいです、女王様!

「あ、女王様…」

「不合格」

ぶちんっ。

嫌な音が聞こえる。

激痛が下腹部に走る。

お、俺の、俺のペニスが…

根元から食いちぎられている…

吹き出す血を俺は大慌てで手で押さえようとするが、

流血は止まらず、みるみるうちに床に血溜まりができる。

「ああ…あああっ」

「全然駄目だね。

 キミごときじゃあ、やっぱり僕のお相手は務まらないよ。
 
 キミの腐った遺伝子なんかゴミだね」

冷たく見下ろす女王様の目。

おまん口がゆっくりと歯を開けると

そこには血まみれの俺のペニスの断面があった。

「ああ、尊輝さまのペニスが…」

「何たる事を〜」

今井と田中…こいつらももう望みは無い。

ぺっ。

音を立てて吐き出された俺のペニスは俺の顔面に直撃する。

「あああ…」

屈辱の中、俺は訳のわからぬ声を上げがっくりと膝をつく。

「Yeh!

 新女王さまの誕生だよ!
 
 みんな、よろしくね☆」

「Yeh!

 Fuck You!」

「さぁ、

 行こう!!
 
 私と共に!!
 
 新しい大地へ!!」

群集達の狂乱の中で新女王が大きく手を伸ばすと、

うぉぉぉぉっ!!

城内は割れんばかりの歓声で溢れかえる。

しかし、その一方で、俺はぼんやりと食いちぎられたペニスを見つめていた。

そうだった。

これは女王の力と権威を皆に示す儀式。

わかっていたのに…全然抵抗できなかった。

俺はこれから先の事を思い暗然とした気分になった。

俺はこれから先はずっと日陰の人生を歩むのだ。

毎日毎日、ただ女王のために働くだけの肉体労働者…

それが女王になれなかった女王候補の宿命なのだ。



「ママー」

春の陽光が溢れかえる林に少女の声が響き渡る。

「どうしたの、

 沙耶っ」

少女の声に引かれて、その母親が姿を見せると、

「ママッ

 見て見て

 ハチさんがいっぱいっ」

そう言って少女が指差した先には

ブンブン!!

と羽音を立てて木の枝にボール状に固まる蜂の群れがあった。

「そうか、

 蜂さんの巣別れね」

蜂の群れを眺めながら母親はそうつぶやくと、

「ママぁ

 巣別れってなぁに?」

と少女は母親に尋ねる。

「巣別れってねぇ、

 ほらっ
 
 蜂さんには女王様が居るでしょう。
 
 で、毎年春になると、
 
 誕生したばかりの新しい女王様に率いられて、
 
 蜂さんが引っ越していくのよ」

母親はそう少女に告げると、

ブワッ

ボール状になっていた蜂が飛び始め、

春の空へと舞い上がっていった。



おわり



この作品はあむぁいさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。