風祭文庫・異形変身の館






「絶対安全!セフティ・カース」



原作・あむぁい(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-125





呪いを馬鹿にしてはいけない。

確かに、実際に呪いで憎い相手にダメージを与えるのは難しいけど、

呪いが実現しなかったところで、こっちはノーダメージなのだ。

即ち、ノーリスク。

勿論、無駄に時間と金を費やしたなとか。

細かい事を言えばキリが無いけどね。

しかし、呪いを実行しなくても

ふと気付くと憎いあの娘五条雅恵の事を考えている。

雅恵のやったあれこれを考えている。

よっくも、あたしの中村くんを…

こっちの方がよっぽど無駄で非生産的よね。

駄目で元々。

上手く行けば儲けもの。

その為の「セーフティ・カース」だもの。

宣伝の受け売りだけどね。

あたしの名前は黒井望。

まだまだ呪いは初心者だけど。

いつか、阿倍清明サマみたいな素敵な呪術師になるのがあたしの夢かな。



「セーフティ・カース」は今流行りの白呪術系電脳総合商社だ。

あたしは今、通信教育で「白呪術3級コース」を受けている。

呪いには黒呪術と白呪術の2種類があって。

黒呪術は相手を破滅させるが、自分も破滅する。

一方、白呪術は、相手を破滅させるが、自分は安全。

ま、誰でも白を選びますよね。

平安時代から1200年の伝統が有って。

先生方は超一流。

テキストもバインダー形式だから使い易くって、

誰でも短期間で呪いのスキルを身に付ける事ができる。

もっとも、呪いの効果は本人の資質に大きく左右されちゃうんだけど、

呪い体験談の成功例や失敗例とかのコーナーもとっても参考になる。

また、掲示板やチャットで仲間を探す事も可能。

無論一人一人の呪力は小さくても、

力を合わせれば強力な呪いを紡ぐ事も可能だし、

ほらほら、アイドルの三枝真来がステージで事故ったじゃん。

アレはセーフティ・カースの仕業なんだって、

ちゃんとログも残っているらしいよ。

あとほら、平将門を復活させようとか言う集団もあって、

あと1000人ぐらい集まれば上手く行くかもなんだって。

てゆうか、平将門って誰よ、あはは。



更に更に、便利なのは通信販売。

「雄羊の頭蓋骨」

「蝙蝠の羽」なぁんてのは言うまでもないけど、

でも「生きている鶏」クラスですら、

素人には中々入手が難しい。

これらが簡単に入手できるのも魅力の一つよね。

ちなみに1500円以上の商品に関しては送料も無料。

また、安価な代用品も豊富に取り揃えてあって、

「賢者の石」なんか本物は100億円の値段がついているけど。

偽物だと10万円のものまである。

今回は「憎いあいつに人面疽」のコースを頼んで入手した。

あたしはダンボールの封を開ける。

ぐっすりと寝ている生きた鶏。(1万2000円)

魔方陣(紙製)(4800円)

香(7種の薬草を配合)(1万800円)

邪神像(プラスチック製)(3000円)

これらが会員専用セット価格でなんと2万円ポッキリ!

10回払い可。

あたしは中身を確認すると準備に取り掛かる。

先ずはマニュアルをダウンロード。

そこからはマニュアルの指示に従う。

水晶玉ユニット(初心者用)をパソコンに繋げて起動させる。

続いて、ヘッドホン形状の呪力増幅ユニットを頭に付けて、

これまたパソコンに繋げる。

呪い実況板にアクセスすると既にそこにはギャラリーが集まっていた。

4人か。

まあ、いないよか良い。

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”まんとらまん:( ´∀`)ノシ 遅いぞ、ノゾたん(笑)”

”あべちゃん:まあまあ、色々準備があるのさ”

”みどろ:のろいのろいのろいのろい〜☆”

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なかなか盛り上がっているようだ。

よし、早速あたしも書き込みを開始する。

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”のぞみ:いよいよ、開始しまつ。皆のもの、準備は良いか〜。”

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カーテンを閉めて…香を焚く。

あたしはお気に入りのマイ香炉に香を放り込んで火を付けた。

煙が部屋に立ち込め厳粛な雰囲気があたりに漂い、

その香りに白いマントをきゅっと締める。

そう、呪いを実行するときはいつもこの格好だ。

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”マイ☆:いよいよだ〜”

”あべちゃん;(´-`).。oO(今日は上手く行くかな〜)”

”みどろ:がんば〜>のぞたん”

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机の上に魔方陣を広げ、邪神像も配置する。

この位置がポイントなのだ。

鶏をひっぱたくと鶏は意識を取り戻す。

「コクェ?」

あたしは鶏を押さえつけると、

儀式用のナイフでその首を刎ねた!

ぶしゅ〜

シャンパンを開けたときのように血が飛び散る。

「コキェ〜!」

鶏の断末魔の悲鳴が上がる!

首を落としても足が動くっ!

おおっ!?

「望!あんた何やってんの!?」

げげっ、ママ?

「なんでもな〜い!」

あたしは大声で一階に返事する。

ああ、びっくりした。

気を取り直して、

鶏の血をワイングラスに取り一気に飲み干す。

鶏から更に血を取り、唇に紅をさす。

いよいよ準備OKだ。

あっと、鶏は明日の晩御飯に使うから血抜きをしといてっと。

鶏料理のレシピがサービスで付いていたのだ。

この辺の細かい心遣いがうれしい。

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”のぞみ:ターゲットスコープオープン、探しまつ。みんな力を貸して。”

”あべちゃん:あいあい”

”まんとらまん:おけ〜”

”みどろ:呪力を集中しろ〜”

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画面の端の呪力数値が上がっていく。

100。

200。

300。

パソコンに接続された水晶玉が明滅する。

おっ?

うっすらと。

パソコンにあの娘の姿が。

んーと、シャワー中かな?

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”マイ☆:おおっ!?”

”みどろ:おおお?サービスw?”

”まんとらまん:成功?”

”あべちゃん:シャワー、イイ!”

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鶏さんの生贄パワーかあたしにしては珍しく上手く行ったみたいだ。

に、逃がさないわよ〜。

あたしはにやりと笑うと呪いに集中する。

最初は安定しなかった画像も、

呪力メーターの値が500を越えた頃から安定し鮮明なものとなった。

あたしの眼は大きく見開かれる。

あははは。捉えた。

“人面疽作成可能です。”

画面に表示が出るや否や。

あたしは、マウスを右クリックしていた!

“場所を選んで下さい。”

くすす、そんじゃあ。ここよ〜!

あたしは雅恵の胸の間を思いっきりクリックしたっ!

ぐらりっ。と、視界が、世界が歪む。

この世の理を離れ。

あたしは違和感と不快さに包まれる。

きたきたきたーっ!

画面のあの娘の映像が大きく、大きく、大きくなって。

そして…

あら?

真っ暗だ。目が開かない。

ん〜っと。

クワッ!

お、開いた。

目が合う。

あれ?中村くん?

な、なんで…

「な、なんじゃあこりゃあ!」

「ほえ?」

「あっ?」

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“マイ☆;すごい。こんなはっきりした人面疽は初めて!”

“まんとらまん:大成功!”

“あべちゃん:てゆうか、お取り込み中…エロ実況(ぐはっ”

“まんとらまん:男、いるし(笑)”

“みどろ:はだか イヤンw”

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な、な、な、何がどう…、

「いや〜ん、何これ〜!?」

雅恵の絶叫が響く。

え、え〜っと。

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“マイ☆:ノゾたんの彼氏、結構タイプかも。”

“みどろ:ここはラブホでつね。”

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な、なんで中村君が…雅恵が…

ああっ!

あたしが人面疽になってる!?

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“まんとらまん:気付いてなかった模様。”

“あべちゃん:気付いてなかったんかいw”

“みどろ:胸の谷間のすぐ上に見事な人面疽できてまつ。”

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はああ?うそ、うそ?

なんで〜?

憎い相手に性格が悪くて醜い人面疽を付けてやりましょうって。

あ、あたしが人面疽ですかぁ〜。

視界の下のほうにあるもの。

これはおっぱいですか。

うわっ結構でかいな。

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“マイ☆;うみゅ。”

“まんとらまん:でか。彼氏の気持ちも分かるかもw”

“みどろ:マニュアルは良く読みましょう。”

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「お、おい、雅恵、それなんだよ、気持ち悪いっ!」

「し、し、し、知らないわよ。

 何これ〜、やだ〜」

く。想定外だけどっ。

兎に角、中村くんは渡さないっ!

「くくく。

 淫乱女め〜。
 
 呪いを受けよ〜」

あたしはなるべくおどろおどろしい声を上げる。

「いや〜!」

「おい、雅恵、お前何やって…」

「し、し、知らない…」

「けけけ。

 中村くんと別れなさーい。
 
 けけけけ。
 
 くけけけけけけけ」

あたしは狂ったように声を上げる。

「ああああ〜って、

 これ黒井に似てなくない?」

「え、そう言えば?」

ち、ちょっと待てぇ〜!

雅恵は備え付けの鏡でじっくりと観察にかかる。

あたしは必死に変な顔をして他人の振りをする。

「やっぱり」

「ちがう〜。

 関係ない〜」

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“みどろ:てゆうか、ノゾたん、そんな顔だったのでつか。”

“マイ☆:あはは。”

“まんとらまん:幻滅しますた。落ちます。”

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おいおいおいおい〜!

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「あたしはこんな不細工じゃな〜い!」

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“みどろ:おいっ”

“マイ☆:あはっ☆”

“あべちゃん:おいおいw”

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あ、あれっ?しまった?

中村君が指であたしの鼻をピンっと弾く。

「痛い〜」

「やめてよ、正二ぃ〜」

あたし達の悲鳴がかぶる。

人面疽を物理的に排除しようとしても無駄だ。

傷は即座に回復するし、痛みや感覚は本体と共有するのだ。

へ?共有…

中村くんの手が、火のついた赤い蝋燭に伸びる。

ほえ?

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“マイ☆:いやん。そっちの方?”

“みどろ:ほほお。”

“まんとらまん:落ちるのやめまつw”

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「黒井〜、何の嫌がらせだぁ〜?」

「あつ、あつ、あああああ、熱い〜っ」

ろ、蝋燭が…あつ…

「ああん。あはあん」

「あち。

 あち。
 
 あ、やめてえええ」

よ、避けられない〜!

てゆうか、動けない〜!

「あふん。

 あああん」

「ちょ。

 目は。
 
 目はっ。
 
 やめっ」

あちゃちゃちゃあっ

「くくく」

中村君っ。

こんな趣味が…ああっ。

あはんっ。

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“みどろ:ノゾたんも感じてきました。”

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ち、ちが…

「洗濯バサミで鼻を…こう…あはは」

「やめてぇ〜」

パシンッ!

「あああんっ。

 あふう」

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“マイ☆:ほへえ”

“みどろ:うわ、すご。”

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あああん。

違う。

違うの。

これは、雅恵が。

雅恵の体がっ。

ああん。

ひいいいっ。

雅恵の秘所に巨大なバイブが挿入され、スイッチが入れられる。

だ、駄目…あわわわわ。

おかしくなりそう…

ういーん。

ういーん。

ういーん。

ういーん。

はあああっ。

「歯を立てるなよ!」

中村くんの声が耳元でしたかと思うと。

巨大なペニスがあたしの口に挿入される。

「もがぁ」

し、振動が…、

「ふんっ。

 ふんっ。
 
 ふんっ」

中村君のっ。

動きにっ。

あたしはっ。

ああっ。

あああっ。

イっちゃうう〜。

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“あべちゃん:今回の呪いは失敗しますた。”

“みどろ:終了でつな。もうレッドゾーン越えそうでつ。”

“マイ☆:うみゅ”

“まんとらまん:うわ、友達呼んでたのに間にあわねえ。 おやー( ´∀`)ノシ”

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ああああああっ。

あたしがイくと同時に。

安全装置が作動し。

呪いは強制終了された。



あ、あぶなかった〜。

もう少しで調教されて奴隷にされちゃうとこでした。

でも大丈夫。絶対安全がセーフティ・カースの良い所だ。

はあ。

あたしはくた〜っと机に突っ伏す。

なかなか上手くいかないわね。

でもま、中村くんがああいう人だって分かったし。

良かったのかもしんない。

別れて正解ね。

画面にはお勧めメニューに、

素敵な彼を探すお呪いセットの広告がUPされていた。

うん。これは買いね。
クリックっと。

今の二人の記憶を消す呪いも5万でしてくれるらしい。

アフターサービスだ。

…頼んどくか。自分でやって失敗しても困るし。

クリックっと。

そして、大きなバイブの広告。

さっきの奴じゃん。

クリックっと。

あ〜なんだかむかつくな〜。

あたしは呪いの協力者募集中の部屋の中から適当なものを探す。

“あたしの彼を取った憎い女(上条さやか:19歳)の復讐に協力して下さい!”

これで、いっか。

クリックっと。

あたしは部屋に入り挨拶する。

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のぞみ:ほんっと、許せないよね!あたしも協力するわっ!



おわり



この作品はあむぁいさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。