風祭文庫・異形変身の館






「根性なし少女」



原作・あむぁい(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-114





そう、あたしに根性があれば…



あたしは今日も苛められていた。

放課後の理科室。

「やめてよぉ!!

 お願いだから離してぇ!!」

泣き叫びながら懇願するあたしは

理恵と直子の二人がかりでに押さえつけられていた。

「理恵ぇっ

 そのまま押さえといて」

足をばたつかせるあたしを理恵一人に任せて直子は去っていくと

しばらくして小さな水槽を手に戻ってきた。

「なっなに?」

直子が持ってきた水槽をあたしは目を見開いてみると、

ゲコッ

その水槽の中には一匹のガマガエルが入っていた。

「ひぃ!!」

醜いガマガエルの姿にあたしは悲鳴を上げると、

「ふふっ」

直子は口元で笑みを作りながらそのガマガエルを掴みあげ、

ペチョッ!!

あたしの顔にそのガマガエルを押し付けた。

「いやぁぁぁ!!」

理科室にあたしの悲鳴が響き渡る。

すると、

「ねえ、ヒロミ〜、

 このカエル君はあなたの事が好きなんだってー」

とガマガエルを押しつけながら直子はあたしに言う。

すると、

「きゃはっ

 そうよチュウしてあげなよー。

 ほら、王子様に変わるかもよ」

あたしを押さえていた理恵も囃すと、

「あはは。

 そりゃいーや。
 
 ほら、さっさとキスしな」

「い…、いや…、」

「さっさとしな」

直子たちの声にたちまちあたしを恐怖が支配する。

しかし、そんなあたしに構わずに直子はガマガエルをさらに押しつけると、

「うっ」

ついにあたしは自分でガマガエルに顔を近づけた、

気持ち悪い。

何を考えているのか考えていないのか。

ガマガエルと目が合う。

何でこんな事…

いやな感触が唇に触れる。

直子はぐいっとそれを押し付け、

あたしは思わず顔を背ける。

「ねえねえ。

 王子様じゃなかったかもかもー」

「いやいや、

 キスじゃ駄目でもセックスなら戻るかもよ」

「あはは、そりゃいーや。

 よし、脱ぎな!」

じょ、じょ、じょ、じょーだんじゃない!

あたしは力任せにドンッと直子を突き飛ばすと

ダッシュで飛び出した。

「あ、こいつ…」

後ろから2人が追いかける。

ひーんっ。

「てめえ、逃げてんじゃ…」

「おーっと、

 直子選手思いっきり振りかぶって…、」

「ねーよっ!」

「投げました!」

ビターンッ!

嫌な音と感触が背中で聞こえ。

その衝撃であたしは気を失った。



………………

「うわー、

 どーなってんの、これ?」

「キショイ…」

気がついたあたしの目の前には直子の巨大な顔。

あ、その隣には理恵も巨大化している。

なんで?

「あ、目が覚めた」

「おーい、ヒロミ?

 聞こえてる?」

「ごごご、ごめんなさい」

あたしは恐怖にとらえながらも口を開く。

「良く聞こえねーな。

 しゃべってんのかな?」

「さあ…?」

「許して。

 もう、逃げたりしないから…」

「なんか、口を開いてるみたいだけど…

 声が小さくて…」

「ねえ、どうすんのよ、直子…これ?」

あたしは自分の体が自由に動かないのに気が付いた。

手や足が何かに貼り付いたように動かない。

首もそこそこの角度しか回らない。

「どーするったってなあ。

 あたしらのせいじゃないし」

巨大理恵と巨大直子もコクコクと頷く。

「ね!

 え!
 
 な!
 
 に!
 
 が!
 
 お!
 
 こ!
 
 って!
 
 る!
 
 の?!」

あたしは声の限りに叫んだ。

「ああ、しゃべれるんだ。

 ヒロミあんたさあ。
 
 小さくなって、カエルのお腹に貼り付いちゃってんのよ」

は?

…、、

は?

「ねー、どーすんのよ?」

「新種のカエルって事になんないかしら?」

「やい、ヒロミ!

 あたしらのせいにしやがったら、承知しねえぞ!」

巨大直子がドスを聞かせる。

ええっと。

あたしが小さくなってる!

そんで、カエルと…はあ?


「いっそ、爆竹でもケツに詰めて証拠隠滅…」

「あはは。そりゃいーや。

 それ、行こう」

じょ、冗談じゃない!

「いや、あたしは冗談で…うわっ!」

びょおおおおおん。

急にあたしの体は中空に飛び上がりっ!

落ち…落ちるぅぅぅぅぅ!

ひ、ひゃあああああああああ。

10mはあっただろうか。

衝撃にあたしはクラクラする。

びょおおおおおおん。

ふわああああああ。

また。

視界が上がり…下がる。

「あ、こら…」

「待て…」

遠くで直子達の声が…

びょおおおおおおん。

ふわああああ。

激しい浮遊感。

そして落下の衝撃。

あたしは…

びよおおおおおん。

やめて…、

びよおおおおおおん。

うえっ。

びよおおおおおおん。

うええええっ。

びよおおおおおおん。

うぷっ。

あたしは酔って、

思わずお腹の中の物を戻してしまう。

これは。

朝食べた、蝿ね。

勿体無い。

あたしはごくりとそれを飲み込んでしまった。



おわり



この作品はあむぁいさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。