風祭文庫・異形変身の館






「樹怨 Act2」
(第七話:キニナッタアイツ)


作・風祭玲

Vol.1073





『沼ノ端はその昔、江波(えなみ)と呼ばれていました。

 村の礎を築いたのは

 時の皇帝から不老不死の霊薬を届けるよう言われ、

 大陸より共の者を引き連れて渡って来られた徐福様。

 徐福様は江波に広がる森の奥、

 そこに不老不死の霊薬を生み出す霊木があることを

 夢枕に立たれた仙人より聞かされ江波に来られたのです

 この地に来られた徐福様はまず湖の辺に皆が暮らすための村を開き、

 その村で元から住んでいた地の者達に、

 大陸の進んだ技術などを伝え、

 さらに森に入り不老不死の霊木を探しました。

 そして、

 徐福様が江波に来られてから5年が過ぎたある日、

 ついに、霊木の実を見つけることが出来たのです。

 見つけたのは徐福様臣下の道士。

 その知らせを聞いた徐福様は大いに喜ばれ、

 早速、供の者を引き連れて

 道士が待つ森の奥へと向かったのですが、

 しかし、徐福様は江波には戻ってはきませんでした。

 霞の奥に入られた徐福様は

 不老不死となってま仙人になられたのだと、

 見送った村人達はそう思い。

 仙人になられた徐福様をお祭りするための社

 竜宮神社を建立し、

 森に入った徐福様たちの持ち物が見つかった場所に

 奥の院を建立したのです。

 以降、選ばれし巫女が交代で森に入り、

 奥の院を御守してきたのですが、

 しかし、明治時代に大事件が起きてしまいました。

 奥の院を御守していた巫女が社を抜け出して、

 祝言を挙げたばかりの新婚夫婦を襲ったのです。

 巫女は新婚の夫を殺め、妻に重傷を負わせると、

 夫の亡骸を奥の院に運びいれて自らの命を絶ちました。

 巫女の横恋慕による心中事件でした。

 そして、この事件を境に神域の霞は濃くなり、

 やがて奥の院は廃れてしまったのです…



 …で、実はその事件を起こした巫女、

 柵良明日香はあたしの曾曾婆ちゃんの妹なんです。

 静かだった村が大騒ぎになってしまって大変だったとか、

 でもなんで、あんなのことをしたのか、

 曾曾婆ちゃんはさっぱり理解できなかったそうです』



「ぎぇぇぇぇぇ〜」

夜空に向かって流星号の雄たけびを背中で聞きながら、

私は眼下を動いていく森を見つめていた。

『地獄で聞いた話とは微妙に違うけど、

 でも、符号は概ね一致する…な』

柵良茉莉から聞かされた沼ノ端の歴史を思い起こしながら

腕を組み頷いてみせる。



ひゅぉぉぉぉぉぉっ

世間一般的には今夜は七夕の夜ではあるが、

アジア・モンスーン気候帯に属するこの国の気候では、

7月7日は雨季の真っ最中。

ロマンチックに星空を眺めるなど土台無理な話である。

『また降りそうだなぁ』

前線上を接近してくる低気圧のせいだろうか、

湿気は時を追うごとに増し、

山の至る所から靄が湧き出している様子が

遠く沼ノ端の街明かりを受けて見えてくる。

そして、次第にあの駐車場が見えてくると、

バサァッ!

私は高度を下げ始めるが、

『何だ?

 あれは…』

駐車場から森の奥に向かって伸びる道、

その道の先が半分に切った

漆黒の巨大な球状の影に覆われている様子が

目に飛び込んできた。

『え?

 なんだよこれぇ…

 神域って上から見るとこうなっているのか?』

球体の影の周りをぐるりと旋回しつつ、

私はその様子を探ろうとするが、

あいにく夜のため、

詳細を知ることは出来ない。

『んーーーーっ、

 どうするか』

影に近づいたり、

離れたりしながら私はしばし考え込むと、

一旦、地上に降りるべく

この場を離れて駐車場へと進路を変える。



国道脇の駐車場には柵良茉莉のクルマが、

神域への道の一番近いところに止められ、

その周囲をレミングのものと思える乗用車や、

マイクロバスが無造作にとめられている。

『ったくぅ、

 あいつら、

 一体何人兵隊を引き連れているんだ?

 ちゃんとビザを取っているのか?

 入国管理局の人間も呼べばよかったな。

 不要入国のガイジンが大勢入り込んでいるって…

 って、そんなことをしたら、

 私もしょっ引かれるか…

 不法入国のアフリカ人として』

一人で突っ込みを入れながら、

バサッ

バサバサッ

翼を羽ばたかせながら私は駐車場に降り立つと、

『ぎえぇぇぇ!』

役目を終えた流星号は私から離れ何処へと飛び去っていく。

『さて』

肩の止血をしながら私は周囲を見渡すと、

ゾロゾロゾロ

またしても人影が動き、

こちに寄ってきた。

『居残り組か、

 これはまたご親切に』

それらを見ながら私はため息を付くと、

ビシッ

人差し指を突きたてた右腕を振り上げ、

『私の名は、

 マッチョマンZぉぉぉ!

 私は、

 かぁーなぁーりぃー強いっ。

 闇の力のシモベ達よ、

 とっととお家に帰りなさいっ!

 言うことを聞かない悪い子は、

 マッチョマンZがお仕置きよ!』

と高らかに宣言をしてみせる。

しかし、

「うぉぉぉっ」

私の口上が終わるや否や、

大陸風鎧を身につけたレミングが一斉に飛び掛ってきた。

『こらっ、

 なんだ、その恰好。

 蒙古来襲だな、まるで!』

明らかに時代錯誤的なその姿に私は指摘すると、

「うるさいネ」

「大人様からこの格好をするよう、

 申し付かったネ」

「こんな恰好、

 したくはないんだけど、

 大人様の命令は絶対あるネ」

レミング達も半ばイヤイヤながらの返事をしてみせる。

『なるほど、

 事情はどうあれ、

 マッチョマンZを前にして

 戦いを挑むその勇気は天晴れ。

 ならば、こっちも全力で相手をしよう

 まっちょ・ぱーんちっ・モーションU!

 マッチョ・百烈拳!!!!

 むんっ

 アータタタタタタタタタタ

 タタタタタタタタタタタタ

 タタタタタタタタタタタタ
 
 タタタタタタタタタタタタ

 アタァ!』

私は上半身の筋肉をさらに盛り上げると、

飛び掛ってくるレミングたちの秘穴を次々と突きながら、

彼らを一列に並べていく、

そして、

『これで仕上げだ。

 まっちょ・ぱーんちっ・モーションX!

 マッチョ・張り手ぇぇぇ!!!』

の声とともに、

ズンッ

左足を踏み込むと、

ブォォォンッ

列の先頭に立つレミング目掛けて張り手をぶちかました。

ドォォォンッ!

張り手を食らったレミングは

まるでボウリングのピンを弾き飛ばすかのごとく、

夜空に打ち上げられていくと、

次々と西の空の星になっていく。

『秘穴を突かれた君達は一本の大木だ。

 そのまま祖国に落下しても死ぬことはないっ

 なぁに、一晩もすれば元に戻る』

彼らを吹き飛ばしたあと、

決めセリフ気味に私はそう言うと、

『さて、

 では行くか』

人っ子一人居なくなった駐車場を後にして

私は神域に向かって歩き始めた。



『やはり…

 いつもと違うな』

壁のように立ちはだかる漆黒の壁を前にして

私は顎に手をあてて考え込む。

すると、

『どうしたんだい』

すっかり存在を忘れていた久兵衛が話しかけてきた。

『居たのか?』

『失礼だなぁ、

 僕は君のパートナーだよ。

 君の影となって君を支えるのが、

 僕の役目さ』

『へぇーっ、

 その割には、

 さっき、レミングを吹き飛ばした際、

 そこの物陰から

 ”あぁ、契約がぁ…”

 とか言ってなかったか?』

久兵衛に向かって私は指摘すると、

『さぁ、何のことかな?』

と彼は丸く赤い目で私を見上げながらしらばっくれてみせる。

『ふんっ、

 マッチョ・イヤーを見くびるなよ。

 まぁどうせお前のことだ、

 あのバリケードのところで

 ありったけの契約を取って来たんだろうよ、

 魔法少女にならないか?

 って声を掛けてな』

『鋭いな、キミは。

 さすがは閻魔大王が認めただけのことはある。

 あぁ、そうだよ。

 君のお陰で大盛況だったよ、

 僕の営業成績は同期の中でトップ間違いなしだ』

私のその指摘に久兵衛は胸を張って見せると、

『マジ…?』

彼のその返事を聞いた私はフリヒラ衣装を身につけ、

自称・魔法少女と化した警官やレミングたちの姿を思い浮かべると、

言いようもない悪寒が襲ってきた。



『で、いつまでここで立ち止まっているんだい。

 君の残り時間もそんなにないだろう?

 変身を解いて出直すかい?』

漆黒の壁を前にして立ち止まっている私に向かって

久兵衛は尋ねると、

『ここまで来て出直しは無いっ、

 今夜中にカタをつける』

と私は返事をすると一歩を踏み出した。

ところが、

ゴツンッ!

『あいたぁぁぁ!』

まるで硬い壁に当たったかのように私の体は弾かれてしまうと、

痛みを堪えながらその場に蹲った。

『やはり心の壁だったか。

 マッチョマン。

 君はここから先にはいけないよ』

そんな私に向かって久兵衛は言うと、

『そういうことは、

 先に言ってよぉ!』

涙を流しながら額を押さえる私は抗議する。

すると、

『そうは言っても、

 この中に入らないとならないんだ。

 里枝と茉莉が待っているんだから』

と言いながら立ち上がると、

『そうまでして

 私の拒むのか、

 里枝…』

とどこかの指令のごとく呟き、

『ならば、

 これでどーだ。

 里枝の心に響けっ

 まっちょ・どーらむーーーっ』

の掛け声とともに、

ドドドドドドドドド!!!!

私は厚く盛り上がった胸板を叩き始めた。



ドドドドドドドドド!!!!

ズズズズズズズズズ!!!!

ズゴワァァァァァァ!!!!

ドラムの振動に共鳴して地面が揺れると、

周囲の木々がサンバを踊り始める。

しかし、

キーン!

漆黒の壁はびくともせず、

その表面に波紋一つ動かなかった。

『くっそぉ!

 ならばっ、

 まっちょ・ぱーんち!』

ゴォォーーン

『いったぁ!』

『ならば、まっちょ・ふぁいやー!』

『だめか』

『まっちょ・いやー!』

『まさか、なにも聞こえないだとぉ??』

『まっちょ・かったー!』

『げ、全部はじかれた』

『まっちょ・すくらんだー!』

『こらぁ流星号、どこに行くんだ!!』

はぁはぁ

はぁはぁ

マッチョマンZの7つの脅威のうち、

6つを使ったものの、

しかし、漆黒の壁は依然びくともしない。

『くっ、

 ならば、最後のまっちょ・れいがんっ!!』

と声を掛けながら、

私は右手に左手を沿え、

右手で指ピストルを作ると、

その照準を定めた。

そして

マッチョパワーをその先に注ぎ込もうとしたとき、

『ちょっと待ったぁ!』

またしても久兵衛が割り込んできた。

『なんだよっ』

『マッチョ・レイガンは1変身で発射は1回が限度だ。

 しかも、レイガンが打ち抜けるのは、

 霊的エネルギー体のみ。

 そういう設定に君はしたはずだ。

 いまここでそれを使ってしまったら、

 だれが三浦里枝の執着を撃ちぬくんだ』

と久兵衛は言う。

『なんだとぉ!

 だ・れ・が、

 里枝を撃つって言ったぁ?』

それを聞いた私は怒鳴りながら久兵衛を掴みあげると、

『…三浦里枝の執着はそれを望んでいる。

 君の手に掛かり、

 滅せられることを望んでいる』

久兵衛は感情の無い声で指摘した。

『私の手に掛かってだとぉ

 出鱈目を言うなっ』

その久兵衛に向かって怒鳴り返すと、

『智也ぁ、

 樹を甘く見ない方がいいよ』

と警告してきた。

『甘く見るなって?』

『樹は何のために根と張っていると思う?』

『いきなり何を言うんだ?

 そりゃぁ決まっているだろう。

 栄養を…養分を土から摂るためだろう?

 私を馬鹿にするなっ』

『やれやれ、

 君は何もわかっていない』

『なんだとぉ?』

『いいかい?

 樹が根を張るのは養分を取るためだけではない。

 情報をやり取りするためでもある。

 無論一本の樹が根を張る範囲は限られている。

 しかし、二本、三本と樹が連なり、

 さらに林、そして森となると、

 樹の情報収集力はケタ違いになる。

 しかも、この森は地獄が定めたいわゆる拠点の森であって、

 三浦里枝は曲がりなりにもそのご神木だ。

 君が嵯狐津野原や地獄で君が誰と会い、

 何を話したのかは筒抜けだろう。

 そう、君のマッチョ・イヤーと同じようにね。

 にも拘らず三浦里枝からのアクションは何も起きていない。

 それは彼女は君の目的を受け入れた。

 そう考えるのが普通では無いか?』

『それは…

 いまの里枝が身動きが取れてないからでは?

 体が重いって夢で言っていたし』

『なるほどね。

 ならば行って見ることだ。

 そうすれば答えが見えてくる』

久兵衛は急に投げやりの言葉をかけると、

そのままどこかへと立ち去っていく。

『なんだよっ、

 ここを何とかしてくれるんじゃないのか』

苦々しく久兵衛を見送りながら私は文句を言うと、

「どうするか、

 ん?

 これは…」

履いているビルダーパンツの中に

里枝の小枝が紛れ込んでいることに気付いた私は

それを取り出すと、

『ひょっとしたら』

とアイデアが閃くや、

『これでどうだ』

とばかりに漆黒の壁に押し当てる。

すると、

ズボッ!

ついさっきまで固い岩のような感触だったはずの壁に

私の腕がめり込んでしまうと、

『うわっ!!!』

まるで引っ張られるようにして

私は中へと取り込まれてしまった。



ズブズブズブ…

ズズズズズズ…

『たっ助けてくれぇ…』

情けない声を上げながら私は腕を精一杯伸ばすが、

しかし、その手を掴んで引き上げる者は現れず、

『うわぁぁぁぁ』

悲鳴を上げながら私は奥へ奥へと押し込まれ、

そして、

『もう、駄目だ!』

観念しかかったとき、

ズボッ

私は漆黒の壁を突き抜け

反対側へと飛び出してしまった。



『え?

 あれ?

 あっ…

 なんとか出られた。

 見たい…』

結界の向こう側は本来なら神域の筈。

しかし、周囲を見渡してみると、

地面は淡い緑色に輝き、

その光を受けて周囲の木々の葉もうっすらと輝いている。

『気味悪いな…これは』

神域とは明らかに違う空気を感じていると、

『ひどい有様だねぇ

 ご神木の不調はここまでとは

 僕の想定外だ』

いつの間にか久兵衛は私の足元に居て、

周辺の雑草を嗅ぎながらそう指摘する。

『お前、

 繰り返すけど、

 どこから湧いて来たんだ?』

久兵衛に向かって私は尋ねると、

『細かいことは気にするな、

 先を急ごう。

 いまこの神域は微妙なパワーバランスにある。

 にも拘らず残された気配から見て、

 20人近い人間がすでにここを通っている。

 ご神木が心配だ』

タッ

感情など無縁と思っていた久兵衛が見せる焦りに

私は言いようもない不安を感じつつ奥の院へと向かって行った。



本当に茉莉はここに居るのだろうか、

そんな疑問を持ちつつ、

『なぁ、久兵衛っ、

 さっき20人近い人間が通っているって言っていたろ、

 それってレミングだと思うけど、

 私は入るのに散々苦労したのに、

 なんで奴らは入れたんだ?』

と尋ねると、

『さぁね?

 結界を通過する際に改めて調べてみたら、

 結界はご神木の心の壁…と言うよりも、

 結界がご神木の作用によって心の壁へに変わり、

 その心の壁を森の木々が神木を森から切り離すために

 防壁に作り替えたそう考えた方が合っている。

 森の木々から外されるってよほどのことだぞ、

 で、レミングと言う連中が入れたのは、

 恐らく、

 神域の管理人と同時に入ったせいじゃないかな?』

『神域の管理人…というと、

 やはり茉理…』

久兵衛の話を聞いて

私はここに茉理が居ることを確信したとき、

『居た!』

かつてここにあった奥の院の社殿跡。

その社殿跡に立つ里枝の近くで

一人女性が立っているのが見えてくると、

目を凝らして人物をを特定する

間違いない、茉莉のようだ。

『茉莉ぃ!』

彼女に向かって私は声を張り上げると、

ハッ

私の声に気づいたのか、

彼女は顔をこちらに向け、

そして私を見た途端。

「きゃぁぁぁぁぁ!!」

大声で悲鳴を上げながら、

顔を両手で塞いで見せた。



『え?』

予想外の彼女の反応に私は驚くと、

『ふむっ、

 君のその姿は

 まだ広く一般公開してなかったんだね』

と久兵衛は頷いて見せる。

『え?

 あっいや、

 そっそうか、

 柵良さん。

 私です。

 牛島智也です。

 いまわけあって、

 マッチョマンZ…じゃなくて、

 超マッチョマンの姿になっているんです』

と彼女に向かって言い訳をしてみせると、

「その声、

 あなたは…

 本当に牛島さん?」

顔を上げた茉理は聞き返した。

『そっそうです。

 ちょっといろいろありまして…、

 柵良さんは、

 レミング…じゃなかった、

 変な外国人の一団に攫われて、

 ここに連れて来られたんじゃないですか?』

「攫われたわけはありません。

 でも、まさか本当に奥の院に来ることができただなんて、

 ご神木は始めて見るんです』

私の質問に茉理はそう言いながら里枝を指さした。

『そのご神木は…』

彼女の言葉を受けて私は里枝を見ると、

『なにこれ?』

私はあまりにも変わり果てた里枝の姿を見て絶句する。

『夢だ…

 夢の中の…姿…だ』

地面から無数に伸びるツタは里枝の幹に幾重にも絡み、

さらに彼女の胸や腕が変化した枝を這い上がると、

天に向かって広げているはずの枝先には里枝自身の葉はなく、

代わりにツタの葉が生い茂っている。

そして、何よりも里枝の体全体から、

どす黒い陰のオーラが吹き上がっているのだ。

まさに夢の中で見た里枝の姿と同じだった。

『これが里枝だって?

 ウソだろう…』

衝撃の光景に私は呆然としていると、

「そんなにこの樹っておかしいのですか?

 あの、牛島さん。

 牛島さんが入院してから、

 私、会社のお金を横領したことにされて、

 それで、自宅待機にされて、

 もぅどうしたら良いのかわからなくなって、

 そうしたら、

 全てを解決するから、

 ご神木のところに連れて行ってほしい。

 言われたんです。

 だから…」

と茉理はここに来た理由を言う。

すると、

「君は誰ネ?」

の声と共に、

カツンッ

カツンッ

私を茉理を裂くようにして杖を突く老人が現れた。

『誰って、

 そういうあんたこそ、誰だよ』

老人に向かって私は言い返すと、

ジャキジャキジャキンッ

たちどころに男たちが現れ、

私に向かて一斉に銃口を向けた。

そして、

「いきなりパンツ一枚の男が現れたと思ったら、

 ただのアフリカ人じゃない。

 どこから紛れ込んだの?

 ここはあなたのような未開の男が来るところではない。

 早々に立ち去りなさい」

と病院で私に最後通牒をした女が現れ、

追い払うようなしぐさをしてみせる。

『お前はっ!!』

その女を見て私は指をさすと、

「なんです?

 何か不満ですか?

 我々がその気になったら、

 お前の国などすぐ乗っ取って、

 資源をすべて掘りつくしてあげるわ。

 さぁ、どこの国の出身なの?

 その体の特徴はから見て…

 大方、東海岸の国かしら?」

女は蔑むような目で私を見つめ、

高らかに笑って見せる。

『ふんっ、

 何を言い出すのかと思ったら、

 ただの成り上がり自慢か?

 生憎、私の国籍はこの島国なものでね。

 お前たちのような、

 まっとうな常識を持ち合わせていない連中とは

 違うんだよ』

「あら、言うわね。

 パンツ一枚の素っ裸のあなたが何ができるっていうの?

 ふんっ、汚らわしい。

 良いことを教えてあげましょうか、

 この星の人類を100人の村に例えると、

 私たちは30人近い多数派なの、

 それに比べてお前たちはたったの2人。

 村の決め事は多数の私たちが決めてどこが悪いの?

 民主主義は多数決なんでしょう?

 だったら多数の私たちに従うのが筋じゃない」

『じゃぁ、他の70人はどうなんだよ。

 70対30じゃぁお前たちが少数じゃないか。

 その理屈ならお前たちが従う方が筋だろう』

「私たちは血の結束で結ばれています。

 裏切るものはどこにもいません。

 それに比べて70人はあなた方は砂のように脆い。

 そうではありませんか?」

『話にならないな、

 はいはい、

 この手の話はここでおしまい。

 続きは自分の国に帰って言ってくれ。

 ここには私の大切な人が居てな、

 今からその人を助けに行かないとならないんだ。

 お前たちの夜這い言には付き合っている暇はないんだ。

 そんな物騒なモンは仕舞って

 さっさとお国にお帰りなさい』

シッシッ

と手で払う仕草を見せると、

「生憎ここは徐福様の森であって、

 私たち森です。

 出ていくのはあなたの方ですよ」

と女は言い返す。

『はぁ?

 いつこの森の権利がお前たちのモノになったんだよ』

その言葉に私は言い返すと、

「えぇ、間もなく私たちのものになりますわ、

 あの女を亡き者にすればね」

と女は茉理を指さした。

『なっ、

 馬鹿なことをするなっ』

それを見た私は声を上げると、

「すべてを決めるのは、

 わが主・大人様よ、

 さぁ大人様、

 指揮を執ってください…」

焦る私を見下すように女は言うと、

あの杖の老人の手を取った。

私と茉理との距離はまだ20m近くある。

しかも、里枝も彼女すぐそばだ。

マッチョ・ドラムを叩くにしても、

時間的に間に合わないし、

マッチョ・パンチ・百裂拳は相手が散らばりすぎている。

マッチョ・カッターは里枝を傷つける可能性があるし、

マッチョ・ファイヤーは論外だ。

『くっそぉ!』

臍をかみしめながら私は女をにらみつけると、

「いいわ、

 その何も出だしができない、

 悔しそうな眼。

 その目で見られると、

 わたし、ぞくぞくしちゃう」

と女は言いながら身もだえて見せ、

「それに

 あなた、勘違いしているみたいだけど、

 この樹はね、

 徐福様なのよ。

 2000年前に不老不死の霊薬を手に入れた徐福様は

 樹になって私たちを待っていらしたの。

 私たちは徐福様を連れて行かなければなりません。

 さぁ、お話は終わり。

 その女ともども始末してあげますわ」

私との会話を打ち切った女は手を上げると、

『馬鹿野郎っ、

 何が徐福だ。

 その樹はな、

 14年前に樹になったばかりの私の女だ』

「はぁ?

 いちいちうるさい男ね。、

 やってしまいなさい」

の声と共に、

その手を振り下ろした。

すると、

ガガガガガガガ!

男達が構える銃が一斉に火を噴き、

「牛島さんっ!!」

茉理の叫び声が響くのと同時に、

「おーほほほほほ」

女の勝ち誇った笑い声が響き渡る。

だが、

『MT(マッチョ)フィールド!、

 展開!!』

シュワァァァァァ

私はマッチョマンZの防護壁。

MTフィールドを展開すると、

たちまちつむじ風が巻き起こり

弾はすべてその軌道をそらした。

「なっなんなのこれぇ…

 っていうか、

 くっさいっ」



きゅっぷい、説明しよう。

マッチョマンが大量の発汗を行うことによって展開されるMTフィールドは

その特性から強烈な汗臭を周囲に拡散させる欠点がある。

だが、それもある意味攻撃力としてとらえるなら、

これはマッチョマン・8番目の脅威として認めるべきかもしれない。



「ぐわぁぁ、

 臭いヨ」

「臭い

 臭い」

「助けてくれぇ」

一斉にふりまかれた汗臭に周りの男たちも、

皆鼻をつまんで咽びだすと、

『これは使えるぞ』

『使える?』

『そうだ、

 マッチョマンの種を使って、

 彼女を、

 柵良茉理をマッチョマン化させるんだ。

 早く!』

と久兵衛は私の肩に飛び乗り指示をする。

『マッチョマンの種ってなんだそれは』

『いまの射撃でここの許容量以上の穢れが撒かれた。

 ここのパワーバランスが崩れ始めている。

 一刻も早く、茉理をマッチョマンにするんだ。

 君は自分が設定したマッチョマンの設定忘れたのかい?』

『あっ』

その言葉に私はハッとすると、

ギュッ

右手をきつく握りしめて見せる。

すると、

ポロッ

ポロポロ

と白い錠剤のようなものが零れ落ちてきた。

そうこれがマッチョマンの種であり。

この種を飲むことで、

一般人でもマッチョマンになれるのである。



『柵良さんっ、

 マッチョマンの種だ」

そう叫びながら私は茉理めがけて種を飛ばすと、

「え?

 なに?」

レミングたちと同じように

鼻をつまみ口で呼吸している茉理がこっちを向いた。

そして、その口に種が飛び込むと、

「!!っ」

ゴクリと飲み干してしまったのである。

「あっ…

 体が…

 体が熱い…」

程なくして茉理はそう訴え始めると、

「あっ

 なに?

 いやぁ!

 体が膨れる。

 筋肉が膨らむ、

 いやぁ、

 いやぁ

 いやぁぁぁ!」

そう叫びながら、

バリバリバリ

着ていた服を引き裂きながら、

漆黒に染まっていく肉体を晒していく。

そして、

ブルンッ

見事にバストアップした胸が揺れ動くと、

『まっまっ、

 マッチョマン!
 
 レディ!!!』

茉理はトップレスの漆黒筋肉美女、

マッチョマン・レディに変身したのであった。

「おぉっ」

女性の素体でありながら、

見事な筋肉美と豊満なバスト。

それを目の当たりにしたレミングの男たちは

「あいやぁ!」

皆一斉に股間を抑えて見せる。

『よっよしっ』

彼らの注意がそれたことに

私は手ごたえを感じると、

シュンッ!

『ちょっと、

 これはどういうことですか』

里枝の傍より

一瞬のうちに移動してきた茉理が

私に向かって怒鳴り飛ばした。

『詳しいことは後だ、

 それよりも、

 こっこれを履け』

と青いビルダーパンツを手渡す。

『え?

 これって?』

パンツを渡された茉理は改めて自分の股間を見ると、

その直後、

『いっいやぁぁぁ!!』

悲鳴を上げた。

無理もない、

マッチョマン・レディへの変身の際、

下着まで引き裂いてしまったのだから…



慌ててビルダーパンツを履いた茉理が、

私と背中合わせとなって構えると、

レミング対マッチョマン、マッチョマン・レディの構図となる。

「全く、

 お前たちは変なことをする。

 もぅ許さないネ」

体勢を立て直した女が怨嗟の炎を吹きあげて立ち上がると、

『茉理…

 あっいや、

 マッチョマン・レディ

 二人そろってMTフィールドを展開するぞ、

 臭いでレミングの鼻を捻じ曲げるんだ』

背後に立つ茉理に私はそう指示をすると、

『あの、くっさいのをあたしもやるんですか?

 いやです。そういうのは』

と拒否反応を示した。

『それは、私も同じだ。

 でも、そうしないと

 この場を…』

そう言いかけたとき、

キーーン!

神域の場に何かが走りると、

と同時に、

ボッ!

地面から湧きたつ緑の光がその輝きを増した。

『!!っ

 どうしたの?』

『何かが変わった…?

 久兵衛っ!』

『まずいことになった。

 バランスが一気に崩れだした。

 呪が発動するぞ!

 そこの君たちもすぐに逃げるんだ。

 そうでないと、
 
 とんでもないことになるぞ』

「何ごちゃごちゃ言っているの

 手加減無用!

 やって…」

久兵衛の警告にもかまわず、

女がそう叫び声を上げるが、

すぐに声が止まると。

ミシッ!

女の足から樹の根が生えだしたのである。

「え?

 なにこれ?」

みるみる地面へと潜っていく自分の足に女は驚くと、

「うわぁぁぁ」

「助けてくれぇ」

銃を構えていた男達も悲鳴を上げ、

皆足を地面に潜らせ始めた。

『これは…』

間違いない、

14年前、里枝を樹にした樹化が

レミングたちに襲い掛かっているのである。

『いやぁぁ

 助けて!!』

空に向かって伸ばした腕を樹の枝に変化させながら、

女は悲鳴を上げるが、

しかし、私はただそれを見ているしかできない。

『久兵衛っ』

久兵衛に向かって私は問い尋ねると、

『パワーバランスが崩れて、

 翠果の実に掛かっている呪い、

 樹化呪がワイルドカード状態で発動したんだ。

 ここ地面に足を付けているものすべてに、

 樹化の作用が働きだしている

 まさに暴走だね』

と原因を指摘する。

『それって、

 私たちもまずいんじゃ』

『大丈夫、

 君たちは既に変身をしているため、

 化生状態になっている。

 化生には樹化呪は利かない』

『と言うことは…』

久兵衛の話を聞いた私は改めて周囲を見ると、

カランッ

老人の杖が転がり落ちると、

ミシミシミシ…

そこには一本の樹が無言で立っていた。

そして、

「あぐぅぅぅぅ

 あがぁぁぁぁl」

ブシュッ!

ボトボトボト…

あの女が内臓を吹き出しながら最後の言葉を叫ぶと、

彼女もまたモノを言わない樹となっていく。

やがて、動けるものは

私と茉理、久兵衛の3体だけになってしまうと、

『まさか…

 こんなことに』

私は里枝と同じように樹と化してしまったレミング達を

一本一本見て見回っていく。

『牛島さんっ

 これっていったい』

樹から垂れ下がる内臓を見て吐き気を催しているのか、

マッチョマン・レディの茉理は口を押えながら尋ねると、

私は里枝のことも含めて

これまで起きたこと全てを

彼女に包み隠さず話したのであった。



つづく