風祭文庫・異形変身の館






「樹怨 Act2」
(第六話:希望の翼)


作・風祭玲

Vol.1072





『私も同行したいところではありますが、

 いろいろと無理をしてしまったために、

 顔を出さないとならないところがあります。

 申し訳ありませんが、

 先に行っててください。

 こちらの用事を済ませましたら、

 合流いたしますので』

開いたゲートを前にして、

鍵屋はそう言うとすまなさそうに頭を下げると、

「いぇいぇ、

 本来なら私の方こそ鍵屋さんと同行して

 頭を下げて回るところなのですが、

 申し訳ありません。

 柵良茉理のことが気になりますので、

 先に行かせてもらいます」

『座標は彼女の自宅・玄関先、

 時間軸は7月7日、19:00に合わせました。

 できればもうちょっと前にしたかったのですが、

 調整に時間がかかるため、

 これがベストの選択と言うことでお願いします』

「判っています。

 いろいろお世話になりました。

 では行ってきます」

金色のススキの穂が輝く嵯狐津野原。

鍵屋に挨拶をした私は、

その野原に開かれたゲートに向かって踏み込み、

人間界に向けて飛ばされていく。



ジコチュウーなレミング一味より病院を守るための緊急避難として、

私は鍵屋さんにお願いしてこの妖の原、嵯狐津野原に踏み込んだ。

本来なら、さっさと戻ってくるつもりだったが、

予想外の展開から嵯狐津野原の主・嵯狐津姫と会い、

その姫の指示で鍵屋さんと共に嵯狐津野原の裏側こと地獄に赴くと、

この世の”理”と

里枝が樹にされたあの事件の真相を知ることになった。

無論、それだけでは終わらなかった。

閻魔大王より樹になった里枝は私への執着から

化生としては半人前の状態で止まっているため、

ご神木としての役目を果たせずに苦しんでいること、

また、化生には許されない”執着”を抱いているために

もし私が命を落としてしまったら、

彼女は己の執着に引きずられて地獄に堕ち、

待ち構えている獄卒たちの手によって滅せられることになる。

地獄で目撃した衝撃の光景が目に浮かぶ。

獄卒たちが蠢く亡者に金棒を振り上げると容赦なく砕き、

砕いた亡者を様々な責め苦で滅していく。

そうしないと亡者はより固まって猛者となるからだ。

獄卒に切り裂かれ火の川の中でうめき声を上げながら

燃え上がる黒い影の塊。

「もし、あれが里枝だったら…」

体が樹となって私と共に暮らせなくなっても、

心を通じ合えさえすれば大丈夫。

レミングを片づけたらすぐに駆けつけて、

地面に頭を突いて必死になって謝れば、

里枝は許してくれる。

そんな甘い目論見は崩れ去ろうとしていた。

人間ではない化生の身となった里枝。

一方、人間としての時間を過ごす私。

けど、彼女の片足は未だ人間から離れていない。

私はその片足を持ち上げて化生の側に持って行く、

それが私の務めであることを思い知らされた。



トッ

嵯狐津野原から通じる出口より私は人間界に降り立つと、

茉理さんが住んでいる家の玄関口の前に立っていた。

「さすがは鍵屋さんだ。

 ジャストぴったり」

感心しながら、

ピンポーン!

「柵良さぁーん」

呼び鈴を押し声を上げるが、

しかし、いくら声をかけても中からは返事が返ってこない。

「居ないのかな?」

訝しがりながらドアノブに手を掛けると、

チャッ

ドアは軽い音を立てて開いて見せる。

「鍵がかかっていないのか

 不用心だけど、

 しっ失礼しまぁす」

困惑気味にドアを開けてみると、

パサッ

私の目の前に一通の封書が舞い落ちる。

「封書?」

怪訝に思いながら封書を拾い上げるが、

封書には封がされてないため、

拾い上げた途端、

中の書面が滑り落ちてきた。

「おっと、

 何が書いているんだ?」

本来なら読んではいけないものであるが、

ついつい私は文面に目を通してしまうと、

「ちょちょっと待って、

 これってどういう…」

目を丸くしながら驚きの声を上げた。



【遺書】

『お父さん

 お母さん

 そして、私に情けをくれた方々。

 先立つ不幸をお許しください。

 私は、

 自分の欲望のために、

 職場の大切なお金に手をつけてしまいました。

 とても許されるものではありません。

 私は私が許せないのです。

 ごめんなさい。

 本当にごめんなさい。

 私は自分の命で償いをいたします。

 ですから、

 私を探さないでください。

 お願いいたします。

 もし、許されるのであれば、

 森の土地は徐大人様に全て寄贈いたします。

 私は森の土となって眠りに付きます。

 さようなら

 篠田茉莉』

「なんだ、これは!!!」

遺書の体裁はとってあるものの、

全く持ってレミングのご都合通りの文面。

「この遺書はレミングが書いたものだ。

 こうして置いておくことで、

 茉理さんを自殺に見せかけて、

 あの森を乗っ取るつもりだ。

 茉理さんはあいつらに攫われたんだ。

 くっそぉ

 レミングめぇ!」

歯軋りをしながら私は遺書を叩きつけると、

「とにかく、

 追いかけないと!」

焦る気持ちに突き動かされるように

私は茉理の自宅を飛び出していた。



鍵屋と別れてしまった手前、

この場から効率よく移動する手段は生憎無い。

「この際、タクシーやバスでも構わない」

そう思いながら私は表通りに向かって走っていくと、

ドンッ!

「うあっ」

何かに蹴躓いてしまうと

盛大にひっくり返ってしまった。

「いてててて」

打った腰に手を当てて堪えていると、

「うっ牛島じゃないか」

と榊部長の声が響く。

「え?」

その声に私は顔を上げると、

私が蹴躓いたのは道路に倒れていた榊部長だった。

「榊さん。

 どっどうなさったんですか」

助け起こしながら倒れていた理由を尋ねると、

「お前こそ、

 この数日間、

 病院を抜け出して何処をほっつき歩いていた!」

逆に榊部長に怒鳴られてしまう。

「すみません。

 ちょっと色々ありまして」

「お前なぁ、

 バカもいい加減にしろ!」

「申し訳ありません。

 ところで何があったんです?」

「実は…」

誰かに襲われたのか、

痛みを堪えながら榊部長は

ここで起きたことの一部始終を話してくれた。



「あいつらぁ!」

茉理を攫い、

榊部長にけがを負わせ、

逃走していったレミング一味の悪行を知った私は

さらに怒りを燃え上がらせると、

「牛島っ、

 彼女が危ない。

 おっ俺のクルマを使え」

と榊さんは自分のクルマのキーを差し出してみせる。

「榊さん。

 判りました。

 彼女は僕が護りますっ」

119番通報ののち、

クルマのキーを受け取った私は

無傷の榊さんのクルマへと乗り込んだ。

そして、キーを回そうとしたとき。

ふと、あることが思い浮かぶと、

私はハンドルに両肘を付け。

口の前で手を組むと、

「マッチョマンよ、私だ。

 プロデューサーUだ」

と徐に喋りだす。

「君に使命を伝えよう。

 依頼者は柵良茉莉。

 彼女は”とあるジコチューなレミング一味”に命を狙われている。

 君の使命は攫われた柵良茉莉を探し出し、

 彼女を無事保護することだ。

 健闘を祈る!」

そう続けたのち。

「マッチョマンっ

 発進!」

の掛け声と共にキーを回すと、

ギャギャギャ!

ゴワァァァァァ!

爆音を残してクルマは夜の闇の中へと飛び出して行く。



ゴワァァァァ!!!!!!!

私が運転する榊部長のクルマは

爆音を上げて沼ノ端市街を爆走していく。

”ジェット・榊”

TV局内でそう評される部長のクルマは

走り屋用のカスタマイズがされ、

少しアクセルを踏み込むだけで、

街の夜景はたちどころに無数の光る線となって流れていく。

「さて、

 茉理はいま何処にいるんだ?」

そう言いながら

私は茉莉のスマートフォンから発信されている位置情報を

クルマのカーナビに表示させた。

”何かあったときの為に…”

最初のレミング一味に襲撃される前、

私と茉莉は手持ちのスマートフォンに

お互いの位置を知らせるアプリを

セットアップしていたのであった。



「国道バイパスに入ったな、

 ってことは山に向かっているか…」

森を横切る国道バイパスを移動していく

茉莉を示す光点を見ながら私はハンドルを切り、

タイヤの音を軋ませながらクルマは交差点を左折する。

その途端、

『そこのクルマ止まりなさい!』

サイレンの音伴にその声が聞こえてくると、

いつの間にかクルマの後ろを

パトライトを明滅させている白バイがピタリとはりついてきた。

「ったくぅ、

 こんな所で時間を潰し暇は無いの」

ミラーで白バイを確認した私は、

スピードを落として白バイと並ぶと、

「いま取り込み中だ!

 悪いけどパトカー10台ほどを

 国道バイパスの駐車場に回してくれないか、

 たぶん、警察の手を借りたいことになっているから」

窓を開け白バイの隊員に向かって私はそう怒鳴ると一気に引き離す。

「さて、

 これで駐車場に警察が押し寄せてくるのが確定したけど、

 それまでに間に合うか」

そんなことを考えているうちにクルマは街を抜け、

国道バイパスにに差し掛かってきた。

道の周囲を森の木々が覆い始めると、

もぅここは竜宮神社の広大な境内である。

あの駐車場で止まったことをナビ画面で確認し、

キキキキッ!

T字路を曲がって国道バイパスに入るや、

「いっけぇぇぇぇ!!」

アクセルを踏み抜いた。



ドンッ!

ゴワァァァァ!!!!!!!

ブォォォォッ!!!!!!!

ギャギャギャッ

ゴワァァァァ!!!!!!!

沼ノ端の走り屋達の伝説となっている

群馬・秋名の走り屋チームとの

ヒルクライムを互角に戦った部長のクルマは

その持てるパワーを開放すると

国道バイパスを流星のごとく駆け抜けていく。

そして、私のクルマで向かった場合の

わずか1/3の所要時間であの駐車場に滑り込める。

そう確信したとき、

突然行く手を塞ぐバリケードが姿を見せたのである。

「なにっ!」

それを目視で確認した途端。

ギャギャギャギャギャァァァァァ!!!!!

ギャァァァァァァァァァァァァァ!!!!!

タイヤから朦々と白煙を吹きあげ

部長のクルマは真横を向きながら

コーンをいくつも吹き飛ばし、

バリケードの手前で停車する。

「どこのバカだ!!

 道にバリケードなんて作りやがって、

 ここは公道だぞ!!

 責任者出てこーぃ!」

開けた窓から私は思いっきり怒鳴ると、

ゾロッ

ゾロゾロッ

闇の中から蠢くように大勢の人間らしき影が浮き出てくると、

「兄さん。

 悪いけど、

 ついさっき、この道は通行止めになったヨ」

とにやけながら若い男が話しかけてくる。

「なに?

 通行止めだとぉ?

 ちゃんと警察や県や市の土木課には話を通してあるのか?」

男を睨みつけながら私は聞き返すと、

「その必要はないネ」

「ここは私たちの土地ヨ」

「日本人が立ち入るところではないネ」

と言いながら

男達は二重、三重になってクルマを取り囲む。

「なるほど、

 レミングにはまだこんなに兵隊が居たのか」

彼らを見据えて私は呟き、

ブォォォン!!!!

エンジンを思いっきり吹き上げると、

「さっさと通せっ、

 今夜の私はすこぶる機嫌が悪いんだ」

ブォォォン!!!!

ブォォォン!!!!

ブォォォン!!!!

ブォォォン!!!!

と怒鳴りながら大音響のエンジン音を響かせて、

追い払おうとするが、

「むんっ」

奥から出てきた小山のような男が

クルマのフェンダーに手を添えると、

ググググっ

クルマを押し返しはじめた。

「なに?」

男の馬鹿力に私は驚くが、

「むっむっむっ」

クルマを押す男はさらに勢いづくと、

崖へと押していく。

そして、

「ぬんっ!!」

ガードレールにクルマの後部が当たった途端、

男はクルマをひっくり返すように崖下へと突き落とした。



「しまったぁ!」

クルマと共に私は真っ逆さまに落ちていく。

そして、

「ごめんっ

 里枝ぇぇぇ!」

と声を上げたとき、

『それが君の願いなのかい?』

突然その声が頭に響いた。

「え?」

思わぬ声に私は驚くと、

カッ

あの地獄の木札が光り輝き、

その光の中から耳に輪っかを付けたチンクシャ顔の

白毛におおわれた小動物が姿を見せる。

『初めまして僕の名前は久兵衛…

 君が今度、僕のパートナーとなる裁定役だね。

 さぁ僕と契約を結んで魔法少女…

 おっと、失敬、

 閻魔大王様より君のパートナになるよう指示を受けた。

 しかし、まだ君とはパートナーとなる正式な契約を結んでない。

 僕と契約を結べば君を魔法少女…じゃなくて、

 君を手助けをすることができる。

 さぁ、今すぐ契約を結ぶんだ。

 君には選択に迷う時間は無いはずだ』

赤い瞳で私を見つめながらそういうと、

「そんなに私を魔法少女にしたいのか、君は、

 とにかく判った。

 契約をするから、

 私の力になれ、

 そして、このピンチをなんとかしてくれ」

久兵衛に向かって私は叫ぶと、

カッ!

再び光が輝き、

『君の祈りはエントロピーを凌駕した。

 契約は成立だ。

 さぁ、裁定役よ、

 君に力を与えよう。

 イメージするがいい。

 君の力のイメージを』

輝く光の中で九兵衛の声が響くと、

「私の力のイメージって、

 それは…

 マッチョマン!」

声に促されて、

私はマッチョマンを思いうかべた途端。

メリッ!

みるみる私の体中の筋肉が膨れ始めると、

メリメリメリメリィ!

着ていた服が引きちぎれていく、

そして、

ボンッ!

服が爆発するように弾け飛ぶのと同時に、

筋肉が一気に盛り上がると、

どんな日差しにも負けない漆黒色の肌が晒され、

パァンッ!

股間に青いビルダーパンツが張り付くと、

モッコリと見事なテントを作り上げていく。



『とぅっ!』

バァン!

落下するクルマの屋根を突き破った私は、

先に地面に着地してみせると、

『MT(マッチョ)フィールド!

 展開っ』

の掛け声とともに、

全身の発汗を促すや、

シュワァァァァァ!!

私の周りから猛烈な水蒸気が沸き起こる。

そして、それは上昇気流となって渦を作ると、

ゴワァァァァ

巨大な竜巻となって落ちるクルマを巻きあげた。

『よしっ、!

 ちぇすとぉぉぉぉ!』

地上からそれを確認した私は気合の声と共に、

竜巻の渦に向かって飛び上がると、

『とぉぉぉすっ!』

上昇気流によって静止しているクルマを蹴り上げ、

さらに垂直の崖を平地のごとく一気に駆け上がっていくと、

蹴り上げられたクルマの空中静止点に先回りをし。

地上で唖然と見上げているレミングの真ん中に照準を合わせた後、

「あたぁぁぁぁくっ!」

の掛け声とともに、

渾身の力でクルマにパンチを食らわせた。

その途端、

ギュォォォン!!!!

ドォォォンッ!!!!

クルマは一瞬のうちに音速の数倍の速度となり、

真っ赤に加熱しながら地表に激突すると、

夜の闇に見事なキノコ雲を立ち昇らせる。

「うわぁぁぁ!」

「なにあるネ」

「敵襲あるヨ」

「あぁ、人類の滅亡あるヨ」

衝撃波をまともに喰らったレミングたちは

石をひっくり返した虫のごとく、

たちまちパニックに陥いると、

取り乱す者、

泣き叫ぶ者、

荷物をまとめて逃げ出そうとする者とで、

文字通り修羅場と化してしまった。



ストッ

その混沌の真ん中に私は音もなく着地してみせると、

『むんっ!

 太陽サンサン、熱血パワーっ

 マッチョマンZっ!!

 ただいま参上!』

と口上を言い、

ニカッ

と笑って見せる。

「誰か降りてきたネ」

「あそこを見るネ」

「歯が浮いているネ」

「気持ち悪いあるヨ」

闇夜に浮かぶ白い歯を指さしてレミングたちは声を上げると、

「誰か、

 明かりを点けるネ!」

その声と共に、

カッ!

一斉に投光器の明りが灯され、

私の姿が光の中に浮かび上がった。

「誰ネ!」

「どっどこの国の者ネ」

「なっ名前を名乗るネ」

光に浮かび上がる漆黒の筋肉の塊を見て、

レミングたちは声を揃える。

『さっき言ったろ、

 マッチョマンZだと』

と言ったところで、

『マッチョマンZ?』

私は自分で言った言葉を復唱しながら

眼下を見下ろすと、

自分の肌は漆黒色に染まり、

体の至る所から筋肉が盛り上がっているのが見えてくる。

『って

 え?

 え?

 どうなっているの?』

さらに頭を触ってみると

髪の毛が一本もないスキンヘッドの感触が手に伝わり、

さらに、身に着けているものが

モッコリと盛り上がる青いビルダーパンツ一枚であった。

『って、なんじゃこりゃぁぁぁ!!

 おいっ、

 どうなっているんだ、久兵衛!!

 ちゃんと説明をしろ!』

唖然としているレミングを横に

私は久兵衛の名を呼ぶと、

『やれやれ、

 君たち人間は皆同じ反応をしてみせるね』

と呆れるような口調で、

あのチンクシャ顔が姿を見せる。



『そんなに驚くことはないよ。

 君が念じた、

 君のヒーローを具現化したまでだよ』

私を見上げながら久兵衛と言うと、

『わ、私のヒーローだからって、

 なんで、私がマッチョマンにならないとならないんだ?』

久兵衛を掴み上げ、

それを振り回しながら迫った。

『きゅっぷぃ、

 少しは落ち着きなよ』

『これが落ち着いていられるかっ』

『いいかい?

 いま君は地獄の裁定役であるのと同時に、

 魔法少女…じゃなくて、

 魔法プロデューサーになったんだよ。

 魔法プロデューサーは自分が企画した番組のヒーローになれるんだ。

 だから君はマッチョマンZと言う自分のスーパーヒーローに変身した。

 と言う訳だ。

 君の企画書を読ませてもらったけど、

 マッチョマンにはZというサブネームはついてないね。

 君、独自のオリジナルかい?

 まぁいいや、

 で、

 マッチョマンには7つの脅威があるんだよね。

 ここで存分に発揮してみたらどうだい?

 このピンチを脱出することぐらい、

 たやすいことだろう』

久兵衛の説明と指摘を聞いた私は改めてレミングを見渡すと、

ザザッ

彼らは私から2・3歩後ずさりをして見せる。



『まぁ、

 そういうことなら、

 思う存分っ、

 暴れてやりますか。

 こっちはいろいろとストっレっスっが溜まっているし、

 色々と爆発したい年頃なんでね』

レミングたちを見据えながら、

私は拳の関節をボキボキ鳴らしてそういうと、

『あの男はどーこだ?』

ズシンッ

ズシンッ

地響きを立てながら、

さっきクルマごと崖下に突き落としたあの男を探しはじめる。

「わっわっわぁぁぁ」

レミングたちは蜘蛛の子を散らすかのように、

悲鳴を上げて逃げ惑う中、

私はあの男を見つけ出すと、

『見ぃつけたぁ』

と言いながら腕を伸ばし、

ムンズッ

と男の頭を鷲掴みにする。

そして、自分の目の高さまで持ち上げ、

「ユーに質問がありまーす。

 ここはどこでしょうか?」

と問い尋ねた。

「こっここは…

 わっ私たちの

 とっ土地あるネ」

男はそう返事をすると、

ぐっ

私は無言で男の頭を掴む手に握力を加えた。

その途端、

メキッ

彼の頭から骨がきしむ音が響くと、

「あいやぁ、

 違う、

 違う、

 ここは神社の土地あるヨ!」

男は泣くように叫ぶ。

『お答えいただき、

 ありがとうございまーす』

と男に向かって礼を言うと、

私の周りを取り囲むレミング達を見渡し、

その中でビデオカメラを構えている男を見つけ出すと、

ズンッ

その男の目の前に降り立つや、

「ユー達、

 彼はこのように言いました。

 それは正解ですか?」

と私は男の頭を掴んだまま、

カメラとレミングたちに話しかけた。

すると

「うっ裏切り者。

 お前は大人様を裏切ったヨ!

 裏切り者には死を!」

と一人が声を上げる。

その途端。

「裏切り者には死を!」

「裏切り者には死を!」

「裏切り者には死を!」

一斉にレミングたちは声をそろえて

私の周りに詰め寄って見せる。

『君ぃたちぃ…

 本当に頭の先から尻尾の先までレミングですねぇ」

それを見た私はあきれた表情をしてみせると、

「お前は日本人の肩を持つ悪い奴だ」

その中の一人が私を指さして声を上げた。

すると、

チッチッチッ

私は舌打ちをしながら立てた人差し指を左右に振り、

『わたしは、

 サバンナの勇者・マッチョマンZ!

 君たちのようなジコチューな連中を裁くために、

 遠く地獄からやってきたね。

 いまのそのセリフ、

 サバンナで言えますかぁ?

 地獄の底でも言えますかぁ?

 カメラの向こうのお友達ぃ?

 あなたはどうですかぁ?』

と尋ねる。

「……」

レミングたちは遠巻きにしながらも

誰かを気にするようなそぶりを見つつ、

けん制してくると、

『…所詮は点数稼ぎか』

私はそう呟き、

気を失ってしまった男を放り投げると、

『ムンッ』

筋肉を盛り上げ、

『さぁ、

 どこからでも掛かってきなさいっ!

 マッチョマンZ・地獄の7つ脅威が

 君たちを地獄の底へと突き落としてくれてあげまーす』

と声を張り上げた。



『きゅっぷいっ、説明しよう。

 マッチョマンZ・地獄の7つ脅威とは。

 1つ、マッチョ・パンチ
  マッチョマンの鋼の筋肉が作り出す
  メガトン級のパンチが君を襲うぞ。

 2つ、マッチョ・ドラム
  マッチョマンが胸を叩いた途端、
  たちまち台地は揺れ君は立ってはいられないぞ。

 3つ、マッチョ・ファイヤー
  マッチョマンの大胸筋が真っ赤に染まるとき、
  地獄の業火が君を骨まで焼き尽くすぞ。

 4つ、マッチョ・イヤー
  君が地球の裏側でナイショ話をしていても、
  マッチョマンの地獄耳には筒抜けだ。

 5つ、マッチョ・カッター
  マッチョマンが手刀で空気を切り裂くと、
  空気の刃が現れてどんなものも真っ二つにするぞ。

 6つ、マッチョ・スクランダー
  相棒のハゲワシ・流星号とスクランダークロスしたとき、
  マッチョマンは大空高く舞い上がるぞ。

 7つ、マッチョ・レイガン
 マッチョマンのマッチョパワーがMAXになったとき、
 マッチョマンは必殺技マッチョ・レイガンを撃つことができるんだ。

 地獄からやってきた魔神、それがマッチョマンZだ。

 さぁ、大使館の核シェルターで

 隠れながらこの映像を見ているそこの君。

 今すぐ沼ノ端でマッチョマンと握手!』



「このままやられっぱなしは

 大人様が許さないネ」

「相手は一人ネ」

「全員で掛かれば勝機はあるネ」

レミングの一人が私を指さして叫ぶと、

「うぉぉぉぉぉっ」

その場にいたレミングが一斉に飛びかかってくる。

『よっしゃぁ!

 そうでなくては』

向かってくるレミング達を見て私は構えようとすると、

『ちょっと待った』

と久兵衛が割り込んできた。

『なんだよっ』

『マッチョマンは

 太陽サンサン、熱血パワー!

 が元気の元だろう。

 変身してどれくらい時間が経った?

 マッチョマンの活動限界を考えて行動してよ』

『あっそうだった』

久兵衛の指摘に私はマッチョマンの設定を思い出すと、

『ならば、

 まっちょ、どらぁむぅぅぅぅ!!』

私は盛り上がる胸板を盛大に叩いて見せる。

すると、

ズズズズズズズ

ゴォォォォォォ

たちどころに地面は大きく揺れ、

レミングたちは一斉に足をすくわれてしまうと

次々とその場に転がりはじめた。

そして、

道路をふさぐバリケードに視線を移すと、

『はぁぁぁぁ!』

マッチョドラムで叩いた胸板が真っ赤に腫れ上がり、

一気に体温は急上昇していく、

『むんっ、

 まっちょ・ふぁいやぁぁぁぁ!』

の声と共に拳を握り、

胸を開くように肘を構えると、

カァァァァァァ!!!

私・マッチョマンZの胸から地獄の熱光線が放たれた。

ジュワァァァァァ!

熱光線を浴びたバリケードは瞬く間に溶け落ちてしまうと、

『よし、

 これで国道バイパスの交通は取り戻した』

と満足げに言い、

スッ

私は天に向かって右腕を伸ばし、

さらに人差し指を突き立てると、

『こちらマッチョマン

 流星号応答せよ。

 流星号応答せよ』

と声を張り上げる。

すると、

「ぎえぇぇぇぇぇぇ!!!」

空の彼方より怪音が鳴り響くと、

バサッ!

バサッ!

一羽のハゲワシが姿を見せ、

私めがけて急降下してくる。

『来たな』

それを見た私は一気に助走をつけて飛び上がると、

『すくらんだー、くろぉぉすっ!』

の掛け声とともに、

ガシッ

ハゲワシの爪が私の背中の筋肉にめり込み、

私は血を流しながら空高く舞い上がっていく。

『いたたたっ、

 こらっ爪を立てるなって…

 さっさらばだ諸君っ!!』

私を見上げているレミングたちに向かって、

別れの挨拶をすると、

時を見計らったかのように

ファンファンファン!!!!

無数のパトライトを明滅させながら、

10台以上のパトカーがなだれ込んできた。

『おーっ、

 やっと来たか。

 こらまた特盛で』

上空からその様子を見ながら私は感心すると、

「何ネ」

「日本の警察あるヨ」

レミングたち一斉に動揺するが、

「お前達、

 そこで何をしている!」

パトカーから降りてきた警察官が怒鳴り声を上げた途端。

「官憲なら容赦しないあるネ」

「やるネ」

「者うぉぉぉぉっ!」

レミングは目標を警察官に向けると一斉に襲い掛かる。

「抵抗する気かっ

 公務執行妨害で逮捕するぞ!」

「いまこそ長年の恨みを晴らすときネ」

レミング一味と警察官との殴り合いが始まり、

続々と逮捕者が出ていく。

そして、その争いを横目に、

道路脇のクレーターの中で

無残な残骸を晒している榊部長のクルマを見つけると、

「榊さん…

 請求書はレミングの親玉に回してあげてくれ、

 それがこのクルマの唯一の供養だ」

と呟きながら私は静かに手を合わせた。

「よしっ」

榊部長のクルマの冥福を祈った後、

再び私は茉理の後を追い始める。

あの駐車場まであと少し。

「流星号。

 頼むぞ」

そう背中のハゲワシに声をかけると、

「ぎえぇぇぇぇぇ!」

それに応えるようにハゲワシは声を張り上げた。



つづく