風祭文庫・異形変身の館






「樹怨 Act2」
(第壱話:神域の主)


作・風祭玲

Vol.1066





今から約2千年前、

皇帝の命を受けた徐福なる者が不老不死の霊薬を求めて、

3千人の供の者を引き連れ大陸を出帆した。

彼は東方に向かって長駆遠征を行い、

やがて蓬莱山を望む地にて霊薬を手に入れるが、

しかし、徐福は戻らず、

霊薬を渇望する皇帝の元に届くことはなかった。



良く晴れ渡った五月下旬、

森を切り裂くように伸びる国道バイパスを1台の高級乗用車が疾走していく。

特殊処理されたフイルムによって運転席以外は巧みに隠され、

後部座席に誰が乗っているのかを知ることは容易ではない。

やがて、国道バイパスに張り付く駐車場に乗用車は停車すると、

少しの間を置いていかにも”その筋”と思える男2人が

助手席と後部ドアから降り立ち周囲を警戒する。

程なくしてこの場の安全を確認したのか互いに頷いてみせると、

閉じられていた別の後部ドアが開き、

情報端末を手にする若い女性と、

大陸人風の年配の老人が降り立った。

「大人、

 この森が徐福が訪れたと言われる森です」

女性はそう老人に説明をすると、

老人は手にした杖で、

コンッ!

と駐車場のアスファルトを叩き、

周りの景色をジックリと眺めた後、

遠くに望む第三新沼ノ端市を街影を見下し、

風の匂いを嗅ぐ素振りをしてみせる。

その直後、

「!?」

老人は何かに気付くと、

手にしている杖で駐車場より森の奥へと伸びる草生した道を指し、

すぐに歳に似合わない速さでその道に向かって歩き始める。

「あっ!

 大人!」

それを見た随行者達は慌てて彼の後を追い始めると、

「なりません。

 お急ぎになりたい気持ちはわかりますが、

 このままこの奥に踏み込むことは危険です。

 この森の中にあるという不老長寿の神木を確保するまで、

 お待ちください」

と諭し始める。

「・・・・・・!」

「・・・・・・っ」

「・・・・・・!!」

「・・・・・・。」

老人を囲みしばしの間議論となるが、

やがて、老人が折れたのか、

「・・・・・・っ」

ある指示を女性に向かって下すと、

乗ってきた乗用車に乗り込んだ。

そして、深々と頭を下げる女性一人残して

乗用車が走り去って行くと、

「わたくしです。

 はいっ、

 そうです。

 決定です。

 各員は事前に決められた役割に従って行動を起こしてください」

携帯電話に向かって女性がそう話すと、

「…始皇帝が手に入れられなかった霊薬。

 我々の手で是非…」

と森を見上げながら呟く。



月が代わり、

梅雨に入った6月。

「牛島さぁーん!」

TV局のスタッフルームに女性の声が響き渡ると、

「おうっ」

スタッフ達と番組の打合せをしていた

私は顔を上げずに返事をする。

”みんなのアイドル・超マッチョマン”

満を期して手がけることになったこの番組は、

TV人としての自分の全てを賭けて、

絶対に成功させる。

私はその思いで全力疾走していた。

「牛島さーん、

 牛島プロデューサーっ!

 いらっしゃるんですよねぇ。

 お客様が見えられていまーす」」

声はすれども自席にはその姿が見えない私を探すように

女性はそう返すと、

「女性の方でーす。

 ”お若い”方でーす」

と”若い”を強調して続けた。

「!!!っ」

その最後の声が響き渡るのと同時に、

私の周囲で資料を見ていたスタッフの視線が一斉に持ち上がり、

まるで今にでもレーザービームを発射しようとするかのごとく、

その視線が私に向けられた。

「牛島…プロデューサーぁ。

 若い女性だそうですよ〜」

「待たせるのは失礼だと思いますがぁ〜」

「私たちのことはお構いなくぅ〜」

「売り込みでしょうか、

 どちらの事務所の方なんでしょうねぇ〜っ」

「資料をひとつ、よろしくお願いしま〜す」

まるで無限地獄を彷徨う亡者が、

天から伸びる蜘蛛の糸で吊り上げられていく者を

見送るような口調で話しかけてくる。

「さっさぁ、

 だっ誰だろうなぁ、

 こんなに忙しいときに」

それらの声に向かって私はそう返すと、

いそいそとスタッフルームを後にして、

指定された打ち合わせコーナーへと向かっていく。

「あれ、

 黒蛇堂さんではないですか」

打ち合わせコーナーで私を待っていたのは、

異国風の黒衣を纏う黒蛇堂本人だった。

『お久しぶりです、牛島さん』

「あぁ、どうも…」

私を見て会釈してみせる黒蛇堂に、

やや戸惑いながら私は挨拶をすると、

「職場に来られるなんて、

 珍しいですね」

と話しかける。



私が彼女・黒蛇堂と出合ったのは、

大学を卒業しTVマンとしての人生を歩み始めた、

アシスタント・ディレクター時代。

とある情報番組の取材で彼女のお店を訪問したときだった。

”巷の女子高生達の間で話題になっている不思議なお店”

そう銘打ったまさに突撃取材だったが、

TVカメラの前に立ってくれた彼女から放たれるオーラが、

樹となって神域で一人たたずむ里枝のそれと似ていることを感じると、

私はここでの取材を打ち切ることを決断した。

そして、スタッフには適当な理由をつけて引き上げようとしたとき、

『あなたを遠くから見守っている方が居ますね。

 その方は人から化生(けしょう)の身となっても、

 あなたのことを常に想っています』

と告げたのである。

「里枝の事を知っている…?」

彼女からの思いがけないその言葉に私は驚き、

後日、ここを訪れてこれまでの経緯を説明をすると、

『そうですか、

 それは良い決断をしましたね』

と彼女は私が下した決断について同意をしてみせる。

「でも…

 何も罪が無い里枝が、

 ただ、ご神木の木の実を食べただけなのに。

 あんな姿にされてしまって…

 今でも頭に浮かぶんです。

 里枝の体から根が生えて、

 腕が枝になって、

 そして、

 泣きながら内臓を吐き出して樹になっていく姿が。

 でも、私は何も出来なかった。

 彼女の顔から目玉が零れ落ちていくを

 ただ見ていただけなんです。

 ”覚悟を決めたから”

 そんな理由をつければ、格好良いかもしれません。

 でも、思うんです。

 もし、里枝に掛けられた災いを取り除くことに

 私が全力で努力をしたら、

 もっと違った結果になっていたかもって、

 けどそれをしなかった。

 いえ、出来なかった。

 あの時、私は何をどうすべきだったのか、

 どうするべきが最善の方法だったのか、

 見失っていたんです。

 その結果、

 私は里枝が樹になっていくのを見ていただけなんです」

信じられないことを親身になって聞いてくれる黒蛇堂に

つい心を許してしまった私は本音を話してしまうと、

『そうですか、

 でも、あなたはその時、

 限られた情報の中であっても、

 熟慮し、

 最善の選択を行い、

 それを実行しました。
 
 そしてそれによって今があります。

 熟慮して得られた結果について

 悔やむ事はないと思います。 

 ところで、災いを取り除く…

 さっきあなたはそう仰いましたが、

 あなたは彼女の身に起きたことを”災い”だと思っていますか』

と彼女は私に質問してきた。

「え?」

その質問に私は驚き、

「災いって、

 あれが災いではなければ何だと言うんです。

 私があんな選択をしてしまったから、

 里枝は私を許してはくれないんです。

 あの場所で動かない体を嘆いて

 後悔しているんです。

 私を恨んでいるんです」

そう断言して食って掛かると、

『彼女はあなたを許してはくれないのですか?』

と聞き返してきた。

「だって、そうでしょう。

 里枝が樹になって、

 もぅ5年が経っているんですよ、

 にも拘らず、

 未だに里枝の気持ちを知る術がありません。

 里枝を樹にしたあの巫女・明日香は

 時間が掛かるけども、

 話しかけていれば里枝の霊力が高まって、

 私の魂と直接離すことができるようになる。

 そう言っていましたが

 でも、未だに話す事ができません。

 間違いなく里枝は私を許してはいないんです」

黒蛇堂に向かって私はそう断言します。

『なら、

 会いに行って見ましょうか』

私の話を聞いていた彼女はそう言うと、

『さっ、彼女の元に案内をしてください』

そう言いながら私に手を差し伸べたのです。



夕刻。

私が運転するクルマは国道脇の駐車場に静かに停車した。

「ここです」

車内の黒蛇堂に向かってそう言って下りると、

スッ

黒蛇堂は駐車場に下り、

チラリと森を見ると、

『判ります。

 あちらの奥ですね』

と森から伸びる草生した道を指してみせる。

「はぁ」

彼女が先頭に立って私は分け入っていくと、

やがて、目の前にあのモヤが立ち込めはじめた。

「ちょっと待ってください。

 このモヤはちょっと危険ですので、

 私と手をつないでくれませんか」

モヤに入ろうとする黒蛇堂に向かってそう言うと、

『ふふっ、

 大丈夫です。

 これは俗生…そう人間界から神域を護るための結界です。

 何も危ないことはありませんよ』

と彼女はモヤの正体を指摘して見せた。

「結界?」

『はい…

 わたしにとってはカーテンの様なものですが、

 そうですねぇ』

と言いながら黒蛇堂は考え込む仕草をしてみせる。

すると、

モヤの奥から一人の人影が突然姿を見せると、

見る見るこちらに近づいてきた。

「だっ誰だ!」

他人の立ち入りなどあり得ないところでの人影に私は驚き、

声を上げて警戒すると、

「(…まさか、里枝?)」

ついそんな期待をしてしまった。

しかし、姿を見せたのは男性であり、

身に纏っているローブ風の衣装と、

体から放たれるオーラが

彼が黒蛇堂と同じ類の者であることに気づいた。

『こんにちは、鍵屋さん』

『気配がしたので来てみれば、

 黒蛇堂さん、あなたでしたか』

顔見知りらしく二人は和やかに会話を始める。

「あのぅ…」

そんな二人に向かって私は話しかけると、

『そうでした。

 鍵屋さん。

 鍵を一本下さりませんか?』

と黒蛇堂は鍵屋に言う。

『どういう理由で?』

『この方はこの奥に居る方のために

 危険を冒してここを通っています。

 ですので、

 結界を安全に通行できるよう、

 鍵を渡してあげてください』

『なるほど、

 ここ数年、

 この結界を通っている人が居ると思いましたが、

 あなたでしたか。

 黒蛇堂さんのお目に適った方なら、

 鍵を渡しても安全と言うわけですね。

 良いでしょう。

 鍵をお渡しいたします』

黒蛇堂の話を聞いた鍵屋はそういうと、

私を見つめ、

『名前を仰ってください』

そう話しかけてきた。

「え?

 えぇっと、

 牛島

 牛島智也といいます」

と鍵屋に告げると、

スッ

いつの間にか私の手に一本の鍵が握らされていた。

「これは…」

近代的なセキュリティーキーとは違って、

アンティークなデザイン鍵をみて驚くと、

『その鍵は俗世と異界とを繋ぐ道を作る鍵です。

 あなただけにしか使えませんが、

 取り扱いには注意してください。

 火元取扱責任者…

 あなたの世界では”鍵”を持つも者は

 そのような役で呼ばれていますよね。

 そしてあなたはその役が持つ意味を

 重々承知しているはずです』

と鍵屋は私に言います。

「はっはい…」

『過ちは犯さないでください。

 あなたの命で代償を払うことにもなりますので』

鍵屋のその言葉に私は手にした鍵をきつく握り締めると、

フワァ

立ち込めていたモヤが動き、

私の前に道が作られていく。

「道が…」

『では参りましょう』

「はい」

黒蛇堂と私はモヤの中に

切り開かれた道を進んで行ったのです。



神域にたたずむ一本の樹。

天に向かって大きく伸びる枝と

地面からそそり立つ幹との分岐部には 

逆三角の形を作る三つの窪みがあり、

それらは周囲の樹皮のしわ模様の効果もあって、

まるで人の顔の様な姿をしている。

この樹こそ私の彼女だった三浦里枝の今の姿であり、

三つの窪みは樹となっていく彼女が

唯一残した人としての証であった。

そう、里枝はここで

根を張り、

枝を伸ばして、

人から樹に変身したのである。



「また来たよ、

 里枝」

返事が返ってくるのを期待するかのように、

私は話しかけると、

空ろな窪みが残る”顔”を撫でてみせる。

しかし、返事は相変わらず返ってこない。

クッ

私は唇をかみ締めると、

「なぁ、

 何時になったら私に話しかけてくれるんだよ」

と言いながら”顔”を撫でる手を離し、

樹皮が覆う幹を2度、3度と拳で叩いた。

すると、

『そう叩かないでください。

 彼女が痛がっているじゃないですか』

と黒蛇堂は私を諭した。

「え?」

彼女の言葉に私は驚くと、

『初めまして

 こんにちわ、

 里枝さん』

と彼女に向かって頭を下げた。



「あっあなたは里枝の声が聞こえるんですか?」

驚きながら私はたずねると、

『えぇ、

 はっきりと聞こえますわ。

 確かに怒っていらっしゃいますね。

 でも、その理由は

 いくら里枝さんがあなたに話しかけても、

 あなたがまったく聞く耳を

 持ってくれないことに対してですし、

 それと、

 そうやって暴力を振るうことについてです』

と彼女は里枝の代弁をしてみせる。

「そんな事言われても…

 里枝っ!

 わっ私にはまったくお前の声は聞こえないだぞぉ、

 何処に向かって話しかけているんだよ。

 私はここに居るぞ」

里枝に向かって私は怒鳴り声を上げるが、

しかし、いくら耳を澄まして見ても何も聞こえない。



「なぁ、黒蛇堂さん。

 教えてくれ。

 どうすれば里枝と話をすることが出来るんだ?」

黒蛇堂にすがる様にして私は懇願すると、

『牛島さん。

 リンゴの美味しさと言うのはどういうものなのでしょうか』

と彼女は私に尋ねてきた。

「え?

 いや、それってどういう意味があるんです?

 私は里枝と話をしたいのですが…」

『私はリンゴを食べたことがありません。

 教えてください。

 リンゴの美味しさとはどういうものなのでしょうか。

 その美味しさについて説明をしてくれませんか』

「いや、

 それは…

 その…

 あの…

 リンゴの味って、

 甘くって…

 酸っぱくって…

 シャリシャリしてて、

 えーと、そんなものです…が」

『甘くって

 酸っぱくって

 シャリシャリってどういうものでしょうか?』

「えぇ!!」

ひょっとしたら本当に彼女はリンゴの味を知らないのかもしれない。

でも、どうやってその説明をすれば良いのか…

ここにリンゴがあればすぐに判らせるんだけど。

真剣に私を見つめる黒蛇堂の顔を見て、

私はじれったい気持ちになっていると、

『いまあなたは私にリンゴの味を体験させたいと思っていますね』

と話しかけてきた。

「え?」

彼女の口から出てきたその言葉を聞いた私は

”まさか釣り?”

と疑うと、

『いいえ、

 試したわけではありません。

 あなたが言葉の力を誤解していることを判って欲しかったのです。

 言葉とは言葉を交わさなければ意味がありません。

 あなたは里枝さんと言葉を交わすことが目的ですか?

 動くことができない彼女の体から発せられる言葉を期待しているのですか。

 そうではないでしょう。

 彼女の気持ちを知りたいのでしょう。

 言葉を交わすことが彼女の気持ちを知る手段でしょうか。

 リンゴの足を知らない私にリンゴの味を体験させたい。

 そう念じたのと同じように。

 あなたの心を里枝さんに体験させてあげたい。

 そう思えばいいのです』

と私に向かって黒蛇堂は言います。

「私の気持ちを体験させる…

 それってどうやって」

『ここは人の領域ではありません。

 人としての連絡手段を考えてはダメです。

 目的を考えてください。

 そうすれば道が開きます』

困惑する私に彼女はそうアドバイスをする。



「手段を考えずに、

 目的を…って

 私は…

 里枝をただ話しをしたいだけなんだ。

 いまの彼女が何を考えて、

 何を思っているのかを知りたいだけ」

黒蛇堂のアドバイスに

私はそう思いながら里枝を見つめると、

「なぁ、どうすれば

 お前の気持ちを知ることが出来るんだ」

そう呟きながら自分の背中を里枝の体につけ、

天を仰いで見せた。

とその時、

「!!っ」

突然、自分の背後に人の気配を感じた。

慌てて振り返るが、

しかし、目に入るのは里枝だった樹の幹のみ。

「まさか」

そう思いながら今度は目を閉じ、

幹に背中をつけて全ての感覚を背中に向けた瞬間。

「…里枝」

私は彼女の存在を実感したのであった。

ツーッ

大粒の涙が閉じた目から零れ落ちてくる。

そして、

「なんだよ、

 そこに居たのかよ」

彼女を背中で感じながら私はそう呟くと、

体全体を震わせるように里枝の怒鳴り声が響き渡った。

「悪かったよ、

 無視していたわけじゃないよ。

 気がつかなかったんだよ。

 ごめんっ

 ごめんよぉ」

5年ぶりとなる里枝との会話。

気がつけば私は5年前に戻り、

それから里枝と共に積もる話を何時までもしていた。



「黒蛇堂さんには、

 本当にお世話になっています」

前に座る黒蛇堂に私は頭を下げると、

『いえ、

 あの時は本当にお力になれて良かった。

 と思いました』

頭を下げる私に彼女はそう会えすと、

『ところで』

と話を振ってきた。

「はい?」

その声に私は返事をすると、

『最近、里枝さんと会われていますか?』

そう尋ねてきた。

「それは

 もぅ逢っていますよ」

『最後に逢ったのは何時ですか?』

「えぇっと、

 最後に逢ったのは…」

黒蛇堂の指摘を受けて私は、

最後に里枝と話をした日のことを思い出そうとする。

1週間前?

いや違うな…

2週間前?

いや、

あれ、ひと月?

まさか、ふた月?

え?

そんなに前だっけ?

春の夕日を受けて受けて金色に輝く里枝に向かって

超マッチョマンの企画書を見せて説明をした日。

私にとって決して忘れられない日だった。

けど、あの日って確か3月であり、

そしていまは6月。

サァァァァ…

見る見る自分の頭から血が下がっていくのを感じながら、

ガタッ!

私は慌てて立ち上がると、

「しまったぁ!!!!!」

と頭を抱えてみせる。



「異動の引継ぎとか、

 マッチョマンの企画などで

 休日返上で走り回っていたから、

 里枝のことが後回しになっていた」

頭を抱えながら私はそう声を上げると、

『それがお判りになれば良いです。

 早く彼女の所に行ってあげてください』

と黒蛇堂は話すと、

『本日お伺いしたのはそのことを告げにです。

 良いですか、

 里枝さんはご神木になってしまったとは言え、

 元は人間です。

 そのこと、決して忘れないでください』

仕事に流されて里枝のこと忘れてしまった私を軽蔑しているのか、

やや冷たい口調で彼女は言い残して私の前から去って行く。

「とにかく直ぐにも、

 里枝のところに行かないと」

大慌てで私は自席へと戻っていくと、

スタッフルームがなにやら騒がしくなっていた。

「どうした?」

事情を聞いてみると、

「あぁ、

 牛島プロデューサーっ、

 大変です。

 番組の収録中に事故が発生しました」

私を見つけたスタッフが数名、

顔を青くして駆け込んでくると、

「なにぃ!」

スタッフルームに私の怒鳴り声が響き渡った。



つづく