風祭文庫・異形変身の館






「ナツツバキ」


作・風祭玲

Vol.1122





ぱぁん!

ぱぁん!

乳白色の朝もやの中、

無心に樹の幹を叩く音が辺りに響き渡っていく。

ぱぁん!

ぱぁん!

音は日が昇るまで響き、

やがて靄を払うように朝陽が昇ってくると

「ふぅ」

流れ落ちる額の汗をぬぐう意思草と共に人影がのそっと動いた。

「よっしっ、

 今朝はこれまでにするか」

乱れた髷の頭を左右に振り、

人影は叩いていた樹の枝にかけていた浴衣に向かって手を伸ばすと

不意に枝先の蕾に視線を動かす。

「そろそろ、花が咲くかな」

その言葉を残してのっそのっそと人影は体を揺らし去っていった。



差し込む陽の光は木々の葉を照らし出し、

その光は樹の枝の先でほころび掛けていた花が開く力になっていく。

一輪、

その樹にとって最初の花弁が開くと、

それを合図に次の一輪と白い花弁が枝先で開き、

淡い緑一色だった樹に花弁の白が付け加えられていく。

そして、開いていく花弁の刺激は樹の枝から幹を通り、

土の中で広がる根へと伝わると、

・・うん?

地の底に溶けていた意識が湧き上がるように”彼女”が目を覚ました。

人の目覚めとは違い、

”樹となった”彼女の目覚めは時間がかかる。

そんな彼女を促すように花々は次々と開いていくと、

・・あっ

・・あたし、起きれたんだ

目覚めの意識がまとまり、

無事起きれらことに安どしたかのように呟くころには、

樹はすべての枝に満開の白い花を開いていた。



・・この感覚、

・・あぁ、花が咲いている。

・・ってことは、また1年が経っちゃったのね。

満開の花をつけていることを彼女は実感すると、

ふと自分の記憶を手繰ろうとする。

しかし、浮かんできたのは自分が樹になったときの甘く辛い記憶であった。

・・やめ

・・やめ

彼女は浮かんできた記憶を急いで打ち消そうとするが、

しかし、人間であった時の親しい人の姿が浮かんでくると、

・・もぅ

それから逃れるように意識を根から幹・枝葉の先へと回しはじめた。

自分の体を支え、貧欲に土から水と一緒に養分を吸い続ける根。

それらを上に向かって運ぶ幹。

幹から別れ根のように広がる枝。

陽の光を敏感に感じ取り、呼吸をする葉。

そして、葉を押しのけるように花弁を開き他の生き物を寄せる満開の花。

人であった痕跡などどこにもなく、

一本の樹となっている自分の姿を彼女は実感すると、

・・あたし、花を咲かせているんだよね

と彼女はつぶやく。

・・もぅ何回目になるのかな、こうして花をつけるのって。

・・樹になってからの事はいつまでも覚えることができないけど、

・・何十回って花をつけているような気がする。

・・あいつはもぅ居ないのか。

・・人間は死んだら土に還るっていうけど、

・・樹になったあたしは土に還ることなく、土で生かされている。

・・やだ、なんか哲学みたい。

意識の中で彼女は苦笑いしてみせると、

・・そうだ、周りの樹達に挨拶をしないと

と彼女は自分の体を支えている根に意識を向け、

根を通して周囲で競うように生えているほかの樹に向かって挨拶を投げてみた。

しかし、彼女の声への返事は無く、

・・・オハヨ

・・・オハヨ

返ってくるのは軽い言葉の草などからの返事だけだった。

・・なによ、草ばっかり。

不満そうに彼女はつぶやくが、

”森に生える樹の一本になる”

その覚悟で人里離れた森の中で樹となった彼女にとって、

他の樹からの返事が返ってこない状況は不安を覚えるものであった。

・・ねぇ、誰か?

・・誰か樹はいないの?

思いっきり声を張り上げて彼女が叫ぶと、

・・・よぉ!お目覚めか?

遠くの方から返事が返ってきた。

・・あっ

その声に彼女は安どするものの、

しかし、その声は彼女が知る樹の声でなく、

さらに近くにいるはずの樹からの返事はなかった。

・・どうしちゃったんだろう

・・あたしだけが一人ぼっちになっている?

と彼女は孤独感を感じていると、

・・ヒャァァ

突然草の悲鳴が上がり、

それとともに

のっしっ

のっしっ

と何かが地面を踏みしめるように近づいてきた。

・・誰?

・・まさか、あいつが来たの?

・・生きていたんだ。

土の中を広げた根で感じる二本足で迫る者の感覚に彼女は嬉しさを覚えると

・・こっちよこっち!

樹の体でそれを表現しようと出来る限り葉を揺らしてみせるが、

しかし、それは風に揺れる葉の動きよりも小さなものだった。

程なくして

「・・・・・」

彼女に向かって声がかけられたように感じられたが、

しかし、彼女にはそれを聞き分ける耳は樹になった時に捨てさせられ、

周囲で生い茂る葉から感じ取れる声は不鮮明なものだった。

・・うーん、

・・なんて言っているのかな

・・ハッキリと言って

そういいながら彼女は前に立つ者に迫ろうとするが、

しかし、樹の体では相手に抱き着くことすらできず、

・・もう!

彼女が樹の体を恨めしく思ったとき、

ムンッ

幹に手が添えられた。

そして、

ズズズーッ

前に立つ足が滑るように後ろに下がった瞬間。

パァン!

彼女の体・樹の幹が思いっきり叩かれたのであった。



・・きゃっ!

突然のことに彼女は悲鳴を上げるが、

だが樹があげる声は相手に届くことはなく。

パァン!

パァン!

と左右交互に幹が叩かれる。

・・ちょっと

・・何をするの?

・・あたしが樹だからって

・・そんな、パンパン叩かないで

・・幹が擦れちゃう!

叩く相手に向かって彼女は声を張り上げるが、

だが、

「ふんっ!」

パァァン!

「ふんっっ!」

パァァァン!!

相手は次第に気合いを入れていくと、

幹を叩く力が強くなっていく。

・・やめてぇぇ!!!

その場から逃げたくても樹ゆえに一歩も動けない彼女はひたすら叩かれ続けられた。

やがて、

パァァァン

「ふぅぅぅぅ…」

最後の一発を轟かせると、

相手は髷が結われた頭を幹にこすり付けるように当てて大きく息を吐いく。

程なくして

のっし、のっし

と体を揺らして去ってくと、

・・なっなんなの?

・・あれ?

残された彼女は呆然としていた。



彼女は遠くに離れたところに生えている樹との会話で、

自分が根を張っている森が人間の手によって大きくいじられたことを知った。

・・そんな、

・・じゃぁあたしの周りの樹はみんな切られてしまったの?

・・・あぁそうじゃ。

・・・お前さんは寝ていたのか。

・・・人間たちが大勢山に入ってきてな、

・・・おまえさんの周りの樹はみんな切られてしまって

・・・土は均され、

・・・草どもが植えられたんだよ

・・・それどころか大きくて重い建物が建てられてな、

・・・本当に困ったものだ

・・それって、森はなくなっちゃったの?

・・もぅ、目が見えればどうなっているか見えるのに

彼女が樹になる直前、

根が張り動けなくなった彼女の体に集ってきた無数の虫によって

目をえぐられ視力を奪われたことを悔やんだ。

・・・まぁ、そこに残されたことに感謝するんだな。

・・・人間たちはお前さんに何らかの価値を見つけたようだし

と残された木々は諌めるが、

彼女を励ますにはほど遠いものだった。



・・あいつに会いたいな。

・・でも、

・・見ることも、

・・聞くことも

・・話すこともできな私にできることはこうして花を咲かせて葉を茂らせるだけ。か。

葉から伝わってくる陽の光の感覚を感じながら彼女はつぶやいていると、

ヒタッ

彼女の幹を触るか手のひらの感覚が走る。

・・だれ?

・・って聞いても誰かのか判らないし、

・・あたしの声なんて聴いてもらえないし、

・・ほら、昨日のようにあたしの幹をパンパン叩くんでしょ。

・・好きにしなさいよ

と破れかぶれに返事をする。

すると、

パァン!

その声に応えたのか彼女の幹が再び叩かれた。

・・やっぱり、

・・相撲取りじゃあるまいし

叩かれる感覚に彼女はそういうが、

叩く力はどこか弱く感じられた。

・・どうしたのかな?

少し心配になると、

ヒタッ

幹を両手が包むむように当てられ、

コツン

額が当てられている感覚が走る。

「・・・・・」

何か言葉と思われる振動が彼女の幹に伝わってくるが、

その言葉を聞き取ることは相変わらずできなかった。

しかし、相手の言葉はどこか真剣で、

そして、深刻そうに感じられた。

・・なにかな?

・・なんか深刻そう

・・元気づけに何かできればいいけど

頭をつけて願を掛ける相手を励まそうと彼女は樹の体をくねらせようとする。

すると、

パリッ!

幹を覆う木肌の一部が裂けて剥げ落ちてしまった。

・・うっ

樹にとって木肌の剥落は大きな傷である。

痛みに似た感覚に彼女は無い歯を食いしばると、

「え?」

何かに気付いたのか、

相手は付けていた額を離した。

・・どうしたのかな?

彼女がそう思っていると、

スッ

クリッ!

木肌が剥げ落ちた部分に相手の手が添えられ、

そして、その指先が剥げ落ちて露わになった膨らみの頂点をいじり始めた。

・・あっ、

・・そこ、触らないで

・・やめて

木肌が剥げ落ち敏感になった部分をくりくりと弄られる感覚に

彼女はあえいでしまうと、

パリッ

別のところの木肌が剥げ落ちた。

「うぉっ」

再び起きた木肌の剥落は相手にとっても驚きで、

剥落して露わになった左右のふくらみは

樹の中から現れた女性の乳房と言ってもよいものであった。

・・うぅ、

・・なんでそこが剥げ落ちちゃうのよ

・・肌が乾いて気持ち悪い

彼女にとっても剥落が人間だった時の乳房のところであることに恥ずかしさと、

中の真皮の部分が乾くことへの違和感を感じていた。

パキンッ

乳首にあたる部分から突き出ていた小枝が折られ、

ヌプッ

相手の舌先がその折れ口を舐めとると、

ハムッ

ツツツ

樹の硬さと冷たさを伝える乳房全体へと舌を這わせていく。

そして、相手は抱き着くように手を幹の背後へと回すと、

「ふーっ」

大きく息を吐き深く愛撫を始めた。

その一方で、

・・うっ

・・なんなのこの感覚。

・・あたし抱かれているの?

・・うーん、

・・感じるとはいえないよ。

圧迫は感じてもそれを細かく感じとる神経の無い彼女は

もどかしさを感じながらも悶えていた。



樹と人との愛撫はしばらく続き、

程なくして相手は口を離すと、

幹に現れた二つのふくらみの間に額をつけたのち、

何かを決意してみせると振り返らず去っていく。

・・あぁ、もぅなによっ

・・自分だけ決めちゃって!

残された彼女はそう文句を言うが、

じわっ

愛撫された感覚は樹の体をゆっくりと上気させていった。



・・うっ

・・うんっ

乳房に見えるふくらみを晒し、

樹の体全体が燃え上がるような感覚に彼女は悶えていると、

ズンズンズン!

地響きを立てて相手が戻ってきた。

そして、

パァンッ!

彼女の幹を思いっきり叩くと、

「・・・・・・!!!」

嬉しそうに何かを叫んだのであった。

・・なによっ

・・いきなり叩かないでよ。

・・幹が折れちゃうじゃない

泣き出しそうになりながら彼女は言い返すと、

ギュッ!

力強く幹を抱きしめられた。

・・なにっ、

・・なんだかわからないけど、

・・良いことがあったの?

・・そう、それはおめでたいわね。

「・・・・」

嬉しそうに声をかける相手に向かって彼女は声をかけると、

露わになってる膨らみを再び愛撫始めた。

・・やだ、

・・ちょっと、それ止めて

・・あいつのこと思い出すから

と彼女は樹になる前、

半分樹になった彼女が抱かれたことを呟く。

しかし、相手はそんなことをお構いなしに彼女の膨らみを愛撫し、

さらに手を下へと伸ばした。

・・あっ

・・そこは

彼女の膨らみから下、

手が届くギリギリのところに閉じかけたウロ穴があり、

いまは樹肌に覆われるこの穴は彼女が人間だった時の性器であった。

その穴に伸ばされた相手の指先が届くと

クニクニ

と弄り始る。

・・うっ

ジワッ

かつての性器をいじられる感覚に彼女は身悶えると、

ハラリ

咲き誇っていた枝の花が散り始め、

じわっ

それに併せてウロ穴から樹液が漏れ出始めた。

しかし、

クニクニ

クニクニ

まるで愛液のごとく漏れ出る樹液を弄りつつ相手はさらにもてあそぶと、

・・だめぇ

・・気持ちがへんになるぅ。

と彼女は訴え、

枝で咲いていた最後の一輪が花びらを散らしながら落ちて行く。

すると、

ムクッ!

ウロ穴に盛り上がりができ、

さらに成長していくと、

ムリッ!

盛り上がりが縦にさけ、

中から薄紅色が姿を見せる。

そして、

クチュッ!

密を滴らせながら、

一枚また一枚と花弁が開き、

クチュゥッ!

淫靡な赤色のグラディエーションを見せる

深い奥行きを持つ肉厚の花が咲いたのである。

「おぉ!」

女性器を思わる花の姿に相手は驚くが、

ためらわずに羽織っている浴衣をはぎ取って見せる。

壮絶な取り組みをしたであろう内出血がいたるところに浮き出ている身体を

樹に向かって誇らしげに見せつけたのち、

樹の幹を手繰り寄せるように抱き、

そして、いきり立つ逸物を口を開く花の中へと挿入する。

クボッ

クチュ

花は相手の逸物を飲み込むとウロ穴の中へと潜り込み、

女性器となって逸物を締め上げる。

「くっ

 うぉぉっ」
 
相手はその感覚にあえぎながらも

負けじと腰を振り始めた。


パンパンパン

場所を通して受けた痣だらけの体を震わせて、

樹に向かって一心に突きまくる。

・・あっ

・・あっあっあんっ

・・あんっ、あっあっ

巨漢の力士に突かれる彼女もまた

天に向かって伸ばし広げた葉をざわつかせながらあえぐ。

人と樹の性行為はいつまでも続き、

花の中の逸物は幾度も精を噴き上げたのであった。

「はぁはぁはぁ」

殆ど水となってしまった最後の精を放つと、

ようやく相手は抱いていた樹から離れ

トクトクトク

逸物が抜かれた花からは生臭い匂いを放つ精が零れ落ちていく。

しかし、再びウロ穴から飛び出してきた花の花弁は崩れることなく、

肉厚の花弁を妖美に光らせていたのであった。

・・あぁ

・・あいつ以外に抱かれたことは初めて

全身で精を感じながら彼女は恍惚としていると、

ドロッ

彼女の意識が次第に崩れ始め、

漆黒の中へと戻り始める。

だが、

・・いいわ、

・・このまま溶かせて、

彼女はそれを嫌がることなく崩れていくと再び眠りつていった。



「この樹ってなんかエロいですね」

「女のようにも見えるな」

相撲巡業の宿舎となっている施設の中。

その施設のシンボルになっているナツツバキの前で若手力士たちの声が響いた。

「なぁ、知っているか?」

「ん?」

「この樹には女神がいるんだってよ」

「女神?」

「ほら、ここ、

 女のおっぱいに見えるだろう?」

「まぁ…

 っていうか、兄弟子。

 貯まっていませんか?」

「うるせーっ

 最後まで聞け」

「で、ここが、

 おまんこにみえないか?」
 
「やっぱり、

 兄弟子は貯まっているんだ

 女紹介してもらうよう頼みましょうか」

「てめぇ!

 ったくぅ

 いいか、親方の前に女神が姿を見せて、

 景気付けてもらったんだとよ」

「景気づけ?」

「あぁ、

 なんでもここに誘うように花が咲いて

 あとは無我夢中で」

「樹としたんですか?

 親方も相当貯まっていたんですね」

「いい加減にしろっ

 それからだ、

 トントン拍子で番付が上がって」

「一気に横綱まで行ったんですか」

「お前も相手をして貰ったらどうだ?」

「いやぁ、それは(あはは)」



おわり