風祭文庫・異形変身の館






「性天使・純」


作・風祭玲

Vol.988






『…判っているだろうな』

『もちろんです』

『…失敗は許されないのだぞ』

『心得ております』

『…君が推進するこの計画は人類にとって希望の灯火となるべきものだ。

 心して掛かるのだぞ』

『はい…』

間違いなく無駄な公共事業とマスコミから叩かれるであろう、

どこかの山の地下深くに建設された秘密地下都市。

その地下都市に居を構えるナントカと言う機密機関の会議室で、

煌めくクリスマスツリーを横に置き真剣な面持ちの老人達が顔をつき合わせながらも、

その視線はテーブルの先ですまし顔で座る顎鬚の男に向けられていた。

そんな老人達の視線を一身に浴びながら、

パサッ

男は手にしていた資料をテーブルに置くと、

『我々にすべてをお任せください。

 結果は出しますので』

と告げるなり席を立っていく。



『間もなく・2番線に快速・東京行きが・参ります』

クリスマスを間近に控えながらもいつもと何も変わらない朝。

いつもと同じ時間のいつもと同じホームの上、

そして、いつもと同じ立ち位置に、

「ふわぁぁぁぁ」

F高校2年の鴨居純は盛大にアクビをしながら眠そうなを目を擦っていた。

「あーぁ、

 また退屈な一日の始まりか…」

昨夜遅くまで起きていたためか純は目の回りを赤く腫らし、

目をしょぼしょぼさせながら立っていると、

ヒュィィィィンン…

イィィィィィィン…

インバータからの変調音を響かせながら銀色の電車が入線してくる。

そして、ドアが開くのと同時に流されるようにして純は車内へと入っていくと、

『ピッ!

 ターゲットを目視で確認!

 7:45発、快速東京行き、8号車、進行方向から3番目のドアより乗車。

 2番目と3番目のドア間で進行方向左側のつり革につかまる』

とどこからかで純の動きをモニターしていた声が静かに響き渡った。

一方、

「いいんだな、もはや後戻りは出来ないぞ」

スピーカーから響く声を背にして後ろでに手を組む白髪の男が指令席に座る髭男に尋ねると、

「ふふっ、何も問題は無い」

尋ねられた髭男はニヤリと笑い、

「作戦、発動!」

と静かに告げたのであった。



タタンタタ・タタン

タタンタタ・タタン

純はいつもと変わらない車窓をボケッと眺めていると、

「ふわぁぁぁぁぁ」

再び盛大にアクビをしてしまい、

「あぁ、眠い…」

と同じ言葉を何度も繰り返す。

無理も無い。

純は部活の先輩より一足早いクリスマスプレゼントとして

強引に押し付けられた無修正アダルトビデオを見入ってしまったために

眠れない夜を過ごしていたのであった。

さらに彼のイチモツは何回抜いたのか判らない程のオナニー行為によって、

触ると痛いくらいに敏感になっており、

この刺激によって純は何とか踏みとどまり、

立ったまま寝てしまうところまでは行かなかったのである。

タタンタタ・タタン

タタンタタ・タタン

タタンタタ・タタン

タタンタタ・タタン

電車は相変わらず単調な音を繰り返し響かせながら止まる駅ごとに乗客を拾い、

次第に車内は混雑の様相を呈してくる。

そんな中、

股間の刺激もあってなんとか踏ん張っていた純だが、

ついにつり革につかまったままコクリコクリと船を漕ぎ出してしまったのであった。

そしてそれからしばらく経った時、

「痴漢です!」

突然、女性の声が車内に響き渡ると、

「ふわっ?」

目を覚ました純を鬼のような形相でOL風の女性が睨み付け、

グイッ!

っと純の腕をねじ上げたのであった。

「え?

 え?

 えぇ?」

突然のことに純は意味も分からず呆然としていると、

ゴォォォォッ

電車はトンネルの中に入り、

それと同時に、

パッ!

と車内の明かりが消される。

すると、

「警察だ、

 痴漢行為並びに、迷惑防止条例違反の現行犯で逮捕する」

の声と共に電車がトンネル内を高速走行中にもかかわらず、

いきなり窓を開けてドカドカと制服警官隊がなだれ込んでくると、

電車がトンネルを出た途端、

ガチャリ!

と純の両手に手錠がはめられてしまったのであった。

そして、

「こっちに来るんだ!」

と停車と同時に純は無理やり電車から下ろされてしまうと、

「あっあの…

 何かの間違いでは?」

自分の手を引く警官に向かって純は必死に言い聞かせようとする。

しかし、

「何を言うんだ、

 君は現行犯逮捕だよ。

 事情は署で聞くから」

と警官は純に告げた見せる。

「そんなぁ、

 あっあの、誤解ですって、

 あれ?

 さっきのお姉さんは?

 え?

 あの、お姉さんは?」

自分を痴漢と訴えたOLの姿を探しながら純は警官に質問をすると、

「君ぃ、

 往生際が悪いよ」

と警官は告げるなり、

駅前で待機していたパトカーに無理やり乗せ、

ファンファンファン!

サイレンの音を響かせながらパトカーは走り始める。

「ちょちょっとぉ、

 なんでパトカーが着ているんですか?

 それよりもあのお姉さんはどこに行ったんです?

 何でお巡りさんたちはどうやって電車に乗り込んできたんです?

 トンネルの中を走る電車の外から乗り込んできたでしょう?」

走り始めたパトカーの中で純は声をあげて抗議すると、

「きみぃ、

 現行犯逮捕なのだから細かいことを気にしてはいけないの」

と言い聞かせながら警官はガスマスクを被って見せる。

それと同時に、

シュワァァァ!!

たちまちパトカーの車内にガスが撒かれると、

「あっ」

純はそのまま気を失ってしまったのであった。



『ターゲットを確保!』

とある山の中の発令所に純の拉致を知らせる声が響き渡ると、

「おぉ!」

たちまち発令所にはどよめきの声が広がり、

「さすがだ」

「我々も手を焼いていたのに…」

と階級証も眩しい制服姿の男達から声が上がっていく。

「そのために我々が居るのです」

そんな彼らに向かって指令席に座る髭男は自信たっぷりに言うと、

「速やかに次のオペレーションに取り掛かかれ」

と部下に向かって指示を出す。



「今日の獲物…もとい患者はこの子ね」

何も無い無機質の部屋にストレッチャーに固定された純が運び込まれると、

出迎えた白衣姿の女医はニヤリと笑みを浮かばせる。

「先生、判っていると思いますが、

 彼は我々にとって大事な人材ですので」

そんな女医に向かって黒メガネに黒スーツの男は耳打ちをすると、

「えぇ、判っているわ、

 この子を改造するんでしょう?」

と女医は獲物を前にしている蛇の如くペロリと舌を出す。

「はっはぁ…」

その女医の姿に黒メガネは一歩後ずさりをすると、

「うふっ、

 こんなに可愛い男の子を女の子に改造するなんてゾォクゾクしちゃうわ」

ブルッと身体を震わせて女医は快感を感じていることを表し、

「さぁ、

 あたしの作業台、じゃなかった手術台へこの子を乗せるのよ」

と黒メガネ達に指示を出した。

ピッ

ピッ

ピッ

シュコーッ!

シュコーッ!

酸素マスクをつけられ、

体中から管を伸ばす純が手術台の上に寝かされると、

「ふふふ…」

オペ服に身を包んだ女医が迫り、

「安心しなさい。

 メスで切り刻むなんて野蛮なことはしないわ、

 その代わりあたし特製のお薬を投与してあげるわね」

と囁くとモニターの値に注視しながら、

純の体から伸びる管の先に取り付けられた注射器のシリンダーを押し込み始めた。

一本また一本と 

女医はモニターが示す値を気にしながら次々とシリンダーを押し込むと、

ピピピ!!

モニターの値に変化が現れ、

クニッ

ククク…

手術台の上で寝かされている純の身体に変化が起き始めた。

「始まったわね」

それを見た女医はそう囁くと、

さらに手際よく注射器を代えシリンダーを押していく、

すると、

ムリッムリムリムリ…

男子高校生特有の筋肉質だった純の体に脂肪が付きはじめ、

徐々に丸みを帯びていくと、

コキッ

グキッ!

今度は骨が軋み始め、

ピクピクピク…

まるで萎むかのように純の手足は細くなり、

少女を思わせる姿へと変わって行く。

そして、

ムリムリムリ!

平たかった胸に乳房が膨らみ始めると、

腹筋が刻まれていたお腹から筋が消え、

顔も丸くなり、

喉仏が消えていくと、

クニッ!

クニクニっ

純の男のシンボルに変化が現れ始めた。

「あっと、いけない…

 オチンチンを無くしちゃぁいけないんだっけ、

 ここだけは二組必要なのよね」

変化に気づいた女医は投薬量を調整して体の変化を落ち着けると、

くるりと振り返り、

彼女の背後で動作していた電子レンジを思わせる機器を止める。

そして、そのドアを開けると、

「うふっ、

 ちゃんと成長しているわね、

 この子のES細胞を基に作った女の子が」

培養液で満たされている容器の中で

女の子の器官が完成されていたのであった。

「ここだけはメスを入れる必要があるのよね。

 でも、ES細胞を基にして作った臓器は

 遺伝子や免疫上の適合率はきわめて高いから、

 拒絶反応を心配する必要は無いわね」

メスを握り締めながら女医はそう呟くと、

スーッ

純のお腹の上を滑らせて行く。



「うっ、

 うん?

 あれ?」

純が目を覚ますと、

「ここはどこ?」

と呟きながら周囲を見回す。

「あれ?

 僕はどうして…

 え?

 声がなんか変」

自分の居場所を確認しながらも、

しかし、自分の口から出てくる声色に純は戸惑うと、

「あら、もう目覚めたの、

 さすが、若いわねぇ」

の声と共に検診に来た女医が声をかけてきた。

「あなたは」

女医を見つめながら純は尋ねると、

「うふっ、

 君の主治医よ、

 どう、身体の具合は?」

と女医は純が寝かせられているベッドの横に置かれている椅子に座り、

脚を組みながら尋ねると、

「具合って…

 べつに…」

純は口を尖らせつつ、

組んだ脚からチラリと覗く女医の下着に頬を赤らめた。

ギュッ!

股間で硬くなっているイチモツを押さえ込んだ。

「うふっ、

 ちゃんと男の子の部分も生きているのね」

それを見た女医が指摘すると、

「男のこの部分って…

 それにこの声は一体!」

女医の指摘に向かって

純は声色のことを指摘しようと顔を上げたとき、

プルンッ

純の胸で何かが振るえた。

「え?

 なに?」

あるはずの無い震えに純は驚きながら胸に手を当てると、

目をまん丸に剥き、

「なに?

 これ?」

と呟いた後、

バッ!

慌てて胸元を開いて見せる。

そして、

「うそっ

 おっオッパイが…」

と言いかけたまま固まってしまうと、

「うふっ、

 君は女の子になったのよ、

 このわたしの手でね」

笑みを浮かべながら女医は告げたのであった。



「おっ女の子に僕が…」

女医の言葉に純はそう返すと、

構わずにベッドの上に立ち上がり、

着せられていたものを全て脱ぎ捨てる。

そして、それと同時に、

プルン!

純の胸は大きく弾み、

ピンク色に染まる乳首を頂いた見事な乳房が姿を見せたのであった。

「うわっ、

 おっおっおっ、おっぱいがぁ!」

弾む胸をさらに弾ませて純は悲鳴を上げると、

「うん、

 とっても立派よ」

女医は褒めながら、

スーッ!

背後に回ると乳房に負けない膨らみを持つヒップに手を滑らせ、

クッ!

っと股間に開く女唇に指を入れる。

「ひゃんっ!」

その途端、純は股間を押さえて飛び上がると、

ペタンと座り込んで、

「なっなっなに?

 いま何をしたの?」

と女医に恐る恐る尋ねた。

「うふっ、ベッドから降りなさい。

 ちゃんと説明してあげるわ」

そんな純に向かって女医は告げると、

「うっ」

純は一瞬身構えるが、

しかし、そのままで居られる訳もなく渋々降りてくると、

「何も着なくてもいいわ、

 裸のままこちらに来なさい」

と女医は指示をし、

純を裸のまま診察室へと連れて行く。



「こっこれが僕?」

女医の診察室で純は鏡に映る自分の姿を見た途端、

そう呟きながら鏡に迫ると、

「いかがかしら、

 とっても可愛くなっているでしょう」

と女医は言う。

鏡に映る純の姿は以前と比べて一回り小さくなり、

青紫色の髪がかかる顔は少し女っぽく変わった程度にしか見えないが、

しかし、その唇は艶っぽく、

さらに胸もDカップはあろうかと思えるほどに膨らみ、

ウェストは括れヒップは大きく張り出している。

ただ、股間には以前と比べてさらに逞しくなった男性の性器が健在であるが、

なんとその根元には女性の性器が縦溝を刻んでいたのであった。

「…なんで

 …なんで、僕をこんな身体に」

男性器はあるもののすっかり女性化してしまった自分の姿を見ながら肩を震わせ純は呟くと、

キッ!

振り返って女医を睨みつけ、

「戻してください!

 僕を元の男に戻してください!」

と訴える。

だが、

「それは出来ないわ、

 君をその姿にしたのは上の決定だから」

女医はそう返事をすると、

「上って…」

彼女の言葉に純は言葉を詰まらせる。

「そう、上よ、

 君が考えているずーと上の人の決定なの」

言葉を失った純に向かって女医はそう続けると、

そっと純を抱きしめ、

「君は男と女の両方を持つ身体になったのよ、

 そう、いわば君は性の天使・性天使になったのよ」

と囁いた。

「性天使?」

その言葉に純はそう返すと、

「えぇそうよ、

 性天使であるあなたは

 一人寂しくクリスマスイブを迎えようとしている人々の心を癒してあげるのが務め、

 上の人もそれを期待しているの。

 大丈夫、君なら出来るわ」

と囁き、

スッ、

素早く何かを取り出すと、

カチリ!

と手際よく純の首に首輪をつけてみせる。

「!!っ

 なっ何をしたんです。

 こっこれを取ってください」

自分の首につけられた首輪を引っ張りながら純は訴えると、

「その首輪わねぇ、

 君の性中枢神経に刺激を与える特性の首輪なの、

 だから、この値を動かすとねぇ」

と女医は言いながら、

白衣からケータイを取り出すなり何かの値を動かし始める。

その途端、

「あはんっ!」

診察室に純の艶かしい声が響き渡り、

「あぁん、

 あは

 あは

 あは」

喘ぎ声を上げながら純は片手でDカップの乳房を弄りながら、

もう片手で股間でいきり立つイチモツを扱き始めた。

「あはあはあは、

 身体が、

 ムズムズして、

 熱くて、

 あぁ、どうにかなってしまいそう、

 お願い、

 僕をイカせて下さい!」

陰裂から愛液を流しながら純は訴えると、

「ふふっ

 君はもぅ人間じゃないのよ、

 人類の性生活を向上させるための天使であり、

 生きるダッチワイフ…ふふ」

女医は笑いながらケータイの値を戻していく、

すると、

「はっはっはっ

 はぁぁ…」

次第に純は落ち着き始め、

そして、その床に両手を突いてしまうと、

「どうだった?

 とっても燃えたでしょう」

と女医は意地悪そうに言う。

すると、

「なっなんてことを…

 …してくれたんですか」

涙を零しながら純は訴えるが、

「君には選ぶ権利は無いわ、

 すべては上が決めること。

 さぁ、君に任務を与えるわ、

 直ちに出撃しなさい。

 向かう先はその首輪が指示してくれるわ」

そう女医は純に伝えると、

ウィィン…

部屋の天井が開き、

真上に向かって伸びる煙突状の通路が姿を見せる。

すると、それを合図にして

メキメキメキ!!

純の両肩から白い羽を捲き散らせながら翼が生えると、

バサッ!

「うわぁぁぁぁ」

悲鳴を響かせながら純は飛び立って行く、

そして、

「大丈夫、

 あなたは人類の希望の光。

 立派に任務を果たせるわ、

 なぜってあたしが腕によりを掛けて作り上げた改造人間なんですもの」

飛び立っていった純に向かって女医はそう囁いたのであった。



『減少する出生率の上昇にはしっかりとした性の指導者が必要である』

『しかし、男女双方からそのことを実践できる人材は無い』

『ならば…と慎重に慎重を重ねてに選ばれし者を改造し、

 送り込んでみたが果たしていかがなものか』

秘密の会議室で老人たちが顔をつき合わせると、

『ご心配なく、

 クリスマスは男性からも女性からももっとも相手を欲する時です。

 初号機は立派に任務を果たしますし、

 追って零号機と弐号機も追加投入する予定です。

 青春真っ只中の性欲の塊である若い男女にとって、

 あの者はまさに天使となるでしょう』

老人たちに向かって髭面の男はそう告げると静かに席を立ったのであった。



おわり