風祭文庫・異形変身の館






「白蓮の選択」


作・風祭玲

Vol.606





コト…

カタ…

コト…

全てが寝静まった丑三つ時、

月明かりが煌々と照らし出す境内を横目にしながら、

その寺の本堂に小さな音が響きわたる。

コト

カタ

コト…

「…うーん、

 これではない」

「違う…」

「どこだ?」

その本堂の中では窓から入る月明かりを頼りに、

頭にすっぽりと白い尼僧頭巾を被り、

黒衣を纏った一人の尼僧が一心不乱に何かを探していた。

「うーん、

 どこだ?
 
 確かにここに…」

張りのある白い肌を頭巾から覗かせながら尼僧は、

様々な教典が納めてある納経箱を漁っていると、

「何をしているのです?

 白蓮」

と女性の声が突然響き渡った。

「ひっ!」

突然響いたその声に尼僧は白い頭巾がビクンと震わせ、

そしてクルリと向きを変えるなり、

「おっお願いです。

 春月尼様っ

 わたしを…

 わたしを還俗させてください。

 男に戻してください」

そう懇願しながらひれ伏した。

そして、

「ここでの尼としての生活が嫌になった訳ではありません。

 でも、下界にはわたしを待っている恋人がいるのです。

 その恋人を放って置くわけにはいかないのです。

 お願いです。
 
 後生です。
 
 どうか、
 
 どうか、わたしを元の姿に戻してください」

と理由を述べる。

すると、

クスクスクス…

本堂の闇から小さな笑い声が響き、

スタ…

スタ…

スタ…

それと同時に足音が響き渡ると、

スッ!

月明かりに姿を見せたのは尼僧・白蓮が許しを請うていた尼僧・春月ではなく、

この尼寺で白蓮の指導役の蘭月尼であった。

「らっ蘭月尼様…」

蘭月の姿を見た白蓮は驚きの声を上げると、

「ふふっ、

 こんなコトだと思いましたわ」

蓮月は跪く白蓮を見下ろしながら小声で呟く。

「らっ蘭月尼様…

 こっこれは…その」

浮気現場を押さえられた男のように白蓮は言い訳をしようとすると、

「男に戻りたかったのですか?」

と蘭月は尋ねた。

「…はっ…はい…」

その言葉に白蓮は力を落とした口調で返事をすると、

スッ

蘭月は膝を折り、

「そんなに尼としての生活が嫌だったのですか?」

そう囁きながら白蓮の肩に手を置いた。

「いえっ

 尼としての生活はイヤではありません、
 
 でも」

「でも?」

「その恋人とは将来を約束しているのです。

 彼女はきっとわたしを待っていると思います」

蘭月尼に向かって白蓮は言い返すと、

クイッ

蓮月は白蓮の顎に手を添えながら

「尼としての生活よりもその女性がいいのですか?

 このわたしよりもその女性がいいのですか?」

と尋ねた。

「うっ

 そっそれは…」

登山の途中で遭難し、

追い打ちを掛けるように降り出した雨に追われながら

この尼寺に助けを請い。

そして、庵主である春月尼の秘術によって尼にされ、

いま横にいる蘭月尼とのレズビアンに満ちた修行の日々のことを

思い出しながら言葉を詰まらせると、

「なぜですか?」

蘭月はだめ押し気味に尋ねた。

「それは…その…

 ででも、
 
 わたしにはやっぱり…」

返事に窮しながらも、

白蓮はなおも意志を通そうとした。

すると、

「判ったわ、

 白蓮、

 あなたのその意志はよくわかりました。

 わたしが春月様に成り代わり
 
 あなたを元に…

 元の男に戻してあげます」

白蓮の固い意志が通じたのか、

蘭月は白蓮の肩に添えていた手を離し立ち上がると、

「あなたが男に戻るための秘術を記した教典はこっちです」

そう言いながら白蓮が探していた所とは反対側の納経箱を指さし、

そして、その中から一つの箱を取り出すと、

「さぁ、

 わたしの前にお座りなさい。

 白蓮。
 
 あなたを還俗してあげます」

と指示をした。

「あっありがとうございます」

蘭月のその言葉に白蓮は涙を流しながら幾度も頭を下げると、

「ただし…」

と蘭月は付け加えた。

「ただし?」

蘭月が口にしたその言葉を白蓮は復唱すると、

「男を尼にする秘術と違って、

 尼を男に戻す秘術は困難を伴います。

 白蓮、あなたが男に戻るためには

 男に戻るという強い意志の力が無いと戻れません。

 いいですか、

 念じるのです。

 男に戻ることを…

 そして、男に戻ってその女性に

 何をしてあげてあげるのかを念じるのです。

 そうすればあなたは男に戻ることが出来ます」

白蓮に向かって蘭月はそう注意をすると、

「はいっ

 判りました」

白蓮は大きく頷き、

スッ

静に目を閉じると、

数珠が下がる手を合わせた。



「・・・・・・・・」

静まりかえる本堂に蘭月が唱える秘術の呪文が響き渡る。

「…(戻る)…

 …(男に戻るんだ)…」

その呪文を聞きながら白蓮は言われたとおり一心不乱に念じ

そして、自分を待つ恋人にしてあげることを想像した。

「…(葉月)

 (待ってろ)
 
 (もうすぐ)
 
 (もうすぐ男の戻ってお前の所に戻ってあげるからな)
 
 (そしたら)
 
 (お前を…)
 
 (お前を…)
 
 (思う存分抱いてやる)」

男に戻り、山を下りた自分が恋人を愛する姿を白蓮は妄想し、

そして、その妄想をベースにしてさらに強く念じた。

すると、

ムリッ!!

ムリッムリッ!!

その思いが通じたのか白蓮の身体に異変が始まった。

「あっあぁ…

 おっ男に戻る…」

ムリッ

ムリッ

まるで身体全体がざわめくようなその感覚に

白蓮は天に昇るような嬉しさを噛みしめながらさらに強く念じた。

すると、

ゴキッ!!

ゴキゴキゴキ!!

その思いと歩調を合わせるように白蓮の身体の骨格が鳴り始め、

ムク

ムクムクムク!!

白蓮の身体が大きく膨らみはじめた。

「あぁ…

 男に…
 
 ペニスを猛々しく勃たせている男に…」

男だった頃、

その大きさで周囲を圧倒していたペニスを思い出しながら白蓮は念じると、

ムリッ!!

白蓮の身体の中、

腰当たりで何かが弾けたように成長を開始した。

「あぁ…

 これは…」

その感覚に白蓮は咄嗟にペニスが生えてくるものと思ったが、

いつまでたっても股間にそれに呼応するはずの突起が生えず、

しかし、

ムリムリムリ!!

ムリムリムリ!!

なおも身体の中の”それ”は成長を続けていた。

「え?

 なっなにかな?」

なかなか男の証が飛び出してこないことに白蓮は不安を感じたとき、

ムリッ!

グブッ!

「ゲホゲホゲホ!!」

自分の身体の中で成長を続ける”それ”がいきなり内臓を叩くと、

白蓮はその場に突っ伏すようにして咳き込んでしまった。

「ゲホゲホゲホ!!

 ゲホゲホゲホ…
 
 ヒューッ
 
 ヒューッ」

白蓮は咳き込みながらも必死に呼吸をするが、

しかし、蘭月の声はそれに驚き止まるどころか、

さらにボルテージが上がってゆく、

すると、

ムリムリムリ!!

白蓮の中で成長を続ける”それ”は内臓を圧迫し、

さらに膨らみを増してきたのであった。

「くっ苦しい…

 らっ蘭月尼様…
 
 苦しい…
 
 いっ息が出来ない…」

パンパンにお腹を腫らし白蓮は蘭月尼に縋り付くが、

それでも蘭月は秘術の経文を唱えるのを止めなかった。

「らっ蘭月尼様…

 グッグブッ!!!

 ブシャッ!!」

成長する”それ”による膨らみが喉まで達したとき、

白蓮は反射的に閉じた口の頬を大きく膨らませると、

まるで吹き出すようにしてあるものを吐き出してしまった。

ネトォ…

「こっこれ(グブッ)

 これは(グブッ)」

口から粘性の強い糸を引きながら白蓮が目にしたのは、

紛れもない、男性の精液であった。

「せっ精液?(グブッ!)

 なっなんで(グブッ!)」

間欠的に喉の奥より精液を吹き上げながら白蓮は驚いていると、

メリ!

その喉が一気に膨らみ、

「ウグッ…

 ウゴワァァァ!!!」

白蓮は悲鳴を上げながら口を大きく開け、

天井を見上げてしまった。

すると、

メキメキメキ!!

バキバキバキ!!!

その口の中から何かを引き裂き、砕く音が響き渡ると、

ブッ!

白蓮の口から白い物体が激しく飛び散って行く、

それはついさっきまで口の中で生えていた歯であり、

クパ

クパ

歯を失ってしまった白蓮の口がパクパク動いた後、

メリ!

一際大きく開かれると、

ニュッ!

開いた口の中からぬるんとした表面を持つ肉塊が姿を見せた。

ニュッ!

ニュッ!

まるで仮性包茎のペニスを少ずつ剥くように

肉塊は表に出たり、引っ込んだりを繰り返しながら

ゆっくりと

ゆっくりと成長していき

「アガガ…

 アガガ…」

その間、白蓮は頬を引き裂いてしまうかのように大きく口を開け、

必死に喉を掻きむしっていた。

ところが、

ベシャッ!

突然、頭蓋骨が砕けつぶれる音が響き渡ると、

それと同時に

グルン!!

白蓮の視界は一気に反転し、

ズニューッ!!

邪魔をしていたつかえが取れたかのように”それ”は一気に成長していった。

タン!

タンタン!!

反転した視界の中、

白蓮は必死に自分の異変を蘭月に知らせようと畳を叩いていたが、

しかし、その手も、

また腕も次第に動かなくなり、

ダラリと垂れ下がってしまうと、

ムリムリムリ!!

今度は白蓮の腰下で別の何かが成長をはじめだした。

ジュブジュブ

ジュブジュブ…

声を失い。

そして身体の自由を奪われてゆく中、

白蓮は身体のバランスを崩してしまうと、

ゴロリ

と棒のようになってしまった身体をその場に横たえる。

そして、それと同時に頭の被っていた頭巾と、

身に纏っていた黒衣白衣がはだけさせると、

己の肉体を曝してしまうが、

しかし、その身体も徐々に小さくなって行くと、

衣の中へと潜り込んでしまった。



「……・・・・」

長く響いていた蘭月の声が止み、

閉じていた目を開けると、

ゆっくりと視線を移動させる。

するとそこにはさっきまで白蓮が身につけていた黒衣と頭巾が

主を失った状態で小山を築いていた。

「ふふっ」

しかし、蘭月はその光景には驚かずに、

それどころか笑みを浮かべながら、

「色と言い、
 
 艶と言い、
 
 硬さと言い
 
 極上のになりましたわ」

と囁きながら黒衣の小山の中に手を入れ、

そして、その中より手を引くと、

ビクン!

太さは10cm程

長さは30cm程

カリが大きく張り、

根元には相応の袋を下げている巨大なペニスを取り出した。

「ふふっ

 白蓮、聞こえますか?

 わたしの秘術を聞きながら

 あなたは恋人とセックスをすることを考えましたね。

 だから男には戻れずに摩羅になってしまったのですよ、

 これは仏罰だと思いなさい。

 これからあなたに新たな修行を課します。

 さぁ、わたしの膣の中で経を上げるのです」

ペニスに向かって蘭月はそう告げると、

「ふっ」

笑みを浮かべながら股を開き、

そして、その中へと亀頭を自分に向けながらペニスを挿入していった。



『あっ、やめて、

 暖かいのが、
 
 ヌルヌルしたのがわたしの顔に…
 
 身体に巻き付いてくる。
 
 いやっ
 
 いやだ、締め付けないで、
 
 あぁ、
 
 あぁ身体が締め付けられるぅぅぅ』

秘術の力で男ではなくペニス・摩羅となってしまった白蓮の悲鳴が、

静に夜の闇へと消えていった。



おわり