風祭文庫・異形変身の館






「小百合の祝福」


作・風祭玲

Vol.309





「うっ…え?」

目を覚ました三方薫が顔を上げると、

そこは、打ちっ放しのコンクリートの壁が彼女の三方を覆い、

残った一面には黒いカーテンが引かれているだけの飾りも何もない、

まるで工事中のマンションを思わせる部屋だった。

「え?、なんで?」

薫はキョロキョロと周囲を見回すと、

「あっ」

何一つ纏わぬ全裸にされていることに気づくと顔を赤らめたが、

しかし、その一方で、

チャラ…(ギシッ)

彼女の両腕には頑丈な手錠が填められ、

スリットから光が射し込む天井より吊された鎖にその手錠が繋がれていた。

「くっ」

手錠を見ながら薫は腕を引くが、

けど、彼女の両手を束縛している手錠を外すことは出来なかった。

「なんで?

 どうして?」

薫が意味がわからず自分を束縛している手錠をジッと見つめていると、

バッ

突如、黒いカーテンの端がめくられ、

ガチャガチャ!!

と音を立てる台車を押しながら薫の親友である三橋小百合が部屋に入ってきた。

「あら、目が覚めたの?

 ご結婚おめでとう、薫」

笑みを浮かべながら小百合は薫に向かってお祝いの言葉を述べる。

「ちょちょちょっと小百合、

 これはどういうコトよ!!

 それに、久男はどうしたの?」

薫は婚約者の久男と共に小百合の部屋に結婚の報告に来ていたことを思い出すと、

彼女をこのような目に遭わせた小百合に食ってかかった。

しかし、小百合はそんな薫の質問に答えようとはせず、

「うふ…

 これはあたしからの結婚プレゼント」

と言いながら、

ガラ…

台車を薫の前に押すと

土が入った巨大な鉢と緑とコゲ茶色の液体が入ったパックを薫に見せた。

「小百合…何のマネ?」

小百合が差し出した品物に薫は視線を落とすと呟くように尋ねた。

すると小百合は、

「あたしの勤めている病院の先生にね、

 人間の細胞を作り替えてしまうウィルスの研究をしている人がいるの、

 でもね、なかなか研究成果を認めて貰えず、

 また実験で証明しようとしても

 協力してくれる人が出て来ないですっかり落ち込んじゃっているのよ、

 ねぇ…可哀想とは思わない?

 それで、あたしが一肌脱いであげようと思ってね」

小百合はそう言いながらゴム手袋を填めると手慣れた手つきで

緑色をしたパックを薫の右側の傍に掛け、

そして、それに巻き付けてあるチューブを解いていく、

「なっなによっ

 あっあたしにその実験をするつもり?」

怯えた目線で薫は小百合を見ると、

「ピンポーン!!」

小百合は笑みを浮かべてそう返事をした。

「やっやめて!!」

小百合の笑みに殺意を感じた薫は思わずそう怒鳴るが、

しかし、

スッ!!

小百合は薫の右腕を素早く消毒すると、

プスッ!!

っとチューブの先に取り付けた針を突き刺した。

「いや!!取ってよぉ!!」

ジワジワ

とパックからチューブを伝って自分の体内に侵入してくる緑色の液体を

薫は畏怖の表情で見ながらそう叫ぶと、

「じゃぁ、こっちは久男にしてあげましょう」

悲鳴を上げる薫をよそに小百合はコゲ茶色のパックを手にとり、

シャッ!!

っと黒いカーテンを引いた。

すると、カーテンの向こうには小百合の家に尋ねたときの姿のままの

高塚久男が寝台の上に身を横たえていた。

「久男…」

久男の姿を見た薫は目を丸くするが、

しかし、小百合はお構いなく久男の傍に立つ針金にパックを吊り下げ、

彼の右腕の袖をめくとその腕に針を突き刺した。

「おっ起きてよ、久男!!」

自分と同じように液体を注入されていく久男に小百合は怒鳴ったが、

しかし、幾ら大声で怒鳴っても彼の目は開くことはなかった。

そして、その矛先はすぐに小百合へと向けられる。

「小百合!!

 あなた、あたし達のこと祝福してくれたじゃないの?

 一体…なんの恨みがあるの?」

と小百合に向かって叫ぶと、

「恨みですってぇ…

 ふんっそんなの大有りよ!!」

そう叫びながら小百合はキッと薫を睨み付けると、

ゆっくりと彼女に歩み寄り、

グッ!!

っと薫の髪の毛を鷲掴みにした。

「お前はあたしから様々ものを横取りしていったわ!!

 あたしがピアノを習えば、あたしよりも先にコンクールに入賞し、

 バレエもあたしの後を追いかけて来たのに、先に真ん中で踊り、

 何もかもあたしの後から追いかけてきたクセに

 みんな追い抜いて…」

そう小百合が薫に言うと、

「それは…小百合が鈍いんじゃぁ…」

薫は小さく呟いた。

「まったく…あなたは遠慮と言う言葉を知らないの?

 久男だって、

 先に手を付けたのはあたしよ、

 それなのに、あなたが横から割り込んできて、

 挙げ句の果てに結婚だなんて、

 許せないわ!!」

握り拳を振るわせながらそう小百合が呟くと、

「………」

薫は久男が自分を選んでくれた理由を言おうと思ったが、

しかし、いまの彼女に向かってそれを言うことは出来なかった。

「何度もあなたを殺そうと思ったわ、

 でもね、

 あなたの息の根を止めてはあたしの屈辱を知ることは出来ないと思ってね。

 ふふふ…

 薫…聞こえる?

 あなたを破滅する音が…

 あなたはいま人間から植物へと変わっているのよ」

と小百合が話しかけた。

「え?」

彼女の言葉に薫は思わず小百合の方を見ようとしたが

しかし、いつの間にか薫の首はまるでコンクリートに固められているのように

動かすことが出来なくなっていた。

「首が…」

徐々に自分の筋肉が硬くなっていくことを薫が悟ると、

「ふふ…そうよ、

 いまあなたの筋肉はウィルスによって植物繊維に変わっているの。

 そして、あなたの体の中がすべて植物繊維で埋め尽くされたとき、

 薫…、あなたは人ではなくて植物になっているわ」

「そんな…」

「…しかも、只の草じゃないわ

 ねぇ、知ってて?

 虫を捕らえて養分にする草のこと」

「え?」

「ふふ…ほら図鑑で見たことがなくて?

 ハエトリソウって言って、

 大きな口な開けてハエが集るのを待ってて、

 そしてハエが集ったらパクンって口を閉じる奴…

 まさにあなたにふさわしいと思わない?」

そういいながら小百合は次第に柔軟性を無くしていく薫の肌を触りながら言うと、

「やめて、そんなこと!!」

薫は思いっきり叫んだ。

「あら…

 まだ、そんな声が出せるのね。

 でも、もうじき、その声も聞けなくなるのね…」

小百合はクッキーが焼けるのを待ちわびる少女のようにそういうと、

薫の顔をジッと見つめる。

すると、

ミシっ

ミシミシミシっ!!

不気味な音を立てながら薫の白い肌に緑色をした植物繊維が何本も浮き出てきた。

「あっいや…

 何かがあたしの中で伸びてくる…」

薫は体の中を蝕むようにして伸びてくる物体を感じ取りはじめた。

そして、薫は必死になって身をよじりながら”それ”から逃れようとしたが、

しかし、”それ”は徐々に薫から運動することを奪っていた。

「あっあっあっ…いや…がはっ」

ググググ…

薫の喉が突然盛り上がると、

ミシッ!!

緑色の植物繊維が幾重にも盛り上がり、

やがて、顎から薫の唇の周囲を覆い尽くすとぶ厚く盛り上がり始めた。

「うぅ…」

緑の繊維が薫の唇を侵すと、

薫は自由に喋ることが出来なくなってしまった。

その一方で、薫の内臓や骨格は、

次第に体内を埋め尽くしていく植物繊維に取って代わられ、

彼女の肉体は確実に植物へと進化して行く。

ググググ…

薫の白い両腕に緑の植物繊維が姿を見せると、

皺を刻みながら彼女の腕は硬くなっていく、

ミシミシミシ!!

薫の手から指が溶け落ちると、

その跡に扇のような塊が成長し始める、

そして、

パリッ!!

その塊が2つに裂けると、

周囲に触覚を持った2枚合わせの肉厚の厚いカップへと変化していった。

ミシミシっ

ミシミシッ

薫の身体を侵す悪魔の音は一向に収まることはなく、

部屋の隅に置かれた鏡には、

植物繊維に侵され、人から植物へと変化していく薫の姿を捕らえていた。

『ごわっうごっ!!』

ビクン!

ビクン!!

薫の身体は大きく痙攣しながら、

ミシッ!!

さっきまで開いていた二本の足は溶けるように一本に融合すると、

脚の先より身体を安定させるための土を求めて髭のような根が張り出す。

そして、

すっかり緑の繊維に覆われた薫の秘所から

手に出来たのと同じ扇の塊が成長し始めると、

パクン!!

っと

開くなり甘く腐敗したような臭いを周囲にまき散らし始めた。

『ぐわぁぁぁ(いやぁぁぁ)、うごぉぉぉ(助けて…)』

声にならない声を上げながら薫は目を瞑るが、

しかし、薫を侵す植物繊維は瞼を破壊すると閉じていた目を外にさらけだした。

「ねぇ、薫…

 どう、動かない身体って」

バサ…バサバサ…

毛根が抜け植物繊維に侵されていく薫の頭を撫でながら小百合がそう尋ねるが、

しかし、薫はそれに答えることが出来なかった。

「うふっ、

 なにも喋れないのね。

 そうよ、あなたは植物ですもの…」

そういながら小百合はすっかり緑の繊維に置き換えられた薫の胸を押した。

ググッ

ついさっきまでは柔らかい弾力を持っていた乳房は、

頑丈でなめらかな植物繊維に置き換えられ小百合の指を押し返す。

「ふふ…

 一歩たりとも歩けない薫…

 ねぇ、あなたはなんなの?

 さぁ答えてご覧なさい。

 あたしは、ひっそりと植わっている植物だって」

そう言いながら小百合は緑色の彼女の鼻を抓ると、

グシュッ!!

薫の鼻は小百合の指を弾くと、

青臭い匂いをまき散らしながらその傷口から緑色の緑汁を滲ませた。



グググググ…

しかし、薫の変身は未だ続き、

彼女の唇は徐々に左右に広がっていくと、

メリメリメリ!!

パクン…

と顎を切り裂いたように大きく開いた。

そして、

サワサワサワ…

その口の周囲を触覚が伸びていくと

口の中の異様な赤味と共に異様な雰囲気を醸し出していく。



すっかりハエトリソウに変身してしまった薫の姿に小百合は

カサカサ

と音をあげる箱を用意すると、

「ねぇ薫…

 あなた、お腹空いてない?」

と尋ねた。

無論、薫は彼女の問いに答えるコトは出来ずに無言の返答をする。

すると、

「そう…お腹が空いているのね

 じゃぁ、始めてその新しい口での食事になるかしら…」

小百合はそう言いながら金鋏で特大のヤスデを数匹掴みあげると薫の肌に這わせた。

ゾワァァァァァァァ…

『いやぁぁぁ!!』

「アフリカ原産の大ヤスデよ、

 さぁゆっくりと味わいなさい」

そう小百合が薫に告げると、

ザワザワザワ

大ヤスデは小百合の身体から逃げることなくその周囲をはい回っていく、

そして、次第に彼女の身体の4カ所に姿を現した、

あの”口”の方へと惹かれるように向かって行き始めた。

『だっだめぇ、そっちは!!

 行かないでお願い!!』

左右の腕、

秘所

そして口…

ヤスデは一匹つづそれぞれの所に向かっていくと

口を開けているカップの中へと入っていった。

ビクン!!

『だめぇぇぇぇぇ!!』

カップの中で次々と大ヤスデが薫の触覚に触れた途端。

薫の体の中を絶頂に達するのと同じ快感が走ると、

パクン!

パクン!

パクン!

パクン!

4つの口は一斉に閉じてしまった。

『いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

グネグネ

閉じた口の中で大ヤスデが命がけで暴れる感覚を感じて薫は悲鳴を上げるが、

しかし、

薫の口からは大ヤスデを溶かす溶解液が満遍なく分泌され始めると、

次々と大ヤスデは絶命し、薫の養分となっていった。

『いやだいやだ、

 身体が…虫を吸収してくる』

ジワァァァ…

っと広がってくる大ヤスデの養分を感じ取りながら

『いやぁぁぁぁ!!

 こんなのいやぁぁぁぁ!!』

薫は大声で叫ぼうとするが、

しかし、ハエトリソウになってしまった彼女には

自分の意志を外に伝えることは出来なくなっていた。

「合格よ、薫」

小百合は優しく薫に告げると、

「さぁ…あなたをここに植えてあげるわ」

小百合はそう言いながら薫の身体を吊している鎖を引き上げると、

ススス…

緑色の薫の身体が宙に浮いた。

そして、鉢を乗せた台車をその下に滑る込ませると、

その中に薫の脚を入れさせると

シャベルでその周囲に土を被せはじめた。

『ヒィ』

脚から張り出している根に次々と土が被せていく感覚に薫は身をよじる。

そして、かつての膝から下が埋められると

カシャン!!

薫の両手を束縛していた手錠が外された。

「ふふ」

笑みを浮かべる小百合の目の前に薫は静かに鉢の上に立っていた。

シャァァァァァ!!

如雨露で薫の身体を水で濡らしながら、

「薫…植物になるのが怖い?

 でも、大丈夫よ、

 怖いというのは薫が人間の心を持っているから

 そのうち、何かかもみんなハエトリソウに取り込まれるから

 そしたら何も怖くないわ、そう何もね…」

と小百合は薫に告げた。



そして、それから一月が過ぎた頃、

「おいっ、本当に薫に会わせてくれるのか?」

と言う声と共に手錠を掛けられた久男が薫のいる部屋に入ってきた。

と同時に、

「うわっ、なんだ?

 この気味の悪い草は!!」

部屋の隅でヒトが一人、

丸ごと入ってしまう程の巨大な口を開けているハエトリソウを見つけるなり、

久男は悲鳴をあげた。

サワサワサワ!!

久男の声に反応するようにハエトリソウは身体を揺らす。

「うふっ、あなたが来たこと気づいたみたいね」

ハエトリソウを見ながら小百合はそう囁くと、

「なんだ?、

 この草は俺が来たのが判るのか?」

薄気味悪そうにハエトリソウを見ながらそう言うと、

「で、薫はどこに居るんだ?」

と久男は小百合に問いただした。

すると、

「薫ならさっきからあなたの傍にいるわ」

と小百合は告げた。

「傍?」

小百合の言葉に久男が怪訝そうに言い返すと、

「そう、ほらっ、あなたの横にいるでしょう?」

と小百合は久男の横で身体を揺らし続けているハエトリソウを指さした。

「え?」

小百合の態度に久男が驚くと、

じっくりとハエトリソウを見る。

すると、

「あっ」

開いた口の下に覗く緑の乳房を見つけるなり驚きの声を上げた。

「まさか…」

ハエトリソウから1・2歩下がりながら

信じられないような台詞を久男が漏らすと、

「そうよ、薫はそのハエトリソウになったわ」

と勝ち誇ったように小百合が告げると、

「で、久男っ

 あたしはひと月前にあなたにあるウィルスを注射したわ…

 そして、そのウィルスは一ヶ月掛けてあなたの身体をあるモノに作りかえたのよ」

と続けた。

「俺の身体を作り替えただと?」

「植物になった薫と違ってあなたは動物だから時間が掛るのね…

 でも、そのお陰で薫はこんな立派なハエトリソウになったし」

「貴様ぁ!!」

小百合の言葉に我慢が出来なくなった久男が彼女に飛びかかろうとすると、

ビシッ!!

何かが久男の中で蠢いた。

「なっ」

ドサッ!!

その途端、久男は体の自由が利かなくなると、

蹲るように倒れてしまった。

「ふふ…

 久男、羽化が始まったようね」

久男の目の前に立った小百合はそう言うと、

久男の背中を踏みつける。

すると、

「うっ」

ミシッ!!

いつの間にか膨らみはじめていた久男の背中から激痛が走る。

「久男、

 良いことを教えてあげましょうか?

 あなたはひと月前に蛹になっていたのよ、

 そして、たったいま羽化が始まったのよ」

と小百合は久男に告げた。

「なに?(はぁはぁ)」

「ほらっ、もぅすぐあなたの背中が裂けて、

 新しいあなたが誕生するわ

 ねぇ薫…

 新しい久男の誕生を祝福しましょう」

笑みを浮かべながら小百合はそう言うと、

ミシミシミシ!!

「ぐはぁ!!」

久男は全身を駆けめぐる激痛に悲鳴を上げた。

と同時に、

ベリッ!!

盛り上がっていた久男の背中の皮膚が縦に裂けた。

メリメリメリ!!

「ぐぉぉぉぉ!!」

裂けた皮膚は見る見るその範囲を広げ、

そして、久男の手足が急速に浮腫み始めた。

「うぉぉぉぉぉ!!」

苦しさと激痛から逃れようと久男がのたうち回る。

すると、

ジュルジュルジュル!!

久男のお腹が急速に萎んでいくと、

尻から昆虫の腹のようなフットボール程の肉塊が飛び出し、

それが見る見る成長していった。

そしてさらに背中の裂け目からは左右2対の透明な羽根が伸びていくと、

ベリベリ!!

久男の両手両脚の皮膚が弾き飛び、

その下から、黒い殻に覆われた昆虫の脚が姿を現した。

「うぉっうぉっ」

目を剥き仰向けになった久男は身体から生えた昆虫の脚を動かしまくる。

そうするうちに、

ビッビィィィィィィィ!!

背中に生えた羽根が乾いて動き始めると、

ベリベリベリ!!

人間に皮膚を引き裂き、久男は新しい昆虫の身体を披露した。

『これは…』

びっビィィィィィ!!

羽根を動かしせわしく手足を動かす巨大なハエ

それが久男だった。

「ねぇ、ハエになった気分はいかが?」

巨大なハエと化した久男にに小百合はそう言うと、

「でも、この部屋はあなたに取っては危険ね」

と続けると、

部屋の隅にあるハエトリソウを指さした。

『うっ…』

出来たばかりの複眼で薫だったハエトリソウを見ると

久男はまるで吸い寄せられるように薫に近づいていった。

『…あぁ…だめ…久男…こっちにきては』

ハエトリソウの中に埋もれ掛けていた薫は近づいてくるハエを見ながらそう呟くが、

しかし、そんな薫の気持ちとは裏腹に、

グググ…

薫の口は大きく開くと盛んに匂いを放出し始めた。

『あぁ、ダメだこの臭い…逆らえない…』

一方で久男は薫が吐き出す臭いに惹かれるようにして、

薫の身体に6本の脚を使って集ると誘うように開く口へと進んでいった。

『ダメ…久男…離れて!!』

サワサワ!!

薫にとって唯一残された能力を使って久男を追い払おうとするが、

しかし、久男は薫の大きく開いた股間の口の中へと入っていった。

『あぁ…だめぇぇぇぇぇ』

股間の口の中でモソモソと動く久男の動きに薫は絶頂を迎えると、

パクン!!

股間の口は久男の身体を捕らえるように閉じてしまった。

ブッブブブブブ!!

身体を挟まれた久男は藻掻くように羽根や脚を動かすと

『あぁ…だめ…

 そんなに体を動かさないで、
 
 逝っちゃう
 
 逝っちゃう!!』

薫は幾度も絶頂を迎えると、

ドクン!!

久男を溶解させる愛液を流し始めた。

『あぁ…身体が…溶ける!!』

薫が流し始めた溶解液に身体を覆われた久男は、

自分の身体を溶かし始めた溶解液から逃げ出そうと身体を忙しく動かすが、

しかし、久男が動けば動くほど溶解液は彼の身体を溶かし、

そして、薫の養分になっていった。

『いやぁぁぁぁ…

 久男があたしの中に染みこんでくる…

 だめぇぇぇ!!

 そんなのダメぇ!!』

自分の身体が久男を吸収し始めたことに気づいた薫は身体を盛んに揺する。



ブブブブ…

サワサワサワ…

ブブ…

サワサワ…

ブッ

サワ…

「ふふ…」

次第に動かなくなっていく巨大なハエと

そのハエをくわえ込んでいるハエトリソウを眺めながら

小百合はサディスト的な笑みを浮かべると、

「いい気味…

 小百合に久男…

 あたしから結婚のお祝いどうかした?

 お熱いお二人にはこの上ないと思ったけどね。

 でも、これであなた達は二度と離れることはないわ、

 永遠にそこに佇んでなさい、じゃぁね」

そう言うとパタン!!っとドアを閉めた。

そして、このドアが開くことは二度と無かった。



おわり