風祭文庫・異形変身の館






「黴」


作・風祭玲

Vol.287





「もぅ、なにこれ?

 汚ったないわねぇ!!」

前日からの雨が上がり、

梅雨明け間近を思わせる太陽が顔を出したある休日の朝、

俺の部屋に彼女である夢子の怒鳴り声が鳴り響いた。

「あんだよぉ、朝っぱらから」

目ボケ眼をこすりながら俺が起き上がると、

「いやぁぁ、くっさいっ」

バフッ!!

鼻を摘みながら夢子が前日着ていた俺の汚れ物を投げつけてきた。

「なにしやがるっ

 部屋の中を勝手に荒らすなよな!!」

夢子の行動にカッとなった俺はそう怒鳴ると、

「晴彦がいつまでも寝ているからよ、

 今日の約束忘れたの?」

と夢子が怒鳴り返してきた。

「え?、今日の約束?」

怒鳴られて俺は考え込むと、

スグに

「あっ」

ポンッ!!

っと思わず手を叩いてしまった。

「その様子じゃぁ

 完っ璧っに忘れていたみたいね」

そんな俺を夢子は呆れながら見下ろしていた。

「いやぁ、ごめんごめん…

 ここんところ警察からの鑑定の依頼が多くって、

 その作業に遅くまでかかっていたから…すっかり忘れていた」

両手を合わせながら俺は頭を下げると、

「はぁ…

 まぁいいわ…
 
 もぅこの時間じゃぁどうしようもないわね」

夢子は時計に視線を送りながら諦めるような口ぶりでそう言うと、

「よしっ、

 じゃぁ、予定を変更して

 今日はこの部屋の片づけをしましょう!!」

と言うなり夢子は腕まくりをするとズンズンと俺に近づいてきた。

「おっおいっ

 ちょっと待てよ…

 え?

 うわぁぁぁ!!」

俺の絶叫が響き渡る。



「それにしても、どうして男って

 こんなに散らかっている部屋で生活していけるの」

ゴウンゴウン…

洗濯機の前で仁王立ちしている夢子がそう呟いていると、

「あのぅ、これで最後です…」

申し訳なさそうにそう言いながら俺は汚れた靴下を差し出すと、

「もぅ他は無いのね?」

ジロッ

夢子は俺を睨みながらそう言った。

「えっと…もぅ無いと思いますが…」

身包み剥がされ文字通りパンツ一丁の姿にされてしまった俺は

申し訳なさそうにそう返事をすると、

「よろしい…

 では、続いて部屋の掃除いくよ!!」

と言うな否やテキパキとゴミや雑誌が散らかっている部屋の片づけを始め出した。

「あのぅ…俺が着る服は…」

そんな夢子の後姿を見ながら思わず訊ねると、

「男がパンツ一丁で死ぬわけ無いでしょう、

 あたしの約束をすっぽかした罰だから、

 今日はそのままで居なさい!!」

という無常な返事が返ってきた。

そして、

昼を回り、3時近くになった頃…

「うん…これでよしっ」

満足そうに部屋を眺めている夢子の前に

綺麗に片付けられた俺の部屋が広がっていた。

「ほぉ…」

その後ろでやっと乾いたTシャツと短パンを着た

俺もすっかり変身した部屋に思わず驚く、

すると、

「なにを感心しているのよ、

 これが当たり前なのよ」

夢子はそう言いながら俺の下っ腹を小突いた。

「そんな事言ったってなぁ…

 こっちだって何かと忙しくて片付けている暇はないんだぞ」

俺が言い返すと、

「はぁ…

 折角の休みだったのに…

 結局、晴彦の部屋の片づけで終わってしまったか」

「悪かったな…

 で、今日…本当はどこに行く気だったんだ?」

タバコの煙を揺らせながら訊ねると。

「えぇ!!

 それ忘れて返事をしていたの!!

 もぅ!!

 今日…オーシャンプールがオープンする日でしょう」

目を丸くして夢子が言うと、

「あっそうか」

俺は頭を掻きながら返事をした。

「しっかりしてよね、

 折角、気合入れて新しい水着を買ってきたのにぃ」

夢子はそう文句を言いながら青のコントラストが眩しい水着を手にとって俺に見せる。

「ほぉ…これはまた刺激的な水着で…」

水着を眺めながら俺がそう言うと、

「見られなくて残念ね」

意地悪そうに夢子が返す。

「まぁ夢子の3段腹が見られなかったのは不幸中の幸いか

 そうだなぁ…

 その3段腹の分、胸があればグーなんだけどな」

夢子の言葉に負けじとそう俺が言うと、

ゲシッ!!

怒りに満ちた夢子の鉄拳が炸裂した。

そして、

「悪かったわねっ

 あたしのスタイルが悪くって!!」

と付け加えられた後に、

「帰る!!」

そう怒鳴って夢子が立ち上がった途端、

ガサッ!!

壁に掛けてあった紙袋が外れ落ちると、

その紙袋の中に押し込んであった白衣が夢子の頭に被さってしまった。

「いやぁぁぁ!!

 なにこれぇ!!」

突然視界を奪われた夢子が散々もがいて白衣から顔を出すと、

「晴彦ぉ…まだ汚れ物があったじゃないっ」

と夢子は俺に睨みつけけた。

「あはは…まだあったみたいだな」

まるでコントのような流れに俺は思わず笑ってしまったが、

ただ、

スゥー

夢子の額から一筋の液体の筋が頬へと走っていくと、

そのまま、口元に流れていった。

「あっ」

それを見ていた俺は小さく声を上げるが、

しかし、

グッ!!

夢子は大してそれを気に留めることなく腕でぬぐうなり、

「晴彦のばかぁ!!!」

溜めていた怒りをぶつけるようにして怒鳴ると、

脱兎のごとく部屋から出て行ってしまった。



「よう。松島っ

 昨日はどうだった?」

月曜の朝…

研究室に出てきた俺に仲間の館林が声をかけてきた。

「え?」

彼の言葉に俺が聞き返すと、

「なにを恍けているんだよ、

 彼女とプールに行ったんだろう、
 
 羨ましいヤツめ!!」

館林はそう言いながら俺のわき腹を小突く、

「あぁ、それか…

 金曜の夜、お前がヘマをして徹夜作業になったろう?

 それでうっかり寝過ごしてしまってパァだよ」

俺はそう言うと、

「うわぁぁ…

 それは悪い事したな」

館林は頭を掻きながらそう謝ってきた。

「まぁ、いいよ終わったことだ」

俺はそう言いながらポケットに手を入れると、

「あれ?」

警察から鑑定の依頼をされていたサンプルが入った小瓶が見当たらない。

「どうした?」

俺に様子に気づいた館林が聞いてくると、

「いやっ、サンプルのビンが…あっ」

と言いかけたところで夢子の頬に流れた液体の筋を思い出した。

「まったく、お前は…

 作業が終わってたからいいけど、

 サンプルをポケットになんかに入れとくからだぞ」

館林は呆れながら俺にそう言うと、

「…なぁ、あの中身って人体に触れると何か悪さをするか?」

間髪居れずに尋ねた。

「あん?、

 さぁな…?

 見たところただのカビだったけど、

 まぁ、大抵のカビは人体内に入っても免疫で潰されるから問題は無いけどな

 それがなにか?」

「いや…ちょっと聞いてみただけ…

 あっホラっ

 実験の最中に俺…触ったじゃないか」

夢子が頭から被ったとは言えず別の理由をつけると、

「あははは…

 意外と神経質なんだな、お前は」

館林は笑いながら俺の背中を叩いた。



その夜…

「あれ?…

 夢子から電話が入ってる…」

俺は自分の携帯に夢子から掛かっている事に気づくと、

折り返し電話を掛けてみたが、

しかし、

いつもならすぐに出る筈の彼女の電話は

ずっと留守番電話になったまま出ることは無かった。

「なんだ?」

不思議に思いながらも、

次の日も、

その次の日も、

俺は電話を掛け続けた。

しかし、夢子は電話に出ることは無かった。



「どうしたっ

 やけに御立腹の様子だけど…

 彼女と喧嘩でもしたか?」

思うように夢子と連絡が取れず、

苛立っている様子を見た館林がそう声をかけてくると、

「知るかっ、あんな奴…」

俺は口を尖らせながら返事をした。

「おやおや、その様子じゃぁ

 大分重症のようだなぁ…

 まぁ、喧嘩もいいけど、

 ただ、あんまり彼女をほったらかしにしていると、

 あそこにカビが生えてしまうぞぉ、

 もっとも、カビだけならともかく、

 キノコが生えたりして…」

苛立ちを抑えている俺をからかうかのように館林はそう言うと、

「なにバカ言ってんだよ」

俺はそう言いながら館林の横っ腹をどついた。



そして、土曜日…

『では、次のニュースです…

 ○○市のアパートで、その部屋に住んでいる

 …さんと思われる白骨化した遺体が発見され…

 …警察では…』

淡々とアナウンサーがニュースの原稿を読みあげると

「はぁ…またこの事件か…」

そう呟きながら俺が朝飯を食べていると、

RIRIRIRI

俺の携帯が鳴り響いた。

「はい?もしもーし」

相手が夢子だと思って電話を取ると、

かけてきたのは夢子の親友だった。

「え?、夢子がずっと休んでいる?」

親友からの内容は夢子か今週に入ってからずっと休んでいることを俺に告げた。

「判った…

 俺が様子を見てくるよ」

そう返事をして電話を切ると俺は部屋を飛び出していった。

そして、

ドンドンドン!!

「おいっ、夢子!!

 居るのか!!」

俺は夢中になって部屋のドアを叩いていると、

ガチャッ

「なにやってんだ、うるせーぞ!!」

隣の部屋のドアが開くとムッサイ親父が顔を出すなり怒鳴り声をあげた。

「すっすみません…」

親父の剣幕におれは押されながら謝ると、

「おいっ、お前

 そこのねーちゃんの彼氏かぁ

 だったら、部屋の片付けやっと居てくれないか?

 もぅカビ臭くて溜まらねーわ」

親父はそう俺に言うと、

バタン!!

っとドアを閉めてしまった。

「そう言えば…」

ふんふん…

俺は匂いを嗅いでみると確かに夢子の部屋から粉のようなカビの匂いが漂っていた。

「まさか、夢子…」

俺の脳裏に考えてはいけない光景が浮かぶ。

その瞬間、ドアノブを握る手が思わず回ると、

チャッ

「あれ?」

鍵が掛かっていたと思っていたドアがあっさりと開いてしまった。

「…なんだ、鍵は開いていたのか…」

鍵が掛かっていると思って居た自分が恥ずかしくなる。

ガチャッ

俺はそのままドアを開くと夢子の部屋の中に踏み込んでいった。

ムワッ…

湿気とカビそして饐えたような不気味な臭いがが部屋中に充満している。

「うわぁぁぁ、くっせー…

 なんだこりゃぁ!!」

鼻を抓みながら俺は声を上げると、

とにかく窓を開けようと奥へと向かっていった。

すると、

グシャッ!!

踏み込んだ畳から水が上がってくる。

「げっ、畳が腐ってる…

 大のきれい好きのアイツが…

 一体どーなってんだ…?」

まるで廃屋の中を歩いているような錯覚に俺は陥りながらも

俺は窓際にたどり着くと、

『晴彦ぉ?』

まるで亡霊のような夢子の声が部屋に響き渡った。

「うわぁぁぁぁ」

それを聞いた俺は思わず飛び上がる。

すると

『来てくれたんだ…

 ありがとう…』

と何処か倦怠感を感じさせる夢子の声がした。

「ゆっ夢子か?

 いっ生きているのか?」

ぞわぁぁぁぁ〜っ

恐怖で凍り付く心臓をなんとか動かしながら聞き返すと、

『あたりまえじゃない…

 ねぇ…凄いのよ、

 あたし…痩せたのよ、

 ホラッ

 もぅ、晴彦に3段腹なんて言わせないから…』

と地下から沸き出してくるような声に、

「そっそうか…」

俺は必死の思いで声をひねり出す。

そして、

「とにかくだ、

 窓を開けようぜ、なっ」

と俺が言うと、

『ヤメテ…

 窓を開けないで…
 
 開けたら身体が乾いちゃう』

夢子の声が響く、

「乾いちゃうって?」

『あたし、湿気がないとダメなの…

 だからこの環境の方が凄く楽なのよ』

と言う夢子の言葉に

「どういう意味だそれ?」

俺は思わず聞き返した。

すると、

『ねぇ、後ろばかり向けてないで、

 こっちを見て…』

サクッ

サクッ

夢子のその声と共に俺の背後から何かが迫ってくる。

ブルブル

俺は身体の震えを押さえながら思い切って振り返ると、

ふわっ

カーテン越しに差し込む薄明かりに浮かぶように

あの青のコントラストの水着を着た夢子の姿があった。

「いっ生きていたか…え?」

俺は健在の夢子の姿にホッとするのと同時に、

彼女の異常さに目を見張った。

そう、水着姿の夢子は確かに依然とくべると、

スタイルはよくなり、

出ているところ、

引っ込んでいるところのメリハリがシッカリとしていて、

海辺では間違いなく衆人の注目を浴びること間違いなし、

と思うのだが、

しかし、

肌の色があまりにも異様だった。

『どうしたの…

 あたしのこのスタイルに声が出ないの?』

夢子はそう言いながら自分の身体を見せつけるように近づいてきた。

「あっあぁ…

 凄いよ…」

俺はそう言いいながら夢子の肩に触った。

すると、

ヒヤッ

まるで氷のような冷たさが俺の掌に伝わって来る。

「え?」

夢子の肌の異様な冷たさに俺は驚くと、

「夢子…お前おかしいよ…

 その肌と言い、

 その冷たさと言い」

そう指摘した。

すると、

『そう?』

夢子は大して気にしない返事をする。

「そうって気がつかないのか、

 その蝋燭のように白い肌に、

 温もりを感じない身体…

 そして、この部屋の様子、

 そう考えてもおかしいよ」

そう叫びながら俺が夢子の肩を強く握りしめた途端。

ボロッ

夢子の両肩の肉がまるで固めた砂の如く崩れてしまった。

ムワッ

それと同時に強烈なカビ臭さが俺を襲う。

「なっ…なんだこれ?」

臭いから逃れるように俺は怯むが、

しかし、夢子はこのことを大して気にせずに、

『あーぁ、

 肩が崩れちゃったじゃない…

 どうしてくれるのよ』

そう言いながら彼女は崩れた肩に手を当てると、

ムズムズムズ

俺がはぎ取ってしまった肩を復元するかのように、

周囲が盛り上がると瞬く間に元に戻ってしまった。

「なっなんだよう、それ…」

俺は震える手で夢子を指さすと、

『何でか知りたい?』

夢子は俺に向かってそう告げた。

ザッ

俺は夢子から一歩また一歩と間合いを取りながら身を引くと、

その一方で夢子は俺に近づいて来る。

グルリ

いつの間にか俺と夢子の位置関係が反転すると、

『あのね…』

夢子が口を開いた。

「なんだ?」

恐る恐る俺が尋ねると、

『あたしの身体…カビで出来ているのよ』

と俺に告げた。

「カビ?」

俺は夢子の言葉を容易には信じられないでいると、

『あの日…

 晴彦の部屋から帰ってきたときから

 なんか肌の具合がおかしくなって…

 そう、まるで何かに侵されていくような…

 そんな感じがしたの…

 でも、それは気のせいだと思ったわ…

 しかし、月曜日の朝、陽に当たったら顔の肌が崩れてしまって…』

そう夢子が説明したとき、

「あっ」

俺は自分の携帯に掛かってきた電話のことを思い出した。

「じゃぁ、月曜に…」

俺がそう尋ねると、

『うん、顔が無くなっちゃったの…』

「え?」

『陽に当たった途端、

 顔の肌が急に乾いたような感じがして、

 そしたら、

 バサバサってね…』

夢子からそう聞かされた俺は思わずその瞬間を想像すると身を引いた。

『最初はなにが起きたのかわからなかったわ…

 でもね、しばらくすると元に戻ったのよ、

 そして、気づいたわ…

 あたし…身体をカビに侵されているんだって…

 だからこうして、カビを殺さないようにしたら、

 あっと言う間にカビはあたしの身体を侵し尽したのよ』

夢子は俺にそう説明をすると一歩近づいた。

「そっそうなのか」

追い詰められていくように俺は返事をすると、

『ねぇ…晴彦…

 あたしをこんな身体にした責任とってよ』

「え?

 …え?えぇ?
 
 そんな…」

夢子の言葉に俺は声を上げると、

『しらばっくれてもダメよ、

 晴彦の白衣からのあの液体のせいでこんな身体になったのよ』

ガシッ!!

夢子は俺にそう言うと俺の両腕をつかみ上げると

そのまま俺を押し倒した。

「まっ待て、

 落ち着いて話し合おう、なぁ…」

慌てふためきながらそれはそう説得をすると、

『無駄よ…

 晴彦…あなたの身体、このカビで侵してあげるわ…』

夢子がそう告げると、

ボロッ

ボロボロボロ

彼女の顔が見る見る崩れ落ちると、

カビの匂いを撒き散らしながら俺の顔に降り注ぎはじめた。

「ぶはっ」

俺は首を幾度も振って降り注ぐカビを払うと、

「うわぁぁぁ」

目の前の夢子を見て悲鳴を上げる。

カシャッ

顔の肉が剥がれ落ちた夢子は黒い眼窟のあいた髑髏の顔で俺を見つめていた。

「ひっひぃぃぃ!!」

それを見た俺は押さえつけている夢子の両手両足を振りほどこうとして、

手足を激しく動かしたが、

しかし、その行為が返って夢子の身体を崩壊させてしまった。

バサ…バサバサバサ

次々と夢子の体からカビに侵された肉が俺に降り注ぎ、

そして、俺はその中にうずまっていく、

「たっ助けてくれぇぇぇぇ!」

崩れ落ちた夢子の肉体に埋もれた俺は弱々しく声を上げるが、

『うふふふふ…

 晴彦ぉ

 あなたも一緒に…』

夢子のその言葉を聞きながら俺の肉体はカビに侵されていった。



「そうなんですよ…」

パシャッパシャッ!!

鑑識のフラッシュが焚かれるなか、

隣の部屋の親父は若い刑事に事情を説明をする。

その横で、

「う〜む…」

そう唸りながら老練な刑事は絡まりあうように倒れている2体の白骨を眺めながら、

「ふぅ…

 これで何件目だ?

 この手の事件は…」

若い刑事に訊ねると、

「他の管轄のも含めますと5件目ですね

 で、やはりこの仏さんの片方はやはりここに住んでいた娘さんでしょうか…」

と若い刑事が聞き返してきた。

「さぁな」

刑事はそう返事をすると、

「それにしても半月前には元気だったと言うのに

 こんな短期間で白骨化するなんて信じられませんよ」

「まったく、世の中判らない事だらけだ、

 おいっ、聞き込みをするぞ」

「はいっ」

そう言いながら刑事達は部屋を後にした。



『だってよ…どうするんだよ』

『そんなこといってもあたし知らないわよ、

 あぁやだ、きっと交友関係から聞き込みにいくんだわ』

『言っておくけどなぁ俺はやましいことはしていないからな』

白骨の下で蠢くカビからそんな声が漏れていた。



おわり