風祭文庫・モラン変身の館






「大都会の勇者」
(第7話:助っ人)


原作・inspire(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-310





人通りが激しい表通りより別れ路地裏へと伸びていく細い通り。

表通りから分岐した通りは何度も何度も道を振り分け、

やがて人としての道を踏み外すか、否かの境へとたどり着く。

そしてその境にある三角地に一軒の建物が建っていた。

その名は黒蛇堂。

変身にかかわるアイテムを取り扱う不思議な店でもあり、

そして、最後の分岐点である。

カラン…

重々しい扉に付けたベルが軽い音を奏でると、

一人の人影が店内に入ってきた。

『いらっしゃい…

 あら、明石さん。

 お久しぶりですわね』

人の気配を感じた黒蛇堂はふと顔を上げると、

カウンター越しに姿を見せた一人の少女の顔を見る。

黒蛇堂を訪れた客の名前は明石美津子。

とある高校の世界民族研究部の部長を務めている。

「ここは…相変わらずね…」

ぐるりと店内を眺めた美津子は小さく笑いながら声を掛けると、

『はい、当店はいつも通りに営業をしております』

と黒髪を軽く揺らして黒蛇堂は答える。

「早速で悪いんだけどさ、

 ここにあるディンガ族のお札をいただけないかしら?」

カウンターから身の乗り出すようにして美津子は尋ねると、

『ディンガ族のお札ですか?』

黒蛇堂はキョトンとした表情で聞き返す。

「えぇ、どうしても必要なの」

そんな彼女に向かって美津子は懇願する表情で言うと、

『ええ…ございますが、

 でもなぜいきなりこのような時に?

 学園祭までまだ時間があると思いましたが…』

カレンダーを横目にしながら黒蛇堂は尋ねる。

「…実はうちの部、

 けっこうやばい状況にあってね、

 学園祭で回りの注目を一斉に浴びるような事をする必要があるのよ」

『はあ…

 それで?』

「で、いろいろ考えた結果。

 黒蛇堂さん。

 あなたにひとつ協力をしてもらおうかと」

『え?

 えぇ!』

彼女の申し出に困惑する黒蛇堂だったが、

しかし人生の長さで勝っていても、

一端の部長である美津子に言い包めてしまうと、

使えそうなお札を何枚か差し出したのであった。

「ありがとうね、

 そうだ、それとさ、

 男性用のビキニパンツもお札の枚数分貰えるかな」

お札を手にした美津子は続いて別の物を所望したのである。

『ビキニパンツ…

 はぁ…ございますが…』

目が点にしながら黒蛇堂は青いビキニパンツを差し出すと、

「恩に着るわ」

美津子は喜びつつも見返りの恐ろしさを知っているため、

その言葉と共にキチンと代金を置いて店を後にすると、

「よっしゃぁ!」

気合一発、人間界へと通じる道を歩いていったのであった。



翌日、世界民族研究部の部室には非常収集を受けた部員達が集まっていた。

そして、集合をしている部員達の前で

バンッ!

美津子は机を叩くと、

「今、うちの部は非常に危機的な状況に立たされています」

と口を開いたのであった。

「危機的な状況?」

美津子の口から飛び出した言葉に部員達は顔を見合わせると、

「えぇっ

 この危機的な状況から脱出するために、

 みんなに一肌脱いでもらいます」

と鼻息荒く声を強めた。

「あのぉ、

 一肌脱ぐのはいつもやってますが」

彼女の言葉に一人がそう返すと、

ドッ

と部室は笑いに包まれ、

「そうよね。

 あたし達、いつも脱いでいるものね」

などと同調する意見が出た。

しかし、

「茶化さないのっ」

そんな空気をたしなめるように美津子は声を上げると、
 
「いいこと、あたし達世界民族研究部は

 学園祭の際には世界中のいろんな部族の男に変身して

 校内を練り歩いているけど、

 それだけではいまいち部の存在意義が保てないし。

 生徒会からも認めてもらえないのよ」

と力説し、

「しかも、来年度から部の予算を切り詰める。

 って生徒会から内示を受けたわ」

そう危機的な状況の説明をしてみせる。

「そんなぁ!」

彼女の説明に部員達は一斉に声を上げると、

「だから、

 そうさせないために。

 このお札を使う必要があるのっ」

と言いながら黒蛇堂から手に入れたお札を皆に見せた。

「でも、部長…

 お札を使っても…いつもと変わらないのでは」

それを見た部員たちからも不安そうな声が聞こえてくると、

「大丈夫、まかせておいて…」

と美津子は答え早速1枚の札を使ってみせる。

すると、

「あはんっ」

ムキムキムキ!!

美津子はあえぎ声と共に漆黒の肌に細身の筋肉質、

そして股間より棍棒のようなペニスを勃起させた野生部族の男に変身したのである。

さらに、

「今日はいつもとは違うものをみんなに身に着けてもらいます」

そういうと男に変身した美津子は衣装を取り出した。

その衣装はちょうど男性ボディビルダーが履くビキニパンツだった。

「それって?」

「説明する前に、皆さんも変身してください」

ビキニパンツを指差す部員に向かって美津子はそういうと部員たちに札を手渡し、

部員たちもまた野生部族のたくましい男の姿へと変身していく。

そして全員変身し終わったのを確認すると、

「みんなにはここにあるビキニパンツを履いてもらいます。

 そして、ダンスの練習をします」

水色のビキニパンツを履く美津子はそう言いながら振り付けが書かれた紙を用意した。

「部長?

 こんなダンスを踊ることになんか意味があるんですか?」

疑問をもちながらも緑色のビキニパンツをはいた渕上明美がこう質問した。

すると、

「実は、来週軽音楽部のライブがあるのをご存知ですよね?

 実はそのライブで黒人の筋肉質の男のバックダンサーが必要なんです」

その質問に美津子は説明すると、

「でも、

 なんであたしたちがやらなきゃいけないんですか…?」

「明美さん…

 最近の部族の男たちというのも、

 実は結構都会化しているものなの。

 なぜかっていったら

 都会の文化も受け入れていけないとこの世界では共存が難しいからなの。

 私たちもほかの部との共存を図らなければいけないわ」

美津子の言うことにも一理ある。

生徒会やほかの部に認められるためには

ほかの部の役に立っていることを示さなければならない。

「わかりました…

 このまま研究部を終わらせたくないですよね…」

「わかってくれた?

 なら、練習を始めましょう」

こうして、黒人筋肉男たちのダンスの練習は夕方の遅い時間まで続いた。



そして、ライブ当日…

「うーむ…

 ビキニパンツのダンサーと言うのも面白いし、

 それになかなか良い体つきじゃない」

軽音楽部の顧問兼音楽教師のメガネが興味津々そうに光る中、

「(り・りっちゃんっ)」

「(気にするな。ゆい)」

「(目の持って行き場に困りますぅ)」

「(誰もいない、誰もいない、誰も…)」

「(クスクス…面白い…)」

5人の少女達が奏でるベースやドラムの音に併せて

世界民族研究部の部員たちは踊っていた

「(…ちょ…なにすんのよ…あんたのもん、パンツ越しにあたってるわよ)」

「(…ごめんごめん…でも…なんかこういう場にいると勃って来ちゃって)」 

「(それはみんな同じよ…)」

部員たちは世界民族研究部の新しい活動に快感を感じているようだ。

「(みんな楽しんでいるようね…

  さて、次はどこに恩を売っておこうかしら)」

演舞を行いながら美津子は次のことを考えていたのだった。



おわり



この作品はinspireさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。