風祭文庫・モラン変身の館






「大都会の勇者」
(第3話:勇者の証)


原作・inspire(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-280





ペーペー

ポーポー

ペーポーペーポー

ここはどこにでもある遊園地…本当にどこにでもある遊園地である。

無論、どこにでもある遊園地なので、

人気はあるもののやたらお金が掛かるネズミモドキがいないのは当然である。

さて、その遊園地の一角に軽快なメロディーを奏でつつ

動物を模した乗り物が徘徊するコーナーがある。

多くの子供達に親しまれているこのコーナーは人気があり常に人だかりが出来ているのだが、

そのコーナーの片隅で、

「どうしよう…あたしたちもう戻れないわ…」

「そんな…どうすればいいの?」

朱染めの布・シュカですっぽりと体を包み、

鈍く光る槍を突き立てている二人組の姿があった。



ペーペー

ポーポー

ペーポーペーポー

周囲の景色と比べると明らかに異形な2人を乗せて、

ライオンの姿をした乗り物は軽やかな音色を立ててゆっくりを移動をはじめる。

「困ったわ…」

チャッ

動き始めた景色の中、

槍を持ち替えて一人がそう呟くと、

「ねぇ、どうするのよ」

と別の一人が聞き返す。

そして、

「今夜、

 もぅ一回、あの民俗館に行って見ようよ」

とシュカの中から黒く光る肌に覆われた腕を差し出すと、

乗り物のコーナーからさほど遠くないところにあるレンガ造りの建物を指差すが、

「でも…」

最初に声を上げた一人はためらう表情を見せる。

と、その時、

「ん?」

自分達に突き刺さる視線を二人が感じとると、

彼らが乗るライオンの乗り物を遠巻くようにして、

大勢の家族連れがヒソヒソ話をしていたのであった。

「おっおねえちゃん!」

それを見て一人が困惑した声を上げると、

「ふっ、

 こっちは不幸のどん底にいるというのに…

 みんな平和そうな顔をして、

 えぇいっ、不幸のどん底に突き落としてくれるぅ」

何かがブチキレたのか一人がスクっと立ち上がり、

「すいっちっおーばー!」

と声を張り上げ纏っていたシュカを剥ぎ放り投げてみせた。

その途端、

「おぉっ!」

周囲から感嘆の声が上がり、

それらの注目を一身に浴びて、

陽の光を受け黒く輝く肌、

朱く染め縒り結われた長い髪、

そして首元を飾る原色のビーズで作られた飾り、

引き締まった筋肉質の肉体に

腰に巻いた小ぶりのシュカ一枚の出で立ちとなった男…

いやマサイの戦士は胸張ってみせると、

「我が名はアキナ。

 マサイ長老・ンバイカンが僕。

 シンバよ、我に従え!!」

と口上を叫ぶや、

「ていっ!」

手にした槍を投げ、

カッ!

たまたま近くを通りかかっていたパンダの乗り物に突き刺した。

すると、

ボッ!

たちまち槍の周囲から煙が吹き上がり、

『しんばぁ〜っ!』

その中からの白黒ブチ模様の巨大ライオンが立ち上がっていく。

そして、

『さばんなはどこだぁ!』

の声を上げながら遊園地の施設を壊し始めた。

「うっうわぁぁぁ〜っ

 化け物だぁ」

「助けてくれけ!」

突然現れた怪物に皆は驚き、

悲鳴を上げて逃げ惑う。

「はーはははは!」

巨大ライオンが暴れる姿を見ながら

マサイの戦士は声を上げて笑い、

「シンバよ、

 もっと暴れよ」

そう命じつつ握った拳を付き合わせ、

グリグリと回すようにねじり始める。

すると、

『しんばぁ〜っ』

暴れ回っていた巨大ライオンは立ち止まり、

カカッ!

雷光の如く鬣を光らせた瞬間。

ゴワァァァァァァ!!!

なんと口から怪光線を放ったのである。

すると、どうだろう、

「うわぁぁぁぁ」

メキメキメキ

「きゃぁぁぁ」

バキバキバキ

怪光線を浴びた人々は次々とその姿を変え、

ある者はシマウマに、

またある者はクロサイに、

そして、またある物はインパラへとサバンナの動物の変身し、

さらに怪光線を浴びても動物に変身しなかった者は、

皆、漆黒の裸体を晒すマサイの戦士となって槍を持ち、

逃げ惑う動物達の後を追いかけ始める。

「うわぁぁぁ、ママがぁ」

「きゃぁぁ、パパがぁ」

まさに阿鼻叫喚である。

「はーははははは!!

 泣け、

 喚け、

 お前たちが嘆き悲しむほど不幸のゲージが上がっていくのだぁ」

混乱する中、マサイ戦士・アキナは得意そうに声を上げていると、

「笑いのツボっ!!」

の声と共に

グキッ

アキナの秘孔が突かれた。

「ぐはははははははっ、

 なっナツミ君っ

 いっいきなり何をするんだ」

秘孔を突かれた途端、腹を抱えながら笑い始めたアキナは、

元姉であるモラン・ナツミに食って掛かるが、

「もぅっ、

 こんな騒ぎにしてどうするつもり?」

纏っていたシュカを脱ぎ、

アキナと同じ漆黒の裸体を晒すナツミは文句を言うと、

「だっだってぇ、

 ぐははははは!!!

 みんなにあたし達と同じ思いをさせようと、

 ぐははははは!!!」

お腹を抱えながらもアキナは言い返す。

そして遊園地を大混乱に陥れつつこの場から離れていく巨大ライオンを見送りつつナツミは腕を組むと、

「まっ、

 これでしばらく静かになるからいいか」

と呟く。

マサイ戦士・アキナとナツミ。

この二人の出で立ちはどう見てもこの場には相応しいものではない。

あえて言えばアフリカ・サバンナの灼熱の大地に相応しい姿であり、

二人はその赤茶けた大地を生きる場とするサバンナの戦士・マサイ族のモランなのである。

無論、二人のマサイの戦士は生れ落ちた時はマサイではなかった。

もともと二人はこの遊園地がある街で生まれ、生活をしてきたのである。

そう普通の姉妹、奈津美と亜季奈として…

だが二人が揃ってアフリカサバンナを旅行していた際、

突然、

「イーっ!」

全身黒尽くめの謎の部族の男達に襲われてしまうと、

そのまま拉致されたのだ。

そしてその時を境に二人の運命が大きく変わったのである。



「やっやめてぇ」

「助けてぇ」

煌々と燃え上がる松明の下。

体を大の字に開かされ、

手足を木に縛らた二人の前に怪しげな呪術師が迫ると、

キラリ

その手に握り締められたナイフが光る。

「ひっひぃぃぃ!」

迫る恐怖に二人は顔を引きつらさせると、

『この者達に新しい命と肉体を授けるのだ』

と呪術師の背後に掲げてあるワシのエンブレムが点滅しながら話しかけてくる。

「なっ何か話しているよ、お姉ちゃん」

「わっ判っているわよ」

絶体絶命の状況の中、

二人はそう話していると、

ニヤッ

呪術師は笑みを浮かべ、

「お前達は私の手で戦士となるのだ。

 そうサバンナの戦士・マサイにな」

と話しかけてくる。

「なっ何を言っているのっ」

「あっあたまおかしいんじゃない?」

呪術師に向かって二人はそう言い返すが、

「ふふふっ」

呪術師は怯むことなく姉の奈津美に向かってナイフを近づけていく、

こうして二人は呪術師によって狂気の儀式を施されてしまい、

「うっ」

「はっ」

再び目を覚ました時、

呪術師の言葉通りに二人はマサイの戦士となっていたのである。

「おっおねえちゃんなの?」

「まさか、あっあなたは亜季奈?」

すっかり姿を変えらてしまった二人はそれぞれ自分の体を見つめた後、

「どっどうしよう…」

と抱き合い泣き叫ぶ。

しかし、二人の股間に生やされえた漆黒の逸物・イリガは

そんな二人に容赦なく白濁した精を吹き上げて見せると、

二人に男としてモランとしての意識を植え付けていく。

こうして二人はマサイでの生活をし、

自分のイリガを勃てることを繰り返すうちに必要な知識だけが残り、

体だけではなく心もマサイに染まっていくはずであった。

そして完全にマサイの戦士になるための最後の別れになるかもということで、

二人は秘儀を使用して特別にこの街に帰ってきたのだった。

だが、故郷の街に未練があった二人は自分の思い出をたどるうちに、

秘儀の有効な時間を過ぎてしまい、

ついにサバンナに戻れなくなったのである。

サバンナでなければマサイの心に染まることは難しいし、

元の女の子の姿にはもう戻ることは出来ない。

二人はまさに進退窮まっていたのである。



夜。

アキナが起こした騒動は通りすがりのフレッシュな正義の味方によって見事解決し、

あのパンダの乗り物は静かにプールの中に浮いている。

「…やっぱりダメだわ」

民俗館の暗闇の中、

シュカを身にまとうモラン・ナツミはサバンナに戻れないことを察するなり、

ガッカリした口調でそう呟くと、

「かといって街中でイリガを勃てているわけにも行かないし…」

と続ける。

「でもあたし達、このままだと野垂れ死にしちゃうよ…」

そんなナツミに向かってアキナは返すと、

「とりあえずココを出ましょう、

 長くいると警備員に見つかるわ」

ナツミはそういうなりアキナをつれて民俗館から出て行った。

「アフリカと違って凄く寒い…

 何か掛けるものを探してくるね」

昼間、防寒に纏っていたシュカを剥ぎ取ってしまったことを後悔しつつ、

アキナはそういってその場を見回した。

すると、

チャリッ

足元から金属的な音が響き、

「ん?」

それに気づいたアキナは足元で光っているモノを拾い上げる。

「なにそれ?」

「鍵だわ…」

拾い上げた鍵を眺めながら二人は小首を捻ると、

ポゥッ

アキナの手の中にある鍵は突然光り輝きだし、

フワリ

と浮き上がる。

そして、

スーっ

音も無く鍵は宙を移動していくと、

「え?

 あっちょっと、どこに行くの?」

と二人は動く鍵を追いかけ始めた。

そして、

昼間、二人が居たあの動物の乗り物のコーナーの空中で、

鍵はガチャリと音を立てるや、

ギィ…

っと見えない扉が開く音がこだまし、

その中から一つのスーツケースが姿を見せる。

「スーツケース?」

「この中に何か入っているかも…」

互いに顔を見合わせた後、

二人はスーツケースを開けてみると、

中から出てきたものはブルーとブラックの男物のビキニパンツ、

ちょうどボディビルダーが大会のときに身に着けているものであった。

「なにこれ?」

「パンツ?

 しかも結構イヤらしいわ」

パンツを眺めながら二人はそう呟くものの、

まるで惹かれるように恐る恐るそれに足を通してみせる。

「なんかきもちいいわ…

 とくにイリガの部分が…

 アキナ、あんたすごくもっこりしちゃってるじゃない」

「おっお姉ちゃんもだよ…」

パンツを引き上げた二人はお互いの股間のふくらみを触りつつそう呟くと、

「アキナ…」

「ナツミ…」

二人はビキニパンツ越しにお互いのペニスを口にくわえ、

大きな雄たけびを上げたのであった。



サバンナではなく、都会で生きるマサイの戦士。

彼らは布の代わりにビキニパンツを穿き、

勇者の証として股間のふくらみ、

つまりイリガの大きさを確認するのである。

その後、マサイの姉妹はこの街のいや世界の密かな人気者となったのであるが、

それは別の話である。



『あっ、もしもし鍵屋さん。

 プロデューサーのUです。

 例の件ありがとうございます。

 無事、あの二人に渡ったみたいです。

 いえいえ、これも人助けですから、

 えぇ…

 またありましたら、よろしくお願いいたします。

 あっ、あと奥様の白蛇堂さまにもよろしくと、

 え?

 違う?

 これはまた失礼しました。

 てっきりそう思ったのですが…

 いえいえ、

 あはははは…

 では…失礼します』



おわり



この作品はinspireさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。