風祭文庫・モラン変身の館






「大都会の勇者」
(第1話:都会で生きるには?)


原作・inspire(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-276





僕の名前は山野幸人、

もうすぐ高校を卒業する18歳の高校3年生だ。

苦しかった入試も終わり、

見事第一志望をゲットした僕だが実はいまアフリカに来ている。

何でアフリカなのか、

まぁ細かいことは詮索しないでくれ、

僕だって好き好んでこんなところに来てる訳じゃない。

本当だったら今頃…

幼馴染の河中麻衣子とアメリカのディズ○ーワールドで春を満喫しているはずなのだから…

まったく何をどう間違えたらディズ○ーワールドのジャングル探検が

本当のアフリカで土と汗まみれになってマジの探検をしなくっちゃならないのか…

おいっ、責任者っ

ここに来て納得のいく説明をしてくれないかっ!

と見渡す限りの地平線に向かって怒鳴り声をあげても、

僕の声は赤い大地と青い空のかなたへと空しく消えていくだけ。

まっなにはともかく僕は麻衣子と共にアフリカに卒業旅行に来ているのである。

ほんと、格安ツアーを申し込んだのが運の尽きと言う奴だ。

目的を達することが出来ずがっくりとうな垂れ気味の僕とは違って麻衣子はと言うとこれが同じ人間か?

と思うほどポジティブ人間に化けてしまい。

落ち込んでいる僕を引っ張りまわす始末。

所変われば品変わる。とは言うが、

所変わった途端、人が変わるなんて聞いたことが無い。

そんな僕はツアーのスケジュールと麻衣子に引っ張られ

アフリカの奥地へとさらにまた奥地へと連行されていくのである。

そして、やっとの思いで迎えたツアーの最終日。

アフリカの奥地の奥地のまた奥地の草原で

こともあろうか僕は麻衣子を見失い迷子になってしまったのであった。

「おーい!

 麻衣子ぉ!

 こにいるんだぁ〜っ!」

必死に叫びながら僕は麻衣子の名前を連呼する。

この際だからハッキリ言おう、

慣れない土地で”かくれんぼ”などするものではない。

「おーい!

 麻衣子ぉ!

 こにいるんだぁ〜っ!

 僕の降参だぁ〜っ!」

悲鳴に近い声を上げて見せるが、

しかし、返って来るのは動物の鳴き声ぐらいだ。

さてどうしよう。

地図も、

日程表も、

お金も、

パスポートも全て麻衣子が管理しているのである。

そう、いまの僕は服こそ着てはいるが、

圏外表示の携帯電話を握り締めるだけの”か弱き羊”なのである。

もしこの場で横になれば

イコール、動物達の豪華なディナーになること間違いはないのである。

現に…

へっへっへっ

さ迷い歩く僕の後ろにはずらりと舌を伸ばすケモノの行列が出来つつあった。



高かった日が西に傾き、

辺りをオレンジ色に染め上げてくる中、

「おぉい!

 麻衣子ぉ!

 こにいるんだぁ〜っ!」

ダラリと口から涎を垂らし、

スリスリと身を摺り寄せ、

デローンと僕を美味しそうに見つめる

ライオン、ヒョウ、ハイエナ、ゴリラ、パンダ、コウモリ等の猛獣に取り囲まれ

僕は必死で声を上げるが、

だが、いくら叫んでも必ず助けに来てくれた麻衣子は姿を見せず。

「はっ早く助けに来いっ!

 もぅもたないぞ!」

カプッ!

全てを破壊し全てを繋ぐ壮絶な猛獣バトルに勝利した

通りがかりのアナコンダに巻きつかれ頭を飲み込まれかけながら僕が泣き叫んだ時、

シャッ!

一筋の光が僕に向かって飛び込んで来たのである。

「なにっ」

突然輝いた光に僕は驚くと、

プスッ!

僕に撒きついているアナコンダの尻に突き刺さる。

その途端、

「Oh!!」

僕に巻きついていたアナコンダは体をピンッと伸ばすと、

悲鳴を上げながら地面の上を転がり悶え苦しみ始めだしたのであった。

「槍?

 人間か?」

アナコンダの尻に突き刺さり刃先を鈍く光らせる槍を眺めながら

僕は救援隊が来たと思うと周囲を見回す。

するとどこからか人間のものと思える声が響き、

ガサガサガサっ

近くのブッシュが大きく揺れた。

「助かった…」

まさに天の助け、

必死に追いすがるパンダを蹴飛ばし、

行く手を遮るする拳法使いの大猿をカ○ハメ波で吹き飛ばし、

麻衣子のこともすっかり忘れた僕はブッシュへと駆け寄っていく。

すると、

ヌッ!

ブッシュの中から出てきたのは漆黒の肌を晒しチンポ丸出しの全裸筋肉男であった。

「うわっ!」

いきなり出てきた全裸筋肉男の姿に僕は急ブレーキをかけ回り右をすると、

「やぁミスター、

 すまないが僕は用事があるのでこれで失礼するっ」

と告げながらシュタッと右手を上げ別れの挨拶をしてみせるが、

ムンズッ

いきなりその手をつかまれてしまうと、

グイッ

と引き寄せられる。

「いっいやだぁ!

 おっ僕の処女を奪わないでくれぇ!

 僕は処女でいたいんだぁ!」

自分の尻に手を当てながら僕は抵抗をすると、

「・・・・・!!」

聞いたことが無い言葉の声が響き、

いきなり引き倒される。

「うぅっ、

 判りましたぁ、

 痛くしないでください」

すっかり観念した僕はベルトに手を掛け、

ズボンを下げようとした時、

キンッ!

一筋の怪光線が僕の真上を通り過ぎ、

「Oh!」

先ほどの戦いで倒されたゴリラに命中する。

すると、

パキパキパキ…

カキンッ!

怪光線を浴びたゴリラは瞬く間に石と化してしまったのだ。

「え?」

いきなり白亜の石と化したゴリラの姿を見て僕は目を丸くすると、

「・・・・・!!」

全裸筋肉男は雄たけびを上げ槍を構える。

「なにが?

 どうなって?」

全裸筋肉男の視線の先へと僕は目を向けると、

そこにはさっき尻を刺されたあのアナコンダが鎌首を擡げ、

ヒュルヒュル

と二つに分かれた舌を出し入れして見せていた。

ジリッ

ジリッ

全裸筋肉男とアナコンダとの睨み合いは続き、

静寂の時間が過ぎていく、

「睨み合い?」

一歩も動かない二者を僕は見比べていた時、

「!!っ」

僕はあることに気づいた。

ビクンビクン

そういつの間にか全裸筋肉男の股間から特大の真っ黒チンポがおっ勃ち、

下からアナコンダを牽制していたのである。

「すっすげーっ、

 チンポでアナコンダを牽制できるなんて」

男としてある種の敗北感を感じつつ、

僕はこの世紀の勝負の行方を見守っていると、

ピクッ

一瞬、全裸筋肉男のチンポが動いたと思った瞬間。

「・・!!」

全裸筋肉男が声を上げ、

ダッ!

アナコンダに向かって駆け出していく、

一方、アナコンダも何もしないわけでもない。

カシャンッ!

どこから取り出したのか腰にベルトを撒きつけると、

ニヤリと笑いつつ一枚のカードを当てて見せる。

すると、

シュバッ!

一匹だったアナコンダがいきなり三匹に増え、

カカカッ!

その6つの目から怪光線を放ったのであった。

「あぁっ」

万事休す。

全裸筋肉男が白亜のギリシャ彫刻像にされる瞬間を僕は目撃するのかと思ったが、

「こんなこともあろうかと…」

ふとそんな声が聞こえた途端、

サッ、

全裸筋肉男はすばやく手鏡を構えアナコンダに向けたのであった。

策士策に溺れる…まさに知恵の勝利である。

全裸筋肉男が構えた鏡によって怪光線は跳ね返されてしまうと、

「!!っ」

硬直するアナコンダに襲い掛かったのである。

カキンッ!

たちまち石の棒と化したアナコンダが3本静かに佇むと

「定めじゃ」

立ち上がった僕は手を合せ、

怪光線の余波を喰らい同じく石と化した他の猛獣達にも手を合せる。

すると、

トントン

不意に僕の背中が叩かれた。

「うっ」

その感触に僕は冷や汗を掻きながら振り返ると、

「この女を知っているか?」

と言う日本語での問いかけの声と共に、

液晶画面に映し出された麻衣子の姿が目に入る。

「まっ麻衣子ぉ〜っ」

それを見た僕は思わず絶叫してしまうと、

「やはり、お前の知り合いか」

と麻衣子を映し出す液晶画面を遠ざけ、

あの全裸筋肉男は納得した面持ちで返事をすると、

ピッ!

「こちらヌンガ。

 あの女の関係者と接触した」

と液晶画面、いやケータイに向かって話し始めたのであった。

「へ?

 ケータイ?

 ここってケータイ繋がるの?」

それを見た僕は慌てて自分のケータイを取り出すと、

いつの間にか棒が5本延びていた。

「はぁ…そうならそうと…言ってくれよ」

体中の力が抜けていくのを感じながら僕はヘタリと座り込んでしまうと、

「何をしている。

 お前の連れを僕の村で保護している。

 直ぐに連れ帰ってくれ、

 案内する」

と全裸筋肉男は僕に向かってそう告げると、

サクッ

アナコンダの一本を地面につきたて、

バンッ!

意味ありげな円盤を取り出すとそのアナコンダ頭に括りつける。

「なっ何を…」

全く意味不明の行為を見て僕は理由を問い尋ねると、

「バスに乗るんだ。

 そんなのも判らないのか?」

と全裸筋肉男は軽蔑した眼差しで僕を見下ろしてみせる。

「うっ、バス停ならバス停って言ってくれ」

全裸筋肉男に向かって僕が怒鳴った時、

ドドドドドド

地平線の彼方から煙が沸き立ち、

ゴワォォォォッ!

雄たけびと共にネコバ…

いや、ライオンバスが砂埃をあげてこっちに向かって来た。



アフリカだからライオンバスなのか…

目の前に停止したライオンバスを見上げながら僕はあっけに取られていると、

「手伝え」

と全裸筋肉男は僕に命令をする。

「手伝えって…」

不服そうに僕は言い返すと、

ヌッ!

っと石化した猛獣が差し出され、

「うっ」

僕は命じられるままライオンバスに猛獣を詰め込んでいく。

そして、

ガォォンッ!

遠吠えを上げてライオンバスはその六脚の足を動かし始めると、

カチャカチャと車内?に乗せた石化動物達が音を立て始めた。

「本当にここはアフリカなのか?」

乗車券代わりのトウモロコシ一本を大切そうに抱えながら僕は

フサフサの毛で覆われている座席にから窓の外へと視線を移すが、

すぐに横に座る全裸筋肉男に話しかけると、

全裸筋肉男がボディ族と呼ばれる野生部族の戦士であること、

名前はヌンガと呼ばれていること。

そして最近のサバンナにはケータイが使えることと、

このような戦いは良くあること。を聞かされた。

「はぁぁ」

それらのことを知らされた僕だが、

だが、ヌンガ曰くこのトンボ玉の飾り紐をつけている自分は裸ではない。

と言う主張には納得は出来なかったが、

それにしても漆黒の裸体に首と腰周りにトンボ玉の飾り紐のみの出で立ちで、

どこに鏡やケータイが収められているのか皆目理解できなかった。

小一時間近くライオンバスに揺られてボディ族の集落に到着すると、

僕はヌンガに案内されて集落へと踏み込んでいく。

そして、とある小屋の中で筵の中で横になっていた麻衣子の姿を見つけると、

「まっ麻衣子ぉ〜!」

と声を上げて麻衣子の元へと駆け寄るが、

しかし麻衣子はどういうわけか服を全て脱いでいて全裸であった。

「麻衣子…おきろ…僕だ…」

意味が分からず麻衣子に声をかけると、

「うっ…幸人…」

気がついたのか麻衣子は驚きながら僕を見上げる。

どうやら麻衣子は無事のようだ。

麻衣子の服を脱がせていたのはおそらく怪我をしていないか見るためだったのだろう。

その後、急いで麻衣子は脱がされていた服を着せると、

僕と共に石化アナコンダを素材にしたベンチでくつろぐヌンガ達にお礼を言い、

石化猛獣達のテーマパークと化している集落を後にした。

だが、その小屋の中ではある儀式が行われていたことまでは僕は知らなかった…



麻衣子の体に変化が始まったのは日本に帰ってから約1週間後のことだ…

突然麻衣子は大量に汗をかきながら、

何回も激しく咳き込むとその場に倒れ込む。

それを見た僕はあわてて麻衣子をベッドに運んだが…

ベッドの上では麻衣子の体にさらに変化がおとずれたのであった。

白かった肌は黒くなり、

それと同時に手足も伸び、

さらには腹筋も割れ、

胸板も前に張り出して行く。

そしてメリメリと音を立てながら股間から長いものが伸びていくと、

麻衣子の姿は筋肉ムキムキの黒人男…

まさにあのボディ族の全裸筋肉戦士・ヌンガと同じような体になってしまったのだ。

目を覚ました麻衣子は自分の姿に驚いたのは言うまでもなかった。

「ちょ…この体って…まさか…ボディ族の…」

「麻衣子…」

「実は…あたし、

 かくれんぼをしている時野生部族の男に連れ去られたの。

 なんていってるかはわからないけど…

 服を脱がされて、

 気を失っているときに何かしたのよ…」

どうやら麻衣子にはあの時、

女性を部族の勇者にするための儀式が行われていたらしい。

しかし、儀式を執り行ったのがまだ見習いの術者であったためか、

その効果は遅効性となったのだ。

「どうしたら…」

「大丈夫、元に戻る方法はあるさ…」

僕は麻衣子を勇気付けるためにこう告げるが、

だが、ヌンガと瓜二つの姿となった麻衣子の姿…

いや、股間からそそり立つチンポの姿に

僕はアナコンダの動きを封じ込めたヌンガのチンポを連想すると、

「うっ」

言いようも無い絶望感に打ちひしがれる。

それから約1ヶ月が過ぎ、

なんとか麻衣子を戻す方法を求めて

僕はさまざまな文献や資料を読み漁り

さらには現地に詳しい人間にも尋ねてみたが、

しかし残念ながらいい方法はない。

しかも悪いことに、だんだん部族の心に染まってしまうのだとか…

なんとかしなければ…

焦る気持ちに翻弄されながら3ヶ月が過ぎたのだが、

どうやら麻衣子の場合は事情が違っていたのであった。

「ねえ、幸人…いつまでこのままなの…」

「わからない…でも、早く戻さないと…心も部族に…」

僕は焦っているかのようにそう答えるが、

「…心も部族に…そうなれれば楽なのに…

 でも、自分の中に一切そうなるものは見えてこないの…」

と麻衣子は悲しそうに答える。

そう、部族の姿になれば忽ちに部族の勇者の心に染まるというが、

麻衣子には変身して3ヶ月たってもそのような変化は起こらなかった。

「部族の勇者として草原で生きることも出来るのに…」

「草原…そうか…」

僕はなぜ麻衣子が野生部族にならない判る。

「そうだよ…ここは都会…草原じゃない

 …ここには族長もいないし、

 牛もいない…

 他の部族の人間もいない…」

部族に染まるには部族の習慣が吹き込まれる必要があるだろう。

しかし都会に来てから変身してしまい、

すぐにアフリカの奥地に移動できないとなれば…

心まで部族の勇者になることは難しいだろう。

「ええ!…

 あたし、全然部族になれないの…

 それじゃあ中途半端じゃない…」

漆黒の裸体を晒す麻衣子はさらに落胆した。

「いや…都会で生きる方法は、すぐに見つかるはずさ…」

案の定、ボディ族の勇者の姿の麻衣子が出来る仕事はすぐに見つかった。

漆黒の筋肉の十分に発達した引き締まった肉体…

それだけでも需要はいくらでもあったのだ。

今、麻衣子は部族のトンボ玉や紐のかわりに黒いビキニパンツを穿き、

牛の匂いや体液の代わりにオイルを塗っていた。

今の彼女はいろいろなところで活躍する黒人タレントだ。

また、身体的な能力を買われて格闘界からもオファーが来ている。

「ねえ、幸人…この仕事、そろそろ疲れてきた」

「仕方ないだろ、その姿ならこうやってくしかないし…」

現在僕はこの人気黒人タレントのマネージャーとして働いている。

そして、そんな僕の野望はあのアナコンダを復活させ、

TVカメラの前でチンポをおっ勃てる麻衣子と死闘をさせることであり、

「くっくっくっ、

 この企画は絶対に成功させるっ」

分厚い企画書を胸にしながら僕は夕陽に誓ったのであった。



おわり



この作品はinspireさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。