風祭文庫・モラン変身の館






「四年間」
(第3話:英美の四年間)


原作・バオバブ(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-237





「まさかあたしが………

 ディンガの男の子になっちゃうなんて……」

あたしがディンガ族の男の子に変身してから2ヶ月が過ぎていた。

そして、この2ヶ月の間にあたしがディンガに変身したのは

長が不慮の事故で死んだ息子・ナンを蘇らせるために仕組んだことを知ったのであった。

仕組まれディンガに変身してしまったあたし。

変身の後に剃り上げられたあたしの頭には縮れ毛が生え始め、

また、顔も2ヶ月前と比べると明らかにディンガの顔立ちへと変化していた。

あの時のことをいまから後悔しても遅かったのである。



「ハァハァハァ

 くふっ」

約1ヶ月前に射精を体験して以降、

あたしは夜な夜な星空の下で覚えてしまったオナニーを繰り返していた。

最初は違和感の塊だった真っ黒なディンガのオチンチン。

匂いも形も、それでおしっこすることすら嫌だった。

なのに、今は自分の息子といえるほど知り尽くした器官になっていた。

毎夜、オナニーのために扱き上げているのだから、

あたしがオチンチンに慣れるのは当然のことだったのだ。

「はあ……あいつらのせいで……こんなこと覚えちゃうなんて………」

ラウやツンといった同年代のディンガの友人から教えられたオナニー。

初めて体験したあの夜は気持ち悪さに泣いたものだったが、

でも、射精の快感だけは忘れられなかった。

我慢していても必ず勃起してくるオチンチン。

最初は嫌がっていたのにでも次第にあの快感への誘惑と、

肉体に秘められた性欲を抑えきれなくなり、

夜、とうとう小屋近くのブッシュでひとりきりのオナニーをしてしまったのであった。

「はあはあはあ、

 うっ、ううっ、うくっ!!」

してはいけないことをやってしまったという後悔、脱力感は大きく、

それは少女だったあたしの胸に大きな棘を埋め込んだけど、

でも、少年と化してしまったあたしは次第に同年代のディンガ同様

その激しい性欲と快感の虜になってしまうと、

胸の棘は次第に溶けていったのであった。

「ああ、あたし、だんだん感覚が麻痺してきてるみたい……

 あたしがスウムなんかしてるなんて」

困惑する気持ちはまだ残っているけど、

でもオナニーはやめられない。

オチンチンに触ることも、

精液も我慢汁も抵抗はあるのに

快感に嵌まり込むと何の嫌悪もなくなってしまうのだ。

「ナン……もこんな風にしてたのかな……

 これ……ナンが感じてたものなんだ……

 あたし、ナンと同じスウムを感じてるんだ」

あたしは自分の股間に生えた精液まみれオチンチンを握り

そして、その股間の肉棒の感覚を味わっていた。

「男になるのが………こんな気持ちいいなんて……

 はあ……

 ディンガにならなかったら……
 
 あたし、スウムすることもなかったんだ……

 って……あたし、ディンガなんて嫌だったのに……

 なんか、すごく満足しちゃう……どうして?」

オチンチンから出た精液を指に取り自分の精液を感じている。

「あたしのイリガ………」

性的な言葉をディンガになってから覚えてしまったあたし。

性の目覚めをディンガのナンとして覚えてしまったあたし。

オナニーをディンガの肉体で覚えてしまったあたし。

毎日毎日、己の股間の肉棒を扱き精液を吐き出すあたし。

自らのオチンチンを触りなれてしまったあたし。

精液も我慢汁の匂いも当たり前になってしまったあたし。

手に触れる粘液の熱さも粘っこさも知ってしまったあたし。

あたしは普通のディンガの男の子になっていった。

「あ、あ、あっ」

ディンガへの変身はさらにあたしの深層心理を蝕んでいく。

女の村との境で情事を見てしまったあたし。

女のあそこを性欲の対象としてみてしまったあたし。

そして、ついにあたしの元の肉体が他人の体として夢の中に現れた。

いい匂いのする異人の女。

白い肌。見たこともないすっきりした顔。

それだけであたしはオチンチンを勃起されていた。

それは自分なのに、自分ではないような気がした。

ナンとして元の自分に欲情していたのだ。

夢の中の興奮は現実のナンの肉体にも直結し、

長が見守る中、あたしは夢の中で男となり……

そのオチンチンの先端から精液を吹き上げたのだった。



『ナンよ、そろそろ勇者への目覚めは始まったのか?』

『ゆ、勇者への目覚め!?

 な、何それ?』

翌朝、自分の父親である長に恥ずかしそうにあたしは答える。

なぜなら今朝の夢精はあたしにとって初めての夢精だったからだ。

その言葉に過剰反応してしまうのは避けられなかった。

『お前とて、勇者の証は知っておろう?

 どうだ、新しい体は素晴らしかろう?』

『そんなこといわれても…なー……』

『ふふふ、言葉遣いもだいぶナンに似てきたな。

 お前の中でカケラになってしまったとはいえ、

 ナンの魂が芽生え始めたようだ』

『そ、それ、どういうこと?』

あたしは長に向かって食って掛かるように尋ねた。

すると、

『お前が我が息子・ナンになったのは、

 ナンの魂を肉体に植えつけて魂の姿に変えてやったからだ。
 
 というのは知っているな』

『うっうん……』

『しかし、それだけじゃないないんだ。

 完全なナンを取り戻すことはもはや叶わん…が

 ナンの本質はカケラの中に詰まっておった。

 それがお前という魂を得て

 お前の魂に根付き、
 
 お前の中で芽吹いていっておるのだ。

 そして、お前の中でナンは復活し、

 お前は心も体もナンとして成長していく。

 素晴らしかろう?』

『そ、そんな……』

ドクン

ドクン

あたしの中でディンガの心臓が激しく鼓動し始めていた。

『心配しなくてもよい。

 元は女だったとはいえ、

 すぐに生まれ付いてのディンガの男と同じようになれる。

 何せ、お前はナンなのだからな』

『僕、本当にナンになってしまうしかないの?

 そんなの嫌だっ』

『何をいう。

 お前とて、ナンの体を堪能しているではないか?

 誰もお前を昔の女のお前だと気付きはしまい。

 お前の体はもうナンと同じなのだぞ』

長はそう言いながら縮れ毛の生えたあたしの頭を撫でてみせた。

『だけど……僕は、ヒデミなんだ……』

『……勇者が涙など浮かべるんじゃない!』

パン

長は両手で両側からナンであることを否定しようとしたあたしの頬を叩く。

平手打ちほど痛くはなかったが、その衝撃はかなりのものだった。

『ふふふ、まあその内分かる。

 ナンの性格がお前の中で目覚めればお前は根元から変わっていく。

 あの荒々しさがお前に染み込めば、

 お前も勇者らしくなろう、
 
 はっはっは』

『僕が……性格まで…ナンになっていくっていうのかっ?』

『既に変わっているではないか?

 "勇者の証"を立てるようになってから、

 お前は確実に変わっている。

 どうだ、ディンガの男になってよかったろう?』

"勇者の証"。

その言葉に2ヶ月前まで女の子だったあたしは反論できなかった。

もう毎夜のようにナンの肉体でオナニーし射精して"男の精"を吹き上げている自分。

『けど、僕はしたくて…してたんじゃない』

それでもあたしは男としての自分を認めるわけにはいかなかった。

『はっはっは……なかなか強情だな。

 そういうところも似てきたわ。

 まあ、話には聞いておったがの、

 ラウらに唆されて"勇者の証"を自ら立てたそうじゃないか?

 気持ちよかったろう?

 どうだ、異人の女よ、ナンの肉体のままでいたくなっただろうて』

『そんなことないっ』

最近の進んでオナニーするようになった自分を改めて再認識してしまい、

あたしは恥ずかしくて仕方なかった。

『ふふ、これがほんの少し前まであんな華奢な女の子供だったとはの。

 呪術師の腕もたいしたもんだ。

 ナンが死んですぐに同い年の子供が現れてくれて、
 
 わしも幸運だったの。

 呪術師にナンを取り戻せると聞いたときは驚いたものだが』

『父さん……

 ナンを失って辛かったのは分かるけど……

 なんで僕がナンにならないといけないのさ?』

真っ赤な顔のまま、

あたしは耐えるような表情で問いただす。

『器になる子供を探していたんだ。

 ちょうどそこにお前が現れた。

 異人の女の子供だったからの。
 
 心配ではあったが……

 ふふふ、ここまでしっかり男の子供として育つとはな。

 しかも、少しずつだが……

 お前はナンの断片を見せてくれるようになった。

 うしれかったぞ。

 その代わりに、お前はわし…長の息子・ナンとして生き、

 ディンガの勇者になれるという名誉を与えてもらったのだ。

 十分過ぎる代価だと思うが…』

『だけど、僕の本当の親はそれを知らないんだ。

 自分らの娘がディンガの長の息子に変えられてるなんて

 想像だってつかないだろうよっ。

 行方不明の娘を今も探して……待ってるに違いないんだ。

 これの…どこか代価だっていうんだよ?』

とあたしは訴えるが、

しかし、長は顎を撫でながら、

昔のナンが喧嘩腰に自分に反発する姿を思い浮かべていた。

今のあたしの姿、そして、その気性の荒さは

ナンが肉体を取り戻しつつあるという実感を長に与えていたのであった。

『そうはいってももう遅い。

 お前はナンになるしかないのだ。

 お前の中身もわしの息子、
 
 ディンガの勇者ナンとして生まれ変わっていっておる。

 お前が元の肉体に戻れたとしても

 一度目覚めたナンの魂はお前とひとつになっているからの。

 お前は元の自分のようには振る舞えまい』

『そんな……』

『お前だって気付いているはずだ。

 毎夜、"勇者の証"を立てているお前は、

 異人の女だった頃のお前と同じか?

 お前は、男として生まれ、

 男として生きるのだ。

 ナンとしての自分を素直に受け入れろ』

『父さん……知っていたのか?』

長の言葉にあたしは俯きながら尋ねる。

『ふ、ふはは……

 まさにお前は、ナンそのものよの。

 お前が"勇者の証"を立てるようになって

 わしは本当に安心したぞ。

 そろそろいい歳なのだから、
 
 女との交わりも求めるようにならなくてはな。

 むろん、勇者としての資質を得てからでなくてはならんが』

『お、女と……なんて!?』

『くふふ……隠すな隠すな。

 お前が昨夜、男に目覚めたことは呪術師から聞いたぞ。

 お前が夢の中で"勇者"となったのも確かめた。

 お前は立派に男になっていっておる』

『そ、そんな……』

長のその指摘にあたしは激しく動揺していた。

夢の中の出来事。

そして、初めての夢精。

あれが呪術師に……そして父親にバレていたのだから。

『それにしても、

 この僅かな間にナンが帰ってきてくれるとはな。

 わしも安心したぞ』

『僕はナンなんかじゃない』

あたしは必死に言い張ったが、

もはや長は取り合わなかった。

『ふふ……最初、お前の器を見たときは

 正直不安だったのだがの。

 呪術師がいい器だというから、黙って見ていることにしたのだ。

 白い肌の異人の女。

 まさか、あれほど早くディンガに……ナンの姿へ変えられるとは。

 素晴らしいものだな。

 わしもあれには驚いたぞ。

 お前も気持ちよかったろう、新しい体は?』

『………』

ドクン

ドクン

自分をナンとして話しかけているのか、

それとも…ナンそのものに話しかけているのか、

あたしは少し混乱しながらも父親の話を聞いていた。

『あの華奢な体が勇者らしくなり

 ディンガの色に染まり

 イリガが生えたときは、それはもう感動したものだ。

 すべてがお前が死ぬ前の体と同じだったのだから』

『……父さん』

あたしはもはやナンとして話を聞いていることしかできなかった。



そして、その翌日

「はあはあはあ……

 ああ……もう、が、我慢できないよ…」

そう呟きながらあたしはふらふらと小屋から出てくるといつものブッシュに隠れ、

股間に生えた勃起したオチンチンを潤んだ瞳で見つめていた。

「父さん、あんなこというんだもん……

 でも……あたし、あたしの中でナンが芽生えてるって……

 本当なのかな?

 あたし、一体どうなっちゃうんだろう?」

そう呟きながらもあたしはディンガの少年のごとくオチンチンを扱き出していた。

自分が誰だが分からなくなる倒錯感。

それがディンガとしてのオナニーにはあった。

女の子だった自分がナンというディンガの少年に変身し

その体で、その肉体の快感を味わっている。

自分はナンなのか?

自分は変身前の英美なのか?

それすら溶けて分からなくなってしまうような快感。

あたしは父さんの言葉に踊らされてしまっているのかもしれない。

「いい、いいっ。

 うっ、うっ、くぅっ」

我慢汁にまみれた手を必死に動かし絶頂の直前で亀頭の根元を絞り上げる。

そして、あたしは2ヶ月前なら不可能なはずだった

"勇者の証"

すなわち男の射精を自らの肉体で味わい尽くしていた。



「あたしって何なんだろう?」

オナニーの後。

変身する前はあり得なかった自らのオチンチンより迸った精液を

ねちゃねちゃと指で弄びながら考え込んでいた。

2ヶ月前……

あたしは本当に英美だった。

12歳の小学6年生の女の子。

スカートを履いて

長い黒髪を伸ばして

幼馴染の祐樹と一緒に小学校に通っていた日本人の女の子だった。

しかし……

そんなあたしが初めてのアフリカ旅行に行き、

丁度三日前に同じ12歳の男の子が死んだディンガ族の村を訪れたことで

あたしの人生はその12歳の少年と入れ替わってしまったのだ。

いや、女の子・英美の人生は消し去れ、

ディンガ族の男の子・ナンとしての人生を押し付けられてしまったのだ。

「あたし……ディンガの村なんかこなければ……

 今も英美のはずだったんだよね」

あたしは声変わりしつつある喉元を押さえながら

以前の自分とは全く違う声質でつぶやいた。

「もうあれから2ヶ月か……

 祐樹、いまどうしているかなぁ
 
 ちゃんと柔道…通っているなかな…

 あのとき、あんなこといわなきゃよかったのかな……」

あたしを知る人間で唯一、

あたしがディンガの少年に変身させられてしまったことを知っている人物…

幼馴染の祐樹だけがこのディンガの村に自分がいることを知っている。

そして、変身してしまった自分を何としてでも

元に戻させようと術者に掛け合ってくれたのだった。

けど、あたしはそんな祐樹を追い出してしまったのであった。

「あたし、だんだん違う人間になっているのかもしれない……」

悲しそうに呟きながら股間に生えたむき出しのオチンチンを見ていた。

「……はあ、あたしのイリガ…か」

考えてみると、

あたしはディンガ族になってから初めてオナニーを覚えたのだった。

性の言葉も、

狩の言葉も、

勇者としての理も、

ディンガして教えられてきた。

ふと気付いてると

あの日以来、あたしはディンガのことしか学んでいなかった。

日本語を話す相手も、教科書も、学校も、宿題もなかった。

「あたし……みんなに…置いてかれてるのかな。

 このままじゃ……本当にディンガになるしかないじゃない」

そう思ったとき、

ゾクッと裸の背筋に悪寒が走った。

脳裏に浮かぶ新しいディンガの言葉。

新たに学んだことは、すべてディンガの言葉で覚えている自分。

今もたくさんのディンガの言葉が頭の中を駆け巡っている。

「あたし、体だけじゃなくて……頭の中もディンガになっていってるんだ」

はあ…はあ……

いつしかあたしの息は再び乱れ

先ほどの射精で精液を垂らしたオチンチンを握り締める。

「はあ……こんなエッチなこと……あたしがしてるなんて……

 でも……ディンガじゃ……当たり前なのよ。

 仕方ないの。

 そうじゃないと、みんなに馬鹿にされちゃう……

 だって、あたし、ナンなんだもん」

そう訴えるあたしの瞳の端から雫が零れた。

ラウら同年の子供にからかわれたせいで、

覚えてしまった男という性。

あなしはナンになったことで、

あたしであった頃とは全く違う人間へと導かれていく。

シュッ

シュッ

(ああ、あたし、もう男の子なんだ………

 こうしてスウムしてる男なんだ)

あたしは男の子に目覚めつつあった。

生理を知り、女の子として大人になるつもりだったのに

12歳の夏にしてあたしは男の子になった。

それもディンガ族というアフリカの部族の男の子として生まれ変わったのだ。

そう思ったとき、あたしの中にディンガとしてのあたしが目覚めた。



あたしがディンガ族の男・ナンに変身してから半年が過ぎた。

油断すると身体にたかってくるハエの感触にも大分馴れ、

また、体も他のディンガの少年達と変わらないくらいに逞くなり、

強靭なディンガの勇者へと成長していっていた。

「ん……んっ」

ディンガの少年となったあたしは小屋の中でオチンチンを硬くしながら寝ていた。

焚き火に照らされながら勃起していくあたしのオチンチン。

それが僅か6ヶ月前に生えたものとは誰も信じられないほど立派なモノになっていた。

ふと見た夢の中であたしは日本に戻っていた。

「あたし………戻ってきたの?」

自問しつつ、懐かしい自分の部屋を見まわし、

そして、姿見に自分を映すと

そこには黒く綺麗な長い髪、

白い肌にかわいらしい顔をした女の子がブラウスとスカート姿で立っていた。

「これが……あたし」

ドクン

ドクン

自分の体なのにすごくいい匂いがする。

手で頬に触れると、すべすべした肌触り。

むにゅっと指で頬を掴む。

柔らかい女の子の柔肌の感触。

自分のはずなのに、あたしは激しく興奮していた。

「はあ、はあ……」

ブラウスを慣れない手つきでボタンを外しブラジャーに触れる。

邪魔そうにブラのカップの隙間から手を滑らせ女の乳房に触る。

「や、柔らかい……」

ディンガの漆黒の肌だとあまり分からないが、

この白い女の顔はすっかり赤く染まり、

恥じらいと興奮が見て取れる。

「す、すごい……これが……あたしの……」

そう呟きながらあたしはスカートに右手を突っ込みショーツを撫でてみる。

「こんなの……あたしが履いてるんだ」

飾り紐しか身に付けなくなったあたしにとって

男が女装している以上の違和感が伝わってくる。

清潔な布地の中心に湿り気が広がり、

半年前は性欲を知らなかった女の子が欲情している。

あたしはショーツを脱ぎ去り、

スカートを引きちぎってベッドに腰掛けた。

「これが……女……」

あたしは思わず唾をごくりと飲んでいた。

平らな股間。

指に触れる敏感な股間の肌。

割れ目。

すべてが新鮮だった。

「あは……あたしの体ってこんなだったのか?」

そう思いながらゆっくりと指のストロークを始める。

気持ちよさが広がっていく。

「ああ、はあ、はあ……」

あたしは自分の体に欲情していた。

石鹸の匂いがする肉体。

リンスの匂いがする髪。

すべてが刺激的だった。

「あ、あ、あ、イ、イクっ」

あたしは女の肉体で、その肉体を欲しながら

ある感覚に気が付いていた。

股間に滾る熱さ。

硬く張り詰め、突き出した肉棒。

(ああ、ウラシしちゃう……)

そのときあたしはディンガの言葉で射精を覚悟した。



『はあ……』

目が覚めると、あたしの股間からは精液が糸を引いていた。

硬く聳え立っていたオチンチンが少しずつ萎えていく。

見る間でもなく自分が夢精したのは明らかだった。

『僕、夢精したのか……

 それにしても、ヒデミに戻った夢を見るなんて久しぶりだな』

ディンガ族のナンとなった自分が夢の中で英美を犯し、

生まれて初めての夢精をしてから3ヶ月。

夢とはいえ、自分で自分を犯してしまったショックに

あたしは英美だった頃の夢を見なくなっていた。

それがまさか自分が英美になり、

その体を弄り回す夢を見るとは……

『はあ、はあ、はあ……』

記憶の中にある半年前までの12歳の女の子だった頃の記憶。

なぜか、それが激しく自分を欲情させる。

萎え始めていたオチンチンが再び充血し硬く震え勃っていく。

『ああ、僕………

 ヒデミからナンに生まれ変わってしまったんだ……』

そう確信をするとあたしはオチンチンを愛しそうに擦り、

オチンチンにべたつく精液の手触りを感じていた。

「って……あたし、またディンガで喋ってる……」

ふと、独り言までディンガになっていることに気付き愕然としながら口を押さえる。

鼻のすぐ近くにきた指から精液の匂いが漂ってくる。

生臭い、男の匂い。

あたしが英美のままであったら、知るはずもなかった匂い。

あたしは"男の精"が出るような肉体に変化させられてしまったのだ。

あの小屋の中で…日本人の女の子から、ディンガの男の子に……

「はあ、あたしが男の子なんて………

 それもアフリカのディンガ族になっちゃうなんてなあ……」

あたしは自分の精液の匂いを嗅ぎながらオチンチンを勃起させていた。

「変身する前のあたしなら……こんなあたし見て、何ていうかな……

 まさか、ムガを出すようになっちゃうなんて……

 でも……男の子って気持ちいいんだなあ………

 ナンもきっとこの気持ちよさを感じていたのかな」

シュッ

シュッ

そう呟きながらあたしはごく自然にオチンチンを扱いていた。

男のオナニーを覚えた頃は、

「こんなことしちゃいけないっ」

と必死に我慢しようとしていた…

しかし、後ろめたいことのはずだったのに今は当たり前のことだった。

『はあ、はあ、はあっ……』

あたしはすっかり男の子の声音で息を荒らげている。

ナンの肉体の性欲を自分のモノとして感じているのだ。

「あたし、すっかり男の子になっちゃった……

 それもディンガ族の男の子に……

 ああ、祐樹。

 どうしよう……

 止められないの、止められないよぉっ!

 あたし、あたし……

 スウムするのが、普通になってきちゃったよ」

股間に突っ張る自分のオチンチン。

本来はあるはずのない……呪術によって生やされた生前のナンと同じオチンチン。

しかし、それは生まれつきそうであったかのように生え、

またそれが当たり前のように感じ始めていた。

「もう、あたし、ディンガとして生きていくしかないのよね?

 だから……もう……

 ああ、我慢できないっ!」

あたしはそう呟くと本格的に手淫を開始する。

手馴れた動き、快感。

あたしは男の匂いを発散させながら、

生臭い精液を吐き散らすまで、オナニーしていた。



次の日、あたしはディンガの男を相手に盛大に喧嘩をやらかした。

次第に荒々しくなっていくあたしの性格。

それは、あたしの魂にナンがしっかりと根付いた証拠だった。

たくさんのナンのカケラは、それぞれあたしの魂の各所から芽生え、

ヤドリギのように、あたしの魂と一体化して成長していく。

『ああ、なんか……いらいらする』

長に叱られたあたしはむしゃくしゃしながら立ちしょんをしていた。

『くそっ、なんだっていうんだ、この気持ちは……

 僕の中で、僕が…僕が……ああ、分からないっ』

あたしは濁った水溜りに顔を映し、じっと見つめる。

縮れた毛。

横に広がった平らな鼻。

分厚い唇。

すっかりディンガの顔つきの変わった顔。

ハエがたかる土や垢まみれの肉体。

そして、その肉体にはトンボ球の飾り紐しかない。

「あたし、こんな姿で生きるんだ……」

自然と英美の言葉があたしの口から漏れていた。

漆黒の肌に浮かぶ汗を掬って自分の汗を嗅ぐ。

「ああ、臭っ……

 あたし、本当にディンガの匂いがするんだ……

 はあ……昔はあんなにお風呂好きだったのに……

 すっかりそのことすら忘れていた……

 イリガだって……あるのが普通……

 飾り紐だけなのに、服を着る方が不思議に思っちゃう……

 あたし、何時の間にかナンにされちゃったのかなあ」

実際信じられないくらい、半年の間にあたしは変わってしまっていたのだ。

肉体は完全にディンガ族の少年のものとなり、

英美であったときの名残は微塵もない。

性欲も旺盛で、あたしは一日に何度も手淫と射精を繰り返していた。

そして、根付いたナンの魂からあたしに染み出したエキスがあたしを文化的にもディンガに変えていく。

考え方も、

言葉も、

アイデンティティーすらディンガへと変わっていっている。

そして、あたしはナンの幼馴染に恋をしてしまい、

その秘所を妄想してはオナニーをするまでになってしまったのだ。

あたしは…

あたしは…そうディンガのナンなんだ…

このディンガの地で裸で生きていく野生の勇者・ナンなんだ。



つづく



この作品はバオバブさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。