風祭文庫・モラン変身の館






「四年間」
(第2話:四年目の再会)


原作・バオバブ(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-117





4年ぶりの再会だった。

僕たちはきつく抱き合って見せるが、

しかし、こうして抱き合って見せると、

この4年というブランクは非常に大きなものであることを実感してしまう。

「あ、あ、ゆ、祐樹、ひさし、ぶり」

すっかりディンガの男になっていた英美は日本語がなかなか思い出せないらしく、

詰まり気味の言葉で話しかけてくる。

「うん、

 元気していたか」

そんな英美に向かって僕は優しくむき出しの肩を叩いて見せるが、

でも英美の変貌ぶりに僕はただ驚いていた。

自分より頭一つ、いや、二つ分高い身長に、

引き延ばされたかのように細くて長い手足には筋肉が張り詰め、

洗練され鍛えられた筋肉が覆う体、

完全にディンガと化した顔と赤茶けた縮れ毛に覆われる頭。

土や垢で薄汚れたその体からはきつい体臭が放たれ、

股間では砂まみれの黒いオチンチンがぶら下がり、

体の至る所にたかっているハエの羽音を響かせる英美の姿は

覚悟していたとはいえ僕にとってショッキングな姿だった。

黒髪をストレートに下ろしたかわいい女の子だった英美が

あの小屋の祭壇の前でディンガの少年に変身させられたのだ。

そのときの衝撃の光景は今でも僕の中で鮮明に残っている。

「英美……

 すっかりディンガになってしまって…」

そう囁きながら僕は英美を見上げると

「ごめん、祐樹。

 あんまり、喋れなくて……言葉。

 あたし………忘れよう…として、

 日本のこと。

 だから、まさか、思わなかった……会える、祐樹に…」

「だから、まさか祐樹に会えるなんて思わなかった……だろ?」

「だ…から、祐樹に会える…なんて…思わなかった?

 あ、あー、そ、そか。

 日本語。そのじゅ、じゅん、順番……」

と震える声で話す英美を僕は宥めつつ話し、

そして、高ぶっていた気持ちを落ち着かせると、

村から少し離れた岩場へと二人並んで腰を下ろした。

「え、えっと……

 も、もう4年……も…経ったんだね。

 こんな感じ…で、いい…の…かな?」

「いい、いいよ。あってる」

「そ、そう……よかった」

口調はどうもディンガ訛りが抜けない英美だったが、

次第に日本語のセンスを取り戻してくることに僕は微笑んでみせる。

そして、

「あのさ、

 おっ俺、もう高1になったんだ。

 英美も……本当は女子高生になっているんだよな……本来なら」

と少し大人びて話しかけると、

「じょ、女子高生?

 あ、ああ、そうか。

 あたし、ちゅっ、中学も…行って…ない……ないんだもんね。

 なんか…変な感じ……」

ディンガの顔に苦笑が浮かんだ。

そう英美は日本人の女の子としての生活を奪われ、

無理やりディンガ族の男の子としての生活を与えられたのだ。

人生も狂ってしまったのは間違いない。

ディンガ族の男の子になってしまった以上、

英美はディンガの男としての習慣を教え込まれてきたのだ。

「あたし…が、女子高生……かあ……」

英美は昔を懐かしむように空を見上げていたが、

しかし、その股間では黒いイチモツが充血しゆっくりと膨らみ始めていた。

「あたしが…女…の子だった…なんて………不思議だよね」

股間から顔をもたげ上げてくるイチモツを隠すこともせずに英美はそう呟くと、

「な、なに言っているんだよ、

 それは当たり前のことだろう?

 英美は生まれつきの女の子じゃないか?」

自分のことなのにどこか他人事のようにすましてしまうその姿に僕は少し慌てた。

「で、でも……あたし、

 いまはディンガのナン…ていう男…なんだよ。

 もう4年も……男としてナンとして生きてきた…の…よ。

 なんか…もう……あたし、女だったとき、
 
 どんなだったのか……よく覚えてない…よ」

と困惑した顔で返事をすると、

「あ、あ、うー」

女から男に変身をしという現実に対する興奮からか、

英美のイチモツは硬く太く勃起し、

脚の間から赤黒い亀頭を持ち上げていた。

「お、おい、英美?」

「ご、ごめん………祐樹。

 でも、いうよ。

 あたし…本当に男なの。

 男であるのが当たり前なの。

 気が付いたら、

 あたし、スウム覚えてた。

 最初は嫌だった…けど、
 
 でもすごく気持ちよくて……負けた…負けちゃったの。

 体だって、ディンガになて…なっ、なっちゃってた…し、

 もう男として生きていくしかないって思って、

 スウム始めちゃったの」

「スウムって……何だよ?」

鼻息が次第に荒くなっていく英美の口から出た言葉の意味を僕は尋ね、

「ま、まさか、オナニーのこといってるのか?」

とイチモツを勃起させるその姿から思いついた言葉を口にした。

すると、

「オ、オナニー?

 それ、何か分からない…けど、

 あたしスウム、覚えちゃった。

 スウム覚えちゃったの。

 もう女に戻れないの。

 体も心も、

 あたし、

 ディンガの…男…になっちゃったの」

体の奥から突き上げてくる欲情を抑えきれなくなったのか、

女の秘部を突き刺す槍と化した男の肉茎を握り締め、

と、同時に、

「あっ

 うっ」

快感に耐える顔つきを僕に見せつける。

「英美っ!」

股間から伸びる漆黒の肉槍を握り締めてみせる英美の姿を見て、

僕の頬を一筋の汗が滑っていくが、

「はぁ、

 はぁ、

 はぁ……

 みっ見て、

 こっこれがスウムよ」

と言うや否や、

シュッシュッ!

シュッシュッ!

英美は激しく手淫をはじめたのであった。

僕も高校1年生の男だから分かっている。

男の性欲、そして本能がどんなものか…

だからといって、

オナニーなんて他人に見せるものではないし、

男の男のオナニーをみたいなどとは決して思わなかった。

それなのに幼馴染の英美がディンガの男として

オナニーしている姿は耐えられるものではなかった。



『馬鹿……なにエッチなこと言っているのよっ』

通っていた柔道教室の帰り、

膨らんだ胸のことを茶化した僕に向かって

顔を真っ赤にした抗議するかつての英美の顔が頭に浮かんでくる。

あの英美がディンガの男に変身し、

そして、男としての性欲に目覚め、

いまこうしてイチモツを握り男のオナニーしている。

そんな英美を見る僕の目には男にでも果敢に立ち向かっていく可愛かった彼女が、

淫らに男のオナニーしているように見えてしまうのだ。

「英美っ

 そんなことはやめろっ」

オナニーをしてみせる英美には僕の言葉も届かなっていた。

イチモツの先端からネバネバした我慢汁があふれ出し

漆黒のイチモツとそれを扱く手に絡まりついていく。

ジュッ

ジュッ

ジュップ

いやらしい音を響かせながら、

かつて英美という少女だったディンガは男の高みを迎えようとしていた。

「はっはっはっ、

 うっ、

 うっ、

 ううっ!!」

黒い手がイチモツのカリ首を握り締め、

それと同時に細身の体が震えはじめる。

程なくして何か不気味な生き物のようにイチモツが脈動した瞬間。

プシュウ!

ブチュッ!

ブチュッ!

ブチュッ!

ブチュッ!

幾度も痙攣を繰り返しながら

英美のイチモツより白濁した体液が空に向かって噴出したのであった。



「ご、ごめん………

 祐樹の目の前でこんなことしちゃって……

 あたし……あ、あ、その……なんか変なことしてるよね?」

「英美……」

射精を見せ付けられ青ざめさた顔を見せる僕の顔を体の力を抜けた英美は横目で見る。

「あたし、初めて……そのスウムしたの。

 ディンガのと、友達と……一緒だったんだ。

 う、ううん、本当は……その友達は…初めてじゃなかった…の。

 あたしが初めて……で。

 だから……友達が…

 す・スウム…も知らないのかって、

 それで、あたし、初めて…スウムを覚えたの」

顔にたかってくるハエを追い払いつつ、

英美は男のオナニーを覚えたきっかけを話し始める。

「よく……そんなことできたな」

「あ、あ、え、えと……

 あたしも、最初は嫌だったと思う。

 そんな気持ち悪いこと、

 男になんかなりたくないって思ってた。

 けど、馬鹿にされて……が、が、我慢できなくなって……

 あたし、あいつらの前で堂々とスウムしてやったの。

 ほ、本当はすごく恥ずかしかった……と思う。

 で、でも…ね、一度スウムしたら、
 
 もうびくりしちゃって…
 
 その……夢中になってた」

感心する僕に対して英美は股間のイチモツから垂れ続ける精液を手で掬い、

クンッ!

と匂いを嗅いでみせ、

「臭いねこれ」

そう言って笑って見せると、

「あぁ、そうだな、

 自分が出したモノなんて嗅げないよな」

と僕は頷いて見せた。

すると、

「あ、あ、うん。

 考えたら……すごく変なことしてるよね、あたし。

 あのときはもう元に戻れないんだって……思い始めて……た頃だったから……

 もう、や、や、やけくそで……

 一人でブッシュに入っては、毎日夜にスウムするようになってた。

 それで、し、次第に……あたし、男に…なってたんだと…思う」

「男になっていったんだと思う…だろ?」

「あ、あー、うん」

訂正する僕の言葉を聞いて英美は頷いてみせると、

「そうか……英美は…

 本当に男の子に

 ディンガの男になっちゃったんだな…

 ディンガになったときは12歳…だったし……

 4年も経ったら、性に目覚めるのも……仕方ないか」

そう言いながら僕は頭をかいてみせた。

「ごめん……」

そんな僕に向かって申し訳なさそうに英美が謝ると、

「ま、少しはあの頃の英美らしくなってきたんじゃないか?」

そう言いながら僕は英美の肩を叩いて見せた。

「あ、うん………

 あたしも……思い出してきた……あの頃のこと。

 そ、そうよ。

 あたし、スウム、本当は我慢したかったの。

 我慢するつもりだった。

 だけど、すごく気持ちよくて……
 
 止められなくなってて……

 繰り返していく間に、け、嫌悪…嫌悪感も薄れてきちゃって……

 何時の間にか…こ、このイリガが誇らしくなってきちゃってたの」

「イリガ?」

「ち、オチンチンのこと…よ。

 そう……あたし、
 
 ディンガに、ナンになりきらないようにって頑張ってたんだ。

 でも、数ヶ月もする間に我慢するの馬鹿らしくなってきちゃって………

 気が付いたら、普通のディンガの男の子になってた。

 ラウとかツンみたいに、

 ムラシな男の子になってたのね」

「ムラシってエッチなってことか?」

「あ、そ、そう。

 でも……また祐樹に会えるなんて思わなかった。

 あたし、うれしいよ。

 こんな体になっちゃったけど……
 
 あたし、会えてうれしい」

ディンガ訛りの日本語で話しかけながら英美は僕に抱きついてくると、

ブブブ…

その身体の至る所からハエが羽音を立て飛んで行った。



「なぁ英美、

 元には戻れないのか?」

「も、元に戻る?

 じょっ、冗談でしょ?」

いろんなことを話しあったのち、

ふと尋ねたその言葉を聞いた途端ディンガの顔が険しく曇った。

「そ、そりゃ、あたし、英美だし……

 自分が英美だったのは覚えてる。

 けど、今はディンガの生活が当たり前…なの。

 言葉も、日本…語の方が難しいし……喋るのも…し、しんどい。

 最初は元に戻りたくてしょうがなかった…けど、

 今のあたしの頭の中はディンガのことしかないの。

 それに……あたし、もう男だし…女に戻れない…よ」

「そ、そんなっ!?」

「だって………あたし……その

 祐樹もいってたけど…せ、性?…に目覚めたのはこの体で…なの。

 イリガがない……なんて、今じゃ考えられないし。

 ……あ、あ、こ、興奮するのも女が相手なの。

 昔の夢を見たときは変な気持ちにはなるけど、

 今のあたしは男…なの、

 女にしか興奮しないの。

 女見たら、し、したくてたまらないのっ」

と英美は次第にまくし立て始める。

「おっおいっ、

 落ち着けよ」

興奮する英美に向かって俺は落ち着かせようとするが、

英美は何かを躊躇し手見せた後、

「ほっ本当のこという…わ」

と真剣な顔で僕に告げたのであった。



「本当のこと?」

英美の口から出た言葉に僕は嫌な予感を感じると、

「あたし、したことあるの。

 女の子と……」

と英美は言う。

「女の子?

 女の子とした。ってまさか」

それを聞いた僕は眼を剥いて英美を見ると、

「あたし、ケナが、好きなの。

 多分、ナンもそうだったの。

 それに…

 あたし、変身してから、好みが変わったわ。

 好物も性格も変わってきて……
 
 ケナにナンらしくなってきたなっていわれた。

 スウムが我慢できないのも、ナンがそうしてきたから。

 あたし、少しずつナンになってるのよ。

 ナンの魂のカケラ…が、あたしの魂に…種…をまくの。

 その芽が…ひとつ、ひとつ芽吹くと

 あたしはナンと、同じになっていくの。

 女の好みっていう種が、あたしの中で芽生えたとき、

 あたしは、ケナに夢中になった。

 ケナはナンの幼馴染なの。

 だから、あたしはナンとして好きになってた。

 不思議なのよ。

 なんで、あたしが、こんな女を好きに?って最初は思ったわよ。

 あたしにはディンガの美的感覚なんて分からないし、

 ディンガの女の良さなんて、知らないもの。

 けど、理屈じゃなかったんだ。

 気が付いたときには、あたしの頭の中はケナのことばっかりになってた。

 ああ、かわいいじゃん。

 おれ、こいつ好きだったじゃん。

 とか思ってた。

 最初は……気持ちよさのためにスウムしてたのに……

 それからはケナのことを考えてスウムするようになってた。

 それで……気が付いたの。

 あたしの中でナンの女の好みが目覚めたんだって。

 そのときからよ。

 あたしが、す、すけべなことを考えるようになったのは……

 頭の中が……ナンと同じになっちゃうって……
 
 必死に止めようとしたけど、
 
 でも、ナンの欲望には逆らえなかった。

 何より……今は自分の体だし……

 あたしのイリガなんだもの。

 そして、どんどんナンの種があたしの中で生えていった…わ。

 性格も喧嘩っぱやっくなって、ら、乱暴になってった……

 それなのに違う自分になることに……こ、興奮してた」

英美は股間のイチモツを再び勃起させながら興奮した口調で喋り続ける。

「英美……」

話し続ける英美を僕は複雑な表情で見つめると、

「そう……今のあたしはナンなのよ。

 いまさら、もう英美なんて戻れない。

 自分でも…ふ、不思議よ。

 あんなに戻りたかったのに……

 今…じゃ、あの体のことを考えるとスウムしちゃうの。

 あ、あ、うっ。

 考えてみたら、ナンからしてみたら……

 あたしって……とてつもなくいい匂いのする異人の女……なんだもんな。

 しょうがないでしょ?

 もし元に戻れても、あたしはまとも英美にはなれない。

 もう……あたしの頭の中は…ディンガに染まってるんだもん。

 いまさら…どうしょうもないでしょ?」

「そんなこというなよ」

英美に向かって僕はそう言うものの、

でも、心の中はすっかり打ちのめされていたのであった。

「でも……英美……

 じゃあさ、そのラウとか言う女とは…もう」

「そう……スムラシした…の。

 してるの。

 スムラシって…せっセックスのことよ、

 初めてしたときは、こ、後悔したけど……

 でも今は満足してる。

 あたしの中の女はもういないし、

 あたしはもう男なの」

「やめてくれ、

 英美っ」

彼女の口から出る言葉に僕は黙っていられなかった。

「な、何だよ?」

「そんな諦めたようなこというなよっ。

 俺はまだ……まだ英美が好きなんだ。

 だから……だから、わざわざ来たのに。

 なんとしてでも元に戻してやろうって戻ってきたのに……」

そう訴える僕の目にはいつの間にか涙が浮かぶ、

すると、

「男、涙浮かべるっ、

 情けないっ。

 お前っ、ムガ!!」

と英美は僕に怒鳴ったのであった。

「英美…」

怒鳴る英美を僕は唖然としながら見るが、

英美は涙を流す男の存在が許せないらしく、

ジッ

と僕を見据えてみせる。

すっがりディンガ化した英美にはもはやこの涙すら通じないのだろうか?

「くそ、なんで分からないんだよっ?

 お前はこのままディンガの男として生きていくつもりかよっ!?

 このまま一生素っ裸の土人として生きていくつもりかよ!!」

感情を高ぶらせて僕は怒鳴ると、

「な…

 な、何、言うっ

 だ、誰…が土人だ。

 あ、あたし、誇り高きディンガ。

 なのに…いまさら女、なれ、いうのか!

 お、女、なって何、うれしいんだ?」

と英美は負けじと言い返す。

「なにが誇り高きディンガだよ、

 俺にとってはそんなものなんかどうでもいいんだ。

 お前はもぅディンガの常識しかないのかよ?

 チンコをぶらぶらさせて牛を追うことしか頭に無いのかよ、

 英美だったときの感覚くらい思い出せないのかよっ!」

僕は気持ちの赴くまま怒鳴ると、

「そ、それは……

 そ、そんなこといったって…。

 あたし、もう生理だって覚えてない…んだ。

 もう男として……生活しているんだ。

 どうやって、英美になれっていう…んだよっ!」

言葉遣いが乱れ始めていく英美。

日本語の感覚が戻るにつれて、

ディンガの男としての感覚が雑な言葉遣いへと導いているのだろうか?

でも…

「それくらい手伝ってやる。

 困ったって俺が助けてやる。

 元の自分を取り戻すのに何怖がる必要があるんだよ!

 俺がお前を元の英美に戻してやる!」

英美の肩を掴み僕は目を逸らさずに話すと、

「だって、

 あたし、

 もう4年もここで生きてるんだ。

 4年もディンガとして生きてきたんだ。

 男として生きるつもりになってたんだ。

 それをいまさら……どうしようっていうんだよ?」

僕から目を逸らし、

そう呟く英美の瞳に液体が溢れてくると、

このディンガの村で過ごしてきた4年間のことを話し始めたのであった。



つづく



この作品はバオバブさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。