風祭文庫・モラン変身の館






「四年間」
(第1話:四年目の村)


原作・バオバブ(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-113





幼なじみの英美がアフリカ・ディンガ族の少年・ナンに変身して4回目の夏がきた。



「大丈夫だって、

 じゃぁ、行ってくるよ」

待ちに待った夏休み初日。

心配そうに僕を見る家族に向かって笑顔でそう言い残しすと、

僕は夏の日差しが照りつける朝の街へと踏み出していく。

4年前…

そうあの日もこんな朝だった。

空港行きバスの時間を気にしながら忙しく自宅を後にする二組の家族。

それぞれの家族の中に当時小学6年生だった僕と英美の姿があり、

それから数時間後、

合流した僕たちは機中の客となったのであった。

目指すは灼熱の赤い大地・サバンナ…



長い時間を掛けて着いたサバンナは僕たちにとって驚きの連続であり、

毎日が新鮮で興奮の坩堝だった。

そして、

その最中に訪れたディンガ族の村で忘れられない事件が起きたのであった。

元々この村へ行くことは予定には無かった。

しかし、誰が言い出したのかは忘れてしまったけど、

急にそこに向かうこととなってしまって、

僕たちは裸同然の男達が闊歩するディンガ族の村へと踏み込んだのであった。

ハッキリ言って言葉が出なかった。

村人達は皆親切で何を言っているのかは理解できないけど、

僕たちにやさしく挨拶もしてくれる。

でも…

村人達の体は無駄なく逞しく磨かれ、

陽に映えるその黒い体は僕の目には獣として映っていた。

言葉を交わす獣達が暮らす村…

僕の頭の中にそのイメージが焼き付けられようとしたとき、

「ねぇ」

と話しかけながら英美が僕の手を引いた。

「なに?」

英美に手を引かれた僕はそのまま家族の元を離れてしまうと、

村の奥へと引っ張られていく、

「駄目だよ、

 勝手に離れたたら怒られるよ」

強い力で僕の手を引く英美に向かって注意をするが、

「ねぇ、あっち行って見よう!

 何かあるよ、

 きっと」

冒険のつもりだろうか、

英美は僕の意見なんて無視してしまうと、

好奇心たっぷりの表情を見せつつ先へ先へと村の中を駆け抜けて行く、

「あぁ、もぅ」

次第に元来た道がわからなくなっていくことを不安に感じながら、

僕は英美の後を付いていくと、

やがて僕たちの前に突然赤茶けた土壁の小屋が姿を見せたのであった。

「!」

ディンガ族たちが住んでいる周囲の小屋とは明らかに造りが違うその小屋を

僕と英美は無言で見上げていると、

「ねぇ、もどろう」

と僕は英美に話しかける。

ところが、

スルッ

僕の手を掴んでいた英美の手が離れてしまうと、

まるで誘われるようにして英美は前へと進み始め

そのまま小屋の中へと入ってしまった。

「あっ!」

口を開く闇の中へと消えて行く英美を見た僕は慌てて小屋へと向かっていくが、

ボーン!

「え?」

まるで透明な壁が僕の目の前に立ちはだかり、

その壁に押し戻されるように僕の体は弾き返されてしまうと、

ドスン!

と尻餅をついてしまった。

「痛ってぇ!

 ってなにこれ?」

お尻をなでながら立ち上がった僕は恐る恐る入り口に向かって手を伸ばすと、

ポンポン

と明らかに目に見えない何かが僕の手を押し返してくる。

「えぇ!

 なにこれぇ!」

柔らかいが硬いその不思議な感触に僕は慌てて手を引っ込めて驚くが、

スグに小屋の中へと入ってった英美のことを思い出すと、

「おいっ!

 英美ぃ!」

と外から大声を張り上げる。

しかし、彼女からの返事は返って来なかった。

「畜生!

 英美ぃっ!

 返事をしろ!

 無事なのか!」

ポンポン

ポンポン

と見えない壁を思いっきり叩いて僕は声を張り上げるが、

でも、小屋の中より英美の返事はなく、

また見えない壁は僕の前に立ちはだかり中へ入ることを拒み続けていた。

「英美ぃ、

 英美ぃ、

 返事をしてよぉ」

半ば泣きじゃくりながら僕は壁に体当たりをし続け、

そして、何度目かの体当たりをしようとしたとき、

フッ!

ずっと僕を拒んで来ていた見えない壁が突然消えてしまったのか、

小屋に突進していった僕の体は入り口を難なくすり抜けてしまうと、

「え?

 うっわぁぁぁぁぁ!!!!!」

僕は悲鳴と共に小屋の中へと転がり込み、

ドザァ!

と盛大にスッ転んでしまったのであった。

そして、

「痛ててて…」

砂埃を頭から被りながら僕は起き上がると、

中に立ち込める強烈な臭いが僕に襲い掛かってくる。

「臭っ…なにこの臭い…」

余りにも強烈な臭いに咄嗟に鼻を押さえ僕は辺りを見渡すと、

目の前には真っ暗な空間が広がり、

その闇が今にも僕を飲み込もうと口を開いているようだった。

「………」

得体の知れない恐怖が僕の背後から忍び寄り、

そっと抱きしめてくる。

気が付くと膝がガタガタと振るえていて、

思うように立ち上がることが出来なくなっていた。

このまま回れ右してここから逃げだそう…とも考えたけど、

英美のことを思い出すと、

自分の体に鞭打ちつつ

真っ暗な闇に目を凝らした。

すると、最初は何も見ない真っ暗な闇が次第に見え始め、

やがていま居るところ円形状小屋の中であり、

また小屋の中に祭壇らしきものが作られているのが見えてきた。

「何、これは」

僕から見て後ろ向きに作られている祭壇を物珍しげに眺めていると、

その奥、

丁度祭壇の正面に白い何かがあるのが見えてくる。

「ん?」

妙に気になるその白いモノに引っ張られるようにして

僕は祭壇の正面に回りこんでみると、

なんと白いものは裸にされた英美が寝かされていたのであった。

「英美ぃ!」

衝撃の光景に僕は英美の名前を呼ぶと、

「あうっ…」

気づいたのか閉じていた英美の目がゆっくりと開き黒い瞳が僕を見る。

「なっ何をしているんだよ、

 はっ裸じゃないか」

僕を見つめる英美に向かって怒鳴ると、

『静かにしなさい』

と言う男の声が僕の頭の中に響いた。

「うっ」

割れるように響き渡ったその声に僕は慌てて耳を塞ぐと、

『おや、声が少し大きかったようだね』

とさっきとは違う男の声がボリュームを落として響き、

「だれ?

 誰なの?」

耳からではなく直接頭に響いた声に驚きながら僕は周囲を見回すと、

祭壇の両側、

小屋の闇に溶け込むようにして見開いている四つの瞳が僕を見ていたのであった。

「うわっ

 でたぁ!」

それを見た僕は思わず腰を抜かしてしまうと、

『追い出されたくなければ静かにしなさい』

と最初に聞こえた声が再び響いた。

「え?

 追い出す?」

その言葉に僕はキョトンとしながら瞳を見ると、

なんとそこには黒い肌を晒すディンガ族の男の人が座っていて、

ジッ!

と僕を見つめていたのであった。

「だっだれ?」

男の人に向かって僕は尋ねるが、

『さぁ、

 君の願いを聞いてあげた。

 はじめようか』

とその男の人の右側より声が響く。

「え?」

声が響いた方を僕は見ると、

そこにはもぅ一人、

妖しげな獣の毛皮を被った男が座り、

杖らしきものを英美に向けていたのであった。

「なっなにを…」

二人のディンガ族に向かって僕は尋ねると、

『今よりナンに選ばれし者を贄に、

 ナンの復活の術を行う』

と毛皮の男は僕に言う。

いや、僕の頭にその声が響いたのであった。

「え?」

言葉の意味が判らない僕は呆気に取られると、

『・・・・・・・…』

口から出る男の声が小屋の中に響き、

その声は裸のまま寝ている英美の体に纏わりつくように回り始めた。

見えるはずの無い声…

でも、歌うように、

そして、深い眠りに落ちている者を呼び起こすように響く声は、

間違いなく英美の体に纏わりつき、

そして、茨が絡め取るようにして英美を締め上げていく。

「うっ、

 くっ」

男が放つ声に縛られ辛くなったのか、

英美の顔が歪んでくると、

「やめろ!」

それを見た僕は思わず声を張り上げるが、

しかし、僕が出来るのはそこまでだった。

グッ!

そのときの僕の体は無数の見えない手によって押さえつけられ、

指一本と動かせられない状態になっていたのであった。

「くそっ

 動けない…

 英美ぃ」

立ったまま拘束された僕は全身の力を振り絞って

英美のところに向かおうとするが、

「うぐっ

 くぅ…

 くはぁ

 はぁはぁ

 はぁはぁ」

その英美は体中から汗で濡らし苦しそうに呼吸をし続ける。

しかし、ディンガ達は英美を介抱するどころか、

毛皮の男はさらに声を張り上げると、

グルッ

漂っていたあの臭いを伴った空気が小屋の中を回り始め、

真ん中へと集まり始めた。

薄暗い小屋の中の真ん中えと集まっていく空気…

本来、見えるはずの無いものであるけど、

でも確かにそれは小屋の中をグルグルと回りながら、

その真ん中へと集まり濃さを増していく、

そして、その下には英美がいるのである。

一体これから何が起こるのか想像が付かないけど、

でも、確実に英美に危機が迫っていることを認識すると、

「やめろ!

 やめてくれ!」

毛皮の男に向かって僕は声を上げるが、

だが、男は僕の声を一切無視して声を響き渡らせる。

そして、

『・・・・・!!!!』

そんな僕の声を押しつぶすように毛皮の男の声が響いたとき、

ギュンッ!

空気は小さな一点へと集まり、

ポトッ!

と滴り落ちる雫のごとく真下の英美に向かって落ちて行った。

「あっあぁぁぁぁ…」

落ちていく”それ”を僕は目で追っていくと、

ゴクリ

”それ”は英美の口の中へと飛び込み、

同時に飲み込まれていく。

短くて長い無言の時間は過ぎていくが、

メリッ!

寝かされたいた英美の体に異変が起きると、

メリッ!

メリッメリッ!

何かを引き裂くような音が英美の体から木霊し、

「あ…、

 あ…、

 あ…」

カッ!

と目を剥いた英美は口をパクパクさせはじめる。

そして、

メリメリメリ!!

一気に堰を切るようにさらに大きな音が木霊すると、

英美の体は中から骨が突き出し、

女の子の丸みを帯びた体は厳つく変化し始めたのであった。

しかも、それだけではなかった。

ムクムクムク!!

大人の飾り毛が生え始めたばかりの英美の股間にある

女の子の割れ目の頭から肉の棒が突き出してくると

ピュッ

ピュッ

その先からオシッコを噴出しながら長さと太さを増し、

先端に括れが出来上がってくると、

肉の棒はオチンチンへと変貌していく。

さらにオチンチンの下にある割れ目が閉じていくと皺を刻みながら膨らみ、

皺まみれの男の玉袋となって盛り上がり垂れ下がってくると、

「うそっ

 英美にオチンチンが…」

ビンッ!

と勃ってみせるオチンチンとその下で垂れ下がる玉袋を見た僕はある種の怖さを感じるが、

その間にも英美の体は次第に男の子の体つきへと変化し、

手や足、さらに背丈までも伸びていく。

「はっはっ

 はっはっ」

パクパクさせる英美の口の唇はすっかり厚くなり白い肌は黒く染まっていく、

ビクン!

英美の股間には剥けきった元気なオチンチンが長く伸び、

ムワッ

さっき漂っていた臭いが生気を取り戻した臭い…

そうディンガ族の人たちと同じ体臭が漂いはじめると、

そこには英美ではなく、

ディンガ族の少年が寝ているようにしか見えなかった。

パッと見ただけではこの少年が本当は日本人であり、

しかも女の子だったことなどわかるはずも無かった。

しかし、まだ英美の面影が幾分残る顔と長いきれいな黒髪が

少年がこの英美であることを必死に訴えていた。

信じられなかった…

あの英美が…

男勝りで勝ち気な英美が…

一緒に習っている柔道でいつも僕を投げ飛ばしていた英美が…

ディンガ族の男の子へと変身してしまったのである。

そんなこと、信じたくは無かった。

でも、それは紛れも無い事実…

僕の頭の中を言いようも無い絶望感が駆け抜けていくのを感じていると、

全てが終わったのか、

これまで僕を束縛していた見えない手が一斉に離れ

僕は解放された。

無論、

「なんてことをしてくれたんだよ、

 英美を元の女の子に戻してよ!」

と二人のディンガに向かって僕は英美を元の姿に戻すように頼んだのだが、

しかし、

「………」

僕の願いなど最初から聞く耳を持ってないのか、

ディンガ達はディンガとなった英美見るだけで、

返事は返ってはこなかった。

「なんで?

 どうして?

 なんで、英美がこんな姿にされなければならないんだ!」

必死にそして何度もねばり強く僕が抗議していると、

「やめて!」

小屋の中に男子の声が響き、

黒い肌を見せ付けながらディンガとなった英美が僕とディンガ達の間に割って入り、

「ごめん。

 ここからすぐに出て行って」

僕に小屋から出るように告げたのであった。

「英美ぃ!

 いいのか、

 本当に良いのか、

 そんな姿にされて、

 どうやってお父さんやお母さんに言い訳するんだよ、

 学校だってどうするんだよ」

股間から真っ黒なオチンチンを突き出す英美に向かって僕は怒鳴ると、

「お願い。

 何も聞かないで。

 何も聞かずにここから出て行って…」

と言いながら英美は僕の襟首を掴み、

有無を言わさず小屋から放り出した。

そして一言、

「あたしのことは忘れて…」

と僕に向かって言い残すと、

ブワッ!

砂埃をと伴った風が巻き起こり、

「うわっ!」

僕はその砂埃に飲み込まれてしまうと、

意識を失ってしまったのであった。



気が付くとサバンナの外れにある小さな医院のベッドの上だった。

サバンナの真ん中で倒れていたらしい。

程なくして僕と英美を探していた家族が駆けつけ、

何があったのかを聞かれるが、

英美の身に起きたことなど説明しても判ってくれるわけは無く、

僕は口をつぐんだままだった。

英美はそのまま行方不明扱いとなり、

僕は家族と共に帰国することになった。

僕だけが真実を知りながら……

それから4年が過ぎた。

高校1年生になった僕は夏休みを利用して

再びあのディンガ族の村を訪れることにした。

僕の計画に家族は強硬に反対したが、

「行方不明になっている英美の手がかりが見つかったんだよ!」

と主張したのが効いたのか、

なんとかアフリカ行きに理解をしてくれたのであった。



「……ディンガ族か」

日本以上に強烈なサバンナの日差しと乾燥した熱気が

サファリカーから降りた僕の体を瞬く間に包み込んでくる。

僕はガイドと共に4年ぶりに訪れるディンガ族の村を眺めていた。

円形の小屋が立ち並ぶ村は以前よりも埃っぽさが増したような気もするが、

これは時期にもよるのだろう。

「じゃあ、行きましょうか?」

少したどたどしいガイドの日本語に促されて村に踏み込むと、

この村の長のいる小屋へと向かう。

あの時、長は小屋の中には居なくて、

代わりに長の第2夫人と言う女性が僕たちの相手をしてくれたのだが…

程なくして見えてきた長の小屋に僕は入ると、

中で長が僕たちを待っていたいたのであった。

「あっあなたは!」

長の顔を見た途端、

あの日、祭壇の片方で僕に話しかけてきたディンガ族の男の顔を

思い出すのと同時に指差した。

すると、

「・・・・・・・・・・・」

長の口が動き、

「見たことのある顔ですね」

とガイドが日本語に訳してくれる。

僕をうざったそうに見つめる長を見ながら、

「4年前にこの村に来た者だ。

 英美を返してもらいに来た」

負けじと長を睨み付けつつ来意を告げると、

「ん?

 そういえば……あのときの子供かぁ」

ようやく僕のことを思い出したのか

長は「ふん」と鼻を鳴らしてそう呟くと、

小屋の外へと視線を移してみせる。

長の視線の先、そこに英美はいるのであろう。

その視線が示す先を僕は睨み付けながら、

「英美はいま何処に居るのですか?」

と感情を殺しつつ尋ねると、

「ヒデミ?

 そのような者は知らん。

 人を探しに来たのか、

 物好きな奴だな、

 好きなだけ探すが良い」

長は僕に向かってそう答え、

徐に腰をあげてみせる。

「えぇそのつもりです。

 暫くここに泊まらせてもらいますよ。

 いいですね?」

そんな長に向かって僕は語気を荒げつつ尋ねると、

「空いているところを使え」

とガイドを通して長は僕に言う。

「なっ」

笑みを浮かべ長の自信たっぷりのその姿に僕は言い様も無い不安を感じ取ると、

「英美さんが見つかると良いですね」

とガイドは僕に話しかけてきた。

「うん、

 そうですね」

ガイドの言葉に僕は頷いてみせ、

ガイドに5日後に迎えに来るように申し付けると荷物を受け取り、

僕は空いていた小屋に荷物を入れる。

そして、英美の姿を探しつつ村の周りを歩き回るが、

だが、簡単に見つけることなど不可能であった。

「ちっ、

 参ったなぁ…」

僕以外の村人達は男女の差こそあれど、

しかし、皆同じ姿に見えてしまう。

僕は頭を掻きながら黒い人の群れを縫いながら歩いていくと、

「なるほど…

 見つけられるものなら見つけて見せろ。ってことか」

と長が見せた笑みの意味を僕は感じ取る。

そして村はずれにきたとき、

「ホウホウホウ」

と声を張り上げ牛と共に村に戻ってきたディンガの男たちが姿を見せた。

陽に光る漆黒色の肌。

筋が張り付いた無駄のない細身の体。

細い頭に短い縮れ毛の髪。

彫りの深い精悍な顔。

首や腰、手首や足首にあるトンボ球の飾り紐。

4年前見たのと同じ野性味あふれるディンガ族の男たちの姿だ。

「・・・・・」

「・・・・・・・っ」

理解できないディンガの言葉が飛び交い、

日本語も英語も混ざらない会話を聞く限り、

彼らは皆生まれつきのディンガにしか見えなかった。

「この中に英美がいるかも…

 でも、何処に…」

さっきの長の仕草から見て、

おそらくこの男たちの中に英美がいる。

そう思いつつ僕はつい真剣な表情になると、

まだ幾分距離が開いているディンガの男たちの顔を一人一人見始めた。

元々背の高いディンガ族。

当然男達の皆背が高く僕は思わず見上げてしまうが、

でも良く見てみると顔つきが幼い僕と同じくらいの少年も数人混ざっている。

「一体誰が…英美なんだ…

 見分けすら付かなくなってしまったのか」

4年の歳月の重みを感じつつ、

僕は臍をかむ思いでディンガ達を見るが、

しかし、僕の目にはディンガ達の中から英美を見つけ出すのは不可能であった。

その苛立ちからか、

「英美っ!」

ディンガ達に向かって僕は思いっきり英美の名前を叫んでしまうと、

ピクッ!

ディンガたちの中でただ一人の少年がおかしな挙動を見せた。

「!っ」

それを見逃さなかった僕はすかさず彼を見ると、

「・・・っ!?」

ディンガの少年は何か言葉を漏らしながら目を見開き

僕の顔を見つめている。

そして、

「ゆ、ユウキ?」

と震える指を僕に指し

人の名前らしきものを叫んで見せたのであった。

そして僕の耳に入ってきたその言葉は、

もはや日本語のイントネーションではなかったが、

間違いなく僕の名前であり、

この場でその名前を言える者は一人しか居なかった。

「英美!!!」

彼が英美であることを確信した僕は思わず飛び出そうとしたとき、

「あ、あー、

 ・・・・・っ

 ユウキ!」

僕よりも先にそのディンガの少年が僕に飛びついてきたのであった。



つづく



この作品はバオバブさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。