風祭文庫・モラン変身の館






「沙織」
(最終話:鏡の中で)


原作・バオバブ(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-096





深夜。

穣が気が付いたとき、異様な雰囲気が小屋を支配していた。

ふと見ると、二人の影が並んで何かに励んでいる。

見るとアニと沙織が並んでオナニーをしているところだった。

「さ、沙織……」

愕然とする穣の前で、沙織はうつろな瞳で穣を認める。

「助けて……穣。

 あたし、あたし………
 
 ディンガ族になっちゃうよう」

「え?」

そう言いながらも沙織は自分でも不思議なことにうっとりとしてアニを見つめていた。

ディンガ族の少年の顔でディンガ族になりつつある沙織の顔に接近する。

「○○○○○」

『お前の中のいらないもう一人のお前を吸い出してやる』

と沙織に聞こえた。

分厚い唇が沙織の膨らんだ唇と重なり、互いの唾液が交じり合う。

肌が触れ合い、

沙織は自分がどんどんディンガに染められていくような錯覚を覚えた。

「んっ、んぷっ、や、やめて」

そうはいっても興奮は止められない。

沙織の股間にはぶらんと垂れ下がるペニスが力強く勃起し、

沙織のディンガとしての性を高ぶらせていく。

アニの匂いか自分の匂いかすら分からない。

とにかく強いディンガの体臭がとても芳しく感じる。

沙織の体からはディンガの汗が絶え間なく噴き出し、

沙織の肉体を完全なディンガへと生まれ変わらせているようだった。

黒い肌は更に濃い黒褐色へと染まっていき、

沙織に付けられた腕輪、首輪、腰紐のボタン球は

沙織をディンガに染め上げるべく発光している。

(いや……いやなのに、止められないよお……)

「ディンガ○○○」

『ディンガになれ』

沙織の頭にアニの言葉が響く。

あれほど恐ろしかったはずのことが今は魅惑的にすら感じられる。

(あたしがディンガ族に……ディンガ族に……)

自分でも信じられないながら沙織はディンガ族になっていく自分に興奮していた。

自らもっとディンガに染まりたいようなそんな欲求が生まれ、心を満たしていく。

『ああ、僕は……』

沙織の口から思わずディンガの言葉が漏れ、

沙織は我慢汁でベタベタになった手で口を押さえた。

「あたし……また」

「○○○○、○○○グレ」

『さあ勇者の証をたてろ、目を醒ますんだ、グレ』

とアニがいう。

『あ、ああ、う、うん』

その言葉になぜかつられてしまうように沙織、いやグレは応えていた。

そして、

ブシュッシュッ

シュッ

グレとなってしまった沙織は思いっきり射精をしたとき、

自分の感覚が妙にクリアになっていくのを感じていた。

何かが消え去り、研ぎ澄まされていくようなその感じ。

「沙織っ」

アニが含み笑いをして闇に消え去ると、穣が心配して近寄ってきた。

『ゆ、ゆたか』

口を突く妙な日本語。

沙織は自分でも驚く。

(あたし、言葉が………そんなっ)

自分でもうまく喋れないことに気付き、グレは慌てる。

「どうしたんだよ、その喋り方は!?」

『わかんらないよ………なんか、しゃべんにくい……』

(まさか……あたし、グレになりきり始めてるんじゃ……)

その不安は的中していた。

『いやだ

 僕を元に戻してくれ!!』

そう叫びながら沙織の意識は消えていった。



『ここはどこ?』

『僕の中さ』

『僕?……僕って』

見慣れないディンガ族の景色の中、

何か懐かしさを感じながら沙織は立っていた。

『あ、き、きみがグレ?』

『きみこそ、僕だね』

『あ……』

沙織が気が付くと夢の中の姿も完全にグレになっていた。

『僕をどうする気なんだ?』

『僕になるんだろう?』

『ならないっ』

『だって、体はもうグレじゃないか?』

『それでも……僕は……あれ?』

『名前を思い出せないのかい?』

『あ、あれ………僕の名前は……グ、グレッ!?』

『あはは、そうだよ。

 きみは僕、僕はきみだ』

『そんな……そんなはずは』

『だって、僕が君の中の余計なものを吸い取って出してあげているんだ。

 君の中にグレ以外の君は要らない』

『そんな……』

『さあ、もっと余計なものを出してしまおうよ』

『や、やめろっ』

グレは沙織に近づくとペニスを掴んだ。

『うっ』

『気持ちいいだろう?

 たまらないだろ?

 サオリなんてもう要らない』

『そ、そうだっ、サオリだ。

 僕の名前はっ』

『じゃあ、それを忘れてしまおうよ』

『や、やめっ』

そこまでで沙織は自分と全く同じ姿形をしたグレに唇を奪われていた。

そして、沙織のペニスはぐっと一気に勃起してしまう。

シュッ

シュッ

『んむっ』

沙織は再び、ディンガの魂を注入し始められていた。



「沙織っ」

「はっ!?」

寝汗をかいている沙織を穣が起こしていた。

「どうしたんだよ?」

『ぼ、僕……!?』

沙織は口を押さえてから

「ごめん、あたし……また夢を見ていたの」

と返事をする。

すると、

ホッ

目の前の穣は安心したよう顔になると、

「良かった、

 すっかりグレになってしまったんじゃないかって思ったよ」

そう言いながら沙織の広い額を優しく撫で、

「で、どんな夢だったの?」

と尋ねた。

「うっうん

 グレと一つになる夢。

 あたしの心も体もグレになってしまうの……」

「沙織っ?」

「こ、怖いよっ、穣っ。

 あたし、グレなんかになりたくないっ。

 沙織としての自分も思い出も忘れたくないよぉっ」

ガシッ

そう叫びながら沙織は穣に抱きついていた。

きついディンガの体臭が穣を包み込む。

沙織はまだ気づいていないが、

沙織の身体は完全にディンガ族のグレの生前の姿に成り代わってしまっていた。

そう、一週間前まで女の子だった体は完全にディンガ族の男の子だった。

「お願い、穣っ。

 こんな姿じゃ嫌かもしれないけど、あたしを抱きしめてっ。

 そうじゃないと、あたし………
 
 沙織じゃなくなっちゃいそうなの」

「あ、う、うん」

沙織の言葉に穣は沙織の身体をきつく抱きしめた。

ムッ…

変身して一週間風呂どころか水浴びすらしていない沙織の肉体から

沙織のものでない匂い…ディンガ族の男の匂いが立ち昇っている。

そのことに穣は興奮し始めていた。

「穣………」

「沙織…」

自分より小さかった女の子だった沙織が、

今は細くとも背の高いディンガ族の男の子に変身しているのだ。

白くすべすべなはずの肌は、

汗や垢にまみれた黒褐色の肌になっていた。

「なあ、沙織。

 僕が気持ち良くしてあげてもいいかな?」

抱きしめながら譲はそう尋ねると、

「え?」

沙織は一瞬驚いた後、

「……う、うん」

戸惑いながら応えた。

そのことがどういうことなのか、

沙織も穣自身も気が付いていなかった。

穣は興奮に身を任せるまま、

かつてはかわいらしい女の子の乳房があった場所を撫で始める。

「ゆ、穣……」

一週間前は沙織の乳房が確かにここにあったのだ。

しかし、手に触れるのは硬く盛り上がった男の胸板。

そのことを沙織に知らしめるように穣はそのべったりした肌を撫でていく。

「うわ……すごいな」

「そ、そんなこといわないで……」

沙織は戸惑いながらも、既に感じ始めているようだった。

穣はその間も愛撫を休めず、手を脇の方に持っていく。

ベタついた脇。

緊張のせいか、多めに汗が噴いてるその場所からはむわっとするような匂いがしていた。

「すごい……

 これが……

 ディンガ族の……
 
 グレの匂いか」

「そんな……」

「嗅いでみてよ。

 今の沙織の匂いだよ。
 
 どう変身した自分の体の匂いは?」

「い、いわないで……うっ」

穣は指についた沙織の脇の汗の匂いを沙織の鼻に近づける。

「沙織………本当にディンガ族に変身してるんだな」

「や、やめてよ……あっ、うっ」

沙織も興奮を止められなくなり、股間にペニスを勃起させ始める。

持ち上がっていくグロテスクな肉棒。

赤紫に染まった亀頭と真っ黒な陰茎。

一週間前にはなかったそれが、沙織の股間に生えている。

「沙織のチンポ、すごいな……」

「い、いや……穣っ」

穣が顔を近づけると、アンモニアと栗の花のような匂いがした。

そう…この一週間沙織が出した尿と精液の匂いだ。

「うわ……くさ。これが沙織のチンポなんだ」

「穣っ、そんなこといわないでよっ」

「ま、まあまあ、気持ちよくしてあげるから」

「あっ」

穣は沙織のペニスを握るとゆっくりとその感触を味わう。

沙織にこれが生えているのだ、ディンガ族のペニスが。

その快感を沙織に味わわせてやりたい。

男の絶頂を感じさせてやりたい。

沙織が射精するところを見たい。

そんな欲望が穣を暴走させる。

「感じる?」

「そ、それは………う、うん」

シュッ

シュッ

穣がペニスをゆっくり扱いていく。

溢れ出てくる我慢汁。

これは変身した沙織が流しているのだ。

「ああ、うっ、うっ、うくっ」

「沙織がチンポで感じてるなんて」

「うっ…

 お願い、穣。

 そんなこといわないでよっ。

 あ、あたし……」

「気持ちいい。

 おかしくなりそうっ。

 ああ、だめっ。

 やめてえっ」

沙織の叫び声が響き渡るのと同時に

ブチュゥ

股間のペニスより一本の白濁した放物線が弧を描いた。

「これが沙織の精液」

「………」

「うわ、すごい。こんなに出るんだ」

「い、いや……」

(あたしまで……何興奮してるのよ……

 あたしの精、『男の精』に興奮するなんて)

そのとき沙織の頭にディンガの言葉が走っていた。

『お前は勇者だ…』

「あぁ!!!」

その言葉と同時に、

パキン!!

沙織の頭の中で何かが弾けとんだ。

そして、

「はぁはぁはぁはぁっ

 あぐっ!!!」

沙織は興奮を押さえられなくなってしまうと震える手を伸ばし

自分でペニスを扱き始めた。

今までにないくらいに激しく、自分でも不思議なくらいの行為だった。

しかし、それでも止められない。

そして、そこに悠々と現れたのはアニだった。

『ふふ、グレ。

 きみの男に術をかけておいたのは正解だったよ。

 あいつは君にグレの体を感じさせるよう命じてあったんだ』

『そ、そんな』

穣の体を動けなくすると、アニは愛しそうにグレの体を抱く。

そして、沙織はグレの肉体を骨の髄まで感じ取っていた。

『や、やめろおっ』

『気持ちいいんだろ?

 認めるんだ、グレ。

 きみはディンガだ』

きついディンガの体臭。

抱き合っているうちに自分の匂いか、アニの匂いか分からなくなる。

沙織はアニと手を重ね合わせ、自分のペニスを扱きあげる。

シュッシュッ

『あぁ…

 うくっ
 
 気持良い…』

(あたしの中に何かが入ってくる……ああ、止められないよぉっ)

快感の波に揉まれ、

そして、

ブシュッ

シュッ

シュッ

沙織はまた射精をした。

そして、気が付いたとき、沙織は自分のことをグレだと思い込んでいた。

(僕はグレだ……)

一瞬であったが、

間違いなく自分がグレであることに何の疑問も感じていない瞬間があった。

(……えっ!?)

そのことに沙織が驚いていると

『いま、君はグレになったんだよ』

とアニの声が響き渡った。

(うそっ)

『嘘なんかじゃない…

 さぁ、認めるんだ。

 君はグレ…

 ディンガ族のグレ、

 それ以外のモノなんかではないよ』

(あたしは…グレ?)

『そうだ、君はグレだ、

 さぁ、

 昔のことは忘れてこっちに来るんだ』

(でっでも…)

『何を躊躇っているんだい』

(ぼっ僕には…

 穣が…)

『そんなもん、忘れてしまいな』

(だめっ

 忘れてはダメ、

 例えどんなことになっても

 絶対にダメ!!)

『困ったことを言うなぁ』

(ダメっ

 僕、穣のところに帰る)

『その身体でか?』

(……)

『グレ、

 君はディンガになってしまっているんだよ

 ディンガの君はあの男のところへ帰れると思っているのか?』

(でも帰る)

『そうか、

 じゃぁ、帰って見るがいい…』

沙織のがんした意思にアニは引き下がると、

ハッ!!

沙織は目を覚ました。



ヒュォォォォッ…

「ここは?」

目を覚ました沙織は周囲を見渡すと、

普段見るディンガの村とはまったく違う荒野に座り込んでいた。

そして遙か後方にあの村がカゲロウのように巣の姿を見せている。

「村の外…

 は!!っ

 穣っ!!」

沙織は自分の足元に倒れている穣を見つけると、

「穣っ

 穣っ」

と倒れている穣の顔を叩いた。

しばらくして、

「うっ」

沙織に叩かれようやく気づいたのか穣が目を開けると、

「穣っ

 良かった!!!

 あたしたち、ディンガの村から逃げたのよ」

と叫びながら沙織は穣に抱きつく、

しかし、

「沙織?

 君は本当に沙織なのか?

 沙織なら僕にわかるように話してくれ!!」

と穣は沙織に向かって言葉が通じてないことを告げた。

「そんな…

 穣っ

 あたしの言葉がわからないの?」

「沙織っ

 何をいっているんだよぉ

 お願いだよ日本語を喋ってくれよ」

「そんな…」

穣と会話を交わすことができないことに沙織は愕然とすると、

『ふふっ

 判った?

 君の頭はディンガになりきってしまっているんだよ、

 もぅその男とは言葉を交わすこともできなんだ』

とアニの声が響き渡った。

『アニっ!!』

その声に沙織は叫び声を上げると、

『ふふ』

沙織達から少し後方にアニの姿があった。

『アニ…』

アニの姿を見ながら沙織は呟くと、

『じゃぁ、少しの間だけ話をできるようにしてあげる

 君がすることは…判るだろう』

とアニはそう告げたとたん、

「あっゆっ穣…」

「沙織っ

 言葉が喋れるようになったのか?」

沙織と穣は言葉を交わすことができるようになった。

「穣…」

「沙織…」

二人は互いの名前を呼び合いながら見詰め合うと、

「穣…

 ごめん、

 あたし、もうグレになるしかないの」

と沙織は頭を下げ穣に謝る。

「そんな…

 何を言い出すんだよ沙織っ。

 元に戻るっていってたじゃないか。

 だから、僕は……」

「うん、

 僕も戻るつもりだった。

 でも、

 もぅ、ディンガになってしまったんだ。

 こうして穣とお話をできるのも後わずかなんだ」

沙織はそう言うと、

キラッ

一つの鏡が自分の足下に落ちていることに気づくと、

それを拾い上げるハッとした。

そう、あの小屋の中で次第にグレと化した自分の顔しだしていたあの鏡だ。

「それは…」

鏡を指差しながら穣が尋ねると、

「見て…穣…

 この鏡に映っている顔、

 ここに映っているのは誰?」

と沙織は聞き返した。

「決まっているだろう?

 沙織だよ」

「僕ってこんな顔をしているの?」

「えっ」

「僕の顔って、

 こんなに黒くて、

 こんなに鼻が潰れていて

 こんなに唇が…厚いの?」

「いやっ

 それは」

「違うっ

 僕の知っている沙織はこんな顔をしていない。

 ここに映っているのはディンガ族のグレっ

 すっ裸のまま歩いているグレ、

 そうだろう?」

と語気を荒げながら沙織は穣に同意を求めた。

「うっ」

詰め寄る沙織の姿に穣は反論できないで居ると、

「そう、

 僕はグレなんだ、

 ディンガ族のグレ…

 それが今の僕…

 この鏡はディンガ族グレを映し出しているんだ。

 そして、この中の自分とキスをすれば、

 僕は自分の奥で眠りについているグレを完全に覚醒させ、ひとつになる」

鏡を見据えながら沙織はそう言うと、

びくんっ

沙織のペニスはいつの間にか脈打っていた。

「待て、

 沙織!!」

「ふふっ

 穣っ

 僕…

 本当はイヤなの…

 ディンガ族になってしまうのは

 でも」

と言いながら、

シュッ!!

沙織は股間で力強く勃起するペニスに手を伸ばすと

「あぁ嫌なのに……

 止められない……

 僕、ディンガ族になっちゃう…のに……

 何興奮しているの!?

 あぁ、おちんちんが……

 あぁっ、

 うっ、

 うくっ」

そう訴えながら

シュッ

シュッ

っと黒いペニスを扱き始めた。

「止めろ、

 止めるんだ沙織!!」


「お願い、イカせて、

 穣っ。

 僕が…あっあたしが……

 あたしが……

 グレに………

 グレに生まれ変わっちゃう。
 
 あたしが消えちゃうっ」

片手でペニスをしごきながら沙織は葛藤し、

そして、片手で持つ鏡へと沙織の唇が近づいていく、

「止めるんだ!!

 沙織」

穣の叫び声が響き渡る中、

ぷちゅっ

沙織はディンガ族グレの顔が映し出される鏡にキスをしてしまうと、

その途端、

『あ、ああ、ああああ、

 う、う、うぅっ、

 うぉぉぉっ』

と雄たけびを上げ、

「かっ感覚が変わっていくぅ

 あた、あたし……

 おかしくなっちゃう

 ディンガが当たり前になっちゃう
 
 あたしが……グレに……

 何もかもが抜けていくみたい……

 あぁ、大切なものがなくなってくぅ

 なのに……なのに

 き、気持ちいい。
 
 気持いいよぉぉぉぉ!!!」

と叫びながら、

ビュッ!!

ビュビュッ!!!

勇者誕生を祝福をするかのように

固く勃起したペニスからおびただしい量の精液を吹き上げ続けていた。



その途端、

『あははは!!』

離れていたところで成り行きを見ていたアニが高らかに笑い声を上げると、

「てめぇ!!

 よくも沙織をこんな土人にしやがったなぁ!!」

とアニを見つけた穣はアニに向かって怒鳴り声を上げる。

『ふふふふ…

 何をそんなに怒っているんだい?

 僕にとっては友人を復活させることができた祝いのときなんだけど』

「うるせーっ

 何が祝いだ!!

 お前が沙織を勝手に改造しただけじゃないかっ

 沙織を今すぐ戻せ!!」

高見の見物をしているかのようなアニのその声に向かって穣が怒鳴ると、

『くくっ

 そんなこと、できるわけ無いだろう?』

と笑いをかみ殺しながらアニは穣にそう告げ、

そして、

『さぁ、グレっ

 きみがいま持っている鏡を叩き割れ』

とグレに向かって命令をした。

「え?

 鏡を叩き割れって

 どういうことだ?」

アニのその命令に穣は聞き返すと、

ユラッ!!

これまで動くことの無かった周囲の気配が微妙に揺らいだ。

「なに?

 まさかっ」

それを感じ取った穣は

持っている鏡を叩き割ろうとして腕を上げるグレに向かって飛び掛り、

「止めろっ

 それを割るんじゃないっ」

と言いながらグレから鏡を奪い取ろうとする。

すると、

『なっ

 何をするんだっ

 グレっ

 そいつを叩きのめせ!!』

穣とグレが鏡の奪い合いを始めたことにアニは驚きながら命令をすると、

ユラッ

ユラッ

場の気配がさらに激しく動き始めた。

「なるほど、

 その慌て様、

 どうやら全ての秘密はこの鏡にあるようだな」

ある核心をもった穣るはアニに向かってそう言い放つと、

『なんだと?』

アニの感情が丸出しになった声が響き渡り、

ズズズズ…

区間を支配する気配が大きく揺らぐ。

「ははーん

 しかも、この事態に至っても

 この場に押しかけて来ないとなると、

 おいっ

 アニっ

 お前が沙織にかけた術を完全はコントロールしていないな」

と穣はアニの術の盲点を指摘すると、

『くっ

 待ってろ!!

 いま行ってやるから!!』

穣のその言葉にアニは怒鳴り返した。

「へーそーかい」

バッ!!

それを聞いた穣はグレから鏡を奪いとると

素早く身構えた。

フラッ

フラッ

フラッ

空間の気配はさらに不安定なものへと変化し、

そして周囲の景色が大きく歪んだ。

「なるほど…

 これも、それも茶番か!!」

景色が揺れ動く中、

ギュッ

穣は沙織の腕を掴むと、

「沙織っ

 お前はディンガになんてなっては居ないんだ、

 大丈夫、俺がついている」

と言い聞かせ。

グッと力を込めた。

すると、間髪居れずに、

シャッ!!

景色の中に強烈な一筋の光が差し込むと、

タッタッタ

光の向こうから穣目掛けて走ってくる人物の影が見えた。

「くっ

 アニっ」

それを見た穣は沙織の手を引きながら向かってくるアニに向かって走り始めた。

タッタッタッ

タッタッタッ

沙織と穣、そしてアニは急速に接近していく、

そして、3人が1点に集まったとき、

パァァァァ!!!

3人の姿は光の中にかき消すように消え去ってしまった。




「あっあのぅ

 穣…」

『いいよっ

 沙織、お前だけ帰れ、
 
 俺はココに残る』

「でも…」

それから1週間後…

困惑する沙織に対してふて腐れた顔の穣はそう言うと、

沙織を追い払うかのように手を払った。

「本当に大丈夫…なの?」

『大丈夫なもんか

 けど、こんな体で帰れるわけ無いだろう。

 大体、なんで俺がディンガにならなくっちゃならないんだよ』

心配顔の沙織に穣は文句を言うと、

無念そうにピシャリと

黒光する肌に覆われた厚い胸板を叩く。

「ごっごめんね」

『…別に…沙織が謝ることじゃないよ、

 本当に謝らなくっちゃならないのは、

 コイツなんだからさっ』

謝る沙織に穣は慰めるようにそう言うと、

小屋の祭壇に置かれた鏡を指さした。

するとそこには、

『…!』

『…!』

『…!』

鏡の内側より何かを叫びながら必死に叩くアニの姿があった。

そう、あの時、

穣と沙織は祭壇に置かれたこの鏡の中に閉じ込められていたのであった。

そして、穣の挑発に乗せられたアニが飛び込んで来た時、

鏡にかけられていた呪術のバランスが崩れ、

その為に鏡の中は一種のカオス状態へとなってしまい、

沙織・穣・アニの心と体は全てバラバラにされたが、

しかし、

『沙織っ、俺から手を離すなっ』

『うっうん』

沙織の手をしっかりと濁る穣は縋ってくるアニを蹴飛ばし、

光の方へとかけだしていった。

けど…

「なっなんだコレは!!」

鏡から脱出し、気を失っていた沙織が目を覚ましたのは穣のその一声だった。

「ゆっ穣?」

目を覚ました沙織の目に映ったのは

信じられない様子で己の体を見る一人のディンガ…

そして、そのディンガは穣の声で

「さっ沙織、

 俺…ディンガ…に…」
 
と呟いた。

沙織と穣はあの鏡から脱出することが出来たものの

しかし、鏡にかけられていた呪いは沙織に変わって穣をディンガ族のグレへと変身させ、

一方で沙織は元の女の子へと戻ていたのであった。



ディンガの村外れ、

沙織を探しに来た穣とディンガに変身していた沙織とが再会したブッシュの前に来たとき、

「穣…じゃなかった、グレ…

 元気で」

ふと立ち止まった沙織は振り返ってグレに向かってそう言うと、

『あぁ…

 俺のことなら心配するな、

 女の子からディンガになった沙織に比べてば
 
 俺は男からディンガになっただけだからな、
 
 なぁに、そのうち元の姿に戻って帰るから』

とグレは白い歯を見せながら笑みを浮かべた。

「うん」

グレの笑みに沙織は元気よく返事をすると、

『コホン…』

急にグレは咳払いをすると、

『あっあのさっ』

と頼み事をしてきた。

「なっなぁに?」

『帰る前に一度だけ…

 おっ俺のコレ…
 
 扱いてくれないか?』

とグレはそう言いながら

ビンッ!!

股間で固く伸びているペニスを指さした。

「ばかっ」

それを見た沙織は小さく返事をすると、

グイッ

穣の手を引きブッシュの中へと入っていく。



「でも信じられないな…」

『なにが…』

「あたしにこんなのが付いていただなんて」

『どんな感じだった?』

「え?

 うん、固くて
 
 太くて
 
 長くて
 
 そして…ふふっ」



おわり



この作品はバオバブさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。