風祭文庫・モランの館






「ムルシへの誘惑」
(最終話:ムルシの村で)


原作・バオバブ(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-087





「い、いやっ!

 こ、こないでっ!!」

自分に向かってくる『もや』に真美はコエの姿のまま部屋の中を引き下がる。

しかし、自分の股間から立ち昇る『もや』は一向に引き離せない。

ドンッ

真美はクローゼットの扉に背中を打ちつけて止まってしまった。

「い、いや……やめて」

真美はそう訴えるが

(こ、このままじゃ、ホントにムルシ族にされちゃうっ!!)

真美の妄想が『もや』を更に焚きつける。

ビュッ

それは当に三度目の魂のファックが行われようとしていた。

コエの魂の複製が、真美の額を再び貫く。

「ひぃっ!!」

真美は赤毛の縮れ毛が覆う頭を思わず押さえた。

ドクン

ドクン

真美の頭の中に煙の筋を通してウルカから光の粒から流れ込んでくる。

そう…

ウルカは真美の妄想を叶えようとしていたのだった。

「や、やめて……」

(ああ……き、聞こえるっ!

 ムルシの歌が聞こえ……い、いやっ

 やめて、聞きたくない、聞きたくないよぉ)

真美の必死の拒絶にも関わらずムルシの勇者の生誕を祝う呪術の歌が真美の頭に響いてきた。

「い、いやぁ……

 やめてぇ……」

自分を誘い込むようなリズムカルな歌声に真美は耳を押さえる。

しかし、頭に直接語りかけられる歌は一向に止まなかった。

その歌が真美に近づくにつれ真美は歌の内容を理解していく。

 勇者のなんたるか……

 勇者はどうあるべきか……

 真の勇者とは何か……

歌を真美にムルシの勇者のあり方を語りかける。

それは真美がムルシの言葉のリズムを吸収してしまったことを示していた。

「ああ……

 い、いや……

 や、やめてぇ」

真美は朦朧とする意識の中、自分が上げる声に思わずゾッとした。

ろれつの回っていないような自分の言葉。

自分で聞いていておかしな日本語だと感じるのに口はうまくその音を発音できない。

「そんな……なん…で?

 あ、あたし……ど、どうしちゃた…の?」

イントネーションがまるであっていない自分の声に真美は恐怖していた。

真美今も眉間を貫く煙を振り払おうと必死にもがく。

「うわぁあぁぁぁ……

 もうやめてぇ!!」

そう叫びながら真美が暴れ出したとき

パキィッ

真美の股間に聳えていたウルカはすぐ傍の壁に当たって割れるように砕けた。

「イ、イヤアアアア」

ウルカから立ち昇っていたコエの魂の複製は途切れると宙に四散するように消えていく。

プルンッ

ウルカより飛び出したペニスを曝け出しながら

真美は悲鳴を上げ、床へと座り込んでしまった。



「はぁはぁはぁ……

 あっあたし、助かたの?」

真美は呆然としながら砕けて床に散らばるウルカの破片を見つめる。

しかし、口を突いたムルシなまりの日本語に慌てて口を押さえた。

「そ、そんな……

 な、何?…
 
 あたし、どして?」

うまく喋れないことに気付きながら頭の中を巡る嫌なリズムに気付く。

「・・・・・っ……

 って、あたし、・・・・っ!?

 ・・・っ、ち、違う……

 あたし、ムルシなんかじゃないっ!」

思わず自然に口走ってしまったムルシの言葉に真美は仰天する。

そして、真美はコエが土産を渡すときにいった言葉を意味を理解していた。



『こいつにはボクの魂を転写してある。

 こいつを使えば、君はボクと同じになれるんだ。

 ムルシの勇者の体を堪能するだけでもいいけど、

 君が望むなら、ボクのところにきて弟にならないか?』




(弟って……どういうことなの?)

真美は座り込んだまま、ガラスに映る自分の姿を見つめていた。

「………」

本来なら元の姿へ戻る変身が始まるはず……

「あ、あれっ!?」

真美はようやく事態の異変に気付いた。

一向に始まらない元の自分への変身。

そして、砕け散ったウルカ。

(ま、まさか……変身が解けなくなったの!?)

ドクン

ドクン

真美は慌てて立ち上がり、姿見に入った。

背が高く、逞しいコエの裸体がそこに映っている。

しかし、元の自分に戻ろうとしている雰囲気は全くなかった。

「……元に戻らない

 ……ってことはないよね」

自分で聞いていても不気味な自分の声で真美は鏡の中のコエに向かって呟いた。

『・・・・・・』

すると、鏡の中からムルシの言葉が聞こえてくる。

「えっ!?」

驚いて戦慄する真美の前で自分の姿のはずのコエが勝手に動き始めた。

『やあ、真美。

 どうだい、ボクの肉体は?』

『まさか、コエなのか?』

真美は魂に注入させられたムルシの音とリズムを操って

ムルシの言葉をその口から発していた。

『ふふ、うまいじゃないか。

 真美にちゃんとムルシの言霊がうつったようだね』

『そ、そんな……

 ボク、ムルシの言を喋っているのか?』

真美は、すっかりムルシの少年らしい喋り方をしていた。

『そうだよ。

 身も心もムルシになりたいんだろう?

 あと少しで真美は本物のムルシになれるんだ』

『や、やめてくれよ。

 ボクは真美に戻りたいんだ。

 元に戻してくれよ』

真美は困惑しながらも、ムルシらしい言葉でコエに反論していた。

『駄目だ。

 ボクには君が必要なんだ。

 ムルシに生まれ変わった君がね』

『なんで?

 どうしてボクがコエに必要なんだ?』

『ふふ、知りたいかい?

 ボクはムルシの呪術師の息子なんだけど

 呪術を受け継ぐには必ず二人の後継者がいるんだ。

 だけど、ボクには双子の兄弟がいない。

 しかも父は怪我で子供を作れなくなってしまった。

 とはいっても、他のムルシの子供を呪術師にはできない。

 だから、ボクは君を見たときから

 君をボクの片割れにしようと思ったんだ』

『片割れって……

 ボクにコエの双子の弟になれっていうのかい?』

真美はムルシの少年らしく手を上げて抗議する。

『そうだよ。

 それに真美だってボクになるのが楽しいんだろ?

 君の頭の中は十分にムルシとしてに染っているじゃないか。

 もう元には戻せないよ』

『何だって!?』

『だって、今の君は呪術を掛けられる前の君とは違うだろう?

 ムルシの勇者になる肉体でその証まで立ててしまってる。

 証を立てた以上、君はムルシの勇者として生きるべきだよ』

『そ、そんな……

 困るよ』

真美はコエと全く同じ顔で困惑していた。

『そう……

 君には余計な記憶は必要ないんだ。

 ムルシの勇者、ムルシの部族に必要な呪術さえ覚えればいい。

 君はボクの弟になるのだから』

『や、やめてくれよ。

 ボクは君の弟になんかならない』

『ふふ……そんなに君は真美のままでいたいのかい?

 別に一気に奪い去ってもよかったけど

 それなら少しずつ君をボクの弟に染めてやろうか?』

『い、いやだっ!

 ボクは真美だ。

 真美のままでいたいんだ』

真美は必死に拒む。

しかし、コエは余裕の表情で鏡に近づく。

『なら、こっちにきて確かめてみるか?』

『えっ!?』

コエの腕が鏡の中から抜け出て、

真美の漆黒の腕を掴んだ瞬間…

真美の世界が暗転した。



あの瞬間、真美は世界の反対側のムルシ族の村に連れて来られていた。

コエの姿となった真美は、コエの弟としてムルシ族の村に戻っていたのだ。

そして、真美には新しいウルカが与えられ

それを付けてから既に五ヶ月が過ぎていた。

「はぁはぁはぁ……

 あたし、どうなっちゃうんだろう……」

夜、真美は一人簡易に建てられた小屋から抜け出して夜空を見上げていた。

ブラジャーやショーツ、ブラウスやスカートを着ていたかつての自分。

しかし、いまの自分が身に付けることが許されているのはこのウルカのみ。

それなのに、真美はそれが当たり前のように感じ始めていた。

「あたし……

 このまま、ムルシ族として生きなきゃいけないの……」

真美はこうして真美としての自分を保っていないと

ムルシ族に溶け込んでしまいそうな気がして怖かったが

でも、実際真美はムルシ族の生活には馴染んでいた。

唯一、真美としての思い出と自覚だけが真美さらしめているに過ぎないが、

その一方で真美は自分がムルシらしくなっていくことに興奮もしているのだった。

「はぁっ、

 はぁっ、
 
 はぁっ!」

真美は呪術によって生やされたコエと同じペニスを扱いている。

そうやって慰めていないと真美の性欲は爆発しそうだった。

(はあ……六ヶ月前……

 あたし、旅行でここにきていたのに……

 まさか、あたしがそのムルシ族になってしまうなんて……

 うっ、気持ちいい。

 いけないのに……

 ムルシの男に飲み込まれちゃいそう……)

自分があのときに会ったコエという少年と全く同じ姿になり

このアフリカの大地でオナニーしているというのはなぜか真美の興奮を刺激する。

シュッ

シュッ

(ああ、あのときのあたしが……

 今のあたしを見たら……なんて思うんだろう……

 で、でも……止められない。

 止められないのよ、だって……気持ちいいんだもんっ!!

 ああ、この感覚ぅ。

 ムルシ族の男って、こんなにいいものなのぉっ)

真美は羞恥心と性欲という本能の間で興奮していく。

ムルシの言葉を話し、

立って小便をし、

当たり前のようにウルカをつけ、

水浴びすることすら煩わしくなってきた自分。

真美は自分の性格が徐々に変質していくのを実感していた。

(真美だった…あたしが……

 だんだんムルシの男の子になっちゃってるんだ……

 そして、いつかあたし…女と)

真美はそう思いながら

ブチュウッ

ビュッ

ビュッ

アフリカの大地にムルシ族の男の精液を盛大に解き放った。



(はぁ……

 なんでいきなり冷静さがなくなるんだろう……
 
 あたし…だんだん性格も大雑把になってきてるし……

 このままじゃ、ホントに元に戻れなくなるかも…

 だ、駄目よっ、絶対あたし、元の生活に戻るんだから……

 なんとか頑張らないと)

真美は性欲を諌め落ち着くと土の床に寝転びながら焚き火を見つめていた。

とはいえ、

真美はムルシになっていく自分に性感を感じてしまうほど

倒錯したオナニーに嵌まり込んでしまっていることも自覚している。

(あたし、まさか……ムルシになりたいのかな?)

そう思いながらも真美は寝入ってしまった。



その夢は唐突だった。

真美が気が付いたとき

自分のペニスが熱く柔らかいものにギュッと締め付けられていたのだ。

パンパンパン

自分が何かに肉棒を突っ込み必死に腰を突き上げる。

柔らかい二つの塊が太腿に当たるのも気持ちいい。

「はあはあはあ……な、何?」

真美が覚醒したとき、真美は自分……

そう女の子の自分を犯していた。

「え!?……」

真美は驚きのあまり、腰を引いてしまう。

しかし、真美がペニスを抜こうとすると

背中を誰かに押さえられた。

『駄目じゃないか、コユ。

 せっかく女とできたっていうのにさ』

『コ、コエ!?』

真美はゾクッとして後ろを見ないようした。

『ふふっ、どうだい、自分とするのは……

 したかったんだろう?

 自分に興奮していたんだもんな、コユは』

『コ、コエ!』

『そろそろコユも覚悟を決めないとな。

 その女の中に真美を吐き出してしまえよ。

 そして、ムルシの男に目覚めるんだ』

『そ、そんな……』

『目の前にいるのはいらなくなったお前そのものだ。

 その中にいらない自分を吐き出してしまえ』

コエはくくくっと笑いながら、真美に言う。

『そんな……』

衝撃的なその言葉に真美はそう呟くが、

しかし、内心興奮を隠せなかった。

(あたしが……あたしを吐き出す。

 あっあたし、
 
 あたしとセックスしてるんだ。

 ・・・っ、してぇ、・・・っ)

真美の中に性交に関するムルシの知識が湧き上がる。

ほのかに甘い匂いのする女の体。

その匂いに真美はたまらなくなっていた。

目の前にいるかつての自分が見たこともない綺麗な女に見える。

ムルシの女にはない魅力。

白い肌に、綺麗なプロポーションの体。

形の良い胸。

どれをとっても申し分ない。

「はぁ

 はぁ
 
 はぁ……」

真美はムルシの男として興奮するのを押さえられなかった。

いまの真美はコエと同じ性癖になっている。

つまり、真美はコエが自分と会ったときに感じた衝動を元の自分に抱いてのであった。

『ふふっ、いいねぇ』

コエの言葉も真美の耳には届かず真美は舌なめずりをすると、

ペロッ!!

っと目の前のかつての自分の体を舐めた。

清潔でいい匂いのする女。

「ああ、これがあたしの体……

 いい、たまんないっ!!」

真美はコエと同じムルシ族の男として元の自分に飛び掛る。

「やんっ」

元の自分の上げる甘い声もまた真美を男として興奮させていた。

「はぁっ、

 はぁっ、
 
 はぁっ」

ぶちゅっ

と同時に尽き込まれるペニス。

本来の真美のアソコから汁を飛ばして中にめり込んでいく。

自分の雄を包み込んでくる粘膜の感触に

「うっ、くうっ!!」

真美は酔いしれていた。

「ああっ、たまんないっ!!

 気持ちいい」

真美は植え付けられたムルシ族の男の本能に導かれ自然と股を打ちつけ始める。

パン!

パン!

ブチュッ

ブチャッ

ペニスとアソコが擦れ合って愛液と我慢汁が泡立ち出す。

「はぁっ、

 はぁっ、
 
 はぁっ」

真美は未知の経験にのめり込んでいった。

必死に腰を突き上げ元の自分の中に己のペニスを突き入れる。

熱いものに包まれる自分のペニス。

そして、元の自分を今の自分の性器で貫いている自分。

真美は既に倒錯しきった性感に興奮しきっていた。

(これで証をたてれば……

 あたしは……ムルシになっちゃう……

 あたし、真美の自分を吐き出しちゃう……

 ああ、駄目っ……

 駄目なのに、止められないよぉ)

グチュッ

グチュッ

二人の結合部はいやらしい音を立て始める。

いつもよりも早く訪れようとする絶頂。

真美は必死に堪えながら元の自分を味わい、

そして元の自分を失おうとする自分に興奮していた。

(ああ、ボクは……コユになってしまう…

 真美の中で証を立ててしまったら……

 ボクは……ボクは真美でないことを認めてしまうんだ……

 ああ、でも……

 コエはボクを見ながらこんな風に感じてたのか……

 分かる……分かるよ。

 なんていい女なんだ。

 たまんない。

 気持ちいい……)

真美の頭の中では何時の間にかムルシのリズムに切り替わっていた。

そして…

現実では真美のつけている呪術の掛かった新しいウルカが寝ている真美の股間で光っていた。

『さぁ、出してしまえ。

 コユッ!!!

 真美としての自分をかつての自分の肉体に吐き出してしまうんだ』

コエの声が聞こえる。

『うっ、くぅっ!!』

真美は自分の喘ぎ声を聞きながら、男としての絶頂が近づいていた。

(駄目……

 このままじゃ、あたしがあたしでなくなっちゃう。

 出したら駄目……

 でも、この感じ……気持ちいい)

真美の中で元からの魂と注入されたムルシの魂が交じり合い鬩ぎあう。

(ボクがコエになっちゃう。

 ああ、たまらないっ!!

 コエの記憶が入ってくる……

 コエの……

 コエの記憶が……

 ボクの記憶が……)

女の自分を犯し、

そして、ムルシ族に侵されていく自分を感じながら真美は叫び声を上げると、

ついに魂の均衡が一気に崩れ落ちた。

ムルシ族の勇者・コユへと変貌していく真美が

『うぉぉぉぉぉ!!』

勇者の雄叫びを上げながら激しく射精をすると、

吹き上げる熱いマグマを目の前の自分の胎内へと注ぎ込んだ。

『くはぁ

 あぁ…』

腰を細かく痙攣させながらコユとなった真美はその余韻に浸っていると、

『おめでとう、コユ…

 君は正真正銘のムルシの勇者になれたんだ』

と言うコエの声が響き渡った。

『あっあぁ

 ボク…は…
 
 ムルシの勇者?』

その声にコユは聞き返すと、

『そうだよ、

 さぁ、起きよう、
 
 ムルシの勇者になったコユ、
 
 君の新しい門出だ…』

コエのその言葉に送られるようにしてコユは目を覚ますと、

『うっ』

頭を抱えながら起きあがった。

そして、股間で光っているウルカを見つめると、

そっとウルカに手を寄せそれを包み込むと、

ギュッ!!

とウルカを握りしめ、

『ボクは…

 ムルシの勇者なんだ…』

そう呟くと、立ち上がろうとした。

ところが、

『うっあぁ!!』

突然、コユは頭を抱えながらその場に蹲ってしまうと、

「だっだめよ!!

 違う、
 
 違う、
 
 こんなの違うよぉ」

とコユはムルシ訛り日本語で叫び声を上げた。

すると、

『どうした、コユっ』

コユが上げた叫び声に表にいたコエが小屋に飛び込んでくると、

「かっ返して、

 あたしの体を返して…」

とコエに突っかかった。

『なに?』

コユの変貌にコエは驚くと、

「あたし…

 あなたの思い通りにならない。
 
 あたしは…
 
 あたしは…コユなんかじゃないっ
 
 まっ真美よ、
 
 女の子の真美よっ
 
 返して、
 
 あたしの体を返して、
 
 こんな、裸の体なんていらないよぉ」

と訴えた。

『お前…

 完全に術が効いたのではないのか』

真美に戻ったコユの訴えにコエは睨み付けながらそう呟くと、

『ならば、もぅ一度術を掛けるまで!!!』

と叫んだ。

すると、

「そんな、コトさせない!!」

コユ、いや真美は実力で術を掛けようとするコエに飛びかかると、

二人でもみ合いになってしまった。

『手を離せ!!』

「いやっ」

『大人しくムルシになれ!!』

「だれが!!」

『くそっ』

同じ肉体を持つ二人はもみ合いながらも、

『ちっ・・・・・』

コエは呪文を唱え始めた。

すると、

「あっ・・・・・」

それを聞いた真美も同じ呪文をコエに向かって唱え始める。

『バカッ

 それは!!』

真美の口から漏れてきた呪文にコエが驚くと、

「お返しよ!!」

と真美は言い返す。

『止めろ!!』

「あなたが止めたらね」

『うっ!!』

真美の言葉にコエは呪文を詠唱するのを止めるが、

しかし、真美の口は止まらなかった。

そう、真美の頭にはコエから注ぎ込まれた記憶の中に呪文も入っていて、

真美は完全に詠唱できるようになっていたのであった。

『お前…!!』

なおも呪文を詠唱する真美にコエが慌てて呪文を詠唱し始めるが

しかし、真美の方が一足早く

「あたしを…

 あたしを…元に戻してよぉ!!」

そう叫びながら真美は呪文を詠唱しきってしまうと、

カッ!!

真美の周囲が一瞬に光り輝いた。



「行ってきまーす…」

「気を付けていくのよ」

母親の声に送られて真美が玄関から出て行くと、

サァ…

朝の爽やかな風が真美の髪を撫でるように吹き抜けていった。

「ふふん…」

そんな風の中を真美は歩いていくと、

『おいっ!』

真美の頭の中にコエの声が響き渡る。

「なによ…」

その声に真美は言い返すと、

『判っているだろうなっ

 今度月が満ちたとき、
 
 この体は俺のになるからな…』

とコエは真美に言う。

「判っているわよっ

 でも、それまではあたしのモノよ」

『判っているよっ

 クソっ
 
 こんなコトになるなんて』

「なによっ

 迷惑はこっちもよっ
 
 とんだとばっちりだわ」

むくれるコエに真美はそう言い返すと、

『なんだよっ

 あのときお前が俺に術を掛けなければこんなコトにならなかったんだぞ』

とコエは反論をした。

「何言っているのよっ

 あぁしなければあたしはムルシ族のコユにされていたわ、
 
 そもそもはコエ、あなたがしたことでしょう?」

『ちっ

 くそぉ…上手く行くと思ったのに…』

真美の指摘にコエが悔しそうに呟く、

そう、あのとき、お互いに術を掛け合った結果、

コエと真美二人の体は融合・合体をしてしまい。

月の半分はムルシ族の勇者・コエ、

そしてもぅ半分は真美としての生活を送るようになっていた。



「あーぁ、

 あのときにあなたからウルカを貰わなければ良かったわ…」

空を見上げながら真美はぼやいた。



おわり



この作品はバオバブさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。