風祭文庫・モランの館






「魂の行方」
(第2話:ウェツィの罠)


原作・バオバブ(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-054





「***っ!!

 でっ出ちゃう!!」

ダレッサ族の言葉と日本語を交えながら千紗がそう叫び声をあげた後、

ブチュチュチュ

千紗の固く勃起した漆黒のペニスから艶かしい音と共に白い精液が吹き上がった。

そして、その盛大な噴射に女は喜び千紗のペニスを舐め始めた。

「そんな…やだ…

 ひゃん!!」

千紗は目を瞑ったまま初めての体験に耐えるが、

しかし、彼女の重いとは裏腹に精液を垂らすペニスを女は舐め上げる。

すると、千紗のペニスは再び勃起し始めていた。

そして、萎えたそれはあっという間に力強さを取り戻していく。

「こんなことって…」

千紗はウェツィの顔で陶酔したような表情を浮かべていた。

女は更に喜び自らその股間を千紗の顔に乗せた

「んぷっ!」

千紗の声が聞こえる。

千紗と女は69の体勢のまま愛撫を始める。

最初は一方的に女にやられていた千紗だったが

目の前に迫る女の秘所に我慢できなくなったように舐め始めた。

「おい…」

俺は愕然として膝を落とす。

千紗はどこか酒にでも酔ったような顔をしていた。

もしかすると既に男として欲情しているのかもしれない

俺はそんな予感がした。

『プチャペチャ』

卑猥な音が周囲に響く。

俺は耳を塞いだ。

最初は控えめだった千紗が次第に激しく女の秘所に顔を埋めだした。

女の秘所に舌を這わせているのが分かる。

信じられない

信じたくない

だが

千紗は女に食いついていた。

初めてウェツィとして、

ダレッサの男として初体験できそうな感じに飲み込まれているのだ。

そう感じた。

千紗とて困惑や嫌悪はあると思う。

でも、

肉欲というか性欲の疼きが最高潮になっているときに女が現れたのだ。

止めようにも止められなくなっているのだろう。

俺だって男だから分からないわけじゃない。

しかし、

信じたくなかった。

『*********』

女は何かを言うと千紗から離れ股を広げて横になる。

そしてその横にはペニスをビキビキに勃起させ、

当に襲い掛かろうとしている千紗の姿があった。

『はぁはぁはぁ…

 ****』

千紗は女に何か告げると、

ゆっくりと膝を付き勃起しきったペニスをそっと女の秘所に近づけていく。

初めての経験だろうからちょっと躊躇したようだが

確信したように顔を締めると腰を沈めだした。

『あぁっ!!

 ********〜!』

千紗は何かいいながら耐えるような顔つきで腰を落とした。

「そんな…」

愕然とする俺の前で女とセックスをはじめた千紗。

千紗はウェツィの肉体で男としてダレッサの男性としてダレッサの女性と交わっているのだ。

こんな馬鹿なことが…

俺は心臓を打ち抜かれたような気分だったが眺めていくうちに変な感覚に取り付かれた。

なぜって

見た目にはただダレッサの漆黒の肌を持つ逞しい青年が、

同じように漆黒の肌を持つダレッサの女性と交わっているに過ぎない。

だから、何を見ているのか自分でもわからなくなってきたのだ。

千紗がセックスしているのを見ていたくなかったからかもしれない。

しかし

錯覚というか

なんというか

ただダレッサの男と女が交わっているだけの光景に過ぎないじゃないか?

という思いが俺の中に湧いてくる。

『******っ!!

 ***』

千紗は女を貫く喜びを表現しているのか何か喋った。

本当にダレッサの男が初体験に悶えているようにしか見えない。

しかし

そのとき何か違った。

『肉欲に溺れおったな、小娘。

 すっかりウェツィの体に馴染みおって

 ハハハハハ…』

女は俺にもわかる言葉で喋っていた。

『****…

 ど、**

 どういうこと?』

『久しいな。

 元に戻れなくなったことを受け入れたのか?

 全く、肉欲にはまってしまうとは…

 禁呪も面白いものだ。

 昔は絶望して死んだものもおったことはおったのだがな…』

『あなた…

 まさか…

 あの祈祷師?』

『そうだ。

 今ごろ気付いたか?

 交わってしまってから』

女はニヤニヤしてそういうと千紗と女の結合部を指差す。

『どうやらウェツィの記憶も蘇りだしているようだな、

 ウェツィよ』

『何を言っているの?』

呆然とする千紗を前に

『ふふ、

 先ほどは見事なダレッサの言葉聞かせてもらった。

 すっかりダレッサの言葉を喋れているではないか?』

『それが…

 まさか、ウェツィって人の記憶と関係しているの?』

怖くなったような表情で千紗は尋ねる。

『何をいう

 お前がウェツィだ。

 ウェツィの記憶を取り戻すのは当然なことだ。

 そう思わないか、ウェツィ?』

『そんな…』

『ふふ

 わしもな、他人の体を手に入れるだけでは困るのだよ。

 見た目はそやつ自身になりきらねばならぬからな。

 だから相手の記憶は残して、

 そやつの魂のみを以前の体に転移させる。

 お前のここにも

 ちゃんとウェツィの記憶は残っておる。

 お前がウェツィとして生きていけるのに十分なほどにな。

 本来のウェツィの魂が生を受けてから

 私に体を乗っ取られるまで生きた

 その記憶はすべてお前のここにある』

女は、

千紗の…縮れた髪の毛に薄く覆われた頭皮を撫でながらいった。

『まさか…』

『事実だ。

 そして、お前は何気なくその記憶を読み込みだしておる。

 次第にお前の中に流れ込むウェツィ自身の記憶は増えよう。

 わしは他人の記憶など自由に操れる術をもっておるから

 他人になりきってしまうことはない。

 だが、お前はどうじゃろうな。

 他人の記憶を操る術など知るまいて

 ふふ

 それ以前にその記憶はお前さん自身のじゃったな

 忘れていた記憶は取り戻すのは

 いいことじゃないか?』

女はおかしそうな笑い出した。

『じゃあ…

 あたし、ウェツィの記憶を…

 このままじゃ

 あたし

 どうなっちゃうの?』

女の上に乗った千紗は震えだした。

『ふふ

 安心せい。

 ただ、ウェツィに戻るだけじゃ。

 このダレッサに生を受け生きてきたウェツィ自身に

 お前にとってもその方がよかろうて。

 お前の両親も喜ぼうぞ』

『そんな…』

千紗は力が抜けたように女の上で崩れ落ちた。

『ふふ

 これがあの女とはな。

 なかなか楽しませてもらったぞ。

 お前が自ら勇者の証をたて

 少しずつ勇者に馴染んでいく様

 こんなに面白いものを見させてもらったのは

 二十年ぶりじゃ。

 禁呪もなかなか面白い使い方があるものじゃな。

 さて

 そんなにびくびくしてもらったのじゃ

 わしが楽しめん。

 一気にウェツィの記憶を取り戻させてやろか?』

『い、イヤッ!!

 それだけは許して!!』

千紗はガバッと起き上がると女にしがみついた。

『ふふ

 猶予が欲しいというのか?

 ならば

 お前がわしの中に精を出すまではそのままでいさせてやろう。

 だが

 お前がウェツィの肉体でその快楽を味わっている以上

 お前の不抜けた魂にはウェツィの記憶は流れ込み続ける。

 どれだけお前の魂がウェツィに染まっていくか見ものじゃな』

女は千紗を突き上げて上半身を起こさせながら悪魔のようにいった。

『さぁ、ウェツィ。

 本来の記憶を取り戻すのじゃ』

『駄目。

 お願い…

 あたしをあたしに戻して!!

 そのために

 あたし

 狩りの間もずっとあなたを探してきたのよ!!

 どうして、どうして

 あたしの体はどこにいっちゃったの?』

『はは

 お前さんの体か。

 あの体は今、眠らせておる。

 この女の魂が入っておるんだがな。

 お前さんを監視するためにこの女は体を奪われたのじゃ。

 お前は、素直にウェツィに目覚めるがよい』

『イヤよ!!

 あたしは、あたしに戻るの!!

 お願い、体を元に戻して!!』

男の声で気持ち悪いくらい女言葉で女に迫るウェツィ。

『それは無理じゃ。

 お前の魂はウェツィの肉体にしっかりと結び付けられた。

 お前の魂はウェツィの魂。

 たとえ、本来のものでないにせよ

 体はお前の魂こそがウェツィだと感じておる。

 決して離しはせん。

 それがお前さんにかけた禁呪だ。

 お前の魂はもはやどんな呪術をかけようとウェツィの体から離れる事はない。

 だから

 ウェツィの記憶を取り戻すことこそお前に残された選択肢なのじゃ』

『そんな!!

 そんな!!』

千紗は泣き喚いた。

『さぁ、

 初めての勇者としての交わりを感じながら

 生まれ変わるがよい。

 ウェツィの記憶の中で

 お前は生まれ変わる。

 ウェツィの生い立ちを見

 お前はダレッサのウェツィになるのじゃ。

 その快楽を我慢できれば

 お前さんの記憶を残すことはできる

 しかし

 お前さんの記憶を自分の記憶とみなすことはもはやできないじゃろう

 なぜなら

 お前はウェツィ自身じゃからな』

今まで他人の体を取替え取替え

行き続けてきた祈祷師

その多数の人間の記憶ゆえなのか

祈祷師の声には多くの人の声が重なっているように感じる

そして

千紗は

ウェツィ

千紗

という二人の人間の狭間でひとつになってしまうのだろうか?

ただウェツィに目覚め千紗のことは忘れてしまうのだろうか…

俺はもう言葉すら発せなかった

『そこで聞いておる、若造よ』

女の声が俺の方に飛んでくる

まさか…

最初からばれていたのだろうか?

不安

恐怖

を感じながら

ブッシュから顔を上げる。

『ふむ…

 お前、

 わしがなぜお前に分かるように言葉を変えたか分かるか?』

「……」

呆然としたまま重なっている二人を見つめるだけの俺。

『お主にも聞いて欲しかったからじゃよ。

 まあ

 ダレッサの言葉で話し続けるわしとこやつの会話に

 絶望させてやってもよかったのじゃがな』

女は高笑いして片手で頭を押さえた。

『まあ、いずれにしろ

 こやつはな

 わしとの交わりの最後には

 ウェツィの記憶を完全に取り戻す

 快感なんじゃぞ
 
 他人に染まっていくのはな

 こやつは以前のこやつではなくなる

 まさに

 この体に相応しい魂へと変わるのじゃ

 まあ

 この体からこやつの魂が出ることはない

 ウェツィの記憶を取り戻すことの方がこやつのためじゃ

 ふはははははっ』

「裕也…

 知ってたの…

 あたしのやってたこと」

女の笑い声のそばで俺と同じように

呆然とするウェツィ…いや、千紗がいた。

「ごめん」

「もしかして…

 夜に…

 オナニーしにきてたの、知ったの?」

「ああ…」

「そう…だったんだ。

 馬鹿みたいだね、あたし。

 裕也に気を使って

 隠れてオナニーしてたのに」

千紗は自虐的に笑った。

「あたし、裕也には見せたくなかったのにな…

 まさか

 見られてたなんて…」

「ごめん」

「ううん、あたしの方こそ。

 隠しててごめん。

 騙すようなつもりはなかったんだけど…

 まさかこんなことになっちゃうとはね」

「千紗…

 まさかとは思うけど

 ウェツィになっちゃうとか…

 いわないよな?」

俺は俯きながら尋ねる

「わかんない」

「そんな…」

「あたしだって、

 なりたくなんてない!!

 でも

 頭の中が

 確かに変わってきちゃってるだもの

 どうなっちゃうかなんて分かんないよ!!」

千紗はウェツィの体で泣き崩れた。

漆黒の肌。

彫りの深い顔。

飛び出した目元、唇。

逞しい筋肉。

細長い手足。

風呂に入らないがゆえにはっきりと漂う体臭。

その肉体にいま千紗はいる。

ただ、千紗の仕草はウェツィのそれに全然つりあうものではなかった。

『ふふ

 どうもその口調は気持ち悪いの

 お前、ダレッサの言葉で喋れ!!』

「あ…う

 やめてぇ!!」

女はせせら笑うと

人差し指を

千紗の眉間に突き刺した。

『********』

何かの低い詠唱が聞こえた後

パーンッ!

と破裂したような音がして

『はぅ!!』

千紗は目をつぶり頭を両手で抱え込んだ

『あ、あ、あ、あ…

 あ、あたまが…**い

 イヤッ!!

 何、こ…れ***?

 あ、た、し…****

 こ、*****ッ!!

 *****!!』

千紗の言葉がダレッサのものに置き換わっていく。

日本語が喋れなくなっていくのは実感できるのか

千紗は低いウェツィの声でダレッサの言葉で泣き叫んだ。

『*****…

 ゆうや、****!?』

俺の名前を呼んでいるのは分かる。

しかし

その俺の名前のアクセントすらおかしい

日本語の単語をもはや日本人のように喋ることは叶わないのだろう。

『ゆうや』と呼んだくれた

千紗の言葉は既にダレッサのものだった。

千紗の頭の中はもうダレッサの言葉に置き換わってしまった

そう感じて俺は崩れ落ちる。

膝をついた俺の前で女はいった。

『ふふ

 こやつ、

 ダレッサの言葉しか話せなくなったことは自覚しておるようじゃな。

 もはや

 こやつの頭の中にはダレッサの言葉しかない。

 記憶はあってもうまく話せることはない。

 なぜなら

 こやつはもとよりダレッサの勇者じゃからな

 ふははははは』

「そんな…」

俺は枯草に覆われた地面を見つめた。

『さて、

 こやつにウェツィの記憶を取り戻させるのを

 じっくりと解説してやろうぞ』

女はそういうと腰を動かしだした。

『***?

 *****っ!!』

千紗が何かいってる。

だが、ダレッサの言葉で何を言ってるか分からない。

というか、俺の目には

もはやウェツィというダレッサの男が

この女の上で悶えているようにしか見えなかった。

『ああ、やめろ。

 わしが変わっていくぅ』

女がウェツィの代弁をするかのように喘ぐ。

『****、*******

 **…

 ****!』

『やめろ、このままじゃ…

 なんだ…

 この感じ!』

千紗のダレッサの言葉を訳すように

女が叫ぶ

いや

本当に訳しているのだ

ただ、男言葉、女言葉の差がダレッサにあるのか分からないが…

男言葉で訳されているのから変な感じなのだ

そうか

だから祈祷師は気持ち悪いと…

千紗にダレッサの言葉で話させるようにしたのか…

呆然としつつも冷静な分析をしている俺。

さめているのか?

この状況で千紗をウェツィに目覚めさせようとしている奴を前にして?

俺は動けないまま二人の情事を見ていた。

『*****』

『*!*!』

喘ぐ女。

唸る男。

どう見ても

ダレッサ族の男と女の交わり

俺は千紗を助けたいはずなのに、

なぜ平然と見ていられるのか不思議だった。

『*…**

 ****、******* ***』

『ああ…わし

 わしの中で

 何かが熱くなっていく…』

千紗は相変わらずダレッサの言葉でうめき

それを女が喘ぎながら訳していく

女の声だから余計におかしい

『**、**!!

 *** ***** *******』

『やめろ、やめて

 このままじゃ

 わし…あたし変わっちゃう

 なんか変なのぉ』

なんだ?

女の言葉遣いが変わりだす

なんだ?

まるで千紗みたいな…

どうなってるんだ?

『***:

 ******* *****』

『いやっ!

 あたしの中の思い出が

 か、

 変わっていっちゃう』

女の言葉遣いが…

千紗のものに変わっていく

どういうことだ?

俺は余計に混乱した。

『****

 **** **** ********』

『あたしの中に…

 ウェツィの記憶が

 は、入ってきちゃう…

 こんなの知らないはずなのに!』

『** **!!

 ** **** **** *****』

『やめて、やめて!!

 あたし、おかしくなっちゃう

 おかしくなっちゃうよ

 まるで…

 なんか』

『* **** **** **:』

『あたしが…ウェツィだったみたいに…

 いや、なんでぇ!!』

そうか

祈祷師は千紗になっていたときの記憶から千紗の言葉遣いで喋りだしたのだ

わざと俺をいたぶるために…

『**!

 **!

 **** ******』

『ああっ!

 ああっ!

 あたしが…最初からウェツィだったみたいな気分になっちゃう…』

『**!

 ****!

 **********』

『やめて!!

 お願いっ!!

 あたしが変わっちゃうよ。

 頭の中が変わっちゃう!!』

『*****

 ********』

『ああ、あたしが…

 昔からウェツィだったみたいな…気分

 ああ、あたし…どっちの自分が

 あたしのなの…』

『***

 *******』

『あたし、溶けちゃう。

 あたし、ウェツィ。

 あたしがウェツィ。

 ああ…気持ちいい。

 どうでもよくなってくる。

 オレ ガ ウェツィ

 オレ ハ ウェツィ

 アア、モウイイ

 コノママ

 アタテ

 オレ ハ

 ウェツィダァァァ』

ほとんどシンクロするように千紗と女は同時に喋っていた。

女の口調が変わっていく

千紗がウェツィに染まっていくのを表現するように

そして

『アタシガ

 チサ ジャナクナルゥ

 アタ 

 ア オレハ

 ウェツィ

 ナンテ キモチ ダ

 サイコウダ

 ウマレカワル

 オレ ガ

 オレ ハ

 ウェツィ!!』

二人がそう叫んだ瞬間

千紗は…いや、ウェツィは女の中に自分の精液を吐き出したのだった…



つづく



この作品はバオバブさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。