風祭文庫・モランの館






「ディンガの槍」
(第4話:槍の主)


原作・バオバブ(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-144





「香織っ…」

部屋の中からもれる息遣いに僕が慌てて飛び込むと

「はぁはぁはぁっ!

 うぉうぉうぉうぉぉぉぉ!」

なんとヌンガの声音のまま唸る香織は左手で自らの胸を握り締め、

右手でスカートから覗くディンガのペニスを扱き、

鏡に向かってオナニーをしていたのだ。

そして、

間もなくスカートの隙間から顔を出す逞しい漆黒のペニスは

ブシュシュシュッシュッ!

と激しく射精し、

女の…香織に戻った容姿の映る鏡に激しく精液が吹きかけられていく、

『はぁはぁはぁ…

 あぁ…なんていい女なんだ…

 興奮しちまうぜ。

 たまらね〜』

香織はディンガの言葉でそう呟くと

男のオナニーの余韻に浸っていた。

「香織っ!」

その姿に僕はたまらず叫ぶと、

「へ…

 あ…

 隆弘、く、ん…

 こ、これはその…」

ようやく日本語に戻った彼女は、

ペニスを隠すようにスカート戻すと

平静を取り戻したかのように見えた。

だが…

「あた、し…

 いよいよ、

 ヌンガになってきちゃったみたい…なの。

 あ、頭の中が…

 ディンガなの…

 日本、語だって、変なの…

 し、思考がさ、

 ディンガ族になってきてるのよ…

 今だって

 あ、あたし…

 自分のこと、いい女だって興奮、して、たの。

 ほんと…よ。

 あた、し…だって香織に、戻りたい、って、思てた。

 でも、

 次第にそんな気持ち、なくなてきたの…

 怖い…

 でも、勇者になていく自分に興奮してまう…

 だから、その…

 あたし…

 呪術師がいてた。

 あた、し…

 もう元の姿に戻れないって。

 でも、あたし、興奮、し…たた。

 香織としての、気持ち裏切るよに

 あたし、女の子たちと交わってた。

 女じゃなくなってくあたしに恍惚となてたのよ。

 あたし…

 ああぁ、何いっんの?」

香織はぶるぶると震えながら

その場にしゃがみ込むと両手で頭を押さえていた。

そして、再び顔を上げると、

「あ…

 えっと…

 ほら見てよ、あたし。

 あたしの心、ディンガ族の勇者になっていってるから…

 もう女の子には戻れないの…

 頭ん中、

 もうヌンガになり切ってきてるの。

 そして、

 今も自分の女だった姿に興奮して…ね。

 思わずあたしの精を注ぎ込みたいて思てたの…

 最低…

 最低だよね、あたし。

 もう、二ヶ月前のあたしなんていない。

 いないんだよ。

 あたし、男に目覚めちゃたみたいで

 もうこの姿になても…なな、なっても

 女の子には戻れないの。

 だから、

 ほら、ここは勇者のオチンチンが…」

香織は自分の心の内を告白しながらそっとスカートを捲り上げると

股間に備わった漆黒のディンガの勇者の性器を見せた。

もはや、股間の周囲は元に戻れないらしく

下腹部すらも黒い肌を見せ

香織に掛かった呪いが体に染み付いてしまっていることを感じさせた。

いや、

それどころか呪いのためというより

体そのものがディンガになりつつある。

そんな気がした。

多分、元の…香織の心は消えつつあるのだ。



「香織…」

「あ、駄目、こないで。

 今、あたし、興奮してる。

 こんなに色が白くて

 つるつるな肌で

 形のいい胸を見て欲情してるの。

 鏡に映してると

 まるで目の前に理想の女がいるみたいで

 あたし、

 男の精を吐き出したくてたまらない。

 今、これが自分についているなんて

 この胸が元々からあったものなんて

 信じられない。

 あたし、

 もうヌンガだから…

 あたし、

 香織じゃなくなてくるから…」

そういった途端

香織のペニスはビクンと揺れた。

「あっ、ああ…

 また。

 興奮してきちゃた」

シュシュ

シュシュッ

そう言いながら香織はごく当然のようにペニスを握り締めると

聳え立つ逞しいそれを扱き始めた。

すると

『どうだ、若造?

 立派なもんだろう?

 ふた月でこやつはここまで勇者になりきったのだ。

 もう複数の女に子供も孕ませておるぞ。

 もはや、村の勇者の一人として立派になりおった』

と満足げなあの悪霊の声が聞こえる。

「てめぇ、香織を元に戻せ!

 この悪霊!!」

『ふふ、誰が悪霊といった。

 まあ、お前からするとそうかもしれんが、

 わたはディンガから復活を望まれていた勇者よ。

 そして、こやつもその勇者になることに喜びを感じておる』

「こやつって…

 香織が!?」

『そうだ。

 頭の中も勇者ヌンガとしての記憶が蘇り、

 日に日に勇者へと近づいておる。

 次にもし会えるとすれば、

 こやつは勇者としての自分に目覚め、

 恐らくお前と会話することすらできなくなっておろう』

「そんな…」

『さぁ、

 どうせなら、この若造に勇者にしてもらったらどうだ?

 ヌンガよ』

突然悪霊の声が香織に向けられた。

「え…

 たっ隆弘君に…?」

『そうだ。

 それならお前も本望だろう?

 自ら勇者になりきってしまうより

 この若造にそのきっかけを作ってもらう方がな』

「でも…

 あたし、

 こんな体だし…」

「い、いいのかよっ!?

 香織!!

 お前、ヌンガなんていうディンガ族の男になりきってしまっていいのか?」

「だって…

 あたし、子供作てるの…よ。

 生まれてくる子供のために頑張って立派な勇者になりたいし…」

「な、なんだってそんな風に考えるんだよ?

 お前は、香織じゃないかっ!」

『ふははは…

 無駄だというておろうに…

 こやつは、ものの見方さえもディンガになりつつある。

 始めはあんなに嫌がっておったのに、

 今ではそれが当たり前だったかのようにディンガになり切っておるのだぞ』

「くそっ!

 それはお前たちが仕向けたことじゃないかっ?」

『ふん!

 今じゃ、こやつも勇者になることに快感を覚えておるのだ。

 もはや、元の女に戻れようはずもない』

「そんな…」

「やめて、隆弘君。

 あたし

 自分で勇者になりたいて思て…思ってるのよ。

 ほっ本当よ、

 だから…

 隆弘くんの手で…

 できたら

 あたしを忘れさせて欲しいの」

「…香織っ」

「ほら…

 気持ち悪いかもしれないけど

 今のあたしにとっては

 これ、大事な…オチンチンで

 あたし、オチンチンがあるのが当たり前なの

 あたしを気持ちよくして!」

香織は思いつめた表情で僕に告げた。

そして、すっと僕の手を取ると

股間に生えた漆黒のペニスに触れさせる。

「あっ」

僕の手が香織の黒光りするペニスに触れた途端、

ビクン!!

香織のペニスが大きく脈を打った。



「う…

 気持ちいい。

 女だったときに隆弘くんにしてもらったときより…
 
 ずっと…」

自分のペニスを僕に握らせた香織は恍惚とした眼でそうつぶやく。

「香織…お前…」

そのとき僕はなぜだか無性に香織のペニスを扱いてやりたくなった。

何でだか判らない。

ただ、いまの香織にはコレを求めている事が切実に判ったからだと思う。

そして、僕は意を決すると、

シュッシュッ

硬く勃起している香織のペニスをしごき始めた。



「あぁ…やっぱり、隆弘くんが一番。

 あたし…

 色んな女抱いたけど、

 でも、隆弘くんに扱いてもらうと…気持ちいいよ」

僕にペニスを扱かせ、そして腰を突き出した香織は

口をパクパクさせながらそう訴える。

「くそっ!

 香織のバカッ

 香織のスケベッ

 香織の浮気者っ!」

そのときになって僕はようやく気付いた。

そう、香織がディンガとしてディンガの女性を抱き

行為を何度もしていたということ嫉妬していたのだ。

「ああ、いいっ!

 いいっ!

 いいよっ!

 隆弘っ!」

ペニスを扱き続ける僕に向かって

香織は僕の名前を呼び捨てにする中、

僕はひたすらしごき続けた。

すると、

ビキッ!!

ビキビキビキ!!!

と言う音が香織の体から漏れてくると、

メリメリメリ!!

目の前の香織の体がぐんぐんと大きくなり始めた。

「あぁ…いぃ…

 いいよ!!」

香織は悶えながら胸をかきむしり始め、

ビリビリ!!

彼女の手が着ている服を自分から引き裂き始めた。

ジワッ…

そして中から出てきたのは、

筋肉がたくましく盛り上がり、

幾筋もの陰影が浮かび上がったディンガ族ヌンガの肉体だった。

「くそっ!

 くそっ!

 香織〜、

 なんでディンガの女なんかと寝たんだよ〜っ!

 僕なんかどうでもよかったのかよぉ〜!」

ペニスをしごき続けながら僕は怒鳴っていると、

「はぁはぁはぁ…

 だって、

 あたし、ヌンガだ、もん…

 はぁっ!

 はぁっ!

 最初は抵抗あたけど…

 勇者の血があたしを

 あたしを止められなくしたのっ!

 なんか罪悪感が気持ちよかたのっ!

 自分が自分でなくなてくのがっ

 ああっ!

 あぅっ!

 はぁっ!

 はぁっ!

 あたし、

 あたしがっ!

 香織でなくなるぅ〜っ!!」

ビュッ!!!

そう叫ぶと同時に香織は今まで一番激しく射精した。

そして、

バリバリバリ!!

香織の体が大きくはじけると、

逞しい漆黒の肉体が姿を現し

『うおぉぉぉぉぉ!!』

ディンガ族・勇者ヌンガとなった香織は僕の目の前で大きく雄たけびをあげた。

「香織…」

『うぉぉぉぉっ!!』

「香織っ」

『うぉぉぉぉっ!!』

「香織っ!!」

雄たけびをあげ続ける香織に向かって僕は幾度も彼女の名前を呼ぶ、

すると、

『ふふっ

 無駄だ、
 
 もはや、ヌンガとなったこの者にはお前の声は通じぬし、
 
 届かぬ。
 
 さぁ、
 
 勇者となったお前にコレをくれてやろう』

悪霊の声は香織に向かってそう告げると、

シュンッ

黒い肌を晒す香織の前にあの槍が姿を見せる。

「あれは…」

そう、すべての始まりであったその槍を僕は見つめていると、

『ふぅぅ』

『ふぅぅ』

肩を大きく揺らしながら香織は一歩、

また一歩と歩み出ると、

槍へと近づく、

『そうだ、

 その槍こそがお前のすべて、
 
 お前の生きがいだ。
 
 そして、槍を手にしたとき、
 
 お前はその槍一つで生きていく事になる。
 
 それ以外は何も無い。
 
 さぁ、受け取れ!!』

やりに近づいていく香織に向かって悪霊の声はそう告げると、

香織は槍を掴もうとした。

すると、

『うぅ…』

香織はうめき声を上げると、

『たっタカヒロ…』

と苦しそうに頭を抱え僕の名前を呼んだ。

「香織っ

 僕の声が聞こえるのか」

香織のその様子に僕は身を乗り出すと、

『タ・カ・ヒ・ロ

 タ・カ・・・・
 
 ・・・・』

香織は僕の名前を叫び続けるが、

しかしその声は次第に片言となり

ついには意味不明のディンガの言葉に置き換わってしまった。

『ふふっ

 しぶとい奴だ、
 
 だが、もぅしゃべれまい
 
 さっ槍を取れ、
 
 そして、完全なディンガになるのだ
 
 そうすれば…』

悪霊は叫んだとき、

ガチャッ!!

「おぉーぃ、生きているかぁ」

の声と共に槍をここに持ってきた友子が部屋に入ってきた。

そして、

「あんっ

 何をやっているんだ?
 
 あれ?
 
 香織は?
 
 で、あんた誰?」

と事情が飲み込めないらしく、

ディンガとなった香織を物珍しそうに眺めながら、

周囲をキョロキョロと見渡した。

すると、

『何者だ、貴様は!!!』

悪霊の声が響き渡り、

ゴワッ!!

槍より吹き上がったオーラが一気に友子へと襲い掛かった。

「きゃっ!!」

突然のことに友子は悲鳴を上げると、

「こっちっ!!」

思わず飛び出した僕は彼女をかばい、

壁の影へと押し込んだ。

「いっ一体、何があったのよっ

 あの黒人は誰?
 
 それに、あの槍って、確か…」

集中豪雨のような友子の質問攻めに、

「あのなっ

 こうなったのはあの槍のせいだ!!!」

と僕は思いっきり力を込めて叫ぶ。

「はぁ?

 槍のせい?」

僕の言葉に友子は首を傾げると、

「あの槍が香織をディンガにしてしまったんだよ、

 どうしてくれるんだよっ」

僕は友子を責める。

「そんなこといわれても、

 第一、なんで槍が香織を…
 
 それになに?
 
 あの黒人が香織だというの?」

友子は逆に僕に向かって質問をした。

「あぁ、そうだよっ

 あの槍に封じ込められていたディンガ族の悪霊が
 
 香織をあんな姿にしてしまったんだよ」

「そんな…

 そんなことって…
 
 本当にあるの?
 
 はぁ、はじめて見たわ」

僕の説明に友子は目を丸くすると、

改めて香織とその前に立つ槍を見た。

「感心している場合か!!」

そんな友子に向かって僕は怒鳴ると、

「で、

 いまはどういう状態なの?」

友子は尋ねた。

「どういう状態って…

 もぅ香織は身も心もディンガ族の勇者・ヌンガになってしまったんだよ、
 
 さっきまで僕の名前を呼んでいたけど、
 
 でも、言葉だってもぅしゃべれなくなっているんだ、
 
 それで、あの槍を取ったら、
 
 香織は…」

そう僕が叫ぶと、

「で、隆弘君はそんなところで何をしているの?

 彼女がピンチなら何で助けに行かないの?」
 
と指摘をした。

「だって、

 もぅ何もかも遅いんだよっ」

その指摘に僕が怒鳴り返すと、

「あのねっ

 物事って言うのは諦めたらすべてがおしまいなのよっ

 まだ、終わっていないんでしょう、
 
 だったら、勝負は途中で降りないのっ
 
 最後まで全力プレーしなさい!!」

と友子は僕に向かって怒鳴った。

すると、

『えぇっ

 そこっ
 
 さっきからうるさいぞ!!』

僕と友子の怒鳴りあいに業を煮やした悪霊が声を張り上げると、

ズンッ!!

部屋の中をオーラが吹き荒れた。

しかし、

「うるさいっ

 どっちがうるさいのよっ
 
 こらぁ、
 
 よくもあたしの親友にひどい事してくれたわねっ
 
 ディンガ族の悪霊だって?
 
 はんっ
 
 悪霊の分際でできる事といったら、
 
 女の子にチンコ生やせて真っ黒にする位のちんけな事なの?
 
 悪霊というからにはねっ
 
 天変地異の一つでも起こしてみなさいよっ
 
 さぁさぁさぁ!!!」

と宙に浮かぶ槍に向かって怒鳴る。

すると、

『おのれぇ!!

 言わせておけば!!』

「なによっ

 台風でも呼ぶって言うの?
 
 それとも火山を爆発させるとでも言うの?
 
 それとも、雷でも起こしてみせるっていうの?」

友子は臆することなく悪霊をけしかけまくった。

「だっ大丈夫か?」

そんな友子の後姿を僕は唖然としてみていると、

『くっそぉ…

 お前もディンガにしてくれる!!』

悪霊は叫びながら、

シュワァァ!!

槍より霧を沸き起こすと、

香織のときと同じように霧を帯状にして襲い掛かった。

すると、

「ふんっ

 掛かったわねっ」

友子はそういうなり、

「さぁ、

 君の出番よ!!」

の言葉と共に僕の襟首を掴みあげると、

「がんばるのよぉ!!!」

という声とともに勢いをつけると

「おらぁぁぁ!!」

僕の身体を襲い掛かる霧に向けて突き放った。

「え?

 え?
 
 えぇ!!!」

迫ってくる霧の中に僕は頭を突っ込むと、

その霧を身体に巻きつけながら、

立ちすくむ香織を突き飛ばし、

そして、

ムギュッ!!

僕はディンガの槍を握り締めてしまった。

「えっ

 あっこれは…
 
 へ?
 
 え?」

槍をしっかり握り締めながら僕は唖然としていると、

ムリムリムリ!!

僕の胸に2つの膨らみが盛り上がり始めていた。



カッ!!

照りつける太陽の下。

『ふぅ…』

僕は黒い皮膚に覆われた手で額の汗を拭い去る。

気温は50℃はあるだろうか、

槍を持った僕は黒光りする肌を晒しながら灌木の間をすり抜けていくと、

程なくして白い土壁のディンガの村が見えてきた。

ザッ

ザッ

脚の動きにあわせて、

プルンっ

プルンっ

膨らんだ胸が規則的に揺れる。

もぅここに来てどれくらいの時間が経ったのだろうか、

月の満ち欠けも最初のころは覚えていたけど、

でも、今ではあまり気にしなくなっていた。

『はぁ…』

近づいてくるにつれ、

村の詳細が見え、

程なくして、

パラパラと小さなディンガ族の子供達が僕の周りに寄り、

いろいろと話しかけてきた。

『うん』

『あぁ』

その問いかけに僕は適当な返事をして村に入ると、

一軒の小屋へと向かって行く、

そして、

『ただいま…』

の声と共に小屋に入ると、

「よう、元気そうだね」

と言う声と共に友子が手を上げ僕を迎えてくれた。

「とっ友子っ

 いっいつここに…?」

友子の姿に僕は驚くと、

「ん、いや

 いまついたところ、
 
 さっき、香織、
 
 あっこっちじゃヌンガだったね、
 
 のところに顔を出したよ」

と友子は言い、

「香織に会ったのか」

「まぁねっ

 まだ日本語が自由に喋れないみたいだけど、

 でも、大分意味が通じるようになったね、
 
 ふふっ
 
 隆弘君の指導のおかげかな?」

意味深な笑みを浮かべた。

「そんなんじゃないよっ

 香織のがんばりだよ」

乳房を晒す僕はそう返事をすると、

「で、

 隆弘君もすっかり勇者らしくなったじゃない」

と友子は僕の姿を満足そうに見て頷いた。

「勇者っていってもなぁ、

 僕は女なんだよっ
 
 女の勇者なんて、
 
 こっちじゃ、気味悪いだけだよ」

「でも、仕方が無いでしょう、

 槍を受け継いだんだもん、
 
 まぁ、がんばってね。
 
 香織のえーと、何番目の妻だっけ?」

「5番目っ!」

「そうそう、

 いやぁ、こっちは何人も奥さん居るから大変だよね」
 
「あのなぁ!!」

「ふふっ

 5番目の妻は女でありながらも勇者か…
 
 まっ、香織にとっては一番頼りにしていると思うよ」

「茶化すなよ、

 で、いつまでここに居るんだ?」

「ん?

 そうねぇ…
 
 まっ飽きるまでかな?
 
 いやぁ、ディンガ族に知り合いが居るっていうのは
 
 ホント心強いよ」

友子は僕に向かってそういうと笑顔を見せた。



あの日の出来事の後、

僕は悪霊の呪いでディンガ族の女に変身し、

しかも、香織よりも先に槍を手にしてしまったので、

女でありながら勇者というディンガ族の中でも奇異な立場になってしまった。

その一方で香織もヌンガとしての意識が芽生えてしまったものの、

しかし、香織としての自我はなんとか失っていなかった。

そのため、このディンガの村にやってきても

僕と香織は離れることなくこうして夫婦生活をしている。

けど…

香織の周りには僕以外に4人の妻が居て、

常に二人っきりというわけではなかった。

「はぁ…

 いつになったら、
 
 僕達に元の姿に戻って、
 
 普通の生活ができるんだろう」

香織を取り囲む4人のディンガの女達を眺めながら僕は思わず呟くと、

「さぁ…

 諦めなければ、いつかは来るよ」

ぼやく僕の隣に立った友子はそういうと腕を組んだ。



おわり


この作品はバオバブさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。