風祭文庫・モランの館






「ディンガの槍」
(第3話:香織の帰還)


原作・バオバブ(加筆編集・風祭玲)

Vol.T-143





あの忌まわしい事件からひと月が過ぎ、

初めての満月の日が訪れた。

僕は無事に香織が帰ってきたのか心配しながら

この部屋へと帰ってきたのだった。

玄関を開けると驚いたことに部屋に灯りが付いていた。

これは香織が帰ってきたに違いないと思った僕は喜んで、

靴を放り出しすと、自分の部屋へと飛び込んだ。

そして、僕は衝撃的な光景を見ることになるのだった。


「うっ。

 うぐぐっ。
 
 ヴっ!!」


なんとそこでは唸るような声を上げながら

香織が股間に生えたペニスを握り締め、

当に射精しようとしていたところだった。

「うぉぉぉ〜ッ!!」

香織はもはや僕の存在には気付かないまま、

獣のような咆哮を上げると、

ブシュブシュブシュ

と白濁した体液をフローリングの床にぶちまけ、

「はぁはぁはぁ…」

目を恍惚とさせながらペニスを握り締めると、

精液を最後の一滴まで精一杯に搾り出そうとしている。

「香織…」

僕は呆然としながら香織の名前を呟く。

すると僕の声が届いたのか香織はハッとすると、

顔を真っ青にしながら僕の方を振り向いた。



変身する前と同じ香織の顔。

変身する前と何ら変わらない香織のプロポーション。

なのに捲り上げたスカートからはディンガの漆黒のペニスが顔を覗かせている。

「…あ、あたし…」

僕の姿を見ながら香織はまるで取り返しのつかない事をしてしまったかのような顔で呟くと、

「香織…お前、香織なんだよな?」

と僕は正した。

すると、

「ごめんなさい…」

香織は右手でペニスを握り締めながら俯き謝る。

「べ、別に謝ることはないけどさ…

 そ、それ…

 どうなってんだよ?」

「…う、ううっ…

 言わないで、
 
 なにも…
 
 言わないで」

僕は不安げで、

それでいてちょっといらついた声で問いただすと

香織は座り込むなり話しはじめた。



それはディンガ族に無理やり変身させられた挙句、

いきなりディンガ族に馴染ませられた香織の、

このひと月の間に体験した話だった。



「だからね…あたしの心、

 やっぱりおかしいの。

 ただ単にディンガ族に少しずつ慣れていくって感じじゃない。

 彼らといると始めから自分がディンガ族だったような気分になってくるのよ。

 …だから

 あたし、呪術師の人にも相談したわ。

 でも、返ってもっと勇者らしくなるべきだっていわれちゃった。

 あの人たちはあたしがディンガ族にいかに馴染むかってことばかり気にして

 元に戻るべきではないと思ってみたいなの。

 しかも…ね

 あたし、

 男が何たるか手取り足取り教えられちゃった。

 …分かる?

 これが、どういう意味だか?

 始めは”男の精”を出すこと。

 これがどんなに嫌だったか分かる?

 変身したとはいえ、あたしは女の子なのよ。

 …でも、

 あたしも何時しか自分ですることを覚えちゃった。

 だって、我慢できないの。

 このディンガの男の体があたしに欲求してくるの。

 そしたら、

 ムラムラっとして

 男の精を出すまで自分を押さえきれない…

 それでも出したらものすごく自己嫌悪に陥っちゃう。

 あたしはエッチな男なんだって…

 しかもそれだけじゃないの。

 呪術師とか、
 
 村の人が男はどれだけ女と関係持つかがその地位を決まるとかいって

 あたしを…

 あたしをね。

 う、ううっ…

 女の子とセックスさせちゃったのよ。

 それもね…

 あたし、途中から自分から止められなくなっちゃって

 自分で…

 自分で腰振って

 女の子のアソコにオチンチンを出し入れしてたのよっ!

 信じられない…

 信じたくないけど

 あたしは男の快感に夢中だったの。

 次第に、あたしに男の性欲が染み付いていって

 止められなくなる…

 そんな感じだった。

 もう…

 あたし、ひと月で十人の女の子と関係もっちゃったの。

 まだ子供はできてないけど…

 けど…

 このままじゃ、

 あたし、ディンガ族の男としてしか生きられなくなりそう…」



香織はそういって嗚咽し始めると、

僕はただ香織を抱きしめて慰めつづけるしかなかった。

しかし、

まさか香織にそんなことが起きているとはほんとに思いもよらないことだった。



その夜、僕たちは久々に日本食を囲みながら一緒の食事をとった。

香織に呪いがかかる前と何ら変わらない幸せな時間だった。

そして、風呂に入って出てくる頃にはすっかり香織の体は元に戻っていた。

カーテンの隙間から差し込む光が香織の愛らしくて美しい裸体を照らし出す。

「…あたし、ひと月ぶりに女の子になれたんだね」

香織は暗闇の中でもはっきり分かるほど顔を真っ赤にしてベッドへとやってきた。

「ああ。

 ほんと、香織がディンガ族になっていたなんて夢みたいだ…」

僕もひと月ぶりの香織の姿にうっとりしていた。

僕が近づいてくる香織のやわらかくて豊満な乳房を撫で始めると

香織は恍惚として表情を浮かべている。

「ああっ…いい、いいっ!

 女ってこんな感じだったんだ。

 胸の重さが自分の体じゃないみたい!」

香織は久々に感じているのだろう女の体の感覚に身を捩っていた。

「ああ、香織〜」

「隆弘くん〜」

お互いに相手の性器を舐めあうように跨ると香織の性器が見えた。

間違いなく女の証。

それを見ていると

ついさっきまで香織が男のものを生やしていたなんて信じられなかった。

「うぅ〜ん、あぁん…」

女の証を愛撫していると香織は甘い声を漏らしだす。

そしてまた僕のペニスも香織の手によって愛撫され激しく勃起し始める。

「はぁはぁ…

 そろそろかな?」

そう思った僕は最後の詰めと香織のクリトリスをぎゅっと摘んでやった。

すると、

「うっ、あはんっ!!」

香織が喘ぐ…

その途端。



むわっ!!



突如香織の体から白い霧が立ち上がると、

シューッ

と股間に集中して集まりはじめた。

「なっ」

その様子に僕は思わず驚くと、

霧は香織のクリトリスへと吸い込まれるように消えていく。

「うわっ、なんだっ!?」

ドンッ!

突然の事態に僕は香織の体を思わず突き飛ばしてしまうと、

「(ハッ)ごっごめん!!

 大丈夫か?」

すぐに謝りながらベッドの上に転がった香織を見た。

すると、

「あ、

 ああああ、
 
 あああああっ!!」

カッと香織は目を見開いたまま声にならない声を上げると、

香織の体全体がビクビクと震えだし、

不自然に腰が浮き始めた。

そして、カクカクカクと香織の腰がピストン運動が始めだすと、

呆然とする僕の目の前で

ビクンッ

ビクンッ

霧を吸収したクリトリスが股間から顔を出すと、

グロテスクに蠢きながら勃起し始め。

位置も男性のペニスと全く同じ場所へ移動していくと、

まるで赤ん坊の腕のような大きさの肉棒へと変化する。

「お、おい、香織!」

その様子を見ながら僕は声をあげると、

「いや、やめてっ!

 生えてこないでっ!

 駄目ぇ〜!!

 あ、あっ、うあああっ!

 う、うんっ!

 お願い、隆弘君見ないでぇ〜!!」

意識が戻った香織は激しく腰を振りながらも、

必死に股間を隠そうとするが、

しかし、いくら足をばたつかせても

その大きさゆえにペニスは隠しきれない。



「あ、ああっ!

 やだっ!

 きちゃう…

 きちゃう…

 きちゃうよっ!!」

顎を上げながら香織がそう叫んだ途端、

プリュ

艶かしい音を立てて香織の肉棒に亀頭が顔を出し

肉棒はペニスに変化した。

香織にペニスが生えるのを見るのは二度目だが

それでもショックは隠し切れない。

「…か、香織…」

「あ、ああっ!

 生えちゃった…

 生えちゃったよぉ〜…」

亀頭を剥き出しにした逞しく猛々しいペニスを

香織は必死に押し込もうとするが

しかし、ペニスはビクビク脈動するばかりで

元のクリトリスには戻る様子はなかった。



「やだ…

 あたし、またディンガ族になっちゃうの…

 やだよ。

 そんなのやだっ!

 あたしは女の子なのに…

 あたしは女の子なのに…あぁ!!」

『そんなにディンガの勇者が嫌か?』

泣き喚く香織に答えるかのように

突如部屋に不気味な男の声が響く。

「だ、誰だっ!」

冷や汗を噴出しつつ僕が声をあげると、

『ふん。

 わたしはディンガ…

 あの聖なる槍に宿る勇者の霊だ』

と声は名乗る。

「えっ!?」

その声を聞いた香織と僕はほぼ同時に顔を蒼白にさせ、

「そんな、

 お前はあの呪術師によって槍の中に封印されたはずじゃ…」

その声に向かって僕が問いただすと、

『あははは、

 封印などされてはいない。

 わたしはずっとお前の横に居たぞ、

 ディンガとなったお前が勇者の証を立て、
 
 そして、勇者として女を犯したときも見ていたぞ

 ふふっ
 
 すっかり勇者になっていたではないか』

と声は香織が向こうでしてきた事を赤裸々に指摘する。

『やめろ!!』

声に向かって僕は怒鳴り声を上げると、

「香織っ

 あの呪術者と連絡が取れるか?
 
 彼にまた封印を…」

と香織に向かって続けると、

『あははは

 無駄だ、無駄。

 第一、お前達が当てにしている呪術師も仲間だったのさ。

 ディンガとして優秀な勇者が欲しかった。

 そして、

 わたしもまた新しい肉体で勇者に生まれ変わりたかった。

 それには僕の波長の合う霊波動をもつ人間を探さなくてはならない。

 それがお前さんだったというわけだ』

「そ、そんな…」

「そんなバカな」

声の指摘に僕は驚き、

また香織も生えたペニスを必死に押さえ込みながら震えていた。



『ふふっ

 そう、そして、

 お前を勇者になれるよう徐々に仕向けていった。

 男の精を吐き出す喜びを教え、

 勇者として女と交わることを教えてやった。

 だからこそ、

 お前の魂は少しずつ勇者のものへと変化し始めたのだぞ』

「じゃあ、

 あなたも呪術師の人もあたしを勇者にさせるつもりで…

 始めからそのつもりだったというのっ?」

『そうだ』

「いやっ…

 なんでよっ!

 あたしは勇者なんかになりたいわけじゃないのよっ!

 それなのに、どうして呪いを受けなくちゃならないのっ!?」

声に向かって香織は涙しながら叫ぶと、

『ふん!

 散々ディンガの娘たちと交わっておきながら

 よくそんなことがいえるな』

と声は嫌味たっぷりにに言う。

「…そ、それは…」

『それみろ。

 お前はディンガの勇者であることを楽しんでいたのだぞ。

 その逞しい勇者の象徴を使ってな。

 さぁ、わたしの前で勇者の証を見せてみろ。

 お前だって知っているはずだ。

 毎夜毎夜、女と交わらなくとも、

 男の精を出すことを楽しみにしていたのだからな』

「いやっ!

 やめてっ!

 それ以上いわないでっ!!」

悪霊の言葉に香織はついに泣き崩れると、

「勇者の証って…」

僕がただ立ち尽くしながら泣き伏せている香織に尋ねる。

『ふんっ!

 若造は勇者の証を知らんのか?

 なら、見せてやれ、
 
 ヌンガっ!

 お前の勇者の証を!』

声は香織に命令するように言う、

すると、

「あ、ああっ!?」

香織の顔つきが徐々に猛々しくなり

興奮し始めているのが分かった。

息が荒くなりペニスも

ビクンビクンッ

と激しく揺れだす。

「はぁはぁはぁ…

 駄目…

 やめてっ!」

瞳を暗く濁らせていく香織は必死に何かと闘っているようだった。

『そう我慢するな。

 お前も、

 女としてより男しての快感の方が好きなのだろう?

 さあ…

 ディンガの勇者の気持ちよさを思い出せ!

 あの男の精を出すときの気持ちを取り戻すのだ!』

香織に向かって声はそういうと、

「ううっ…

 ご…ごめんね、隆弘君。

 あ、あたし、

 もう我慢できな、いっ!!」

ついに香織は耐えられないような顔つきになり

震える手でペニスを握り締めると男のオナニーをし始めた。



「お、おい。香織…?」

言葉を失う僕の前で香織は女として僕の愛撫を受けていたときよりも

ずっと気持ちよさそうな顔で自らのペニスを扱く。

シュッシュッ

シュッシュッ

その激しさは僕のどころではなく、

当にディンガ族のものであり、

股間に生える漆黒の巨大なペニスに香織は酔い痴れているようでもあった。

「はぁはぁはぁはぁ…」

『ふふふ…

 やはり勇者の象徴はいいだろう?

 お前はもはや勇者の象徴なしでは生きていけまい』

「はぁはぁっ!

 そんな…

 ふはぁっ!

 違うっ!

 違うっ!」

『言葉で否定しても

 己の欲求は止められないのだろう?

 今お前が握っているものは何だ?

 快感を感じているの物は何だ?』

「う、うぐ…

 はぁはぁはぁ…」

『わたしは知っているのだぞ。

 お前がどんなに気持ちよさそうに男の精を吐き出していたか。

 お前は女として嫌悪しながらも、

 必死にその快感を貪っていたではないか?』

「やめてっ!

 はぁはぁはぁ…

 あたしっ!

 そんなつもりじゃ…」

『”ああ、やっぱりいい…いい…やめられないよぉ”

 といっていって、毎夜男の精を吐いていたのは、お前じゃなかったのか?』

「五月蝿いっ!!

 はぁはぁはぁっ!

 いわないでっ!」

『じゃあなんだ?

 そのお前の緩んだ顔は?

 気持ちよさそうな顔は?

 さぁ、正直になれ!

 勇者としての誇りを取り戻したくはないのか?』

「そ、それはっ!

 はぁっ!

 はぁっ!」

『さぁ、開放してやろう。

 お前の中の欲望を…

 お前は勇者の肉体がいいのだろう?

 さぁ、感じるがいい、勇者としての己自身を!』

オナニーを続ける香織に向かって声がそういった途端

香織の表情が変わった。

全てを許されて、喜びに溢れているような…

そんな顔つきだった。



「はぁ、はぁっ

 いいっ!

 いいっ!

 これっ、

 これなのよっ!

 は、はぁっ!!」

『ふははははは…

 それ見たことか。

 お前はひと月の間にしっかりと勇者の肉体に馴染ませたのだ。

 もはやそれから離れることなんてできんのだろう?』

香織は全身から汗が滴り落ちるのも気にもとめず、

激しく手を上下運動させていた。

そうする内に

ジワ…

香織の肌が次第に黒く染まりだし

ビキビキ!!

という音とともに筋肉がつき始め、

また身長も伸びていった。

「お、おい…」

変身していく香織の姿に僕は恐れをなして後退りしていくと、

その間にも香織の手足は細く長く伸び始めだした。

それだけでなく、

胸や下腹部にも筋肉がみなぎると

脂肪を吸収して、

逞しい胸板や腹筋が張り出していく。



「あ、はぁっ!

 いいっ!

 いいっ!

 あたしの中身が変わっていくぅ〜!」



香織の黒く染まった手はただペニスを扱き、

それにあわせて香織の肉体はディンガ族の男へと変化していく。

ぷりっと飛び出していた乳首さえも

黒く小さく萎縮してしまい、

膨らんでいく胸板の影にへばりつく

もはや誰が見ても香織は男に、

そしてディンガになっていた。



「はぁはぁはぁ…

 う、ううっ!

 出るっ!

 出るっ!

 出ちゃうっ!!」



香織がついに絶頂に達したのか、

喉仏が盛り上げ低く男の声音になった声で叫ぶと

もはや体にしっくりくるようになった巨大な漆黒のペニスより

ブシュ!

ブシュ!

ブシュッ!

激しく精液が吐き出され、

「はぁはぁはぁはぁ…」

そして部屋の中にはただ香織の激しい息遣いだけが響いていた。



『ふむ…

 また勇者らしくなったの。

 ヌンガよ』

「んーん。

 んーー…」

香織は必死にペニスを握り締めると

精液の最後の一滴までも搾り出していた。

それは当に香織がディンガ族に染まりつつあるのを雄弁に語っていた。

『そうだ。

 勇者の精をそこまで注ぎ込めるようになったのなら

 立派な勇者だぞ、ヌンガ』

「ヌンガ…

 はぁはぁはぁ…」

香織は一言を自らのディンガの名前を呟くと

にやりと笑い、

その直後ハッとした。



「あ、あたし…

 や、やだ…」

正気に戻った香織は取り乱して

手についた精液を払い始めると、

『ふふふ…

 何をいまさら慌てておる?

 お前の勇者の証、
 
 しっかりと見せてもらったわ』

「や、やめてぇ!

 あたし、

 あたしは…

 そんなつもりじゃ…

 そんなつもりじゃなかったの!」

声の執拗な攻撃に香織は頭を抱え込みつつ、

必死に首を振っていた。



「香織…」

そんな香織の姿を見ながら僕は彼女の名前を呼ぶと

「た、隆弘くん…

 ごめん…ごめんね。

 あたし、あたしっ!」

香織は恐怖に慄きながら

ディンガになりきった自らの体を両手で隠そうとする。

『ふふふ…

 無駄だ。

 もはや、ディンガとなったお前はディンガの村へ行かなくてはならん。

 ヌンガ、分かっておるな?』

「うっ

 はっはい…」

声…いや悪霊の声の指摘に

ディンガ族の勇者となってしまった香織…ヌンガは俯いて答える。

『さぁて、

 次の満月の日にお前がちゃんと元に戻れるか、

 帰ってこれるか楽しみだの』

声はそういって消え去ると

僕とディンガ族の勇者・ヌンガとなった香織だけの静かな部屋が戻ってきた。

「ごめんなさい…」

長い沈黙の後、大きく黒い体を小さくしながら香織は僕に謝る。

「香織…お前…」

そんな香織に僕が近づこうとすると、

「来ないで…

 お願い…

 あたし…

 もぅ、香織じゃないわ…
 
 ディンガの勇者・ヌンガなのよ」

と目に涙をためながら訴えた。

「そんな事はないよ、

 どんな姿になっても香織は香織だよ」

僕はそういって慰めるが、

「ダメよ、あたしのオナニー見たでしょう

 あたしはもぅ、

 女の子じゃないわ、

 男よ、しかも土人の男なのよ」

と自傷気味に言い放つ。

「いうなっ、

 何も言うな!!」

そんな香織に向かって僕はそう叫ぶと抱きしめた。

そして、

「いいか、負けるんじゃないんだぞ、

 意思を強く持てばお前は勝てる。

 勝てば元の女の子に戻ることが出来るんだ」

と言いながら僕は香織の頭をなでた。

「うん…わかっているよ、

 でも、そんなこと…無理よ」

泣きべそをかきながら香織は訴えたが、

「いいか、お前はヌンガじゃない、

 僕の女の香織だ!!」

そう叫んだとき、

フッ

香織の体が僕の前から消えてしまった。

そう、香織はディンガの村に戻っていったのだった。

「畜生!!」

僕は香織が居なくなった床に拳を打ち込んだ。



そして

またひと月が経っていた。

徐々にディンガにのめり込みつつある香織に不安は隠せなかったが

僕はただ彼女の帰還を待ち望んでいた。

部屋に帰りそっと扉を開けると

ひと月前と同じように灯りが点っていた。

「香織?…」

僕が恐る恐る声を出すと

「はぁはぁはぁ…」

奥の方から激しい呼吸の音が聞こえてきた。

「まさか…」

そのとき、僕は非常に悪い予感がした。

なぜなら、その荒い息の音は先月とは明らかに違っていたからだ。

「香織っ…」

香織の名前を呼びながら僕が慌てて寝室に飛び込むと

そこは信じられない光景が広がっていた。



つづく



この作品はバオバブさんより寄せられた変身譚を元に
私・風祭玲が加筆・再編集いたしました。